説明

無鉛爆粉

【課題】小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管に適用される爆粉としての、鉛害にさらされることなく射撃訓練等を実行することができる無鉛爆粉を提供する。
【解決手段】組成物の総重量に対して外割5%となるゴム液をあらかじめ混和用の容器に入れておき、次いで、ジアゾジニトロフェノールを30重量%、テトラセンを10重量%、硝酸バリウムを25重量%、ケイ化カルシウムを15重量%、三硫化アンチモンを10重量%、ガラス粉を10重量%を加え、混和棒を用いて混和して無鉛爆粉を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉において、鉛害にさらされることなく射撃訓練等を実行することができる無鉛爆粉に関する。
【背景技術】
【0002】
実包又は空包の雷管に適用される爆粉に含まれる起爆薬には、従来から、トリシネートに代表される鉛を含有した化合物が用いられている。これら鉛を含有する爆粉は、雷管に要求される発火感度を満たすとともに、作動後に雷管体に孔が開く雷管突破などの物理的な不具合事象を発生させないので、非常に使いやすい化合物として位置づけられている。
【0003】
しかし、このような鉛を含有する化合物は、環境保護の観点や、人体への健康被害を鑑みた場合、取扱上又は製造上、好ましい化学物質とは言い難く、近年、鉛の含まない爆粉が要求されるようになっている。
特に、火器による射撃訓練や公開訓練時に、小銃、機関銃、拳銃等で射撃を行う射手が爆粉に含まれる鉛のフュームを吸い込んだ場合等において、鉛害の影響が大きく懸念されているという問題がある。
【0004】
このような問題に鑑み、鉛を含有する化合物を含まない起爆薬として金属ヒドラジン硝酸塩を用いた衝撃式火工品に関する発明が、下記特許文献1にて提案されている。
【特許文献1】特開2006−207868号公報
【0005】
特許文献1の金属ヒドラジン硝酸塩を用いた衝撃式加工品は、爆粉の組成において、金属ヒドラジン硝酸塩を用いることにより、トリシネートに代表される鉛を含有した化合物を用いた場合と同等の感度及び爆発性能を有するものとして提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1に係る衝撃式火工品は、その組成である金属ヒドラジン硝酸塩を用いるが故に、その起爆能力が強すぎて、物理的不具合事象が発生するおそれがあり、鉛を含まないようにしたメリットを、十分に享受することが難しいという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、従来の爆粉は、人体に対する鉛害などの健康の問題がある。また、特許文献1に提案された衝撃式火工品に係る発明においても、その物性のために、鉛を含まないようにしたメリットを、十分に享受することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑み、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉としての、鉛害にさらされることなく射撃訓練等を実行することができ、且つ、鉛化合物を含まないようにしたメリットを十分に享有することができる無鉛爆粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る無鉛爆粉は、ジアゾジニトロフェノール、硝酸バリウム、ケイ化カルシウム及び三硫化アンチモンを必須組成としたことを特徴とする。
【0010】
特に、上記無鉛爆粉は、ジアゾジニトロフェノールが20〜40重量%、硝酸バリウムが20〜40重量%、ケイ化カルシウムが5〜30重量%、及び、三硫化アンチモンが重量1〜20%からなるとともに、テトラセンを0〜20重量%、ガラス粉を0〜20重量%含み、これらの合計100重量%に対し、0.5〜10重量%の粘調剤をさらに添加することが好ましい。
【0011】
また、上記これらの合計100重量%に対し、0〜10重量%のタルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物をさらに添加することが、さらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉としての、その組成に鉛を含まない無鉛爆粉であって、ジアゾジニトロフェノール、硝酸バリウム、ケイ化カルシウム及び三硫化アンチモンを必須組成としたものであるので、他の起爆薬に比べ安全性が高く、威力も大きいジアゾジニトロフェノール(略称:DDNP)を主成分とし、発火感度を高められる硝酸バリウム及び三硫化アンチモン、着火性を向上させるケイ化カルシウムを必須組成とすることにより、射撃時に鉛フュームを発生することなく、且つ、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有する無鉛爆粉を提供することができる。さらに、作動後に雷管体に孔が開く雷管突破などの物理的不具合事象が発生することもない。また、テトラセン、ガラス粉から選ばれる少なくとも1種以上の成分を含むこととすれば、発火感度の適正化を図ることも可能となる。
