説明

無漏洩プランジャポンプ

【目的】 構造が簡単で且つメイテナンスが容易であり、しかも吸込み脈動を抑制することができる無漏洩プランジャポンプを得る。
【構成】 プランジャ12の周囲に複数のポンプ室を画定する。プランジャは、大径および小径プランジャ部分14、16からなる。ポンプ室は、プランジャロッド10(およびそのシール部材26)および大径プランジャ部分で設定される第1吸込室20と、大径プランジャ部分および小径プランジャ部分で設定される加圧室22と、小径プランジャ部分で設定される第2吸込室24とからなり、そして、第1および第2吸込室は吸込連通部28を介して互いに連通すると共に、さらに第1吸込室はポンプ吸込口30および吸込弁32に連通し、一方加圧室は吸込弁および吐出弁34で設定される吐出導管部36に連通する。そして、プランジャロッドは、その第1吸込室の貫通部を前記可撓性シール部材26でシールするよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プランジャもしくはピストン(以下、プランジャと総称する)を介してポンプ動作を行うプランジャポンプに係り、特に取扱液の外部への漏洩を防止できるように構成した無漏洩プランジャポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、プランジャポンプは、定量性並びに高圧性に優れている。しかしながら、その反面、通常の構成、すなわち代表的にはグランドパッキング方式等においては、プランジャロッドの軸封止が完全には達成されないので、取扱液の漏洩を免れない。
【0003】このため、取扱液の漏洩を防止すべき、例えば特種化学工業等における用途には、通常、油圧ダイアフラム方式のプランジャポンプが使用されている。この方式によれば、ポンプ室は、これに隣接する油圧室のダイアフラムが前記油圧室の圧力変動に応じて脈動することにより、ポンプ動作を行うよう構成されている。従って、この方式によれば、軸の貫通シール部が存在しないので、取扱液の漏洩が発生することはない。なお、前記方式とは別に、直動ダイアフラム方式等も知られているが、この方式は、高圧用途には不適であると共に定量性に劣る欠点を有する。
【0004】しかるに、前記ダイアフラム方式は、前述したように無漏洩は達成されるものの、反面、これには油圧室およびこれに付随するエア抜き等の設備を必要とするため、構造が複雑且つ高価となると同時に、特にメンテナンスが繁雑となる難点が存在する。
【0005】そこで、本出願人は、先に、前記難点を解決するために、比較的簡単な構造で無漏洩を達成できるプランジャポンプを開発し、特許出願を行った(特開昭63ー302186号公報)。
【0006】次に、前記ポンプについて簡単に説明すると、このポンプは、そのプランジャが、プランジャロッドとその先端部に取付けられるピストンとから形成されると共に、前記プランジャロッドはその全長を可撓性シール部材でシールされている。一方、ポンプ室は、前記可撓性シール部材の部分で設定される吸込室とピストン端面によって設定される加圧室とから形成されると共に、吸込室は吸込口および吸込弁に連通し、そして加圧室は吸込弁および吐出弁によって設定される吐出導管部に連通するよう構成されている。言い換えれば、プランジャポンプとシール部材とを組み合わせるよう構成されている。
【0007】従って、この種のポンプによれば、従来のグランドパッキング方式とは異なり、軸の貫通シール部を有しないので、取扱液が漏洩することはない。また、この種のポンプは、従来のダイアフラム方式とは異なり、油圧室(およびそのエア抜き等の付属設備)を必要としないので、構造が簡単となり、特にメンテナンスが容易となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述した従来のポンプにおいても、なお改良すべき難点を有していた。
【0009】すなわち、前記従来のポンプは、実際的には、吸込室を設定するシール部材の部分の有効直径が、加圧室を設定するピストンの直径よりも小さいことを前提条件とするものであり、もし前記条件が満たされない場合には、ポンプ吸込側の脈動が大きくなり、従ってポンプ動作が不安定となる欠点を有していた。
【0010】そして、この欠点は、ポンプ室を形成する吸込室と加圧室とがピストンを介して背中合わせに構成されているので、吸込圧力と吐出圧力との間の圧力差がその変動に伴い増大することである。
