説明

無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラム

【課題】送信機及び受信機がそれぞれ線形領域又は非線形領域の波形等化アルゴリズムを用いて送受信処理を行なって最良のリンク特性を達成する。
【解決手段】線形領域波形等価アルゴリズムの観点からみるとチャネル行列のランクが下がり2本以上のストリームを通すには厳しいチャネルではあるが、2本以上のストリームのSNRが高い環境であれば、送信機側では、SVD−MIMOによるビーム・フォーミング送信を取りやめて、固定ビーム・フォーミング又は重み付けせずに送信し、受信機側では、非線形領域波形等価アルゴリズムに従ったMLD受信方式を行なうことで、ピークレートを向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ1以上のアンテナを持つ送信機と受信機が対となって空間多重(MIMO)通信方式により伝送容量を拡大したデータ通信を行なう無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラムに係り、特に、送信機及び受信機がそれぞれ線形領域又は非線形領域の波形等化アルゴリズムを用いて送受信処理を行なって最良のリンク特性を達成する無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
旧来の有線通信方式における配線から解放するシステムとして、無線ネットワークが注目されている。無線ネットワークに関する標準的な規格として、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11やIEEE802.15を挙げることができる。例えばIEEE802.11a/gでは、無線LANの標準規格として、マルチキャリア方式の1つであるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式が採用されている。
【0003】
また、IEEE802.11a/gの規格では最大で54Mbpsの通信速度を達成する変調方式をサポートしているが、さらなる高ビットレートを実現できる次世代の無線LAN規格が求められている。無線通信の高速化を実現する技術の1つとして、MIMO(Multi−Input Multi−Output)通信が注目を集めており、IEEE802.11の拡張規格であるIEEE802.11n(TGn)ではOFDM_MIMO通信方式を採用している。
【0004】
MIMOとは、送信機側と受信機側の双方において複数のアンテナ素子を備え、空間多重したストリームを実現する通信方式である。送信側では、複数の送信データに空間/時間符号を施して多重化し、複数本の送信アンテナに分配してチャネルに送信する。これに対し、受信側では、チャネル経由で複数本の受信アンテナにより受信した受信信号を空間/時間復号を施して複数の送信データに分離して、ストリーム間のクロストークなしに元のデータを得ることができる。MIMO通信方式によれば、周波数帯域を増大させることになく、アンテナ本数に応じて伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成することができる。また、空間多重を利用するので、周波数利用効率はよい。MIMOはチャネル特性を利用した通信方式であり、単なる送受信アダプティブ・アレーとは相違する。
【0005】
MIMO通信では、送信機側で複数の送信ブランチからの送信ストリームを空間多重するための送信重み行列や、受信機側で空間多重信号を元の複数のストリームに空間分離するための受信重み行列を、チャネル行列Hを利用してそれぞれ計算する。チャネル行列Hは、送受信アンテナ対に対応するチャネル情報を要素とした数値行列である。ここで言うチャネル情報は、位相と振幅を成分に持つ伝達関数である。通常、送受信機の間でチャネル行列を励起するための既知リファレンス・シンボルからなるトレーニング系列を含んだフレーム交換シーケンスを実施することで、チャネル行列を推定することができる。
【0006】
MIMO通信システムの中で、最良のリンク特性を実現できる方式の1つとして、SVD−MIMOが知られている。同方式は、チャネル行列HをUDVHに特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)することで(すなわち、H=UDVH)、送信ビーム・フォーミング行列Vを得るものである。
【0007】
一方、ビームフォームされた空間多重信号を受信する受信側で、チャネル行列Hから受信重み行列を求める比較的簡単なアルゴリズムとして、完全にクロストークを取り除く論理に基づいてチャネル行列Hの逆行列H-1を単純に受信重み行列に用いるZero Force(ZF:ゼロ化規範)や、信号電力と2乗エラー(クロストーク電力と雑音電力の和)の比すなわちSNRを最大化する論理に基づいてチャネル行列Hから受信重み行列Wを算出するMMSE(MinimumMean Square Error)受信方式が挙げられる。MMSEは、受信機の雑音電力の概念を導入し、クロストークを意図的に発生させて受信重み行列Wを求めるアルゴリズムであり、雑音が大きい環境下では、Zero ForceよりもMMSEの方が優れていることが知られている。
【0008】
また、空間多重された受信信号を空間分離する他のアルゴリズムとして、考え得るすべての送信信号系列パターンとのマッチングにより最尤の送信系列を推定するMLD(Maximum Likelihood Detection)を挙げることもできる。MLDは、受信方式が最も高いパフォーマンスを示す受信方式であることが知られているが、演算規模が大きく実装が困難であるという問題がある。
【0009】
例えば、SVD−MIMO通信方式にMLD受信方式を組み合わせて、SVDとMLDそれぞれの演算量を低減しつつ、SVD本来の受信特性を改善する無線通信システムについて提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0010】
SVDにより得られる行列Vをビーム・フォーミング係数として用いることで、送受信間でクロストークのない完全な直交チャネルを作り出すことができる。この際、線形領域推定方式であれば受信方式は特に問われない。
【0011】
ところが、送信機の送信アンテナ本数と送信ビーム・フォーミングにより形成される送信ストリーム本数が等しい場合で、複数のストリーム間で等しい変調方式を割り当てた場合には、通信条件(チャネル行列Hの状態)次第では、非線形領域の推定方式であるMLD受信方式の本来の特性改善効果を期待できなくなってしまうということが、本発明者らの検証により判明した。
【0012】
【特許文献1】特開2007−110203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、それぞれ1以上のアンテナを持つ送信機と受信機が対となってMIMO通信方式により伝送容量を拡大したデータ通信を行なうことができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラムを提供することにある。
【0014】
本発明のさらなる目的は、送信機及び受信機がそれぞれ線形領域又は非線形領域の波形等化アルゴリズムを用いて送受信処理を行なって最良のリンク特性を達成することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラムを提供することにある。
【0015】
本発明のさらなる目的は、送信機及び受信機がそれぞれチャネル行列Hの状態に応じた波形等化アルゴリズムを用いて送受信処理を行なって最良のリンク特性を達成することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、それぞれ1以上のアンテナを備える送信機及び受信機からなる無線通信システムであって、
前記送信機と前記受信機間のチャネルの状態を判定するチャネル状態判定手段と、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記送信機における送信方式及び前記受信機における受信方式を切り換える方式制御手段と、
を具備することを特徴とする無線通信システムである。
【0017】
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【0018】
また、本願の請求項2に記載の発明では、前記チャネル状態判定手段は、前記送信機と前記受信機間で推定されるチャネル行列の行列式又は固有値のランク数を算出して、通信可能なストリーム本数並びに変調方式を判定し、前記方式制御手段は、前記チャネル状態判定手段による判定結果以内のストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用するとともに前記受信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するが、前記チャネル状態判定手段による判定結果を超えたストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるとともに、前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するように構成されている。
【0019】
また、本願の請求項3に記載の発明では、前記チャネル状態判定手段は、前記送信機と前記受信機間のチャネル行列のランク数とSNRを判定する。そして、前記方式制御手段は、チャネル行列のランク数が高く2以上のストリームを通すことが可能なときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用するとともに、前記受信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するが、チャネル行列のランク数が低下し2以上のストリームを通すことが困難であるが2以上のストリームのSNRが高いときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるとともに、前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0020】
また、本願の請求項4に記載の発明では、送信アンテナM本に対してM本のストリームを送信する際には、前記方式制御手段は、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるとともに、前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0021】
また、本願の請求項5に記載の発明では、前記受信機は、非線形領域波形等化アルゴリズムに従った受信方式を用いる場合には、前記送信機からのチャネル行列を励起させるためのトレーニング系列を含んだSoundingパケットの送信要求に対し、Soundingを無効化したレスポンス・パケットを返信するようになっている。
【0022】
また、本願の請求項6に記載の発明では、前記受信機は、非線形領域波形等化アルゴリズムに従った受信方式を用いる場合には、前記送信機からのチャネル行列を励起させるためのトレーニング系列を含んだSoundingパケットの送信要求に対し、Soundingを無効化したレスポンス・パケットを返信するようになっている。
【0023】
また、本願の請求項7に記載の発明では、前記チャネル状態判定手段は、前記送信機と前記受信機間のチャネルのSNRとチャネル行列の固有値に従った線形の評価関数と、SNRの単独の評価と、及び非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件か否かを検査する評価関数に基づいて、前記送信機が線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用すべきか否かを判定するようになっている。
【0024】
また、本願の請求項8に記載の発明において、前記の非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であると判定されることである。そして、前記方式制御手段は、該判定結果に応じて、前記受信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0025】
また、本願の請求項9に記載の発明では、前記チャネル状態判定手段は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定するようになっている。
【0026】
また、本願の請求項10に記載の発明では、前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じてメトリックの距離を算出し、該メトリックの距離が設定閾値よりも小さければ、前記送信機がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断するようになっている。
【0027】
また、本願の請求項11に記載の発明は、前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じて非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式のメトリックを算出し、得られた各々のメトリック間の距離が所定の閾値を下回るときには、前記送信機がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断するようになっている。
【0028】
また、本願の請求項12に記載の発明では、前記受信機は、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断したときは、線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0029】
また、本願の請求項13に記載の発明では、前記受信機は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であるときに、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断するようになっている。
【0030】
また、本願の請求項14に記載の発明では、前記受信機は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定するようになっている。
【0031】
また、本願の請求項15に記載の発明は、
1以上のアンテナと、
通信相手とのチャネルの状態を判定するチャネル状態判定手段と、
パケットの送受信処理を行なう通信手段と、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記通信手段における送受信方式を切り換える方式制御手段と、
を具備することを特徴とする無線通信装置である。
【0032】
また、本願の請求項16に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、前記通信相手との間で推定されるチャネル行列の行列式又は固有値のランク数を算出して、通信可能なストリーム本数並びに変調方式を判定する。そして、前記方式制御手段は、前記チャネル状態判定手段による判定結果以内のストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式又は受信方式を適用し、前記チャネル状態判定手段による判定結果を超えたストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめ、又は前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0033】
