説明

無機コーティング組成物

【課題】基材へコーティングした後、150℃程度の低温領域での熱処理を行うことで、無機塗膜が形成(製造)された基材に対して、高い光線透過率および機械的な強度という性能をどちらも付与させることが可能な無機コーティング組成物を提供する。
【解決手段】(a)非凝集の球状シリカ微粒子と、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と、(c)シランカップリング剤と、(d)硬化触媒と、を含み、(a)シリカ微粒子が、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子の組合せからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機のコーティング組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラウン管、液晶等のディスプレー表面の基材、太陽電池のパネル表面の基材などの上に、低屈折率の塗膜を施し、基材と塗膜との屈折率差を利用し、該ディスプレー表面、該パネル表面などの反射率を低下させて、光線透過率を向上させる技術がよく知られている。該塗膜の構成として無機の低屈折率材料を使用し、かつ該塗膜中に空隙を設けることで、該塗膜の屈折率を低下させることができる。また、該塗膜の表面に適度な凹凸を付与することで、さらに反射率を低下させることができる。該塗膜形成のためのコーティング組成物として、低屈折率であり、かつ安価である、シリカ粒子を使用することが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1では、5nm〜30nmの粒子径を有するシリカ微粒子溶液と、アルコキシシラン化合物または金属アルコキシシランの加水分解物とを含有する無機コーティング組成物を、ガラス、フィルムなどの基材へコーティングして、基材の反射率を下げることで、光線透過率を向上させる方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、平均粒子径が40〜1000nmの非凝集シリカおよび/または平均1次粒子径が10〜100nmの鎖状凝集シリカ微粒子の存在下で、金属アルコキシドを加水分解したものを無機コーティング組成物として使用している。該無機コーティング組成物をガラスへコーティングすることで、低反射率で、かつ耐摩耗性に優れた低反射塗膜を形成する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−122501(1996年5月17日公開)
【特許文献2】特開2001−278637(2001年10月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、当該技術分野で、低反射・高い光線透過率を目的とした無機塗膜を基材に形成する際の課題の1つとして、処理温度の低温化がある。例えば、ガラスを基材とし、ガラスの製造工程と連続した工程で該無機塗膜を形成する場合には、工程プロセス上、該無機塗膜に対して300℃〜800℃の高温処理をすることには特に問題がない。しかしながら、ガラスの製造工程と該無機塗膜を形成する工程とが別である(連続していない)場合には、冷却した状態のガラスに対して再度高温処理を行う必要があり、設備の面および電力消費の面から考えて、できるだけ低温での処理が可能な無機コーティング組成物が望ましい。また、プラスチックフィルムを基材とする場合には、プラスチックフィルムの耐熱温度は低いため、処理温度の低温化が必要となる。
【0007】
特許文献1には、「処理温度は100℃〜500℃である」との記載があるものの、実際は実施例にて300℃の高温条件で熱処理を行っている。また、比較的、低温領域である120℃〜150℃で熱処理を行っている例もあるが、UV硬化剤との併用が必要である。
【0008】
また、特許文献2に示されている技術では、200℃以上、好ましくは400℃以上、さらに好ましくは600℃以上という高い処理温度が必要である。
【0009】
従来の無機コーティング組成物は、無機塗膜を基材に形成する際に、高温での処理、もしくは、UV硬化剤を併用した150℃程度の低温領域での処理が必要である。すなわち、UV硬化剤を併用せずに150℃程度の低温領域での熱処理を行い、無機塗膜が形成された基材に対して高い光線透過率および機械的な強度をどちらも付与させることが可能な無機コーティング組成物は存在していない。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、基材へコーティングした後、150℃程度の低温領域での熱処理を行うことで、無機塗膜が形成(製造)された基材に対して、高い光線透過率および機械的な強度という性能をどちらも付与させることが可能な無機コーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、無機塗膜を基材に形成(製造)する際の処理温度を低温にする手法を鋭意検討した。本発明者らは、無機塗膜の形成(製造)に用いる無機コーティング組成物の原料であるシリカ微粒子に着目し、本技術分野で単独では用いられることがなかった粒子径が3〜7nmの小さいシリカ微粒子と、比較的粒子径が大きい10〜25nmのシリカ微粒子とを併用するという従来に無い発想によって、当該無機コーティング組成物を150℃程度の低温で加熱処理した場合でも、高い光線透過率および機械的強度の両方の性能を有する無機塗膜付き基材を形成(製造)することができるということを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の無機コーティング組成物は、(a)非凝集の球状シリカ微粒子と、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と、(c)シランカップリング剤と、(d)硬化触媒と、を含み、前記(a)シリカ微粒子が、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子の組合せからなることを特徴としている。
