説明

無線通信システム、無線通信装置および無線通信方法

【課題】不適切な動作モードを非選択とする。
【解決手段】無線通信システムは、無線送信装置および無線受信装置を備える。無線送信装置は、複数の送信アンテナと、送信部を含む。送信部は、通知された動作モードにもとづいて信号送信を行う。無線受信装置は、複数の受信アンテナ、受信部、受信品質制御部および動作モード制御部を含む。受信部は、受信アンテナで受信された受信信号の受信処理を行う。受信品質制御部は、各受信信号の受信品質を測定し、受信品質の比率を算出する。動作モード制御部は、比率と閾値との比較結果にもとづいて、動作モードの選択、非選択を判別し、選択した動作モードを通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行う無線通信システム、無線通信装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なデジタル通信において複数の送受信アンテナを用いるMIMO(Multi Input Multi Output)システムが用いられており、IEEE 802.16eやLTE(Long Term Evolution)などで採用されている。MIMOシステムは、複数のアンテナを用いて信号を送受信することで、スループット特性を改善する技術である。
【0003】
MIMOシステムには、大きく分けて空間分割多重モードと送信ダイバーシチモードの2つの動作モードがある。
空間分割多重モードは、送信側において、複数の異なるアンテナから異なる情報の信号を、それぞれ同時に同一の搬送波周波数で送信する。受信側においては、複数のアンテナで信号を受信し、多重された状態の受信信号の信号分離を行った後に復調する。
【0004】
また、送信ダイバーシチモードは、送信側において、複数の異なる送信アンテナから同じ情報の信号を同時に送信する。受信側においては、複数のアンテナで受信した信号を合波して復調する。
【0005】
MIMOシステムでは、安定したスループット特性が得られるように、空間分割多重モードまたは送信ダイバーシチモードのいずれかの動作モードを適宜選択して通信を行っている。
【0006】
無線送信装置において、例えば、空間分割多重と非空間分割多重との切替を行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−318419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MIMOシステムによる無線通信時、複数の送信アンテナからの送信信号電力に不平衡(インバランス)が生じる場合がある。このような通信状態のときは、動作モードとしては、受信信号を合波して受信処理が行われる送信ダイバーシチモードの方が、空間分割多重モードよりもスループット特性を向上させることができる。
【0009】
しかし、従来のMIMOシステムでは、複数の送信アンテナの送信信号電力状態を的確に認識するための制御が行われずに、動作モードが選択されていた。このため、送信ダイバーシチモードの方が優れたスループット特性を示すような状況であっても、空間分割多重モードが選択されてしまう場合があった。
【0010】
適切な動作モードで通信が行われないと、実際の通信環境における伝搬特性と、選択した動作モードの伝搬特性との間に乖離が生じてしまい、スループット特性の劣化が生じることになる。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、複数の送信アンテナからの送信信号電力状態を検出して、動作モードの選択、非選択を判別する無線通信システムを提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、複数の送信アンテナからの送信信号電力状態を検出して、動作モードの選択、非選択を判別する無線通信装置を提供することである。
さらに、本発明の他の目的は、複数の送信アンテナからの送信信号電力状態を検出して、動作モードの選択、非選択を判別する無線通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、無線通信システムが提供される。無線通信システムは、複数の送信アンテナと、通知された動作モードにもとづいて信号送信を行う送信部とを備える無線送信装置と、複数の受信アンテナと、各受信信号の受信品質を測定し、前記受信品質の比率を算出する受信品質制御部と、前記比率と閾値との比較結果にもとづいて、動作モードの選択、非選択の判別を行い、選択した前記動作モードを通知する動作モード制御部とを備える無線受信装置とを有する。
【発明の効果】
