熱サイクル印加装置及び熱サイクル印加方法
【課題】熱サイクル印加時に、温度遷移が速く、温度精度が高い熱サイクル印加装置を提供する。
【解決手段】熱サイクル印加装置21は、2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバ6とを備えた熱サイクル印加装置であって、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有する。
【解決手段】熱サイクル印加装置21は、2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバ6とを備えた熱サイクル印加装置であって、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検定サンプルに熱サイクルを印加する方法および熱サイクル印加装置に関し、特に、流体流を利用してサンプルキャリア内の検定サンプルに熱サイクルを印加する方法および熱サイクル印加装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる核酸増幅技術が普及し、広く医学・生物学の研究や臨床診断、環境検査等の分野で高感度な核酸分析が可能となった。このPCRは、2種類のプライマーを用いて特定配列を増幅する手法である。PCRは、2本鎖DNAを第1の温度で解離する変性工程(概ね90〜98℃)、解離した1本鎖DNAに第2の温度でプライマーを結合させるアニーリング工程(概ね50〜70℃)、DNAポリメラーゼ酵素の働きにより第3の温度でプライマーから1塩基ずつ相補鎖を合成する伸張工程(概ね60〜75℃)の3段階の工程を1サイクルとして進行し、1サイクル毎にプライマーに挟まれた特定の核酸領域が2倍に増幅する。そこで、第1〜第3の温度との間を遷移させる熱サイクルをn回繰り返すことによって2のn乗倍のDNAを複製することができる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
また2本鎖DNAの解離する温度が、そのDNAの塩基長に概ね相関がある特徴を利用して、複製したDNAが目的の領域かどうかを検証する手段の1つとして、DNAの複製後に、アニーリング工程の温度付近(概ね50〜70℃)から変性工程の温度付近(概ね90〜98℃)までの間を一定のランプレートでほぼ直線的に温度を増加させていく温度サイクル工程を最低1回行うことが一般的に実施されている。
【0004】
核酸増幅のために核酸を含むサンプルに上記の熱サイクルを印加する方法としては、複数のサンプルを金属製ブロックに格納して金属製ブロックを加熱又は冷却することでサンプルに熱サイクルを印加するブロックサイクル法が一般的である。また高速に温度サイクルを印加するために、筒状空洞内に試料容器を配置し、熱風と冷風の圧縮空気を空洞の片側から交互に噴射させ、加熱及び冷却を行い、一定温度に保持するときは空気を微流量にする高速気相サイクル法も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
しかし、上記従来技術によるシステムには両方とも問題点がある。
まず、ブロックサイクル法は、熱伝達効率が悪く、作動させるのにエネルギーと時間がかかり過ぎ、好ましくない。すなわち熱サイクルを所定回数印加するために要する時間がかかり、核酸増幅のために要する所要時間が長くなる。
【0006】
高速気相サイクル法では、試料容器境界の空気流速が非常に大きく、熱交換効率が高いため、昇温・冷却速度が大きくなり(10〜40℃/sec)、核酸増幅の所用時間が短いが、一方では一定の温度で保持する工程や、一定のランプレートで徐々に加熱していく工程などでは、温度応答があまりに速いため制御温度が一定にならず、目標温度付近を振動し、好ましくない。
【0007】
【非特許文献1】Science、第230巻、第1350頁−第1354頁、1985年
【特許文献1】WO2004/042086
【特許文献2】特表2006−504429
【特許文献3】特願2005−290080