【0013】
本発明の好ましい実施形態においては、上記無機コーティングにおける上記(a1)および(a2)の2種類のシリカ微粒子は、固形分重量で65:35〜97:3の比率である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態においては、上記無機コーティングにおける(d)硬化触媒が、両性金属のキレート金属化合物または3級アミン化合物である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態においては、上記無機コーティングにおける(d)硬化触媒が、アルミ金属キレート化合物である。
【0016】
本発明の別の実施形態においては、上記無機コーティング組成物を基材にコーティングするコーティング工程と、上記コーティング工程で前記無機コーティング組成物がコーティングされた基材を加熱する加熱工程と、を備えた、無機塗膜の製造方法である。
【0017】
本発明の別の実施形態においては、(a)非凝集の球状シリカ微粒子と、(b) アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と、(c)シランカップリング剤と、を含み、前記(a)シリカ微粒子が、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子の組合せからなる、無機塗膜である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の無機コーティング組成物は、150℃程度の低温領域での処理によって、基材に対して、高い光線透過率および機械的強度の両方の性能を付与することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。
【0020】
なお、本明細書において、範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0021】
本発明の無機コーティング組成物、並びに無機塗膜およびその製造方法について、以下に説明する。
【0022】
1.無機コーティング組成物
<(a)非凝集の球状シリカ微粒子>
本発明の無機コーティング組成物において、(a)成分のシリカ微粒子は、本発明の塗膜の主体となる成分であり、塗膜の機械的な強度を高めると共に、低屈折率の塗膜を製造し、基材との屈折率差を利用して、基材の光線透過率を向上させるための成分である。
【0023】
ここで、本明細書において、「非凝集」とは、鎖状構造を取るシリカ微粒子を含まないことを意味する。
【0024】
また、本明細書において、「球状」とは、厳密な球の状態のみを意味するのではなく、楕円状等も含む。
【0025】
上記(a)のシリカ微粒子は、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子からなるものである。
【0026】
上記(a1)のシリカ微粒子は粒子径が小さいため、シリカ微粒子間の接触面積、および、基材に対する接触面積が大きくなり、塗膜の強度、および、基材への密着性の向上に寄与する。本発明では、低温領域での熱処理により、塗膜に機械的な強度を付与することを目的しているが、熱処理温度が低いと焼結による強度向上が期待できないため、上記(a1)のシリカ微粒子が必須となる。
【0027】
しかしながら、特許文献1にも記載があるように、小粒子径のシリカ微粒子では大粒子径のシリカ微粒子と比較して塗膜の空隙率には差がないものの、粒子径が小さいために塗膜表面の凹凸が形成されにくく、十分な光線透過率を向上させることができない。本発明でも、上記(a1)のシリカ微粒子だけでは、十分な光線透過率を保持することができなかった。
【0028】
上記(a1)のシリカ微粒子以外に、当該(a1)のシリカ微粒子よりも粒子径が大きい上記(a2)のシリカ微粒子を加えることにより、機械的な強度を保ちながら、光線透過率も向上させ得ることが分かった。当初は、粒子径の異なる(a1)および(a2)のシリカ微粒子を組み合わせると、(a1)シリカ微粒子単独の場合よりも充填率が向上し、空隙が減少することで塗膜の屈折率は向上し、これに伴い光線透過率が逆に低下すると予想されていた。しかしながら、両者を組み合わせることで、予想に反し、上記に記載の効果、すなわち、光線透過率が向上するという効果が得られることが分かった。正確なメカニズムについては解明できていないが、以下のように考えられる。(a1)と(a2)のシリカ微粒子が組み合わされた塗膜の表面では、(a2)粒子の頭が出ていると考えられる。この大きな粒子の表面で反射された一部の光の反射角は入射光に対して90°より大きくなる。このとき、反射光は塗膜側に反射されることになるので、その結果、塗膜に入射する光の量は(a1)のシリカ微粒子のみ、または、(a2)のシリカ微粒子のみの膜と比較すると多くなる。
【0029】
上記(a1)のシリカ微粒子の粒子径は3nm〜7nmであり、より好ましくは4nm〜6nmである。3nmより小さいと、製造が難しく、また、シリカ微粒子自体の取り扱いが困難である。一方、7nmより大きいと、上述したように、光線透過率が低下する。
【0030】
上記(a2)のシリカ微粒子の粒子径は10nm〜25nmであり、より好ましくは10nm〜20nmである。10nmより小さいと、(a1)のシリカ微粒子単体を使用する場合と効果に差異が生じない。一方、25nmより大きいと、塗膜に光散乱が起こり、ヘイズが発生することで、光線透過率が低下する。
【0031】
上記シリカ微粒子の粒子径の測定法としては、例えば、電子顕微鏡(TEM)を用いて決定することができる。また、2種のシリカ微粒子の溶液を動的光散乱の原理を用いた粒子径測定器で測定すると、上記(a1)および(a2)のシリカ微粒子の粒子径の独立したシャープなピークが2本確認できる。