【0014】
不適切な動作モードを非選択にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】空間分割多重モードを説明するための図である。
【図3】送信ダイバーシチモードを説明するための図である。
【図4】無線送信装置の構成例を示す図である。
【図5】無線受信装置の構成例を示す図である。
【図6】送信ダイバーシチモード時の属性が登録されたテーブルを示す図である。
【図7】空間分割多重モード時の属性が登録されたテーブルを示す図である。
【図8】動作フローを示す図である。
【図9】動作フローを示す図である。
【図10】重み付け係数テーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は無線通信システムの構成例を示す図である。無線通信システム1は、無線送信装置10および無線受信装置20を備える。
【0017】
無線送信装置10は、複数の送信アンテナa1〜aMと、送信部11を含む。送信部11は、通知された動作モードにもとづいて信号送信を行う。送信部11の機能は、例えば、メモリに格納されたプログラムをプロセッサで実行することにより行われる。
【0018】
無線受信装置20は、複数の受信アンテナb1〜bN、受信部21、受信品質制御部22および動作モード制御部23を含む。受信部21は、受信アンテナb1〜bNで受信された受信信号の受信処理を行う。受信品質制御部22は、各受信信号の受信品質を測定し、受信品質の測定値の比率を算出する。受信部21、受信品質制御部22および動作モード制御部23の機能は、例えば、メモリに格納されたプログラムをプロセッサで実行することにより行われる。
【0019】
動作モード制御部23は、算出された比率と、あらかじめ設定した閾値との比較結果にもとづいて、運用対象の動作モードの選択、非選択の判別を行う。そして、選択した動作モードを無線送信装置10へ通知する。
【0020】
このように、無線通信システム1は、無線受信装置20側において、受信アンテナb1〜bN毎の受信信号の受信品質の比率を算出し、比率と閾値との比較結果にもとづいて、運用対象の動作モードの選択、非選択の判別を行う構成とした。
【0021】
受信品質の比率を求め、比率と閾値との比較処理を行うことによって、送信アンテナa1〜aMの送信電力状態を的確に認識することができる。また、認識結果にもとづいて動作モードの選択・非選択の判別(適不適の判別)を行うので、不適切な動作モードを選択しないようにすることが可能になる。
【0022】
例えば、上記の制御による比較結果から、送信アンテナa1〜aMからの送信電力に不平衡(インバランス)が生じていることを認識したとする。この場合には、送信電力にインバランスが生じているときにスループット特性を低下させてしまうような動作モード(例えば、空間分割多重モード)は不適切として非選択とすることが可能になる。
【0023】
このように、実通信環境の伝搬特性に合わない動作モードは非選択とし、実通信環境の伝搬特性に合った動作モードを選択するという判別処理を高精度に行うので、スループット特性の劣化を抑制することができる。
【0024】
次にMIMOの動作モードとして、空間分割多重モードおよび送信ダイバーシチモードについて説明する。なお、送信アンテナおよび受信アンテナがそれぞれ2本ずつ設置される場合を例にして説明する。
【0025】
図2は空間分割多重モードを説明するための図である。送信機50−1は、変調部51−1、アップコンバータ52−1および送信アンテナa1、a2を備える。受信機60−1は、受信アンテナb1、b2、分離部61−1および復調部62−1を備える。
【0026】
送信機50−1において、変調部51−1は、搬送波に送信すべきデータを変調させて変調信号を生成する。この場合、異なるデータd1、d2があり、データd1で変調して変調信号d1aを生成し、データd2で変調して変調信号d2aを生成したとする。
【0027】
アップコンバータ52−1は、変調信号d1aを搬送波周波数でアップコンバートして、無線周波信号A1を生成し、変調信号d2aを同じ搬送波周波数でアップコンバートして、無線周波信号A2を生成する。無線周波信号A1は、送信アンテナa1から送信され、無線周波信号A2は、送信アンテナa2から送信される。
【0028】
受信機60−1において、受信アンテナb1は、無線周波信号A1、A2が多重化された無線周波信号(A1、A2)を受信する。受信アンテナb2は、無線周波信号A1、A2が多重化された無線周波信号(A1、A2)を受信する。
【0029】
分離部61−1は、無線周波信号(A1、A2)の分離処理を含むダウンコンバートを行って、変調信号d1a、d2aを出力する。復調部62−1は、変調信号d1a、d2aを復調してデータd1、d2を再生する。
