説明

無膜軟質ポリウレタンフォームの製造方法

【課題】発泡体内に残留するアルデヒド類や酸などの水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減することのできる無膜軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供する。
【解決手段】除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を一定時間水蒸気処理した後、乾燥させることにより前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させる。あるいは、除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を水蒸気処理することに代え、除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を一定時間過熱蒸気処理することにより、前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させ、その後の乾燥処理を省略する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性不純物の除去あるいは含有量を低減させることのできる無膜軟質ポリウレタンフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルターや洗浄スポンジ等に用いられる通気度の高い軟質ポリウレタン発泡体を得るため、発泡後の軟質ポリウレタン発泡体に除膜処理を行うことによってセル膜を除去して無膜軟質ポリウレタン発泡体とすることが行われている。前記除膜処理としては、軟質ポリウレタン発泡体に酸素を注入して点火させることによりセル膜を爆破させる爆破処理が一般的である。
【0003】
ところが、除膜処理を行うと、軟質ポリウレタン発泡体に含まれている化学物質が一部解離してアルデヒド類または酸などの水溶性不純物が発生し、においの原因となったり、シックハウス症候群の要因となったりすることがある。さらに、前記除膜処理によって発生するアルデヒド類や酸は、自動車等の分野において問題とされている、大気汚染に影響を与える揮発性有機化合物(VOC)にも該当する。また、前記除膜処理によって発生したアルデヒド類や酸は、そのまま無膜軟質ポリウレタン発泡体に残留し、前記シックハウスやVOCの問題が長期に渡って生じることもある。なお、シックハウス等の被害を防ぐため、厚生労働省により2002年1月22日に設定されたアセトアルデヒドの室内濃度指針値は、48μg/m(0.03ppm)である。
【特許文献1】特開2003−521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、除膜処理により発生して発泡体内に残留するアルデヒド類や酸などの水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減することのできる無膜軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を水蒸気処理した後、乾燥させることにより前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させることを特徴とする無膜軟質ポリウレタン発泡体の製造方法に係る。
【0006】
請求項2の発明は、除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を過熱蒸気処理することにより、前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させることを特徴とする無膜軟質ポリウレタン発泡体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、除膜処理により発生して発泡体中に残留したアルデヒド類や酸などの水溶性不純物質は、除膜処理後の発泡体が水蒸気処理されることによって発泡体内に浸透する水蒸気の水分に溶解して水蒸気と共に発泡体から溶出する。しかも発泡体はセル膜が除去されているため、水蒸気が発泡体の内部を通過し易く、発泡体内の水溶性不純物を効率よく溶出させることができる。また、発泡体を水蒸気処理することによって発泡体に含まれることになる水蒸気の水分は、その後の乾燥によって発泡体から除去される。これによって水溶性不純物の除去されたあるいは含有量が低下した無膜軟質ポリウレタン発泡体が得られる。
【0008】
請求項2の発明によれば、除膜処理により発生して発泡体中に残留したアルデヒド類や酸などの水溶性不純物質は、除膜処理後の発泡体が過熱蒸気処理されることによって発泡体内に浸透する過熱蒸気の水分に溶解して水蒸気と共に発泡体から溶出する。しかも発泡体はセル膜が除去されているため、過熱蒸気が発泡体の内部に浸透し易く、発泡体内の水溶性不純物を効率よく溶出させることができる。さらに、高温の過熱蒸気によって発泡体中の水溶性不純物は溶解度が高まり、効率よく過熱蒸気に溶解して発泡体から過熱蒸気と共に排出される。これによって水溶性不純物の除去されたあるいは含有量が低下した無膜軟質ポリウレタン発泡体が得られる。しかも、過熱蒸気は、公知の如く100℃の飽和蒸気をさらに加熱した蒸気であり、温度が低下しても気体状態であるため、軟質ポリウレタン発泡体に浸透して温度が低下しても軟質ポリウレタン発泡体を濡らすことがなく、過熱蒸気処理後に乾燥工程を行う必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における無膜軟質ポリウレタン発泡体の製造方法は、除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を水蒸気処理した後に乾燥させることにより、あるいは前記水蒸気処理及びその後の乾燥に代えて、除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を過熱蒸気処理することにより前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させるものである。
