無線エネルギー伝達装置
【課題】無線エネルギー伝達用の装置を提供する。
【解決手段】装置は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成された第1共振構造を含む。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【解決手段】装置は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成された第1共振構造を含む。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願へのクロスリファレンス)
この仮出願は、米国特許出願第60/908383号、2007年3月27日出願、米国特許出願第11/481077号、2006年7月7日出願、及び米国特許仮出願第60/698442号、2005年7月12日出願に関連する。米国特許出願第11/481077号、2006年7月7日出願、及び米国特許仮出願第60/698442号、2005年7月12日出願の各々は、その全文を参考文献として本明細書に含める。
【0002】
本発明は、無線エネルギー伝達に関するものである。無線エネルギー伝達は例えば、自立型電気装置または電子装置に電力を供給するような用途において有用であり得る。
【背景技術】
【0003】
(情報伝達用に非常に良好に動作する)全方向アンテナの放射モードは、エネルギーの大部分が自由空間内で浪費されるので、こうしたエネルギー伝達には適していない。レーザーまたは高指向性アンテナを用いた指向性のある放射モードは、長距離(伝送距離LTRANS≫LDEV、ここにLDEVは装置及び/またはエネルギー源の特徴的な大きさ)に対しても効率的に用いることができるが、無障害の見通し線の存在、及び移動体の場合は複雑な追跡(トラッキング)システムを必要とする。一部の伝達方式は誘導に頼るが、一般に非常に近距離(LTRANS≪LDEV)または低電力(〜mW)エネルギーの伝達に限定される。
【0004】
近年の自立型電子機器(例えばラップトップ・コンピュータ、携帯電話、家庭用ロボット、これらのすべてが一般に化学エネルギー蓄電に頼る)の急速な発達は、無線エネルギー伝達の必要性の増加をもたらしてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haus, H. A., “Waves and Fields in Optoelectronics”, Prentice-Hall, New Jersy, 1984
【非特許文献2】S. Sensiper, “Electromagnetic wave propagation on helical conductors”, PhD Thesis, Massachusetts Institute of Technology
【非特許文献3】Balanis, C. A., “Antenna Theory: Analysis and Design” (Wiley, New Jersey, 2005)
【非特許文献4】Jackson, J. D., “Classical Electrodynamics” (Wiley, New York, 1999)
【発明の概要】
【0006】
発明者は、局在的エバネセント場を持つ結合共振モードを有する共振物体を、無放射のエネルギー伝達に用いることができることを認識した。共振物体は、他の共振外環境の物体とは弱く相互作用しつつ結合しやすい。一般に、以下に説明する技術を用いれば、結合が増加すると共に伝達効率も増加する。以下の技術を用いた一部の好適例では、エネルギー伝達速度をエネルギー損失速度より大きくすることができる。従って、他の共振外物体内へのエネルギーの伝達及び消失を少量だけ受忍しつつ、効率的な無線エネルギー交換を共振物体間で達成することができる。近接場のほぼ全方向であるが定常的な(無損失の)性質が、このメカニズムを携帯無線受信機に適したものにする。従って、種々の好適例は、例えば、装置(ロボット、車両、コンピュータ、または同様のもの)が建屋内を自由に動き回りながら、エネルギー源(例えば有線配電網に接続されたもの)を工場建屋の天井に配置することを含む、多様の可能な用途を有する。他の用途は、電気エンジンのバス及び/またはハイブリッドカー、及び医療用埋め込み型装置である。
【0007】
一部の好適例では、共振モードがいわゆる磁気共鳴であり、これについては、共振物体を包囲するエネルギーの大部分が磁界中に蓄積され、即ち、共振物体外にはごくわずかな電界しか存在しない。大部分の日常的材質(動物、植物及び人間を含む)は非磁性であり、それらと磁界との相互作用は最小限である。このことは、安全性にとって、及び無関係な環境物体との相互作用を低減するためにも、共に重要である。
【0008】
1つの態様では、無線エネルギー伝達用の装置を開示し、この装置は第1共振構造を含み、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。一部の好適例では、Dはまた、次の1つ以上より大きい:第1共振構造の特徴的サイズL1、第1共振構造の特徴的な幅、及び第1共振構造の特徴的厚さ。この装置は、次の特徴のいずれかを単独で、あるいは組み合わせて含むことができる。
【0009】
一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造にエネルギーを伝達するように構成されている。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造からエネルギーを受けるように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。
【0010】
一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。
【0011】
一部の好適例では、Q1>100かつQ2>100、Q1>200かつQ2>200、Q1>500かつQ2>500、Q1>1000かつQ2>1000である。一部の好適例では、Q1>200またはQ2>200、Q1>500またはQ2>500、Q1>1000またはQ2>1000である。
【0012】
一部の好適例では、結合対損失比が
【数1】
または
【数2】
である。
【0013】
一部の好適例では、D/L2を2、3、5、7、10にすることができる
【0014】
一部の好適例では、Q1>1000、Q2>1000、かつ結合対損失比が
【数3】
である。
【0015】
一部の好適例では、Q1>1000、Q2>1000、かつ結合対損失比が
【数4】
である。
【0016】
一部の好適例では、Q1>1000、Q2>1000、かつ結合対損失比が
【数5】
である。
【0017】
一部の好適例では、エネルギー伝達が、約1%より大きい効率ηw、約10%より大きい効率ηw、約20%より大きい効率ηw、約30%より大きい効率ηw、または約80%より大きい効率ηwで動作する。
【0018】
一部の好適例では、エネルギー伝達が、約10%未満の放射損失ηradで動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数6】
である。
【0019】
一部の好適例では、エネルギー伝達が、約1%未満の放射損失ηradで動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数7】
である。
【0020】
一部の好適例では、いずれかの共振物体の表面から3cm以上の距離に人間が存在すると、エネルギー伝達は、人間への伝達による約1%未満の損失ηradで動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数8】
である。
【0021】
一部の好適例では、いずれかの共振物体の表面から10cm以上の距離に人間が存在すると、エネルギー伝達は、人間に至る約0.2%未満の損失ηradを伴って動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数9】
である。
【0022】
一部の好適例では、動作中に第1または第2共振構造に結合した電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、上記装置がさらに、この電源を含む。一部の好適例では、fはおよそ最適効率の周波数である。
【0023】
一部の好適例では、fが約50GHz以下、約1GHz以下、約100MHz以下、約10MHz以下である。一部の好適例では、fが約1MHz以下、約100kHz以下、または約10kHz以下である。一部の好適例では、fが約50GHz以上、約1GHz以上、約100MHz以上、約10MHz以上、約1MHz以上、約100kHz以上、または約10kHz以上である。
【0024】
一部の好適例では、動作中に、上記共振構造の一方が他方の共振構造から使用可能な電力Pwを受ける。一部の好適例では、Pwは約0.01ワット以上、約0.1ワット以上、約1ワット以上、または約10ワット以上である。
【0025】
一部の好適例では、Qκ=ω/2κが約50未満、約200未満、約500未満、または約1000未満である。
【0026】
一部の好適例では、D/L2が3、5、7または10である。
【0027】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の1つが容量負荷付き導線コイルを含む。一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、容量負荷付き導線コイルを含む。こうした一部の好適例では、動作中に、共振構造の一方が、使用可能な電力Pwを他方の共振構造から受け、電流Isが、他方の共振構造にエネルギーを伝送中の共振構造内を流れ、比率
は約5
未満、または約2
未満である。一部の好適例では、動作中に、上記共振構造の一方が、使用可能な電力Pwを他方の共振構造から受け、電圧差Vsが第1共振構造の容量負荷の端子間に現れ、比率
は約2000
未満、または約4000
未満である。
【0028】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、容量負荷付き導線コイルを含み、Q1>200かつQ2>200である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約1cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約1mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。こうした一部の好適例では、fが約380MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数10】
または
【数11】
である。
【0029】
一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約10cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約43MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数12】
または
【数13】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約30cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約9MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数14】
または
【数15】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約30cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約9MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数16】
または
【数17】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約1m未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約5MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数18】
である。こうした一部の好適例では、D/L2が約3、約5、約7または約10である。
【0030】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の一方または両方は誘電体円板(ディスク)を含む。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズが上記LRであり、この共振構造の誘電率の実数部εが約150未満である。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数19】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約1m未満であり、この共振構造の誘電率の実数部εが約70未満である。一部の好適例では、結合対損失比が
【数20】
または
【数21】
である。一部の好適例では、この共振構造の誘電率の実数部εが約65未満である。
【0031】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の一方が自己共振導線コイルを含む。一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、自己共振導線コイルを含む。
【0032】
一部の好適例では、これらの自己共振導線コイルの1つ以上が、長さl及び断面半径aの導線を含み、この導線が、断面半径r、高さh、及びターン(巻)数Nの螺旋コイルの形に巻かれている。一部の好適例では、
【数22】
である。
【0033】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、自己共振導線コイルを含み、Q1>200かつQ2>200である。
【0034】
一部の好適例では、共振構造毎に、rが約30cm、hが約20cm、aが約3mm、及びNが約5.25であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源がこの共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約10.6MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数23】
または
【数24】
または
【数25】
である。一部の好適例では、D/LRが2、3、5、または8である。
【0035】
一部の好適例では、上記装置がさらに、第2共振構造に電気結合された電気または電子装置を含み、この電気または電子装置は第2共振構造からエネルギーを受ける。一部の好適例では、この電気または電子装置は、ロボット(例えば通常のロボットまたはナノロボット)、携帯(モバイル)電子装置(例えば電話機、またはコンピュータ、あるいはラップトップ・コンピュータ)を含む。一部の好適例では、この電気または電子装置が、患者の体内に埋め込むように構成された医療装置(例えば人工臓器、または薬剤を送り届けるように構成されたインプラント)を含む。
【0036】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の少なくとも一方が:誘電体円板、誘電物体、金属物体、金属誘電物質、プラズモン物質、容量負荷付き導線コイル、自己共振導線コイルの少なくとも1つを含む。
【0037】
一部の好適例では、上記共鳴場が電磁場である。一部の好適例では、上記共鳴場が音場である。一部の好適例では、上記共鳴場の1つ以上が、上記共振構造の一方のウィスパリング・ギャラリーモードを含む。
【0038】
一部の好適例では、上記共鳴場が、共振物体外の領域内で主として磁界である。一部の好適例では、最寄りの共振物体からの距離pにおける、平均電界エネルギーの平均磁界エネルギーに対する比率が0.01未満、または0.1未満である。一部の好適例では、Lcを最寄の共振物体の特徴的サイズとすれば、p/Lcが1.5、3、5、7、または10未満である。
【0039】
一部の好適例では、上記共振構造が、約5000より大きいQ値、または約10000より大きいQ値を有する。
【0040】
一部の好適例では、上記共振構造の少なくとも一方が約10000より大きいQ値を有する。
【0041】
一部の好適例では、上記装置が第3共振構造も含み、この第3共振構造は、第1及び第2共振構造のうち1つ以上との間で、無放射でエネルギーを伝達するように構成され、第3共振構造と、第1及び第2共振構造のうち1つ以上との間の無放射のエネルギー伝達には、第1及び第2共振構造のうち1つ以上の共鳴場エバネセント・テールと第3共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【0042】
一部の好適例では、第3共振構造が、第1及び第2共振構造のうち1つ以上にエネルギーを伝達するように構成されている。
【0043】
一部の好適例では、第3共振構造が、第1及び第2共振構造のうち1つ以上からエネルギーを受けるように構成されている。
【0044】
一部の好適例では、第3共振構造が、第1及び第2共振構造の一方からエネルギーを受け、第1及び第2共振構造の他方にエネルギーを伝達するように構成されている。
【0045】
他の態様では、無線エネルギー伝達の方法を開示し、この方法は、第1共振構造を用意するステップと、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するステップとを含む。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【0046】
一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数26】
である。
【0047】
他の態様では、第1共振構造を含む装置を開示し、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的な幅W1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造にエネルギーを伝達するように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数27】
である。
【0048】
他の態様では無線情報伝達用の装置を開示し、この装置は第1共振構造を含み、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【0049】
一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造にエネルギーを伝達するように構成されている。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造からエネルギーを受けるように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数28】
である。
【0050】
他の態様では無線情報伝達用の装置を開示し、この装置は第1共振構造を含み、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的厚さT1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造からエネルギーを受けるように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数29】
である。
【0051】
一部の好適例は、動作中に上記共振構造の1つ以上の共振周波数を維持するメカニズムを含む。一部の好適例では、このフォードバック・メカニズムが、固定周波数を有する発振器(オシレータ)を具え、上記共振構造の1つ以上の共振周波数を、この固定周波数におよそ等しい値に調整するように構成されている。一部の好適例では、このフィードバック・メカニズムが、エネルギー伝達の効率を監視し、この効率を最大化すべく上記共振構造の1つ以上の共振周波数を調整するように構成されている。
【0052】
なお、ある物体の特徴的サイズは、この物体全体をちょうど合う大きさで取り囲む球の半径に等しい。ある物体の特徴的な幅は、この物体が直線的に進みながら当該円内を通過することのできる最小限可能な円の半径である。例えば、円柱形の物体の特徴的な幅は、この円柱の半径である。ある物体の特徴的厚さは、平面上に任意の(あらゆる)置き方で配置した際に、この物体の最高点がこの平面を上回る最小限可能な高さである。
【0053】
2つの共振物体間で距離D越しにエネルギー伝達が生じる距離Dは、各物体の全体をちょうど合う大きさで取り囲む最小球のそれぞれの中心間の距離である。しかし、人間と共振物体との間の距離を考える際は、この距離は人間の外面からこの球の外面までを測ることになる。
【0054】
以下で詳細に説明するように、無放射のエネルギー伝達とは、第1には局在的近接場を通して行われ、そして高々、第2には、この近接場の放射部分を通して行われるエネルギー伝達を称する。
【0055】
なお、共振物体のエバネセント・テールは、この物体の所に局在する共鳴場の徐々に減衰する無放射部分である。この減衰は、例えば指数関数的減衰またはべき乗則(指数法則)の減衰を含む任意の関数形をとる。
【0056】
無線エネルギー伝達システムの最適効率の周波数は、他のすべての要素を一定に保持した上で、性能指数(示性数、フィギュア・オブ・メリット)
が最大になる周波数である。
【0057】
共振幅(Γ)とは、ある物体の固有損失(例えば吸収、放射、等に至る損失)によるこの物体の共振の幅を称する。
【0058】
なお、Q値は、振動系の振幅の減衰時定数を、その振動周期と比較した係数である。周波数ω及び共振幅Γを有する所定の共振器については、Q値Q=ω/2Γである。
【0059】
なお、Qκ=ω/2κである。
【0060】
無放射のエネルギー伝達速度κは、1つの共振器から他の共振器へのエネルギー伝達の速度を称する。以下に記載する結合モードの説明では、κは共振器間の結合定数である。
【0061】
特に断りのない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。参考文献として本明細書に含めると称した刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献と意味が対立する場合は、定義を含めた本明細書の記載が(意味を)支配する。
【0062】
種々の好適例は上記特徴のいずれかを単独で、あるいは組み合わせて含むことができる。
【0063】
本発明の他の特徴、目的、及び利点は、以下の詳細な説明より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】無線エネルギー伝達方式の概略図である。
【図2】自己共振導線コイルの例を示す図である。
【図3】2つの自己共振導線コイルを特徴とする無線エネルギー伝達方式を示す図である。