また、本願の請求項17に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、前記通信相手との間のチャネル行列のランク数とSNRを判定する。そして、前記方式制御手段は、チャネル行列のランク数が高く2以上のストリームを通すことが可能なときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式又は受信方式を適用し、チャネル行列のランク数が低下し2以上のストリームを通すことが困難であるが2以上のストリームのSNRが高いときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめ、又は非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0034】
また、本願の請求項18に記載の無線通信装置は、M本の送信アンテナを備え、前記方式制御手段は、M本のストリームを送信する際には、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるようになっている。
【0035】
また、本願の請求項19に記載の無銭通信装置では、前記方式制御手段は、M本の送信アンテナを持つ通信相手からM本のストリームで送信されたパケットを受信するときには、非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0036】
また、本願の請求項20に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、前記通信相手との間のチャネルのSNRとチャネル行列の固有値に従った線形の評価関数と、SNRの単独の評価と、及び非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件か否かを検査する評価関数に基づいて、前記通信相手が線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用すべきか否かを判定するようになっている。
【0037】
また、本願の請求項21に記載の発明において、前記の非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であると判定されることである。そして、前記方式制御手段は、該判定結果に応じて線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0038】
また、本願の請求項22に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定するようになっている。
【0039】
また、本願の請求項23に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じてメトリックの距離を算出し、該メトリックの距離が設定閾値よりも小さければ、前記通信相手がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断するようになっている。
【0040】
また、本願の請求項24に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じて非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式のメトリックを算出し、得られた各々のメトリック間の距離が所定の閾値を下回るときには、前記通信相手がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断するようになっている。
【0041】
また、本願の請求項25に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段がビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断したときは、前記方式制御手段は、線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するようになっている。
【0042】
また、本願の請求項26に記載の無線通信装置では、前記チャネル状態判定手段は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であるときに、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断するようになっている。
【0043】
また、本願の請求項27に記載の無線通信装置は、前記チャネル状態判定手段は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定するようになっている。
【0044】
また、本願の請求項28に記載の発明は、1以上のアンテナを用いた無線通信方法であって、
通信相手とのチャネルの状態を判定するチャネル状態判定ステップと、
パケットの送受信処理を行なう通信ステップと、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記通信ステップにおける送受信方式を切り換える方式制御ステップと、
を有することを特徴とする無線通信方法である。
【0045】
また、本願の請求項29に記載の発明は、1以上のアンテナを用いた無線通信処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、前記コンピューターを、
通信相手とのチャネルの状態を判定するチャネル状態判定手段、
パケットの送受信処理を行なう通信手段、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記通信手段における送受信方式を切り換える方式制御手段、
として機能させるためのコンピューター・プログラムである。
【0046】
本願の請求項29に係るコンピューター・プログラムは、コンピューター上で所定の処理を実現するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムを定義したものである。換言すれば、本願の請求項29に係るコンピューター・プログラムをコンピューターにインストールすることによって、コンピューター上では協働的作用が発揮され、本願の請求項15に係る無線通信装置と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、送信機及び受信機がそれぞれ線形領域又は非線形領域の波形等化アルゴリズムを用いて送受信処理を行なって最良のリンク特性を達成することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラを提供することができる。
【0048】
また、本発明によれば、送信機及び受信機がそれぞれチャネル行列Hの状態に応じた波形等化アルゴリズムに切り換えて送受信処理を行なって、最良のリンク特性を達成することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピューター・プログラムを提供することができる。
【0049】
SVD−MIMOやMMSE受信などの線形領域の波形等化技術では、チャネル行列Hのランク数以上のストリーム本数を通すことはできない。これに対し、MLD受信などの非線形領域の波形等化技術によれば、ストリームのSNRが充分に高ければ、チャネル行列Hの状態に依らず、チャネル行列Hの行列式や固有値のランク数が示す本数以上のストリームを通すことができる可能性があるという優位な点がある。本願の請求項1、2、3、4、15、16、17、18、19、28、29のそれぞれに記載の発明によれば、線形並びに非線形領域それぞれの波形等化アルゴリズムの利得を最大限に発揮できるように送受信方式を制御することで、最良のリンク特性を確保することができる。
【0050】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、受信機は、MLDなどの非線形領域波形等化アルゴリズムに従った受信方式を用いる場合には、送信機からのトレーニング信号のフィードバック要求に対してSoundingパケットを返さず、送信機におけるビーム・フォーミング送信を意図的に禁止させることができる。これによって、送信機側におけるSVD−MIMOによるABFと受信機側におけるMLD受信の組み合わせが回避され、リンク特性の劣化を防ぐことができる。
【0051】
また、本願の請求項6に記載の発明によれば、受信機は、MLDなどの非線形領域波形等化アルゴリズムに従った受信方式を用いる場合には、送信機からのリンク・アダプテーション要求に対してSoundingパケットを返さず、送信機におけるビーム・フォーミング送信を意図的に禁止させることによって、リンク特性の劣化を防ぐことができる。
【0052】
また、本願の請求項7、8、20、21のそれぞれに記載の発明によれば、受信機は、ビーム・フォーミング送信されたパケットを受信するときには、最良の受信特性を示すMLD受信を行なわず、ZFやMMSEといった回路規模の小さな線形領域等化アルゴリズムに従った受信方式に切り換えることで、低消費電力化を図ることができる。
【0053】
また、本願の請求項9、22のそれぞれに記載の発明によれば、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かによってチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定することができる。
【0054】
また、本願の請求項10、23のそれぞれに記載の発明によれば、ビーム・フォーミング送信を行なうことが適当でないときには複数の送信パターンに対するメトリックが近接するという性質を利用して、送信機がビーム・フォーミング送信を行なうべきか否かを検査することができる。
【0055】
また、本願の請求項11、24のそれぞれに記載の発明によれば、検査用のコンスタレーション・パターンについてMLD受信を行なって得られる各メトリック間の距離に基づいて、MLDを解き難い状態でないかどうかを判断し、送信機がビーム・フォーミング送信を行なうべきか否かを検査することができることができる。
【0056】
また、本願の請求項12、25のそれぞれに記載の発明によれば、受信機は、SVDに基づくビーム・フォーミング送信信号を受信するときは、最良の受信特性を示すMLD受信を行なわず、ZFやMMSEといった回路規模の小さな線形領域等化アルゴリズムに従った受信方式に切り換えることで、低消費電力化を図ることができる。
【0057】
また、本願の請求項13、14、26、27のそれぞれに記載の発明によれば、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であるときに、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断することができる。
【0058】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0060】
図10には、無線通信機能を搭載したコンピューターの構成例を示している。
【0061】
CPU(Central Processing Unit)1は、オペレーティング・システム(OS)が提供するプログラム実行環境下で、ROM(Read Only Memory)2やハード・ディスク・ドライブ(HDD)11に格納されているプログラムを実行する。例えば、後述する受信パケットの同期処理又はその一部の処理をCPU1が所定のプログラムを実行するという形態で実現することもできる。
【0062】
ROM2は、POST(Power On Self Test)やBIOS(Basic Input Output System)などのプログラム・コードを恒久的に格納する。RAM(Random Access Memory)3は、ROM2やHDD11に格納されているプログラムをCPU1が実行する際にロードしたり、実行中のプログラムの作業データを一時的に保持したりするために使用される。これらはCPU1のローカル・ピンに直結されたローカル・バス4により相互に接続されている。
【0063】
ローカル・バス4は、ブリッジ5を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect)バスなどの入出力バス6に接続されている。
【0064】
キーボード8と、マウスなどのポインティング・デバイス9は、ユーザにより操作される入力デバイスである。ディスプレイ10は、LCD(Liquid Crystal Display)又はCRT(Cathode Ray Tube)などから成り、各種情報をテキストやイメージで表示する。
【0065】
HDD11は、記録メディアとしてのハード・ディスクを内蔵したドライブ・ユニットであり、ハード・ディスクを駆動する。ハード・ディスクには、オペレーティング・システムや各種アプリケーションなどCPU1が実行するプログラムをインストールしたり、データ・ファイルなどを保存したりするために使用される。
【0066】
通信部12は、例えばIEEE802.11a/nに従う無線通信インターフェースであり、インフラストラクチャ・モード下でアクセスポイント若しくは端末局として動作し、あるいはアドホック・モード下で動作し、通信範囲内に存在するその他の通信端末との通信を実行する。
【0067】
本実施形態では、通信部12は、送信機側と受信機側の双方において複数のアンテナ素子を備え、空間多重したストリームを実現するMIMO通信方式を採用している。送信ブランチ側では、複数の送信データに空間/時間符号を施して多重化し、複数本の送信アンテナに分配してチャネルに送信する。一方、受信ブランチ側では、チャネル経由で複数本の受信アンテナにより受信した受信信号を空間/時間復号を施して複数の送信データに分離して、ストリーム間のクロストークなしに元のデータを得る。MIMO通信方式によれば、周波数帯域を増大させることになく、アンテナ本数に応じて伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成することができる。
【0068】
図11には、MIMO通信システムを概念的に示している。図示のシステムは、例えば2ストリームの2×2構成であり、MIMO送信機には、2本のアンテナ、すなわち送信アンテナ0と送信アンテナ1を備え、一方のMIMO受信機も2本の受信アンテナ0と受信アンテナ1を備えている。ここで、送信アンテナ0と受信アンテナ0の伝搬路を伝搬路a、送信アンテナ1と受信アンテナ0の伝搬路を伝搬路b、送信アンテナ0と受信アンテナ1の伝搬路を伝搬路c、送信アンテナ1と受信アンテナ1の伝搬路を伝搬路dとする。そして、送信機は、送信アンテナ0に対して送信データ系列x0を送信アンテナ1に対して送信データ系列x1をそれぞれ割り当て、受信機は、受信アンテナ1において受信データ系列y0を受信し、受信アンテナ1において受信データ系列y1をそれぞれ受信したものとする。この場合の伝搬路状態は、以下の式(1)のように表現することができる。但し、y、H、x、nはそれぞれ受信信号、チャネル行列、送信信号、雑音成分である。
【0069】
【数1】