【0010】
本発明における軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール、触媒、発泡剤、整泡剤、適宜添加される助剤、及びポリイソシアネートからなるポリウレタン発泡原料を混合撹拌させる公知の発泡方法によって得られる。
【0011】
ポリオールとしては、軟質ポリウレタンフォーム用として知られているエーテル系ポリオールまたはエステル系ポリオールを用いることができる。エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを使用することもできる。その他、ポリエーテルポリオール中でエチレン性不飽和化合物を重合させて得られるポリマーポリオールも使用することができる。
【0012】
触媒としては、トリエチルアミンやテトラメチルグアニジン等のアミン触媒や、スタナスオクトエート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を用いることができる。触媒の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.01〜2.0重量部である。
【0013】
発泡剤としては、水、あるいはペンタンなどの炭化水素を、単独または組み合わせて使用できる。水の場合は、原料組成物の反応時に炭酸ガスを発生し、その炭酸ガスによって発泡がなされる。発泡剤の量は適宜とされるが、水の場合、ポリオール100重量部に対して0.5〜7.0重量部程度が好適である。
【0014】
整泡剤としては、軟質ポリウレタンフォームの製造に用いられるものであればよく、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤および公知の界面活性剤を挙げることができる。整泡剤の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.1〜3.0重量部である。
【0015】
その他適宜添加される助剤としては、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。紫外線吸収剤としては、公知のものが使用される。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾオキサジノン系化合物が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸などを示すことができる。難燃剤は、有機リン酸化合物等からなるものを挙げることができる。
【0016】
ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2以上有する脂肪族系または芳香族系ポリイソシアネート、それらの混合物、およびそれらを変性して得られる変性ポリイソシアネートを使用することができる。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキサメタンジイソシアネート等を挙げることができ、芳香族ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメリックポリイソシアネート(クルードMDI)等を挙げることができる。なお、その他プレポリマーも使用することができる。
【0017】
発泡後の軟質ポリウレタン発泡体に対して、除膜処理が行われる。除膜処理は、軟質ポリウレタン発泡体に酸素を注入して点火させる公知の爆破処理によって行われる。この除膜処理によって、軟質ポリウレタン発泡体のセル膜が除去され、通気性が高まる。また前記ポリウレタン発泡原料に使用されて発泡後の軟質ポリウレタン発泡体に含まれる化学物質が、前記除膜処理により一部解離してアルデヒド類や酸などの水溶性不純物となって除膜処理後の発泡体に残る。
【0018】
セル膜除去処理後の発泡体に対して、水蒸気処理あるいは過熱蒸気処理が行われ、それによってセル膜除去後の発泡体に含まれる水溶性不純物の除去または含有量の低減が行われ、所望の無膜軟質ポリウレタン発泡体が得られる。
【0019】
前記水蒸気処理は、前記セル膜除去後の発泡体を水蒸気環境下に置くことをいい、例えば、水蒸気をセル膜除去後の発泡体の表面に吹き付けて当てたり、水蒸気が充満している容器にセル膜除去後の発泡体を置いたりすることをいう。その後、発泡体を乾燥炉に収容等して乾燥させる。前記水蒸気としては、湿度40〜95%、温度70〜100℃が好適である。除膜処理後の発泡体に対して水蒸気処理を行う時間は、発泡体のサイズ等に応じて適宜とされるが、例として1〜10分を挙げる。なお、除膜処理後の発泡体に水蒸気を吹き付けて当てる場合には、発泡体の一の面に当てても良いし、全面に当ててもよい。除膜処理された発泡体は、三次元網目骨格構造からなるため、一つの面に当てた水蒸気が発泡体内を容易に通過することができ、発泡体中に含まれる水溶性不純物を水蒸気と共に発泡体から排出することができる。また、前記水蒸気処理後の乾燥温度及び乾燥時間が長過ぎると発泡体の劣化や物性低下を生じるようになるため、乾燥温度は50〜70℃、乾燥時間は30〜40分が好ましい。
【0020】
前記過熱蒸気処理は、前記セル膜除去後の発泡体を過熱蒸気環境下に置くことをいい、例えば、過熱蒸気をセル膜除去後の発泡体の表面に吹き付けて当てたり、過熱蒸気が充満している容器にセル膜除去後の発泡体を置いたりすることをいう。前記過熱蒸気は、100℃の飽和蒸気をさらに過熱した蒸気である。前記過熱蒸気の生成は、次のように行われる。まず蒸気発生器(ガス、石油等のボイラー)で飽和蒸気を生成し、次に飽和蒸気を減圧バルブで減圧し、得られた減圧飽和蒸気を過熱蒸気発生装置へ導入することにより過熱蒸気を生成する。前記減圧バルブは、過熱蒸気の吐出量を制御するための装置であり、減圧することで、大気圧下に吐出された過熱蒸気における過度の体積膨張を防止し、爆発等の災害を回避する。また、過熱蒸気発生装置は、飽和蒸気を過熱して過熱蒸気を形成できる公知の装置を用いることができる。
【0021】