【0032】
上記(a1)および(a2)のシリカ微粒子は、固形分重量で((a1):(a2)=)65:35〜97:3の比率が好ましく、70:30〜95:5の比率がより好ましい。上記比率の97%よりも(a1)が多いと、光線透過率が低下する。一方、上記比率の35%よりも(a2)が多い場合は、塗膜の硬度が低下する。
【0033】
上記(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子としては、例えば、日産化学工業社製の商品名「スノーテックスOXS」、「スノーテックスXS」、「スノーテックスS」等があげられる。また、(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子としては、例えば、日産化学工業社製の商品名「スノーテックス20」、「スノーテックス30」、「スノーテックス40」、「スノーテックスO」、「スノーテックスN」、「スノーテックスC」等があげられる。これらは、いずれも水分散体である。また、水分散体の水を有機溶剤に置換したものも、オルガノシリカゾルシリーズとして市販されている。この中では、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、モノメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール、モノメチルエーテルアセテートなどの親水性有機溶剤で置換したものが好ましく用いられる。
【0034】
また、上記シリカ微粒子は、酸性でも塩基性でも中性でも良いが、酸性、または、中性のシリカ微粒子が好ましい。塩基性のシリカ微粒子の場合は、後述する(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と混合した時に、シラノール基の縮合が起こりやすいので、酸性、または、中性のものと比較して貯蔵安定性が劣るからである。
【0035】
本発明の無機コーティング組成物全体に対して、(a)成分のシリカ微粒子は、好ましくは0.2〜15質量%、より好ましくは0.3〜10質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%含まれる。(a)成分が15質量%よりも多いと、コーティング液の貯蔵安定性が悪くなるという問題がある。一方、0.2質量%よりも少ないと、後述する好ましい範囲の膜厚をコーティングすることが難しくなるという問題がある。
【0036】
上記シリカ微粒子の固形分重量の算出法としては、例えば、赤外分光光度計(IR)での定量化が可能である。
【0037】
<(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物>
本発明の無機コーティング組成物は、「アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物」、すなわち、「アルコキシシラン、アルコキシシランの縮合化合物の加水分解物、または、アルコキシシランと当該加水分解物との混合物」を含んでいる。
【0038】
本発明の無機コーティング組成物において、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物(縮合物)の加水分解物は、金属酸化物を形成する前駆体であり、塗膜形成機能を有する成分である。
【0039】
上記(b)成分で用いられるアルコキシシランとしては、以下の構造で模式的に表現できる。
Si(OR)nRm ・・・(式(1))
(式(1)中、Rはアルキル基、Rはアルキル基またはアラルキル基、nは3または4、mは1または0を表す。)
式(1)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは非置換の炭素数1〜2のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、加水分解性が向上するので、効率良く加水分解物を得ることができる。
【0040】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0041】
式(1)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基またはアラルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは非置換の炭素数1〜2のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、アルコキシシランの体積中に占める官能基の割合が多くなるため、十分な塗膜硬度を付与することができる。
【0042】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0043】
上記(b)成分で用いられるアルコキシシランの縮合化合物は、上記アルコキシシランの少なくとも1種を縮合して得られるものである。その平均縮合度は1〜20であることが好ましい。20を超えると、官能基の絶対量が少なくなり、硬化点が減るため、十分な硬度を確保できなくなる。平均縮合度は、1〜10がさらに好ましい。なお、この平均縮合度は、アルコキシシランの縮合化合物の加水分解物におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーから得られる分子量を用いて求めることができる。
【0044】
