説明

無機膜形成方法

【課題】低温での熱処理かつ簡便な方法により、基板に対する密着性に優れ、透明性、均一な膜厚を有し、微視的な平滑性の良い無機膜を得ることができる無機膜形成方法を提供する。
【解決手段】スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、水(C)、並びに大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)を含有する無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装して無機膜を形成する無機膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機膜は、液晶表示素子、プラズマディスプレイパネル等の表示素子の透明電極、ディスプレイ用の反射防止膜、及び車両、航空機、ビルディング等の窓ガラスの発熱体等に利用されている。
【0003】
無機膜は、通常、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法等の膜形成方法により形成される。
【0004】
スパッタ法は、無機膜、特に無機透明導電膜の形成方法として最もよく知られている膜形成方法である。スパッタ法は、真空中での放電によりプラズマを発生させ、そのプラズマ中の陽イオンがターゲットの表面に衝突することでターゲット物質が飛び出すことを利用するもので、その飛び出したターゲット物質が基板上に堆積することで無機膜を形成する膜形成方法である。スパッタ法は、広範囲の材料の無機膜を作成できること、複雑な組成の無機膜を作成できること、均一な膜形成が可能であること等に利点がある。しかしながら、スパッタ法は、装置が複雑かつ高価であること、真空条件を要すること、大面積の膜形成が難しいこと等に課題がある。
【0005】
真空蒸着法は、真空中で金属又は金属酸化物を抵抗加熱等することで金属又は金属酸化物が蒸発することを利用するもので、加熱した基板上に蒸発した金属又は金属酸化物が堆積することで無機膜を形成する膜形成方法である。真空蒸着法は、均一な膜形成が可能であることに利点がある。しかしながら、真空蒸着法は、装置が複雑かつ高価であること、真空条件を要すること、大面積の膜形成が難しいこと、高温での加熱を要すること等に課題がある。
【0006】
CVD法は、原料を基板表面に気体状態で供給し、加熱した基板表面における原料の化学反応を利用するもので、その化学反応により無機膜を形成する膜形成方法である。CVD法は、装置が簡便かつ安価であることに利点がある。しかしながら、CVD法は、高温での加熱を要することに課題がある。
【0007】
これらの膜形成方法に対して、液状の原料を基板に塗布して無機膜を形成する方法がある。その方法の一つであるゾル−ゲル法は、金属アルコキシド等を出発原料とし、これを化学反応させることによりコロイド状のポリマー粒子(ゾル)を得て、さらにゾルを凝集させてゲル化、乾燥等させる無機材料の合成方法である。ゾル−ゲル法により無機膜を形成する場合には、基板上にゾルを塗布した後にゲル化、乾燥等させる。ゾル−ゲル法は、装置が簡便かつ安価であること、常圧で行えること等に利点がある。しかしながら、ゾル−ゲル法は、通常は高温での加熱を要すること、熱処理による収縮が起こりやすいこと等に課題がある。また、低温での熱処理が可能な場合もあるが、この場合には形成される膜には有機成分が残留しやすい点に課題がある。
【0008】
また、液状の原料を基板に塗布して無機膜を形成する他の方法として、特許文献1には、液状の原料としてのスズ酸アンモニウム溶液の発明、及び該溶液を基板にスピンコートした後、加熱をして透明導電膜を形成する方法に関する発明が開示されている。この発明は、簡便に無機膜が形成できることに利点がある。しかしながら、この発明は、均一な膜厚の無機膜の形成が難しいこと、微視的な平滑性に劣ることに課題がある。
【0009】
また、特許文献2には、スズ酸アンモニウム水溶液とイソシアネート成分が脂環式イソシアネートである水性ポリウレタン樹脂エマルションから成る帯電防止剤に関する発明、及び該帯電防止剤をコーティングした熱可塑性樹脂成形品に関する発明が開示されている。この発明は、高温での加熱を要することなく、簡便に帯電防止膜が形成できる点で利点がある。しかし、この発明により形成される帯電防止膜は、有機成分が帯電防止膜中に多量に存在することから、無機膜とは異なる。
【0010】
また、特許文献3には、アンモニア及び水溶性アミンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物存在下でスズ酸を主成分として含有する水溶液に、さらに、極性基を有する水溶性ポリマーを溶解させた透明導電性酸化スズ膜形成用塗布溶液、及び該塗布溶液を基板に塗布した後、乾燥、焼成する透明導電性酸化スズ膜の製造方法に関する発明が開示されている。この発明は、導電性、透明性に優れた酸化スズ膜を形成できることに利点がある。しかしながら、この発明は、水溶性ポリマーを除去するために高温での熱処理が必要であることに課題がある。
