説明

焼成チョコレート菓子

【課題】チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感が維持されるようにした焼成チョコレート菓子を提供する。
【解決手段】常温硬化性のチョコレート生地を所定形状に成形し、焼成して得られる焼成チョコレート菓子であって、上記チョコレート生地がグリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することにより、焼成しても内部の食感が軟らかく維持されたものとなる。ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルであること好ましく、HLB7〜8であることが更に好ましい。また、原料として、還元糖を用いないで得られたものであることが好ましく、乳原料を用いないで得られたものであることが更に好ましい。更に、焼成されたチョコレート表面に、粉糖が溶融した被膜が形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温硬化性のチョコレート生地を所定形状に成形し、焼成して得られる焼成チョコレート菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
焼成チョコレート菓子は、少なくとも表面が硬化しているため、手指を汚さずに食べることができ、焼成による独特の風味も付与されているという特徴がある。
【0003】
このような焼成チョコレート菓子として、下記特許文献1には、チョコレート生地に気泡を含有させた後、成形し、焼成して固化することを特徴とする焼菓子の製造法が開示されている。
【0004】
一方、クッキーやビスケット等の原料ドウに混入し、焼成する焼菓子用チョコレートとして、下記特許文献2には、砂糖20〜66重量%、HLB値が10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.2〜1重量%、常温可塑性油脂34〜42重量%含む常温可塑性焼菓子用チョコレートが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、スナック菓子生地中に入れて、焼成するためのチョコレート類として、ポリグリセリンオレイン酸モノエステルが0.05〜1重量%及びHLB5以下のポリグリセリンオレイン酸エステルが0.05〜1重量%添加されていることを特徴とするチョコレート類が開示されている。上記ポリグリセリンオレイン酸モノエステルとしては、テトラグリセリンオレイン酸モノエステル、ペンタグリセリンオレイン酸モノエステル、ヘキサグリセリンオレイン酸モノエステル、オクタグリセリンオレイン酸モノエステル、デカグリセリンオレイン酸モノエステルが挙げられており、上記HLB5以下のポリグリセリンエステルとしては、ヘキサグリセリンオレイン酸ペンタエステル、デカグリセリンオレイン酸ペンタエステル、テトラグリセリンオレイン酸ペンタエステルが挙げられている。
【特許文献1】特開平10−210934号公報
【特許文献2】特公平2−11220号公報
【特許文献3】特開平11−225674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の焼菓子の製造法では、チョコレート生地に気泡を含有させるため、内部まで熱変性しやすく、サク味のある軽い食感が得られるという特徴はあるものの、チョコレート本来のトロッとした軟らかい食感が乏しくなるという問題点があった。
【0007】
また、上記特許文献2の常温可塑性焼菓子用チョコレートは、クッキーやビスケット等の原料ドウに混入し、焼成するためのものであり、原料ドウに混入しやすくするため、常温可塑性のチョコレート生地を用いている。したがって、常温硬化性のチョコレート生地を成形し、焼成して得られる、チョコレートを主体とする焼菓子を提供することを目的としたものではなかった。
【0008】
更に、上記特許文献3のチョコレート類も、例えばエクストルーダーで膨化した中空のスナック菓子生地に注入し、焼成して複合菓子を得るためのチョコレート類を提供することを目的としており、常温硬化性のチョコレート生地を成形し、焼成して得られる、チョコレートを主体とする焼菓子を提供することを目的としたものではなかった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、チョコレート生地を所定形状に成形し、焼成して得られる焼成チョコレート菓子であって、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感が維持されるようにした焼成チョコレート菓子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の焼成チョコレート菓子は、常温硬化性のチョコレート生地を所定形状に成形し、焼成して得られる焼成チョコレート菓子であって、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする焼成チョコレート菓子を提供するものである。
【0011】
本発明によれば、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することにより、焼成をしても、内部はチョコレート本来の軟らかく滑らかな食感が維持されたチョコレート菓子を得ることができる。
【0012】
本発明においては、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルであることが好ましい。これによれば、焼成チョコレートの食感を軟らかく滑らかにする効果を高めることができる。
【0013】
また、原料として、還元糖を用いないで得られたものであることが好ましい。更に、原料として、乳蛋白を含む原料を用いないで得られたものであることが好ましい。これらによれば、焼成チョコレートの食感を軟らかく滑らかにする効果を更に高めることができる。
【0014】
