説明

焼成物製造装置

【課題】 石炭灰とCa含有原料とからCaO・Al・2SiOを含有する焼成物を得る際に、効率的な製造が可能な製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】 混合原料貯蔵サイロ(1)と、プレヒーターを備えた焼成装置(2)と、石炭灰貯蔵部(8)から混合原料貯蔵サイロの上部へと石炭灰を輸送する輸送手段(3)と、石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロへと輸送される途中の石炭灰に対して粉末状のCa含有原料を添加する手段(4−1)と、混合原料貯蔵サイロの下部から最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段(5)と、混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段(6)とを備える製造装置を用い、石炭灰とCa含有原料の混合原料を1000〜1400℃で焼成する。輸送手段(6)の一部と輸送手段(5)の一部は共通していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るため製造装置に関する。詳しくは、廃棄物や副産物、特に石炭灰を主原料としてCaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るための設備を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題と関連して、廃棄物、副産物等の有効利用は重要な課題となっている。セメント産業、セメント製造設備の特徴を生かし、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行うことは、安全かつ大量処分が可能という観点から有効とされている。
【0003】
廃棄物、副産物等の中で、石炭灰、都市ごみ焼却灰、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等、特に石炭灰は、通常のセメントクリンカー組成に比べ、Al含有量が多い。そのためこのような廃棄物、副産物等の使用量を増加させた場合、セメントクリンカー成分のうち間隙相に当たる3CaO・Al含有量が増加することになり、セメント物性に影響が生じる。従って、セメント製造での廃棄物、副産物等の利用量は、Al成分の量により制約を受け、多量に使用できないという問題がある。
【0004】
そのようななか、上記石炭灰を主成分とし、Caを含む原料を副成分としてCaO・Al・2SiO(以下CASと略記する場合がある)を含有する焼成物を製造し、セメント混合材や細骨材とする技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
一般的な石炭灰の構成成分の比率をCASと比較すると、Al及びSiOの割合が高い一方で、CaOの割合が低い。そのため通常は、石炭灰に対してCa含有原料を混合して焼成しなければCASを含む焼成物を得ることができない。このCa含有原料の混合比率は、該Ca含有原料の種類にもよるが、一般的には石炭灰100質量部に対して、5〜90質量部と相対的に少量である。
【0006】
ここで、通常のポルトランドセメントの製造に際しては、所定の焼き上がり(クリンカー)組成になるように各種原料を混合し、ボールミル、竪型ミル等のミル等により粉砕・混合した後、この粉砕物を焼成する(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4494743号公報
【特許文献2】特許第4456832号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】セメント協会HP、“セメントができるまで(製造工程)”、[online]、セメント協会、インターネット、<URL:http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/jd3.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、石炭灰は、それ単独でみると細かい粉末であり、敢えて粉砕工程に供す利点がない。むしろ、上記ポルトランドセメントの製造方法と同様にCa含有原料と混合して粉砕することは、粉砕時のエネルギーが余計に必要となるだけであり、省エネルギーの観点からむしろ問題がある。
【0010】