【0011】
【特許文献1】特開平1−257129号公報
【特許文献2】特開平7−166092号公報
【特許文献3】特開2001−210156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、低温での熱処理かつ簡便な方法により、基板に対する密着性に優れ、透明性、均一な膜厚を有し、微視的な平滑性の良い無機膜を得ることができる無機膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、スズ酸、アンモニア等の特定の化合物、水、並びに特定の溶剤を含有する無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装することにより上記課題を解決することを見出し本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、水(C)、並びに大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)を含有する無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装して無機膜を形成する無機膜形成方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温での熱処理かつ簡便な方法により、基板に対する密着性に優れ、透明性、均一な膜厚を有し、微視的な平滑性の良い無機膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の無機膜形成方法は、スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、水(C)、並びに大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)を含有する無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装して無機膜を形成する無機膜形成方法である。
【0017】
無機膜形成用塗布溶液
本発明の無機膜形成方法に用いる無機膜形成用塗布溶液は、スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)[以下、「化合物(B)」と略すことがある。]、水(C)、並びに大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)[以下、「溶剤(D)」と略すことがある。]を含有する。
【0018】
前記アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)としては、例えば、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、エチレンジアミン(沸点:117.0℃、水に対する溶解度:自由混合)、トリエチルアミン(沸点:89.4℃、水に対する溶解度:10.1質量%溶解)等が挙げられる。なお上記例示において、沸点は大気圧下における沸点であり、水に対する溶解度は20℃の水に対する溶解度である。これら化合物(B)のなかでも、有機成分を含有せず、当該化合物(B)に由来する有機成分が形成される無機膜に残存しえない点から、アンモニアが好ましい。
【0019】
ここで本発明において自由混合とは、対象とする液体(本発明においては水)と任意の割り合いで混合しうることを意味する。
なお、上記の化合物(B)以外の場合、すなわち、大気圧下における沸点が150℃より大きいアミンの場合には、本発明により形成される無機膜に該アミンが有機成分として残存する可能性が高くなるため好ましくない。また、20℃の水に対する溶解が5質量%未満のアミンの場合には、水に溶解する量が少ないため、無機膜形成用塗布溶液のpHをスズ酸(A)を溶解させるのに十分なほどに高くすることが困難となり、無機膜形成用塗布溶液にスズ酸(A)が溶解し難くなるため好ましくない。
【0020】
前記アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)の含有量は、前記無機膜形成用塗布溶液にスズ酸(A)を溶解させることができる量であれば特に限定されるものではない。
【0021】
前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)としては、例えば、エタノール(沸点:78.3℃、水に対する溶解度:自由混合)、イソプロパノール(沸点:82.3℃、水に対する溶解度:自由混合)、アリルアルコール(沸点:96.90〜96.98℃、水に対する溶解度:自由混合)、t−ブタノール(沸点:82.5℃、水に対する溶解度:自由混合)、プロパルギルアルコール(沸点:115.0℃、水に対する溶解度:自由混合)、1−プロパノール(沸点:97.2℃、水に対する溶解度:自由混合)、メタノール(沸点:64.7℃、水に対する溶解度:自由混合)、3−メチル−1−ブチン−3−オール(沸点:104.0℃、水に対する溶解度:自由混合)等の大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解するアルコール;テトラヒドロフラン(沸点:65.0℃、水に対する溶解度:自由混合)等が挙げられる。なお上記例示において、沸点は大気圧下における沸点であり、水に対する溶解度は20℃の水に対する溶解度である。より微視的な平滑性の良い無機膜が形成できる点から、大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解するアルコールが好ましく、エタノール及び/又はイソプロパノールがより好ましい。