更に、焼成されたチョコレート表面に、粉糖が溶融した被膜が形成されていることが好ましく、前記粉糖が含水マルトースであり、該粉糖の付着量が1〜5質量%であることが更に好ましい。これによれば、粉糖が溶融した被膜によって、チョコレート内部の加熱硬化が抑制され、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感をより効果的に保つことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することにより、焼成をしても、内部はチョコレート本来の軟らかく滑らかな食感が維持されたチョコレート菓子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、チョコレートとは、規約や法規上の規定によって限定されるものではなく、カカオマス、ココア、ココアバター、ココアバター代用脂等を使用した油脂加工食品全般を意味するものとする。また、チョコレート生地としては、例えば、純チョコレート生地、準チョコレート生地、ミルクチョコレート生地、準ミルクチョコレート生地、純ミルクチョコレート生地、ホワイトチョコレート生地、その他の一般的に用いられているチョコレート生地を採用することができる。
【0017】
このようなチョコレート生地は、通常のチョコレートに使用されているカカオマス及び/又はココア、糖類、粉乳、乳化剤、ココアバター及び/又はココアバター代用脂、香料等を主原料とし、更に必要に応じて上記副原料を用いて、製造することができる。
【0018】
糖類としては、例えば、砂糖に、必要に応じてトレハロースなどの他の糖類や、糖アルコールなどを配合したものが好ましく用いられる。ただし、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感を得るためには、乳糖などの還元糖を含有しないことが好ましい。
【0019】
粉乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳等を用いることができる。しかしながら、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感を得るためには、乳蛋白の含有量をできるだけ少なくする方が好ましい。
【0020】
ココアバター及び/又はココアバター代用脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油を原料としたハードバター、エライジン酸を構成脂肪酸とするトランス型ハードバター等のノンテンパリング型の油脂、ココアバター等のテンパリング型油脂を用いることができる。なお、チョコレート生地の焼成時のダレを抑制するため、本発明で用いるチョコレート生地は、上昇融点35℃以上の油脂を0.2〜5質量%含有することが好ましく、上記上昇融点35℃以上の油脂が、飽和脂肪酸トリグリセリドであることが更に好ましい。
【0021】
そして、本発明では、焼成後のチョコレート内部の食感を軟らかく保つため、上記チョコレート生地に、乳化剤として、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させる。この場合、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルであることが好ましい。具体的には、ジグリセリンモノオレイン酸エステル、ジグリセリンジオレイン酸エステル、トリグリセリンモノオレイン酸エステル又はトリグリセリンジオレイン酸エステルなどが挙げられる。
【0022】
上記グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルは、チョコレート生地中に0.05〜5質量%添加することが好ましく、0.1から1質量%添加することが更に好ましい。
【0023】
なお、本発明では、チョコレート生地を成形し焼成する時のダレを抑制するため、乳化剤として、上記グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルの他に、HLB8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることが好ましい。この場合、ポリグリセリン脂肪酸エステルが、HLB10以上のポリグリセリン飽和脂肪酸エステルであるか、あるいはHLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルであることが更に好ましい。
【0024】
HLB10以上のポリグリセリン飽和脂肪酸エステルとしては、例えばデカグリセリンモノカプリル酸エステル、デカグリセリンモノカプリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンジステアリン酸、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、又はテトラグリセリンモノステアリン酸エステルなどが挙げられる。
【0025】
HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとしては、例えばテトラグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル又はデカグリセリンモノオレイン酸エステルなどが挙げられる。
【0026】
上記HLB8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルは、チョコレート生地中に0.01〜1質量%添加することが好ましく、0.05〜0.5質量%添加することが更に好ましい。
【0027】
本発明において、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルと、HLB8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用すれば、焼成時のダレを抑制できると共に、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感を得ることができる。
【0028】