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、熱サイクルを所定回数だけ印加するために要する時間が長くなり、その結果、例えば、サンプルとして核酸を用い、所定の酵素によって核酸増幅を行う場合には、核酸増幅のための所要時間が長くなる。また、高速性を図ろうとすると熱サイクルの各温度精度が悪くなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究の結果、熱サイクルにおいて、圧縮ガスを用いることによって高速で温度遷移させることができると共に、熱サイクル中の一定温度、あるいは一定ランプレートで温度を保持する際に温度精度を高くすることができる熱サイクル印加装置および熱サイクル印加方法を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
1.2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加装置。
2.前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする1の熱サイクル印加装置。
3.さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする1または2の熱サイクル印加装置。
4.さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする1〜3のいずれかの熱サイクル印加装置。
5.流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする1〜4のいずれかの熱サイクル印加装置。
6.前記熱媒体が、気体であることを特徴とする1〜5のいずれかの熱サイクル印加装置。
7.前記熱媒体が、空気であることを特徴とする1〜5のいずれかの熱サイクル印加装置。
8.2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加方法。
9.前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする8の熱サイクル印加方法。
10.さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする8または9の熱サイクル印加方法。
11.さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする8〜10のいずれかの熱サイクル印加方法。
12.流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする8〜11のいずれかの熱サイクル印加方法。
13.前記熱媒体が、気体であることを特徴とする8〜12のいずれかの熱サイクル印加方法。
14.前記熱媒体が、空気であることを特徴とする8〜12のいずれかの熱サイクル印加方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱サイクル印加装置によれば、温度及び流量を制御した熱媒体を用いることによって高速で温度遷移させることができる。また、熱サイクルにおいて、一定温度に保持する場合に、それぞれの熱媒体流の制御に3つ以上の流量特性が異なる高速に切替可能な電磁弁を並列で使用することによって、温度遷移速度を低下させることなく、一定温度や一定傾きの温度制御精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る熱サイクル印加装置について添付図面を用いて説明する。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0014】
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態に係る熱サイクル印加装置21の構成を示すブロック図である。この熱サイクル印加装置21は、熱媒体として圧縮ガス源1、マニホールド2、電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3f、冷却コイル4、熱風ヒータ5、チャンバ6を備える。さらに、バイパス経路7を備えていてもよい。この熱サイクル印加装置21では、圧縮ガス源1より供給された圧縮ガスがマニホールド2内に並列に設置された電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fに分配される。圧縮ガスは、マニホールド2内の電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fの後で、冷却ラインと加熱ラインに分割される。冷却ラインでは冷却コイル4を通過して冷却された後、冷風がチャンバ6に供給される。一方、加熱ラインでは熱風ヒータ5を通過して加熱された後、熱風がチャンバ6に供給される。電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fの制御により冷却ライン及び加熱ラインからチャンバ6に供給される圧縮ガスを制御して、チャンバ6内に保持されたサンプルに所定の熱サイクルを印加する。