【0022】
なお、上記の化合物(D)以外の場合、すなわち、大気圧下における沸点が60℃〜120℃と異なる溶剤の場合、又は、20℃の水に対する溶解が40質量%未満の溶剤の場合には、形成される無機膜の基板に対する密着性、微視的な平滑性が劣るため好ましくない。
【0023】
前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)の含有量は、特に限定されるものではないが、前記無機膜形成用塗布溶液に含有される水に対して、好ましくは40〜240質量%であり、より好ましくは60〜160質量%である。これら範囲は、より微視的な平滑性の良い無機膜が形成できる点で意義がある。
【0024】
前記スズ酸(A)の含有量は、特に限定されるものではないが、前記無機膜形成用塗布溶液に対して、SnOに換算して、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは0.5〜5質量%である。これら範囲の下限値は、塗布効率の点で意義がある。これら範囲の上限値は、貯蔵性の点で意義がある。
【0025】
前記無機膜形成用塗布溶液のpHは、特に限定されるものではないが、好ましくはpH9.5〜12.0であり、より好ましくはpH10.0〜11.0である。これら範囲は、スズ酸(A)の溶解を容易にし、析出等が殆どない安定な無機膜形成用塗布溶液が得られる点で意義がある。
【0026】
前記無機膜形成用塗布溶液は、本発明の効果を奏する範囲において、スズ以外の金属成分を含有していても良い。スズ以外の金属成分としては、例えば、アンチモン、ニオブ、ビスマス等が挙げられる。これらスズ以外の金属成分の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくはSnに対して原子比率で0.1〜20%である。
【0027】
前記無機膜形成用塗布溶液は、本発明により無機膜を形成する際に揮発、蒸発、沸騰、分解等により除去されない有機成分を実質的に含まない。前記無機膜形成用塗布溶液が、本発明により無機膜を形成する際に揮発、蒸発、沸騰、分解等により除去されない有機成分を実質的に含まないことで、本発明により形成される無機膜は実質的に有機成分を含まない無機膜となる。
【0028】
ここで、本明細書において「実質的に含まない」とは、前記無機膜形成用塗布溶液の場合は、含有されるスズ酸(A)をSnOに換算した値に対して、その成分の存在量が、5質量%以下、好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。また、本発明により形成される無機膜の場合は、その無機膜に対して、その成分の存在量が、5質量%以下、好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。
【0029】
本発明により無機膜を形成する際に揮発、蒸発、沸騰、分解等により除去されない有機成分の具体例としては、有機樹脂や界面活性剤などが挙げられる。有機樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0030】
なお、前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)は、有機成分であるが、本発明により無機膜を形成する際に揮発、蒸発、沸騰等により除去されるものである。
【0031】
前記無機膜形成用塗布溶液は、本発明により無機膜を形成する際に揮発、蒸発、沸騰、分解等により除去される有機成分であれば、それら有機成分を含有してもよい。それら有機成分としては、前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)の他に、例えば、大気圧下における沸点が120℃以下の有機溶剤が挙げられる。
【0032】
前記無機膜形成用塗布溶液の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、並びに水(C)を含有する水溶液(いわゆる、スズ酸アンモニウム水溶液等)を作成した後に、該水溶液を前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)と配合する製造方法が挙げられる。
【0033】