【0011】そこで、本発明の目的は、構造が簡単で且つメンテナンスが容易であり、しかも吸込脈動を抑制することができる無漏洩プランジャポンプを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】先の目的を達成するために、本発明に係る無漏洩プランジャポンプは、プランジャロッドを介して往復動するプランジャの周囲のケーシング内にポンプ動作を行うポンプ室を画定したプランジャポンプにおいて、前記プランジャは、プランジャロッドに接続される大径プランジャ部分とこれに連続する小径プランジャ部分とからなり、前記ポンプ室はプランジャロッドの周面および大径プランジャ部分の一側面によって設定される第1吸込室と大径プランジャ部分の他側面および小径プランジャ部分の周面によって設定される加圧室と、並びに小径プランジャ部分の端面によって設定される第2吸込室とからなり、前記第1および第2吸込室は互いに連通すると共に、さらに第1吸込室はポンプ吸込口および吸込弁に連通しており、一方加圧室は吸込弁および吐出弁によって設定される吐出導管部に連通しており、そして前記プランジャロッドは第1吸込室の貫通部をベローズおよび/またはベロフラムからなる可撓性シール部材でシールすることを特徴とする。
【0013】この場合、シール部材の有効径は、大径および小径プランジャ部分のそれぞれの径の中間寸法に設定することができる。また、シール部材から第1吸込室の反対側のプランジャロッド上にはシール部材の有効径と同径のピストンを設け、そしてこのピストンとシール部材との間には非圧縮性流体を封止するよう構成することができる。
【0014】
【作用】本発明によれば、先ず、ポンプの構成は、基本的には前記従来技術と同様に、プランジャポンプとシール部材とを組み合わせるよう構成し、しかも油圧室等の設備を必要としない。従って、無漏洩が達成されると同時に構造が簡単となり、特にメンテナンスが容易となることは明らかである。さらに、本発明によれば、ポンプ室は、加圧室の両側にそれぞれ第1および第2吸込室を配置するよう構成されているので、ポンプ動作が安定化する。また、吐出量は、加圧室を構成する大径および小径両プランジャ部分の直径を適宜の寸法に設計することにより、適正な量に設定することが可能となり、一方吸込量は、第1および第2吸込室を構成する前記大径および小径両プランジャ部分並びにプランジャロッドシール部材の各直径を適宜の寸法に設計することにより、好適には2連ポンプ吸込み並みの低脈動状態に設定することが可能となる。
【0015】この結果、シール部材は、ほぼ一定圧力からなる低脈動状態の吸込圧が、吐出圧力とは無関係に反転することなく、常に一定方向から負荷されて、シール部材の長寿命化並びに高信頼性を達成することができる。また、ポンプの定量性並びにその他の特性を向上することができる。
【0016】
【実施例】次に、本発明に係る無漏洩プランジャポンプの実施例につき、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0017】図1は、本発明の無漏洩プランジャポンプの一実施例を示すものである。図1において、この無漏洩プランジャポンプは、基本的には、プランジャロッド10を介して往復動するプランジャ12の周囲のケーシング18内に、ポンプ動作を行うポンプ室20、22、24を画定することにより構成される。そして、プランジャ12は、プランジャロッド10に接続される大径プランジャ部分14と、これに連続する小径プランジャ部分16とから形成される。また、ポンプ室は、プランジャロッド10(および後述するそのシール部材26)の周面および大径プランジャ部分14の一側面によって設定される第1吸込室20と、大径プランジャ部分14の他側面および小径プランジャ部分16の周面によって設定される加圧室22と、並びに小径プランジャ部分16の端面によって設定される第2吸込室24とから形成される。そして、前記第1および第2吸込室20、24は、吸込連通部28を介して互いに連通すると共に、さらに第1吸込室20はポンプ吸込口30および吸込弁32に連通する。一方、加圧室22は、吸込弁32および吐出弁34によって設定される吐出導管部36に連通するよう構成されている。
【0018】しかるに、プランジャロッド10は、その第1吸込室20の貫通部を、前述した可撓性シール部材(図においては、ベローズ)26でシールするよう構成されている。なお、ベローズ26の有効径Dは、好適には、大径および小径プランジャ部分14、16のそれぞれの直径A、Bの中間寸法に設定する。また、図中の参照符号Cは、プランジャロッド10の直径を示す。
【0019】そこで、以下に、このような構成からなる本発明のポンプの動作について説明する。先ず、プランジャロッド10およびプランジャ12が、図示の状態から実線矢印方向へ移動すると(すなわち、吐出工程において)、加圧される加圧室22内の取扱液は吐出弁34を開いて吐出口38から外部へ吐出され、負圧状態となる第1吸込室20内へは、第2吸込室24および吸込口30から取扱液が吸込まれる。