【0013】
特に、上記無鉛爆粉の組成を、ジアゾジニトロフェノールが20〜40重量%、硝酸バリウムが20〜40重量%、ケイ化カルシウムが5〜30重量%、三硫化アンチモンが重量1〜20%からなるものとし、テトラセンを0〜20重量%、ガラス粉を0〜20重量%含み、これらの合計100重量%に対し、0.5〜10重量%の粘調剤をさらに添加すれば、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉としての無鉛爆粉を最適化することができる。
【0014】
また、ジアゾジニトロフェノールが20〜40重量%、硝酸バリウムが20〜40重量%、ケイ化カルシウムが5〜30重量%、三硫化アンチモンが重量1〜20%からなるものとし、テトラセンを0〜20重量%、ガラス粉を0〜20重量%含んだ無鉛爆粉の組成において、これらの合計100重量%に対し、0〜10重量%のタルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物をさらに添加すれば、雷管が作りやすくなるため、射撃時に鉛フュームを発生することなく、且つ、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有する無鉛爆粉を用いた雷管の提供が可能になる。
【0015】
すなわち、本発明は、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉において、射撃時に鉛フュームが発生することのなく、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有することができ、かつ、その組成を最適化させることが可能となった無鉛爆粉を提供するものである。そして、このような無鉛爆粉を用いた雷管の提供が可能になる。これにより、射手が鉛害に曝される恐れが解消されるとともに、環境にもやさしい銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する無鉛爆粉を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る無鉛爆粉は、例えば、銃弾に装着される弾薬に用いられ、撃針の打撃により発火する撃発式の雷管に適用されるものである。従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有するとともに、鉛を含まず、発火感度、被着火性、雷管突破などの物理的な不具合事象がないものとするため、本発明の無鉛爆粉を構成する組成に関し、種々の検討を加えている。以下、本発明に係るいくつかの実施例を説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
実施例1に係る無鉛爆粉は、ジアゾジニトロフェノールが30重量%、テトラセンが10重量%、硝酸バリウムが25重量%、ケイ化カルシウムが15重量%、三硫化アンチモンが10重量%、ガラス粉が10重量%の組成で構成されている。また、これらの組成物の総重量に対し、外割として粘結剤としてのゴム液が5重量%添加されている。
なお、無鉛爆粉の作製方法は、組成物の総重量に対して外割5重量%となるゴム液をあらかじめ混和用の容器に入れておき、次いで、ジアゾジニトロフェノールを30重量%、テトラセンを10重量%、硝酸バリウムを25重量%、ケイ化カルシウムを15重量%、三硫化アンチモンを10重量%、ガラス粉を10重量%加え、混和棒を用いて混和して湿爆粉(本実施例1の無鉛爆粉)としたものである。
また、本発明において、外割とは、ジアゾジニトロフェノール、硝酸バリウム、ケイ化カルシウム、三硫化アンチモン、テトラセン及びガラス粉からなる無鉛爆粉の組成の総重量を100重量%とした場合における、さらに添加される化合物の割合をいう。
【0018】
そして、本実施例1の無鉛爆粉を構成要素とする雷管の作製方法について説明すると、上記の通りに作製した湿爆粉を、直径約4.5mm、高さ約3.1mm、厚み約0.7mmの黄銅からなる雷管体に、重量10〜30mgの範囲で、例えば、20mg摺込む。続いて、紙箔を湿爆粉の上に載置し、さらに、黄銅からなる発火金を雷管体の紙箔上に圧入した後、乾燥させて雷管とする。
