煉瓦組積み構造
【課題】モルタルを用いて煉瓦を積み上げた煉瓦組積み構造において、煉瓦内に鉄筋などを使用することなく、モルタルと煉瓦のみで、耐震性に優れる煉瓦組積み構造を提供する。
【解決手段】煉瓦組積み構造7は、目地部に梯子型の補強金具5をモルタル6内部に固定すると共に、L字型の一端にネジ部を有するL型ネジの接合金具4を用いて、ネジ部を建物本体に、他端をモルタル内部にそれぞれ固定することにより、煉瓦組積み構造7全体が接合金具4により建物本体に固定支持され、煉瓦1がカナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された貫通孔を有する煉瓦であり、モルタル6がカナダ規格A3002 タイプSのモルタル用セメントである。
【解決手段】煉瓦組積み構造7は、目地部に梯子型の補強金具5をモルタル6内部に固定すると共に、L字型の一端にネジ部を有するL型ネジの接合金具4を用いて、ネジ部を建物本体に、他端をモルタル内部にそれぞれ固定することにより、煉瓦組積み構造7全体が接合金具4により建物本体に固定支持され、煉瓦1がカナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された貫通孔を有する煉瓦であり、モルタル6がカナダ規格A3002 タイプSのモルタル用セメントである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は煉瓦組積み構造に関し、特に鉄筋などを使用しないでも耐震性に優れる煉瓦組積み構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物の壁として、煉瓦を積み上げた煉瓦壁などの煉瓦組積み構造が知られている。例えば、緊締具を挿通可能なボルト挿通孔を備え、該ボルト挿通孔を貫通する緊締具を緊張状態に保持することにより、プレストレス下に相互連結する煉瓦組積み構造が開示されている(特許文献1)。
また、中央部に縦方向の貫通孔を、両側部に縦方向の半円状の溝をそれぞれ設けたブロック本体と、貫通孔の中心と半円状の溝の中心との間の距離のピッチで取り付け孔を設けた水平補強材とを用いて、ブロック本体を複数個、水平方向に並設し、垂直方向には水平補強材を介在させて、ブロック本体を貫通孔と半円状の溝が交互に連続するように段積み配置し、窓等の開口部には当該開口部でブロック本体および水平補強材が終端するようにし、かつ、ブロック本体の貫通孔および隣接するブロック本体の溝によって形成された孔内に配置した緊締具によってブロック本体同士を水平および垂直方向に緊締して一体化する煉瓦組積み構造が開示されている(特許文献2)。
これらの煉瓦組積み構造は、耐震性などを向上させ、また、多様な建築物の各部構造に適合可能な煉瓦組積み構造となっている。
【0003】
また、煉瓦組積み構造と建物本体とを結合するために、建物本体の柱や梁に固定される固定部と、同固定部に延設された組積みブロック構造の壁の締め付けボルトに係止するボルト係止部とからなる壁用結合金具が開示されている(特許文献3)。
また、煉瓦などの外壁の内側に、屋根荷重を支持可能な乾式工法の壁体として内壁が構築され、内壁および外壁を相互連結する剪断補強部材が設けられ、屋根および内壁に作用する地震力を外壁に伝達する技術が知られている(特許文献4)。
【0004】
しかしながら、耐震性を向上させるための従来の煉瓦組積み構造は、煉瓦内に鉄筋を縦・横に通したり、締め付けボルトなどの緊締具を用いたりする場合が殆であり、煉瓦組積み構造本来の煉瓦を目地モルタルで積み上げてゆく組積みによっては耐震性の煉瓦組積み構造が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−81152
【特許文献2】特開平09−235801
【特許文献3】特開平11−141018
【特許文献4】特開2004−27819
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に対処するためになされたもので、モルタルを用いて煉瓦を積み上げた煉瓦組積み構造において、煉瓦内に鉄筋などを使用することなく、モルタルと煉瓦のみで、耐震性に優れる煉瓦組積み構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、貫通孔を有する煉瓦を、その貫通孔同士を対向させて目地部にモルタルを用いて組積みされてなる煉瓦組積み構造であって、
該煉瓦組積み構造は、貫通孔同士が対向する横目地部および貫通孔に平行する縦目地部がモルタルで固定されて全体が一体の煉瓦壁となり、その煉瓦がカナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された煉瓦であり、そのモルタルがカナダ規格A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントであることを特徴とする。
また、本発明の煉瓦組積み構造は、横目地部内に梯子型の補強金具を配置すると共に、L字型の一端にネジ部を有するL型ネジの接合金具を用いて、ネジ部を建物本体に、他端をモルタル内部にそれぞれ固定することにより、煉瓦組積み構造全体が上記接合金具により建物本体に支持されてなることを特徴とする。
また、本発明に使用される煉瓦がビーハイブキルンを用いて、煉瓦形状に成形された粘土を最大1100℃の温度で少なくとも6日間焼成してなる煉瓦であることを特徴とする。
その煉瓦の貫通孔は、1個の煉瓦に対して10孔が同一面内に設けられていることを特徴とする。
また、本発明に使用されるモルタルがモルタル用セメント1体積部に対して、砂2.5〜3体積部配合して、セメントおよび砂に水を加えて練り合わせた後、少なくとも3分間混練したモルタルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、カナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された貫通孔を有する煉瓦と、A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントとを用いるので、鉄筋などの補強を使用することなく、耐震性に優れる煉瓦組積み構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】煉瓦の形状を示す図である。