上記アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラヘキシルオキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、および、これらの縮合物が好ましく、テトラメトキシシランおよびその縮合物、メチルトリメトキシシランがより好ましい。本発明においてはアルコキシシランおよびその縮合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記アルコキシシランの縮合物は、任意の適切なアルコキシシランを加水分解縮合することにより調製することができる。なお、テトラメトキシシランの縮合物およびテトラエトキシシランの縮合物は、市販製品を用いてもよい。当該市販製品としては、例えば、三菱化学社製の商品名「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートMS56」、「MKCシリケートMS57」、「MKCシリケートMS60」(いずれもテトラメトキシシランの縮合物);コルコート社製の商品名「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(いずれもテトラエトキシシランの縮合物);等が挙げられる。また、含有するアルキル基が異なるテトラアルコキシシランの縮合物の市販製品の例としては、例えば、三菱化学社製の商品名「MKCシリケートMS56B15」、「MKCシリケートMS56B30」、「MKCシリケートMS58B15」、「MKCシリケートMS56I30」、「MKCシリケートMS56F20」;コルコート社製の商品名「EMS−485」;等が挙げられる。
【0046】
アルコキシシランとその縮合物とを組み合わせて用いる場合には、含有するアルキル基が同一であってもよく、異なっていてもよい。含有するアルキル基が異なる場合の具体例としては、テトラメトキシシランの縮合物と、モノマーのテトラエトキシシランとを含む場合等を挙げることができる。なお、モノマーのテトラアルコキシシランの配合量は、テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。また、テトラエトキシシランとアルキルトリアルコキシシランとを組み合わせることもできる。具体例としては、テトラメトキシシランとメチルトリメトキシシランとの組合せ等をあげることができる。
【0047】
上記(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物を得るためには、上記アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物が有するアルコキシル基に対して、当量以上の水を反応させる。また、この反応は、室温で進行し、触媒の存在する過剰量の水中にアルコキシシランの縮合物して放置しておくことにより、上記(b)成分(加水分解物)を得ることができる。なお、必要に応じて加熱してもよい。
【0048】
上記アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物は、水に対する溶解性が充分でないため、目的とする加水分解反応を効率的に進行させるために、通常、親水性有機溶剤を加えて、系を均一化して加水分解反応を行う。このような親水性有機溶剤としては、例えば、アルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、R−O−(CHCH(R)O)k−H(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、RはHまたはCHであり、kは1〜3の整数である。)、CH−O−(CHCH(R)O)l−CH(式中、RはHまたはCHであり、lは1または2である。)、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられ得る。
【0049】
上記系を均一化するための親水性有機溶剤の添加量は、上記アルコキシシランの縮合物が溶解する量以上であれば特に限定されない。この場合、最終的に得られる親水化処理剤(親水化したコーティング組成物)に高い揮発性を期待する場合には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の使用が好ましい。また、揮発性を制御する目的のためには、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノールなどの使用が好ましい。また、アルキルトリアルコキシシラン及び/またはその縮合物の加水分解物を得るために、親水性有機溶媒と混和する疎水性有機溶剤を添加しても良い。疎水性有機溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、n−ブタノール、sec−ブタノール、iso−ブタノールなどの使用が好ましい。
【0050】
上記触媒としては、一般的な加水分解反応に用いられるものが使用できる。加水分解で生成したシラノール基は、塩基性条件下で縮合反応が進行しやすいため、上記触媒としては酸性のものを用いることが好ましい。上記酸性の加水分解触媒としては、例えば、塩酸、酢酸、硝酸、ギ酸、硫酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸等の有機酸;ジブチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物;アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムモノブトキシイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)等の金属キレート化合物;ホウ素ブトキシド、ホウ酸等のホウ素化合物;などを挙げることができる。
【0051】
上記触媒の量は特に限定されないが、通常、上記シリケート化合物(アルコキシシランおよび/またはその縮合物)に対して、0.01〜5質量%とすることが好ましい。通常、触媒を含む均一な系では、室温で12時間以上放置することによって、目的とする(b)成分(加水分解物)を得ることができるが、加水分解反応を促進させるために加熱することも可能である。また、加水分解反応を確実に行わせるために、さらに数日〜10日程度放置しておいてもよい。なお、親水性有機溶剤を用いる場合には、アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物を親水性有機溶剤に溶解させ、ここに加水分解触媒を加えた後に、過剰量の水を徐々に加えていく方法を取ることができる。