【0019】
上記雷管について、硬球落下で撃発させる試験で発火感度を測定したところ、小銃や機関銃、拳銃等の小火器の雷管に要求される発火感度を満足する結果を得た。
また、発射薬への着火性の評価のため、上記雷管を機関銃に用いられる弾丸に組み込み連発性の評価を行ったところ、連発速度の要求を十分に満足する結果を得た。
また、発射後の出管(雷管の飛び出し)、雷管突破(作動後の雷管に穴があく)等の物理的な不具合事象の評価のため、拳銃用の弾丸に組み込みリボルバー式の拳銃で評価を行ったところ、要求性能を満足する結果を得た。
【0020】
なお、本実施例1において、0〜10重量%、例えば、5重量%のタルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物をさらに添加することが望ましい。雷管が作りやすくなるからである。
【0021】
したがって、本発明は、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉としての、鉛をその組成に含まない無鉛爆粉であって、ジアゾジニトロフェノール、硝酸バリウム、ケイ化カルシウム及び三硫化アンチモンを必須組成とし、特に、ジアゾジニトロフェノールを30重量%、硝酸バリウムを25重量%、ケイ化カルシウムを15重量%、三硫化アンチモンを10重量%の組成で構成するとともに、テトラセンを10重量%、ガラス粉が10重量%を含み、これらの合計100重量%に対し、粘調剤としてのゴム液を外割5重量%添加したので、射撃時に鉛フュームを発生することなく、且つ、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有する無鉛爆粉を提供することができる。さらに、その組成の割合を、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉として最適化しているので、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を保証することができる。また、タルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物を外割5重量%添加すれば、雷管が作りやすく、射撃時に鉛フュームを発生することなく、且つ、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有する無鉛爆粉を用いた雷管を提供することが可能になる。
【0022】
(実施例2〜14)
実施例2〜14に係る無鉛爆粉は、実施例1の無鉛爆粉の組成について、種々変化させて構成したものである。また、これらの組成物の総重量に対し、外割として添加される粘結剤としてのゴム液は、5又は10重量%添加されている。なお、実施例2〜14における無鉛爆粉の作製方法は、実施例1と同様である。実施例2〜14においても、外割0〜10重量%のタルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物を添加することが望ましい。
【0023】
ここで、上記実施例1〜14につき、発火感度、着火性、物理的な不具合事象等の各種評価の試験結果を下記[表1]に示す。なお、表中[―]で示されるのは、非添加を示し、[○]は、定性的な評価により、要求を十分に満足するという意味を表している。
【0024】
【表1】

【0025】
なお、比較例として、比較例1〜14のトリシネートを爆粉とする雷管について、実施例1〜14と同様の評価試験を行った試験結果を下記[表2]に示す。なお、表中[―]で示されるのは、非添加を示し、[○]は、定性的な評価により、要求を十分に満足するという意味を表している。
【0026】
【表2】

【0027】
そして、[表1]、[表2]に示す通り、実施例1〜14のいずれについても、鉛を含まない爆粉を用いているにも関わらず、発火感度、着火性、物理的な不具合事象等の要求される性能を十分に満たして、小銃・機関銃、拳銃等の火器に使用される実包や空包などの雷管を構成する無鉛爆粉となり得ることが分かった。
なお、[表2]に示す通り、比較例1〜14についてもその諸性能については問題はない。しかしながら、トリシネートは、成分中に鉛を含むため好ましくなく、その理由については、既に上述している。
【0028】
ここで、本発明に係る無鉛爆粉の組成につき、ジアゾジニトロフェノールは、20重量%よりも少ないと発火感度が低く、弾丸を飛翔させるための発射薬の着火性が低下するため好ましくない。一方、40重量%よりも多いと発火威力が大きすぎるため、雷管突破や出管などの物理的不具合事象が発生するので好ましくない。