【図2】接合金具を示す図である。
【図3】補強金具を示す図である。
【図4】煉瓦組積み構造の正面図である。
【図5】煉瓦組積み構造の一部拡大断面図である。
【図6】試験体の枠組材の詳細図である。
【図7】試験体の外壁下地合板の詳細図である。
【図8】試験体である煉瓦組積み構造(煉瓦壁)の詳細図である。
【図9】試験方法の概要を示す図である。
【図10】荷重−せん断変形角曲線を示す図である。
【図11】包絡線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記特定の煉瓦と特定のモルタル用セメントとを用いることにより、煉瓦の貫通孔の一部にモルタルが入り込んで硬化する。その結果、従来の鉄筋などを使用しなくとも耐震性に優れる煉瓦組積み構造が得られた。本発明はこのような知見に基づく。
本発明に使用できる煉瓦の形状について図1により説明する。図1(a)は煉瓦の平面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面図、図1(c)は同B−B断面図である。
図1において、例えば、t1が193mm、t2が90mm、t3が63mmの大きさの煉瓦形状の場合、この煉瓦1は煉瓦本体2に貫通孔3が10孔設けられている。貫通孔3の直径は19.3mmである。
本発明に好ましく使用できる煉瓦の形状としては、上記煉瓦構造が挙げられる。
【0011】
貫通孔3は、煉瓦本体2の平面図において、該平面図の長手方向に並行に、5つの孔が等間隔に1列状に配置され、この列が短手方向に2列並行に設けられ、10孔を形成している。それぞれの孔の経は同一であり、上下に隣り合う孔の距離も略同一である。また、10孔は煉瓦平面図の中央に配置されている。貫通孔3は、煉瓦の厚さ方向に垂直に貫通している。
上記煉瓦を複数個組積みする場合、同一形状の煉瓦を用いるので、上下に組積みされる煉瓦の貫通孔3の開口面同士が対向することになる。この対向した開口面を介して後述するモルタルが内部に侵入して煉瓦同士を一体化させる。
貫通孔3の配置は2列並行が好ましく、その数は、2列並行に6〜12孔、好ましくは8〜12孔、より好ましくは8〜10孔、最も好ましくは10孔である。6孔未満であるとモルタルで煉瓦を組積みしたときの機械的強度が保持できず、12孔をこえると煉瓦本体2自身の機械的強度が劣ることになる。
【0012】
本発明で使用できる煉瓦は、カナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された煉瓦である。
サーマスマウンテンは、カナダのブリティッシュコロンビア州にある山である。サーマスマウンテンから産出する粘土(サーマス クレイ)は、真空押出機で煉瓦形状に成型され、窯入れ前に乾燥される。乾燥された焼成前の煉瓦はビーハイブキルン内に積み上げられ、焼成される。焼成条件は、1050〜1100℃まで5日間をかけて昇温させ、この温度で更に少なくとも1日間焼成する。
上記ビーハイブキルンを用いて焼成されたサーマスマウンテン産粘土の煉瓦は、2m程度の高さからコンクリート面に落下させても煉瓦自体が割れることのない焼き固められた煉瓦となる。
上記煉瓦の市販品としては、カナダサーマスクレイプロダクツ社の10孔煉瓦が挙げられる。
【0013】
本発明で使用できるモルタルは、カナダ規格A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントである。
カナダ規格A3002 タイプSのモルタル用セメントの市販品としては、カナダLEHIGH セメント社製スペシャリティセメント タイプSが挙げられる。
【0014】
本発明の煉瓦組積み構造に使用される接合金具を図2により説明する。図2は、煉瓦組積みに使用時の接合金具の平面図である。
接合金具4は、ステンレスなどの金属製の丸棒であり、片方の端部4aにネジ切り加工がされ、他端部4bは丸棒のままである。接合金具4は、煉瓦組積み構造を支える機械的強度を有するものであり、使用される本数にもよるが、丸棒の直径は好ましくは2〜6mm、より好ましくは3〜5mm、具体的には約4mm程度である。直径が2mm未満であると、使用する本数が多くなり、また、煉瓦組積み構造を支えることが困難になる。一方6mmをこえると、作業時に4c部で折り曲げが困難になる。
また、直径約4mmの場合、端部4aのネジ切り加工部の長さは約40mm、折り曲げられる他端部4bの長さは約75mmであることが好ましい。
接合金具4は、ネジ切り加工がされている端部4aを建物の柱や梁などにねじ込みで固定し、端部4a側に対して直角に折り曲げられる他端部4bを煉瓦と煉瓦とを連結するモルタル内に埋め込むことで煉瓦組積み構造を支えることができる。
【0015】
本発明の煉瓦組積み構造に使用される補強金具を図3により説明する。図3は、煉瓦組積みに使用される補強金具の平面図である。
補強金具5は、直径約3.5mmの亜鉛メッキされた金属製の丸棒であり、煉瓦1のt2の長さよりも短い幅t4を有し、長さt5は、施工時の壁の大きさに応じて切断して使用できる梯子筋形状である。煉瓦1として、上記煉瓦を使用すると、好ましい幅t4の長さは約50mmである。
【0016】
上述した煉瓦、モルタル、接合金具および補強金具を用いる煉瓦組積み構造およびその施工手順について図4および図5により説明する。図4は組積みされた煉瓦組積み構造の正面図であり、図5は該構造の一部拡大断面図である。
図4に示すように、煉瓦組積み構造7は、横目地に充填されるモルタル6a内に補強金具5を配置すると共に、接合金具4により建物の柱や梁に固定される。また、横目地に充填されるモルタル6aおよび縦目地に充填されるモルタル6bにより、煉瓦1が積み上げられて、煉瓦組積み構造7が得られる。
【0017】