従って本発明は、石炭灰とCa含有原料とからCASを含有する焼成物を得るために、石炭灰を粉砕工程に供すことを略して、効率的な製造が可能な製造方法、及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。そして原料を焼成する前の混合原料貯蔵サイロにおいては、該サイロへの原料導入は上部からの落下により、搬出は下部から行われるのが通常である点に着目した。そして、該落下時のエネルギーにより粉末の混合が行われ得ることを見出し、これにより特別な混合装置を設けなくともよい可能性に想到し、更に検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、石炭灰と、粉末状のCa含有原料とを混合して焼成し、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るための製造装置であって、
(1)混合原料貯蔵サイロと、(2)プレヒーターを備えた焼成装置と、(3)石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロの上部へと石炭灰を輸送する輸送手段と、(4−1)石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロへと輸送される途中の石炭灰に対して粉末状のCa含有原料を添加する手段、及び/又は(4−2)サイロ上部から直接サイロ内へ粉末状のCa含有原料を投入する手段、(5)混合原料貯蔵サイロの下部から最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段と、(6)混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段と、
を備えることを特徴とする前記製造装置である。
【0013】
また他の発明は、上記(6)混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段の一部と、(5)混合原料貯蔵サイロの下部から最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段の少なくとも一部とが共通している上記製造装置である。
【0014】
さらに他の発明は、上記装置を用いる、石炭灰と粉末状のCa含有原料とからの、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の製造装置によれば、石炭灰と粉末状のCa含有原料とが、混合原料貯蔵サイロの上部からその内部へと落下する際のエネルギーにより十分に混合される。
【0016】
従って、Ca含有原料さえ粉砕等により粉末状にしておけば、石炭灰を粉砕するための装置を設ける必要がなく、よって粉砕エネルギーコスト及び装置コストの大幅な削減ができる。また混合原料貯蔵サイロを利用できるため石炭灰とCa含有原料とを均一に混合するための混合装置も別途設ける必要がなく、その点からもエネルギー及び装置に係わるコストが削減できるという利点がある。さらにこれら利点に伴って副次的に、これらの工程を行う必要がないため時間的にも短時間で製造ができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造装置の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造装置は、石炭灰と、粉末状のCa含有原料とを混合して焼成し、CASを20質量%以上含有する焼成物を得るためのものである。
【0019】
当該石炭灰は、公知の石炭灰、即ち、火力発電所等から排出されるものを特に制限されることなく使用できる。一般的な石炭灰は、主成分としてSiOを35〜76質量%、Alを17〜40質量%含み、その他の少量成分として、CaO、Fe、MgO、TiO、NaO、KO等を含む。より多量のCASを生じさせるために、Alを20質量%以上含むものが好ましい。なお石炭灰は、その語が示すように粉末状のものである。
【0020】
Ca含有原料は、上記石炭灰からCASを生じさせるために不足するCaOを補うための原料であり、セメント製造で汎用される天然の石灰石の他、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム(消石灰)、生石灰等の合成化学物質や、高炉スラグ等を用いることができる。石炭灰を有効かつ多量に処理するという観点から、当該Ca含有原料は、CaO換算で40質量%以上のCa分を含むことが好ましい。さらに該Ca含有原料は複数種のものを混合して用いることができる。
【0021】
当該Ca含有原料は、粉末状のものである必要がある。具体的には、ふるい法による測定で、最大粒径が1mm以下、90μm残分50%未満の粉末とすることが望ましい。
【0022】
工業的に製造される炭酸カルシウムや消石灰などは粉末状のものが容易に入手可能であるが、天然の石灰石を本発明におけるCa含有原料とする場合には、粉砕が必要である。当該粉砕は、ポルトランドセメント製造の際と同様のボールミル、竪型ミル等を使用することができる。
【0023】