テトラセンは、20重量%よりも多いと発火感度は高くなるが、ジアゾジニトロフェノールの割合の低下により発射薬への着火性が低下するため好ましくない。
硝酸バリウムは、20重量%よりも少ないと発火感度が低く、弾丸を飛翔させるための発射薬の着火性が低下するため好ましくない。一方、40重量%よりも多いと発射薬への着火性が向上するが、ジアゾジニトロフェノールの割合の減少により発火感度が低下するため好ましくない。
ケイ化カルシウムは、5重量%より少ないと弾丸を飛翔させるための発射薬の着火性が低下するため好ましくない。一方、30重量%よりも多いと発射薬への着火性が向上するが、ジアゾジニトロフェノールの割合が低下して発火感度が低下するため好ましくない。
【0029】
また、三硫化アンチモンは、20重量%よりも多いと発火感度は高くなるが、ジアゾジニトロフェノールの割合の低下により発射薬への着火性が低下するため好ましくない。
ガラス粉は、20重量%よりも多いと発火感度は高くなるが、ジアゾジニトロフェノールの割合の低下により発射薬への着火性が低下するため好ましくない。
粘結剤(ゴム液)は、0.5重量%より少ないと製造性に支障がでるため好ましくない。一方、10重量%よりも多いと発火感度が低下するため好ましくない。
タルク若しくは二酸化珪素、又は、これらの混合物は、10重量%よりも多いと発火感度が低下するため好ましくない。
【0030】
そして、ジアゾジニトロフェノールを20〜40重量%、硝酸バリウムを20〜40重量%、ケイ化カルシウムが5〜30重量%、三硫化アンチモンを重量1〜20%、テトラセンを0〜20重量%、ガラス粉を0〜20重量%の範囲の組成とし、これらの合計を100重量%に適宜調製するとともに、外割にて粘調剤を0.5〜10重量%添加すれば、本発明に係る無鉛爆粉を得ることができる。
【0031】
以上の通り、本発明は、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉としての、鉛をその組成に含まない無鉛爆粉であって、特に、ジアゾジニトロフェノールを20〜40重量%、硝酸バリウムを20〜40重量%、ケイ化カルシウムが5〜30重量%、三硫化アンチモンを重量1〜20%、テトラセンを0〜20重量%、ガラス粉を0〜20重量%の組成とし、これらの合計100重量%に対し、外割として粘調剤を0.5〜10重量%添加したので、射撃時に鉛フュームを発生することなく、且つ、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有する無鉛爆粉を提供することができる。さらに、その組成について各成分を上記の範囲で適宜調製することにより、小銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する爆粉として最適化することができる。また、タルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物を0〜10重量%添加すれば、雷管が作りやすくなるので、射撃時に鉛フュームを発生することなく、且つ、従来の小火器弾用爆粉と同等の発火性能を有する無鉛爆粉を用いた雷管を提供することが可能になる。
【0032】
これにより、射手が鉛害に曝されるおそれが解消されるとともに、環境にもやさしい銃、機関銃等の火器に使用される実包又は空包の雷管を構成する無鉛爆粉を提供することができる。
【0033】
以上、本発明のいくつかの実施例を説明したが、これに限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
そして、本発明に係る無鉛爆粉は、その組成につき各成分を上記の範囲で適宜調製することにより、小火器のほか、各種の火器に用いられる雷管を構成することができるものであることに留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアゾジニトロフェノール、硝酸バリウム、ケイ化カルシウム及び三硫化アンチモンを必須組成としたことを特徴とする無鉛爆粉。
【請求項2】
請求項1に記載の無鉛爆粉であって、
前記ジアゾジニトロフェノールが20〜40重量%、前記硝酸バリウムが20〜40重量%、前記ケイ化カルシウムが5〜30重量%、及び、前記三硫化アンチモンが重量1〜20%からなるとともに、
テトラセンを0〜20重量%、ガラス粉を0〜20重量%含み、
これらの合計100重量%に対し、0.5〜10重量%の粘調剤をさらに添加した、
ことを特徴とする無鉛爆粉。
【請求項3】
請求項2に記載の無鉛爆粉であって、
前記これらの合計100重量%に対し、0〜10重量%のタルク若しくは二酸化ケイ素、又はタルク及び二酸化ケイ素の混合物をさらに添加した、
ことを特徴とする無鉛爆粉。