煉瓦一段目には目地の代わりに通気弁を設けることが好ましい。補強金具5は、複数段毎に配置することが好ましく、煉瓦組積み構造7の横幅が長くなる場合は、補強金具5の継ぎ目を重ねて配置することが好ましい。施行後、この補強金具5は横目地に充填されるモルタル6a内に埋設される。
補強金具5を配置した煉瓦の上部であって、補強金具5が埋設されていない横目地に充填されるモルタル6a内に接合金具4の他端が埋設されて、接合金具4のネジ部端が建物の柱や梁に固定される。具体的には、柱や梁の所定間隔に接合金具4のネジ部端をネジ込んで取り付ける。その後、接合金具4の他端を煉瓦の幅の真ん中に来るように鋭角気味に直角に曲げる。この直角に曲げられた他端を横目地に充填されるモルタル6a内に埋設することで、建物との固定が完了する。
本発明の煉瓦組積み構造7は、この接合金具4で煉瓦壁となる煉瓦組積み構造7が支えられる。煉瓦組積み構造7の上部を支えるために、接合金具4は壁を構成する煉瓦の上から2段目のモルタル6a内に固定することが好ましい。
【0018】
本発明の煉瓦組積み構造7において、図5に示すように、横目地に充填されるモルタル6aは、その一部6cが煉瓦本体2の貫通孔3の内部にも充填される。目地部の厚さt6およびt7は、それぞれ、8〜16mm、好ましくは10〜14mm、より好ましくは12mmである。8mm未満では煉瓦壁の一体化が困難であり、16mmをこえると煉瓦壁の機械的強度が得られなくなる。
モルタル6aおよびモルタル6bからなるモルタル6により、煉瓦1が上下左右相互に固定される。このため、鉄筋などを用いることなく、耐震性に優れた煉瓦組積み構造が得られる。また、煉瓦1内に貫通孔3で形成される密閉された空間部が得られるので、断熱性にも優れた煉瓦組積み構造となる。
【実施例】
【0019】
煉瓦組積み構造に使用した材料を以下に示す。
(1)モルタル用セメント カナダ、LEHIGH セメント社製スペシャリティセメ ント タイプS
(2)煉瓦 カナダ、サーマスクレイプロダクツ社 10孔煉瓦(19 3mm×90mm×63mm)
(3)防水用シート ブルースキンシート、アスファルトベース
(4)接合金具 ステンレス丸棒、直径4mm、長さ20cm、片端木ネジ 切り
(5)補強金具 全体壁補強用、幅50mm、長さ3m
(6)煉瓦通気弁 エアーベント、2.5インチ用
【0020】
上記材料を用いた施工手順を以下に示す。
(1)煉瓦基礎上に防水用シートを取り付け、煉瓦壁を取り付ける取り付け壁との距離を4cmとる。
(2)床モルタルの上に煉瓦を割付に合わせて積む。
(3)モルタルの混練配合は、セメント1、木曽砂2.5〜3の割合(体積比)で、練り合わせた後、更に3分間練る。
(4)第一段目の煉瓦の上に40cm毎に目地の代わりに通気弁を取り付ける。通気弁を取り付ける際に取り付け壁との間に詰まったモルタルを取り除く。また煉瓦を各段積み上げるときモルタルが取り付け壁との間に落ちないように注意して施工する。
(5)補強金具を煉瓦4段目毎に敷く。煉瓦壁の長さが3m以上の場合は、補強金具の継ぎ目を15cm重ねる。この工程を30cm毎に繰り返す。
(6)接合金具は補強金具の直ぐ上にくるように取り付ける。具体的には、ステンレス製丸棒(直径4mm、長さ20cm)の木ネジ部約45mmを455mm間隔で取り付け壁に取り付ける。窓、ドア、開口部出角等にも取り付ける。取り付け後、他端を煉瓦の幅の真ん中に来るように鋭角気味に直角に曲げる。この工程も補強金具と同様に30cm毎に繰り返す。なお、最後の接合金具の位置は壁高さより15cm(煉瓦2段)下に取り付ける。
(7)煉瓦はモルタルが固まらないうちに組み付ける。モルタルが固くなった場合には、再度モルタルを敷き直す。なお、目地の厚さは12mmである。
【0021】
上記施工手順で得られた煉瓦組積み構造7を試験体とした。評価試験用試験体の詳細を図6〜8に示す。図6は試験体の枠組材の詳細図であり、図7は試験体の外壁下地合板の詳細図であり、図8は試験体である煉瓦組積み構造(煉瓦壁)の詳細図である。図8に示すように、試験体としての煉瓦組積み構造7は外壁下地合板8に接合金具4のみで支持されている。具体的な数値を以下に示す。
(1)試験体寸法(煉瓦壁) 幅1820mm×高さ2460mm
(2)面材(外壁下地) 構造用合板、接着の程度は特類、強度の程度は2級、構成 単板は積層数が3、板面の品質がC−D、厚さが9mm、 寸法が幅909mm×高さ2430mm、張り方が2枚縦 張りである。なお、この面材は上述した取り付け壁である 。
(3)面材の接合 CNZ50(ネイラーくぎ)を使用し、間隔は外周が10 0mm毎、中通りが200mm毎であり、縁端距離はたて 枠が10mm、上枠厚さが27mm、下枠が19mmであ る。
(4)煉瓦壁 上述した煉瓦組積み構造である。
(5)枠組材 たて枠、上枠、下枠および頭つなぎの断面寸法は、寸法形 式204、樹種が樹種グループSII、樹種群がS−P− F、品質が甲種枠組材2級の乾燥材である。
(6)枠組材の緊結 平成13年度国土交通省告示第1540号の第5第15号 の規定に準拠する。
(7)加力用木材 下側がベイツガ製材の89mm角、上側がオウシュウアカ マツ集成材の幅89mm×高さ140mmを用いた。
【0022】
試験方法を以下に示す。
試験は、(財)日本住宅・木材技術センターの「枠組壁工法耐力壁およびその倍率性能評価業務方法書」に定める無載荷式の面内せん断試験に準拠して行なった。
(1)試験は無載荷式の面内せん断試験とする。図9に試験方法の概要を示す。
(2)繰り返しのステップは見かけのせん断変形角制御で、1/450、1/300、1/200、1/150、1/120、1/100、1/75、1/60、1/50、1/40radの正負交番とし、繰返し加力後は1/30radまで加力する。
(3)繰り返し加力は、同一のステップで3回の繰り返しとする。
(4)計測には、次の機器を用いた。
加力 ハイブリット型アクチュエーター
ロードセル 容量500kN、出力4000×10-6ひずみ
変位計 容量300mm・出力33×10-6/mm、容量100 mm・出力30×10-6/mm
【0023】
試験結果を以下に示す。
(1)見かけのせん断変形角(γ)、脚部のせん断変形角(θ)および真のせん断変形角(γo)は、次式を用いて算出する。なお、変形は全て合板壁のものである。