【0020】一方、前記状態から、プランジャロッド10およびプランジャ12が、反対に点線矢印方向へ移動すると(すなわち、吸込工程において)、負圧状態となる加圧室22内へは、第1吸込室20から取扱液が吸込弁32を開いて吸込まれ、同じく負圧状態となる第2吸込室24内へは、吸込口30および/または第1吸込室20から取扱液が吸込まれる。
【0021】このようにして、本発明においては、吐出および吸込みの全工程において取扱液の吸込みが行なわれる。そこで、この吸込量並びに吐出量の量的関係について説明すると、ある時点における第1吸込室20、加圧室22および第2吸込室24の各容積q20,q22およびq24は、それぞれ次式、
【0022】
【数1】


【0023】ここで、 L:ポンプストローク長θ:ポンプ位相角で表わされる。
【0024】従って、吐出工程における吐出量qd 、並びに吐出、吸込工程における各吸込量qs1、qs2および全工程における全吸込量qs は、それぞれ次式、
【0025】
【数2】


【0026】で表わされる。
【0027】従って、本発明においては、吐出量qd は、式(1)から分かるように、加圧室22を構成する大径および小径両プランジャ部分14、16の直径A、Bの差を所定値に設計することにより、適宜の大きさ、すなわち、例えば前記差を小さくすることにより極く微量の吐出量に、設定することが可能となる。一方、吸込量qs1、qs2(およびqs )は、式(2)乃至(4)から分かるように、第1および第2吸込室20、24を構成する大径および小径両プランジャ部分14、16並びにプランジャロッドシール部材26の各直径A、B、Dを所定値、好適には、D={(A2 +B2 )/2}1/2 に、設計することにより、前記両吸込量qs1、qs2を同一量に設定して、ポンプ吸込みを2連ポンプ吸込み並みの低脈動状態に設定することが可能となる。図2には、このような状態における吐出量qdおよび両吸込量qs1、qs2を示している。
【0028】このように、本発明によれば、ポンプ室は、加圧室22の両側にそれぞれ第1および第2吸込室20、24が配置されるよう構成すると共に、プランジャロッド10をシールするベローズ26には、低脈動状態(ほぼ一定圧力)の吸込圧が常に一定方向から(吐出圧力とは無関係に反転することなく)負荷されるよう構成しているので、ポンプ動作が安定し、その定量性並びにその他の特性が向上すると共に、ベローズ26の耐用寿命並びに信頼性を向上することができる。
【0029】なお、吸込配管(図示せず)が細くて済むこと、或いは大径プランジャ部分14のシール性は外部漏洩にはかかわらないことは、容易に理解されるところである。またここで、本発明においては、従来のグランドパッキング方式とは異なり、軸貫通シール部を有しないので、取扱液の漏洩が発生することはない。また、従来のダイアフラム方式とは異なり、油圧室(およびそのエア抜き等の付属設備)を必要としないので、構造が簡単となり、特にそのメンテナンスが容易となることは、改めて説明を要しないことである。
【0030】次に、図3および図4に、本発明の別の実施例を示す。本実施例は、先の実施例に対して、ベローズ26から第1吸込室20とは反対側のプランジャロッド10上に、ベローズ26の有効径Dと同径Eのピストン40を設け、このピストン40とベローズ26との間に非圧縮性流体を封止したものである。なお、参照符号42は、第1および第2吸込室20、24の間を連通する吸込み連通部を示す。
【0031】このように構成することにより、吸込口30のライン圧が高い場合でも、ベローズ26の異常変形が発生することがないので、ベローズ26の耐用寿命並びに信頼性が保証される。なお、その他の動作および特性は、前記実施例の場合と同様であるので説明を省略する。
【0032】次に、図5に、本発明のさらに別の実施例を示す。本実施例は、図3に示す実施例において、シール部材を構成するベローズ26をベロフラム44に変更したものである。従って、本実施例の動作および特性は、図3の実施例の場合と実質的に同一であるので説明を省略する。