なお本発明におけるCASを製造するための原料としては、必要に応じてCaO含有量が石灰石や消石灰等の純Ca化合物よりも少なく、その分他の金属元素を比較的多量に含有する物質を併用することも可能である。これは石炭灰におけるSiO又はAlがCASの組成に比して偏り過ぎている場合の補正や、石炭灰以外の廃棄物の処理も目的とする場合、あるいは工業的に入手しやすいCa含有原料が既に混合物として存在している場合などに有効である。
【0024】
ここで、従来公知のCS、CS、CA及びCAFを主成分とするポルトランドセメントクリンカーが焼成で生じるように化学組成が事前に調製・粉砕された原料粉末は、その主成分を石灰石等のCaO源が占め、またその他の成分としてもCASの構成成分であるSiO、Alが多く、かつ、工業的に多量に製造されているため入手が容易であり、粉末であるという性状とあいまって、本発明におけるCa含有原料として極めて優れた利点を有する(以下、この未焼成原料を「ポルトランドセメントクリンカー原料」という)。
【0025】
また化学組成が同様で、粉末状であるという点から、ポルトランドセメントをCa含有原料とすることもできる。通常のポルトランドセメントでは、未焼成のポルトランドセメントクリンカー原料に比べて焼成・粉砕コストが余計にかかっているため利点が少ないが、製造後、何らかの理由(例えば、風化)により使用されずに破棄されるセメント(廃セメント)であれば当該不利益は問題にならず、Ca含有原料としてこれもまた優れた材料である。
【0026】
当該ポルトランドセメントクリンカー原料粉末としては、従来公知の原料を、公知の方法で組成調製し、かつ混合・粉砕したものを用いればよい(例えば、非特許文献1参照)。具体的には、石灰石、珪石、粘土等の鉱物系の原料や、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄鉱滓、下水汚泥、浄水汚泥、製紙スラッジ、建設発生土、鋳物砂、ばいじん、焼却飛灰、溶融飛灰、塩素バイパスダスト、木屑、廃白土、ボタ、廃タイヤ、貝殻、都市ごみやその焼却灰等の副産物・廃棄物系の原料が挙げられる。
【0027】
以下、上述の原料を用いて、CASを20質量%以上含有する焼成物を得るための本発明の製造方法について、図1を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明の製造装置の構成を示す概略図である。本装置は、石炭灰とCa含有原料とを焼成するための焼成装置(2)を本体として有しており、当該焼成装置は、焼成排ガスの余熱を有効利用するためのプレヒーター(2’)を備えている。当該焼成装置は、焼成温度の最高温度が1000℃以上、好ましくは1150℃以上にできるものであればよい。工業的な生産性を考慮すると連続式の焼成装置であることがより好ましい。このようなプレヒーターを備える焼成装置としては、ポルトランドセメントの製造に使用される、所謂、SPキルン、NSPキルン等をそのまま使用することができる。
【0029】
当該焼成装置で焼成される原料は、混合原料貯蔵サイロ(1)の下部から、最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段(5)を備えている(図1では(5’)+(5”)及び(7))。当該輸送手段(5)は、粉体の輸送手段として公知の装置を特に限定することなく採用することができる。具体的には、エアースライド、バケットエレベーター、ベルトコンベア、スクリューコンベア、パイプコンベア、空気圧送等が挙げられる。さらに複数の輸送手段を組み合わせることにも制限はない。
【0030】
本発明の特徴点の一つは、該混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段(6)を有する点にある。下部から抜き出された混合原料は、上部から再度混合原料貯蔵サイロへと投入される際に、その位置エネルギーを運動エネルギーへと変換する。そして混合原料は粉末であるため、この運動エネルギーが該粉末の攪拌を引き起こす原動力となるという効果を有する。さらにサイロ上部から投入された原料は、下部から取り出されるために徐々に移動していくが、その際にも混合は若干進行する。
【0031】
ここで、当該輸送する手段(6)の一部は、前記混合原料貯蔵サイロの下部から、最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段(5)の一部又は全部と共通するものであってよい。具体的な一例としては、図示したように、前記混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、最上部のプレヒーター近辺までは共通する輸送手段を設けておき、その先に、輸送されてきた混合原料をそのまま最上部のプレヒーターへ送るか、混合原料貯蔵サイロの上部へ輸送(返送)するか、あるいは一部をプレヒーターへ導き他の一部は返送するかの選択を行う手段(7)と、該選択手段(7)から混合原料貯蔵サイロの上部へと混合原料を返送する手段(6’)とを設ける方法が挙げられる。該返送手段(6’)としては、混合原料を落下させるだけですむため、前記した輸送手段のなかでもエアースライドを用いるか、あるいは単なるパイプラインでも構わない。即ち、図1では(5’)、(6’)及び(7)の装置(設備)が一体となって、輸送手段(6)を構成している。