γ=(H1−H2)/H
θ=(V3−V4)/V
γo=γ−θ
ここで、
γ :見かけのせん断変形角(rad)
H1:試験体頂部の水平変位(mm)
H2:試験体脚部の水平変位(mm)
H :H1とH2の標点間距離(mm)
θ :脚部のせん断変形角(rad)
V3:試験体加力側脚部の上下方向変位(mm)
V4:試験体反加力側脚部の上下方向変位(mm)
V :V3とV4の距離(mm)
γo:真のせん断変形角(rad)
【0024】
(2)試験結果は、最大荷重(kN/1.82m)が30.38、同左時変形角(rad)が1/30であった。加力は1/30radで停止し、荷重低下が認められなかったため、1/30rad時の荷重を最大荷重とした。
(3)荷重−せん断変形角曲線を図10に示す。図10(a)は荷重−見かけのせん断変形角曲線であり、図10(b)は荷重−せん断変形角曲線である。
(4)試験体(煉瓦壁)の破壊状況
目視により観察された試験体(煉瓦壁)の変形、破壊等の状況は次の通りである。
(4a)1/30rad時では、煉瓦壁に亀裂や剥落のような破壊状況は確認されていない。
(4b)水平変形の増大に伴ない、接合金具の変形により煉瓦壁が回転した。
(4c)1/30rad時では、くぎ接合部のせん断変形に伴ない合板が回転した。
【0025】
次いで、短期基準せん断耐力および倍率の試算を行なった。
(1)短期基準せん断耐力の試算
(1a)包絡線は、正側加力の荷重−見かけのせん断変形角曲線より作製した。包絡線を図11に示す。
(1b)図11に示す包絡線9から完全弾塑性モデルにより降伏耐力等の特性値を以下方法により算出する。算出した結果を表1に示す。なお、加力は荷重低下が認められる前の1/30radで停止したため、終局変形角は1/30radとした。
(a)包絡線9上の0.1PmaXと0.4PmaXを結ぶ直線を第I直線とする。
(b)包絡線9上の0.4PmaXと0.9PmaXを結ぶ直線を第II直線とする。
(c)第II直線を包絡線9に接するまで平行移動し、これを第III直線とする。
(d)第I直線と第III直線との交点の荷重を降伏耐力(Py)とし、この点からX軸に平行な直線を第IV直線とする。
(e)第IV直線と包絡線9との交点の変位を降伏変位(δy)とする。
(f)原点と(δy,Py)を結ぶ直線を第V直線として、これを初期剛性(K)とする。
(g)加力停止時の包絡線9上の変位を終局変位(δu)とする。
(h)包路線9、X軸およびδuで囲まれる面積をSとする。
(i)第V直線、X軸、δuおよびX軸と平行な直線で囲まれる台形の面積がSと等しくなるようなX軸に平行な直線を第VI直線とする。
(j)第V直線と第VI直線との交点を完全弾塑性モデルの終局耐力(Pu)とし、その時の変位を完全弾塑性モデルの降伏点変位(δv)とする。
(k)塑性率(靭性率)μ=(δu/δv)とする。
【0026】
【表1】
【0027】
(1c)短期基準せん断耐力は、降伏耐力Py、終局耐力Pu・(0.2/Ds)、最大耐力Pmax・2/3、または、見かけのせん断変形角が1/120rad時の耐力P120の試験荷重の最も小さい値を短期基準せん断耐力とする。なお、バラツキ係数を乗じていない。
試算した結果、短期基準せん断耐力(Po)は12.97kNであった。
【0028】
(2)倍率の試算
倍率は次式により算定する。
倍率=Po×(1/1.96)×(1/L)
ここで、Poは上記試算された短期基準せん断耐力(Po)(kN)であり、1.96は倍率1の時の基準値(kN/m)であり、Lは壁長(m)である。算出の結果、倍率は3.6であった。なお、バラツキおよび低減係数を乗じていない。
【0029】
本発明の煉瓦組積み構造は、補強金具を用い煉瓦をモルタルにより一体構造となる煉瓦壁にすると共に、接合金具のみで建物などの柱や梁に固定支持して、振動させた場合でも、煉瓦壁に亀裂や剥離は生じないで、短期基準せん断耐力(Po)が12.97kNであり、倍率も3.6であった。簡単な施工で大地震時における十分な耐震性能が期待できる優れた耐力壁が実現できたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の煉瓦組積み構造は、鉄筋などの補強を使用することなく、耐震性に優れる煉瓦組積み構造が得られるので、住宅などの建築物等の壁に広く利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 煉瓦
2 煉瓦本体
3 貫通孔
4 接合金具
5 補強金具
6 モルタル
7 煉瓦組積み構造
8 外壁下地合板
9 包絡線
【技術分野】
【0001】
本発明は煉瓦組積み構造に関し、特に鉄筋などを使用しないでも耐震性に優れる煉瓦組積み構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物の壁として、煉瓦を積み上げた煉瓦壁などの煉瓦組積み構造が知られている。例えば、緊締具を挿通可能なボルト挿通孔を備え、該ボルト挿通孔を貫通する緊締具を緊張状態に保持することにより、プレストレス下に相互連結する煉瓦組積み構造が開示されている(特許文献1)。
また、中央部に縦方向の貫通孔を、両側部に縦方向の半円状の溝をそれぞれ設けたブロック本体と、貫通孔の中心と半円状の溝の中心との間の距離のピッチで取り付け孔を設けた水平補強材とを用いて、ブロック本体を複数個、水平方向に並設し、垂直方向には水平補強材を介在させて、ブロック本体を貫通孔と半円状の溝が交互に連続するように段積み配置し、窓等の開口部には当該開口部でブロック本体および水平補強材が終端するようにし、かつ、ブロック本体の貫通孔および隣接するブロック本体の溝によって形成された孔内に配置した緊締具によってブロック本体同士を水平および垂直方向に緊締して一体化する煉瓦組積み構造が開示されている(特許文献2)。
これらの煉瓦組積み構造は、耐震性などを向上させ、また、多様な建築物の各部構造に適合可能な煉瓦組積み構造となっている。
【0003】
また、煉瓦組積み構造と建物本体とを結合するために、建物本体の柱や梁に固定される固定部と、同固定部に延設された組積みブロック構造の壁の締め付けボルトに係止するボルト係止部とからなる壁用結合金具が開示されている(特許文献3)。