【0070】
図11では送受信アンテナがともに2本の場合を示したが、アンテナ本数が2本以上であれば、同様にしてMIMO通信システムを構築することができる。送信側アンテナ本数がMで受信側アンテナ本数がNのときは、チャネル行列はN×M(行×列)の行列となる。通常、送受信機間でチャネル行列を励起する既知トレーニング系列を交換し、実際に受信された信号と既知系列との差分によって伝達関数の推定を行ない、送受アンテナ組み合わせ分の経路の伝達を行列形式に並べることでチャネル行列Hを構成することができる。そして、推定されたチャネル行列に基づいて、送信機側で複数の送信ブランチからの送信ストリームを空間多重するための送信重み行列や、受信機側で空間多重信号を元の複数のストリームに空間分離するための受信重み行列を得ることができる。理想的には、送受信アンテナのうち少ない方の数(MIN[M,N])だけの送信ストリームが形成される。
【0071】
例えば、チャネル行列HをSVD(特異値分解:前述)若しくはその他の行列分解手法を用いて、送信時に各送信アンテナに重みを与えてビーム・フォーミングを行なうための送信ビーム・フォーミング行列Vを得ることができる(前述)。チャネル行列Hの特異値分解は下式(2)のように表現される。
【0072】
【数2】

【0073】
上式(2)に示すように、チャネル行列Hを特異値分解すると、チャネル行列Hに含まれる1次独立な列ベクトルの総数すなわちチャネル行列Hのランク(rank:階数)に相当する個数mの固有値λiが得られる(但し、iは0〜mの整数)。UはHHHの正規化された固有値λiを並べた左特異行列であり、(送信ビーム・フォーミング行列として用いられる)VはHHHの正規化された固有値λiを並べた右特異行列であり、DはHHH又はHHHの固有値λiの平方根を対角要素として持つ対角行列である。UとVはユニタリ行列であり、その複素共役転置行列が互いの逆行列となっている。なお、固有値の利得は、順序付けが行なわれ、第1の固有値λ1が最大、第mの固有値λmが最小の利得を有する。チャネル行列Hのランクmが下落すると、伝送ストリーム数が減少し、伝送効率にとって致命的となる。
【0074】
また、受信信号を空間分離するための受信重み行列をチャネル行列Hから求めるさらにアルゴリズムとして、信号電力と2乗エラー(クロストーク電力と雑音電力の和)の比すなわちSNRを最大化する論理に基づいてチャネル行列Hから受信重み行列Wを算出するMMSE(MinimumMean Square Error)受信方式が挙げられる。MMSEは、受信機の雑音電力の概念を導入し、クロストークを意図的に発生させて受信重み行列Wを求めるアルゴリズムであり、雑音が大きい環境下で優れていることが知られている。
【0075】
空間多重された受信信号を空間分離する他のアルゴリズムとして、考え得るすべての送信信号系列パターンとのマッチングにより最尤の送信系列を推定するMLD(Maximum Likelihood Detection)を挙げることもできる。MLDは、受信方式が最も高いパフォーマンスを示す受信方式であることが知られているが、演算規模が大きく実装が困難であるという問題がある。
【0076】
上記のSVDやMMSEは線形領域における波形等化アルゴリズムに分類され、MLDは非線形領域における波形等化アルゴリズムに分類される。
【0077】
図1及び図2には、MIMO通信を行なう通信部12の送信機及び受信機の構成例をそれぞれ示している。
【0078】
図1に示す送信機のアンテナ本数(若しくは、送信ブランチ数)はMであり、このMは例えばIEEE仕様準拠であれば最大4本である。以下では、送信ビーム・フォーミングを行なう場合を例にとって、送信機の構成について説明する。
【0079】
データ発生器100から供給される送信データは、スクランブラ102においてスクランブルが掛けられる。次いで、符号化器104で誤り訂正符号化を施される。スクランブル及び符号化方式は、例えばIEEE802.11aの定義に従う。そして、符号化信号はデータ振り分け器106に入力され、各送信ストリームに振り分けられる。
【0080】
各送信ストリームでは、ストリーム毎に与えられたデータレートに従って、送信信号をパンクチャ108によりパンクチャし、インタリーバ110によりインタリーブし、マッパー112により、in位相(I)と直角位相(Quadrature:Q)からなるIQ信号空間にマッピングして複素ベースバンド信号となる。また、セレクタ111は、インタリーブされた空間ストリーム毎の送信信号に、適当なタイミングでトレーニング系列を挿入して、マッパー112に供給する。インタリーブ方式は、例えばIEEE802.11aの定義を拡張し、複数ストリーム間で同一のインタリーブにならないようになっている。また、マッピング方式もIEEE802.11aに従い、BPSK、QPSK、16QAM、64QAMを適用する。
【0081】
空間多重部114内では、ビーム形成用送信重み行列計算部114aは、例えば、チャネル行列HからSVDなどの行列分解手法によって送信ビーム・フォーミング行列Vを組み立てる。あるいは、通信相手からフィードバックされるチャネル情報から送信ビーム・フォーミング行列Vを組み立てることもできる(周知)。そして、送信重み行列乗算部114bが各送信ストリームを要素とする送信ベクトルにこの送信重み行列Vを乗算して、送信信号にビーム形成を施す。
【0082】
送信重み行列乗算部114bがチャネル行列Hに基づいて適応的な送信ビーム・フォーミングを行なう以外に、固定的なビーム・フォーミングを行なう方法も挙げられる。以下では、前者をABF(Advanced Beamforming)、後者をSE(Spatial Expansion)とも呼ぶことにする。固定ビーム・フォーミングの一例として、送信ブランチ間で送信タイミングに時間差を設けるCyclic Delay Diversity(CDD)を挙げることができる。CDDには、異なる空間ストリームを通して同一又は類似する信号が伝送される際に、意図しないビームが形成されないようにするなどの効果がある。ABF並びにSEのいずれも、線形領域における波形等化アルゴリズムに従った送信方式である。本実施形態では、送信重み行列乗算部114bは、チャネル行列の検査結果に従って、線形領域は系統化アルゴリズムに従った送信方式の適用を取りやめることがあるが、この点の詳細については後述に譲る。
【0083】
なお、本実施形態では、チャネル行列Hの状態に応じて、送信重み行列乗算部114bでABF又はSEのうちいずれかのビーム・フォーミングを行い、あるいは重み付けを行なわない場合もあるが、この点の詳細については後述に譲る。
【0084】
高速フーリエ逆変換部(IFFT)116では、周波数領域に並んだ各サブキャリアを時間軸信号に変換し、さらにガード挿入部118でガード・インターバルを付加する。そして、デジタル・フィルタ120にて帯域制限した後、DAコンバータ(DAC)122にてアナログ信号に変換する。RF部124では、アナログLPFにより所望帯域以外の信号成分を除去し、所望のRF周波数帯へ中心周波数をアップコンバートし、さらに電力増幅によって信号振幅を増幅させる。RF帯となった送信信号は、各送信アンテナから空間に放出される。
【0085】
また、図2に示す受信機のアンテナ本数(若しくは、受信ブランチ数)はNであり、このNは例えばIEEE仕様準拠であれば最大4本である。以下で説明する受信機は、ABF又はSEによりビーム・フォーミングされた送信パケット、あるいは重み付けされない送信パケットを受信するものとする。
【0086】
チャネルを通して受信機の各受信ブランチに届いたデータは、それぞれの受信アンテナ・ブランチにおいて、まずRF部230でアナログ処理が施される。そして、ADコンバータ(ADC)228によりアナログ受信信号をデジタル信号に変換した後、デジタル・フィルタ226に入力し、続いて、同期回路224にて、パケット発見、タイミング検出、周波数オフセット補正、ノイズ推定などの処理が行なわれる。
【0087】
図3には、同期回路224の内部構成例を示している。それぞれのブランチの受信信号はバッファ306に蓄積されつつ、パケット発見部301がパケット先頭のプリアンブル信号を探索する。パケット発見部301がパケットを発見すると、タイミング検出部302、周波数オフセット推定部303、及び、ノイズ推定部304は、プリアンブル信号の後続の区間を用いて、同期タイミング、周波数オフセット、ノイズの各推定処理をそれぞれ行なう。制御部305は、パケット受信中において、タイミング検出部303による検出タイミングを基にバッファ306から受信データ・サンプルを読み出し、周波数オフセット推定部303による周波数オフセット推定値を基に発振器307に補正をかけて出力する。
【0088】
また、図4には、ノイズ推定部304の内部構成例を示している。各受信ブランチの受信信号を周波数補正部401で周波数オフセットを補正した上、既知パターンの繰り返しからなるトレーニング系列のうちノイズ推定に使用される部分(後述)で、遅延回路403はこの繰り返し周期分の遅延信号を生成し、差分器405で繰り返し周期間の差分をとってノイズ成分を抽出し、さらに2乗器409で差分の2乗値を求める。他方の2乗器407では信号の2乗値を算出し、SN推定部411ではこれら2乗値の比を基にSNRを推定する。
【0089】