【0015】
熱サイクルにおいて、高速に温度遷移させる場合でも、一定温度や一定傾きで温度制御する場合でも、熱媒体の温度はチャンバに供給される前に、サンプルの目標温度よりも加熱ラインは高温に、冷却ラインは低温になるように、予めある範囲内に制御しておくことが好ましい。その制御温度は、高速に温度遷移させる場合には、サンプルの目標温度との差が大きい方が遷移速度が上がり有利であるが、反面一定温度や一定傾きで温度制御する場合では、サンプルの目標温度との差が小さい方が温度制御精度が高まり有利であるなど、相反する要求となるため、その最適化が必要である。例えば目標温度が50〜95℃ぐらいの温度サイクルの場合には、熱媒体の温度は、加熱ラインは150〜200℃、冷却ラインは0〜30℃が好ましい。
【0016】
急速に温度を遷移させる場合には、熱媒体の流量というよりも、サンプル境界付近での熱媒体の流速が重要であり、その流速は10〜30m/秒が好ましい。そのためには、各熱媒体ラインに必ず1つは音速コンダクタンスCが大きい、すなわち大流量を流すことが可能な電磁弁を設置するとともに、加熱の場合は電磁弁3a、3b、3cを、冷却の場合は3d、3e、3fを目標温度近くなるまですべて開放し、最大流速を流すような制御が好ましい。またオーバーシュートしないで目標温度に迅速に精度良く到達させるためには、反対方向の電磁弁、すなわち加熱中であれば冷却ラインの電磁弁、冷却中であれば加熱用の電磁弁を使用して、最適にブレーキを掛けることが重要であるが、この場合に使用する電磁弁は、前記の音速コンダクタンスCが大きいものでは制御が振動し不可能である。そこで、音速コンダクタンスCが小さい、すなわち小流量を流すことが可能な電磁弁を各熱媒体ラインに必ず1つ設置して、最適のブレーキを掛けることが必要である。
【0017】
一方、一定温度や一定傾きで温度制御する場合には、熱媒体を微流量にし、あるいは熱媒体の供給を停止させるなど細かなタイミングで制御するほうが温度制御精度を向上できる。そのためには、各熱媒体ラインに必ず1つは音速コンダクタンスCが極めて小さい、すなわち微流量を流すことが可能な電磁弁を設置するとともに、その電磁弁を中心に制御することが好ましい。
【0018】
制御方法は、現在温度と目標温度との上下関係のみで加熱あるいは冷却の電磁弁を全開する、いわゆる2位置制御法は、制御が振動しやすいので好ましくない。現在温度と目標温度との偏差に比例定数を乗じた値を出力値とする、いわゆるP制御(比例制御)が、振動が小さくなり好ましく、さらに振動が小さくなるPID制御(比例積分微分制御)がより好ましい。
【0019】
また本発明では複数の電磁弁を使用するので、制御出力を一元化するため各電磁弁の音速コンダクタンスCと電磁弁の開時間との積を出力指標(以下C×Tと記す)にし、さらに加熱する出力値を正の数、冷却を負の数とすることで、加熱から冷却までの全電磁弁を1つの出力指標C×T値で制御することが可能である。詳細には、電磁弁ごとにC×T値の守備範囲を予め規定しておき、実際にどの電磁弁をどれぐらいの時間開放するかは、まずC×T値により、どの電磁弁が制御対象になるかを判断し、次に出力指標C×T値をその電磁弁のC値で除算して開放時間を決定する。この制御を一定周期毎に繰り返すのだが、この周期を短くすればより細かな制御か可能となり、温度制御精度も高くなる。しかし、実際には電磁弁の応答性に限界があり、あまり短時間の制御には追従しなくなる問題がある。汎用の電磁弁ではその時間が5〜20msecぐらいであるので、このことも考慮すると、制御周期は100〜200msecが好ましい。もちろん応答性の速い特殊な電磁弁を使用する場合には、それ以下の制御周期でも可能であると思われる。
【0020】
本発明の熱サイクル印加装置では、音速コンダクタンスCの異なる複数の電磁弁を並列に配置することで、かつそれぞれの開閉弁の音速コンダクタンスと開時間の積を指標に制御することで、温度遷移速度を低下させることなく、一定温度や一定傾きの温度制御精度を高めることが可能となる。