【0030】
このように、空間分割多重モードは、送信側では、各送信アンテナから異なる信号を同時に同一搬送波周波数で送信する。また、受信側では、送信された信号が多重されて受信されるので、それらを分離してから復調する。
【0031】
なお、信号を分離するアルゴリズムとしては、例えば、代表的なものにMMSE(Minimum Mean Square Error:平均自乗誤差最小化)やMLD(Maximum Likelihood Detection:最尤検出)などがある。
【0032】
図3は送信ダイバーシチモードを説明するための図である。送信機50−2は、変調部51−2、アップコンバータ52−2および送信アンテナa1、a2を備える。受信機60−2は、受信アンテナb1、b2、合波部61−2および復調部62−2を備える。
【0033】
送信機50−2において、変調部51−2は、搬送波に送信すべきデータd1を変調させて変調信号d1aを生成する。アップコンバータ52−2は、変調信号d1aを搬送波周波数でアップコンバートして、無線周波信号A1を生成する。無線周波信号A1は、送信アンテナa1、a2から送信される。
【0034】
受信機60−2において、受信アンテナb1、b2はそれぞれ、無線周波信号A1を受信する。合波部61−2は、受信アンテナb1、b2のそれぞれで受信された無線周波信号A1の合波処理を含むダウンコンバートを行って、変調信号d1aを出力する。復調部62−2は、変調信号d1aを復調してデータd1を再生する。
【0035】
このように、送信ダイバーシチモードは、送信側では、複数の異なる送信アンテナから同じ情報の信号を同時に送信する。また、受信側では、複数の各アンテナで受信した送信信号を合波した後に復調して、ダイバーシチ効果を得ている。
【0036】
次に無線通信システム1の詳細な構成について説明する。図4は無線送信装置の構成例を示す図であり、図5は無線受信装置の構成例を示す図である。
無線通信システム1−1は、無線送信装置10−1および無線受信装置20−1を備える。なお、実際には、1台の無線通信装置が、無線送信装置および無線受信装置の両方の機能を備えるが、説明をわかりやすくするため送受信機能を分けて記載している。
【0037】
無線送信装置10−1は、アンテナa1〜aM、通信I/F(インタフェース)部11a、MIMOモード・MCS(Modulation and Coding Scheme:変調方式および符号化率の組合せ)抽出部11bおよび信号処理部11cを含む。なお、通信I/F部11a、MIMOモード・MCS抽出部11bおよび信号処理部11cの各機能は、図1の送信部11に含まれる。
【0038】
無線受信装置20−1は、アンテナb1〜bN、通信I/F部21a、チャネル推定部21b、空間分割多重処理部21c、送信ダイバーシチ受信品質測定部22a、ストリーム受信品質測定部22b、受信品質比率算出部22c、閾値比較部23a、空間分割多重受信品質調整部23b、MIMOモード・MCS選択部23cおよびMIMOモード・MCS通知部23dを含む。
【0039】
なお、通信I/F部21a、チャネル推定部21bおよび空間分割多重処理部21cの各機能は、図1の受信部21に含まれる。また、送信ダイバーシチ受信品質測定部22a、ストリーム受信品質測定部22bおよび受信品質比率算出部22cの各機能は、図1の受信品質制御部22に含まれる。
【0040】
さらに、閾値比較部23a、空間分割多重受信品質調整部23b、MIMOモード・MCS選択部23cおよびMIMOモード・MCS通知部23dの各機能は、図1の動作モード制御部23に含まれる。
【0041】
無線受信装置20−1において、通信I/F部21aは、受信処理として、受信アンテナb1〜bNで受信した信号を、ベースバンド信号に変換する。また、ベースバンド信号のA/D変換を行って、アナログ信号のベースバンド信号をデジタル信号に変換する。
【0042】
チャネル推定部21bは、受信信号から送受信間のチャネルを推定する。空間分割多重処理部21cは、空間分割多重モードの多重信号の信号分離を行ってストリームを生成する。ストリームとは、空間分割多重モードの多重信号を分離した後の信号のことをいう。
【0043】
送信ダイバーシチ受信品質測定部22aは、送信ダイバーシチモードの受信品質を測定する(送信ダイバーシチモードにおける受信品質測定の内容は後述する)。ストリーム受信品質測定部22bは、アンテナb1〜bNで受信された多重化信号に対して、空間分割多重処理部21cで分離処理された後の各ストリームの受信品質を測定する(空間分割多重モードにおけるストリームの受信品質測定の内容については後述する)。