【図4】容量負荷付き導線コイルの例を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図5】2つの容量負荷付き導線コイルを特徴とする無線エネルギー伝達方式を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図6】共振誘電体円板の例を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図7】2つの共振誘電体円板を特徴とする無線エネルギー伝達方式を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図8a】周波数制御メカニズムの概略図である。
【図8b】周波数制御メカニズムの概略図である。
【図9a】種々の無関係な物体が存在する無線エネルギー伝達方式を例示する図である。
【図9b】種々の無関係な物体が存在する無線エネルギー伝達方式を例示する図である。
【図9c】種々の無関係な物体が存在する無線エネルギー伝達方式を例示する図である。
【図10】無線エネルギー伝達に対する回路モデルを例示する図である。
【図11】無線エネルギー伝達方式の効率を例示する図である。
【図12】無線エネルギー伝達方式のパラメータ依存性を例示する図である。
【図13】無線エネルギー伝達方式のパラメータ依存性をプロットした図である。
【図14】無線エネルギー伝達を実証する実験システムの概略図である。
【図15】図14に概略的に示すシステムについての実験結果をプロットした図である。
【図16】図14に概略的に示すシステムについての実験結果をプロットした図である。
【図17】図14に概略的に示すシステムについての実験結果をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1に、本発明の一実施例を概略的に記載した概略図を示し、この実施例では、2つの共振物体間でエネルギーが無線で伝達される。
【0066】
図1を参照すれば、特徴的サイズL1を有する共振性の電源側(ソース)物体と、特徴的サイズL2の共振性の装置側物体との間でエネルギーが伝達される。両物体は共に共振物体である。電源側物体は電源(図示せず)に接続され、装置側物体は電力消費装置(例えば負荷抵抗、図示せず)に接続されている。エネルギーは電源から電源側物体に供給され、電源側物体から装置側物体に無線で、無放射で伝達される。無線での無放射のエネルギー伝達は、2つの共振物体の系の場(電磁場または音場)を用いて実行される。簡単のため、以下では、この場が電磁場であるものと仮定する。
【0067】
なお、図1の実施例、及び以下の例の多くは2つの共振物体を示しているが、他の実施例は3つ以上の共振物体を特徴とすることができる。例えば、一部の実施例では、単一の電源側物体が複数の装置側物体にエネルギーを伝達することができる。一部の実施例では、エネルギーを第1装置から第2装置に伝達し、そして第2装置から第3装置に伝達し、等とすることができる。
【0068】
最初に、無照射の無線エネルギー伝達を理解するための理論的枠組みを提示する。しかし、本発明の範囲は理論によって束縛されない。
【0069】
(結合モード理論)
2つの共振物体1と2の間の共振エネルギー交換をモデル化するための適切な解析的枠組みは、「結合モード理論」(CMT:coupled-mode theory)の枠組みである。(例えば非特許文献1(Haus, H. A., “Waves and Fields in Optoelectronics”, Prentice-Hall, New Jersy, 1984)参照。)2つの共振物体1と2の系の場は
【数30】
によって近似され、ここに
は物体1及び2単独の固有モードを単位エネルギーに正規化した値であり、場の振幅a1,2(t)は、|a1,2(t)|2が、物体1及び2のそれぞれの内部に蓄積されたエネルギーに等しくなるように定義される。従って、場の振幅は、最低次については次式を満足するように示され:
【数31】
ここに、ω1,2は、固有モードの個々の固有周波数であり、Γ1,2は、物体の固有(吸収、放射、等の)損失による共振幅であり、κは結合係数である。式(1)は、正確な共振(ω1=ω2かつΓ1=Γ2)では、結合系の固有モードが2κ分の1に分割され、2つの物体間のエネルギー交換は時間π/κで行われ、損失は別としてほぼ完全であり、この損失は、結合速度がすべての損失速度よりずっと速い(κ≫Γ1,2)際に最小である。結合対損失比が
は、この比を達成することのできる距離と共に、無線エネルギー伝達用に用いる評価システムにおける性能指数として機能する。レジーム(変化の型)
を、「強結合」レジームと称する。
【0070】
一部の好適例では、エネルギー伝達の応用が、遅い固有損失速度Γに対応する高いQ値Q=ω/2Γの共振モードを用いることが好ましい。この条件は、有損失の放射的遠距離(非近接)場ではなくエバネセント(無損失)の定常近接場を用いて結合を実現すれば満足される。
【0071】
エネルギー伝達方式を実現するために、通常は有限の物体、即ち周り中を空気で包囲されたトポロジー(接続関係)の物体がより適切である。不都合なことに、有限の大きさの物体は、空気中の全方向に指数関数的に減衰する電磁的状態をサポートすることができない、というのは、自由空間内のマクスウェルの方程式より:
【数32】
であるからであり、ここに
は波動ベクトルであり、ωは周波数であり、cは光の速度である。このことにより、無限大のQ値の状態をサポートすることができないことを示すことができる。しかし、非常に長寿命(いわゆる「高いQ」)の状態は見出すことができ、そのテールは、振動的(放射的)になる前に、共振物体から十分な距離だけ離れた所で必要な指数関数的または指数関数状の減衰を表す。こうした場の変化の挙動が発生する限界面を「放射コースティック」と称し、無線エネルギー伝達方式が遠距離場/放射場ではなく近接場に基づくためには、結合物体間の距離は、一方(の物体)が他方(の物体)の放射コースティック内にあるようにしなければならない。
【0072】
さらに、一部の実施例では、これらの物体の特徴的サイズより大きい(物体間の)距離では、強い(即ち速い)結合速度κに対応する小さいQ値Qκ=ω/2κが好ましい。従って、有限サイズの共振物体を包囲する領域内への近接場の大きさは一般に、波長によって設定され、一部の実施例では、こうした中距離範囲の無放射結合は、サブ波長(波長以下の)サイズの共振物体を用いて達成することができ、従って、エバネセント場のテールよりずっと長い。後の例に見られるように、こうしたサブ波長の共振は高いQ値を伴うことが多く、従って、このことは、携帯型(モバイル)であり得る共振する装置側物体にとって適切な選択である。しかし、一部の実施例では、共振する電源側物体は不動であり、従ってその許容された幾何学的形状及びサイズにより限定されにくく、従って、この幾何学的形状及びサイズは、近接場の大きさが波長によって制限されないくらい十分大きく選定することができる。誘電体導波管のようなほぼ無限の大きさの物体は、そのエバネセント・テールが物体から離れる向きに指数関数的に、カットオフ近くに調整された場合は徐々に減衰するガイドモードをサポートすることができ、そしてほぼ無限大のQ値を有することができる。
【0073】
以下では、上述した種類のエネルギー伝達に適したシステムのいくつかの例を説明する。上述したCMTパラメータω1,2、Q1,2及びQκを計算する方法、及びこれらのパラメータを特定実施例用に選択して所望の性能指数
【数33】
を生成する方法を例示する。これに加えて、以下に説明するように、Q1,2は時として、固有損失メカニズムではなく外部の摂動により制限される。これらの場合は、所望の性能指数を生成することがQκを低減すること(即ち、結合を増加させること)に変わる。従って、特定実施例についてQκを低減する方法を例示する。
【0074】
(自己共振導線コイル)
一部の実施例では、共振物体の1つ以上が自己共振導線ループである。図2を参照すれば、長さl、断面半径aの導線が、空気に囲まれた半径r及び高さhの(即ち、巻数
【数34】
を有する)螺旋コイルの形に巻かれている。以下に説明するように、この導線は分布インダクタンス及び分布容量(キャパシタンス)を有し、従って、周波数ωの共振モードをサポートする。知る限りでは、有限螺旋の場についての文字通りの厳密解は存在せず、無限長コイルの場合でも、この解は、実際のシステムにとって不適切な仮定に頼る。(非特許文献2(S. Sensiper, “Electromagnetic wave propagation on helical conductors”, PhD Thesis, Massachusetts Institute of Technology)参照。)
【0075】
共振の性質は、コイルの容量全体にわたる電荷分布
、自由空間内の磁界、及び導線中の電流分布
による、コイルの容量内の電界からのエネルギーの周期的交換にある。特に、電荷保存の方程式∇・j=iωρは、次のことを暗に意味する:(i) この周期的交換は、電流プロファイルと電荷密度プロファイルとの間にπ/2の位相シフトを伴い、即ち、コイルに含まれるエネルギーUは、特定時点では完全に電流により、他の時点では完全に電荷による;(ii) I(x)が導線中の直線電流密度であり、xが導線に沿って変化する値であれば、I0=max{|I(x)|}が直線電流分布の正の最大値であり、
【数35】
が、コイルの一方の側に蓄積した正電荷の最大量であり(他方の側にも、等量の負電荷が常に蓄積して、系を中性にする)、従ってI0=ωq0である。従って、コイルの実効総インダクタンスL及び実効総容量Cは、その共振モード中の次式のエネルギーの量U:
【数36】
によって定義することができ、ここにμ0及びε0はそれぞれ、自由空間の透磁率及び誘電率である。これらの定義により、共振周波数及び実効インピーダンスはそれぞれ、次の一般式:
【数37】
及び
【数38】
によって与えられる。
【0076】
この共振系内の損失は、導線内部の抵抗(材料吸収)損、及び自由空間内への放射損失である。ここでも、総吸収抵抗Rabs及び総放射抵抗Rradを、それぞれ吸収または放射される電力の量から、次式のように定義することができ:
【数39】
ここに、
【数40】
かつ
【数41】
はそれぞれ、自由空間内の光速及び光インピーダンスであり、インピーダンスζcは
【数42】
であり、ここにσは導線の導電率であり、δは周波数ωにおける表皮厚さであり、そして
【数43】
である。放射抵抗の式(5)については、準静的のレジーム(r≪λ=2πc/ω)における演算の仮定を用い、この仮定は、サブ波長共振の望ましいレジームであり、その結果は整数Nのみに当てはまる。これらの定義により、共振の吸収及び放射のQ値はそれぞれ、Qabs=ωL/Rabs及びQrad=ωL/Rradによって与えられる。
【0077】
式(2)〜(5)より、共振パラメータを決定するためには、単に共振コイル内の電流分布
を知るだけでよい、ということになる。マクスウェルの方程式を解いて、導線コイルの共振の電磁的固有モードの電流分布を厳密に見出すことは、例えば標準的なLC回路よりも複雑であり、有限長のコイルについては文字通りの厳密解を見つけることはできず、厳密解を困難にする。原則的に、精巧な伝送線状のモデルを書き下して、力ずくで解くことはできる。その代わりに、(以下に説明するように)実験と良好に一致する(〜5%)モデルを提示する。各コイルを形成する導線の有限の長さが、導線から出る電流がないのでコイルの端では電流が0でなければならないという境界条件を課すことを考え、各コイルの共振モードは、導線の長さ方向に沿った正弦波電流プロファイルによって良好に近似されるものと仮定する。最低のモードに関心を持つべきであり、従って、導線に沿った座標軸をxで表し、xが−l/2から+l/2まで変化するものとすれば、電流振幅プロファイルはI(x)=I0cos(πx/l)の形を有し、ここで特定のxについては、電流は導線の円周に沿って大幅に変化しないものと仮定しており、a≪rとすれば、この仮定は有効である。電荷についての連続方程式から直ちに、線形の電荷密度プロファイルはρ(x)=ρ0sin(πx/l)の形を有することになり、従って、
【数44】
である。これらの正弦波プロファイルを用いて、式(2)及び(3)の積分を数値的に計算することによって、コイルのいわゆる「自己インダクタンス」Ls及び「自己容量」Csを見出し、関連する周波数及び実効インピーダンスはそれぞれωs及びZsである。「自己抵抗」Rsは式(4)及び(5)によって、及び
【数45】
を用いて解析的に与えられ、従って、関連するQ値Qsを計算することができる。
【0078】
λs/r≧70のサブ波長モデル(即ち、近接場の計算に非常に適し、十分、準静的な限界内にあるモデル)を有する共振コイルの2つの特定具体例を表1に示す。波長及び吸収、放射及び全損失速度についての数値計算結果を、サブ波長コイル共振モードの2つの異なる場合について示す。なお、導線の材料には銅(σ=5.998×107S/m)を用いた。マイクロ波周波数において想定されるQ値は、
【数46】
及び
【数47】
であることがわかる。
【0079】
【表1】
【0080】
図3を参照すれば、一部の実施例では、2つの自己共振導線コイル間でエネルギーを伝達する。磁界を用いて異なる共振導線コイルを、これらの中心間の距離Dで結合する。通常は、磁気結合のための電気結合の制限は、考慮中の系ではh<rなるコイルについて達成することができる。そして、2つのコイル1、2の電流分布、ピーク電流、及びインダクタンスを、それぞれ
、I1,2及びL1,2と定義すれば、これらは単一コイルの場合についての
、I0及びLと同様であり、従って明確に定義され、コイル1、2の相互インダクタンスは、総エネルギー(U)によって次式のように定義することができる:
【数48】
ここで、各コイルが他方の近接場内にある、関心事である準静的レジームD≪λでは、積分中の遅延係数〜exp(iωD/c)は無視した。この定義により、そして電気結合が存在しないものとすれば、結合係数は次式によって与えられる:
【数49】
【0081】
従って、2つの自己共振コイル間の結合速度を計算するためには、ここでも電流プロファイルを必要とし、ここでも仮定した正弦波電流プロファイルを用いることによって、(6)式から、2つの自己共振コイル間の相互インダクタンスMsを、これらの中心間の距離Dにおいて数値的に計算し、こうしてQκ,sも決定される。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に、同一の自己共振コイルの対を特徴とする好適な実施例についての関係パラメータを示す。2つの通常モードの平均波長及び損失速度(個別の値は示さず)について数値結果を提示し、そして、表1に提示するモードの2つの場合にについて、結合速度及び性能指数も、結合距離Dの関数として示す。中程度の距離D/r=10〜3について想定される結合対損失比はκ/Γ≒2〜70であることがわかる。
【0084】
一部の実施例では、共振物体の1つ以上が容量負荷付きの導線コイルである。図4を参照すれば、上述したNターンの導線を有する螺旋コイルが、面積Aの一対の平行導体板に接続され、これらの導体板は、相対誘電率εの誘電体によって距離dだけ離間され、すべてのものが空気によって包囲されている(図に示すようにN=1かつh=0である)。これらの平板は容量Cp=ε0εA/dを有し、この容量がコイルの分布容量に加わり、従ってその共振を変化させる。しかし、負荷容量の存在が、導線内部の電流分布を大幅に変化させ、従って、コイルの総実効インダクタンスL及び総実効容量Cはそれぞれ、Ls及びCsとは異なり、これらの値は同じ幾何学的形状の自己共振コイルについては、正弦波電流プロファイルを用いて計算される。いくらかの電荷が、外部負荷コンデンサのプレート(極板)に蓄積されるので、導線内部の電荷分布ρが低減され、従ってC<Csとなり、従って、電荷保存方程式より電流分布jが平坦化され、従ってL>Lsとなる。この系についての共振周波数は
【数50】
であり、Cp→0になると共に、
【数51】
となる。
【0085】
一般に、この系については望ましいCMTパラメータを見つけることができるが、ここでも、マクスウェルの方程式の非常に複雑な解を必要とする。その代わりに、電流分布についての適度な推量を行うことのできる特別な場合のみを解析する。Cp≫Cs>Cである際は、
【数52】
かつ
【数53】
であり、すべての電荷が負荷コンデンサのプレート上にあり、従って電流分布は導線に沿って一定である。このことは、ここでLを式(2)より数値的に計算することを可能にする。h=0でありNが整数である場合は、式(2)中の積分は実際に解析的に計算することができ、式L=μ0r[ln(8r/a)−2]N2を与える。ここでも、Irms=I0であるので、Rについては式(4)及び(5)より明示的解析式が利用可能であり、従ってQも決定することができる。この計算の終わりに、定電流プロファイルの仮定の有効性を、条件:
【数54】
を実際に満足していることをチェックすることによって確認する。しかし、この条件を満足するために、大きな外部容量を用いることができ、このことは通常、動作周波数を、簡単に決定される最適周波数より下にシフトさせ、その代わりに、一般的な実施例では、考慮中の種類のコイルについては、非常に小さい自己容量Csから始めることを選ぶことが多く、このため、N=1である際は、自己容量は単一ターン上の電荷分布から生じ、この自己容量はほとんど常に非常に小さく、あるいはN>1かつh≫2Naである際は、支配的な自己容量は隣接するターン上の電荷分布から生じ、この自己容量は、隣接するターン間の間隔が大きければ小さい。
【0086】
外部負荷容量Cpは、(例えばAまたはdを調整することによって)共振周波数を調整する自由度を与える。従って、特別で単純な場合h=0については、解析式があり、総Q値Q=ωL/(Rabs+Rrad)は次式の最適周波数で最大になり:
【数55】
次式の値に達する:
【数56】
【0087】
より低い周波数では、この値は抵抗損失によって支配され、最高周波数では放射によって支配される。しかし、これらの式はω*≪ωsである限り正確であり、そして以上で説明したように、このことはN=1である際はほとんど常に成り立ち、N>1である際はより不正確になる、というのは、h=0は通常、大きな自己容量を暗に意味するからである。自己容量を外部容量に比べて低減する必要がある場合は、大きなhを有するコイルを用いることができるが、ここでもL及びω*、Q*についての式がより不正確になる。同様の定性的挙動が想定されるが、この場合に定量的予測を行うためには、より複雑な理論モデルを必要とする。
【0088】
N=1かつh=0なるコイルの、式(7)の最適周波数における、λ/r≧70なるサブ波長モード(即ち、近接場結合に非常に適し、かつ十分、準静的の限界内である)の2つの具体例についての上記解析の結果を表3に提示する。定電流の仮定、及び結果的な解析式の有効性を確認するために、他の完全に独立した方法を用いたモード解法計算も実行し、:即ちコンピュータ計算による3D有限要素周波数領域(FEED:finite-element frequency-domain)シミュレーション(空間離散化とは切り離して、周波数領域でマクスウェルの方程式を厳密に解く、例えば非特許文献3(Balanis, C. A., “Antenna Theory: Analysis and Design” (Wiley, New Jersey, 2005))を参照)を行い、このシミュレーションでは、導線の境界を、複素インピーダンス
【数57】
の境界条件を用いてモデル化し、この条件は、ζc/ζ0≪1である限り(銅については、マイクロ波において<10-5)有効である(非特許文献4(Jackson, J. D., ”Classical Electrodynamics” (Wiley, New York, 1999))参照)。表3は、数値的(括弧内は解析的)FEEDの結果を、各波長及び吸収、放射、及び総損失速度について、及びサブ波長共振モード2つの異なる場合について示す。なお、導電材料には銅(σ=5.998×107S/m)を用いた。(表中では、図4のプロットの特定パラメータを太字で強調している。)これら2つの方法(解析的及び計算)は非常に良好に一致し、マイクロ波において想定されるQ値がQabs≧1000及びQrad≧10000であることを示す。
【0089】
【表3】
【0090】
図5を参照すれば、一部の実施例では、2つの容量負荷付きコイル間でエネルギーを伝達する。2つの容量負荷付きコイル1、2間の、これらの中心間の距離Dでのエネルギー伝達速度については、ω≪ωsの場合の一定の電流分布を用いることによって、式(6)から数値的に評価することができる。h=0であり、N1、N2が整数である場合は、ここでも解析式があり、この解析式は、準静的限界内r≪D≪λ、かつ図4に示す相対配向については、M≒π/2・μ0(r1r2)2N1N2/D3となり、このことは、
【数58】
が周波数ω及びターン数N1、N2とは独立であることを意味する。従って、結果的な関心事の結合の性能指数は次式のようになる:
【数59】
ここでもN1=N2=1については、より正確になる。
【0091】
式(9)より、性能指標を最大にする最適周波数は、
を最大にするものである、というのは、Qκは(少なくとも、準静的近似がまだ有効である関心事の距離D≪λについては)周波数に依存しないからである。従って、最適周波数は、2つのコイル間の距離Dとは独立であり、単一コイルのQ1及びQ2がピークになる2つの周波数間にある。同じコイルについては、最適周波数は(7)式によって与えられ、従って、性能指数の式(9)は次式のようになる:
【数60】
【0092】
表4に、以上に基づく数値的FEED、及び括弧内は解析的FEEDの結果を、各々が表3に記載の整合した一対の負荷付きコイルから成る2つの系について示す。平均波長及び損失速度を、結合速度、及び結合対損失比の性能指数κ/Γと共に、結合距離Dの関数として、これら2つの場合について示す。なお、表に示す平均の数値的Γradはここでも、表3の単一ループとは少し異なり、Γradの解析的結果は表に示していないが、単一ループの値を用いている。(表中では、図5のプロットに対応する特定パラメータを太字で強調している。)ここでも、定電流の仮定を有効なものとするためにN=1を選定し、Mは式(6)より数値的に計算した。実際に、正確さは、コンピュータ計算によるFEEDモード解法シミュレーションとの一致によって確認することができ、このシミュレーションは、結合系の2つの通常モードの周波数分離(=2κ)によってκを与える。その結果は、中程度の距離D/r=10〜3については、想定される結合対損失比がκ/Γ≒0.5〜50の範囲内にあることを示す。
【0093】
【表4】
【0094】
一部の実施例では、以上の結果を用いて、容量負荷付きコイルを用いた無線エネルギー伝達システムの性能を向上または最適化することができる。例えば、異なるシステムパラメータで式(10)をスケーリングすれば、システムの性能指標κ/Γを最大にするために、例えば次のことができることがわかる:
・導電材料の抵抗率を低減することができる。このことは例えば、(銅または銀のような)良導体を用いることによって、及び/または温度を下げることによって達成することができる。極低温では、超伝導材料を用いて極めて良好な性能を達成することもできる。
・導線の半径aを増加させることができる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望のエネルギー伝達距離Dに対して、ループの半径rを増加させることができる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望の距離対ループサイズの比D/rに対して、ループの半径rを減少させることができる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・ターン数Nを増加させることができる。(N>1に対して式(10)がより不正確であると想定されても、定性的に、この式は、Nを増加させると共に結合対損失比の改善が期待されることの良好な指標を与える。)一般的な実施例では、この行動は物理的サイズ及び可能な電圧を考慮して制限され、これについては以下の節で説明する。