【0021】
なお、本明細書中では、「チャンバ」もしくは「サンプルチャンバ」という用語は、サンプルを保持でき、所望の温度に変化させた圧縮ガスが送り込まれる部分を示す。また、「サンプル」という用語は、試験サンプル又は検定サンプルを指し、ここでは、検査対象から採取した試料と様々な試験試薬を混合したものである。
【0022】
以下に、この熱サイクル印加装置21の各構成部材について説明する。
【0023】
(圧縮ガス源)
圧縮ガス源1において、熱媒体として用いる圧縮ガスの圧力は0.05MPa〜1.0MPaの範囲内が好ましく、更に好ましくは0.2MPa〜0.5MPaの範囲がよい。圧縮ガスの成分は、特に限定はないが、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどでもよい。特に好ましくは、廃棄およびリサイクルに関する問題を解消することができる空気がよい。また、圧縮ガスを用いることによってサンプルを高速に温度遷移させることができるので、非常に高速に温度変化させる必要があるサンプルでは、ランプ時間が重要な因子であるので、特に有用である。
【0024】
(マニホールド)
圧縮ガスは、マニホールド部2で2種類の流路に分岐される。一方は、冷却ラインであって、熱交換コイル部に導かれ、冷却されてもよい。もしくは、空冷にて冷却されても良い。もう一方は、加熱ラインであって、熱風ヒータ5などにより加熱される。冷却ラインで冷却された圧縮ガスと、加熱ラインで加熱された圧縮ガスは、チャンバ6の入り口部で合流される。この冷却ラインからは、例えば、0℃〜30℃の圧縮ガスと、加熱ラインからは、例えば、150℃〜200℃の圧縮ガスがチャンバ6に入力され、所定の制御タイミングでチャンバ6内に送風される。マニホールド部2に設置された電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fを制御して、圧縮ガスを所望の流量に調整することができる。電磁弁の個数は、冷却用、加熱用それぞれに3種類以上ずつ設置すると良い。なお、設置する電磁弁3a(あるいは3d)、3b(あるいは3e)、3c(あるいは3f)は異なる規格の電磁弁である。好ましくは、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の電磁弁、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar)の電磁弁、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下 dm3/(s・bar)の電磁弁を冷却用と加熱用にそれぞれ1個ずつ設置するのが好ましい。
【0025】
(チャンバ部)
チャンバ6の流体流路部の構造は、断面積が300mm2以下の直方体形状が好ましく、更に好ましくは、断面積が150mm2以下の直方体形状であればよい。チャンバ6の流体流路の外側は、耐熱性に優れた熱伝導度が小さい材料で構成することが好ましく、熱伝導度が0.3W/mK以下の材料で構成することが特に好ましい。マイクロヒュージ管を保持するための挿入部8は、30本以下が好ましく、15本以下が特に好ましい。マイクロヒュージ管の挿入部8は、圧縮ガスの流れる方向に沿って設けることが好ましい。さらに、挿入部8は、千鳥配置に設定するのがよい。ここで、千鳥配置とは、各サンプルを保持する挿入部8が圧縮ガスの流れる方向に沿って配置されると共に、圧縮ガスの流れる方向に対して挿入部8が1本毎にジグザグになるように設けられた配置をいう。また、各マイクロヒュージ管の挿入部8間の間隔は、圧縮ガスの流れる方向に沿った成分として3〜10mmの範囲であればよく、3〜5mmの範囲内で等間隔配置するのが好ましい。
【0026】
(マイクロヒュージ管)
マイクロヒュージ管は、チャンバ6内の一側面に設けられた挿入部9から空洞部に挿入されて保持される。このマイクロヒュージ管は、サンプル溶液部分が完全にチャンバ6内の圧縮ガスが流れる空洞部内に保持されるのが好ましい。更に、マイクロヒュージ管は、チャンバ内壁との距離が0.5mm以上離れている位置に設置できるよう設計されることがさらに好ましい。マイクロヒュージ管の詳細は、内部に空洞がある円筒形状が好ましく、外径φ1〜φ3mm、肉厚が0.2mm〜0.5mmものが好ましい。マイクロヒュージ(microfuge)管は、3μLから30μLの溶液を保持できるものがよい。なお、サンプルとして増幅する核酸が含まれる溶液を用いる場合には、その溶液部分がチャンバ6内の空洞部内に保持されることが好ましい。