本発明で用いるチョコレート生地は、常法に従って上記原料をミキシングし、リファイニングを行った後、コンチングを行うことで製造できる。また、必要に応じて、コンチング工程後、加熱、冷却、加圧、減圧しながら激しく撹拌する、いわゆるホイップ処理を施して、気泡を含有させてもよい。撹拌は、例えば、ミキサー、含気ミキサー装置等を用いて行うことができる。しかしながら、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感を得るためには、気泡を含有させないことが好ましい。
【0029】
なお、チョコレート生地中には、例えばナッツ類の粉砕物、果汁パウダー、果物凍結乾燥チップ、コーヒーチップ、キャラメル、抹茶、カカオニブ、膨化型スナック食品、ビスケットチップ、キャンディーチップ、チョコレートチップ、ドライフルーツ、又はマシュマロなどの具材を含有させてもよい。
【0030】
こうして調製したチョコレート生地を、例えば、モールド(型)に入れて成形するモールド成形、押出機のダイから所定形状に押出して切断する押出成形、スチールベルト上等にチョコレート生地を直接落として固化させるスチールベルト成形等の方法で所定形状に成形する。
【0031】
この場合、焼成後の内部を軟らかく滑らかな食感に維持するため、成形後の製品の最小径が0.5cm以上、好ましくは1.0〜2.5cmとなるようにすることが好ましい。
【0032】
更に、本発明の好ましい態様では、こうして得られたチョコレート成形品を焼成するに先立って、該成形品を相対湿度50〜70%、温度15〜30℃の雰囲気下、好ましくは湿度及び温度が上記範囲となるように調湿、調温された部屋に入れて、1時間以上放置し、その後に焼成を行うことが好ましい。これによれば、焼成時のダレを更に効果的に防止することができる。
【0033】
更にまた、焼成によるダレを抑制し、焼成後の内部を軟らかく滑らかな食感にするために、チョコレート成形品の表面に粉糖をまぶしてから、焼成を行ってもよい。使用する粉糖は、その粒径が50メッシュパスであることが好ましく、100メッシュパスであることが更に好ましい。この場合、粉糖の付与量は、チョコレート生地に対して1〜5質量%とすることが好ましい。また、粉糖の融点が150℃以下であることが好ましい。この粉糖処理工程により、外観が透明でパリッとした食感の焼成チョコレートが得られる。好ましい粉糖としては、例えば含水マルトース、含水トレハロース又はグルコースなどが挙げられる。これによって、焼成されたチョコレート表面に、粉糖が溶融した被膜が形成され、チョコレート内部の軟らかな食感をより効果的に保つことができる。
【0034】
焼成は、例えばオーブン、ガスバーナー、電子レンジ又は電気ヒーター(トースター)等を用いて行うことができるが、特にオーブンが好ましく用いられる。焼成温度は、180〜300℃で1〜10分間行うことが好ましく、200〜270℃で1〜10分間行うことが更に好ましい。このような条件下で焼成することにより、表面は適度な硬さの食感を有し、内部はしっとりとした滑らかな口溶けを有し、チョコレートの風味がより良好に維持された焼き菓子を得ることができる。
【0035】
こうして焼成した後、放冷又は送風等による強制冷却を行うことにより、本発明の焼成チョコレート菓子を得ることができる。
【実施例】
【0036】
試験例1(食感改善のための乳化剤の比較)
カカオマス5質量部、ココアパウダー10質量部、砂糖25質量部、乳糖10質量部、全粉乳10質量部、脱脂粉乳10質量部、植物油脂30質量部、レシチン0.3質量部を基本配合とし、これに下記表1の乳化剤を添加し、常法に従って上記原料をミキシングし、粒度25μmになるようリファイニングを行った後、コンチングを行って、チョコレート生地を調製した。
【0037】
このチョコレート生地を、モールド(内径20mm四方、深さ10mm)に充填し、冷却、固化させた後、モールドから取り出してオーブンに入れ、200℃で5分間焼成して、焼成チョコレート菓子を製造した。
【0038】
この焼成チョコレート菓子について、14名のパネラーにより、チョコレート内部の食感の軟らかさを三段階で評価した。その結果を表1に示す。表1中評価は、◎は食感が十分に軟らかいことを、○は食感が軟らかいことを、×は食感が硬いことを表し、全パネラーの平均で表した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示されるように、乳化剤として、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを添加した試料No.2、3は、他の試料に比べて、チョコレート内部の食感の軟らかさが良好に維持されることがわかる。
【0041】
試験例2(粉乳及び乳糖の添加の有無の比較)
下記表2に示すA〜Dの配合を基本配合として、チョコレート生地を調製し、このチョコレート生地を用いて、試験例1と同様な方法で焼成チョコレート菓子を製造した。
【0042】
この焼成チョコレート菓子について、14名のパネラーにより、チョコレート内部の食感の軟らかさを三段階で評価した。その結果を表3に示す。表3中、◎、○、×の評価基準は、前記試験例1と同じであり全パネラーの平均で表した。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
表3に示すように、粉乳を添加せず、かつ、乳糖も添加しない試料No.13(配合D)が、チョコレート内部の食感が最も軟らかく保たれていることがわかる。また、粉乳を添加し、乳糖をしない試料No.11(配合B)、及び、粉乳を添加せず、乳糖を添加した試料No.12(配合C)は、粉乳及び乳糖を添加した試料No.10(配合A)のものよりは、チョコレート内部の食感が軟らかく保たれていることがわかる。
【0046】
試験例3(粉糖がけの有無の比較)
前記表2のAの配合により、試験例1と同様な方法で、チョコレートを成形し、このチョコレートの表面に、下記表4に示す粉糖を、同表に示す割合で振りかけ、試験例1と同様な方法で焼成して、焼成チョコレート菓子を製造した。なお、コントロールとして、粉糖がけをしないものを同様に製造した。
【0047】
こうして得られた各試料について、14名のパネラーにより、見た目の外観の良さと、チョコレート内部の食感の軟らかさを三段階で評価した。その結果を表4に示す。表4中、外観の評価は、◎は外観が透明であることを、○は外観が半透明であることを、×は外観が白濁し不透明であることを表す。また、食感の評価基準は、前記試験例1と同じであり、両評価は、全パネラーの平均で表した。