【0032】
当該選択手段としては計量機能を有するものが好ましい。これは、輸送されてきた混合原料を最上部のプレヒーターへ送る際の量を、ここで計量し、過剰量の混合原料を前記返送手段で混合原料貯蔵サイロの上部へと返送できるためである。当該計量方法としては容量式、重量式のいずれでもよく、公知の粉末の計量手段を特に限定なく採用できる。
【0033】
混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出す手段(図示しない)としては、公知の手段を採用することができる。具体的には、例えば、ロータリーフィーダー、スクリューフィーダー、テーブルフィーダー等が挙げられる。なお当該混合原料を抜き出す手段は、その形式によっては、前記輸送手段(5)及び/又は輸送手段(6)と兼用の手段ともなる。
【0034】
上記混合原料貯蔵サイロへは、石炭灰貯蔵部(8)から、混合原料貯蔵サイロの上部へと石炭灰を輸送する輸送手段(3)が設けられている。本発明においては、該輸送手段(3)の途中に、輸送される途中の石炭灰に対してCa含有原料を添加する手段(4−1)を設け、ある程度の混合物として混合原料貯蔵サイロ内へと石炭灰及びCa含有原料を投入しても良いし、サイロ上部から直接サイロ内へ粉末状のCa含有原料を投入する手段(4−2)を設け、石炭灰とCa含有原料を別々に混合原料貯蔵サイロ内へ投入してもよい。図1に示した態様は(4−1)の形式である。
【0035】
特に、この(4−1)の態様を採用することにより、輸送手段(3)の途中でCa含有原料が添加された石炭灰が混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送され、その内部に落下する際に、やはり位置エネルギーを運動エネルギーへと替え、石炭灰とCa含有原料とが混合される効果が期待でき好ましい。
【0036】
当該添加手段(4−1)は特に限定されず、輸送中の石炭灰に対して粉末状のCa含有原料が加わればよく、この時点で混合までされる必要はないため、単に、輸送中の石炭灰上に、所定量のCa含有原料を落下させる程度のことができる手段であればよい。無論、落下に限らず、空気圧等を利用して強制的に添加しても構わない。例えば、輸送手段(3)として管状経路を有するものを用いる場合、該管状経路途中に開口部を設けて、そこへ添加手段(4−1)としてCa含有原料添加用シュートを設置し、別の輸送手段を用いてCa含有原料貯蔵部(9)から輸送されてきた粉末状のCa含有原料を該シュートを介して輸送中の石炭灰に添加すればよい。その際の添加量は、Ca含有原料貯蔵部出口部や、輸送手段途中或いはシュート入口部で計量装置(例えば、計量フィーダー)を用いて適宜調整することができる。
【0037】
当該輸送手段(3)としては、エアースライド、バケットエレベーター、ベルトコンベア、パイプコンベア、空気圧送など公知の技術が特に制限なく使用でき、さらに複数の輸送手段を組み合わせることも好ましい。特に、Ca含有原料を添加した後、輸送手段を切り替えると、その切り替え時に原料の混合効果が得られる利点がある。また当該輸送手段(3)で輸送される石炭灰の量は、一般的には石炭灰貯蔵部(8)の出口部(取り出し部)にて公知の方法で制御すればよい。
【0038】
石炭灰貯蔵部(8)及びCa含有原料貯蔵部(9)としては、各々、一般的には原料サイロを採用することができるが、原料を輸送してきたタンカーやローリーから直接原料を取り出すようにしてもよい(タンカーやローリーが貯蔵部となる)。
【0039】
上述の本発明の製造装置を用い、石炭灰と、粉末状のCa含有原料とを混合して焼成し、CASを20質量%以上含有する焼成物を得るため操作方法を以下、簡単に述べる。
【0040】
装置起動時には混合原料貯蔵サイロ(1)は空であるから、まず、石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロの上部へと石炭灰を輸送する輸送手段(3)と、石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロへと輸送される途中の石炭灰に対して粉末状のCa含有原料を添加する手段(4−1)及び/又はサイロ上部から直接サイロ内へ粉末状のCa含有原料を投入する手段(4−2)とを用いて、該混合原料貯蔵サイロ中にある程度の原料を溜める必要がある。
【0041】
ここで、石炭灰、Ca含有原料のいずれか一方のみの原料を先に混合原料貯蔵サイロ内に投入し、その後、他方を投入すると、次に述べる循環操作を行っても十分に均一に混合されないか、或いは均一になるまで膨大な時間がかかってしまう。従って、混合原料貯蔵サイロ内への石炭灰及びCa含有原料の投入速度比はなるべく一定になるように制御することが好ましい。この制御のし易さの点からも、前記(4−1)の添加手段を採用することが望ましい。