【0027】
(バイパス経路)
バイパス経路7を備えることにより、一定温度や一定傾きの温度制御精度をさらに高めることが可能となる。つまり一定温度や一定傾きの温度制御時など通常微小流量では、熱媒体が持つ時間当たりの熱容量が小さくため、サンプル間に温度分布が発生しやすく、サンプル間の温度差が発生する危険がある。かつ温度センサへの熱伝達速度が遅くなり、この遅れにより温度制御がしづらくなり温度制御精度が低下する可能性がある。しかしチャンバ6の出口部から圧縮ガスの一部を回収し、再び入口部に戻すバイパス経路7によって、圧縮ガスを還流させチャンバ6内を攪拌することができるので、サンプル間の温度分布を軽減させ、かつ温度センサへの熱伝達速度が上がり、温度制御精度が向上させることができる。バイパス経路7は、チャンバ6の風下側に設けられたバイパス経路入口と、風上側に設けられたバイパス経路出口とを接続して設けられている。このバイパス経路入口と出口の内径は、φ2mm〜φ10mmが好ましく、φ3mm〜φ6mmが特に好ましい。また、バイパス経路入口と出口の間に、マイクロヒュージ管を保持するための全ての挿入部9が存在させることが好ましい。すなわち、バイパス経路7を接続するためのバイパス経路入口と出口とは、チャンバ6の一側面に設けられたマイクロヒュージ管を保持するための全ての挿入部9を挟んで設けることが好ましい。
【0028】
(圧縮ガス還流用ポンプ)
チャンバ6の出口側から圧縮ガスの一部を入口側に還流させる方法は、チャンバ6の出口側の一部と入口側の一部とを接続するバイパス経路7を介してポンプ8を用いて強制的に還流させることによって実現できる。ここで使用されるポンプ8は、特に限定はないが、逆方向に流量制限がかかる逆止弁などの機構を有することが好ましい。更に好ましくは、ポンプヘッド部が小容量のダイヤフラムポンプがよい。また、ポンプ流量は、1L/min〜20L/minのものが好ましく、更に好ましくは4L/min〜10L/minがよい。
【0029】
チャンバ6内を流れる圧縮ガスの流量がポンプ8の能力範囲内の微少流量の場合には、チャンバ6内の風下側と風上側とを接続するバイパス経路7内のポンプ8の働きにより、循環風量が発生しチャンバ6内を撹拌することができる。このポンプでの攪拌により、サンプル間の温度分布を軽減できるとともに、温度制御精度も高くなる。一方、チャンバ6内の風量がポンプ8の能力を越える大流量の場合には、ポンプ8に設置されている逆止弁の働きによってポンプ8で形成されたバイパス経路7の流量がほぼ0になるので、チャンバ6の流量が低下することはない。つまり、温度を安定化するため微風量が要求される場合は、バイパス経路7が機能して循環風量が発生しチャンバ6内を撹拌することができる。一方、急激な温度変化を要求されている場合は、逆止弁の働きでバイパス経路7が実質的に機能しない状態となって大流量の圧縮ガスがチャンバ6内をそのまま流れてサンプルに急速に温度変化を生じさせることができる。つまりバイパス流路7やポンプ8を設けることで、温度遷移速度を低下させることなく、一定温度や一定傾きの温度制御時の精度を高めることが可能となる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例では、実施の形態に係る熱サイクル印加装置を核酸増幅装置として用いる場合の具体的な例について説明する。この核酸増幅装置は、図1とほぼ同様の構成を有する。各構成部材について以下に説明する。
【0031】
[実施例1]
a)圧縮ガス源1としては、約0.6MPaの施設計装エアーから圧力レギュレータ(SMC製AR425)により0.3MPaに減圧した圧縮空気を入力した。
【0032】
b)マニホールド2は、図1に示す圧縮ガス回路を有し、且つ、電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fを固定できるようにジュラコンを材料にして加工製作した。電磁弁3a、3dには、高流量特性を有するCKD社製の型番「GFAB41−5−0−12C−3」(音速コンダクタンスC:2.1 dm3/(s・bar))の電磁弁を、電磁弁3b、3eには低流量特性を有するCKD社製の型番「GFAB21−1−0−12C−3」(音速コンダクタンスC:0.31 dm3/(s・bar))の電磁弁を、電磁弁3c、3fには微流量特性を有するCKD社製の型番「GFAB11−Z−0−12C−3」(音速コンダクタンスC:0.15 dm3/(s・bar))の電磁弁を選定し、マニホールド2に設置した。