前記スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、並びに水(C)を含有する水溶液の作成方法は、特に限定されるものではない。例えば、特開2001−210156号公報に記載の発明に開示されているように、スズ化合物を加水分解してスズの水酸化物(スズ酸)を得た後、必要によりろ別し、続いてアンモニア等の前記化合物(B)の存在下で水に溶解させて目的物を得る作成方法が挙げられる。前記スズ化合物としては、加水分解して水酸化物を得るものであればよく、塩化第二スズ等のハロゲン化物、ハロゲン化有機スズ、スズ酸塩並びにスズを含むエステル等が挙げられる。また、特開平1−257129号公報に記載の発明に開示されているように、前記ハロゲン化物と炭酸水素アルカリ又は炭酸水素アンモニウムとを反応させゲルを作成した後、必要に応じ洗浄等を行うことにより不純物を除去し、続いて該ゲルをアンモニア等の前記化合物(B)の存在下で水に溶解させて目的物を得る作成方法が挙げられる。前記炭酸水素アルカリとしては、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0034】
無機膜形成方法
本発明の無機膜形成方法は、前記無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装して無機膜を形成する無機膜形成方法である。
【0035】
本発明に使用する基板は、特に限定されるものではない。例えば、ガラス基板、金属基板、プラスチック基板等が挙げられる。ガラス基板としては、具体的には例えば、ソーダガラス、石英ガラス、硼珪酸ガラス等が挙げられる。金属基板としては、アルミニウム基板等が挙げられる。プラスチック基板としては、具体的には例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等]、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、FRP、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ゴム製のプラスチック基板等が挙げられる。また、これら基板の形状は、例えば、フィルム状、板状、成型品等が挙げられ、限定されるものではない。
【0036】
基板としては、プラスチック基板が好ましく、より好ましくはポリエステル樹脂基板であり、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。本発明の無機膜形成方法は、低温での熱処理により無機膜が形成可能であることから、これらプラスチック基板を用いることが可能である。本発明にプラスチック基板を用いることにより、無機膜を表面に形成し、かつ軽く、透明性、屈曲性に優れた物品を得ることができる。
【0037】
前記基板は、表面処理がされていてもよい。プラスチック基板の表面処理としては、具体的には、薬品処理、機械的処理、コロナ処理、火焔処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理、オゾン酸化処理等の表面処理が挙げられる。基板を表面処理することは、前記無機膜形成用塗布溶液の基板に対するぬれ性を向上させ、より均一な膜厚を有する無機膜、及び、より微視的な平滑性の良い無機膜を得ることができる点で意義がある。
【0038】
プラスチック基板の表面処理の中でも好ましいのは、プラズマ処理、紫外線照射処理、コロナ処理、グロー放電処理である。これら処理は、より均一な膜厚を有する無機膜、及び、より微視的な平滑性の良い無機膜を得ることができる点に加え、表面処理におけるプラスチック基板の変形、収縮等の損傷が少ない点で意義がある。
【0039】
本発明に霧化塗装を採用することが、均一な膜厚を有する無機膜の形成、及び、微視的な平滑性の良い無機膜の形成を可能にする点において、他の塗布方法より優れる理由を、本発明者らは以下のように推測している。
【0040】
本発明において前記無機膜形成用塗布溶液は大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)を必須の成分としている。本発明において大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)は、該溶剤(D)を配合しない場合と比較して前記無機膜形成用塗布溶液の表面張力を低下させ霧化塗装における霧化粒子を微細にすると考えられる。そして、微細な霧化粒子は液膜よりも表面積が大きいことから液膜よりも乾燥が早いと考えられる。また、大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)は、該溶剤(D)を配合しない場合と比較して前記無機膜形成用塗布溶液が基板に塗着した際の乾燥を早くすると考えられる。これら作用により、霧化塗装された前記無機膜形成用塗布溶液は、微細な霧化粒子として基板に塗着し、塗着後は早く乾燥することにより塗着した霧化粒子の流動性が少なくなる又は流動性がなくなると考える。このことにより、本発明は均一な膜厚を有する無機膜の形成、及び、微視的な平滑性の良い無機膜の形成を可能にするものと考える。一方、ディップ塗装及びスピンコート塗装は、霧化塗装と異なり、塗布溶液を霧化することがないため、基板に塗着した液膜の乾燥が遅く基板上において液膜が不均一に流動すると考える。