【0052】
このようにして得られた上記(b)成分は、一般的に透明な水溶液の形態で得られるものであり、これから加水分解物を単離しようとすると、(b)成分間での縮合反応が進行してしまうおそれがあるため、加水分解を行って得られる水溶液をそのまま用いることが好ましい。
【0053】
本発明の無機コーティング組成物に含まれる(a)シリカ微粒子と(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物とは、固形分の重量比率で((a):(b)=)85:15〜65:35が好ましく、85:15〜70:30がより好ましく、85:15〜75:25が特に好ましい。(a)シリカ微粒子が上記比率の85%よりも多いと、反応点が少なくなり、硬度が発現し難い。一方、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物が上記比率の35%よりも多いと、塗膜中の空隙が埋まり、塗膜の屈折率が上がることで、十分な光線透過率を確保できない。
【0054】
<(c)シランカップリング剤>
本発明の無機コーティング組成物において、(c)成分のシランカップリング剤は、アルコキシル基の反応性官能基、およびアルコキシル基以外の反応性官能基を両方兼ね備えるものであり、コーティング組成物へ配合することにより、塗膜内部の硬化による強度向上および基材との密着性向上という機能を生じさせる成分である。特に、本発明のコーティング組成物から得られる塗膜は、太陽電池の基材表面の被塗物としてなど、屋外で長期間曝される用途に使われることがあるため、(c)成分のシランカップリング剤は、長期耐久性に対しては欠かせない成分である。
【0055】
上記(c)シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、信越化学工業社、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、東レダウコーニング社、エボニックデグサジャパン社、チッソ社等から販売されているビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。なかでも、密着性の向上において特に優れた効果を有することから、グリシジル基を有するシランカップリング剤を使用することがより好ましい。
【0056】
本発明の無機コーティング組成物に含まれる(c)シランカップリング剤は、(a)シリカ微粒子と(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物とを合計したものに対して、固形分の重量比率で((aとbとの合計):(c)=)100:1〜100:20が好ましく、100:3〜100:15がより好ましく、100:3〜100:10が特に好ましい。上記シランカップリング剤が上記比率の20%よりも多いと、硬度が低くなり、塗膜の屈折率が低下し、十分な光線透過率が確保できない。一方、上記シランカップリング剤が上記比率の1%よりも少ないと、ガラスとの密着性が低下し、特に長期耐久性試験での密着低下が起こる可能性がある。
【0057】
<(d)硬化触媒>
本発明の無機コーティング組成物において、(d)成分の硬化触媒は、本発明のコーティング組成物に含まれることで、(a)、(b)および(c)成分の硬化反応を比較的低温領域でも促進させるための機能を有する成分である。
【0058】
本発明で用いられる硬化触媒は特に限定されることはなく、シラノール基とキレート結合またはイオン結合をする金属触媒、アミンなどの塩基性の触媒、もしくは、硝酸などの酸性触媒があげられるが、その中でも、シラノール基とキレート結合またはイオン結合をする金属触媒、または、塩基性の触媒が好ましい。高い塗膜強度を確保するには3次元的な架橋反応が好ましいが、酸性触媒の場合は、硬化反応が2次元的に起こる傾向があるため、十分な塗膜強度が確保できないからである。
【0059】
上記金属触媒が有する金属としては、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウムなどを挙げることができる。具体的な金属触媒成分としては、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムモノブトキシイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)などの金属アルコキシド、金属キレート化合物等が挙げられる。これらの中で反応の速度の観点から、金属キレート化合物が好ましく、さらに、入手の容易さを考慮すると、両性金属のキレート金属化合物(アルミ(アルミニウム)金属キレート化合物)を含有する触媒がさらに好ましい。これらの金属触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
上記金属触媒は塗膜の機械的強度の向上に寄与するだけでなく、後述する塗膜の耐久性試験前後での、光線透過率曲線の保持にも貢献する。具体的には、本発明の無機塗膜を太陽電池に用いる場合、後述するように、太陽光の波長スペクトル、太陽電池の波長の感度帯等に合わせて無機塗膜を特定の膜厚に設定し、光線透過率が最大となるように調整する。しかしながら、上記金属触媒がない場合、耐久性試験を実施すると、該無機塗膜の光線透過率のトップピークが移動することで太陽電池の発電効率が落ちる。これに対して、上記金属触媒を無機コーティング組成物に添加することにより、耐久性試験前後での塗膜のもつ光線透過率を維持することが可能になり、初期の設計通りの発電効率を長期間維持することができる。
【0061】