【0048】
【表4】

【0049】
表4に示されるように、粉糖がけを行って焼成することにより、チョコレート内部の食感を軟らかく保てることがわかる。
【0050】
試験例4(ダレ防止のための乳化剤の比較)
表5に示す原料を基本配合として、これに表6に示す各種乳化剤をチョコレート生地中に添加し、常法に従って上記原料をミキシングし、粒度25μmになるようリファイニングを行った後、コンチングを行って、チョコレート生地を調製した。
【0051】
このチョコレート生地をモールド(内径20mm四方、深さ10mm)に充填し、冷却、固化させた後、モールドから取り出してオーブンに入れ、200℃で5分間焼成して、焼成チョコレート菓子を製造した。
【0052】
この焼成チョコレート菓子の形状を、焼成前の成形形状と比較して、14名のパネラーによりダレの程度を評価した。その結果を表6に示す。表6中、◎はダレが十分に抑制されていることを、○はダレが抑制されていることを、△はダレがやや発生していることを、×はダレが顕著に発生していることを示し、全パネラーの平均で表した。
【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
表6の結果から、HLB8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加した試料No.21、22、23、24、25、26,29は、いずれもダレが抑制されており、特に、試料No.21のヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、試料No.23のデカグリセリンモノミリスチン酸エステル(いずれもHLB10以上のポリグリセリン飽和脂肪酸エステル)、及び試料No.22のテトラグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル)が優れた効果を発揮した。
【0056】
試験例5(高融点油脂の添加効果の比較)
表5に示す原料を基本配合として、これに表7に示す高融点油脂をチョコレート生地中に添加し、このチョコレート生地を用いて、試験例4と同様な方法で、焼成チョコレート菓子を製造した。
【0057】
この焼成チョコレート菓子の形状を、焼成前の成形形状と比較して、14名のパネラーによりダレの程度を評価した。その結果を表7に示す。表7中、◎、○、△、×の評価基準は、前記試験例4と同じであり、全パネラーの平均で表した。
【0058】
【表7】

【0059】
表7の結果から、上昇融点温度58℃のトリ飽和グリセリドを添加した試料No.31は、ダレが良好に抑制されることがわかる。
【0060】
比較例1(コントロール)
カカオマス50g、ココアパウダー100g、砂糖250g、乳糖100g、全粉乳100g、脱脂粉乳100g、植物油脂300g、レシチン3gを常法に従ってミキシングし、粒度が25μmになるようにリファイニングを行った後、コンチングを行ってチョコレート生地を調製した。このチョコレート生地をモールド(内径20mm四方、深さ10mm)に充填し、冷却、固化させた後モールドから取り出してオーブンに入れ、200℃で5分間焼成して焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、焼成前の成形チョコレートの形状に比較して大きなダレが発生しており、かつ、内部が硬化し、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感からは程遠いものであった。
【0061】
比較例2(ショ糖脂肪酸エステル;食感改善効果無し)
比較例1の配合にショ糖オレイン酸エステル5gを加えた以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと同様、内部が硬化し、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感からは程遠いものであった。
【0062】
比較例3(モノグリセリン脂肪酸エステル;食感改善効果無し)
比較例1の配合にモノグリセリンモノオレイン酸エステル5gを加えた以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと同様、内部が硬化し、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感からは程遠いものであった。
【0063】
比較例4(ジグリセリン飽和脂肪酸エステル;食感改善効果無し)
比較例1の配合にジグリセリンモノステアリン酸エステル5gを加えた以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと同様、内部が硬化し、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感からは程遠いものであった。
【0064】
実施例1(トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.05%添加の食感改善効果)
比較例1の配合にトリグリセリンモノオレイン酸エステル0.5gを加えた以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと比較して内部が軟らかかったが、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感に比較すると十分ではなかった。
【0065】
実施例2(トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.5%添加の食感改善効果)
比較例1の配合にトリグリセリンモノオレイン酸エステル5gを加えた以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと比較して内部が十分に軟らく、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感と比較して見劣りのしないものであった。
【0066】
比較例5(還元糖無添加の食感改善効果)