このことにより、ディップ塗装及びスピンコート塗装では、均一な膜厚を有する無機膜の形成、及び、微視的な平滑性の良い無機膜の形成が困難であると考える。従って、本発明者らは、前記無機膜形成用塗布溶液に大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)を含有すること及び塗布方法を霧化塗装とすることの両方を有する本発明においてはじめて、均一な膜厚を有する無機膜の形成、及び、微視的な平滑性の良い無機膜の形成を可能とするといった効果を奏するものと推測する。加えて、前記無機膜形成用塗布溶液中の前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)の含有量を調整すること、霧化塗装における霧化粒子の50%体積平均粒子径等を調整することにより、上記本発明の効果がより顕著になると推測する。
【0041】
前記霧化塗装としては、前記無機膜形成用塗布溶液を霧化して塗布することができる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、2流体ノズル等を用い圧縮空気を利用し霧化させて塗布する霧化塗装、超音波ノズル等を用い超音波を利用し霧化させ塗布する霧化塗装、静電気力を利用し霧化させ塗布する霧化塗装、遠心力や圧力など物理的な力を利用し霧化させ塗布する霧化塗装、霧化室にて一時的に霧化粒子を多く発生させておいて、その中から必要とする粒子のみを分級した後に塗布する霧化塗装等が挙げられる。
【0042】
前記霧化塗装において、霧化塗装の吐出量は特に限定されるものではない。好ましくは10g/分以下であり、より好ましくは0.1〜3.0g/分である。これら範囲は、基板に対する密着性に優れる無機膜が形成できる点、及びより均一な膜厚を有する無機膜が形成できる点で意義がある。
【0043】
霧化塗装の吐出量を上記範囲とする方法は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、前記無機膜形成用塗布溶液が充填されている圧送タンクからノズルまでの供給経路に電磁弁を設置する方法、2流体ノズルを用いる場合においてはノズル口径を50〜500μm程度に小さくする方法、吐出圧力を精密に制御できる装置を設置する方法、霧化室にて一時的に霧化粒子を多く発生させておいて、その中から必要とする量の粒子のみを吐出する方法等が挙げられる
前記霧化塗装において、霧化塗装の霧化粒子の50%体積平均粒子径は特に限定されるものではない。好ましくは20μm以下であり、より好ましくは1.0〜13μmである。これら範囲は、より微視的な平滑性の良い無機膜が形成できる点で意義がある。
【0044】
霧化塗装の霧化粒子の50%体積平均粒子径を上記範囲とする方法は、従来公知の方法により行うことができる。霧化塗装の霧化粒子の50%体積平均粒子径を上記範囲とする方法としては、例えば、ノズル口径、吐出量、霧化圧力、エアー流量等を適宜調節する方法が挙げられる。さらに具体的に説明すると、50%体積平均粒子径を小さくする方法としては、霧化塗装に2流体ノズルを用いる場合には、例えば、吐出量を少なくする方法、霧化圧力を高くする方法等が挙げられる。具体的には例えば吐出量を0.1〜1g/分の範囲とする、霧化圧力を200〜400kPaの範囲とすることが挙げられる。また、霧化塗装に超音波ノズルを用いる場合には、吐出量を少なくする方法、超音波の周波数を高くする方法等が挙げられる。具体的には例えば吐出量を0.1〜10g/分の範囲とする、周波数を50〜500kHzとすることが挙げられる。
【0045】
ここで本発明において、霧化塗装の霧化粒子の50%体積平均粒子径は、2600型パーティクルサイザー(商品名、マルバーン社製)を用いて測定して得られる50%体積平均粒子径である。測定は、該装置を用いて、実際に塗装する際に基板を置く位置を飛行する霧化粒子を吐出方向に対して直角方向から計測することにより行う。
【0046】
前記霧化塗装において、前記基板とノズルの距離は特に限定されるものではない。好ましくは前記基板とノズル先端の距離が10〜300mm、より好ましくは50〜150mmである。これら範囲とすることにより、霧化粒子を適度な乾燥状態で基板に塗着させることができる。そのことにより、より均一な膜厚を有する無機膜が形成できる。またそのことにより、より微視的な平滑性の良い無機膜が形成できる。
【0047】
本発明においては、前記無機膜形成用塗布溶液を霧化塗装により基板上に塗布した後、常温下(20℃程度)に放置しても無機膜を形成することができる。そのため、本発明においては、加熱工程は必須ではないが、本発明は加熱工程を含むことが好ましい。加熱工程は、前記無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装している間中、前記基板を加熱させておくこと、つまり、加熱されている基板上に前記無機膜形成用塗布溶液を霧化塗装することにより行うことができる。また、前記無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装し、霧化塗装が終了した後に基板を加熱することにより行うこともできる。