前記除膜処理後の発泡体に対して過熱蒸気処理を行う時間は、発泡体のサイズ等に応じて適宜とされるが、例として数秒〜3分程度とされる。あまり過熱蒸気処理時間が長いと発泡体の劣化や物性低下を生じるようになるため、過熱蒸気処理時間は短いほうが好ましい。なお、過熱蒸気を除膜処理後の発泡体に吹き付けて当てる場合には、発泡体の一の面に当てても良いし、全面に当ててもよい。除膜処理された発泡体は、三次元網目骨格構造からなるため、一つの面に当てた過熱蒸気が発泡体内を容易に通過することができ、水溶性不純物の除去作用を発揮することができる。また、過熱蒸気は、前記発泡体に当たって温度低下を生じても気体状態を維持するため、過熱蒸気処理によって発泡体が濡れず、その後の乾燥処理は不要となる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について説明する。以下の配合からなるポリオールや触媒、発泡剤、整泡剤をポリオール成分とし、前記ポリオール成分とポリイソシアネートを次のように混合して発泡させた。混合は、前記ポリオール成分とポリイソシアネートを500ccビーカに入れ、プロペラミキサーを用いて20℃で撹拌することにより行った。また、混合後の反応混合液を300×300×300mmの箱体に注入し、発泡硬化させることにより、密度0.03g/cmの軟質ポリウレタン発泡体を形成した。
ポリウレタン発泡原料
・ポリオール (日本ポリウレタン工業株式会社製、N101) 100重量部
・触媒 (花王株式会社製、カオーライザー(登録商標)No.22 0.5重量部
・発泡剤 (水) 3重量部
・整泡剤 (日本ユニカー株式会社製、SE−232) 1重量部
・ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製、T−65) 45重量部
【0023】
得られた軟質ポリウレタン発泡体に対して、公知の爆破処理により除膜処理を行った。除膜処理後の発泡体から200×200×10mmの試験片を所要個数裁断した。このようにして得られた試験片をそのままとした比較例1、試験片に対して水道水処理を行った比較例2及び3、試験片に対して水蒸気処理を行った実施例1及び2、試験片に対して過熱蒸気処理を行った実施例3及び4を用意した。
【0024】
水道水処理は、試験片を金網上に載置すると共に、試験片上方から下向きにした配管の出口から試験片に25℃の水を、比較例2では5分、比較例3では10分シャワー状に吹き付け、その後に試験片を70℃の乾燥炉に40分収容した。水蒸気処理は、試験片を金網上に載置すると共に、試験片上方から下向きにした配管の出口から湿度70%×80℃の水蒸気を、実施例1では5分、実施例2では10分吹き付け、その後に試験片を70℃の乾燥炉に40分収容した。過熱蒸気処理は、試験片を金網上に載置すると共に、試験片上方から下向きにした配管の出口から過熱蒸気を、実施例3では5分、実施例4では10分吹き付けた。過熱蒸気は、減圧バルブによる減圧前の飽和蒸気の圧力(一次側圧力)が0.6MPa、減圧バルブによる減圧後の圧力(二次側圧力)が0.04MPa、配管出口の過熱状気の温度が190±5℃であり、配管径が1/2、試験片と過熱蒸気配管出口との距離が50mmである。使用した金網は、水、水蒸気、過熱蒸気が通過できる程度に粗く、かつ試験片を保持できる程度の強度を有するものである。
【0025】
前記比較例1〜3及び実施例1〜4の試験片に対してホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオン酸の含有量を測定した。測定方法は、各試験片から裁断した5×30×30mmの測定片を、1Lのガラスデシケータに収容した後、ガラスデシケータ内の空気を窒素置換し、65℃の恒温槽に2時間放置した。その後、ガラスデシケータ内のガスを吸引し、ガスクロマトグラフを用いて、JIS Z8808に準じて分析した。分析結果は表1に示す通りである。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、水道水処理(比較例2、比較例3)は、処理を行わない場合(比較例1)と、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの量について殆ど変わらず、アルデヒド類の除去効果が非常に低いことがわかる。水蒸気処理(実施例1、実施例2)は、処理を行わないもの(比較例1)と比べてホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びプロピオン酸の量が大きく減っているのがわかる。また、水蒸気の吹き付け時間が長いほどホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びプロピオン酸の除去効果が高いこともわかる。過熱蒸気処理(実施例3、実施例4)は、水蒸気処理(実施例1、実施例2)よりも、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びプロピオン酸の量が少なく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びプロピオン酸の除去効果が高いことがわかる。しかも、過熱蒸気処理は、発泡体を水分で濡らさないため、発泡体の乾燥処理が不要となり、数分の過熱蒸気処理でアルデヒド類や酸などの水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減でき、酸などによる特有の刺激臭が少ない無膜軟質ポリウレタン発泡体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を水蒸気処理した後、乾燥させることにより前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させることを特徴とする無膜軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項2】
除膜処理した軟質ポリウレタン発泡体を過熱蒸気処理することにより、前記軟質ポリウレタン発泡体中の水溶性不純物質の除去あるいは含有量を低減させることを特徴とする無膜軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。