【0042】
混合原料貯蔵サイロへの原料の投入中は、該混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段(6)を稼働させて、混合原料を循環させることにより、石炭灰とCa含有原料との混合性を向上させる。この際の循環速度は、輸送手段(3)により輸送されてくる混合原料を100質量部/Hrとして、20〜300質量部/Hrとすることが好ましい。該循環は、最終的に混合原料貯蔵サイロに貯蔵される混合原料が最初からサイロ内に存在していたと仮定して、その全量が3〜10回循環するのに相当する程度の量と時間で行えばよい。当該循環回数を得るために、必要に応じて、輸送手段(3)により輸送されてくる混合原料がなくなった後も循環させることが可能である。
【0043】
混合原料貯蔵サイロ中に所定量の混合原料が貯まった後は、混合原料を、プレヒーターを介して焼成装置中へ導入し、焼成を行わせる。焼成温度としては、通常、1000〜1400℃、好ましくは1150〜1350℃である。焼成時間(焼成装置内滞留時間)は、焼成温度にもよるが、一般的には0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。また、この焼成中も輸送手段(返送手段)(6)は稼働させておき、混合原料の一部は循環するようにしておくことが、原料の均一性を図る点でいっそう好ましい。
【0044】
焼成物は、クリンカクーラー(10)により急冷して熱回収するとともに冷却し、これをサイロ(11)等に貯蔵し、必要に応じて取り出して使用すればよい。むろん焼成装置の態様等によっては、急冷せずに徐々に除熱することも可能である。
【0045】
焼成して得られる焼成物中のCASは、全体の20質量%以上含まれていればよいが、セメント混合材として使用する際の物性を考慮すると、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上が特に好ましい。一方、石炭灰を主原料とする特性上、100%CASとすることは困難であり、通常90質量%がCASであれば十分である。CASの割合は、第一に混合原料の化学組成をCASの化学組成に近づけることにより、第二に前記したような適切な温度範囲と時間で焼成を行うことによって高くすることができる。
【0046】
得られた焼成物は、前記特許文献1、2等に記載の方法で使用することができる。具体的には適度な粒度に粉砕し、セメントの混合材、細骨材等として使用することが可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明の構成および効果を説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
【0048】
プレヒーターを備えた焼成装置(2)としては、普通ポルトランドセメントクリンカーの生産量として約125万トン/年の能力を有するNSPキルンを用いた。混合原料貯蔵サイロ(1)は、直径18m、容量4500mのものを用いた。
【0049】
混合原料貯蔵サイロからの混合原料の抜き出し装置はロータリーフィーダーを採用し、さらに混合原料はバケットエレベーター(5’)にて切り替え手段(7)へと輸送できるようにした。該切り替え手段には、コンスタントフィーダーを備えさせ、バケットエレベーターにて運ばれてきた混合原料の全量を、パイプライン(6’)を介して混合原料貯蔵サイロへ返送するか、一定量を再度バケットエレベーター等(5”)を用いプレヒーターを介してキルンに導入すると共に、過剰量の混合原料を混合原料貯蔵サイロへ返送できるように切り替え可能とした。
【0050】
石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロの上部へと石炭灰を輸送する輸送手段(3)としては、石炭灰貯蔵サイロからの石炭灰をロータリーフィーダーにより計量しながら抜き出し、エアースライド及びバケットエレベーターを用いて混合原料サイロの上部に輸送できる構成とした。
【0051】
該エアースライドの途中にはCa含有原料を添加する手段(4)として管状シュートを設けた。Ca含有原料は、Ca含有原料サイロ(9)からコンスタントフィーダーで計量しながら抜き出し該シュートの入り口に投入した。
【0052】
該Ca含有原料としては、普通ポルトランドセメントクリンカー用に化学組成と粉末度(90μm残分で35%未満)を調整したポルトランドセメントクリンカー原料を採用した。石炭灰は、主成分としてSiOが約61%、Alが約25.5%のものを用いた。
【0053】
石炭灰及びポルトランドセメントクリンカー原料を各々化学分析し、Ca含有量がCaO換算にして14±0.5質量%で一定となるように石炭灰貯蔵サイロ及びCa含有原料サイロからの各々の原料取り出し量を調整し、混合原料貯蔵サイロへの投入量が約400トン/hrとなるように輸送した。