図2に戻って、MIMO受信機の構成について続けて説明する。ガード除去部222では、データ送信区間の先頭に付加されたガード・インターバルを除去する。そして、高速フーリエ変換部(FFT)220により時間軸信号が周波数軸信号となる。続くキャリブレーション処理部218では、各受信ブランチの受信信号に対し、送受信ブランチ間の位相並びに振幅のインバランスを補正するためのキャリブレーション係数がそれぞれ乗算され、受信ブランチ間に存在する位相並びに振幅のインバランス補正をデジタル部において実現する。
【0090】
空間分離部216内では、空間多重された受信信号の空間分離処理を行なう。具体的には、チャネル行列推定部216aは、各受信ブランチで受信した、チャネル行列を励起するためのトレーニング系列から推定チャネル行列Hを組み立てる。逆方向のチャネル行列として送信機側のビーム形成用送信重み行列計算部114aに渡されることもある。また、アンテナ受信重み行列演算部216bは、チャネル行列推定部216aで得られたチャネル行列Hを基にアンテナ受信重み行列Wを計算する。そして、アンテナ受信重み行列乗算部216bは、各受信ストリームを要素とする受信ベクトルとアンテナ受信重み行列Wとの行列乗算を行なうことで空間多重信号の空間復号を行ない、ストリーム毎に独立した信号系列を得る。
【0091】
なお、本実施形態では、チャネル行列推定部216aで推定されたチャネル行列Hの状態や、さらには推定SNRの検査を行なう。また、アンテナ受信重み行列演算部216bは、チャネル行列の検査結果に従って、線形領域波形等化アルゴリズムであるMMSE受信方式、あるいは非線形領域波形等化アルゴリズムであるMLD受信方式のいずれかを、チャネル行列Hの状態に応じて切り換えて適用する。これらの点の詳細については後述に譲る。
【0092】
チャネル等化回路214は、ストリーム毎の信号系列に対し、さらに残留周波数オフセット補正、チャネル・トラッキングなどを施す。そして、デマッパー212はIQ信号空間上の受信信号をデマップし、デインタリーバ210はデインタリーブし、デパンクチャ208は所定のデータレートでデパンクチャする。
【0093】
データ合成部206は、複数の受信ストリームを1本のストリームに合成する。このデータ合成処理は送信側で行なうデータ振り分けと全く逆の動作を行なうものである。そして、復号器204にて誤り訂正復号した後、デスクランブラ202によりデスクランブルし、データ取得部200は受信データを取得する。
【0094】
続いて、通信システムにおいて用いられるパケット・フォーマットについて説明する。IEEE802.11nのPHY層は、従来のIEEE802.11a/gとは変調方式や符号化方式などの伝送方式(Modulation and Coding Scheme:MCS)が全く相違する高スループット(High Throughput:HT)伝送モード(以下では、「HTモード」とも呼ぶ)を持つとともに、従来のIEEE802.11a/gと同じパケット・フォーマット及び同じ周波数領域でデータ伝送を行なう動作モード(以下では、「レガシー・モード」とも呼ぶ)も備えている。また、HTモードは、IEEE802.11a/gに準拠する従来端末(以下では、「レガシー端末」とも呼ぶ)との互換性を持つ“Mixed Mode(MM)”と呼ばれる動作モードと、レガシー端末との互換性を全く持たない“Green Field(GF)”と呼ばれる動作モードに分けられる。
【0095】
図12〜図14には、レガシー・モード、MM、GFの各動作モードにおけるパケット・フォーマットをそれぞれ示している。但し、各図において1OFDMシンボルは4マイクロ秒であるとする。
【0096】
図12に示すレガシー・モード下のパケット(以下、「レガシー・パケット」とも呼ぶ)はIEEE802.11a/gと全く同じフォーマットである。レガシー・パケットのヘッダ部は、レガシー・プリアンブルとして、パケット発見用の既知OFDMシンボルからなるL−STF(Legacy Short Training Field)と、同期獲得並びに等化用の既知トレーニング・シンボルからなるL−LTF(Legacy Long Training Field)と、伝送レートやデータ長などを記載したL−SIG(Legacy SIGNAL Field)で構成され、これに続いてペイロード(Data)が送信される。
【0097】
また、図13に示すパケット(以下、「MMパケット」とも呼ぶ)のヘッダ部は、IEEE802.11a/gとまったく同じフォーマットからなるレガシー・プリアンブルと、これに続くIEEE802.11nに特有のフォーマット(以下では、「HTフォーマット」とも呼ぶ)からなるプリアンブル(以下では、「HTプリアンブル」とも呼ぶ)及びデータ部で構成される。MMパケットは、レガシー・パケットにおけるPHYペイロードに相当する部分がHTフォーマットで構成されており、このHTフォーマット内は、再帰的にHTプリアンブルとPHYペイロードで構成されると捉えることもできる。
【0098】
HTプリアンブルは、HT−SIG、HT−STF、HT−LTFで構成される。HT−SIGには、PHYペイロード(PSDU)で適用するMCSやペイロードのデータ長などのHTフォーマットを解釈するために必要となる情報が記載される。また、HT−STFは、MIMOシステムにおけるAGC(自動利得制御)を向上するためのトレーニング・シンボルからなる。また、HT−LTFは、受信機側で空間変調(マッピング)された入力信号毎にチャネル推定を行なうためのトレーニング・シンボルからなる。
【0099】
なお、2本以上の伝送ブランチを使用するMIMO通信の場合、受信機側では、受信信号の空間分離する、送受信アンテナ毎にチャネル推定してチャネル行列を獲得する必要がある。このため、送信機側では、各送信アンテナからHT−LTFを時分割で送信するようになっている。したがって、空間ストリーム数に応じて1以上のHT−LTFフィールドが付加されることになる。
【0100】
MMパケット中のレガシー・プリアンブルは、レガシー・パケットのプリアンブルと全く同じフォーマットであるとともに、レガシー端末がデコード可能な伝送方式で伝送される。これに対し、HTプリアンブル以降のHTフォーマット部分はレガシー端末が対応していない伝送方式で伝送される。レガシー端末は、MMパケットのレガシー・プリアンブル中のL−SIGをデコードして、自局宛てでないことと、データ長情報などを読み取り、適切な長さのNAV(Network Allocation Vector)すなわち送信待機期間を設定して、衝突を回避することができる。この結果、MMパケットはレガシー端末との互換性を実現することができる。
【0101】
また、図14に示すパケット(以下、「GFパケット」とも呼ぶ)は、HTフォーマット部分のみで構成される。GFパケットのプリアンブルは、パケット発見用のL−STFフィールド、チャネル推定用のHT−LTFフィールド、HTフォーマットを解釈するために必要となる情報が記載されたHT−SIGフィールド、並びに2nd HT−LTFフィールドからなる。MIMO通信では、空間ストリーム毎にチャネル推定してチャネル行列を取得する必要があるから、2nd HT−LTFフィールドでは送信アンテナ本数分のHT−LTFが時分割で送信される(同上)。
【0102】
図15には、HT−SIGフィールドのデータ構造を示している。図示のように、HT−SIGは2OFDMシンボルで構成され、PHYペイロード(PSDU)で適用するMCS(後述)やペイロードのデータ長などのHTフォーマットを解釈するために必要となる各種の制御情報が記載される。MMパケットとGFパケットのいずれであっても、HT−SIGフィールドにおける記載内容は同じである。また、MMパケットとGFパケットのいずれであっても、HT−SIGフィールドを含むプリアンブル部分は、レガシー・プリアンブル並びにHTプリアンブルともに、符号化率1/2のBPSK変調を適用するように取り決められている。このような低いデータレートを用いるのは、パケット受信に必要な処理や情報通知を確実に実現するためでもある。
【0103】
続いて、チャネル行列の状態に応じた送受信方式の適応制御について説明する。
【0104】
MIMO通信システムの中で、SVD−MIMO方式は、あらかじめ取得したチャネル行列Hを特異値分解して得られる右特異行列Vを用いて送信ビーム・フォーミングすることで、送受信間で完全な直交チャネルを作り出し、最良のリンク特性を実現することができる。この場合、送信ビーム・フォーミングされた空間多重信号を受信する受信機側では、線形領域推定方式であれば受信方式は特に問わない。
【0105】
ところが、送信機の送信アンテナ本数と送信ビーム・フォーミングにより形成される送信ストリーム本数が等しい場合で、複数のストリーム間で等しい変調方式を割り当てた場合には、通信条件(チャネル行列Hの状態)次第では、非線形領域の推定方式であるMLD受信方式の本来の特性改善効果を期待できなくなってしまい、ビーム・フォーミング送信パケットに対してMLD受信でもMMSE受信でも特性が同等になってしまうということが、本発明者らの検証により判明した。
【0106】
ここで、送信側ではABF又はSEによりビーム・フォーミング送信する場合と、ビーム・フォーミング無しで送信する場合が考えられ、また、受信側での受信方式としてMMSEとMLDが考えられる。
【0107】
図5〜図7には、送受信間のアンテナ・コンフィギュレーションが2×2、3×3、4×4のそれぞれの場合において、各送受信方式についてのSN環境に応じたPER(Packet Error Rate:パケット・エラー率)特性のシミュレーション結果を示している。各図のシミュレーション・モデルは以下の通りである。
【0108】
【数3】