【0044】
受信品質比率算出部22cは、空間分割多重モードの各ストリームの受信品質の比率を算出する。閾値比較部23aは、受信品質の比率と、あらかじめ設定した閾値とを比較する。
【0045】
空間分割多重受信品質調整部23bは、ストリーム受信品質測定部22bで測定されたストリーム受信品質と、閾値比較部23aでの閾値比較の結果とを用いて、空間分割多重モードの受信品質の値を調整する。
【0046】
MIMOモード・MCS選択部23cは、送信ダイバーシチ受信品質測定部22aで測定された送信ダイバーシチモードの受信品質と、空間分割多重受信品質調整部23bで調整された空間分割多重モードの受信品質とを用いて、動作モードとして、MIMOモードおよびMCSを選択する。
【0047】
MIMOモード・MCS通知部23dは、選択された動作モードを送信側に通知する。この場合、選択された動作モードは、通信I/F部21aへ送信され、通信I/F部21aで動作モードの情報のアップコンバートが行われて、アンテナb1〜bNを通じて送信される。
【0048】
無線送信装置10−1において、通信I/F部11aは、無線受信装置20−1から通知された動作モードの情報を、アンテナa1〜aMを介して受信してダウンコンバートする。
【0049】
MIMOモード・MCS抽出部11bは、動作モードの情報を抽出して信号処理部11cへ渡す。信号処理部11cは、通知された動作モードにもとづいて、データを変調する。
【0050】
MIMOの動作モードが送信ダイバーシチモードの場合は、送信ダイバーシチ処理を行い、空間分割多重モードの場合は、空間分割多重処理を行う。通信I/F部11aは、ベースバンドの信号を搬送波周波数帯に変換し、アンテナa1〜aMからデータ送信を行う。
【0051】
次に具体的な計算式を示して動作について詳しく説明する。なお、送受信アンテナ本数をN(M=N)とする。また、空間分割多重モードの信号分離には、MMSE重みを使用し、受信品質としてはCINR(Carrier to Interference and Noise Ratio)を測定するものとする。
【0052】
チャネル推定部21bは、既知系列と、通信I/F部21aでのA/D変換後の信号とを用いて、送受信間のチャネルを推定する。推定したチャネル行列は、以下の式(1)で表すことができる。
【0053】
【数1】

ここで、Hm=[H0,m,・・・,HN-1,mTは、第m番目の送信信号の(N×1)チャネルベクトル、Hn,mは受信アンテナnと送信アンテナmのチャネル推定値を表している。
【0054】
送信ダイバーシチ受信品質測定部22aは、送信ダイバーシチモードの受信信号のCINRを測定する。送信ダイバーシチモードのCINR値CINRdivは、以下の式(2)で算出できる。なお、σ2は雑音電力を表している。
【0055】
【数2】

MIMOモード・MCS選択部23cでは、求めた送信ダイバーシチモードのCINR値から、送信ダイバーシチモードで送信した際の所要品質を満たす最も大きい周波数利用効率Edivを求める。
【0056】
図6は送信ダイバーシチモード時の属性が登録されたテーブルを示す図である。MIMOモード・MCS選択部23cは、テーブルT1を有している。テーブルT1には、送信ダイバーシチモード時の属性として、MCS、周波数利用効率Ediv(bit/s/Hz)およびCINRdivの関係が登録保持されている。
【0057】
テーブルT1の見かたとして、例えば、送信ダイバーシチモードのCINRdivが5.0以上8.0未満ならば、周波数利用効率Ediv=1であり、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying:R=1/2)のMCSが選択できる。
【0058】
すなわち、周波数利用効率Ediv=1のときは、動作モードとして、MIMOが送信ダイバーシチモード、MCSがQPSK(R=1/2)を選択できる。
また、送信ダイバーシチモードのCINRdivが10.0以上13.5未満ならば、周波数利用効率Ediv=2であり、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation:R=1/2)のMCSが選択できる。
【0059】
すなわち、周波数利用効率Ediv=2のときは、動作モードとして、MIMOが送信ダイバーシチモード、MCSが16QAM(R=1/2)を選択できる。
一方、空間分割多重処理部21cでは、空間分割多重モードにおいて信号分離を行う際の重み行列Wを生成する。重み行列Wは以下の式(3)で表すことができる。なお、Wmは、第m番目の送信信号に対する(1×N)MMSE重みベクトルを表している。