【0054】
混合原料貯蔵サイロ中の混合原料の量が約3000トンに達するまでは、混合原料貯蔵サイロ下部から混合原料を抜き出し、前記バケットエレベーター、切り替え手段及びパイプラインを経由して混合原料貯蔵サイロへと戻す操作を、約300トン/hrの循環速度で行った。
【0055】
混合原料の量が約3000トンに達した後は、輸送手段(3)を用いた混合原料貯蔵サイロへの原料投入は停止し、一方で、前記切り替え手段のコンスタントフィーダーを用い、90トン/hrの速度で混合原料がプレヒーターを介してキルンに導入されるように設定し焼成を開始した。なお、この際のキルン内の最高温度は、CAS生成状況と温度との関係を確認するため1000〜1200℃で変動させた。この際、過剰量として150トン/hrの混合原料がパイプラインを介して混合原料貯蔵サイロ上部に戻る状態を維持した。
【0056】
コンスタントフィーダーの出口からキルンに導入される混合原料の化学分析結果を、経過時間と共に以下の表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
石炭灰とCa含有原料の混合が不十分であると、最も変動しやすいと考えられるCaO成分の値に着目した場合、該CaO成分の変動幅は0.6%程度、即ち1%以内に抑えることができており、安定した組成の混合原料を調整フィードできたことを示している。
【0059】
また、キルンで焼成された焼成物がクーラーから出始めたところから随時試料を採取し、セメントの化学分析法に準ずる方法による化学分析、および粉末X線回折の内部標準を用いたリートベルト解析にてCaO・Al・2SiO量を求めた。結果を表2に示す。
【0060】
混合原料同様、もっとも変動しやすいと考えられるCaO成分の値に着目すると、CaO成分の変動を0.7%程度、即ち1%以内に抑えることができており、安定した化学組成の焼成物が得られていることがわかる。CaO・Al・2SiO量も20%以上を示しており、安定した焼成物が得られたことを示している。なお、CaO・Al・2SiO量の変動は、焼成状態(温度)を変動させたことによる。
【0061】
【表2】

【符号の説明】
【0062】
1.混合原料貯蔵サイロ
2.NSPキルン(プレヒーター付き焼成装置)
3.石炭灰輸送手段(エアースライド+バケットエレベータ−)
4−1.石炭灰へのCa含有原料添加手段(Ca含有原料シュート)
5’、5”.NSPキルンキルンへの混合原料輸送手段(バケットエレベータ−)
6’.過剰原料返送手段(パイプライン)
7.コンスタントフィーダーを備える混合原料流路の選択装置
8.石炭灰貯蔵サイロ
9.Ca含有原料(ポルトランドセメントクリンカー原料粉末)貯蔵サイロ
10.クリンカクーラー
11.焼成物貯蔵サイロ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰と、粉末状のCa含有原料とを混合して焼成し、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るための製造装置であって、
(1)混合原料貯蔵サイロと、(2)プレヒーターを備えた焼成装置と、(3)石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロの上部へと石炭灰を輸送する輸送手段と、(4−1)石炭灰貯蔵部から混合原料貯蔵サイロへと輸送される途中の石炭灰に対して粉末状のCa含有原料を添加する手段、及び/又は(4−2)サイロ上部から直接サイロ内へ粉末状のCa含有原料を投入する手段と、(5)混合原料貯蔵サイロの下部から最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段と、(6)混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段と、
を備えることを特徴とする前記製造装置。
【請求項2】
(6)混合原料貯蔵サイロの下部から混合原料を抜き出し、これを混合原料貯蔵サイロの上部へと輸送する手段の一部と、(5)混合原料貯蔵サイロの下部から最上段のプレヒーターへと混合原料を輸送する手段の少なくとも一部とが共通している請求項1記載の製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置を用いる、石炭灰と粉末状のCa含有原料とからの、CaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−232866(P2012−232866A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101638(P2011−101638)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)