【0109】
なお、MCS(Modulation and Coding Scheme)は、変調方式、符号化方式、及び、空間チャネル本数を決める値であり、MCS12並びに15の内容は下表の通りである。
【0110】
【表1】

【0111】
図5から、2×2のアンテナ・コンフィギュレーションでは、いずれの変調及び符号化方式(MCS)においても、ビーム・フォーミング送信(ABF)よりもMLD受信の方の特性がよいことと、ビーム・フォーミング送信とMLD受信を組み合わせると、MLD受信のみを行なう場合よりもかえって特性が劣化することが分かる。
【0112】
また、図6から、3×3のアンテナ・コンフィギュレーションでは、いずれの変調及び符号化方式(MCS)においても、ビーム・フォーミング送信(ABF)の方がMLD受信よりも特性がよいことと、ビーム・フォーミング送信とMLD受信を組み合わせても特性は向上しないことが分かる。
【0113】
また、図7から、4×4のアンテナ・コンフィギュレーションでは、いずれの変調及び符号化方式(MCS)においても、ビーム・フォーミング送信(ABF)の方がMLD受信よりも特性がよいことと、ビーム・フォーミング送信とMLD受信を組み合わせると、MLD受信しない場合よりも特性は劣化することが分かる。
【0114】
また、図5〜図7から、2×2のアンテナ・コンフィギュレーションの場合にシミュレーション結果において、MLD特性がビーム・フォーミング送信の利得を上回っていることが分かる。なお、ビーム・フォーミング送信(ABF)にMLD受信を組み合わせても、特性は向上しないか又はむしろ特性が劣化する。
【0115】
各アンテナ・コンフィギュレーションにおいて、実測に従ったMIMOチャネル・モデルの素性は、下式(4)〜(6)に示す通りである。
【0116】
【数4】