また、煉瓦などの外壁の内側に、屋根荷重を支持可能な乾式工法の壁体として内壁が構築され、内壁および外壁を相互連結する剪断補強部材が設けられ、屋根および内壁に作用する地震力を外壁に伝達する技術が知られている(特許文献4)。
【0004】
しかしながら、耐震性を向上させるための従来の煉瓦組積み構造は、煉瓦内に鉄筋を縦・横に通したり、締め付けボルトなどの緊締具を用いたりする場合が殆であり、煉瓦組積み構造本来の煉瓦を目地モルタルで積み上げてゆく組積みによっては耐震性の煉瓦組積み構造が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−81152
【特許文献2】特開平09−235801
【特許文献3】特開平11−141018
【特許文献4】特開2004−27819
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に対処するためになされたもので、モルタルを用いて煉瓦を積み上げた煉瓦組積み構造において、煉瓦内に鉄筋などを使用することなく、モルタルと煉瓦のみで、耐震性に優れる煉瓦組積み構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、貫通孔を有する煉瓦を、その貫通孔同士を対向させて目地部にモルタルを用いて組積みされてなる煉瓦組積み構造であって、
該煉瓦組積み構造は、貫通孔同士が対向する横目地部および貫通孔に平行する縦目地部がモルタルで固定されて全体が一体の煉瓦壁となり、その煉瓦がカナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された煉瓦であり、そのモルタルがカナダ規格A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントであることを特徴とする。
また、本発明の煉瓦組積み構造は、横目地部内に梯子型の補強金具を配置すると共に、L字型の一端にネジ部を有するL型ネジの接合金具を用いて、ネジ部を建物本体に、他端をモルタル内部にそれぞれ固定することにより、煉瓦組積み構造全体が上記接合金具により建物本体に支持されてなることを特徴とする。
また、本発明に使用される煉瓦がビーハイブキルンを用いて、煉瓦形状に成形された粘土を最大1100℃の温度で少なくとも6日間焼成してなる煉瓦であることを特徴とする。
その煉瓦の貫通孔は、1個の煉瓦に対して10孔が同一面内に設けられていることを特徴とする。
また、本発明に使用されるモルタルがモルタル用セメント1体積部に対して、砂2.5〜3体積部配合して、セメントおよび砂に水を加えて練り合わせた後、少なくとも3分間混練したモルタルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、カナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された貫通孔を有する煉瓦と、A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントとを用いるので、鉄筋などの補強を使用することなく、耐震性に優れる煉瓦組積み構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】煉瓦の形状を示す図である。
【図2】接合金具を示す図である。
【図3】補強金具を示す図である。
【図4】煉瓦組積み構造の正面図である。
【図5】煉瓦組積み構造の一部拡大断面図である。
【図6】試験体の枠組材の詳細図である。
【図7】試験体の外壁下地合板の詳細図である。
【図8】試験体である煉瓦組積み構造(煉瓦壁)の詳細図である。
【図9】試験方法の概要を示す図である。
【図10】荷重−せん断変形角曲線を示す図である。
【図11】包絡線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記特定の煉瓦と特定のモルタル用セメントとを用いることにより、煉瓦の貫通孔の一部にモルタルが入り込んで硬化する。その結果、従来の鉄筋などを使用しなくとも耐震性に優れる煉瓦組積み構造が得られた。本発明はこのような知見に基づく。
本発明に使用できる煉瓦の形状について図1により説明する。図1(a)は煉瓦の平面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面図、図1(c)は同B−B断面図である。
図1において、例えば、t1が193mm、t2が90mm、t3が63mmの大きさの煉瓦形状の場合、この煉瓦1は煉瓦本体2に貫通孔3が10孔設けられている。貫通孔3の直径は19.3mmである。
本発明に好ましく使用できる煉瓦の形状としては、上記煉瓦構造が挙げられる。
【0011】
貫通孔3は、煉瓦本体2の平面図において、該平面図の長手方向に並行に、5つの孔が等間隔に1列状に配置され、この列が短手方向に2列並行に設けられ、10孔を形成している。それぞれの孔の経は同一であり、上下に隣り合う孔の距離も略同一である。また、10孔は煉瓦平面図の中央に配置されている。貫通孔3は、煉瓦の厚さ方向に垂直に貫通している。
上記煉瓦を複数個組積みする場合、同一形状の煉瓦を用いるので、上下に組積みされる煉瓦の貫通孔3の開口面同士が対向することになる。この対向した開口面を介して後述するモルタルが内部に侵入して煉瓦同士を一体化させる。
貫通孔3の配置は2列並行が好ましく、その数は、2列並行に6〜12孔、好ましくは8〜12孔、より好ましくは8〜10孔、最も好ましくは10孔である。6孔未満であるとモルタルで煉瓦を組積みしたときの機械的強度が保持できず、12孔をこえると煉瓦本体2自身の機械的強度が劣ることになる。
【0012】
本発明で使用できる煉瓦は、カナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された煉瓦である。
