説明

熱エネルギー伝導の制御方法

【目的】 融体から放散される熱エネルギーをコントロールして、融体中に所望の温度勾配を設定するための、幅広い温度域において採用可能な、熱エネルギー伝導の制御方法の提供。
【構成】 垂直ブリッジマン炉を利用した図1の装置において、断熱材3で囲まれ、カーボンヒーター9によって昇温される融体11が装入されている石英製縦型ボート8の底部に液体ガリウム15を収納したカーボン製容器14を取りつけ、該ボート8の軸心に設けた石英管10中の温度センサー6と7の温度差が一定になるように、リング状の軟鉄16に取りつけられた希土類磁石17からなる回転磁石を、フランジ13の周囲に設けられた水冷ジャケット12に沿って回転させ、その速度をコントロールし、液体ガリウム15を通して融体11から放散される熱エネルギーを制御する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、融液の固化速度や蒸発速度等のコントロールに使用できる熱エネルギー伝導の制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】工業的に広く用いられる液相からの単結晶育成法においては、例えば温度勾配のある電気炉で融体を収納したるつぼを移動したり降下したりして結晶を育成する温度勾配法(ブリッジマン法)、または融体表面から結晶を引上げる引上げ法(チョクラルスキー法)などにおいて、いずれも融体の冷却速度のコントロールが重要である。
【0003】一般に融液の固化速度や蒸発速度をコントロールする晶出装置や結晶育成装置における融液の冷却は放熱したい部分を空冷したり、液体で冷却するかあるいは液体アルカリで冷却する方法が採られている。
【0004】冷却される対象により、通常250℃以下の冷却方法については、水やシリコーンオイル等を用い、それ以上ではアルカリ金属や空気等で冷却される場合が多い。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記冷却方法のうち、空気冷却は冷却速度が遅く、放熱したい部分の放熱量を大きく取れないため、放熱量を増すためには他の方法に比較して大きなスペースを必要とする。
【0006】一方、液体冷却による方法では、放熱したい部分からの放熱量を大きくできるものの、放熱エネルギーのコントロール範囲が狭く、したがって冷却温度幅に制限があった。
【0007】また、液体アルカリ冷却でも冷却温度域が100〜700℃と狭い上、一般に設備費がかさむという様にそれぞれ課題があった。
【0008】したがって本発明の目的は、融体から放散される熱エネルギーをコントロールして融体中に所望の温度勾配を設定するための、幅広い温度域において採用可能な熱エネルギー伝導の制御方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成すべく研究の結果、高低2種の熱良導体のうち前者の第1の熱良導体から後者の第2の熱良導体に熱エネルギーが移動放散される際、第1および第2の熱良導体の途中に、熱的に両者を接続する空間部(真空または気相)と液体金属、例えば融点が29.8℃の高純度液体ガリウムとからなる接続部を設け、この接続部を回転するか、あるいは両熱良導体の間隔を変えることにより該液体金属の有効熱伝導面積を変化させるようにすれば、第1の熱良導体から放散する熱エネルギーを制御でき、従来技術の問題点を解決する有効な手段となることを見いだし本発明に到達した。
【0010】すなわち、本発明は第1に、第1の熱良導体から第2の熱良導体に熱エネルギーを伝導することによって第1の熱良導体中の温度勾配を設定する熱エネルギー伝導の制御方法において、上記第1の熱良導体と第2の熱良導体との間に真空または気相からなる空間部と液体金属とからなる接続部を設け、両熱良導体間を熱的に接続する液体金属の有効熱伝導面積を変えることにより、第1の熱良導体中の温度勾配を第1の熱良導体からの放熱量によって制御することを特徴とする熱エネルギー伝導の制御方法を:第2に、前記液体金属の有効熱伝導面積の変更が該液体金属を回転することにより行われる上記第1の制御方法を:第3に、前記液体金属の有効熱伝導面積の変更が該液体金属と熱的に接続する熱良導体同士の間隔の変更により行われる上記第1の制御方法を提供するものでる。
【0011】
【作用】本発明の方法では、両熱良導体の間に設けられた接続部中の液体金属によって有効熱伝導面積を変化させることにより熱エネルギーの伝導を制御する。
【0012】上記有効熱伝導面積を制御する方法として、図2(a)の模式断面図に示すように、断熱材3で囲まれた第1の熱良導体1と第2の熱良導体2との間に、静止時、図示のような空間部4と液体金属5とからなる接続部を設け、図2(b)の模式断面図のように該接続部を回転させると、回転速度に応じて、側壁に沿ってせり上がった液体金属5と接する第1の熱良導体との面積すなわち有効熱伝導面積が変化するようになる。
【0013】また、図3の模式断面図に示すように、同じく断熱材3で囲まれた両熱良導体1および2との間に図示のような接続部(空間部4および液体金属5からなる)を設け、両熱良導体のいずれかを上下に移動して両者の間隔を変えることにより、第1の熱良導体と接する液体金属の有効熱伝導面積を変化させることもできる。 以上の様にして上記有効熱伝導面積を変えることにより、第1の熱良導体中に押入された第1温度センサー6と第2温度センサー7との温度差が所望の値になるように放散熱エネルギーをコントロールすることができる。