【0117】
【数5】

【0118】
【数6】

【0119】
2×2チャネル・モデルでは、λ1とλ2間では10dB以上の差がつく。また、3×3チャネル・モデルでは、λ1並びにλ2とλ3間では10dB以上の差がつく。また、4×4チャネル・モデルでは、λ1並びにλ2とλ3並びにλ4間では30〜40dB以上の差がつく。
【0120】
このことから、実際には、チャネル行列Hの状態(言い換えれば、対角行列Dの対角要素である固有値λiで表される通信ストリームの品質)に応じて、ストリーム毎に不当となる変調方式を採用することになる。このため、同じレートのPER(Packet Error Rate:パケット誤り率)特性ではSVD−MIMO方式によるABFがMLD特性に劣ることはない。
【0121】
しかしながら、IEEE802.11nの2ストリーム構成では、MCS12(20MHzで104Mbps)より高いレートの不等変調は存在しないため(最高でも20MHzで97.5Mbps)、MCS12以上が通ってしまう環境では、ピークレートで、MLD特性はSVD−MIMO方式に勝る。高い利得のストリームに64QAM以上の変調方式を採用するのが困難であることが、実装上のボトルネックである。
【0122】
図5〜図7に示した結果から、本発明者らは、以下の結論を導き出した。すなわち、
【0123】
(1)送信アンテナ本数(M)と送信ストリーム数(MIN(M,N)以下)が等しいときには、MLD受信の特性はマージンを期待できず、ビーム・フォーミング送信とMMSE受信を組み合わせた場合(ABF+MMSE)とほぼ等しい特性となる。
【0124】
(2)送信アンテナ本数を最大送信ストリーム本数よりも1本でもおくなるアンテナ・コンフィギュレーションであれば、いかなる変調方式の組み合わせでも、MLD受信本来の特性を維持することができる。また、ビーム・フォーミング送信とMMSE受信を組み合わせた場合(ABF+MMSE)の特性は、常にMLD受信特性に対するマージンを維持することができ、共存繁栄できる環境であると言える。
【0125】
ビーム・フォーミング送信とMLD受信を組み合わせたときの(ABF+MLD)、ビーム・フォーミング送信(すなわち、SVM−MIMO)の効果はせいぜい1dB程度にとどまる。場合によっては、ビーム・フォーミング送信とMMSE受信を組み合わせた方がMLD受信よりも特性がはるかに良好となる(ABF+MMSE≫MLD)。
【0126】
したがって、MIMO通信システムにおいて、チャネル行列Hの状態に応じて送受信方式を適応的に切り換えることで、最良のリンク特性を実現することができると言える。
【0127】
SVDやMMSEなどの線形領域波形等価アルゴリズムの観点からみると、チャネル行列(H=UDVH)のランクが下がり、2本以上のストリームを通すには厳しいチャネルではあるが、2本以上のストリームのSNRが高い環境であると判断された場合には、送信機側では、ABF(すなわち、チャネル行列Hを特異値分解して得られる係数行列Vを用いたビーム・フォーミング送信)を取りやめて、SE(すなわち、Cyclic Delayなどの固定ビーム・フォーミング)又は重み付けせずに送信する。そして、受信機側では、非線形領域波形等価アルゴリズムに従ったMLD受信方式を行なう。このように、チャネル行列の状態に応じた送受信方式を適用することで、ピークレートを向上させることが期待される。
【0128】
あるいは、送信アンテナM本に対して、M本のストリームを送信する場合には、送信機側では、SVD分解に基づいたビーム・フォーミング送信を取りやめ、SE(すなわち、Cyclic Delayなどの固定ビーム・フォーミング)又は重み付けせずに送信する。そして、受信機側では、非線形領域波形等価アルゴリズムに従ったMLD受信方式を適用することで、ピークレートを向上させるが期待される。
【0129】
ここで、送信機と受信機の間で送受信方式の切り替えを通知するために、既存のフレーム交換手順を利用する方法が挙げられる。
【0130】
その一例は、送受信機間でチャネル行列に関する情報をフィードバックするフレーム交換手順である。送信機は、チャネル行列を組み立てるために、チャネル行列を励起させるためのトレーニング系列を含んだSoundingパケットの送信を受信機に要求するTRQ(Training Request)手順が取り決められている。ここで、受信機は、非線形領域波形等化アルゴリズムに従ったMLD受信方式を用いる場合には、ヘッダ部であるHT−SIG内のSoundingフラグ(図15を参照のこと)を無効(NonValid)にしたレスポンス・パケットを送信することで、Soundingパケットを返さず、送信機におけるビーム・フォーミング送信を意図的に禁止させることができる。これによって、送信機側におけるSVD−MIMOによるABFと受信機側におけるMLD受信の組み合わせが回避され、リンク特性の劣化を防ぐことができる。
【0131】
図8には、TRQフレーム交換手順を利用して送受信方式を切り換えるための処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0132】
受信機は、送信機からTRQパケットを受信すると、現在MLD受信を行なっているか否かをチェックする(ステップS1)。
【0133】
ここで、受信機がMLD受信を行なっていなければ(ステップS1のNo)、Soundingパケットを送信機に返信する(ステップS2)。この結果、送信機側ではチャネル行列Hを得ることができ、これを特異値分解して得られる係数行列Vを用いて以降のパケットをビーム・フォーミング送信することができる。
【0134】
他方、受信機がMLD受信を行なっているときには(ステップS1のYes)、HT−SIG内のSoundingフラグを無効(NonValid)にしたレスポンス・パケットを送信する(ステップS3)。この場合、送信機にはSoundingパケットが届かないことから、受信機は送信機側でのビーム・フォーミング送信を意図的に禁止させることができる。
【0135】
また、他の例として、送受信機間でリンク・アダプテーションを行なうためのフレーム交換手順を挙げることができる。このフレーム交換手順として、以下の2つの方法が規定されている。
【0136】
・単一の送信機会(Transmission Opportunity:TXOP)内で、Responderに相当する通信局からInitiatorとなる通信局に対し、推奨すべき伝送方式MCSを含んだリンク・アダプテーション・フィードバック(MCS Feedback:MFB)を行なう方法。
・通信相手から伝送方式MCSの送信要求(MCS Request:MRQ)を含んだパケットを受け取ったことに応じて、次の送信機会TXOPでリンク・アダプテーション・フィードバックMFBを返信する方法。
【0137】
いずれのリンク・アダプテーション方法においても、受信機は、アンテナ本数がM本の送信機からRecommended MCSとしてストリーム本数Mを指定したMRQを受信したときには、HT−SIG内のsoundingフラグを無効(NonValid)にしたレスポンス・パケットを送信することで、Soundingパケットを返さず、送信機におけるビーム・フォーミング送信を意図的に禁止させて、リンク特性の劣化を防ぐことができる。
【0138】
図9には、MRQフレーム交換手順を利用して送受信方式を切り換えるための処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0139】
受信機は、送信機からMRQパケットを受信すると、当該パケットの送信元のアンテナ本数と、Recommended MCSの内容を確認し、アンテナ本数がM本の送信機からストリーム本数Mを指定したMRQであるか否かをチェックする(ステップS11)。
【0140】
ここで、アンテナ本数Mの送信機がストリーム本数Mの指定したリンク・アダプテーションを要求していない(送信アンテナ本数未満となるストリーム本数が指定されている)場合には(ステップS11のNo)、受信機はMFBを送信機に返信する(ステップS12)。この結果、送信機と受信機の間では、ストリーム本数Mでリンク・アダプテーションが実現する。
【0141】
他方、アンテナ本数Mの送信機がストリーム本数Mの指定したリンク・アダプテーションを要求しているときには(ステップS11のYes)、HT−SIG内のSoundingフラグを無効(NonValid)にしたレスポンス・パケットを送信する(ステップS13)。この場合、受信機は、送信機側でのビーム・フォーミング送信を意図的に禁止させることができる。
【0142】
なお、本発明の要旨は、送受信方式の通知に利用するフレーム交換手順は上記の2種類にのみ限定されるものではない。通信システムに適用される通信プロトコルに応じて、手順を適宜変更が可能であることを理解されたい。
【0143】
また、いずれのフレーム交換手順でMIMO通信システムの送受信方式を切り換えるにせよ、送信側でビーム・フォーミング送信を行なうべきか否かの判定条件として、チャネル行列Hの状態をどのように検査するかが重要である。
【0144】
SVD−MIMO方式やMMSE受信方式は、線形領域の波形等化技術であると言える。よって、チャネル行列Hの逆行列H-1の行列式(Determinant)や固有値λiのランク数によって、選択可能な最大のストリーム本数や変調方式を決定することができる。
【0145】
一方、MLD受信方式は、非線形領域の波形等化技術である。送信信号xをチャネル行列Hからなるチャネルを伝搬したときの受信信号yは、上式(1)に示した通り、y=Hx+nとなる(但し、nは雑音信号)。MLD受信機は、受信信号yに対して複数の送信信号候補xkを用いてレプリカを生成し、そのユークリッド距離|y−H・xk2を最小とする信号候補を出力する。したがって、MLD受信方式のメトリック計算は下式(7)で表される。
【0146】
【数7】

【0147】
ここで、MLD受信の特性が良くなるかどうかを、実際の例を用いて考察してみる。例えば、下式(8)に示すチャネル行列Hの状態下において、BPSK変調で2ストリームを送信するとする。このチャネル行列Hの逆行列H-1で見ると、行列式は0.0266であり、送受信機間で2本のストリームを通すことが難しいチャネル環境である。
【0148】
【数8】