【0033】
これらの電磁弁を使用した温度制御方法に関して以下に説明する。温度制御周期は100msecとした。制御出力は音速コンダクタンスCと電磁弁開時間の積を指標にする。具体的には一番小さい加熱ラインの電磁弁3fが全開のとき、すなわち100msec開放のときの積0.015s*( dm3/(s・bar))を100%とし、冷却ラインの同インピーダンスの電磁弁3cが全開のとき、-100%とし符号を付加した。他の電磁弁の出力はそれぞれの音速コンダクタンスCで補正し、表1のように決定した。電磁弁の制御に関しては、現在温度と目標温度との偏差に比例常数Pあるいは積分微分補正したP’を乗算し電磁弁の出力%に変換する。さらに算出された出力%の範囲によりどの電磁弁を選択するかは、表1の電磁弁の守備範囲に示した基準で決定する。表1では電磁弁1個使用を原則としたが、もちろん同一ラインの電磁弁であれば2個3個複数使用でも問題はないと考えている。ただし別ラインの電磁弁との複数使用はエネルギー効率が悪くなるので好ましくない。また急激な温度遷移の場合には、同一のラインの電磁弁をすべて開放したほうが遷移速度は向上する。
【0034】
加熱能力と冷却能力が異なる場合はその能力比を考慮して、どちらのラインの出力%をその比で補正するとさらに好ましい。
【0035】
【表1】
【0036】
c)冷却コイル4には、内径φ5mmの銅管を約5m使用し、巻径約200mmのらせん状に巻いたものを使用した。その冷却コイル4を氷水中に浸漬して熱交換を行った。
【0037】
d)ヒータ5には、竹綱製作所製SH1A(800W/100V)を使用し、熱風の温度を180℃に制御してチャンバ6に供給した。
【0038】
e)チャンバ6は、テフロン(登録商標)を材料にして加工製作した。その空洞部は高さ20mm、幅6mm、長さ100mmの直方体形状とし、マイクロヒュージ管をチャンバ6の上部から挿入し、底面から約1mm離して風向に対して中央36mm内に13本を千鳥配置になるように設置できる構造とした。
【0039】
f)チャンバ6の空洞部の風下端から10mmの位置に設けられた内径4mmのバイパス入口と、風上端から10mmの位置に設けられた内径4mmのバイパス出口を接続するバイパス経路7を設けた。このバイパス経路7内には、ポンプ8を設けた。ポンプ8は、榎本マイクロポンプ製MV−600Gのダイヤフラム型空気ポンプを使用し、ガス流量は約6L/minであった。このバイパス経路7によって、チャンバ6内を流れる圧縮空気が微少流量又は停止状態の際には、チャンバ6内の空気を撹拌することができる。
【0040】
この実施例1では、図2に示すように、
i)加熱して98℃にする
ii)最初のサイクルのみ98℃で約15秒間保持する
iii)加熱して98℃にする
iv)98℃から70℃に冷却する。
v)70℃で約5秒間保持する。
という熱サイクルでiii〜vの熱サイクルを34回繰り返して印加した。また、図3は、図2の最初の部分拡大図である。
【0041】
このときの温度変動を測定すると、図4に示すような結果となった。図4の部分拡大図を図5に示す。全所用時間は4分45秒、70℃での温度制御時の標準偏差は約0.14℃であり、高速な温度遷移を実現し、かつ良好な温度制御精度を実現している。
【0042】
[実施例2]
なお、ここでは図3に示すような熱サイクルを印加したが、熱サイクルとしては上記の場合に限られず、例えば、図6に示すような熱サイクルも印加することができる。図6の熱サイクルでは、
i)加熱して90℃にする
ii)最初のサイクルのみ90℃で約15秒間保持する
iii)加熱して90℃にする。
iv)90℃から60℃に遷移させる。
v)60℃で3秒間保持する。
vi)60℃から72℃に遷移させる。
vii)72℃で3秒間保持する。
という熱サイクルを複数回にわたって印加する場合の最初の部分拡大図を示している。この熱サイクルでは、図3の熱サイクルと比較すると、第1の温度(90℃)、第2の温度(60℃)に加えて、第3の温度(72℃)での工程を設けている。このように、使用する酵素が働く温度に応じて熱サイクルを構成する温度を選択すればよい。また、この熱サイクルの回数は、サンプルに応じて適宜選択すればよい。例えば、核酸増幅がおよそ109(=230倍)倍程度必要な場合には、30サイクル程度行えばよい。