サーマスマウンテンは、カナダのブリティッシュコロンビア州にある山である。サーマスマウンテンから産出する粘土(サーマス クレイ)は、真空押出機で煉瓦形状に成型され、窯入れ前に乾燥される。乾燥された焼成前の煉瓦はビーハイブキルン内に積み上げられ、焼成される。焼成条件は、1050〜1100℃まで5日間をかけて昇温させ、この温度で更に少なくとも1日間焼成する。
上記ビーハイブキルンを用いて焼成されたサーマスマウンテン産粘土の煉瓦は、2m程度の高さからコンクリート面に落下させても煉瓦自体が割れることのない焼き固められた煉瓦となる。
上記煉瓦の市販品としては、カナダサーマスクレイプロダクツ社の10孔煉瓦が挙げられる。
【0013】
本発明で使用できるモルタルは、カナダ規格A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントである。
カナダ規格A3002 タイプSのモルタル用セメントの市販品としては、カナダLEHIGH セメント社製スペシャリティセメント タイプSが挙げられる。
【0014】
本発明の煉瓦組積み構造に使用される接合金具を図2により説明する。図2は、煉瓦組積みに使用時の接合金具の平面図である。
接合金具4は、ステンレスなどの金属製の丸棒であり、片方の端部4aにネジ切り加工がされ、他端部4bは丸棒のままである。接合金具4は、煉瓦組積み構造を支える機械的強度を有するものであり、使用される本数にもよるが、丸棒の直径は好ましくは2〜6mm、より好ましくは3〜5mm、具体的には約4mm程度である。直径が2mm未満であると、使用する本数が多くなり、また、煉瓦組積み構造を支えることが困難になる。一方6mmをこえると、作業時に4c部で折り曲げが困難になる。
また、直径約4mmの場合、端部4aのネジ切り加工部の長さは約40mm、折り曲げられる他端部4bの長さは約75mmであることが好ましい。
接合金具4は、ネジ切り加工がされている端部4aを建物の柱や梁などにねじ込みで固定し、端部4a側に対して直角に折り曲げられる他端部4bを煉瓦と煉瓦とを連結するモルタル内に埋め込むことで煉瓦組積み構造を支えることができる。
【0015】
本発明の煉瓦組積み構造に使用される補強金具を図3により説明する。図3は、煉瓦組積みに使用される補強金具の平面図である。
補強金具5は、直径約3.5mmの亜鉛メッキされた金属製の丸棒であり、煉瓦1のt2の長さよりも短い幅t4を有し、長さt5は、施工時の壁の大きさに応じて切断して使用できる梯子筋形状である。煉瓦1として、上記煉瓦を使用すると、好ましい幅t4の長さは約50mmである。
【0016】
上述した煉瓦、モルタル、接合金具および補強金具を用いる煉瓦組積み構造およびその施工手順について図4および図5により説明する。図4は組積みされた煉瓦組積み構造の正面図であり、図5は該構造の一部拡大断面図である。
図4に示すように、煉瓦組積み構造7は、横目地に充填されるモルタル6a内に補強金具5を配置すると共に、接合金具4により建物の柱や梁に固定される。また、横目地に充填されるモルタル6aおよび縦目地に充填されるモルタル6bにより、煉瓦1が積み上げられて、煉瓦組積み構造7が得られる。
【0017】
煉瓦一段目には目地の代わりに通気弁を設けることが好ましい。補強金具5は、複数段毎に配置することが好ましく、煉瓦組積み構造7の横幅が長くなる場合は、補強金具5の継ぎ目を重ねて配置することが好ましい。施行後、この補強金具5は横目地に充填されるモルタル6a内に埋設される。
補強金具5を配置した煉瓦の上部であって、補強金具5が埋設されていない横目地に充填されるモルタル6a内に接合金具4の他端が埋設されて、接合金具4のネジ部端が建物の柱や梁に固定される。具体的には、柱や梁の所定間隔に接合金具4のネジ部端をネジ込んで取り付ける。その後、接合金具4の他端を煉瓦の幅の真ん中に来るように鋭角気味に直角に曲げる。この直角に曲げられた他端を横目地に充填されるモルタル6a内に埋設することで、建物との固定が完了する。
本発明の煉瓦組積み構造7は、この接合金具4で煉瓦壁となる煉瓦組積み構造7が支えられる。煉瓦組積み構造7の上部を支えるために、接合金具4は壁を構成する煉瓦の上から2段目のモルタル6a内に固定することが好ましい。
【0018】
本発明の煉瓦組積み構造7において、図5に示すように、横目地に充填されるモルタル6aは、その一部6cが煉瓦本体2の貫通孔3の内部にも充填される。目地部の厚さt6およびt7は、それぞれ、8〜16mm、好ましくは10〜14mm、より好ましくは12mmである。8mm未満では煉瓦壁の一体化が困難であり、16mmをこえると煉瓦壁の機械的強度が得られなくなる。
モルタル6aおよびモルタル6bからなるモルタル6により、煉瓦1が上下左右相互に固定される。このため、鉄筋などを用いることなく、耐震性に優れた煉瓦組積み構造が得られる。また、煉瓦1内に貫通孔3で形成される密閉された空間部が得られるので、断熱性にも優れた煉瓦組積み構造となる。
【実施例】
【0019】
煉瓦組積み構造に使用した材料を以下に示す。
(1)モルタル用セメント カナダ、LEHIGH セメント社製スペシャリティセメ ント タイプS
(2)煉瓦 カナダ、サーマスクレイプロダクツ社 10孔煉瓦(19 3mm×90mm×63mm)
(3)防水用シート ブルースキンシート、アスファルトベース
(4)接合金具 ステンレス丸棒、直径4mm、長さ20cm、片端木ネジ 切り
(5)補強金具 全体壁補強用、幅50mm、長さ3m
(6)煉瓦通気弁 エアーベント、2.5インチ用
【0020】
上記材料を用いた施工手順を以下に示す。
(1)煉瓦基礎上に防水用シートを取り付け、煉瓦壁を取り付ける取り付け壁との距離を4cmとる。
(2)床モルタルの上に煉瓦を割付に合わせて積む。
(3)モルタルの混練配合は、セメント1、木曽砂2.5〜3の割合(体積比)で、練り合わせた後、更に3分間練る。
(4)第一段目の煉瓦の上に40cm毎に目地の代わりに通気弁を取り付ける。通気弁を取り付ける際に取り付け壁との間に詰まったモルタルを取り除く。また煉瓦を各段積み上げるときモルタルが取り付け壁との間に落ちないように注意して施工する。
(5)補強金具を煉瓦4段目毎に敷く。煉瓦壁の長さが3m以上の場合は、補強金具の継ぎ目を15cm重ねる。この工程を30cm毎に繰り返す。