【0149】
MLD、すなわち、考え得るすべての送信信号系列パターンとチャネル行列Hとの組み合わせは、下式(9)の通りとなる。同式では、すべての推定ベクトル間で開きが大きいから、最尤の送信ベクトルを見つけ易い。
【0150】
【数9】

【0151】
SVD−MIMOやMMSE受信などの線形領域の波形等化技術では、チャネル行列Hのランク数以上のストリーム本数を通すことはできない。これに対し、MLD受信などの非線形領域の波形等化技術によれば、ストリームのSNRが充分に高ければ、チャネル行列Hの状態に依らず、チャネル行列Hの行列式や固有値のランク数が示す本数以上のストリームを通すことができる可能性があるという優位な点があることが、上式(9)から分かる。
【0152】
チャネル毎の推定SNR1、SNR2と固有値λ1、λ2に従うチャネル行列をリンクさせるような際、下式(10)に示すγのような線形の評価関数が考えられる。なお、推定SNRは、同期回路224内のノイズ推定部304で得ることができる(前述)。
【0153】
【数10】

【0154】
本実施形態では、上式(10)に示すγから得られる線形の評価関数に加え、推定SNR単独の評価と、MLD受信が不得手とする条件に該当するか否かを検査する評価関数にかけて、送信機側で送信ビーム・フォーミングを行なうべきか否かを判断する。MLD受信が不得手とする条件とは、チャネル行列H(=UDVH)が各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列(例えば、UD)であると判定される場合であり、例えば、下式(11)のように表される。第2の固有値λ2が非常に小さいと、2ストリームを通す環境として相応しくないと表現することもできる。
【0155】
【数11】

【0156】
なお、チャネル行列Hがユニタリ行列であるか否かを判定するための手順については、後述に譲る。
【0157】
以下では、送信機側で送信ビーム・フォーミングを行なうべきか否かを適切に判断するための、チャネル行列の状態の検査方法を2つほど提案する。
【0158】
ここで、上式(8)及び(9)に示したMIMOチャネルHにBPSK変調方式を適用した2本のビーム・フォーミング送信を実際に行なった場合のメトリック値の計算例を挙げておく。このチャネル行列Hを特異値で見ると、下式(12)に示す通りとなる。
【0159】
【数12】

【0160】
そして、メトリック値の計算例は下式(13)に示す通りである。
【0161】
【数13】

【0162】
上記の計算例では、送信信号候補(1,1)と(1,−1)の各々に対する推定ベクトルの開きが小さく、また、送信信号候補(−1,1)と(−1,−1)の各々に対する推定ベクトルの開きが小さいことから分かる。すなわち、推定ベクトルの開きがとても小さい組み合わせが存在すると、最尤ベクトルを非常に見つけ難い状態となる。
【0163】
1つ目のチャネル行列の状態の検査方法では、上式(12)〜(13)で採り上げた、ビーム・フォーミング送信を用いると複数の送信パターンに対するメトリックが近接するという特徴を用いるものである。具体的には、BPSKやQPSKなどの幾つかのコンスタレーション・パターンを検査用に備えておき、チャネル行列Hを使って、MLDの予行を行なう。例えば、BPSK変調方式の2本のストリームを送信したと仮定して、Sa=(s0,s1)=(1,1)とSb(s0´,s1´)=(−1,1)を、次式(14)を用いて得られるメトリック間距離χを算出する。
【0164】
【数14】

【0165】
上式(12)〜(13)に示した例を当て嵌めると、χ=5.2925e−004隣、非常に小さな値となる。この値が実際にはノイズや推定誤差も含むので、その分のマージンをとって閾値を設ける。そして、メトリックの距離がこの閾値を下回る場合には、線形領域では解くことができないので、ビーム・フォーミング送信すべきではないと判定する。
【0166】
また、2つ目のチャネル行列の状態の検査方法では、検索パターンを簡略化したコンスタレーション・ポイントに対してそれぞれMLD受信を行なって、で得られた各々のメトリックがどの程度、離れているかを算出する。そして、ある距離以上に離れた個数を数え、下式(15)に示す判定式にかける。このとき、その値が閾値λを超えていれば、メトリック間距離が判定を行なうのに十分に離れており、上式(12)〜(13)に示した例とは相違して、MLDを解き難い状態でない、ということを間接的に判別することができる。
【0167】
【数15】

【0168】
但し、上式(15)中の、δはノイズ分散値、Iは単位行列である。
【0169】
なお、上式(11)に示したように、チャネル行列H(=UDVH)が各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列(例えば、UD)であると判定される場合には、受信機は、SVDに基づくビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断することができる。既に述べたように、SVDに基づくビーム・フォーミング送信とMLD受信の組み合わせは相性がよくない(図5〜図7を参照のこと)。したがって、受信機は、ビーム・フォーミング送信パケットを受信するときには、最良の受信特性を示すMLD受信を行なわず、ZFやMMSEといった回路規模の小さな線形領域等化アルゴリズムに従った受信方式に切り換えることで、低消費電力化を図ることができる。
【0170】
受信機は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化する。そして、正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、この計算結果が所定の閾値よりも小さければ、チャネル行列Hがユニタリ行列であると判定することができる。以下では、簡単のため、2×2のアンテナ・コンフィギュレーションの場合を例にとって、判定手順について説明する。
【0171】
ビーム・フォーミング送信されたパケットのチャネル行列Hを、下式(16)とする。
【0172】
【数16】