【0043】
[実施例3]
次に、2本鎖核酸の解離温度が核酸の長さに相関する性質を利用して増幅した核酸の増幅長を解析する、いわゆる融解曲線解析とよばれる手法においての温度印加方法について具体的に説明する。
【0044】
2本鎖核酸が解離したことを蛍光量の変化により検知する試薬システムおよび光学システムを採用して、図7に示すように、
i)加熱して70℃にする
ii)70℃で約5秒間保持する
iii)徐々に加熱して傾き0.2℃/秒で95℃に昇温する
という熱パターンを印加しながら、蛍光量が変化する最大点(変曲点)の温度を計測するのが、融解曲線解析である。この場合蛍光量が一方では温度に対して非常に敏感に変動するため、このときの温度制御精度を高めることが解析精度を向上させるのに重要である。
実施例においての温度変動を測定すると、図8に示すような結果となった。
【0045】
このように温度をある小さな一定傾きに沿って昇温する場合は、一定温度に維持する方法とは異なる制御方法が有効である。すなわち一定温度制御の場合には冷却ラインおよび加熱ラインに設置した低流量および微流量特性の電磁弁2個のON/OFFを利用して冷風や熱風双方で制御するほうが好ましいが、ある小さな一定傾きで昇温させる場合は、加熱ラインに設置した微流量の電磁弁1個のON/OFFのみで制御するほうが好ましい。
【0046】
すなわち基本的な制御方法は実施例1に記載の方法と同じであるが、目標温度が一定ではなく、時間とともに直線的に増加させる、つまり1周期毎に目標温度を一定値増加させる必要がある。さらにこのように一定傾きで昇温させる場合は、冷却能力が高くなるため実際の出力%を計算するときに大きく出力を減少させる係数を乗算する必要があり、検討を進めた結果、補正係数がほぼ0、つまり冷却ラインのバルブは使用しないほうが温度の振動がなく制御精度が高い結果となった。またこの場合は加熱でのオーバーシュートを防止する目的で加熱能力も極力低くなるように、音速インピーダンスCができるだけ小さい電磁弁を使用することが重要であるので、電磁弁3fのみで制御することとした。
【0047】
温度精度を拡大し解析するため、時々刻々と変化する目標温度とその時点での温度のずれをプロットしたものが図9である。バラツキを定量化するためその温度のずれの標準偏差を計算したところ、SD=0.045℃であり、2SDでも0.1℃以内と精度高い温度制御結果であった。
【0048】
[比較例]
比較のために電磁弁3cと3fを使用せず、低流量特性を有する加熱ラインの電磁弁3eのみのON/OFF制御で、前記図7の熱サイクルを実施したところ、図10、図11に示す結果となった。同じくバラツキを定量化するため温度のずれの標準偏差を計算したところ、SD=0.068であり、2SDで約0.14℃と、上記6バルブ仕様に比べて性能が明らかに低下した結果となった。
【0049】
これらのことから熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする本発明の熱サイクル印加装置や方法で、高速な温度遷移と高い温度制御精度の両立が実現される。
【0050】
この核酸増幅装置によれば、核酸増幅を迅速に行うことができ、遺伝子判定、病原菌に対する薬剤選択などを迅速化できるので、産業界に大きく寄与することが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る熱サイクル印加装置は、圧縮ガスを用いてサンプルを高速に温度遷移させることができ、かつ一定温度や一定の温度傾きの制御精度を高めた性能を有するので、サンプルに多数回の熱サイクルを印加する核酸増幅装置としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱サイクル印加装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る熱サイクル例1である。
【図3】図2の拡大図である。
【図4】本発明の熱サイクル例1におけるデータである。
【図5】図4の拡大例である。
【図6】本発明の実施の形態に係る熱サイクル例2である。
【図7】本発明の実施の形態に係る加熱パターン例3である。