・2つのコイル間の位置合わせ(アライメント)及び配向を調整することができる。両方の円筒コイルが正確に同一の(円柱の)対称軸を有すると(即ち、これらのコイルが互いに「対面」すると)、性能指標が最適になる。一部の実施例では、0の相互インダクタンスをもたらす特定のコイル角及び配向(例えば2つのコイル軸が直交する配向)は回避すべきである。
なお、最後に、一般的な実施例では、コイルの高さhが結合対損失比に悪影響しないべきである、というのは、コイルの高さhは主にコイルのインダクタンスに悪影響し、QとQκとの間で相殺し合うからである。しかし、コイルの高さhは、外部負荷容量を支持してコイルの自己容量を低減するために用いることができる。
【0095】
上記解析技法を用いて、所望のパラメータを有するシステムを設計することができる。例えば、以下に挙げるように、上述した技法を用いて、2つのコイル間の所定のD/rにおけるκ/ガンマの意味での特定性能を達成するために、所定半径を有する2つの同じ単一ターンのコイルをシステムとして設計する際に使用すべき導線の断面半径aを決定することができる。材料が銅である(σ=5.998×107S/m)際は、次式のようになる:
【数61】
【0096】
同様の解析を、2つの異なるループの場合について行うことができる。例えば、一部の実施例では、考慮中の装置が非常に特別であり(例えばラップトップ・コンピュータまたは携帯電話)、従って装置側物体の寸法(rd、hd、ad、Nd)が非常に限定される。しかし、一部のこうした実施例では、電源側物体に対する制約(rs、hs、as、Ns)の方がずっと小さい、というのは、電源側物体は例えば、床下または天井に配置することができるからである。こうした場合は、所望距離が用途に基づいて明確に定められていることが多い(例えば、机上のラップトップ・コンピュータを床から無線で充電するためにはDは〜1mである。)以下に、材料を再び銅(σ=5.998×107S/m)とした際に、
の意味での所望性能を達成するために電源側物体の寸法を変化させることのできる方法の例を挙げる(Ns=Nd=1かつhs=hd=0の場合に簡略化する):
【数62】
【0097】
以下に説明するように、一部の実施例では、共振物体のQ値は外部摂動により制限され、従ってコイルのパラメータを変化させることがQ値の改善に至り得ない。こうした場合は、Qκを減少させる(即ち、結合を増加させる)ことによって、結合対損失比の性能指標を増加させることを選ぶことができる。結合は周波数及びターン数に依存せず、コイルの高さには非常に弱く依存する。従って、残された自由度は次の通りである:
・導線の半径a1及びa2を増加させる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望のエネルギー伝達距離Dに対して、コイルの半径r1及びr2を増加させる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望の距離対コイルサイズ比
に対して、インダクタンスの弱い(対数)依存性のみが元のままであり、このことは、コイルの半径r1及びr2を減少させるべきであることを示唆する。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・2つのコイル間の位置合わせ(アライメント)及び配向を調整する。一般的な実施例では、結合は、両方の円筒コイルが正確に同一の(円柱の)対称軸を有する(即ち、互いに対面する)際に最適化される。0の相互インダクタンスをもたらす特定の相互コイル角及び配向(例えば2つのコイルの軸が直交する配向)は回避すべきである。
さらに、効率とは別の他の実際的考慮、例えば物理的サイズ制限は、以下に詳細に説明する。
【0098】
なお、以上では、共振磁気結合をエネルギー伝達に用いるシステムの例として、特定実施例、即ち自己共振導線コイル及び容量負荷付き共振導線コイルの例を提示し解析しているが、その磁気エネルギーをその電気エネルギーよりずっと遠くに拡張する電磁的モードをサポートするあらゆるシステムを、磁気結合によってエネルギーを伝達するために用いることができる。例えば、所望する種類の磁気共振をサポートする分布容量及び分布インダクタンスを有する多数の抽象的な幾何学的形状が存在し得る。これらの幾何学的形状のいずれにおいても、特定パラメータを選定して
を増加または最適化することができ、あるいは、Q値が外部要素によって制限される場合は、Qκを増加及び/または最適化することができる。
【0099】
エネルギー伝達のための、上述した共振結合の誘導的方式と、周知の非共振の誘導的方式との相違を理解することも重要である。幾何学的形状及び電源側に蓄積されたエネルギーを一定に保てば、この誘導性の共振メカニズムが、従来の非共振メカニズムの〜Q2(〜106)倍の電力を、装置における動作用に配送することを、CMTを用いて容易に示すことができる。このことは、後者によれば、近距離、非接触で中程度の電力(〜W)伝達しかできないのに対し、共振によれば、近距離であるが大電力(〜kW)の伝達が可能になるか、あるいは現在提案されているように、強結合レジームにおける動作も保証すれば、中距離で中程度の電力伝送も可能であることの理由である。容量負荷付きの導線ループが現在、(例えば携帯電話における)共振アンテナとして用いられているが、これらのループはD/r≫1、r/λ〜1なる遠距離場において動作し、放射のQ値は、アンテナを高効率にすべく意図的に小さく設計され、従ってこれらのループはエネルギー伝達には適していない。
【0100】
一部の実施例では、電界及び磁界を無線エネルギー伝達に用いることができる。図6に示す半径r及び相対誘電率εの二次元誘電体円板物体を考え、この物体は空気によって包囲され、高いQ値の「ウィスパリング・ギャラリー」共振モードをサポートする。こうした共振系内に蓄積されたエネルギーの損失メカニズムは、自由空間内への放射及び円板材料内への吸収である。高いQ値Qrad及びテールの長いサブ波長共振は、誘電率εが大きく、方位的な場の変化が遅い(即ち、小さい主量子数mである)際に達成することができる。材料吸収は、材料損失(角の)タンジェント:Qabs≒Re{ε}/Im{ε}に関係する。この種の円板共振についてのモード解法計算を、次の2つの独立した方法を用いて実行し、即ち:数値的な2D(二次元)有限差分周波数領域(FDFD:finite-difference frequency-domain)シミュレーション(空間離散化とは切り離して、周波数領域でマクスウェルの方程式を厳密に解く)を30ポイント(点)/rの分解能で行い、そして極座標における標準的な変数分離(SV:separation of variable)を用いて解析的に解いた。
【0101】
【表5】
【0102】
2つのTE分極誘電体円板についての、λ/r≧10のサブ波長モードの結果を表5に示す。表5は、サブ波長及び吸収、放射、及び総損失速度についての、数値的FDFD(括弧内は解析的SV)の結果を、サブ波長円板共振モードの2つの異なる場合について示す。なお、円板材料の損失タンジェントIm{ε}/Re{ε}=10-4を用いた。(表中では、図6のプロットに対応する特定パラメータを強調している。)これら2つの方法は優れた妥協点を有し、ことを暗に意味する。適切に設計した共振性の低損失物体については、Qrad≧2000及びQabs〜10000が達成されることを暗に意味する。なお、3Dの場合については、演算の複雑性が非常に増加するが、物理学的なことは、さほど難しくない。例えば、ε=147.7の球形物体は、m=2、Qrad=13962、及びλ/r=17なるウィスパリング・ギャラリーモードを有する。
【0103】
表5に示す、要求されるεの値は、最初は非現実的に大きく見えるかもしれない。しかし、(およそメートルレンジ(範囲)の結合用途に適した)マイクロ波レジームでは、適度に十分高い誘電定数及び低損失を有する材料(例えばチタニア、テトラチタン酸バリウム、タンタライトリチウム、等)が存在するだけでなく、金属状(負のεの)材料または金属誘電体光(フォトニック)結晶の表面上の表面プラズモンモードのような他の既知のサブ波長表面波系の実効屈折率の代わりに、εも重要であり得る。
【0104】
ここで、2つの円板1と2の間で達成可能なエネルギー伝達速度を計算するために、図7に示すように、これらの円板をその中心間に距離Dをとって配置する。数値的には、FDFDモード解法シミュレーションが、結合系の通常モードの周波数分割(=2κ)によってκを与え、これらのモードは、初期の単円板モードの偶数個または奇数個の重ね合わせであり、解析的には、変数分離法の固有場
の表現を用いて、CMTはκを次式によって与え:
【数63】
ここに、εj(r)及びε(r)はそれぞれ、円板jのみ、及び全空間を記述する誘電関数である。そして、媒体距離D/r=10〜3、及び無放射結合については、D<2rcとなり、ここにrc=mλ/2πは、放射コースティックの半径であり、2つの方法は非常に良く一致し、最終的に、表6に示すように、κ/Γ≒1〜50の範囲内の結合対損失比を見出す。従って、解析した具体例では、以下に説明するように、達成された性能指数値は、一般的な応用にとって有用であるために十分大きい。
【0105】
【表6】
【0106】
(外部物体に対するシステム感度)
一般に、共振ベースの無線エネルギー伝達方式の特定実施例の全体性能は、共振物体の共振のロバストネス(頑健性)に強く依存する。従って、共振物体の、ランダムな非共振の外部物体が近くに存在することに対する感度を解析することが望ましい。1つの適切な解析モデルは、「摂動理論」(PT:perturbation theory)の解析モデルであり、外部物体eの存在下では、共振物体1の内部の場の振幅a1(t)が、一次については、次式を満足することを示唆する:
【数64】
ここでも、ω1は周波数であり、Γ1は固有(吸収、放射、等)損失速度であり、κ11-eは、eの存在により(物体)1に生じる周波数シフトであり、Γ1-eは,外部のe(e内部の吸収、eからの散乱、等)による損失速度である。一次PTモデルは、小さい摂動のみに対して有効である。それにもかかわらず、a1を正確な摂動モードの振幅であるものとすれば、パラメータκ11-e、Γ1-eは上記レジーム外でも明確に定義される。また、初期の共振モードの放射場と外部物体から散乱する場との間の干渉効果は、強い散乱(例えば非金属物体)については、初期放射Γ1より小さい全放射Γ1-eを生じさせる(即ち、Γ1-eは負である)。
【0107】
周波数シフトは、1つ以上の共振物体に、その周波数を補正するフィードバックメカニズムを適用することによって「固定」することのできる問題である。例えば、図8aを参照すれば、一部の実施例では、各共振物体に固定周波数の発振器、及びこの物体の周波数を測定する監視装置を設ける。発振器及び監視装置は共に周波数調整器に結合され、周波数調整器は、例えば物体の特性(例えば自己共振コイルの高さ、容量負荷付きコイルのコンデンサプレートの間隔、誘電体円板の形状、等)を調整するか、あるいは共振物体の付近にある非共振物体の位置を変更することによって、共振物体の周波数を調整する。周波数調整器は、上記固定周波数と物体周波数との差を測定し、物体周波数を固定周波数との一致にもっていくように機能する。この技法は、外部物体の存在下でも、すべての共振物体が同じ固定周波数で動作することを保証する。
【0108】
他の例として、図8bを参照すれば、一部の実施例では、電源側物体から装置側物体へのエネルギー伝達中に、装置側物体はエネルギーを負荷に供給し、効率監視装置がこの伝達の効率を測定する。負荷に結合された周波数調整器及び効率監視装置は、伝達効率を最大化するように物体の周波数を調整すべく機能する。
【0109】
種々の実施例では、共振物体間の情報交換に頼る他の周波数調整方式を用いることができる。例えば、電源側物体の周波数を監視して装置側物体に伝送することができ、装置側物体は、上述した周波数調整器を用いてこの周波数に同期する。他の実施例では、単一クロックの周波数を複数の装置に伝送し、各装置がこの周波数に同期することができる。
【0110】
周波数シフトとは異なり、外部損失は改善することが困難であるので、エネルギー伝達方式にとって有害であり得る。従って、全損失速度Γ1[e]=Γ1+Γ1-e(及び対応する性能指数
、ここにκ[e]は摂動のある結合速度)を定量化すべきである。実施例では、主に磁気共振を用いて、共振に対する外部物体の影響がほとんど存在しない。その理由は、考慮している動作の準静的レジーム(r≪λ)では、コイルを包囲する空気領域内の近接場は磁界が支配的である(これに対し電界の大部分はコイルの自己容量または外部負荷のコンデンサ中に局在する)ということであり、従って、この磁界と相互作用し、共振に対する摂動として作用し得る非金属の外部物体eは、大きな磁気特性(透磁率Re{μ}>1または磁気損失Im{μ}>0)を有する物体である。ほとんどすべての日常的材料が非磁性であるので自由面と同様に磁界に応答し、従って導線ループの共振を乱さない。
【0111】
上述したように、このことの重要な意味は、人間に対する考慮を満足することに関係する。人間も非磁性であり、危険を被ることなしに強磁界に耐えることができる。磁界B〜1Tを人間に対して安全に用いる代表例は、医療検査用の(核)磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)技術である。これとは対照的に、一般的な実施例において2、3ワットの電力を供給するために必要な近接場磁界は、B〜10-4Tに過ぎず、この磁界は実際に、地球の磁界の大きさと同程度である。以上で説明したように、強い近接場電界も存在せず、この無放射方式により生成される放射は最小であるので、本発明で提案するエネルギー伝達方法は生体にとって安全なはずであること考えることは理にかなっている。
【0112】
例えば、容量負荷付き導線コイルの共振系が、大部分の磁気エネルギーを、この共振系を包囲する空間内に蓄積している度合いを推定することができる。コンデンサからのフリンジ電界を無視すれば、コイルを包囲する空間内の電気及び磁気エネルギーの密度は、導線中の電流によって生成される電界及び磁界のみから生じる。なお、遠距離場では、これら2つのエネルギー密度は等しくなければならず、放射的な場については常にそうである。h=0なるサブ波長(r≪λ)電流ループ(磁気双極子)によって生成される場についての結果を用いることによって、電気エネルギー密度対磁気エネルギー密度の比率を、ループの中心からの距離p(r≪pなる制限下で)及びループ軸に対する角度θの関数として、次式のように計算することができる:
【数65】
ここで、2行目は、電気及び磁気エネルギー密度を半径pの球の表面全体にわたって積分することによる、すべての角度にわたる平均値の比率である。式(12)より、実際に、近接場(x≪1)内では、すべての角度について磁気エネルギー密度が支配的であるのに対し、遠距離場(x≫1)では、これらは等しく、またそうあるべきである。また、ループの好適な配置は、ループの共振を妨害し得る物体がループの軸の近くに存在する(θ=0)ようにし、ここで電界は存在しない。例えば、表4に記載したシステムを用いれば、式(12)より、距離p=10r=3mにあるr=30cmのループについては、平均電気エネルギー密度対平均磁気エネルギー密度の比率は〜12%であり、p=3r=90cmでは、この比率は〜1%であり、p=10r=1mにあるr=10cmのループについては、この比率は〜33%であり、p=3r=30cmでは、この比率は〜2.5%である。より近い距離では、この比率はさらに小さく、従って、近接場ではエネルギーは大部分が磁気であるのに対し、遠距離場では、これらは必然的に同じオーダーになり(比率→1)、両者は非常に小さい、というのは、容量負荷付きコイル系は放射が非常に小さいように設計されているので、場が大きく減衰するからである。従って、この比率は、この共振系のクラスを磁気共振系とするための基準である。
【0113】
コンデンサのフリンジ電界を含む容量負荷付きループの共振に対する外部物体の影響の推定値を与えるために、前述した摂動理論の式:
【数66】
を、図5のプロット中に示すもののような例の場についてのコンピュータ計算によるFEFDの結果と共に、ループ間に存在し、ほぼ一方のコンデンサ上に立つ(コンデンサから〜3cm離れた)寸法30cm×30cm×1.5m、(人間の筋肉に合わせた)誘電率ε=49+16iの物体に対して用いて、
〜105を見出し、コンデンサから10cm離れた物体については、
〜5×105を見出す。従って、通常の距離(〜1m)及び配置(コンデンサの直上ではない)については、あるいは、ずっと小さい損失タンジェントの大部分の通常の外部物体eについては、
と言うことが実際に正しいものと結論付ける。これらの共振に影響するものと想定される唯一の摂動は、大きな金属構造に近接した所である。
【0114】
自己共振コイルは容量負荷付きコイルよりずっと敏感である、というのは、前者は、電界が、空間(コイル全体)内の後者(コイルの内部だけ)よりずっと大きい領域に広がるからである。他方では、自己共振コイルは作製するのが単純であり、大部分の集中コンデンサよりずっと大きい電圧に耐えることができる。
【0115】
一般に、共振系の異なる具体例は外部摂動に対して異なる感度を有し、共振系の選定は目前の特定用途、及びこの用途にとっての感度または安全性の事柄の重要さに依存する。例えば、(無線給電の人工心臓のような)医療用埋め込み装置については、装置を包囲する組織を保護するために、電界の広がりは最大限可能な度合いに最小化しなければならない。外部物体に対する感度または安全性が重要である場合には、周囲空間内の(用途に応じた)所望の点の大部分における電界エネルギー密度対磁気エネルギー密度の比率μe/μmを低減または最小化するように、共振系を設計すべきである。
【0116】
主に磁気共振ではない共振を用いる実施例では、外部物体の影響が関心事となり得る。例えば誘電体円板については、小型、低屈折率、低い材料損失、または遠方の漂遊物体が、小さい散乱及び吸収を生じさせる。こうした小さい摂動の場合は、これらの外部損失メカニズムはそれぞれ、次の解析的な一次摂動理論式を用いて定量化することができ:
【数67】
及び
【数68】
ここに、
【数69】
は、非摂動モードの総共振電磁エネルギーである。上式からわかるように、これらの損失は共に、外部物体の所の共振電界テール
の二乗に依存する。これとは対照的に、物体1から他の共振物体2への結合速度は、前述したように次式のようになり:
【数70】
物体2の内部における物体1の場のテール
に線形依存する。こうしたスケーリングの差は、例えば指数関数的に小さい場のテールについては、少なくとも小さい摂動については、他の共振物体への結合(速度)がすべての外部損失速度よりずっと速い(κ≫Γ1-e)はずであり、従って、こうした共振誘電体円板のクラスについては、本発明のエネルギー伝達方式は頑健であるものと想定される、という確信を与える。しかし、外部物体が、上記一次摂動理論の方法を用いて解析するには強過ぎる摂動を生じさせるあり得る特定状況も調べたい。例えば、誘電体円板cを、図9aに示すように(人間hのような)大きなRe{ε}、Im{ε}かつ同じサイズであるが異なる形状の他の共振外物体、及び図9bに示すように(壁面wのような)大きく広がる粗くした表面であるが小さいRe{ε}、Im{ε}の他の共振外物体の近くに配置する。円板の中心と「人間の」中心または「壁面」との間の距離Dh/w/r=10-3についての、図9a及び9bに提示する数値的FDFDシミュレーションの結果は、円板の共振が相当頑健であるように見えることを示唆する、というのは、円板の共振は、非常に近接した高損失の物体は例外として、外部物体の存在によって悪影響されないからである。エネルギー伝達システム全体に対する大きな摂動の影響を調べるために、「人間」及び「壁面」が共に近くに存在する状況下での2つの共振円板を考える。図7を図9cと比較すれば、数値的FDFDシミュレーションは、システム性能がκ/Γc≒1〜50からκ[hw]/Γc[hw]≒0.5〜10に、即ち許容可能な量だけ劣化することを示す。
【0117】
(システム効率)
一般に、あらゆるエネルギー伝達方式にとって重要な他の要素は伝達効率である。再び、一組の外部物体eの存在下で共振する電源側sと装置側dの系を考える。この共振ベースのエネルギー伝達方式の効率は、エネルギーが装置側から排出されて、速度Γworkで作業動作に使用される際に測定することができる。装置側の場の振幅についての結合モード理論方程式は次式の通りであり:
【数71】
ここに、
【数72】
は、摂動のある装置の正味の損失速度であり、同様に、摂動のある電源に対してΓs(e)を定義する。異なる時間的スキーム(例えば、定常状態の連続波排出、周期的時刻における瞬時的排出、等)を用いて、装置側から電力を排出することができ、それらの効率は組み合わせたシステムパラメータへの異なる依存性を示す。簡単のため、電源側内部の場の振幅が一定に維持されるように定常状態を仮定し、即ちas(t)=Ase-jωtであり、従って、装置側内部の場の振幅はad(t)=Ade-jωtであり、ここにAd/As=iκ[e]/(Γd[e]+Γwork)である。従って、関係する種々の時間平均電力は次の通りである:
有用な期待電力はPwork=2Γwork|Ad|2であり、放射される(散乱を含む)電力は
【数73】
であり、電源側/装置側において吸収される電力は
【数74】
であり、そして外部物体では、
【数75】
である。エネルギー保存則より、システムに入る総時間平均電力は
Ptotal=Pwork+Prad+Ps+Pd+Pe
である。なお、通常はシステム内に存在して蓄積されたエネルギーをシステム内で循環させる無効電力は、共振時には相殺され(このことは例えば電磁気学においてポインティング理論から証明することができる)、電力平衡の計算には影響しない。従って、動作効率は次式の通りであり:
【数76】
ここに、
【数77】
は、摂動のある共振エネルギー交換システムの距離依存性の性能指数である。
【0118】
図10を参照すれば、特定の共振物体、例えばからより直接的にアクセス可能なパラメータに関して、この式(14)を再導出して表現するために、次のシステムの回路モデルを考えることができ、ここでは、インダクタンスLs、Ldがそれぞれ電源側及び装置側のループを表し、Rs、Rdがそれぞれの損失を表し、そしてCs、Cdは、周波数ωで両者が共振を達成するために必要な対応する容量を表す。電圧発生器Vgを発生器に接続し、動作(負荷)抵抗Rwを装置側に接続することを考える。相互インダクタンスをMで表す。
【0119】
そして、共振状態の(ωLs=1/ωCs)電源側回路より、次式のようになり:
【数78】
共振状態の(ωLd=1/ωCd)電源側回路より、次式のようになる:
【数79】
従って、2番目の式を最初の式に代入することによって、次式のようになる:
【数80】
ここで、実数部(時間平均電力)をとって効率を見出す:
【数81】
即ち、次式のようになり:
【数82】
この式は、Γwork=Rw/2Ld、Γd=Rd/2Ld、Γs=Rs/2Ls、かつ
【数83】
では、一般的な式(14)となる。
【0120】
式(14)より、動作−排出の比率を次式のように選定すると:
【数84】