【0060】
【数3】

ストリーム受信品質測定部22bは、空間分割多重モードの各ストリームのCINR値を測定する。第m番目のストリームのCINR値CINR(m)sdmは、以下の式(4)で算出できる(式(4)の左辺は、CINRの上添え字にsdmを付け、下添え字にmを付けているが、明細書中はCINR(m)sdmとも表記する)。
【0061】
【数4】

上記の式(4)は、ストリーム単位の受信品質を示しているので、空間分割多重モードとしての受信品質は、式(4)で表される各信号のCINR値の平均値、最小値、最大値などで表す。本例では平均値を用いるとすると、平均値は以下の式(5)で算出できる。
【0062】
【数5】

受信品質比率算出部22cは、各ストリームのCINR値の比率を算出する。この際、最大CINR値を示すストリームに対する他のストリームのCINR値の比をそれぞれ測定する。
【0063】
第i番目のストリームと第j番目のストリームのCINRの比率Ratioijは、以下の式(6)で算出することができる(式中、第j番目のストリームのCINRsdmが最大CINR値に対応している)。
【0064】
【数6】

空間分割多重受信品質調整部23bは、式(6)で求めたCINRの比率にもとづいて、空間分割多重モードのCINR値を調整する。
【0065】
ここで、式(6)で求めた比率が、設定した閾値よりも大きい場合は、送信側のアンテナa1〜aMからの送信信号電力にインバランスが生じていると認識できる。なお、インバランスが生じる例としては、一方の送信アンテナからの送信信号が遮蔽物に遮られているが、他方の送信アンテナからの送信信号は遮蔽物に遮られていないなどがある。
【0066】
したがって、この場合の受信品質の調整方法としては、ゼロ(係数0)をCINR値に乗算することで、送信電力にインバランスが生じているときにスループット特性を低下させてしまうような空間分割多重モードが選択されないようにする。
【0067】
また、式(6)で求めた比率が、設定した閾値よりも小さい場合は、送信側のアンテナa1〜aMからの送信信号電力は、ほぼバランス状態にあると認識できる。この場合は、空間分割多重モードを動作モードの選択候補にするので、受信品質の調整方法としては、ストリームのCINR値を平均したものを空間分割多重モードのCINR値とする。
【0068】
MIMOモード・MCS選択部23cは、空間分割多重モードのCINR値(平均値)から、空間分割多重モードで送信した際の所要品質を満たす最も大きい周波数利用効率Esdmを求める。
【0069】
図7は空間分割多重モード時の属性が登録されたテーブルを示す図である。MIMOモード・MCS選択部23cは、テーブルT2を有している。テーブルT2には、空間分割多重モード時の属性として、MCS、周波数利用効率Esdm(bit/s/Hz)およびCINRsdmの関係が登録保持されている。
【0070】
テーブルT2の見かたとして、例えば、空間分割多重モードのCINRsdmが5.5以上10.0未満ならば、周波数利用効率Esdm=2であり、QPSK(R=1/2)のMCSが選択できる。
【0071】
すなわち、周波数利用効率Esdm=2のときは、動作モードとして、MIMOが空間分割多重モード、MCSがQPSK(R=1/2)を選択できる。
また、空間分割多重モードのCINRsdmが11.0以上16.5未満ならば、周波数利用効率Esdm=4であり、16QAM(R=1/2)のMCSが選択できる。
【0072】
すなわち、周波数利用効率Esdm=4のときは、動作モードとして、MIMOが空間分割多重モード、MCSが16QAM(R=1/2)を選択できる。
MIMOモード・MCS選択部23cは、送信ダイバーシチモードの周波数利用効率Edivと、空間分割多重モードの周波数利用効率Esdmとを比較する。そして、周波数利用効率が大きい方の動作モードを、テーブルT1またはテーブルT2から求めて、MIMOモードおよびMCSを決定する。MIMOモード・MCS通知部23dは、選択されたMIMOモードおよびMCSを送信側へ通知する。
【0073】
次にフローチャートを用いて説明する。図8、図9は動作フローを示す図である。
〔S1〕送信ダイバーシチ受信品質測定部22aは、式(2)を用いて、送信ダイバーシチモードの受信信号のCINRdivを算出する。
【0074】
〔S2〕MIMOモード・MCS選択部23cは、送信ダイバーシチモードのCINRdivから、送信ダイバーシチモードで送信した際の所要品質を満たす最も大きい周波数利用効率Edivを求める。
【0075】
〔S3〕ストリーム受信品質測定部22bは、式(4)を用いて、m番目のストリームのCINR(m)sdmを算出する。