(6)接合金具は補強金具の直ぐ上にくるように取り付ける。具体的には、ステンレス製丸棒(直径4mm、長さ20cm)の木ネジ部約45mmを455mm間隔で取り付け壁に取り付ける。窓、ドア、開口部出角等にも取り付ける。取り付け後、他端を煉瓦の幅の真ん中に来るように鋭角気味に直角に曲げる。この工程も補強金具と同様に30cm毎に繰り返す。なお、最後の接合金具の位置は壁高さより15cm(煉瓦2段)下に取り付ける。
(7)煉瓦はモルタルが固まらないうちに組み付ける。モルタルが固くなった場合には、再度モルタルを敷き直す。なお、目地の厚さは12mmである。
【0021】
上記施工手順で得られた煉瓦組積み構造7を試験体とした。評価試験用試験体の詳細を図6〜8に示す。図6は試験体の枠組材の詳細図であり、図7は試験体の外壁下地合板の詳細図であり、図8は試験体である煉瓦組積み構造(煉瓦壁)の詳細図である。図8に示すように、試験体としての煉瓦組積み構造7は外壁下地合板8に接合金具4のみで支持されている。具体的な数値を以下に示す。
(1)試験体寸法(煉瓦壁) 幅1820mm×高さ2460mm
(2)面材(外壁下地) 構造用合板、接着の程度は特類、強度の程度は2級、構成 単板は積層数が3、板面の品質がC−D、厚さが9mm、 寸法が幅909mm×高さ2430mm、張り方が2枚縦 張りである。なお、この面材は上述した取り付け壁である 。
(3)面材の接合 CNZ50(ネイラーくぎ)を使用し、間隔は外周が10 0mm毎、中通りが200mm毎であり、縁端距離はたて 枠が10mm、上枠厚さが27mm、下枠が19mmであ る。
(4)煉瓦壁 上述した煉瓦組積み構造である。
(5)枠組材 たて枠、上枠、下枠および頭つなぎの断面寸法は、寸法形 式204、樹種が樹種グループSII、樹種群がS−P− F、品質が甲種枠組材2級の乾燥材である。
(6)枠組材の緊結 平成13年度国土交通省告示第1540号の第5第15号 の規定に準拠する。
(7)加力用木材 下側がベイツガ製材の89mm角、上側がオウシュウアカ マツ集成材の幅89mm×高さ140mmを用いた。
【0022】
試験方法を以下に示す。
試験は、(財)日本住宅・木材技術センターの「枠組壁工法耐力壁およびその倍率性能評価業務方法書」に定める無載荷式の面内せん断試験に準拠して行なった。
(1)試験は無載荷式の面内せん断試験とする。図9に試験方法の概要を示す。
(2)繰り返しのステップは見かけのせん断変形角制御で、1/450、1/300、1/200、1/150、1/120、1/100、1/75、1/60、1/50、1/40radの正負交番とし、繰返し加力後は1/30radまで加力する。
(3)繰り返し加力は、同一のステップで3回の繰り返しとする。
(4)計測には、次の機器を用いた。
加力 ハイブリット型アクチュエーター
ロードセル 容量500kN、出力4000×10-6ひずみ
変位計 容量300mm・出力33×10-6/mm、容量100 mm・出力30×10-6/mm
【0023】
試験結果を以下に示す。
(1)見かけのせん断変形角(γ)、脚部のせん断変形角(θ)および真のせん断変形角(γo)は、次式を用いて算出する。なお、変形は全て合板壁のものである。
γ=(H1−H2)/H
θ=(V3−V4)/V
γo=γ−θ
ここで、
γ :見かけのせん断変形角(rad)
H1:試験体頂部の水平変位(mm)
H2:試験体脚部の水平変位(mm)
H :H1とH2の標点間距離(mm)
θ :脚部のせん断変形角(rad)
V3:試験体加力側脚部の上下方向変位(mm)
V4:試験体反加力側脚部の上下方向変位(mm)
V :V3とV4の距離(mm)
γo:真のせん断変形角(rad)
【0024】
(2)試験結果は、最大荷重(kN/1.82m)が30.38、同左時変形角(rad)が1/30であった。加力は1/30radで停止し、荷重低下が認められなかったため、1/30rad時の荷重を最大荷重とした。
(3)荷重−せん断変形角曲線を図10に示す。図10(a)は荷重−見かけのせん断変形角曲線であり、図10(b)は荷重−せん断変形角曲線である。
(4)試験体(煉瓦壁)の破壊状況
目視により観察された試験体(煉瓦壁)の変形、破壊等の状況は次の通りである。
(4a)1/30rad時では、煉瓦壁に亀裂や剥落のような破壊状況は確認されていない。
(4b)水平変形の増大に伴ない、接合金具の変形により煉瓦壁が回転した。
(4c)1/30rad時では、くぎ接合部のせん断変形に伴ない合板が回転した。
【0025】
次いで、短期基準せん断耐力および倍率の試算を行なった。
(1)短期基準せん断耐力の試算
(1a)包絡線は、正側加力の荷重−見かけのせん断変形角曲線より作製した。包絡線を図11に示す。
(1b)図11に示す包絡線9から完全弾塑性モデルにより降伏耐力等の特性値を以下方法により算出する。算出した結果を表1に示す。なお、加力は荷重低下が認められる前の1/30radで停止したため、終局変形角は1/30radとした。
(a)包絡線9上の0.1PmaXと0.4PmaXを結ぶ直線を第I直線とする。
(b)包絡線9上の0.4PmaXと0.9PmaXを結ぶ直線を第II直線とする。
(c)第II直線を包絡線9に接するまで平行移動し、これを第III直線とする。
(d)第I直線と第III直線との交点の荷重を降伏耐力(Py)とし、この点からX軸に平行な直線を第IV直線とする。
(e)第IV直線と包絡線9との交点の変位を降伏変位(δy)とする。
(f)原点と(δy,Py)を結ぶ直線を第V直線として、これを初期剛性(K)とする。
(g)加力停止時の包絡線9上の変位を終局変位(δu)とする。
(h)包路線9、X軸およびδuで囲まれる面積をSとする。
(i)第V直線、X軸、δuおよびX軸と平行な直線で囲まれる台形の面積がSと等しくなるようなX軸に平行な直線を第VI直線とする。
(j)第V直線と第VI直線との交点を完全弾塑性モデルの終局耐力(Pu)とし、その時の変位を完全弾塑性モデルの降伏点変位(δv)とする。
(k)塑性率(靭性率)μ=(δu/δv)とする。
【0026】
【表1】
【0027】