選定した動作−排出の比率の意味での効率が最適化されていることを見出すことができる。そして、ηworkは、図11に実線で示すように、fom[e]パラメータのみの関数である。fom[e]>1については、システムの効率はηwork>17%であり、実際の応用にとって十分な大きさである。従って、上述したようにfom[e]を最適化することによって、効率を100%に向けてさらに増加させることができる。放射損失に変換される比率は他のシステムパラメータにも依存し、前に定めた範囲内のパラメータの値を有する導線ループについては、図5にプロットしている。
【0121】
例えば、表4に記載した容量負荷付きコイルの実施例を考え、結合距離D/r=7とし、「人間」である外部物体が電源側から距離Dhにあり、Pwork=10Wを負荷に供給しなければならないものとする。そして(図11に基づき)、Dh〜3cmでは、
【数85】
及び
【数86】
とし、Dh〜10cmでは、
【数87】
とする。従って、fom[h]〜2であり、よって、ηwork≒38%、Prad≒1.5W、Ps≒11W、Pd≒4W、そして最も重要なこととして、Dh〜3cmではηh≒0.4%、Ph=0.1W、及びDh〜10cmでは、ηh≒0.1%、Ph=0.02Wである。
【0122】
多くの場合には、共振物体の寸法は、目前の特定用途によって設定する。例えば、この用途がラップトップ・コンピュータまたは携帯電話に給電することである際は、装置側の共振物体は、それぞれラップトップ・コンピュータまたは携帯電話の寸法より大きい寸法を有することができない。特に、指定寸法の2ループのシステムについては、ループ半径rs,d及び導線半径as,dの意味で、システム最適化用に調整すべく残された独立パラメータは、ターン数Ns,d、周波数f、及び動作−抽出の比率(負荷抵抗)Γworkである。
【0123】
一般に、種々の実施例では、増加または最適化したい主要な従属変数は全体効率ηworkである。しかし、システム設計上では、他の重要な変数を考慮に入れる必要がある。例えば、容量負荷付きコイルを特徴とする実施例では、設計は例えば導線内部を流れる電流Is,d、及びコンデンサの端子間電圧Vs,dによって制約され得る。これらの制限は重要であり得る、というのは、〜Wの電力の応用については、これらのパラメータの値が、導線またはコンデンサのそれぞれが対処するには大き過ぎることがあるからである。さらに、装置側の総合負荷のQtot=ωLd/(Rd+Rw)は、なるべく小さくあるべき量である、というのは、電源側と装置側の共振周波数が非常に高い際に、これらの共振周波数をそれらのQ値以内に一致させることは、実験的には挑戦的であり得るし、小さな変動に対してより敏感であり得る。最後に、放射電力Prad,s,dは、こうした電力が一般に既に小さい磁気による無放射方式でも、安全性を考えて最小化すべきである。
【0124】
以下では、各独立変数の従属変数に対する影響を調べる。fom[e]のある特定値に対する動作−排出の比率を次式によって表現するために:
【数88】
新たな変数wpを定義する。そして、一部の実施例では、この比率の選定に影響する値は次の通りである:
電源側に蓄積される必要なエネルギー(従ってIs及びVs)を最小化するためには、
【数89】
(一般的なインピーダンスマッチング(整合)条件)。
効率を増加させるためには、前述したように、
【数90】
装置側に蓄積されるエネルギー(従って、Id及びVd)を減少させるか、あるいはQtot=ωLd/(Rd+Rw)=ω/[2(Γd+Γwork)]を減少または最小化するためには、
【数91】
【0125】
Ns及びNdを増加させることは、ループのインピーダンスを増加させるので、
を増加させ、従って、前述したように効率を大幅に増加させ、また電流Is及びIdを減少させ、従って、所定の出力電力Pworkにとって必要なエネルギー
【数92】
をより小さい電流で達成することができる。しかし、Ndを増加させることはQtot、Prad,d及び装置側の容量の端子間電圧Vdを増加させ、このことは不都合なことに、一般的な実施例では、最終的にシステムの最大の制限要素の1つになる。このことを説明するために留意すべきこととして、現実にコンデンサ材料の絶縁破壊を生じさせるのは電界であり(例えば空気に対しては3kV/mm)電圧ではなく、(最適に近い)所望の動作周波数に対して、増加したインダクタンスLdは要求される容量Cdの低減を暗に意味し、このことは原則的に、容量負荷付きコイルについては、装置側のコンデンサのプレートの間隔ddを増加させることによって、自己共振コイルについては、hdを増加させて隣接するターンの間隔を増加させることによって達成することができ、Ndと共に実際に減少する電界(前者の場合は≒Vd/dd)を生じさせる;しかし、現実にはddまたはhdを過大に増加させることはできない、というのは、不所望な容量のフリンジ電界が非常に大きくなり、及び/または、コイルのサイズが過大になり得るからであり、いずれの場合でも、特定用途にとっては、高電圧は望ましくない。同様の増加挙動は、Nsの増加時に、電源側のPrad,s及びVsについても観測される。結論として、ターン数Ns及びNdは、適度な電圧、フリンジ電界、及び物理的サイズを可能にするように(効率のために)できる限り大きく選定しなければならない。
【0126】
周波数に関しても、効率のために最適な周波数が存在し、この最適周波数の近くでは、Qtotは最大に近い。より低い周波数に対しては、電流はより悪く(大きく)なるが、電圧及び放射電力はより良好に(小さく)なる。通常は、最適周波数またはそれより幾分低い周波数のいずれかを採る。
【0127】
システムの動作レジームを決定する1つの方法は、図式解法に基づく。図12に、rs=25cm、rd=15cm、hs=hd=0、as=ad=3mm、及びループ間の距離D=2mの2つのループについて、上記従属変数のすべて(電流、電圧、及び出力電力の1Wに正規化した放射電力)を、wp及びNsをいくつか選定して、周波数及びNdに対してプロットする。この図は、上述したすべての依存性を表す。従属変数の等高線図も、周波数及びwpの両者の関数として作成することができるが、Ns及びNdは共に固定である。その結果を、同じループ寸法及び距離について図13に示す。例えば、上記寸法を有する2つのループのシステム用のパラメータの適度な選定は次の通りである:Ns=2、Nd=6、f=10MHz、及びwp=10;これらの値は、ηwork=20.6%、Qtot=1264、Is=7.2A、Id=1.4A、Vs=2.55kV、Vd=2.30kV、Prad,s=0.15W、Prad,d=0.006Wを与える。なお、図12及び13の結果、及びすぐ前に計算した性能特性は、以上で挙げた解析式を用いて出したものであり、従って、これらはNs、Ndの大きな値に対してはより正確でないと想定されるが、それでもスケーリング及び大きさのオーダーの良好な推定値を与える。
【0128】
最後に、これに加えて、電源側の寸法を最適化することができる、というのは、前に説明したように、通常は装置側の寸法のみが制限されるからである。即ち、rs及びasを独立変数の集合に加えることができ、問題の従属変数のすべてについて、これらの独立変数に関しても最適化することができる(効率のみのためにこのことを行う方法は、前に説明した)。こうした最適化は改善された結果をもたらす。
【0129】
(実験結果)
上述した無線エネルギー伝達方式の実施例の実験的実現は、上述した種類の2つの自己共振コイルから成り、図14に概略的に示すように、その1つ(電源側コイル)は発振回路に誘導結合され、第2のもの(装置側コイル)は抵抗負荷に誘導結合されている。図14を参照すれば、Aは半径25cmの単一銅線ループであり、駆動回路の一部をなし、周波数9.9MHzの正弦波を出力する。S及びDはそれぞれ、文字で称するところの電源側及び装置側コイルである。Bは、負荷(「電球(ライトバルブ)」)に取り付けた導線のループである。種々のκは物体間の直接結合を表す。コイルDとループAとの間の角度は、これらの直接的結合が0になると共に、コイルSとDが同軸に位置合わせされるように調整する。BとAの間、及びBとSの間の直接的結合は無視できる。
【0130】
電力伝達方式の実験検証用に構成した2つの同一の螺旋コイルのパラメータは、h=20cm、a=3cm、r=30cm、n=5.25である。両コイルとも銅製である。構成上の不完全性により、螺旋ループ間の間隔は均一ではなく、hに10%(2cm)の不確定性があるものとすることによって、これらのループの均一性についての不確定性を要約した。これらの寸法を前提として予期される共振周波数はf0=10.56±0.3MHzであり、約9.90MHz付近で測定された共振から約5%外れている。
【0131】
これらのループについての理論的Q値は、(完全な銅の抵抗率ρ=1.7×10-8Ωmを仮定すれば)〜2500であるものと推定されるが、測定値は950±50である。この相違の大部分は、銅線の表面上にある導電性の低い酸化銅の層の影響によるものと確信し、この周波数では、浅い表皮厚さ(〜20μm)によって電流がこの層に限定される。従って、その後のすべての計算では、実験的に観測したQ値(及びこれから導出したΓ1=Γ2=Γ=ω/(2Q))を用いた。
【0132】
結合係数κは、(隔離した際に、hを少し調整することによって同じ共振周波数に微調整した)2つの自己共振コイルを距離Dだけ離して配置し、2つの共振モードの周波数への分割を測定することによって見出すことができる。結合モード理論によれば、この分割は
【数93】
となるはずである。これら2つのコイルを同軸に位置合わせした際の、実験結果と理論的結果との比較を距離の関数として図15に示す。
【0133】
図16に、パラメータκ/Γの実験値と理論値の比較を、2つのコイル間の間隔の関数として示す。理論値は、理論的に得られたκと実験的に測定したΓとを用いることによって得られる。陰影を付けた領域は、Qの〜5%の不確定性による理論的なκ/Γの開きを表す。
【0134】
上述したように、理論的な最大効率は、パラメータ
【数94】
のみに依存し、図17に距離の関数としてプロットする。結合対損失比κ/Γは、D=2.4m(コイルの半径の8倍)に対しても1より大きく、従ってシステムは、調べた距離の全範囲にわたって強結合レジームである。
【0135】
電源回路は、半径25cmの単一ループの導線によって電源側コイルに誘導結合した標準的なコルピッツ発振器である。負荷は、事前に較正した電球から成り、それ自体の絶縁配線のループに取り付け、このループは装置側コイルに近接して配置し、装置側コイルに誘導結合されている。従って、電球と装置側コイルとの間の距離を変化させることによって、パラメータΓw/Γを、理論的に
で与えられるその最適値に一致するように調整した。その誘導性の性質により、電球に接続したループは小さいリアクタンス成分をΓwに加え、このリアクタンス成分はコイルを少し再調整することによって補償した。抽出される動作電力は、負荷側の電球がその最大公称光度(輝度)になるまで、コルピッツ発振器内に入る電力を調整することによって測定した。
【0136】
特に電源側コイルと負荷との間で行われる伝達の効率を分離するために、各自己共振コイルの中点における電流を電流プローブ(コイルのQ値を著しく低下させないことが判明している)で測定した。これにより、以上で定義した電流パラメータI1及びI2の測定値が与えられた。そして、各コイルにおいて消散される電力をP1,2=ΓL|I1,2|2から計算し、効率はη=Pw/(P1+P2+Pw)から直接得た。実験の設定が2物体結合モード理論モデルによって適切に記述されることを保証するために、装置側コイルを、コルピッツ発振器に取り付けた銅線ループへのこの装置側コイルの直接的結合が0になるように配置した。実験結果を、式(14)によって与えられる理論的最大効率の予測値と共に図17に示す。
【0137】
この実施例を用いれば、この設定を用いて大量の電力を伝達することができ、例えば2m以上離れた距離から60Wの電球を十分に点灯させることができた。追加的試験として、駆動回路に入る総電力も測定した。しかし、無線伝達自体の効率は、この方法では推定するのが困難である、というのは、コルピッツ発振器自体の効率が100%には程遠いと想定されても、この効率を正確に知ることができないからである。それにもかかわらず、このことは旧来のより低い効率の限界に上乗せを与える。例えば、2mの距離越しに60Wを負荷に伝達する際は、駆動回路に流入する電力は400Wであった。これにより、壁面から負荷への〜15%の総合効率となり、この距離における無線電力伝達の効率を〜40%と想定し、駆動回路の効率が低いものとすれば、この効率は妥当である。
【0138】
以上の理論的取り扱いより、一般的な実施例では、電力伝達が実用的であるためには、コイルが共振していることが重要であることがわかる。一方のコイルが共振から離調(デチューン)されると共に、負荷に伝送される電力が急峻に低下することを実験的に見出した。負荷のQ値の逆数の2、3倍のわずかな離調Δf/f0に対して、装置側コイル内の誘導電流はノイズ(雑音)と区別がつかない。
【0139】
電力伝達は、人間、及び金属製及び木製家具のような種々の日常的物体、並びに大型及び小型の電子装置を2つのコイル間に配置しても、さらに、これらが電源側と装置側との間の見通しを大きく遮っても、電力伝達は目に見えて影響されないことが判明している。外部物体は、この物体がいずれかのコイルから10cmより近くにある際にしか影響しないことが判明している。(アルミニウム箔、発泡スチレン及び人間のような)一部の材料の大部分は共振周波数を少しシフトさせたが、このシフトは原則的に、上述した種類のフィードバック回路で容易に補正することができ、他のもの(段ボール、木材、及びPVC(ポリ塩化ビニル))は、コイルから2、3cmより近くに配置した際にQを低下させ、これにより伝達の効率を低下させた。
【0140】
この電力伝達方法は人間にとって安全なはずであるものと確信する。60W(ラップトップ・コンピュータに給電するには十分過ぎる)を2m越しに伝達する際に、発生する磁界の大きさは、コイルの導線から約1cm未満を除いたすべての距離について、地球の磁界よりもずっと小さいものと推定した。これらのパラメータに対して、放射される電力は〜5Wであり、この値はおよそ、携帯電話(の電力)より高い大きさのオーダーであるが、以下に説明するように大幅に低減することができる。
【0141】
2つのコイルは現在、同一寸法であるが、装置側コイルは、効率を低下させることなしに携帯装置内に収まるように十分小さくすることができる。例えば、電源側コイルと装置側コイルとの特徴的サイズの積を一定に維持することができる。
【0142】
これらの実験は、中距離範囲越しの電力伝達用のシステムを実験的に実証し、独立して互いに矛盾しない複数回の試験において、実験結果が理論と良く一致することを見出した。
【0143】
この方式の効率及びカバーした距離は、コイルを銀メッキすることによって(このことはコイルのQ値を増加させるはずである)、あるいは共振物体のより巧妙な幾何学的形状を用いることによって相当改善されるものと確信する。それにもかかわらず、本明細書に提示したシステムの性能特性は既に、実際の応用において有用であり得るレベルにある。
【0144】
結論として、無放射の無線エネルギー伝達のための共振ベースの方式の、いくつかの実施例を説明した。以上の考察は静的な幾何学的形状(即ち、κ及びΓは時間と独立である)について行ったが、すべての結果は移動物体の動的な幾何学的形状に直接適用することができる、というのは、エネルギー伝達時間κ-1(マイクロ波の応用については≒1μs〜1ms)は、肉眼で見える物体の動きに関連するタイムスケール(時間尺度)よりずっと短いからである。非常に単純な実現の幾何学的形状の分析は有望な性能特性を与え、設計の真剣な最適化により、さらなる改善が期待される。従って、提案するメカニズムは、現代の多くの応用にとって有望である。
【0145】
例えば、肉眼で見える世界では、この方式は潜在的に、電力を例えば工場内のロボット及び/またはコンピュータ、あるいは幹線道路上の電気バスに電力を供給するために用いることができる。一部の実施例では、電源側−物体を、幹線道路上に、または天井に沿って延びる細長い「管(パイプ)」とすることができる。
【0146】
無線伝達方式の一部の実施例は、無線または他の技術を用いて到達することが困難または不可能である装置に給電または装置を充電すべく、エネルギーを供給することができる。例えば、一部の実施例は、埋め込み医療装置(例えば人工心臓、ペースメーカー、薬剤供給ポンプ、等)または地中埋め込みセンサに電力を供給することができる。
【0147】
ミクロの世界では、ずっと小さい波長が使用されずっと小さい電力を必要とし、この無線伝達方式を用いて、電源側と装置側との相対的位置合わせについて過度に心配することなしに、CMOS電子部品の光学的相互接続を実現するか、あるいは、自立型ナノ物体(例えばMEMSまたはナノロボット)にエネルギーを伝達することができる。さらに、適用性の範囲を音響システムに広げることができ、ここでは電源側と装置側を一般的な凝縮物質の物体を介して接続する。
【0148】
一部の実施例では、上述した技術が、共振物体の局在的近接場を用いた情報の無放射の無線伝達を提供することができる。こうした方式は、情報が遠距離場に放射されないので、向上した安全性を提供し、そして高度に機密の情報の中距離範囲の通信に非常に適している。
【0149】
本発明の多数の実施例を説明してきた。それでも、本発明の範囲を逸脱することなしに種々の変更を加えることができることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
(関連出願へのクロスリファレンス)
この仮出願は、米国特許出願第60/908383号、2007年3月27日出願、米国特許出願第11/481077号、2006年7月7日出願、及び米国特許仮出願第60/698442号、2005年7月12日出願に関連する。米国特許出願第11/481077号、2006年7月7日出願、及び米国特許仮出願第60/698442号、2005年7月12日出願の各々は、その全文を参考文献として本明細書に含める。
【0002】
本発明は、無線エネルギー伝達に関するものである。無線エネルギー伝達は例えば、自立型電気装置または電子装置に電力を供給するような用途において有用であり得る。
【背景技術】
【0003】
(情報伝達用に非常に良好に動作する)全方向アンテナの放射モードは、エネルギーの大部分が自由空間内で浪費されるので、こうしたエネルギー伝達には適していない。レーザーまたは高指向性アンテナを用いた指向性のある放射モードは、長距離(伝送距離LTRANS≫LDEV、ここにLDEVは装置及び/またはエネルギー源の特徴的な大きさ)に対しても効率的に用いることができるが、無障害の見通し線の存在、及び移動体の場合は複雑な追跡(トラッキング)システムを必要とする。一部の伝達方式は誘導に頼るが、一般に非常に近距離(LTRANS≪LDEV)または低電力(〜mW)エネルギーの伝達に限定される。
【0004】
近年の自立型電子機器(例えばラップトップ・コンピュータ、携帯電話、家庭用ロボット、これらのすべてが一般に化学エネルギー蓄電に頼る)の急速な発達は、無線エネルギー伝達の必要性の増加をもたらしてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haus, H. A., “Waves and Fields in Optoelectronics”, Prentice-Hall, New Jersy, 1984
【非特許文献2】S. Sensiper, “Electromagnetic wave propagation on helical conductors”, PhD Thesis, Massachusetts Institute of Technology
【非特許文献3】Balanis, C. A., “Antenna Theory: Analysis and Design” (Wiley, New Jersey, 2005)
【非特許文献4】Jackson, J. D., “Classical Electrodynamics” (Wiley, New York, 1999)
【発明の概要】
【0006】
発明者は、局在的エバネセント場を持つ結合共振モードを有する共振物体を、無放射のエネルギー伝達に用いることができることを認識した。共振物体は、他の共振外環境の物体とは弱く相互作用しつつ結合しやすい。一般に、以下に説明する技術を用いれば、結合が増加すると共に伝達効率も増加する。以下の技術を用いた一部の好適例では、エネルギー伝達速度をエネルギー損失速度より大きくすることができる。従って、他の共振外物体内へのエネルギーの伝達及び消失を少量だけ受忍しつつ、効率的な無線エネルギー交換を共振物体間で達成することができる。近接場のほぼ全方向であるが定常的な(無損失の)性質が、このメカニズムを携帯無線受信機に適したものにする。従って、種々の好適例は、例えば、装置(ロボット、車両、コンピュータ、または同様のもの)が建屋内を自由に動き回りながら、エネルギー源(例えば有線配電網に接続されたもの)を工場建屋の天井に配置することを含む、多様の可能な用途を有する。他の用途は、電気エンジンのバス及び/またはハイブリッドカー、及び医療用埋め込み型装置である。
【0007】
一部の好適例では、共振モードがいわゆる磁気共鳴であり、これについては、共振物体を包囲するエネルギーの大部分が磁界中に蓄積され、即ち、共振物体外にはごくわずかな電界しか存在しない。大部分の日常的材質(動物、植物及び人間を含む)は非磁性であり、それらと磁界との相互作用は最小限である。このことは、安全性にとって、及び無関係な環境物体との相互作用を低減するためにも、共に重要である。
【0008】
1つの態様では、無線エネルギー伝達用の装置を開示し、この装置は第1共振構造を含み、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。一部の好適例では、Dはまた、次の1つ以上より大きい:第1共振構造の特徴的サイズL1、第1共振構造の特徴的な幅、及び第1共振構造の特徴的厚さ。この装置は、次の特徴のいずれかを単独で、あるいは組み合わせて含むことができる。
【0009】
一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造にエネルギーを伝達するように構成されている。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造からエネルギーを受けるように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。
【0010】
一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。
【0011】
一部の好適例では、Q1>100かつQ2>100、Q1>200かつQ2>200、Q1>500かつQ2>500、Q1>1000かつQ2>1000である。一部の好適例では、Q1>200またはQ2>200、Q1>500またはQ2>500、Q1>1000またはQ2>1000である。
【0012】
一部の好適例では、結合対損失比が
【数1】
または
【数2】
である。
【0013】
一部の好適例では、D/L2を2、3、5、7、10にすることができる
【0014】
一部の好適例では、Q1>1000、Q2>1000、かつ結合対損失比が
【数3】
である。
【0015】
一部の好適例では、Q1>1000、Q2>1000、かつ結合対損失比が
【数4】
である。
【0016】
一部の好適例では、Q1>1000、Q2>1000、かつ結合対損失比が
【数5】
である。
【0017】
一部の好適例では、エネルギー伝達が、約1%より大きい効率ηw、約10%より大きい効率ηw、約20%より大きい効率ηw、約30%より大きい効率ηw、または約80%より大きい効率ηwで動作する。