上記塩基性の触媒としては、コーティング組成物に溶解すれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機水酸化物類;アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン等のアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類;N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアミノアルコール類;ピリジン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有するその他の有機化合物類;1,4−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,8−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、強塩基3級アミン化合物等が挙げられる。その中でも3級アミン化合物が好ましく、さらにDBU、DBN、DABCOが好ましい。これらの塩基性触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
上記無機コーティング組成物に含まれる上記(d)成分の金属触媒は、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物と(c)シランカップリング剤とを合計したものに対して、固形分の重量比率で((bとcとの合計):(d)=)100:1〜100:15であり、好ましくは100:1〜100:10である。また、上記(d)成分の塩基性触媒を用いる場合、上記(d)成分の塩基性触媒は、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と(c)シランカップリング剤とを合計したものに対して、固形分の重量比率で((bとcとの合計):(d)=)100:0.01〜100:5であり、好ましくは100:0.01〜100:3である。どちらの触媒も上記比率よりも配合量が少ない場合は、十分に硬化が進まずに、塗膜の強度が十分ではなくなる。一方、上記比率よりも配合量が多い場合は、逆に機械的な強度が下がり、光線透過率の低下が起こる。
【0063】
<その他の成分 溶剤>
本発明の無機コーティング組成物には、水または親水性有機溶媒を加えてもよい。親水性有機溶媒としては、特に制限されることはなく、アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解反応で用いたものをそのまま使用することができる。水または親水性有機溶媒は、目的とする膜厚、被塗物の素材、表面の状態、コーティング時の温度および湿度などを考慮して配合することができ、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
<その他の成分 添加剤>
本発明の無機コーティング組成物において、コーティングの状態、得られる無機塗膜の目的等に応じて、光線透過率を阻害するものでなければ、紫外線吸収剤、表面調整剤、保存安定剤などを適宜、添加することができる。
【0065】
<無機コーティング組成物の製造方法>
本発明の無機コーティング組成物の製造方法としては、少なくとも(a)、(b)、(c)および(d)成分を含む全ての成分を混ぜ合わせて1液のコーティング組成物としても良い。また、コーティング組成物の保存安定性の観点から、少なくとも(a)、(b)、(c)および(d)成分を2つに分けて、2液のコーティング組成物として、コーティングの前に混ぜ合わせても良い。2液のコーティング組成物の場合は、組合せに特に限定はないが、(a)シリカ微粒子、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物および(c)シランカップリング剤の組成物と(d)硬化触媒の組成物との2液の組合せ、上記(b)の組成物と、上記(a)、上記(c)および上記(d)の組成物との組合せなどが好ましい。(a)、(b)、(c)および(d)成分以外の成分は、どちらの組成物に混ぜ合わせてもよい。なお、有機アルミニウム触媒を含む場合、有機アルミニウム触媒は、水への溶解性が低いので、有機アルミニウム触媒と水とを直接混合すると、局所的に加水分解反応が生じて凝集体が生成するおそれがある。したがって、このような場合においては、予め有機アルミニウム化合物を親水性有機溶媒に溶解し、次いで、得られた溶液と他の成分(例えば、水)とを混合することが好ましい。
【0066】
2.無機塗膜の製造方法
本発明の無機塗膜の製造方法は、上記無機コーティング組成物を基材にコーティングするコーティング工程と、当該コーティング工程で当該無機コーティング組成物がコーティングされた基材を加熱する加熱工程と、を備えている。本発明の無機塗膜の製造方法において、基材は特に限定されないが、例えば、以下のものを用いることができる。また、本発明の無機塗膜の製造方法において、コーティングおよび加熱の手法は特に限定されないが、例えば、以下の条件および手法を用いることができる。
【0067】
<基材>
本発明の無機コーティング組成物をコーティングする基材は、主にガラス、プラスチック等を対象とする。例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリ硼珪酸塩ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂ガラスなどのディスプレー、レンズ、窓、液晶表示基板、光電変換装置用基板などに使用される基材を用いることができる。
【0068】
<コーティング工程におけるコーティング方法>
本発明の無機コーティング組成物を基材にコーティングする方法としては特に制限されていないが、例えば、スピンコーター、エアースプレー、ロールコーター、ディップコーティング、スクリーン印刷、グラビア印刷、流し塗りなどの方法が用いられる。その中でも、薄膜を均一にコーティングするために、スピンコーターを用いることが好ましい。