【0014】なお、接続部中の液体金属を回転させるには、例えばリング状の軟鉄板の内側に希土類磁石を取りつけた回転磁石を接続部の周りを回転させ、その回転速度に比例して流れる誘導電流によって回転する液体金属の挙動をコントロールする。
【0015】また、液体金属としては、融点が29.8℃の高純度ガリウムあるいはその化合物が化学的安定性およびコントロール域の広さから考えて望ましい。
【0016】
【実施例1】図1は本実施例で用いられた垂直ブリッジマン炉を利用した装置の模式断面図であって、この図を参照して以下説明する。
【0017】断熱材3で囲まれ、カーボンヒーター9によって昇温される500℃以上の融点をもつ融体11が装入されている石英製縦型ボート8の底部に液体ガリウム15を収納した特殊カーボン材からなる容器14を図のように取りつけ、該ボート8の軸心に設けた石英管10中の第1温度センサー6と第2温度センサー7との温度差が一定になるように、リング状の軟鉄16に取りつけられた希土類磁石からなる回転磁石を、フランジ13の周囲に設けられた水冷ジャケット12に沿って回転させた。
【0018】回転磁石を回転させると回転速度に比例して誘導電流が流れるので液体金属を回転させることができ、図では液体ガリウムが容器の側面にせり上がった回転時の状態を示している。
【0019】まず、上記の装置で3段重ねの各カーボン容器に250gずつ容器の体積の90%に相当する高純度ガリウムを入れ、アルゴン雰囲気で昇温したところ、第1温度センサーが1000℃、第2温度センサーが950℃で単位面積当りの放出エネルギーは4.2 W/cm2 であった。
【0020】次に、両センサーの温度差を100℃にセットして該磁石を回転させたところ、第1センサー、第2センサーが約950℃および約850℃となり、放出エネルギーは8.5 W/cm2 となった。
【0021】次に、両センサーの温度差を200℃にセットして該磁石を回転させたところ、同様に約800℃および約600℃となり放出エネルギーは17 W/cm2 であり、以上の様に放出エネルギーをコントロールすることができた。
【0022】
【実施例2】実施例1では融体11中の第1温度センサーで1000℃以下の場合について述べたが、本実施例では1000℃より高温の場合について試験した。
【0023】図1の装置を用いて第1温度センサーが1400℃、第2温度センサーが1330℃になるようにして試験を行ったが、実施例1と同様に支障なく熱放出エネルギーをコントロールすることができた。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の方法によれば、熱良導体、例えば融体の固化速度をコントロールするために、2つの熱良導体の途中を液体金属でつなぎ、液体金属の有効熱伝導面積をコントロールするので、熱エネルギー伝導、すなわち熱放出エネルギーを幅広い温度域において制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施例において用いられた垂直ブリッジマン炉を利用する装置の模式断面図である。
【図2】本発明において、液体金属を回転させるタイプの場合、その作用を説明する模式図であって、同図(a)は液体金属が静止時の状態を、同図(b)は液体金属が回転して有効熱伝導面積が変化する様子を示す図である。
【図3】本発明において、熱良導体のいずれかが上下に移動すると、両者間に介在する液体金属の有効熱伝導面積が変化する様子を示す模式図である。
【符号の説明】
1 第1の熱良導体
2 第2の熱良導体
3 断熱材
4 空間部
5 液体金属
6 第1温度センサー
7 第2温度センサー
8 石英製縦型ボート
9 カーボンヒーター
10 石英管
11 融体
12 水冷ジャケット
13 フランジ
14 カーボン容器
15 ガリウム
16 軟鉄
17 希土類磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1の熱良導体から第2の熱良導体に熱エネルギーを伝導することによって第1の熱良導体中の温度勾配を設定する熱エネルギー伝導の制御方法において、上記第1の熱良導体と第2の熱良導体との間に真空または気相による空間部と液体金属とからなる接続部を設け、両熱良導体間を熱的に接続する液体金属の有効熱伝導面積を変えることにより、第1の熱良導体中の温度勾配を第1の熱良導体からの放熱量の調節によって制御することを特徴とする熱エネルギー伝導の制御方法。
【請求項2】 前記液体金属の有効熱伝導面積の変更が該液体金属の高速回転による液面上昇力の調節により行われる請求項1記載の制御方法。
【請求項3】 前記液体金属の有効熱伝導面積の変更が該液体金属と熱的に接続する熱良導体同士の間隔の変更により行われる請求項1記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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