【0018】
一部の好適例では、エネルギー伝達が、約10%未満の放射損失ηradで動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数6】
である。
【0019】
一部の好適例では、エネルギー伝達が、約1%未満の放射損失ηradで動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数7】
である。
【0020】
一部の好適例では、いずれかの共振物体の表面から3cm以上の距離に人間が存在すると、エネルギー伝達は、人間への伝達による約1%未満の損失ηradで動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数8】
である。
【0021】
一部の好適例では、いずれかの共振物体の表面から10cm以上の距離に人間が存在すると、エネルギー伝達は、人間に至る約0.2%未満の損失ηradを伴って動作する。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数9】
である。
【0022】
一部の好適例では、動作中に第1または第2共振構造に結合した電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、上記装置がさらに、この電源を含む。一部の好適例では、fはおよそ最適効率の周波数である。
【0023】
一部の好適例では、fが約50GHz以下、約1GHz以下、約100MHz以下、約10MHz以下である。一部の好適例では、fが約1MHz以下、約100kHz以下、または約10kHz以下である。一部の好適例では、fが約50GHz以上、約1GHz以上、約100MHz以上、約10MHz以上、約1MHz以上、約100kHz以上、または約10kHz以上である。
【0024】
一部の好適例では、動作中に、上記共振構造の一方が他方の共振構造から使用可能な電力Pwを受ける。一部の好適例では、Pwは約0.01ワット以上、約0.1ワット以上、約1ワット以上、または約10ワット以上である。
【0025】
一部の好適例では、Qκ=ω/2κが約50未満、約200未満、約500未満、または約1000未満である。
【0026】
一部の好適例では、D/L2が3、5、7または10である。
【0027】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の1つが容量負荷付き導線コイルを含む。一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、容量負荷付き導線コイルを含む。こうした一部の好適例では、動作中に、共振構造の一方が、使用可能な電力Pwを他方の共振構造から受け、電流Isが、他方の共振構造にエネルギーを伝送中の共振構造内を流れ、比率
は約5
未満、または約2
未満である。一部の好適例では、動作中に、上記共振構造の一方が、使用可能な電力Pwを他方の共振構造から受け、電圧差Vsが第1共振構造の容量負荷の端子間に現れ、比率
は約2000
未満、または約4000
未満である。
【0028】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、容量負荷付き導線コイルを含み、Q1>200かつQ2>200である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約1cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約1mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。こうした一部の好適例では、fが約380MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数10】
または
【数11】
である。
【0029】
一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約10cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約43MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数12】
または
【数13】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約30cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約9MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数14】
または
【数15】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約30cm未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約9MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数16】
または
【数17】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約1m未満であり、この共振構造の導線コイルの幅が約2mm未満であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源が、この共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約5MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数18】
である。こうした一部の好適例では、D/L2が約3、約5、約7または約10である。
【0030】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の一方または両方は誘電体円板(ディスク)を含む。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズが上記LRであり、この共振構造の誘電率の実数部εが約150未満である。こうした一部の好適例では、結合対損失比が
【数19】
である。一部の好適例では、他方の共振構造からエネルギーを受ける共振構造の特徴的サイズLRが約1m未満であり、この共振構造の誘電率の実数部εが約70未満である。一部の好適例では、結合対損失比が
【数20】
または
【数21】
である。一部の好適例では、この共振構造の誘電率の実数部εが約65未満である。
【0031】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の一方が自己共振導線コイルを含む。一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、自己共振導線コイルを含む。
【0032】
一部の好適例では、これらの自己共振導線コイルの1つ以上が、長さl及び断面半径aの導線を含み、この導線が、断面半径r、高さh、及びターン(巻)数Nの螺旋コイルの形に巻かれている。一部の好適例では、
【数22】
である。
【0033】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造が共に、自己共振導線コイルを含み、Q1>200かつQ2>200である。
【0034】
一部の好適例では、共振構造毎に、rが約30cm、hが約20cm、aが約3mm、及びNが約5.25であり、動作中に、第1または第2共振構造に結合された電源がこの共振構造を周波数fで駆動する。一部の好適例では、fが約10.6MHzである。一部の好適例では、結合対損失比が
【数23】
または
【数24】
または
【数25】
である。一部の好適例では、D/LRが2、3、5、または8である。
【0035】
一部の好適例では、上記装置がさらに、第2共振構造に電気結合された電気または電子装置を含み、この電気または電子装置は第2共振構造からエネルギーを受ける。一部の好適例では、この電気または電子装置は、ロボット(例えば通常のロボットまたはナノロボット)、携帯(モバイル)電子装置(例えば電話機、またはコンピュータ、あるいはラップトップ・コンピュータ)を含む。一部の好適例では、この電気または電子装置が、患者の体内に埋め込むように構成された医療装置(例えば人工臓器、または薬剤を送り届けるように構成されたインプラント)を含む。
【0036】
一部の好適例では、第1及び第2共振構造の少なくとも一方が:誘電体円板、誘電物体、金属物体、金属誘電物質、プラズモン物質、容量負荷付き導線コイル、自己共振導線コイルの少なくとも1つを含む。
【0037】
一部の好適例では、上記共鳴場が電磁場である。一部の好適例では、上記共鳴場が音場である。一部の好適例では、上記共鳴場の1つ以上が、上記共振構造の一方のウィスパリング・ギャラリーモードを含む。
【0038】
一部の好適例では、上記共鳴場が、共振物体外の領域内で主として磁界である。一部の好適例では、最寄りの共振物体からの距離pにおける、平均電界エネルギーの平均磁界エネルギーに対する比率が0.01未満、または0.1未満である。一部の好適例では、Lcを最寄の共振物体の特徴的サイズとすれば、p/Lcが1.5、3、5、7、または10未満である。
【0039】
一部の好適例では、上記共振構造が、約5000より大きいQ値、または約10000より大きいQ値を有する。
【0040】
一部の好適例では、上記共振構造の少なくとも一方が約10000より大きいQ値を有する。
【0041】
一部の好適例では、上記装置が第3共振構造も含み、この第3共振構造は、第1及び第2共振構造のうち1つ以上との間で、無放射でエネルギーを伝達するように構成され、第3共振構造と、第1及び第2共振構造のうち1つ以上との間の無放射のエネルギー伝達には、第1及び第2共振構造のうち1つ以上の共鳴場エバネセント・テールと第3共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【0042】
一部の好適例では、第3共振構造が、第1及び第2共振構造のうち1つ以上にエネルギーを伝達するように構成されている。
【0043】
一部の好適例では、第3共振構造が、第1及び第2共振構造のうち1つ以上からエネルギーを受けるように構成されている。
【0044】
一部の好適例では、第3共振構造が、第1及び第2共振構造の一方からエネルギーを受け、第1及び第2共振構造の他方にエネルギーを伝達するように構成されている。
【0045】
他の態様では、無線エネルギー伝達の方法を開示し、この方法は、第1共振構造を用意するステップと、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するステップとを含む。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【0046】
一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数26】
である。
【0047】
他の態様では、第1共振構造を含む装置を開示し、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的な幅W1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造にエネルギーを伝達するように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数27】
である。
【0048】
他の態様では無線情報伝達用の装置を開示し、この装置は第1共振構造を含み、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。
【0049】
一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造にエネルギーを伝達するように構成されている。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造からエネルギーを受けるように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数28】
である。
【0050】
他の態様では無線情報伝達用の装置を開示し、この装置は第1共振構造を含み、この第1共振構造は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第1共振構造の特徴的厚さT1より大きく、かつ第2共振構造の特徴的サイズL2より大きい距離D越しに伝達するように構成されている。この無放射のエネルギー伝達には、第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在する。一部の好適例では、第1共振構造が第2共振構造からエネルギーを受けるように構成されている。一部の好適例では、この装置が第2共振構造を含む。一部の好適例では、第1共振構造が共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、第2共振構造が共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、上記無放射伝達が伝達速度κを有する。一部の好適例では、周波数ω1及びω2がおよそ、共振幅Γ1及びΓ2のうち狭い方の中にある。一部の好適例では、結合対損失比が
【数29】
である。
【0051】
一部の好適例は、動作中に上記共振構造の1つ以上の共振周波数を維持するメカニズムを含む。一部の好適例では、このフォードバック・メカニズムが、固定周波数を有する発振器(オシレータ)を具え、上記共振構造の1つ以上の共振周波数を、この固定周波数におよそ等しい値に調整するように構成されている。一部の好適例では、このフィードバック・メカニズムが、エネルギー伝達の効率を監視し、この効率を最大化すべく上記共振構造の1つ以上の共振周波数を調整するように構成されている。
【0052】
なお、ある物体の特徴的サイズは、この物体全体をちょうど合う大きさで取り囲む球の半径に等しい。ある物体の特徴的な幅は、この物体が直線的に進みながら当該円内を通過することのできる最小限可能な円の半径である。例えば、円柱形の物体の特徴的な幅は、この円柱の半径である。ある物体の特徴的厚さは、平面上に任意の(あらゆる)置き方で配置した際に、この物体の最高点がこの平面を上回る最小限可能な高さである。
【0053】
2つの共振物体間で距離D越しにエネルギー伝達が生じる距離Dは、各物体の全体をちょうど合う大きさで取り囲む最小球のそれぞれの中心間の距離である。しかし、人間と共振物体との間の距離を考える際は、この距離は人間の外面からこの球の外面までを測ることになる。
【0054】
以下で詳細に説明するように、無放射のエネルギー伝達とは、第1には局在的近接場を通して行われ、そして高々、第2には、この近接場の放射部分を通して行われるエネルギー伝達を称する。
【0055】
なお、共振物体のエバネセント・テールは、この物体の所に局在する共鳴場の徐々に減衰する無放射部分である。この減衰は、例えば指数関数的減衰またはべき乗則(指数法則)の減衰を含む任意の関数形をとる。
【0056】
無線エネルギー伝達システムの最適効率の周波数は、他のすべての要素を一定に保持した上で、性能指数(示性数、フィギュア・オブ・メリット)
が最大になる周波数である。
【0057】
共振幅(Γ)とは、ある物体の固有損失(例えば吸収、放射、等に至る損失)によるこの物体の共振の幅を称する。
【0058】
なお、Q値は、振動系の振幅の減衰時定数を、その振動周期と比較した係数である。周波数ω及び共振幅Γを有する所定の共振器については、Q値Q=ω/2Γである。
【0059】
なお、Qκ=ω/2κである。
【0060】
無放射のエネルギー伝達速度κは、1つの共振器から他の共振器へのエネルギー伝達の速度を称する。以下に記載する結合モードの説明では、κは共振器間の結合定数である。
【0061】
特に断りのない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。参考文献として本明細書に含めると称した刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献と意味が対立する場合は、定義を含めた本明細書の記載が(意味を)支配する。
【0062】
種々の好適例は上記特徴のいずれかを単独で、あるいは組み合わせて含むことができる。
【0063】
本発明の他の特徴、目的、及び利点は、以下の詳細な説明より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】無線エネルギー伝達方式の概略図である。
【図2】自己共振導線コイルの例を示す図である。
【図3】2つの自己共振導線コイルを特徴とする無線エネルギー伝達方式を示す図である。
【図4】容量負荷付き導線コイルの例を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図5】2つの容量負荷付き導線コイルを特徴とする無線エネルギー伝達方式を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図6】共振誘電体円板の例を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図7】2つの共振誘電体円板を特徴とする無線エネルギー伝達方式を示し、その周辺磁界を例示する図である。
【図8a】周波数制御メカニズムの概略図である。
【図8b】周波数制御メカニズムの概略図である。
【図9a】種々の無関係な物体が存在する無線エネルギー伝達方式を例示する図である。
【図9b】種々の無関係な物体が存在する無線エネルギー伝達方式を例示する図である。
【図9c】種々の無関係な物体が存在する無線エネルギー伝達方式を例示する図である。
【図10】無線エネルギー伝達に対する回路モデルを例示する図である。
【図11】無線エネルギー伝達方式の効率を例示する図である。
【図12】無線エネルギー伝達方式のパラメータ依存性を例示する図である。
【図13】無線エネルギー伝達方式のパラメータ依存性をプロットした図である。
【図14】無線エネルギー伝達を実証する実験システムの概略図である。
【図15】図14に概略的に示すシステムについての実験結果をプロットした図である。
【図16】図14に概略的に示すシステムについての実験結果をプロットした図である。
【図17】図14に概略的に示すシステムについての実験結果をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1に、本発明の一実施例を概略的に記載した概略図を示し、この実施例では、2つの共振物体間でエネルギーが無線で伝達される。
【0066】
図1を参照すれば、特徴的サイズL1を有する共振性の電源側(ソース)物体と、特徴的サイズL2の共振性の装置側物体との間でエネルギーが伝達される。両物体は共に共振物体である。電源側物体は電源(図示せず)に接続され、装置側物体は電力消費装置(例えば負荷抵抗、図示せず)に接続されている。エネルギーは電源から電源側物体に供給され、電源側物体から装置側物体に無線で、無放射で伝達される。無線での無放射のエネルギー伝達は、2つの共振物体の系の場(電磁場または音場)を用いて実行される。簡単のため、以下では、この場が電磁場であるものと仮定する。
【0067】
なお、図1の実施例、及び以下の例の多くは2つの共振物体を示しているが、他の実施例は3つ以上の共振物体を特徴とすることができる。例えば、一部の実施例では、単一の電源側物体が複数の装置側物体にエネルギーを伝達することができる。一部の実施例では、エネルギーを第1装置から第2装置に伝達し、そして第2装置から第3装置に伝達し、等とすることができる。
【0068】
最初に、無照射の無線エネルギー伝達を理解するための理論的枠組みを提示する。しかし、本発明の範囲は理論によって束縛されない。
【0069】
(結合モード理論)
2つの共振物体1と2の間の共振エネルギー交換をモデル化するための適切な解析的枠組みは、「結合モード理論」(CMT:coupled-mode theory)の枠組みである。(例えば非特許文献1(Haus, H. A., “Waves and Fields in Optoelectronics”, Prentice-Hall, New Jersy, 1984)参照。)2つの共振物体1と2の系の場は
【数30】
によって近似され、ここに
は物体1及び2単独の固有モードを単位エネルギーに正規化した値であり、場の振幅a1,2(t)は、|a1,2(t)|2が、物体1及び2のそれぞれの内部に蓄積されたエネルギーに等しくなるように定義される。従って、場の振幅は、最低次については次式を満足するように示され:
【数31】
ここに、ω1,2は、固有モードの個々の固有周波数であり、Γ1,2は、物体の固有(吸収、放射、等の)損失による共振幅であり、κは結合係数である。式(1)は、正確な共振(ω1=ω2かつΓ1=Γ2)では、結合系の固有モードが2κ分の1に分割され、2つの物体間のエネルギー交換は時間π/κで行われ、損失は別としてほぼ完全であり、この損失は、結合速度がすべての損失速度よりずっと速い(κ≫Γ1,2)際に最小である。結合対損失比が
は、この比を達成することのできる距離と共に、無線エネルギー伝達用に用いる評価システムにおける性能指数として機能する。レジーム(変化の型)
を、「強結合」レジームと称する。
【0070】
一部の好適例では、エネルギー伝達の応用が、遅い固有損失速度Γに対応する高いQ値Q=ω/2Γの共振モードを用いることが好ましい。この条件は、有損失の放射的遠距離(非近接)場ではなくエバネセント(無損失)の定常近接場を用いて結合を実現すれば満足される。
【0071】
エネルギー伝達方式を実現するために、通常は有限の物体、即ち周り中を空気で包囲されたトポロジー(接続関係)の物体がより適切である。不都合なことに、有限の大きさの物体は、空気中の全方向に指数関数的に減衰する電磁的状態をサポートすることができない、というのは、自由空間内のマクスウェルの方程式より:
【数32】
であるからであり、ここに
は波動ベクトルであり、ωは周波数であり、cは光の速度である。このことにより、無限大のQ値の状態をサポートすることができないことを示すことができる。しかし、非常に長寿命(いわゆる「高いQ」)の状態は見出すことができ、そのテールは、振動的(放射的)になる前に、共振物体から十分な距離だけ離れた所で必要な指数関数的または指数関数状の減衰を表す。こうした場の変化の挙動が発生する限界面を「放射コースティック」と称し、無線エネルギー伝達方式が遠距離場/放射場ではなく近接場に基づくためには、結合物体間の距離は、一方(の物体)が他方(の物体)の放射コースティック内にあるようにしなければならない。
【0072】
さらに、一部の実施例では、これらの物体の特徴的サイズより大きい(物体間の)距離では、強い(即ち速い)結合速度κに対応する小さいQ値Qκ=ω/2κが好ましい。従って、有限サイズの共振物体を包囲する領域内への近接場の大きさは一般に、波長によって設定され、一部の実施例では、こうした中距離範囲の無放射結合は、サブ波長(波長以下の)サイズの共振物体を用いて達成することができ、従って、エバネセント場のテールよりずっと長い。後の例に見られるように、こうしたサブ波長の共振は高いQ値を伴うことが多く、従って、このことは、携帯型(モバイル)であり得る共振する装置側物体にとって適切な選択である。しかし、一部の実施例では、共振する電源側物体は不動であり、従ってその許容された幾何学的形状及びサイズにより限定されにくく、従って、この幾何学的形状及びサイズは、近接場の大きさが波長によって制限されないくらい十分大きく選定することができる。誘電体導波管のようなほぼ無限の大きさの物体は、そのエバネセント・テールが物体から離れる向きに指数関数的に、カットオフ近くに調整された場合は徐々に減衰するガイドモードをサポートすることができ、そしてほぼ無限大のQ値を有することができる。