比較例1の配合において乳糖の全量を砂糖で置換して還元糖が含まれない配合とした以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと比較して内部が軟らかかったが、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感に比較すると十分ではなかった。
【0067】
比較例6(乳蛋白を含む原料無添加の食感改善効果)
比較例1の配合において全粉乳及び脱脂粉乳の全量を砂糖で置換して乳蛋白を含む原料が含まれない配合とした以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと比較して内部が軟らかかったが、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感に比較すると十分ではなかった。
【0068】
比較例7(還元糖及び乳蛋白を含む原料無添加の食感改善効果)
比較例1の配合において還元糖、全粉乳及び脱脂粉乳の全量を砂糖で置換して乳蛋白を含む原料が含まれない配合とした以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと比較して内部が十分に軟らく、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感と比較して見劣りのしないものであった。
【0069】
比較例8(粉糖掛けの食感改善効果)
成形したチョコレートをオーブンに入れて焼成する前に、成形チョコレートに対し2.5質量%の割合で含水マルトースを塗布した以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1のものと比較して内部が十分に軟らく、チョコレート本来の軟らかく滑らかな食感と比較して見劣りのしないものであった。
【0070】
実施例3(トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル+粉糖掛けの食感改善効果/HLB10以上のポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのダレ防止効果)
比較例1の配合にトリグリセリンモノオレイン酸エステル5g及びヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル5gを加え、更に成形したチョコレートをオーブンに入れて焼成する前に、成形チョコレートに対し2.5質量%の割合で含水マルトースを塗布した以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1に認められたダレの発生が十分に抑制されており、かつ、内部が十分に軟らく、焼成前の成形チョコレートと同様、軟らかく滑らかな食感であった。
【0071】
実施例4(トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル+粉糖掛けの食感改善効果/HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルのダレ防止効果)
比較例1の配合にトリグリセリンモノオレイン酸エステル5g及びテトラグリセリンモノオレイン酸エステル5gを加え、更に成形したチョコレートをオーブンに入れて焼成する前に、成形チョコレートに対し2.5質量%の割合で含水マルトースを塗布した以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレートは、比較例1に認められたダレの発生が十分に抑制されており、かつ、内部が十分に軟らく、焼成前の成形チョコレートと同様、軟らかく滑らかな食感であった。
【0072】
実施例5(還元糖及び乳蛋白を含む原料無添加+トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル+粉糖掛けの食感改善効果/HLB10以上のポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのダレ防止効果)
比較例7の配合にトリグリセリンモノオレイン酸エステル5g及びヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル5gを加え、更に成形したチョコレートをオーブンに入れて焼成する前に、成形チョコレートに対し2.5質量%の割合で含水マルトースを塗布した以外は、比較例1と同様にして焼成チョコレート菓子を製造した。この焼成チョコレート菓子は、比較例1に認められたダレの発生が十分に抑制されており、かつ、内部が十分に軟らく、焼成前の成形チョコレートと同様、軟らかく滑らかな食感であり、実施例3、4の焼成チョコレート菓子よりも優れた食感を有していた。
【0073】
以上の比較例1〜8及び実施例1〜5の配合並びに試験結果を表8,9に示す。表9、10中、食感改善又はダレ防止効果の評価基準は、それぞれ試験例1又は試験例4と同様であるが、それぞれの効果の高い順に◎◎◎>◎◎>◎>〇>△>×で表した。
【0074】
【表8】

【0075】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温硬化性のチョコレート生地を所定形状に成形し、焼成して得られる焼成チョコレート菓子であって、グリセリンの重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする焼成チョコレート菓子。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルである請求項1記載の焼成チョコレート菓子。
【請求項3】
原料として、還元糖を用いないで得られたものである請求項1〜2のいずれか1つに記載のチョコレート菓子。
【請求項4】
原料として、乳蛋白を含む原料を用いないで得られたものである請求項1〜4のいずれか1つに記載のチョコレート菓子。
【請求項5】
焼成されたチョコレート表面に、粉糖が溶融した被膜が形成されている請求項1〜4のいずれか1つに記載の焼成チョコレート菓子。
【請求項6】
前記粉糖が含水マルトースであり、該粉糖の付着量が1〜5質量%である請求項1〜5のいずれか1つに記載の焼成チョコレート菓子。