【0048】
加熱工程を行う際には、加熱されている基板上に前記無機膜形成用塗布溶液を霧化塗装することが好ましい。この方法を採用することにより、基板上に塗着した前記無機膜形成用塗布溶液の霧化粒子の乾燥がより迅速になる。そのことにより、より均一な膜厚を有する無機膜が形成できる。
【0049】
加熱する方法は特に限定されるものではない。例えば、基板をホットプレート上に載置して加熱する方法等が挙げられる。
【0050】
加熱工程を行う際の温度は特に限定されるものではない。本発明の無機膜形成方法は、低温での熱処理で無機膜を形成できることから、加熱工程を行う際の温度は、好ましくは30℃〜150℃、より好ましくは40℃〜120℃である。これら範囲であれば、基板をプラスチック基板とした際にも、プラスチック基板に変形等が生じることなく該プラスチック基板上に無機膜を形成することができる。
【0051】
本発明により形成される無機膜の膜厚は特に限定されるものではない。好ましくは50〜800nmであり、より好ましくは200〜600nmである。形成される無機膜の膜厚をこれら範囲とすることにより、透明性、及び密着性に優れる無機膜を形成することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」及び「%」は、特にことわらない限り、「質量部」及び「質量%」である。
【0053】
製造例1
500mlの三口フラスコに、7.0質量部の塩化第二スズ5水和物(SnCl・5HO)を入れ、これを35質量部の水に溶解した。次に、アンモニア水を加えてpHを8とし、沈殿物を得た。この沈殿物をろ過、洗浄後、採取した。続いて、この沈殿物に質量比で9倍量の蒸留水を加え、さらにそこへ25%アンモニア水を加えてpHを10.5とし、常温で24時間放置することにより、透明な水溶液を得た。
【0054】
製造例2
製造例1で得られた水溶液100質量部にイソプロパノールを加え、イソプロパノールの含有量が水に対して100質量%の無機膜形成用塗布溶液No.1を得た。得られた無機膜形成用塗布溶液No.1中のスズ酸の含有量はSnO換算で1.3質量%、pHは10.5であった。
【0055】
製造例3〜11、製造例15〜18
製造例1で得られた水溶液に表1に記載の溶剤種を同表に記載の含有量となるように加え、無機膜形成用塗布溶液No.2〜No.10、No.14〜17を得た。得られた無機膜形成用塗布溶液のスズ酸の含有量、及びpHを表1に示す。
【0056】
製造例12
500mlの三口フラスコに、7.0質量部の塩化第二スズ5水和物(SnCl・5HO)を入れ、これを35質量部の水に溶解した。次に、アンモニア水を加えてpHを8とし、沈殿物を得た。この沈殿物をろ過、洗浄後、採取した。続いて、この沈殿物に質量比で9倍量の蒸留水を加え、さらにそこへエチレンジアミンを加えてpHを10.5とし、常温で24時間放置することにより、透明な水溶液を得た。
【0057】
得られた水溶液100質量部にイソプロパノールを加え、イソプロパノールの含有量が水に対して100質量%の無機膜形成用塗布溶液No.11を得た。得られた無機膜形成用塗布溶液のスズ酸の含有量、及びpHを表1に示す。
【0058】
製造例13
500mlの三口フラスコに、7.0質量部の塩化第二スズ5水和物(SnCl・5HO)を入れ、これを35質量部の水に溶解した。次に、アンモニア水を加えてpHを8とし、沈殿物を得た。この沈殿物をろ過、洗浄後、採取した。続いて、この沈殿物に質量比で9倍量の蒸留水を加え、さらにそこへトリエチルアミンを加えてpHを10.5とし、常温で24時間放置することにより、透明な水溶液を得た。
【0059】
得られた水溶液100質量部にイソプロパノールを加え、イソプロパノールの含有量が水に対して100質量%の無機膜形成用塗布溶液No.12を得た。得られた無機膜形成用塗布溶液のスズ酸の含有量、及びpHを表1に示す。
【0060】
製造例14
500mlの三口フラスコに、7.0質量部の塩化第二スズ5水和物(SnCl・5HO)を入れ、これを35質量部の水に溶解した。次に、アンモニア水を加えてpHを8とし、沈殿物を得た。この沈殿物をろ過、洗浄後、採取した。続いて、この沈殿物に質量比で9倍量の蒸留水を加え、さらにそこへテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を加えてpHを10.5とし、常温で24時間放置することにより、透明な水溶液を得た。
【0061】
得られた水溶液100質量部にイソプロパノールを加え、イソプロパノールの含有量が水に対して100質量%の無機膜形成用塗布溶液No.13を得た。得られた無機膜形成用塗布溶液のスズ酸の含有量、及びpHを表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(注1)表中の含有量は、無機膜形成用塗布溶液に含まれる水に対する含有量であり、単位は質量%である。
(注2)表中の含有量は、無機膜形成用塗布溶液に対する含有量であり、単位は質量%である。