【0073】
以下では、上述した種類のエネルギー伝達に適したシステムのいくつかの例を説明する。上述したCMTパラメータω1,2、Q1,2及びQκを計算する方法、及びこれらのパラメータを特定実施例用に選択して所望の性能指数
【数33】
を生成する方法を例示する。これに加えて、以下に説明するように、Q1,2は時として、固有損失メカニズムではなく外部の摂動により制限される。これらの場合は、所望の性能指数を生成することがQκを低減すること(即ち、結合を増加させること)に変わる。従って、特定実施例についてQκを低減する方法を例示する。
【0074】
(自己共振導線コイル)
一部の実施例では、共振物体の1つ以上が自己共振導線ループである。図2を参照すれば、長さl、断面半径aの導線が、空気に囲まれた半径r及び高さhの(即ち、巻数
【数34】
を有する)螺旋コイルの形に巻かれている。以下に説明するように、この導線は分布インダクタンス及び分布容量(キャパシタンス)を有し、従って、周波数ωの共振モードをサポートする。知る限りでは、有限螺旋の場についての文字通りの厳密解は存在せず、無限長コイルの場合でも、この解は、実際のシステムにとって不適切な仮定に頼る。(非特許文献2(S. Sensiper, “Electromagnetic wave propagation on helical conductors”, PhD Thesis, Massachusetts Institute of Technology)参照。)
【0075】
共振の性質は、コイルの容量全体にわたる電荷分布
、自由空間内の磁界、及び導線中の電流分布
による、コイルの容量内の電界からのエネルギーの周期的交換にある。特に、電荷保存の方程式∇・j=iωρは、次のことを暗に意味する:(i) この周期的交換は、電流プロファイルと電荷密度プロファイルとの間にπ/2の位相シフトを伴い、即ち、コイルに含まれるエネルギーUは、特定時点では完全に電流により、他の時点では完全に電荷による;(ii) I(x)が導線中の直線電流密度であり、xが導線に沿って変化する値であれば、I0=max{|I(x)|}が直線電流分布の正の最大値であり、
【数35】
が、コイルの一方の側に蓄積した正電荷の最大量であり(他方の側にも、等量の負電荷が常に蓄積して、系を中性にする)、従ってI0=ωq0である。従って、コイルの実効総インダクタンスL及び実効総容量Cは、その共振モード中の次式のエネルギーの量U:
【数36】
によって定義することができ、ここにμ0及びε0はそれぞれ、自由空間の透磁率及び誘電率である。これらの定義により、共振周波数及び実効インピーダンスはそれぞれ、次の一般式:
【数37】
及び
【数38】
によって与えられる。
【0076】
この共振系内の損失は、導線内部の抵抗(材料吸収)損、及び自由空間内への放射損失である。ここでも、総吸収抵抗Rabs及び総放射抵抗Rradを、それぞれ吸収または放射される電力の量から、次式のように定義することができ:
【数39】
ここに、
【数40】
かつ
【数41】
はそれぞれ、自由空間内の光速及び光インピーダンスであり、インピーダンスζcは
【数42】
であり、ここにσは導線の導電率であり、δは周波数ωにおける表皮厚さであり、そして
【数43】
である。放射抵抗の式(5)については、準静的のレジーム(r≪λ=2πc/ω)における演算の仮定を用い、この仮定は、サブ波長共振の望ましいレジームであり、その結果は整数Nのみに当てはまる。これらの定義により、共振の吸収及び放射のQ値はそれぞれ、Qabs=ωL/Rabs及びQrad=ωL/Rradによって与えられる。
【0077】
式(2)〜(5)より、共振パラメータを決定するためには、単に共振コイル内の電流分布
を知るだけでよい、ということになる。マクスウェルの方程式を解いて、導線コイルの共振の電磁的固有モードの電流分布を厳密に見出すことは、例えば標準的なLC回路よりも複雑であり、有限長のコイルについては文字通りの厳密解を見つけることはできず、厳密解を困難にする。原則的に、精巧な伝送線状のモデルを書き下して、力ずくで解くことはできる。その代わりに、(以下に説明するように)実験と良好に一致する(〜5%)モデルを提示する。各コイルを形成する導線の有限の長さが、導線から出る電流がないのでコイルの端では電流が0でなければならないという境界条件を課すことを考え、各コイルの共振モードは、導線の長さ方向に沿った正弦波電流プロファイルによって良好に近似されるものと仮定する。最低のモードに関心を持つべきであり、従って、導線に沿った座標軸をxで表し、xが−l/2から+l/2まで変化するものとすれば、電流振幅プロファイルはI(x)=I0cos(πx/l)の形を有し、ここで特定のxについては、電流は導線の円周に沿って大幅に変化しないものと仮定しており、a≪rとすれば、この仮定は有効である。電荷についての連続方程式から直ちに、線形の電荷密度プロファイルはρ(x)=ρ0sin(πx/l)の形を有することになり、従って、
【数44】
である。これらの正弦波プロファイルを用いて、式(2)及び(3)の積分を数値的に計算することによって、コイルのいわゆる「自己インダクタンス」Ls及び「自己容量」Csを見出し、関連する周波数及び実効インピーダンスはそれぞれωs及びZsである。「自己抵抗」Rsは式(4)及び(5)によって、及び
【数45】
を用いて解析的に与えられ、従って、関連するQ値Qsを計算することができる。
【0078】
λs/r≧70のサブ波長モデル(即ち、近接場の計算に非常に適し、十分、準静的な限界内にあるモデル)を有する共振コイルの2つの特定具体例を表1に示す。波長及び吸収、放射及び全損失速度についての数値計算結果を、サブ波長コイル共振モードの2つの異なる場合について示す。なお、導線の材料には銅(σ=5.998×107S/m)を用いた。マイクロ波周波数において想定されるQ値は、
【数46】
及び
【数47】
であることがわかる。
【0079】
【表1】
【0080】
図3を参照すれば、一部の実施例では、2つの自己共振導線コイル間でエネルギーを伝達する。磁界を用いて異なる共振導線コイルを、これらの中心間の距離Dで結合する。通常は、磁気結合のための電気結合の制限は、考慮中の系ではh<rなるコイルについて達成することができる。そして、2つのコイル1、2の電流分布、ピーク電流、及びインダクタンスを、それぞれ
、I1,2及びL1,2と定義すれば、これらは単一コイルの場合についての
、I0及びLと同様であり、従って明確に定義され、コイル1、2の相互インダクタンスは、総エネルギー(U)によって次式のように定義することができる:
【数48】
ここで、各コイルが他方の近接場内にある、関心事である準静的レジームD≪λでは、積分中の遅延係数〜exp(iωD/c)は無視した。この定義により、そして電気結合が存在しないものとすれば、結合係数は次式によって与えられる:
【数49】
【0081】
従って、2つの自己共振コイル間の結合速度を計算するためには、ここでも電流プロファイルを必要とし、ここでも仮定した正弦波電流プロファイルを用いることによって、(6)式から、2つの自己共振コイル間の相互インダクタンスMsを、これらの中心間の距離Dにおいて数値的に計算し、こうしてQκ,sも決定される。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に、同一の自己共振コイルの対を特徴とする好適な実施例についての関係パラメータを示す。2つの通常モードの平均波長及び損失速度(個別の値は示さず)について数値結果を提示し、そして、表1に提示するモードの2つの場合にについて、結合速度及び性能指数も、結合距離Dの関数として示す。中程度の距離D/r=10〜3について想定される結合対損失比はκ/Γ≒2〜70であることがわかる。
【0084】
一部の実施例では、共振物体の1つ以上が容量負荷付きの導線コイルである。図4を参照すれば、上述したNターンの導線を有する螺旋コイルが、面積Aの一対の平行導体板に接続され、これらの導体板は、相対誘電率εの誘電体によって距離dだけ離間され、すべてのものが空気によって包囲されている(図に示すようにN=1かつh=0である)。これらの平板は容量Cp=ε0εA/dを有し、この容量がコイルの分布容量に加わり、従ってその共振を変化させる。しかし、負荷容量の存在が、導線内部の電流分布を大幅に変化させ、従って、コイルの総実効インダクタンスL及び総実効容量Cはそれぞれ、Ls及びCsとは異なり、これらの値は同じ幾何学的形状の自己共振コイルについては、正弦波電流プロファイルを用いて計算される。いくらかの電荷が、外部負荷コンデンサのプレート(極板)に蓄積されるので、導線内部の電荷分布ρが低減され、従ってC<Csとなり、従って、電荷保存方程式より電流分布jが平坦化され、従ってL>Lsとなる。この系についての共振周波数は
【数50】
であり、Cp→0になると共に、
【数51】
となる。
【0085】
一般に、この系については望ましいCMTパラメータを見つけることができるが、ここでも、マクスウェルの方程式の非常に複雑な解を必要とする。その代わりに、電流分布についての適度な推量を行うことのできる特別な場合のみを解析する。Cp≫Cs>Cである際は、
【数52】
かつ
【数53】
であり、すべての電荷が負荷コンデンサのプレート上にあり、従って電流分布は導線に沿って一定である。このことは、ここでLを式(2)より数値的に計算することを可能にする。h=0でありNが整数である場合は、式(2)中の積分は実際に解析的に計算することができ、式L=μ0r[ln(8r/a)−2]N2を与える。ここでも、Irms=I0であるので、Rについては式(4)及び(5)より明示的解析式が利用可能であり、従ってQも決定することができる。この計算の終わりに、定電流プロファイルの仮定の有効性を、条件:
【数54】
を実際に満足していることをチェックすることによって確認する。しかし、この条件を満足するために、大きな外部容量を用いることができ、このことは通常、動作周波数を、簡単に決定される最適周波数より下にシフトさせ、その代わりに、一般的な実施例では、考慮中の種類のコイルについては、非常に小さい自己容量Csから始めることを選ぶことが多く、このため、N=1である際は、自己容量は単一ターン上の電荷分布から生じ、この自己容量はほとんど常に非常に小さく、あるいはN>1かつh≫2Naである際は、支配的な自己容量は隣接するターン上の電荷分布から生じ、この自己容量は、隣接するターン間の間隔が大きければ小さい。
【0086】
外部負荷容量Cpは、(例えばAまたはdを調整することによって)共振周波数を調整する自由度を与える。従って、特別で単純な場合h=0については、解析式があり、総Q値Q=ωL/(Rabs+Rrad)は次式の最適周波数で最大になり:
【数55】
次式の値に達する:
【数56】
【0087】
より低い周波数では、この値は抵抗損失によって支配され、最高周波数では放射によって支配される。しかし、これらの式はω*≪ωsである限り正確であり、そして以上で説明したように、このことはN=1である際はほとんど常に成り立ち、N>1である際はより不正確になる、というのは、h=0は通常、大きな自己容量を暗に意味するからである。自己容量を外部容量に比べて低減する必要がある場合は、大きなhを有するコイルを用いることができるが、ここでもL及びω*、Q*についての式がより不正確になる。同様の定性的挙動が想定されるが、この場合に定量的予測を行うためには、より複雑な理論モデルを必要とする。
【0088】
N=1かつh=0なるコイルの、式(7)の最適周波数における、λ/r≧70なるサブ波長モード(即ち、近接場結合に非常に適し、かつ十分、準静的の限界内である)の2つの具体例についての上記解析の結果を表3に提示する。定電流の仮定、及び結果的な解析式の有効性を確認するために、他の完全に独立した方法を用いたモード解法計算も実行し、:即ちコンピュータ計算による3D有限要素周波数領域(FEED:finite-element frequency-domain)シミュレーション(空間離散化とは切り離して、周波数領域でマクスウェルの方程式を厳密に解く、例えば非特許文献3(Balanis, C. A., “Antenna Theory: Analysis and Design” (Wiley, New Jersey, 2005))を参照)を行い、このシミュレーションでは、導線の境界を、複素インピーダンス
【数57】
の境界条件を用いてモデル化し、この条件は、ζc/ζ0≪1である限り(銅については、マイクロ波において<10-5)有効である(非特許文献4(Jackson, J. D., ”Classical Electrodynamics” (Wiley, New York, 1999))参照)。表3は、数値的(括弧内は解析的)FEEDの結果を、各波長及び吸収、放射、及び総損失速度について、及びサブ波長共振モード2つの異なる場合について示す。なお、導電材料には銅(σ=5.998×107S/m)を用いた。(表中では、図4のプロットの特定パラメータを太字で強調している。)これら2つの方法(解析的及び計算)は非常に良好に一致し、マイクロ波において想定されるQ値がQabs≧1000及びQrad≧10000であることを示す。
【0089】
【表3】
【0090】
図5を参照すれば、一部の実施例では、2つの容量負荷付きコイル間でエネルギーを伝達する。2つの容量負荷付きコイル1、2間の、これらの中心間の距離Dでのエネルギー伝達速度については、ω≪ωsの場合の一定の電流分布を用いることによって、式(6)から数値的に評価することができる。h=0であり、N1、N2が整数である場合は、ここでも解析式があり、この解析式は、準静的限界内r≪D≪λ、かつ図4に示す相対配向については、M≒π/2・μ0(r1r2)2N1N2/D3となり、このことは、
【数58】
が周波数ω及びターン数N1、N2とは独立であることを意味する。従って、結果的な関心事の結合の性能指数は次式のようになる:
【数59】
ここでもN1=N2=1については、より正確になる。
【0091】
式(9)より、性能指標を最大にする最適周波数は、
を最大にするものである、というのは、Qκは(少なくとも、準静的近似がまだ有効である関心事の距離D≪λについては)周波数に依存しないからである。従って、最適周波数は、2つのコイル間の距離Dとは独立であり、単一コイルのQ1及びQ2がピークになる2つの周波数間にある。同じコイルについては、最適周波数は(7)式によって与えられ、従って、性能指数の式(9)は次式のようになる:
【数60】
【0092】
表4に、以上に基づく数値的FEED、及び括弧内は解析的FEEDの結果を、各々が表3に記載の整合した一対の負荷付きコイルから成る2つの系について示す。平均波長及び損失速度を、結合速度、及び結合対損失比の性能指数κ/Γと共に、結合距離Dの関数として、これら2つの場合について示す。なお、表に示す平均の数値的Γradはここでも、表3の単一ループとは少し異なり、Γradの解析的結果は表に示していないが、単一ループの値を用いている。(表中では、図5のプロットに対応する特定パラメータを太字で強調している。)ここでも、定電流の仮定を有効なものとするためにN=1を選定し、Mは式(6)より数値的に計算した。実際に、正確さは、コンピュータ計算によるFEEDモード解法シミュレーションとの一致によって確認することができ、このシミュレーションは、結合系の2つの通常モードの周波数分離(=2κ)によってκを与える。その結果は、中程度の距離D/r=10〜3については、想定される結合対損失比がκ/Γ≒0.5〜50の範囲内にあることを示す。
【0093】
【表4】
【0094】
一部の実施例では、以上の結果を用いて、容量負荷付きコイルを用いた無線エネルギー伝達システムの性能を向上または最適化することができる。例えば、異なるシステムパラメータで式(10)をスケーリングすれば、システムの性能指標κ/Γを最大にするために、例えば次のことができることがわかる:
・導電材料の抵抗率を低減することができる。このことは例えば、(銅または銀のような)良導体を用いることによって、及び/または温度を下げることによって達成することができる。極低温では、超伝導材料を用いて極めて良好な性能を達成することもできる。
・導線の半径aを増加させることができる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望のエネルギー伝達距離Dに対して、ループの半径rを増加させることができる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望の距離対ループサイズの比D/rに対して、ループの半径rを減少させることができる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・ターン数Nを増加させることができる。(N>1に対して式(10)がより不正確であると想定されても、定性的に、この式は、Nを増加させると共に結合対損失比の改善が期待されることの良好な指標を与える。)一般的な実施例では、この行動は物理的サイズ及び可能な電圧を考慮して制限され、これについては以下の節で説明する。
・2つのコイル間の位置合わせ(アライメント)及び配向を調整することができる。両方の円筒コイルが正確に同一の(円柱の)対称軸を有すると(即ち、これらのコイルが互いに「対面」すると)、性能指標が最適になる。一部の実施例では、0の相互インダクタンスをもたらす特定のコイル角及び配向(例えば2つのコイル軸が直交する配向)は回避すべきである。
なお、最後に、一般的な実施例では、コイルの高さhが結合対損失比に悪影響しないべきである、というのは、コイルの高さhは主にコイルのインダクタンスに悪影響し、QとQκとの間で相殺し合うからである。しかし、コイルの高さhは、外部負荷容量を支持してコイルの自己容量を低減するために用いることができる。
【0095】
上記解析技法を用いて、所望のパラメータを有するシステムを設計することができる。例えば、以下に挙げるように、上述した技法を用いて、2つのコイル間の所定のD/rにおけるκ/ガンマの意味での特定性能を達成するために、所定半径を有する2つの同じ単一ターンのコイルをシステムとして設計する際に使用すべき導線の断面半径aを決定することができる。材料が銅である(σ=5.998×107S/m)際は、次式のようになる:
【数61】
【0096】
同様の解析を、2つの異なるループの場合について行うことができる。例えば、一部の実施例では、考慮中の装置が非常に特別であり(例えばラップトップ・コンピュータまたは携帯電話)、従って装置側物体の寸法(rd、hd、ad、Nd)が非常に限定される。しかし、一部のこうした実施例では、電源側物体に対する制約(rs、hs、as、Ns)の方がずっと小さい、というのは、電源側物体は例えば、床下または天井に配置することができるからである。こうした場合は、所望距離が用途に基づいて明確に定められていることが多い(例えば、机上のラップトップ・コンピュータを床から無線で充電するためにはDは〜1mである。)以下に、材料を再び銅(σ=5.998×107S/m)とした際に、
の意味での所望性能を達成するために電源側物体の寸法を変化させることのできる方法の例を挙げる(Ns=Nd=1かつhs=hd=0の場合に簡略化する):
【数62】
【0097】
以下に説明するように、一部の実施例では、共振物体のQ値は外部摂動により制限され、従ってコイルのパラメータを変化させることがQ値の改善に至り得ない。こうした場合は、Qκを減少させる(即ち、結合を増加させる)ことによって、結合対損失比の性能指標を増加させることを選ぶことができる。結合は周波数及びターン数に依存せず、コイルの高さには非常に弱く依存する。従って、残された自由度は次の通りである:
・導線の半径a1及びa2を増加させる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望のエネルギー伝達距離Dに対して、コイルの半径r1及びr2を増加させる。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・固定された所望の距離対コイルサイズ比
に対して、インダクタンスの弱い(対数)依存性のみが元のままであり、このことは、コイルの半径r1及びr2を減少させるべきであることを示唆する。一般的な実施例では、この行動は物理的サイズを考慮して制限される。
・2つのコイル間の位置合わせ(アライメント)及び配向を調整する。一般的な実施例では、結合は、両方の円筒コイルが正確に同一の(円柱の)対称軸を有する(即ち、互いに対面する)際に最適化される。0の相互インダクタンスをもたらす特定の相互コイル角及び配向(例えば2つのコイルの軸が直交する配向)は回避すべきである。
さらに、効率とは別の他の実際的考慮、例えば物理的サイズ制限は、以下に詳細に説明する。
【0098】
なお、以上では、共振磁気結合をエネルギー伝達に用いるシステムの例として、特定実施例、即ち自己共振導線コイル及び容量負荷付き共振導線コイルの例を提示し解析しているが、その磁気エネルギーをその電気エネルギーよりずっと遠くに拡張する電磁的モードをサポートするあらゆるシステムを、磁気結合によってエネルギーを伝達するために用いることができる。例えば、所望する種類の磁気共振をサポートする分布容量及び分布インダクタンスを有する多数の抽象的な幾何学的形状が存在し得る。これらの幾何学的形状のいずれにおいても、特定パラメータを選定して
を増加または最適化することができ、あるいは、Q値が外部要素によって制限される場合は、Qκを増加及び/または最適化することができる。
【0099】
エネルギー伝達のための、上述した共振結合の誘導的方式と、周知の非共振の誘導的方式との相違を理解することも重要である。幾何学的形状及び電源側に蓄積されたエネルギーを一定に保てば、この誘導性の共振メカニズムが、従来の非共振メカニズムの〜Q2(〜106)倍の電力を、装置における動作用に配送することを、CMTを用いて容易に示すことができる。このことは、後者によれば、近距離、非接触で中程度の電力(〜W)伝達しかできないのに対し、共振によれば、近距離であるが大電力(〜kW)の伝達が可能になるか、あるいは現在提案されているように、強結合レジームにおける動作も保証すれば、中距離で中程度の電力伝送も可能であることの理由である。容量負荷付きの導線ループが現在、(例えば携帯電話における)共振アンテナとして用いられているが、これらのループはD/r≫1、r/λ〜1なる遠距離場において動作し、放射のQ値は、アンテナを高効率にすべく意図的に小さく設計され、従ってこれらのループはエネルギー伝達には適していない。
【0100】
一部の実施例では、電界及び磁界を無線エネルギー伝達に用いることができる。図6に示す半径r及び相対誘電率εの二次元誘電体円板物体を考え、この物体は空気によって包囲され、高いQ値の「ウィスパリング・ギャラリー」共振モードをサポートする。こうした共振系内に蓄積されたエネルギーの損失メカニズムは、自由空間内への放射及び円板材料内への吸収である。高いQ値Qrad及びテールの長いサブ波長共振は、誘電率εが大きく、方位的な場の変化が遅い(即ち、小さい主量子数mである)際に達成することができる。材料吸収は、材料損失(角の)タンジェント:Qabs≒Re{ε}/Im{ε}に関係する。この種の円板共振についてのモード解法計算を、次の2つの独立した方法を用いて実行し、即ち:数値的な2D(二次元)有限差分周波数領域(FDFD:finite-difference frequency-domain)シミュレーション(空間離散化とは切り離して、周波数領域でマクスウェルの方程式を厳密に解く)を30ポイント(点)/rの分解能で行い、そして極座標における標準的な変数分離(SV:separation of variable)を用いて解析的に解いた。