【0173】
上式(16)より、チャネル行列の要素を分解して、まず固有値を下式(17)のように推定する。
【0174】
【数17】

【0175】
上式(17)の結果を用いて、下式(18)に示すように、チャネル行列Hを推定対角行列D´で正規化する。
【0176】
【数18】

【0177】
正規化されたH´は、ユニタリ行列となる。
【0178】
【数19】

【0179】
上式(19)の結果βは、必ず0になる。実際には、ノイズや上式(17)の推定誤差も含まれるので、その分のマージンを設けて閾値を設け、ビーム・フォーミング送信された信号か否かを判断する。
【産業上の利用可能性】
【0180】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0181】
本明細書では、主にIEEE802.11の拡張規格であるIEEE802.11nに適用した実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。例えば、IEEE802.16eをベースとしたMobile WiMax(Worldwide Interoperability for Microwave)、移動体向けの高速無線通信規格であるIEEE802.20、60GHz(ミリ波)帯を使用する高速無線PAN(Personal Area Network)規格であるIEEE802.15.3c、60GHz(ミリ波)帯の無線伝送を利用して非圧縮のHD(High Definition)映像を伝送可能とするWireless HD、第4世代(4G)携帯電話など、MIMO通信方式を採用するさまざまな無線通信システムに対して、同様に本発明を適用することができる。
【0182】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、MIMO送信機の構成例を示した図である
【図2】図2は、MIMO受信機の構成例を示した図である。
【図3】図3は、同期回路224の内部構成例を示した図である。
【図4】図4は、ノイズ推定部304の内部構成例を示した図である。
【図5】図5は、送受信間のアンテナ・コンフィギュレーションが2×24の場合において、各送受信方式についてのSN環境に応じたPER特性のシミュレーション結果を示した図である。
【図6】図6は、送受信間のアンテナ・コンフィギュレーションが3×3の場合において、各送受信方式についてのSN環境に応じたPER特性のシミュレーション結果を示した図である。
【図7】図7は、送受信間のアンテナ・コンフィギュレーションが4×4の場合において、各送受信方式についてのSN環境に応じたPER特性のシミュレーション結果を示した図である。
【図8】図8は、TRQフレーム交換手順を利用して送受信方式を切り換えるための処理手順を示したフローチャートである。
【図9】図9は、MRQフレーム交換手順を利用して送受信方式を切り換えるための処理手順を示したフローチャートである。
【図10】図10は、無線通信機能を搭載したコンピューターの構成例を示した図である。
【図11】図11は、MIMO通信システムを概念的に示した図である。
【図12】図12は、IEEE802.11nで規定するレガシー・モードにおけるパケット・フォーマットを示した図である。
【図13】図13は、IEEE802.11nで規定するMMモードにおけるパケット・フォーマットを示した図である。
【図14】図14は、IEEE802.11nで規定するGFモードにおけるパケット・フォーマットを示した図である。
【図15】図15は、HT−SIGフィールドのデータ構造を示した図である。
【符号の説明】
【0184】
1…CPU
2…ROM
3…RAM
4…ローカル・バス
5…ブリッジ
6…入出力バス
7…入出力インターフェース
8…キーボード
9…ポインティング・デバイス(マウス)
10…ディスプレイ
11…HDD
12…通信部
100…データ発生器
102…スクランブラ
104…符号化器
106…データ振り分け部
108…パンクチャ
110…インタリーバ
111…セレクタ
112…マッパー
114…空間多重部
114a…ビーム生成用送信重み行列計算部
114b…送信重み行列計算部
116…高速フーリエ逆変換部(IFFT)
118…ガード挿入部
120…デジタル・フィルタ
122…DAコンバータ(DAC)
124…RF部
200…データ取得部
202…デスクランブラ
204…復号器
206…データ合成部
208…デパンクチャ
210…デインタリーバ
212…デマッパー
214…チャネル等化回路
216…空間分離部
216a…チャネル行列推定部
216b…アンテナ重み行列演算部
216c…アンテナ重み行列乗算部
218…キャリブレーション処理部
220…高速フーリエ変換部(FFT)
222…ガード除去部
224…同期回路
226…デジタル・フィルタ
228…ADコンバータ(ADC)
230…RF部
301…パケット発見部
302…タイミング検出部
303…周波数オフセット推定部
304…ノイズ推定部
305…制御部
306…バッファ
307…発振器
401…周波数補正部
403…遅延回路
405…差分器
407、409…2乗器
411…SN推定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ1以上のアンテナを備える送信機及び受信機からなる無線通信システムであって、
前記送信機と前記受信機間のチャネルの状態を判定するチャネル状態判定手段と、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記送信機における送信方式及び前記受信機における受信方式を切り換える方式制御手段と、
を具備することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記チャネル状態判定手段は、前記送信機と前記受信機間で推定されるチャネル行列の行列式又は固有値のランク数を算出して、通信可能なストリーム本数並びに変調方式を判定し、
前記方式制御手段は、前記チャネル状態判定手段による判定結果以内のストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用するとともに前記受信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用するが、前記チャネル状態判定手段による判定結果を超えたストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるとともに、前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記チャネル状態判定手段は、前記送信機と前記受信機間のチャネル行列のランク数とSNRを判定し、
前記方式制御手段は、
チャネル行列のランク数が高く2以上のストリームを通すことが可能なときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用するとともに、前記受信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用し、
チャネル行列のランク数が低下し2以上のストリームを通すことが困難であるが2以上のストリームのSNRが高いときには、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるとともに、前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
送信アンテナM本に対してM本のストリームを送信する際には、前記方式制御手段は、前記送信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめるとともに、前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記受信機は、非線形領域波形等化アルゴリズムに従った受信方式を用いる場合には、前記送信機からのチャネル行列を励起させるためのトレーニング系列を含んだSoundingパケットの送信要求に対し、Soundingを無効化したレスポンス・パケットを返信する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記受信機は、アンテナ本数がM本の送信機からストリーム本数Mを指定したリンク・アダプテーション要求を受け取ったときには、Soundingを無効化したレスポンス・パケットを返信する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記チャネル状態判定手段は、前記送信機と前記受信機間のチャネルのSNRとチャネル行列の固有値に従った線形の評価関数と、SNRの単独の評価と、及び非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件か否かを検査する評価関数に基づいて、前記送信機が線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用すべきか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記の非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であると判定されることであり、
前記方式制御手段は、該判定結果に応じて、前記受信機において線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項7に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記チャネル状態判定手段は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定する、
ことを特徴とする請求項8に記載の無線通信システム。
【請求項10】
前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じてメトリックの距離を算出し、該メトリックの距離が設定閾値よりも小さければ、前記送信機がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項11】
前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じて非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式のメトリックを算出し、得られた各々のメトリック間の距離が所定の閾値を下回るときには、前記送信機がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項12】
前記受信機は、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断したときは、線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項13】
前記受信機は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であるときに、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断する、
ことを特徴とする請求項12に記載の無線通信システム。
【請求項14】
前記受信機は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定する、
ことを特徴とする請求項13に記載の無線通信システム。
【請求項15】
1以上のアンテナと、
通信相手とのチャネルの状態を判定するチャネル状態判定手段と、
パケットの送受信処理を行なう通信手段と、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記通信手段における送受信方式を切り換える方式制御手段と、
を具備することを特徴とする無線通信装置。
【請求項16】
前記チャネル状態判定手段は、前記通信相手との間で推定されるチャネル行列の行列式又は固有値のランク数を算出して、通信可能なストリーム本数並びに変調方式を判定し、
前記方式制御手段は、前記チャネル状態判定手段による判定結果以内のストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式又は受信方式を適用し、前記チャネル状態判定手段による判定結果を超えたストリーム本数又は変調方式で通信を行なうときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめ、又は前記受信機において非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項15に記載の無線通信装置。
【請求項17】
前記チャネル状態判定手段は、前記通信相手との間のチャネル行列のランク数とSNRを判定し、
前記方式制御手段は、チャネル行列のランク数が高く2以上のストリームを通すことが可能なときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式又は受信方式を適用し、チャネル行列のランク数が低下し2以上のストリームを通すことが困難であるが2以上のストリームのSNRが高いときには、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめ、又は非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項18】
M本の送信アンテナを備え、
前記方式制御手段は、M本のストリームを送信する際には、線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式の適用を取りやめる、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項19】
前記方式制御手段は、M本の送信アンテナを持つ通信相手からM本のストリームで送信されたパケットを受信するときには、非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項20】
前記チャネル状態判定手段は、前記通信相手との間のチャネルのSNRとチャネル行列の固有値に従った線形の評価関数と、SNRの単独の評価と、及び非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件か否かを検査する評価関数に基づいて、前記通信相手が線形領域等化アルゴリズムに基づく送信方式を適用すべきか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項21】
前記の非線形領域等化アルゴリズムに適していない条件は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であると判定されることであり、
前記方式制御手段は、該判定結果に応じて線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項20に記載の無線通信装置。
【請求項22】
前記チャネル状態判定手段は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定する、
ことを特徴とする請求項21に記載の無線通信装置。
【請求項23】
前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じてメトリックの距離を算出し、該メトリックの距離が設定閾値よりも小さければ、前記通信相手がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断する、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項24】
前記チャネル状態判定手段は、検査用の幾つかのコンスタレーション・パターンを備えておき、チャネル行列Hの取得に応じて非線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式のメトリックを算出し、得られた各々のメトリック間の距離が所定の閾値を下回るときには、前記通信相手がビーム・フォーミング送信を行なうべきでないと判断する、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項25】
前記チャネル状態判定手段がビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断したときは、前記方式制御手段は、線形領域等化アルゴリズムに基づく受信方式を適用する、
ことを特徴とする請求項16に記載の無線通信装置。
【請求項26】
前記チャネル状態判定手段は、チャネル行列Hが各受信アンテナ間に不当な電力利得が与えられたユニタリ行列であるときに、ビーム・フォーミング送信信号を受信していると判断する、
ことを特徴とする請求項25に記載の無線通信装置。
【請求項27】
前記チャネル状態判定手段は、ビーム・フォーミングされたパケットのチャネル行列Hから、送信アンテナからのチャネルの電力の総和をとって固有値を推定し、該推定された固有値でチャネル行列Hを正規化し、該正規化したチャネル行列H´のアンテナ毎の要素が直交しているか否かを計算し、該計算結果が所定の閾値よりも小さければチャネル行列Hがユニタリ行列であると判定する、
ことを特徴とする請求項26に記載の無線通信装置。
【請求項28】
1以上のアンテナを用いた無線通信方法であって、
通信相手とのチャネルの状態を判定するチャネル状態判定ステップと、
パケットの送受信処理を行なう通信ステップと、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記通信ステップにおける送受信方式を切り換える方式制御ステップと、
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項29】
1以上のアンテナを用いた無線通信処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、前記コンピューターを、
通信相手とのチャネルの状態を判定するチャネル状態判定手段、
パケットの送受信処理を行なう通信手段、
前記チャネル状態判定手段による判定結果に応じて、前記通信手段における送受信方式を切り換える方式制御手段、
として機能させるためのコンピューター・プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−93704(P2010−93704A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263961(P2008−263961)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】