【0069】
<加熱工程における加熱処理>
本発明の無機コーティング組成物をコーティングした塗膜は、加熱による硬化反応により、塗膜の3次元的な強度と、基材への密着性とを確保する。加熱の条件は、加熱温度が120℃〜170℃、加熱時間が10分〜120分であることが好ましい。上記温度(120℃)よりも低く、または、上記時間(10分)よりも短いと、硬化が十分に進まず、機械的強度を十分に確保できない可能性がある。一方、上記温度(170℃)よりも高く、または、上記時間(120分)よりも長い場合には、本発明の目的の1つである製造の効率化に反する場合がある。
【0070】
加熱条件として、上記温度で加熱する前に、100℃以下で溶媒を乾燥させるプレヒート工程を入れても良いし、加熱温度を徐々に上げる方法を用いても良い。なお、この反応は、紫外線の反応を併用するものではない。
【0071】
<加熱処理後の膜厚>
本発明の無機塗膜の、加熱処理後における膜厚の最適値は、一般的によく知られている以下の式を元にして求めることが可能である。
【0072】
d=λ/4×(η−sinα)1/2・・・(式(2))
(式(2)中、dは無機塗膜の膜厚、λは入射光の波長、ηは無機塗膜の屈折率、αは基材に対する入射光の角度を表す。)
本発明の無機塗膜の屈折率は約1.4であるので、太陽光の放射強度が高い560nmを対象にすると、入射光が90°のとき、本発明の無機塗膜の膜厚が約100nmの場合に光線透過率が最大になることが分かる。この膜厚は、無機塗膜の屈折率、対象とする光線の波長等により変動するが、本発明においては70〜130nmが好ましい。
【0073】
3.無機塗膜
本発明の無機塗膜は、(a)非凝集の球状シリカ微粒子と、(b)アルコキシシランの縮合化合物の加水分解物と、(c)シランカップリング剤と、を含んでいる。本発明の無機塗膜は、(d)硬化触媒を含んでいてもよい。また、本発明の無機塗膜は、(a)、(b)、(c)および(d)成分以外の成分を含んでいてもよい。(d)硬化触媒がアミン系触媒の場合、無機塗膜には残らない。一方、(d)硬化触媒がアルミ系触媒の場合、無機塗膜に残存する。本発明の無機塗膜は、例えば、少なくとも(a)、(b)、(c)および(d)成分を含む無機コーティング組成物を加熱することによって得られるものである。
【0074】
また、本発明の無機塗膜は、(a)非凝集の球状シリカ微粒子が、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子の組合せからなっている。
【0075】
また、本発明の無機塗膜に含まれる、上記(a1)および(a2)のシリカ微粒子は、固形分重量で65:35〜97:3の比率である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0077】
[製造例1 (b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物B−1の合成]
テトラメトキシシランから加水分解および縮合により得られるメチルシリケート(平均分子量576、MKCメチルシリケートMS−51、三菱化学社製)65部に、エタノール496部、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)のイソプロパノール(以下「IPA」と略す。)溶液(固形分76%、アルミキレート−D、川研ファインケミカル社製)2.6部を加えて攪拌し、溶液を得た。これにイオン交換水340部を加えて40℃で加水分解させ、当該加水分解物B−1を得た。
【0078】
[製造例2 (b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物B−2の合成]
メチルトリメトキシシラン(東京化成社製)408部にメチルイソブチルケトン200部およびIPA150部を加えて溶解させた。この溶液にアルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)のIPA溶液(固形分76%)2.6部を加えて攪拌し、溶液を得た。この溶液にイオン交換水162部とイソプロパノール100部との混合液を加えて40℃で加水分解させた後、プロピレングリコールモノメチルエーテルで固形分が5%になるように希釈して、当該加水分解物B−2を得た。
【0079】
[実施例1]
粒子径4〜6nmのシリカ微粒子(商品名「スノーテックスOXS」、固形分10.6%にイオン交換水で調整したもの、日産化学工業社製)39.8部と、粒子径10〜20nmのシリカ微粒子(商品名「スノーテックスO」、固形分10.6%にイオン交換水で調整したもの、日産化学工業社製)13.3部とを混合した。この混合液をプロピレングリコールモノメチルエーテル136.6部で希釈した。次いで、エタノール140部で希釈し、さらに、当該加水分解物B−1を30部、グリシジルプロピルトリメトキシシランの溶液(商品名「KBM−403」、信越化学工業社製、固形分5.0%)を7.5部、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)のIPA溶液(固形分5%)1.9部を順に加えて、コーティング液(無機コーティング組成物)1を得た。
【0080】
[その他の実施例および比較例]
実施例2〜10および比較例1〜5について、使用するシリカ微粒子、当該加水分解物、シランカップリング剤、硬化触媒およびその他の成分(溶剤、添加剤)の各種類並びに各仕込量を表1または表2に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、コーティング液(無機コーティング組成物)をそれぞれ得た。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