【0033】以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前記実施例に限定されることなく、その精神を逸脱しない範囲内において多くの設計変更が可能である。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る無漏洩プランジャポンプは、プランジャロッドを介して往復動するプランジャの周囲のケーシング内に、ポンプ動作を行うポンプ室を画定したプランジャポンプにおいて、前記プランジャは、プランジャロッドに接続される大径プランジャ部分とこれに連続する小径プランジャ部分とから形成し、前記ポンプ室はプランジャロッドの周面および大径プランジャ部分の一側面によって設定される第1吸込室と大径プランジャ部分の他側面および小径プランジャ部分の周面によって設定される加圧室と並びに小径プランジャ部分の端面によって設定される第2吸込室とから形成し、そして前記第1および第2吸込室は互いに連通すると共に、さらに第1吸込室はポンプ吸込口および吸込弁に連通し、一方加圧室は吸込弁および吐出弁によって設定される吐出導管部に連通し、前記プランジャロッドは第1吸込室の貫通部をベローズおよび/またはベロフラムからなる可撓性シール部材でシールするよう構成したことにより、言い換えれば、本発明の無漏洩プランジャポンプは、プランジャポンプとシール部材とを組み合わせ、しかもシール部材に対する油圧室等の設備を不要とするよう構成したことにより、従来のグランドパッキング方式とは異なり、軸貫通シール部を有しないことから、取扱液の漏洩を発生することのないプランジャポンプを得ることができる。
【0035】また、本発明に係る無漏洩プランジャポンプは、従来のダイアフラム方式とは異なり、前記油圧室およびそのエア抜き等の付属設備を必要としないことから、構造が簡単となり、特にそのメンテナンスが容易となる。
【0036】しかも、本発明の無漏洩プランジャポンプは、そのポンプ室が、加圧室の両側に第1および第2の吸込室をそれぞれ配置するよう構成すると共に、そのプランジャロッドをシールするシール部材には、ほぼ一定圧力の低脈動状態からなる吸込圧が、吐出圧力とは無関係に反転することなく常に一定方向から負荷されるよう構成されているので、ポンプ動作が安定し、その定量性並びにその他の特性を向上し得ると共に、シール部材の耐用寿命並びに信頼性を向上することができる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る無漏洩プランジャポンプの一実施例を示す断面図である。
【図2】図1に示す無漏洩プランジャポンプの吐出および吸込み特性を示す波形図である。
【図3】本発明に係る無漏洩プランジャポンプの別の実施例を示す断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】本発明に係る無漏洩プランジャポンプのさらに別の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
10 プランジャロッド
12 プランジャ
14 大径プランジャ部分
16 小径プランジャ部分
18 ケーシング
20 第1吸込室
22 加圧室
24 第2吸込室
26 ベローズ
28 吸込連通部
30 吸込口
32 吸込弁
34 吐出弁
36 吐出導管部
38 吐出口
40 ピストン
42 吸込連通部
44 ベロフラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プランジャロッドを介して往復動するプランジャの周囲のケーシング内にポンプ動作を行うポンプ室を画定したプランジャポンプにおいて、前記プランジャは、プランジャロッドに接続される大径プランジャ部分とこれに連続する小径プランジャ部分とからなり、前記ポンプ室はプランジャロッドの周面および大径プランジャ部分の一側面によって設定される第1吸込室と大径プランジャ部分の他側面および小径プランジャ部分の周面によって設定される加圧室と、並びに小径プランジャ部分の端面によって設定される第2吸込室とからなり、前記第1および第2吸込室は互いに連通すると共に、さらに第1吸込室はポンプ吸込口および吸込弁に連通しており、一方加圧室は吸込弁および吐出弁によって設定される吐出導管部に連通しており、そして前記プランジャロッドは第1吸込室の貫通部をベローズおよび/またはベロフラムからなる可撓性シール部材でシールすることを特徴とする無漏洩プランジャポンプ。
【請求項2】 シール部材の有効径は、大径および小径プランジャ部分のそれぞれの径の中間寸法である請求項1記載の無漏洩プランジャポンプ。
【請求項3】 シール部材から第1吸込室の反対側のプランジャロッド上に、シール部材の有効径と同径のピストンを設け、このピストンとシール部材との間に非圧縮性流体を封止してなる請求項1または2記載の無漏洩プランジャポンプ。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平6−280741
【公開日】平成6年(1994)10月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−68013
【出願日】平成5年(1993)3月26日
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)