【0101】
【表5】
【0102】
2つのTE分極誘電体円板についての、λ/r≧10のサブ波長モードの結果を表5に示す。表5は、サブ波長及び吸収、放射、及び総損失速度についての、数値的FDFD(括弧内は解析的SV)の結果を、サブ波長円板共振モードの2つの異なる場合について示す。なお、円板材料の損失タンジェントIm{ε}/Re{ε}=10-4を用いた。(表中では、図6のプロットに対応する特定パラメータを強調している。)これら2つの方法は優れた妥協点を有し、ことを暗に意味する。適切に設計した共振性の低損失物体については、Qrad≧2000及びQabs〜10000が達成されることを暗に意味する。なお、3Dの場合については、演算の複雑性が非常に増加するが、物理学的なことは、さほど難しくない。例えば、ε=147.7の球形物体は、m=2、Qrad=13962、及びλ/r=17なるウィスパリング・ギャラリーモードを有する。
【0103】
表5に示す、要求されるεの値は、最初は非現実的に大きく見えるかもしれない。しかし、(およそメートルレンジ(範囲)の結合用途に適した)マイクロ波レジームでは、適度に十分高い誘電定数及び低損失を有する材料(例えばチタニア、テトラチタン酸バリウム、タンタライトリチウム、等)が存在するだけでなく、金属状(負のεの)材料または金属誘電体光(フォトニック)結晶の表面上の表面プラズモンモードのような他の既知のサブ波長表面波系の実効屈折率の代わりに、εも重要であり得る。
【0104】
ここで、2つの円板1と2の間で達成可能なエネルギー伝達速度を計算するために、図7に示すように、これらの円板をその中心間に距離Dをとって配置する。数値的には、FDFDモード解法シミュレーションが、結合系の通常モードの周波数分割(=2κ)によってκを与え、これらのモードは、初期の単円板モードの偶数個または奇数個の重ね合わせであり、解析的には、変数分離法の固有場
の表現を用いて、CMTはκを次式によって与え:
【数63】
ここに、εj(r)及びε(r)はそれぞれ、円板jのみ、及び全空間を記述する誘電関数である。そして、媒体距離D/r=10〜3、及び無放射結合については、D<2rcとなり、ここにrc=mλ/2πは、放射コースティックの半径であり、2つの方法は非常に良く一致し、最終的に、表6に示すように、κ/Γ≒1〜50の範囲内の結合対損失比を見出す。従って、解析した具体例では、以下に説明するように、達成された性能指数値は、一般的な応用にとって有用であるために十分大きい。
【0105】
【表6】
【0106】
(外部物体に対するシステム感度)
一般に、共振ベースの無線エネルギー伝達方式の特定実施例の全体性能は、共振物体の共振のロバストネス(頑健性)に強く依存する。従って、共振物体の、ランダムな非共振の外部物体が近くに存在することに対する感度を解析することが望ましい。1つの適切な解析モデルは、「摂動理論」(PT:perturbation theory)の解析モデルであり、外部物体eの存在下では、共振物体1の内部の場の振幅a1(t)が、一次については、次式を満足することを示唆する:
【数64】
ここでも、ω1は周波数であり、Γ1は固有(吸収、放射、等)損失速度であり、κ11-eは、eの存在により(物体)1に生じる周波数シフトであり、Γ1-eは,外部のe(e内部の吸収、eからの散乱、等)による損失速度である。一次PTモデルは、小さい摂動のみに対して有効である。それにもかかわらず、a1を正確な摂動モードの振幅であるものとすれば、パラメータκ11-e、Γ1-eは上記レジーム外でも明確に定義される。また、初期の共振モードの放射場と外部物体から散乱する場との間の干渉効果は、強い散乱(例えば非金属物体)については、初期放射Γ1より小さい全放射Γ1-eを生じさせる(即ち、Γ1-eは負である)。
【0107】
周波数シフトは、1つ以上の共振物体に、その周波数を補正するフィードバックメカニズムを適用することによって「固定」することのできる問題である。例えば、図8aを参照すれば、一部の実施例では、各共振物体に固定周波数の発振器、及びこの物体の周波数を測定する監視装置を設ける。発振器及び監視装置は共に周波数調整器に結合され、周波数調整器は、例えば物体の特性(例えば自己共振コイルの高さ、容量負荷付きコイルのコンデンサプレートの間隔、誘電体円板の形状、等)を調整するか、あるいは共振物体の付近にある非共振物体の位置を変更することによって、共振物体の周波数を調整する。周波数調整器は、上記固定周波数と物体周波数との差を測定し、物体周波数を固定周波数との一致にもっていくように機能する。この技法は、外部物体の存在下でも、すべての共振物体が同じ固定周波数で動作することを保証する。
【0108】
他の例として、図8bを参照すれば、一部の実施例では、電源側物体から装置側物体へのエネルギー伝達中に、装置側物体はエネルギーを負荷に供給し、効率監視装置がこの伝達の効率を測定する。負荷に結合された周波数調整器及び効率監視装置は、伝達効率を最大化するように物体の周波数を調整すべく機能する。
【0109】
種々の実施例では、共振物体間の情報交換に頼る他の周波数調整方式を用いることができる。例えば、電源側物体の周波数を監視して装置側物体に伝送することができ、装置側物体は、上述した周波数調整器を用いてこの周波数に同期する。他の実施例では、単一クロックの周波数を複数の装置に伝送し、各装置がこの周波数に同期することができる。
【0110】
周波数シフトとは異なり、外部損失は改善することが困難であるので、エネルギー伝達方式にとって有害であり得る。従って、全損失速度Γ1[e]=Γ1+Γ1-e(及び対応する性能指数
、ここにκ[e]は摂動のある結合速度)を定量化すべきである。実施例では、主に磁気共振を用いて、共振に対する外部物体の影響がほとんど存在しない。その理由は、考慮している動作の準静的レジーム(r≪λ)では、コイルを包囲する空気領域内の近接場は磁界が支配的である(これに対し電界の大部分はコイルの自己容量または外部負荷のコンデンサ中に局在する)ということであり、従って、この磁界と相互作用し、共振に対する摂動として作用し得る非金属の外部物体eは、大きな磁気特性(透磁率Re{μ}>1または磁気損失Im{μ}>0)を有する物体である。ほとんどすべての日常的材料が非磁性であるので自由面と同様に磁界に応答し、従って導線ループの共振を乱さない。
【0111】
上述したように、このことの重要な意味は、人間に対する考慮を満足することに関係する。人間も非磁性であり、危険を被ることなしに強磁界に耐えることができる。磁界B〜1Tを人間に対して安全に用いる代表例は、医療検査用の(核)磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)技術である。これとは対照的に、一般的な実施例において2、3ワットの電力を供給するために必要な近接場磁界は、B〜10-4Tに過ぎず、この磁界は実際に、地球の磁界の大きさと同程度である。以上で説明したように、強い近接場電界も存在せず、この無放射方式により生成される放射は最小であるので、本発明で提案するエネルギー伝達方法は生体にとって安全なはずであること考えることは理にかなっている。
【0112】
例えば、容量負荷付き導線コイルの共振系が、大部分の磁気エネルギーを、この共振系を包囲する空間内に蓄積している度合いを推定することができる。コンデンサからのフリンジ電界を無視すれば、コイルを包囲する空間内の電気及び磁気エネルギーの密度は、導線中の電流によって生成される電界及び磁界のみから生じる。なお、遠距離場では、これら2つのエネルギー密度は等しくなければならず、放射的な場については常にそうである。h=0なるサブ波長(r≪λ)電流ループ(磁気双極子)によって生成される場についての結果を用いることによって、電気エネルギー密度対磁気エネルギー密度の比率を、ループの中心からの距離p(r≪pなる制限下で)及びループ軸に対する角度θの関数として、次式のように計算することができる:
【数65】
ここで、2行目は、電気及び磁気エネルギー密度を半径pの球の表面全体にわたって積分することによる、すべての角度にわたる平均値の比率である。式(12)より、実際に、近接場(x≪1)内では、すべての角度について磁気エネルギー密度が支配的であるのに対し、遠距離場(x≫1)では、これらは等しく、またそうあるべきである。また、ループの好適な配置は、ループの共振を妨害し得る物体がループの軸の近くに存在する(θ=0)ようにし、ここで電界は存在しない。例えば、表4に記載したシステムを用いれば、式(12)より、距離p=10r=3mにあるr=30cmのループについては、平均電気エネルギー密度対平均磁気エネルギー密度の比率は〜12%であり、p=3r=90cmでは、この比率は〜1%であり、p=10r=1mにあるr=10cmのループについては、この比率は〜33%であり、p=3r=30cmでは、この比率は〜2.5%である。より近い距離では、この比率はさらに小さく、従って、近接場ではエネルギーは大部分が磁気であるのに対し、遠距離場では、これらは必然的に同じオーダーになり(比率→1)、両者は非常に小さい、というのは、容量負荷付きコイル系は放射が非常に小さいように設計されているので、場が大きく減衰するからである。従って、この比率は、この共振系のクラスを磁気共振系とするための基準である。
【0113】
コンデンサのフリンジ電界を含む容量負荷付きループの共振に対する外部物体の影響の推定値を与えるために、前述した摂動理論の式:
【数66】
を、図5のプロット中に示すもののような例の場についてのコンピュータ計算によるFEFDの結果と共に、ループ間に存在し、ほぼ一方のコンデンサ上に立つ(コンデンサから〜3cm離れた)寸法30cm×30cm×1.5m、(人間の筋肉に合わせた)誘電率ε=49+16iの物体に対して用いて、
〜105を見出し、コンデンサから10cm離れた物体については、
〜5×105を見出す。従って、通常の距離(〜1m)及び配置(コンデンサの直上ではない)については、あるいは、ずっと小さい損失タンジェントの大部分の通常の外部物体eについては、
と言うことが実際に正しいものと結論付ける。これらの共振に影響するものと想定される唯一の摂動は、大きな金属構造に近接した所である。
【0114】
自己共振コイルは容量負荷付きコイルよりずっと敏感である、というのは、前者は、電界が、空間(コイル全体)内の後者(コイルの内部だけ)よりずっと大きい領域に広がるからである。他方では、自己共振コイルは作製するのが単純であり、大部分の集中コンデンサよりずっと大きい電圧に耐えることができる。
【0115】
一般に、共振系の異なる具体例は外部摂動に対して異なる感度を有し、共振系の選定は目前の特定用途、及びこの用途にとっての感度または安全性の事柄の重要さに依存する。例えば、(無線給電の人工心臓のような)医療用埋め込み装置については、装置を包囲する組織を保護するために、電界の広がりは最大限可能な度合いに最小化しなければならない。外部物体に対する感度または安全性が重要である場合には、周囲空間内の(用途に応じた)所望の点の大部分における電界エネルギー密度対磁気エネルギー密度の比率μe/μmを低減または最小化するように、共振系を設計すべきである。
【0116】
主に磁気共振ではない共振を用いる実施例では、外部物体の影響が関心事となり得る。例えば誘電体円板については、小型、低屈折率、低い材料損失、または遠方の漂遊物体が、小さい散乱及び吸収を生じさせる。こうした小さい摂動の場合は、これらの外部損失メカニズムはそれぞれ、次の解析的な一次摂動理論式を用いて定量化することができ:
【数67】
及び
【数68】
ここに、
【数69】
は、非摂動モードの総共振電磁エネルギーである。上式からわかるように、これらの損失は共に、外部物体の所の共振電界テール
の二乗に依存する。これとは対照的に、物体1から他の共振物体2への結合速度は、前述したように次式のようになり:
【数70】
物体2の内部における物体1の場のテール
に線形依存する。こうしたスケーリングの差は、例えば指数関数的に小さい場のテールについては、少なくとも小さい摂動については、他の共振物体への結合(速度)がすべての外部損失速度よりずっと速い(κ≫Γ1-e)はずであり、従って、こうした共振誘電体円板のクラスについては、本発明のエネルギー伝達方式は頑健であるものと想定される、という確信を与える。しかし、外部物体が、上記一次摂動理論の方法を用いて解析するには強過ぎる摂動を生じさせるあり得る特定状況も調べたい。例えば、誘電体円板cを、図9aに示すように(人間hのような)大きなRe{ε}、Im{ε}かつ同じサイズであるが異なる形状の他の共振外物体、及び図9bに示すように(壁面wのような)大きく広がる粗くした表面であるが小さいRe{ε}、Im{ε}の他の共振外物体の近くに配置する。円板の中心と「人間の」中心または「壁面」との間の距離Dh/w/r=10-3についての、図9a及び9bに提示する数値的FDFDシミュレーションの結果は、円板の共振が相当頑健であるように見えることを示唆する、というのは、円板の共振は、非常に近接した高損失の物体は例外として、外部物体の存在によって悪影響されないからである。エネルギー伝達システム全体に対する大きな摂動の影響を調べるために、「人間」及び「壁面」が共に近くに存在する状況下での2つの共振円板を考える。図7を図9cと比較すれば、数値的FDFDシミュレーションは、システム性能がκ/Γc≒1〜50からκ[hw]/Γc[hw]≒0.5〜10に、即ち許容可能な量だけ劣化することを示す。
【0117】
(システム効率)
一般に、あらゆるエネルギー伝達方式にとって重要な他の要素は伝達効率である。再び、一組の外部物体eの存在下で共振する電源側sと装置側dの系を考える。この共振ベースのエネルギー伝達方式の効率は、エネルギーが装置側から排出されて、速度Γworkで作業動作に使用される際に測定することができる。装置側の場の振幅についての結合モード理論方程式は次式の通りであり:
【数71】
ここに、
【数72】
は、摂動のある装置の正味の損失速度であり、同様に、摂動のある電源に対してΓs(e)を定義する。異なる時間的スキーム(例えば、定常状態の連続波排出、周期的時刻における瞬時的排出、等)を用いて、装置側から電力を排出することができ、それらの効率は組み合わせたシステムパラメータへの異なる依存性を示す。簡単のため、電源側内部の場の振幅が一定に維持されるように定常状態を仮定し、即ちas(t)=Ase-jωtであり、従って、装置側内部の場の振幅はad(t)=Ade-jωtであり、ここにAd/As=iκ[e]/(Γd[e]+Γwork)である。従って、関係する種々の時間平均電力は次の通りである:
有用な期待電力はPwork=2Γwork|Ad|2であり、放射される(散乱を含む)電力は
【数73】
であり、電源側/装置側において吸収される電力は
【数74】
であり、そして外部物体では、
【数75】
である。エネルギー保存則より、システムに入る総時間平均電力は
Ptotal=Pwork+Prad+Ps+Pd+Pe
である。なお、通常はシステム内に存在して蓄積されたエネルギーをシステム内で循環させる無効電力は、共振時には相殺され(このことは例えば電磁気学においてポインティング理論から証明することができる)、電力平衡の計算には影響しない。従って、動作効率は次式の通りであり:
【数76】
ここに、
【数77】
は、摂動のある共振エネルギー交換システムの距離依存性の性能指数である。
【0118】
図10を参照すれば、特定の共振物体、例えばからより直接的にアクセス可能なパラメータに関して、この式(14)を再導出して表現するために、次のシステムの回路モデルを考えることができ、ここでは、インダクタンスLs、Ldがそれぞれ電源側及び装置側のループを表し、Rs、Rdがそれぞれの損失を表し、そしてCs、Cdは、周波数ωで両者が共振を達成するために必要な対応する容量を表す。電圧発生器Vgを発生器に接続し、動作(負荷)抵抗Rwを装置側に接続することを考える。相互インダクタンスをMで表す。
【0119】
そして、共振状態の(ωLs=1/ωCs)電源側回路より、次式のようになり:
【数78】
共振状態の(ωLd=1/ωCd)電源側回路より、次式のようになる:
【数79】
従って、2番目の式を最初の式に代入することによって、次式のようになる:
【数80】
ここで、実数部(時間平均電力)をとって効率を見出す:
【数81】
即ち、次式のようになり:
【数82】
この式は、Γwork=Rw/2Ld、Γd=Rd/2Ld、Γs=Rs/2Ls、かつ
【数83】
では、一般的な式(14)となる。
【0120】
式(14)より、動作−排出の比率を次式のように選定すると:
【数84】
選定した動作−排出の比率の意味での効率が最適化されていることを見出すことができる。そして、ηworkは、図11に実線で示すように、fom[e]パラメータのみの関数である。fom[e]>1については、システムの効率はηwork>17%であり、実際の応用にとって十分な大きさである。従って、上述したようにfom[e]を最適化することによって、効率を100%に向けてさらに増加させることができる。放射損失に変換される比率は他のシステムパラメータにも依存し、前に定めた範囲内のパラメータの値を有する導線ループについては、図5にプロットしている。
【0121】
例えば、表4に記載した容量負荷付きコイルの実施例を考え、結合距離D/r=7とし、「人間」である外部物体が電源側から距離Dhにあり、Pwork=10Wを負荷に供給しなければならないものとする。そして(図11に基づき)、Dh〜3cmでは、
【数85】
及び
【数86】
とし、Dh〜10cmでは、
【数87】
とする。従って、fom[h]〜2であり、よって、ηwork≒38%、Prad≒1.5W、Ps≒11W、Pd≒4W、そして最も重要なこととして、Dh〜3cmではηh≒0.4%、Ph=0.1W、及びDh〜10cmでは、ηh≒0.1%、Ph=0.02Wである。
【0122】
多くの場合には、共振物体の寸法は、目前の特定用途によって設定する。例えば、この用途がラップトップ・コンピュータまたは携帯電話に給電することである際は、装置側の共振物体は、それぞれラップトップ・コンピュータまたは携帯電話の寸法より大きい寸法を有することができない。特に、指定寸法の2ループのシステムについては、ループ半径rs,d及び導線半径as,dの意味で、システム最適化用に調整すべく残された独立パラメータは、ターン数Ns,d、周波数f、及び動作−抽出の比率(負荷抵抗)Γworkである。
【0123】
一般に、種々の実施例では、増加または最適化したい主要な従属変数は全体効率ηworkである。しかし、システム設計上では、他の重要な変数を考慮に入れる必要がある。例えば、容量負荷付きコイルを特徴とする実施例では、設計は例えば導線内部を流れる電流Is,d、及びコンデンサの端子間電圧Vs,dによって制約され得る。これらの制限は重要であり得る、というのは、〜Wの電力の応用については、これらのパラメータの値が、導線またはコンデンサのそれぞれが対処するには大き過ぎることがあるからである。さらに、装置側の総合負荷のQtot=ωLd/(Rd+Rw)は、なるべく小さくあるべき量である、というのは、電源側と装置側の共振周波数が非常に高い際に、これらの共振周波数をそれらのQ値以内に一致させることは、実験的には挑戦的であり得るし、小さな変動に対してより敏感であり得る。最後に、放射電力Prad,s,dは、こうした電力が一般に既に小さい磁気による無放射方式でも、安全性を考えて最小化すべきである。
【0124】
以下では、各独立変数の従属変数に対する影響を調べる。fom[e]のある特定値に対する動作−排出の比率を次式によって表現するために:
【数88】
新たな変数wpを定義する。そして、一部の実施例では、この比率の選定に影響する値は次の通りである:
電源側に蓄積される必要なエネルギー(従ってIs及びVs)を最小化するためには、
【数89】
(一般的なインピーダンスマッチング(整合)条件)。
効率を増加させるためには、前述したように、
【数90】
装置側に蓄積されるエネルギー(従って、Id及びVd)を減少させるか、あるいはQtot=ωLd/(Rd+Rw)=ω/[2(Γd+Γwork)]を減少または最小化するためには、
【数91】
【0125】
Ns及びNdを増加させることは、ループのインピーダンスを増加させるので、
を増加させ、従って、前述したように効率を大幅に増加させ、また電流Is及びIdを減少させ、従って、所定の出力電力Pworkにとって必要なエネルギー
【数92】
をより小さい電流で達成することができる。しかし、Ndを増加させることはQtot、Prad,d及び装置側の容量の端子間電圧Vdを増加させ、このことは不都合なことに、一般的な実施例では、最終的にシステムの最大の制限要素の1つになる。このことを説明するために留意すべきこととして、現実にコンデンサ材料の絶縁破壊を生じさせるのは電界であり(例えば空気に対しては3kV/mm)電圧ではなく、(最適に近い)所望の動作周波数に対して、増加したインダクタンスLdは要求される容量Cdの低減を暗に意味し、このことは原則的に、容量負荷付きコイルについては、装置側のコンデンサのプレートの間隔ddを増加させることによって、自己共振コイルについては、hdを増加させて隣接するターンの間隔を増加させることによって達成することができ、Ndと共に実際に減少する電界(前者の場合は≒Vd/dd)を生じさせる;しかし、現実にはddまたはhdを過大に増加させることはできない、というのは、不所望な容量のフリンジ電界が非常に大きくなり、及び/または、コイルのサイズが過大になり得るからであり、いずれの場合でも、特定用途にとっては、高電圧は望ましくない。同様の増加挙動は、Nsの増加時に、電源側のPrad,s及びVsについても観測される。結論として、ターン数Ns及びNdは、適度な電圧、フリンジ電界、及び物理的サイズを可能にするように(効率のために)できる限り大きく選定しなければならない。
【0126】
周波数に関しても、効率のために最適な周波数が存在し、この最適周波数の近くでは、Qtotは最大に近い。より低い周波数に対しては、電流はより悪く(大きく)なるが、電圧及び放射電力はより良好に(小さく)なる。通常は、最適周波数またはそれより幾分低い周波数のいずれかを採る。
【0127】
システムの動作レジームを決定する1つの方法は、図式解法に基づく。図12に、rs=25cm、rd=15cm、hs=hd=0、as=ad=3mm、及びループ間の距離D=2mの2つのループについて、上記従属変数のすべて(電流、電圧、及び出力電力の1Wに正規化した放射電力)を、wp及びNsをいくつか選定して、周波数及びNdに対してプロットする。この図は、上述したすべての依存性を表す。従属変数の等高線図も、周波数及びwpの両者の関数として作成することができるが、Ns及びNdは共に固定である。その結果を、同じループ寸法及び距離について図13に示す。例えば、上記寸法を有する2つのループのシステム用のパラメータの適度な選定は次の通りである:Ns=2、Nd=6、f=10MHz、及びwp=10;これらの値は、ηwork=20.6%、Qtot=1264、Is=7.2A、Id=1.4A、Vs=2.55kV、Vd=2.30kV、Prad,s=0.15W、Prad,d=0.006Wを与える。なお、図12及び13の結果、及びすぐ前に計算した性能特性は、以上で挙げた解析式を用いて出したものであり、従って、これらはNs、Ndの大きな値に対してはより正確でないと想定されるが、それでもスケーリング及び大きさのオーダーの良好な推定値を与える。