〔S4〕受信品質比率算出部22cは、式(6)を用いて、ストリームのCINRの比率を算出する。
【0076】
〔S5〕閾値比較部23aは、CINR比率と閾値とを比較する。CINR比率が閾値を超える場合はステップS6へ行き、CINR比率が閾値を超えない場合はステップS7へ行く。
【0077】
〔S6〕空間分割多重受信品質調整部23bは、各ストリームのCINRに0を乗算する。
〔S7〕空間分割多重受信品質調整部23bは、式(5)を用いて、複数のストリームのCINRの平均値を算出する。
【0078】
〔S8〕MIMOモード・MCS選択部23cは、空間分割多重モードのCINRsdm(平均値)から、空間分割多重モードで送信した際の所要品質を満たす最も大きい周波数利用効率Esdmを求める。
【0079】
〔S9〕MIMOモード・MCS選択部23cは、周波数利用効率Ediv、Esdmを比較する。周波数利用効率Edivが周波数利用効率Esdmよりも大きいまたは等しい場合は、ステップS10へ行き、周波数利用効率Edivが周波数利用効率Esdmよりも小さい場合は、ステップS11へ行く。
【0080】
〔S10〕MIMOモード・MCS選択部23cは、送信ダイバーシチモードを選択する。
〔S11〕MIMOモード・MCS選択部23cは、空間分割多重モードを選択する。
【0081】
以上説明したように、空間分割多重モードのストリームの受信品質の比率が閾値を超えて、送信信号電力にインバランスが生じていると認識した場合には、空間分割多重モードを非選択とする。
【0082】
また、比率が閾値を超えない場合は、空間分割多重モードの受信品質から周波数利用効率Edivを求め、送信ダイバーシチモードの受信品質から周波数利用効率Esdmを求めて、周波数利用効率が大きい方の動作モードを選択する構成にした。
【0083】
これにより、送信信号電力にインバランスが生じている場合には、スループット特性を低下させる空間分割多重モードを非選択とし、送信ダイバーシチモードを選択するので、スループット特性の劣化を抑制することが可能になる。
【0084】
また、送信信号電力にインバランスが生じていない場合には、空間分割多重モードおよび送信ダイバーシチモードの周波数利用効率が高い方を選択するので、伝搬環境に応じた動作モードを選択することができ、スループット特性の向上を図ることが可能になる。
【0085】
次に具体的な数値例を用いて、空間分割多重モードの選択・非選択を行う場合の動作について説明する。
最初に、空間分割多重モードが選択候補に残り、送信ダイバーシチモードと空間分割多重モードのいずれかを決定する場合(アンテナインバランスが0dBの場合)について説明する。なお、送受信アンテナ本数をそれぞれ2本とし、SNR(signal to noise power ratio)=10dB(10)とする。
【0086】
チャネル推定部21bが推定したチャネル行列が、以下の式(7)であるとする。
【0087】
【数7】

また、空間分割多重処理部21cが生成するMMSE重み行列Wが、以下の式(8)であるとする。
【0088】
【数8】

ストリーム受信品質測定部22bは、第m番目のストリームのCINR値CINR(m)sdmを上記の式(4)で算出する。なお、式(4)中のW・Hは、以下の式(9)である。
【0089】
【数9】

送信ダイバーシチ受信品質測定部22aは、式(2)を用いて、送信ダイバーシチモードの受信信号のCINRdivを算出する。CINRdiv=44.1646と算出される。
【0090】
MIMOモード・MCS選択部23cは、図6のテーブルT1から、CINRdiv=44.1646を満たす最も大きい周波数利用効率Edivを求める。テーブルT1からEdiv=5が求まる。
【0091】
一方、ストリーム受信品質測定部22bは、式(4)を用いて、0番目、1番目のストリームの受信品質CINR(0)sdm、CINR(1)sdmを測定する。式(4)、式(9)にもとづき、CINR(0)sdm=13.5199、CINR(1)sdm=9.9389が算出される。
【0092】
受信品質比率算出部22cは、式(6)を用いて、受信品質の比率Ratio01を算出する。比率Ratio01=1.3364と算出される。
閾値比較部23aは、あらかじめ設定した閾値が15であるとして、算出された比率Ratio01と閾値とを比較する。(比率Ratio01=1.3364)≦(閾値=15)であり、比率は閾値よりも小さい。したがって、送信信号電力は、バランス状態にあると認識できる。
【0093】