(1c)短期基準せん断耐力は、降伏耐力Py、終局耐力Pu・(0.2/Ds)、最大耐力Pmax・2/3、または、見かけのせん断変形角が1/120rad時の耐力P120の試験荷重の最も小さい値を短期基準せん断耐力とする。なお、バラツキ係数を乗じていない。
試算した結果、短期基準せん断耐力(Po)は12.97kNであった。
【0028】
(2)倍率の試算
倍率は次式により算定する。
倍率=Po×(1/1.96)×(1/L)
ここで、Poは上記試算された短期基準せん断耐力(Po)(kN)であり、1.96は倍率1の時の基準値(kN/m)であり、Lは壁長(m)である。算出の結果、倍率は3.6であった。なお、バラツキおよび低減係数を乗じていない。
【0029】
本発明の煉瓦組積み構造は、補強金具を用い煉瓦をモルタルにより一体構造となる煉瓦壁にすると共に、接合金具のみで建物などの柱や梁に固定支持して、振動させた場合でも、煉瓦壁に亀裂や剥離は生じないで、短期基準せん断耐力(Po)が12.97kNであり、倍率も3.6であった。簡単な施工で大地震時における十分な耐震性能が期待できる優れた耐力壁が実現できたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の煉瓦組積み構造は、鉄筋などの補強を使用することなく、耐震性に優れる煉瓦組積み構造が得られるので、住宅などの建築物等の壁に広く利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 煉瓦
2 煉瓦本体
3 貫通孔
4 接合金具
5 補強金具
6 モルタル
7 煉瓦組積み構造
8 外壁下地合板
9 包絡線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する煉瓦を、前記貫通孔同士を対向させて目地部にモルタルを用いて組積みされてなる煉瓦組積み構造であって、
該煉瓦組積み構造は、前記貫通孔同士が対向する横目地部および前記貫通孔に平行する縦目地部がモルタルで固定されて全体が一体の煉瓦壁となり、
前記煉瓦がカナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された煉瓦であり、
前記モルタルがカナダ規格A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントであることを特徴とする煉瓦組積み構造。
【請求項2】
前記横目地部内に梯子型の補強金具を配置すると共に、L字型の一端にネジ部を有するL型ネジの接合金具を用いて、前記ネジ部を前記建物本体に、他端を前記モルタル内部にそれぞれ固定することにより、煉瓦組積み構造全体が前記接合金具により建物本体に支持されてなることを特徴とする請求項1記載の煉瓦組積み構造。
【請求項3】
前記煉瓦がビーハイブキルンを用いて、煉瓦形状に成形された粘土を最大1100℃の温度で少なくとも6日間焼成してなる煉瓦であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の煉瓦組積み構造。
【請求項4】
前記貫通孔は、1個の煉瓦に対して10孔が同一面内に設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の煉瓦組積み構造。
【請求項5】
前記モルタルが前記モルタル用セメント1体積部に対して、砂2.5〜3体積部配合して、前記セメントおよび砂に水を加えて練り合わせた後、少なくとも3分間混練したモルタルであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の煉瓦組積み構造。
【請求項1】
貫通孔を有する煉瓦を、前記貫通孔同士を対向させて目地部にモルタルを用いて組積みされてなる煉瓦組積み構造であって、
該煉瓦組積み構造は、前記貫通孔同士が対向する横目地部および前記貫通孔に平行する縦目地部がモルタルで固定されて全体が一体の煉瓦壁となり、
前記煉瓦がカナダサーマスマウンテン産粘土を用いて焼成された煉瓦であり、
前記モルタルがカナダ規格A3002 タイプSに適合するモルタル用セメントであることを特徴とする煉瓦組積み構造。
【請求項2】
前記横目地部内に梯子型の補強金具を配置すると共に、L字型の一端にネジ部を有するL型ネジの接合金具を用いて、前記ネジ部を前記建物本体に、他端を前記モルタル内部にそれぞれ固定することにより、煉瓦組積み構造全体が前記接合金具により建物本体に支持されてなることを特徴とする請求項1記載の煉瓦組積み構造。
【請求項3】
前記煉瓦がビーハイブキルンを用いて、煉瓦形状に成形された粘土を最大1100℃の温度で少なくとも6日間焼成してなる煉瓦であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の煉瓦組積み構造。
【請求項4】
前記貫通孔は、1個の煉瓦に対して10孔が同一面内に設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の煉瓦組積み構造。
【請求項5】
前記モルタルが前記モルタル用セメント1体積部に対して、砂2.5〜3体積部配合して、前記セメントおよび砂に水を加えて練り合わせた後、少なくとも3分間混練したモルタルであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の煉瓦組積み構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−226185(P2011−226185A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98229(P2010−98229)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(510111777)株式会社高増工務店 (1)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(510111777)株式会社高増工務店 (1)
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