なお、実施例9および10では、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)のIPA溶液の代わりにDBUのIPA溶液(固形分1.0%)を用いた。実施例10では、プロピレングリコールモノメチルエーテルの代わりに、非イオン界面活性剤(商品名「オルフィンEXP.4200」、日信化学工業社製、固形分1.0%)の水溶液を用いた。比較例4では、シリカ微粒子を粒子径が40〜50nmである、商品名「スノーテックスOL」(固形分10.6%にイオン交換水で調整したもの、日産化学工業社製)のシリカ微粒子を用いた。
【0084】
[コーティングおよび加熱処理]
実施例1で得られたコーティング液1、並びに実施例2〜10および比較例1〜5で得られたコーティング液を10cm角のガラス板にスピンコーターを用いて1300rpmで10秒コーティングし、150℃の加熱オーブンで30分間加熱乾燥して、膜厚100nmの塗膜を得た。
【0085】
[実施例および比較例の結果]
得られた塗膜における光線透過率、鉛筆硬度、密着性、耐擦り傷、耐久性試験後の密着性、および耐久性試験後の耐擦り傷を評価した。その結果を上記表1および表2に示す。
【0086】
[各評価の測定条件]
実施例および比較例で行った各評価の測定条件を以下に示す。
【0087】
〔光線透過率(透過率)〕
光線透過率の測定機器として、分光光度計(商品名「MCPD−3000」、大塚電子社製)を用いた。上記コーティング液をコーティングした後の基材をセットし、波長が560nmの光線透過率を測定した。なお、無機塗膜が製造される前(コーティング前)のガラスの光線透過率は92.2%であるため、コーティング後の光線透過率からコーティング前の基材の光線透過率(92.2%)を引いたものが、上記コーティング液をコーティングすることによって向上した光線透過率を表す。
【0088】
〔鉛筆硬度〕
上記コーティング液をコーティングした後の基材について、JIS−K5600に沿って、塗膜硬度である鉛筆硬度を測定した。
【0089】
〔密着性〕
上記コーティング液をコーティングした後の基材について、JIS−K5600に沿って、5×5の1mm角の碁盤目25個をカッターナイフでクロスカットした後、テープ剥離試験を行い、基材との密着性を評価した。密着性の結果は、剥離した後に残った碁盤目の数として表す。
【0090】
〔耐擦り傷(試験)〕
上記コーティング液をコーティングした後の基材について、日本スチールウール社製の0000番のスチールウールで500gの荷重をかけて、当該スチールウールを塗膜上で10回往復させた。塗膜に傷が認められない場合を「○」として、塗膜に傷が認められる場合を「△」として、ガラス基材まで傷が達している場合を「×」とした。
【0091】
〔耐久性試験〕
上記コーティング液をコーティングした後の基材について、プレッシャークッカー試験機を用いて、耐久性試験を行った。具体的には、試験機条件を湿度100%、温度121℃として48時間保持したのち、室温状態に戻して24時間経過した後のものを用いて、上記密着性と耐擦り傷試験を行った。
【0092】
[実施例のまとめ]
表1に示すとおり、本発明の無機コーティング組成物から製造される無機塗膜は、光線透過率が高く、かつ機械的強度に優れている。また、耐久性試験に対しても性能を維持していることから、長期間での性能維持が期待し得ると考えられる。一方、比較例1,2,3に示すように、シリカ微粒子が適切でない場合は、光線透過率、もしくは、機械的な強度が本発明よりも劣ることが分かる。また、比較例4,5に示すように、シランカップリング剤または硬化触媒を含まない場合は、機械的な強度、もしくは、耐久試験に劣ることが分かる。
【0093】
本発明の無機コーティング組成物は、ガラス、プラスチックなどの基材の上に、高い光線透過率、機械的強度および長期耐久性を有する無機塗膜を製造するため、ブラウン管、液晶などのディスプレー、太陽光発電(太陽電池)などの分野で好適に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、太陽電池用ハードコート、ブラウン管、液晶等のディスプレー表面へのハードコート、車両用のガラス窓、建築用のガラス窓、ショーウインドウ、などの広範な分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)非凝集の球状シリカ微粒子と、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と、(c)シランカップリング剤と、(d)硬化触媒と、を含み、
前記(a)シリカ微粒子が、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子の組合せからなる、無機コーティング組成物。
【請求項2】
前記(a1)および(a2)の2種類のシリカ微粒子は、固形分重量で65:35〜97:3の比率である、請求項1に記載の無機コーティング組成物。
【請求項3】
前記(d)硬化触媒が、両性金属のキレート金属化合物または3級アミン化合物である、請求項1または2に記載の無機コーティング組成物。
【請求項4】
前記(d)硬化触媒が、アルミ金属キレート化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機コーティング組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機コーティング組成物を基材にコーティングするコーティング工程と、
前記コーティング工程で前記無機コーティング組成物がコーティングされた基材を加熱する加熱工程と、を備えた、無機塗膜の製造方法。
【請求項6】
(a)非凝集の球状シリカ微粒子と、(b)アルコキシシランおよび/またはその縮合化合物の加水分解物と、(c)シランカップリング剤と、を含み、
前記(a)シリカ微粒子が、(a1)粒子径が3nm〜7nmのシリカ微粒子、および(a2)粒子径が10nm〜25nmのシリカ微粒子の組合せからなる、無機塗膜。