空間分割多重受信品質調整部23bは、ストリームのCINR値を平均したものを空間分割多重モードのCINR値CINRsdmとする。この例では、式(5)から、CINRsdm=(CINR(0)sdm+CINR(1)sdm)/2=11.7294と算出される。
【0094】
MIMOモード・MCS選択部23cは、図7のテーブルT2から、CINRsdm=11.7294を満たす最も大きい周波数利用効率Esdmを求める。テーブルT2からEsdm=4が求まる。
【0095】
MIMOモード・MCS選択部23cは、周波数利用効率Ediv、Esdmを比較する。Ediv(=5)>Esdm(=4)であるから、送信ダイバーシチモードを選択することになる。
すなわち、MIMOモード・MCS選択部23cは、MIMOの動作モードとして、送信ダイバーシチモードを選択し、テーブルT1からMCSの動作モードとして、64QAM(R=5/6)を選択する。
【0096】
MIMOモード・MCS通知部23dは、選択された動作モードを送信側へ通知し、送信側では通知された動作モード(送信ダイバーシチモード、64QAM(R=5/6))でデータ送信を行う。
【0097】
次に空間分割多重モードが非選択される場合(アンテナインバランスが例えば、20dBの場合)について説明する。なお、送受信アンテナ本数をそれぞれ2本とし、SNR=10dB(10)とする。
【0098】
チャネル推定部21bが推定したチャネル行列が、以下の式(10)であるとする。
【0099】
【数10】

また、空間分割多重処理部21cが生成するMMSE重み行列Wが、以下の式(11)であるとする。
【0100】
【数11】

ストリーム受信品質測定部22bは、第m番目のストリームのCINR値CINR(m)sdmを上記の式(4)で算出する。なお、式(4)中のW・Hは、以下の式(12)となる。
【0101】
【数12】

送信ダイバーシチ受信品質測定部22aは、式(2)を用いて、送信ダイバーシチモードの受信信号のCINRdivを算出する。CINRdiv=126.4218と算出される。
【0102】
MIMOモード・MCS選択部23cは、図6のテーブルT1から、CINRdiv=126.4218を満たす最も大きい周波数利用効率Edivを求める。テーブルT1からEdiv=5が求まる。
【0103】
一方、ストリーム受信品質測定部22bは、式(4)を用いて、0番目、1番目のストリームの受信品質CINR(0)sdm、CINR(1)sdmを測定する。上記の式(12)にもとづき、CINR(0)sdm=77.0345、CINR(1)sdm=0.0547が算出される。
【0104】
受信品質比率算出部22cは、式(6)を用いて、受信品質の比率Ratio01を算出する。比率Ratio01=31.4893と算出される。
閾値比較部23aは、あらかじめ設定した閾値が15であるとして、算出された比率Ratio01と閾値とを比較する。(比率Ratio01=31.4893)>(閾値=15)であり、比率は閾値よりも大きい。したがって、送信信号電力は、インバランス状態にあると認識できる。
【0105】
空間分割多重受信品質調整部23bは、ストリームのCINR値に0を乗算して、空間分割多重モードのCINR値CINRsdm=0とする。すなわち、送信側のアンテナa1〜aMからの送信信号電力にインバランスが生じていると認識し、空間分割多重モードを非選択とするために、各ストリームのCINR値に0を乗算して、空間分割多重モードのCINRsdmを0としている。
【0106】
MIMOモード・MCS選択部23cは、図7のテーブルT2から、CINRsdm=0を満たす最も大きい周波数利用効率Esdmを求める。テーブルT2からEsdm=0が求まる。
MIMOモード・MCS選択部23cは、周波数利用効率Ediv、Esdmを比較する。Ediv(=5)>Esdm(=0)であるから、送信ダイバーシチモードを選択することになる(空間分割多重モードを強制的に非選択として、送信ダイバーシチモードを選択している)。
【0107】
すなわち、MIMOモード・MCS選択部23cは、MIMOの動作モードとして、送信ダイバーシチモードを選択し、テーブルT1からMCSの動作モードとして、64QAM(R=5/6)を選択する。
【0108】
MIMOモード・MCS通知部23dは、選択された動作モードを送信側へ通知し、送信側では通知された動作モード(送信ダイバーシチモード、64QAM(R=5/6))でデータ送信を行う。
【0109】
次に空間分割多重モードの受信品質に重み付けを行う変形例について説明する。上記では、比率が閾値を超える場合は、各ストリームのCINRに0を乗算し、比率が閾値を超えない場合は、各ストリームのCINRの平均値を求めている。変形例では、比率が閾値を超えない場合は、各ストリームのCINRに0でない係数(重み付け係数)を乗算してから平均値を求めるものである。