(注3)アセトン:大気圧下の沸点56.1℃、20℃の水に自由混合。
(注4)プロピレングリコールモノメチルエーテル:大気圧下の沸点121℃、20℃の水に自由混合。
(注5)N,N−ジメチルホルムアミド:大気圧下の沸点153℃、20℃の水に自由混合。
【0064】
実施例1
プラズマ処理(注6)をしたポリエチレンテレフタレート基板(100mm×100mm×0.2mm)を50℃に加熱し、該基板上に、製造例2で得られた無機膜形成用塗布溶液No.1を霧化塗装により塗布し、該基板上に膜厚452nm(注7)の無機膜を形成し試験板を得た。霧化塗装は、ノズル口径が1mmの超音波ノズルを具備した超音波霧化塗装機US−1(商品名、レヒラ−社製、空気搬送用30°)を用い、基板とノズル先端の距離が100mm、吐出量が1.0g/分、空気搬送用のエア圧力が10kPaとなる条件で行い、霧化粒子の50%体積平均粒子径は10μmであった。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
(注6)プラズマ処理は、CCR−300(商品名、日放電子社製、プラズマ照射装置)を用いて、アルゴン中で3分間行った。
(注7)膜厚の測定には、触針式表面形状測定器Dektak8(商品名、アルバック社製)を用いた。測定は、測定面積を100mm×100mm、測定点数を20点とした。各点についてスキャン長3mmの条件で各点における平均膜厚を測定した。各点の平均膜厚から20点の平均膜厚を算出し本測定における膜厚とした。
【0065】
実施例2〜19
無機膜形成用塗布溶液、吐出量、50%体積平均粒子径、基板温度及び形成する無機膜の膜厚を表2に示したものとする以外は実施例1と同様の条件にて、基板上に無機膜を形成し試験板を得た。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0066】
実施例20
プラズマ処理(注6)をしたポリエチレンテレフタレート基板(100mm×100mm×0.2mm)上に、製造例2で得られた無機膜形成用塗布溶液No.1を霧化塗装により塗布した。霧化塗装は、ノズル口径が1mmの超音波ノズルを具備した超音波霧化塗装機US−1を用い、基板とノズル先端の距離が100mm、吐出量が1.0g/分、空気搬送用のエア圧力が10kPaとなる条件で行い、霧化粒子の50%体積平均粒子径は10μmであった。続いて、該基板を50℃に加熱し、10分保持することにより、該基板上に膜厚455nm(注7)の無機膜を形成し試験板を得た。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0067】
実施例21
実施例1において、無機膜の膜厚を94nm(注7)とする以外は、実施例1と同様の条件にて、基板上に無機膜を形成し試験板を得た。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0068】
比較例1〜4
無機膜形成用塗布溶液、吐出量、50%体積平均粒子径、基板温度及び形成する無機膜の膜厚を表2に示したものとする以外は実施例1と同様の条件にて、基板上に無機膜を形成し試験板を得た。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0069】
比較例5
プラズマ処理(注6)をしたポリエチレンテレフタレート基板(100mm×100mm×0.2mm)上に、製造例2で得られた無機膜形成用塗布溶液No.1をディップ塗装により塗布した。塗布時の引き上げ速度は50mm/分とした。続いて、該基板を50℃に加熱し、10分保持することにより、該基板上に膜厚98nm(注7)の無機膜を形成し試験板を得た。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0070】
比較例6
プラズマ処理(注6)をしたポリエチレンテレフタレート基板(100mm×100mm×0.2mm)上に、製造例2で得られた無機膜形成用塗布溶液No.1をスピンコート塗装により塗布した。塗布時の回転数は500rpmとした。続いて、該基板を50℃に加熱し、10分保持することにより、該基板上に膜厚89nm(注7)の無機膜を形成し試験板を得た。得られた試験板について、下記項目を評価した。評価結果を表2に示す。
【0071】
密着性
マイクロワイプMC−3000(商品名、MCC社製)を用いて、試験板の無機膜に約1kg/cmの圧力をかけて約3cmの距離を往復させてこすった。膜がとれて基板表面が露出するまでの回数を測定し、下記基準により評価した。
◎:50回往復しても基板表面が露出しない。
○:25回〜49回の往復で基板表面が露出する。
△:5回〜24回の往復で基板表面が露出する。
×:4回以下の往復で基板表面が露出する。
【0072】
膜厚の均一性
触針式表面形状測定器Dektak8(商品名、アルバック社製)を用いて試験板の無機膜の膜厚のバラツキを以下の方法により求めた。測定面積を100mm×100mm、測定点数を20点とし、各点についてスキャン長3mmの条件で各点における平均膜厚を測定した。続いて、各点の平均膜厚から20点の平均膜厚を算出した。各点の平均膜厚と20点の平均膜厚との差の絶対値のうちの最大値を膜厚のバラツキとした。膜厚のバラツキから、膜厚の均一性を下記基準により評価した。