【0128】
最後に、これに加えて、電源側の寸法を最適化することができる、というのは、前に説明したように、通常は装置側の寸法のみが制限されるからである。即ち、rs及びasを独立変数の集合に加えることができ、問題の従属変数のすべてについて、これらの独立変数に関しても最適化することができる(効率のみのためにこのことを行う方法は、前に説明した)。こうした最適化は改善された結果をもたらす。
【0129】
(実験結果)
上述した無線エネルギー伝達方式の実施例の実験的実現は、上述した種類の2つの自己共振コイルから成り、図14に概略的に示すように、その1つ(電源側コイル)は発振回路に誘導結合され、第2のもの(装置側コイル)は抵抗負荷に誘導結合されている。図14を参照すれば、Aは半径25cmの単一銅線ループであり、駆動回路の一部をなし、周波数9.9MHzの正弦波を出力する。S及びDはそれぞれ、文字で称するところの電源側及び装置側コイルである。Bは、負荷(「電球(ライトバルブ)」)に取り付けた導線のループである。種々のκは物体間の直接結合を表す。コイルDとループAとの間の角度は、これらの直接的結合が0になると共に、コイルSとDが同軸に位置合わせされるように調整する。BとAの間、及びBとSの間の直接的結合は無視できる。
【0130】
電力伝達方式の実験検証用に構成した2つの同一の螺旋コイルのパラメータは、h=20cm、a=3cm、r=30cm、n=5.25である。両コイルとも銅製である。構成上の不完全性により、螺旋ループ間の間隔は均一ではなく、hに10%(2cm)の不確定性があるものとすることによって、これらのループの均一性についての不確定性を要約した。これらの寸法を前提として予期される共振周波数はf0=10.56±0.3MHzであり、約9.90MHz付近で測定された共振から約5%外れている。
【0131】
これらのループについての理論的Q値は、(完全な銅の抵抗率ρ=1.7×10-8Ωmを仮定すれば)〜2500であるものと推定されるが、測定値は950±50である。この相違の大部分は、銅線の表面上にある導電性の低い酸化銅の層の影響によるものと確信し、この周波数では、浅い表皮厚さ(〜20μm)によって電流がこの層に限定される。従って、その後のすべての計算では、実験的に観測したQ値(及びこれから導出したΓ1=Γ2=Γ=ω/(2Q))を用いた。
【0132】
結合係数κは、(隔離した際に、hを少し調整することによって同じ共振周波数に微調整した)2つの自己共振コイルを距離Dだけ離して配置し、2つの共振モードの周波数への分割を測定することによって見出すことができる。結合モード理論によれば、この分割は
【数93】
となるはずである。これら2つのコイルを同軸に位置合わせした際の、実験結果と理論的結果との比較を距離の関数として図15に示す。
【0133】
図16に、パラメータκ/Γの実験値と理論値の比較を、2つのコイル間の間隔の関数として示す。理論値は、理論的に得られたκと実験的に測定したΓとを用いることによって得られる。陰影を付けた領域は、Qの〜5%の不確定性による理論的なκ/Γの開きを表す。
【0134】
上述したように、理論的な最大効率は、パラメータ
【数94】
のみに依存し、図17に距離の関数としてプロットする。結合対損失比κ/Γは、D=2.4m(コイルの半径の8倍)に対しても1より大きく、従ってシステムは、調べた距離の全範囲にわたって強結合レジームである。
【0135】
電源回路は、半径25cmの単一ループの導線によって電源側コイルに誘導結合した標準的なコルピッツ発振器である。負荷は、事前に較正した電球から成り、それ自体の絶縁配線のループに取り付け、このループは装置側コイルに近接して配置し、装置側コイルに誘導結合されている。従って、電球と装置側コイルとの間の距離を変化させることによって、パラメータΓw/Γを、理論的に
で与えられるその最適値に一致するように調整した。その誘導性の性質により、電球に接続したループは小さいリアクタンス成分をΓwに加え、このリアクタンス成分はコイルを少し再調整することによって補償した。抽出される動作電力は、負荷側の電球がその最大公称光度(輝度)になるまで、コルピッツ発振器内に入る電力を調整することによって測定した。
【0136】
特に電源側コイルと負荷との間で行われる伝達の効率を分離するために、各自己共振コイルの中点における電流を電流プローブ(コイルのQ値を著しく低下させないことが判明している)で測定した。これにより、以上で定義した電流パラメータI1及びI2の測定値が与えられた。そして、各コイルにおいて消散される電力をP1,2=ΓL|I1,2|2から計算し、効率はη=Pw/(P1+P2+Pw)から直接得た。実験の設定が2物体結合モード理論モデルによって適切に記述されることを保証するために、装置側コイルを、コルピッツ発振器に取り付けた銅線ループへのこの装置側コイルの直接的結合が0になるように配置した。実験結果を、式(14)によって与えられる理論的最大効率の予測値と共に図17に示す。
【0137】
この実施例を用いれば、この設定を用いて大量の電力を伝達することができ、例えば2m以上離れた距離から60Wの電球を十分に点灯させることができた。追加的試験として、駆動回路に入る総電力も測定した。しかし、無線伝達自体の効率は、この方法では推定するのが困難である、というのは、コルピッツ発振器自体の効率が100%には程遠いと想定されても、この効率を正確に知ることができないからである。それにもかかわらず、このことは旧来のより低い効率の限界に上乗せを与える。例えば、2mの距離越しに60Wを負荷に伝達する際は、駆動回路に流入する電力は400Wであった。これにより、壁面から負荷への〜15%の総合効率となり、この距離における無線電力伝達の効率を〜40%と想定し、駆動回路の効率が低いものとすれば、この効率は妥当である。
【0138】
以上の理論的取り扱いより、一般的な実施例では、電力伝達が実用的であるためには、コイルが共振していることが重要であることがわかる。一方のコイルが共振から離調(デチューン)されると共に、負荷に伝送される電力が急峻に低下することを実験的に見出した。負荷のQ値の逆数の2、3倍のわずかな離調Δf/f0に対して、装置側コイル内の誘導電流はノイズ(雑音)と区別がつかない。
【0139】
電力伝達は、人間、及び金属製及び木製家具のような種々の日常的物体、並びに大型及び小型の電子装置を2つのコイル間に配置しても、さらに、これらが電源側と装置側との間の見通しを大きく遮っても、電力伝達は目に見えて影響されないことが判明している。外部物体は、この物体がいずれかのコイルから10cmより近くにある際にしか影響しないことが判明している。(アルミニウム箔、発泡スチレン及び人間のような)一部の材料の大部分は共振周波数を少しシフトさせたが、このシフトは原則的に、上述した種類のフィードバック回路で容易に補正することができ、他のもの(段ボール、木材、及びPVC(ポリ塩化ビニル))は、コイルから2、3cmより近くに配置した際にQを低下させ、これにより伝達の効率を低下させた。
【0140】
この電力伝達方法は人間にとって安全なはずであるものと確信する。60W(ラップトップ・コンピュータに給電するには十分過ぎる)を2m越しに伝達する際に、発生する磁界の大きさは、コイルの導線から約1cm未満を除いたすべての距離について、地球の磁界よりもずっと小さいものと推定した。これらのパラメータに対して、放射される電力は〜5Wであり、この値はおよそ、携帯電話(の電力)より高い大きさのオーダーであるが、以下に説明するように大幅に低減することができる。
【0141】
2つのコイルは現在、同一寸法であるが、装置側コイルは、効率を低下させることなしに携帯装置内に収まるように十分小さくすることができる。例えば、電源側コイルと装置側コイルとの特徴的サイズの積を一定に維持することができる。
【0142】
これらの実験は、中距離範囲越しの電力伝達用のシステムを実験的に実証し、独立して互いに矛盾しない複数回の試験において、実験結果が理論と良く一致することを見出した。
【0143】
この方式の効率及びカバーした距離は、コイルを銀メッキすることによって(このことはコイルのQ値を増加させるはずである)、あるいは共振物体のより巧妙な幾何学的形状を用いることによって相当改善されるものと確信する。それにもかかわらず、本明細書に提示したシステムの性能特性は既に、実際の応用において有用であり得るレベルにある。
【0144】
結論として、無放射の無線エネルギー伝達のための共振ベースの方式の、いくつかの実施例を説明した。以上の考察は静的な幾何学的形状(即ち、κ及びΓは時間と独立である)について行ったが、すべての結果は移動物体の動的な幾何学的形状に直接適用することができる、というのは、エネルギー伝達時間κ-1(マイクロ波の応用については≒1μs〜1ms)は、肉眼で見える物体の動きに関連するタイムスケール(時間尺度)よりずっと短いからである。非常に単純な実現の幾何学的形状の分析は有望な性能特性を与え、設計の真剣な最適化により、さらなる改善が期待される。従って、提案するメカニズムは、現代の多くの応用にとって有望である。
【0145】
例えば、肉眼で見える世界では、この方式は潜在的に、電力を例えば工場内のロボット及び/またはコンピュータ、あるいは幹線道路上の電気バスに電力を供給するために用いることができる。一部の実施例では、電源側−物体を、幹線道路上に、または天井に沿って延びる細長い「管(パイプ)」とすることができる。
【0146】
無線伝達方式の一部の実施例は、無線または他の技術を用いて到達することが困難または不可能である装置に給電または装置を充電すべく、エネルギーを供給することができる。例えば、一部の実施例は、埋め込み医療装置(例えば人工心臓、ペースメーカー、薬剤供給ポンプ、等)または地中埋め込みセンサに電力を供給することができる。
【0147】
ミクロの世界では、ずっと小さい波長が使用されずっと小さい電力を必要とし、この無線伝達方式を用いて、電源側と装置側との相対的位置合わせについて過度に心配することなしに、CMOS電子部品の光学的相互接続を実現するか、あるいは、自立型ナノ物体(例えばMEMSまたはナノロボット)にエネルギーを伝達することができる。さらに、適用性の範囲を音響システムに広げることができ、ここでは電源側と装置側を一般的な凝縮物質の物体を介して接続する。
【0148】
一部の実施例では、上述した技術が、共振物体の局在的近接場を用いた情報の無放射の無線伝達を提供することができる。こうした方式は、情報が遠距離場に放射されないので、向上した安全性を提供し、そして高度に機密の情報の中距離範囲の通信に非常に適している。
【0149】
本発明の多数の実施例を説明してきた。それでも、本発明の範囲を逸脱することなしに種々の変更を加えることができることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線エネルギー伝達用の装置において、
第2共振構造との間でエネルギーを無放射で距離D越しに伝達するように構成された第1共振構造を具え、前記距離Dは、前記第1共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ前記第2共振構造の特徴的サイズL2より大きく、
前記無放射のエネルギー伝達に、前記第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと前記第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在し、
さらに、前記第2共振構造を具え、
さらに、
前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上との間でエネルギーを無放射で伝達するように構成された第3共振構造を具え、
前記第3共振構造と、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上との間の無放射のエネルギー伝達に、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上の共鳴場エバネセント・テールと前記第3共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在することを特徴とする無線エネルギー伝達装置。
【請求項2】
前記第3共振構造が、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上にエネルギーを伝達するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第3共振構造が、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上からエネルギーを受けるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第3共振構造が、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち一方からエネルギーを受け、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち他方にエネルギーを伝達するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1共振構造が、共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、
前記第2共振構造が、共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、
前記無放射のエネルギー伝達が速度κを有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
Q1>100かつQ2>100であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
D/L2が2であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
D/L2が3であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
D/L2が5であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記エネルギー伝達が、約10%より大きい効率ηwで動作することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記エネルギー伝達が、約20%より大きい効率ηwで動作することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
さらに、前記第1共振構造に結合され、当該共振構造を周波数fで駆動するように構成された電源を具えていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
fが約100MHz以下であることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
fが約10kHz以上であることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項15】
動作中に、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち一方の共振構造が、使用可能な電力Pwを、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち他方の共振構造から受け、Pwが約1ワットより大きいことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
Pwが約10ワットより大きいことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
さらに、前記第2共振構造に電気結合された電気装置または電子装置を具え、この電気装置または電子装置は、前記第2共振構造からエネルギーを受けることができることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記電気装置または電子装置が携帯電子装置を含むことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記電気装置または電子装置が車両を含むことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項20】
さらに、前記第1共振構造、前記第2共振構造、及び前記第3共振構造のうち1つ以上の共振周波数を維持するためのフィードバック・メカニズムを具えていることを特徴とする請求項1〜19のいずれかに記載の装置。
【請求項1】
無線エネルギー伝達用の装置において、
第2共振構造との間でエネルギーを無放射で距離D越しに伝達するように構成された第1共振構造を具え、前記距離Dは、前記第1共振構造の特徴的サイズL1より大きく、かつ前記第2共振構造の特徴的サイズL2より大きく、
前記無放射のエネルギー伝達に、前記第1共振構造の共鳴場エバネセント・テールと前記第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在し、
さらに、前記第2共振構造を具え、
さらに、
前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上との間でエネルギーを無放射で伝達するように構成された第3共振構造を具え、
前記第3共振構造と、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上との間の無放射のエネルギー伝達に、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上の共鳴場エバネセント・テールと前記第3共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合が介在することを特徴とする無線エネルギー伝達装置。
【請求項2】
前記第3共振構造が、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上にエネルギーを伝達するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第3共振構造が、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち1つ以上からエネルギーを受けるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第3共振構造が、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち一方からエネルギーを受け、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち他方にエネルギーを伝達するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1共振構造が、共振周波数ω1、Q値Q1、及び共振幅Γ1を有し、
前記第2共振構造が、共振周波数ω2、Q値Q2、及び共振幅Γ2を有し、
前記無放射のエネルギー伝達が速度κを有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
Q1>100かつQ2>100であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
D/L2が2であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
D/L2が3であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
D/L2が5であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記エネルギー伝達が、約10%より大きい効率ηwで動作することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記エネルギー伝達が、約20%より大きい効率ηwで動作することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
さらに、前記第1共振構造に結合され、当該共振構造を周波数fで駆動するように構成された電源を具えていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
fが約100MHz以下であることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
fが約10kHz以上であることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項15】
動作中に、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち一方の共振構造が、使用可能な電力Pwを、前記第1共振構造及び前記第2共振構造のうち他方の共振構造から受け、Pwが約1ワットより大きいことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
Pwが約10ワットより大きいことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
さらに、前記第2共振構造に電気結合された電気装置または電子装置を具え、この電気装置または電子装置は、前記第2共振構造からエネルギーを受けることができることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記電気装置または電子装置が携帯電子装置を含むことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記電気装置または電子装置が車両を含むことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項20】
さらに、前記第1共振構造、前記第2共振構造、及び前記第3共振構造のうち1つ以上の共振周波数を維持するためのフィードバック・メカニズムを具えていることを特徴とする請求項1〜19のいずれかに記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−105537(P2012−105537A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−256729(P2011−256729)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【分割の表示】特願2010−500897(P2010−500897)の分割
【原出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256729(P2011−256729)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【分割の表示】特願2010−500897(P2010−500897)の分割
【原出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
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