【0110】
図10は重み付け係数テーブルを示す図である。空間分割多重受信品質調整部23bは、重み付け係数テーブルT3を有している。重み付け係数テーブルT3には、比率範囲および重み付け係数(α)の属性が登録保持されている。
【0111】
図の例では、比率が0以上5未満の範囲ではα=1、比率が5以上10未満の範囲ではα=0.75、比率が10以上15未満の範囲ではα=0.5、比率が15以上ではα=0(空間分割多重モードの非選択の場合)となっている。
【0112】
なお、ストリームのCINRが重み付け係数で調整された際の平均値は、例えば、ストリーム(0)(1)の場合は、以下の式(13)で表せる。
CINRsdm=α×(CINR(0)sdm+CINR(1)sdm+)/2
・・・(13)
このように、各ストリームの受信品質に重み付けを行って、空間分割多重モードの受信品質を求めることにより、伝搬環境に応じた空間分割多重モードの受信品質を柔軟に求めることが可能になる。
【0113】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 無線通信システム
10 無線送信装置
11 送信部
20 無線受信装置
21 受信部
22 受信品質制御部
23 動作モード制御部
a1〜aM 送信アンテナ
b1〜bN 受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナと、通知された動作モードにもとづいて信号送信を行う送信部と、を備える無線送信装置と、
複数の受信アンテナと、各受信信号の受信品質を測定し、前記受信品質の比率を算出する受信品質制御部と、前記比率と閾値との比較結果にもとづいて、動作モードの選択、非選択の判別を行い、選択した前記動作モードを通知する動作モード制御部と、を備える無線受信装置と、
を有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記動作モード制御部は、前記比率が前記閾値を超える場合は、複数の前記送信アンテナからの送信信号電力に不平衡が生じていると認識し、前記動作モードとして、空間分割多重モードを非選択とすることを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記動作モード制御部は、
空間分割多重モードの受信品質測定時に、
前記比率が前記閾値を超えない場合は、各ストリームの前記受信品質の平均値を算出して、前記平均値に対応する第1の周波数利用効率を求め、
送信ダイバーシチモードの受信品質測定時に、
前記受信アンテナ毎の前記受信品質の合成値を算出して、前記合成値に対応する第2の周波数利用効率を求め、
前記第1の周波数利用効率と前記第2の周波数利用効率とを比較して、周波数利用効率が大きい方の動作モードである、前記空間分割多重モードまたは前記送信ダイバーシチモードのいずれかを選択する、
ことを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記動作モード制御部は、前記空間分割多重モードの受信品質測定時に、各ストリームの前記受信品質に重み付けを行い、
前記比率が前記閾値を超える場合は、各ストリームの前記受信品質に0を乗算し、
前記比率が前記閾値を超えない場合は、各ストリームの前記受信品質に0でない係数で重み付けを行って前記平均値を算出する、
ことを特徴とする請求項3記載の無線通信システム。
【請求項5】
無線通信装置において、
複数の受信アンテナと、
各受信信号の受信品質を測定し、前記受信品質の比率を算出する受信品質制御部と、
前記比率と閾値との比較結果にもとづいて、運用対象となる動作モードの選択、非選択の判別を行い、選択した前記動作モードを送信側へ通知する動作モード制御部と、
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
無線通信方法において、
複数の受信アンテナで受信された各受信信号の受信品質を測定して、前記受信品質の比率を算出し、
前記比率と閾値との比較結果にもとづいて、運用対象となる動作モードの選択、非選択の判別を行い、
選択した前記動作モードを送信側へ通知する、
ことを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−74479(P2013−74479A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212228(P2011−212228)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】