◎:膜厚のバラツキが10%以下である。
○:膜厚のバラツキが10%より大きく、20%以下である。
△:膜厚のバラツキが20%より大きく、30%以下である。
×:膜厚のバラツキが30%より大きい。
【0073】
膜の微視的な平滑性
触針式表面形状測定器Dektak8(商品名、アルバック社製)を用いて、試験板の無機膜の中心線平均粗さ(Ra)を測定した。測定パラメーターは、針圧:15mg、垂直分解能/測定レンジ:10Å/655KÅ、水平分解能:32nm、スキャン長:3mmとした。得られた測定結果から、膜の微視的な平滑性を下記基準により評価した。
◎:Raが20nm以下である。
○:Raが20nmより大きく、35nm以下である。
△:Raが35nmより大きく、50nm以下である。
×:Raが50nmより大きい。
【0074】
透明性
作成した試験板の透過率を島津自記分光光度計UV−3100PC(商品名、島津製作所社製)により測定した。測定は波長550nmの光により行った。なお、試験板の作成に用いたポリエチレンテレフタレート基板のみの透過率は90.4%であり、この値を透過率100%に補正して表2中の透過率を算出した。
【0075】
表面抵抗
作成した試験板の無機膜の表面抵抗を高抵抗率計SME−8310(商品名、TOA社製)にて、温度20℃、湿度50%RHの条件下で測定を行った。なお、表2において「−」で示したものは、密着性が悪く測定できなかったことを表す。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
本発明の実施例1〜20は、塗布直後の無機膜の外観を目視により観察したところ膜は乾いた状態であり、またSEM(走査型電子顕微鏡)による観察では図1のような平滑な無機膜が得られ、密着性、膜厚の均一性、膜の微視的な平滑性、透明性のいずれも良好であった。一方、比較例1〜4、すなわち、本発明に用いる無機膜形成用塗布溶液にかえて、溶剤(D)を含まない又は溶剤(D)以外の他の溶剤を用いた無機膜形成用塗布溶液を霧化塗装して得られる無機膜は、塗布直後の外観こそ実施例と同様に膜が乾いた状態が目視により観察されたものの、SEMによる観察では図2のようなリングが多数連なった無機膜が得られており、本発明の実施例と比較し、密着性、膜の微視的な平滑性、透明性の点で劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1〜20により得られた無機膜の代表的なSEM画像
【図2】比較例1〜4により得られた無機膜の代表的なSEM画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ酸(A)、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、水(C)、並びに大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)を含有する無機膜形成用塗布溶液を基板上に霧化塗装して無機膜を形成する無機膜形成方法。
【請求項2】
前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)の含有量が、無機膜形成用塗布溶液に含有される水に対して40〜240質量%である請求項1記載の無機膜形成方法。
【請求項3】
前記大気圧下における沸点が60℃〜120℃でありかつ20℃の水に40質量%以上溶解する溶剤(D)が、エタノール及び/又はイソプロパノールである請求項1又は2記載の無機膜形成方法。
【請求項4】
前記アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び大気圧下における沸点が150℃以下でありかつ20℃の水に5質量%以上溶解するアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)が、アンモニアである請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機膜形成方法。
【請求項5】
前記霧化塗装の吐出量が10g/分以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機膜形成方法。
【請求項6】
前記霧化塗装の霧化粒子の50%体積平均粒子径が20μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機膜形成方法。
【請求項7】
前記基板が加熱されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150079(P2010−150079A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329904(P2008−329904)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)