【図8】本発明の加熱パターン例3おけるデータである。
【図9】図8の拡大図である。
【図10】従来法の加熱パターン例3おけるデータである。(比較例)
【図11】図10の拡大図である。(比較例)
【符号の説明】
【0053】
1 圧縮ガス源、2 マニホールド、3a、3b、3c、3d、3e、3f 電磁弁、4 冷却コイル、5 ヒータ、6 チャンバ、7 バイパス経路、8 ポンプ、9 マイクロヒュージ管挿入部、21 熱サイクル印加装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、検定サンプルに熱サイクルを印加する方法および熱サイクル印加装置に関し、特に、流体流を利用してサンプルキャリア内の検定サンプルに熱サイクルを印加する方法および熱サイクル印加装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる核酸増幅技術が普及し、広く医学・生物学の研究や臨床診断、環境検査等の分野で高感度な核酸分析が可能となった。このPCRは、2種類のプライマーを用いて特定配列を増幅する手法である。PCRは、2本鎖DNAを第1の温度で解離する変性工程(概ね90〜98℃)、解離した1本鎖DNAに第2の温度でプライマーを結合させるアニーリング工程(概ね50〜70℃)、DNAポリメラーゼ酵素の働きにより第3の温度でプライマーから1塩基ずつ相補鎖を合成する伸張工程(概ね60〜75℃)の3段階の工程を1サイクルとして進行し、1サイクル毎にプライマーに挟まれた特定の核酸領域が2倍に増幅する。そこで、第1〜第3の温度との間を遷移させる熱サイクルをn回繰り返すことによって2のn乗倍のDNAを複製することができる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
また2本鎖DNAの解離する温度が、そのDNAの塩基長に概ね相関がある特徴を利用して、複製したDNAが目的の領域かどうかを検証する手段の1つとして、DNAの複製後に、アニーリング工程の温度付近(概ね50〜70℃)から変性工程の温度付近(概ね90〜98℃)までの間を一定のランプレートでほぼ直線的に温度を増加させていく温度サイクル工程を最低1回行うことが一般的に実施されている。
【0004】
核酸増幅のために核酸を含むサンプルに上記の熱サイクルを印加する方法としては、複数のサンプルを金属製ブロックに格納して金属製ブロックを加熱又は冷却することでサンプルに熱サイクルを印加するブロックサイクル法が一般的である。また高速に温度サイクルを印加するために、筒状空洞内に試料容器を配置し、熱風と冷風の圧縮空気を空洞の片側から交互に噴射させ、加熱及び冷却を行い、一定温度に保持するときは空気を微流量にする高速気相サイクル法も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
しかし、上記従来技術によるシステムには両方とも問題点がある。
まず、ブロックサイクル法は、熱伝達効率が悪く、作動させるのにエネルギーと時間がかかり過ぎ、好ましくない。すなわち熱サイクルを所定回数印加するために要する時間がかかり、核酸増幅のために要する所要時間が長くなる。
【0006】
高速気相サイクル法では、試料容器境界の空気流速が非常に大きく、熱交換効率が高いため、昇温・冷却速度が大きくなり(10〜40℃/sec)、核酸増幅の所用時間が短いが、一方では一定の温度で保持する工程や、一定のランプレートで徐々に加熱していく工程などでは、温度応答があまりに速いため制御温度が一定にならず、目標温度付近を振動し、好ましくない。
【0007】
【非特許文献1】Science、第230巻、第1350頁−第1354頁、1985年
【特許文献1】WO2004/042086
【特許文献2】特表2006−504429
【特許文献3】特願2005−290080
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、熱サイクルを所定回数だけ印加するために要する時間が長くなり、その結果、例えば、サンプルとして核酸を用い、所定の酵素によって核酸増幅を行う場合には、核酸増幅のための所要時間が長くなる。また、高速性を図ろうとすると熱サイクルの各温度精度が悪くなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究の結果、熱サイクルにおいて、圧縮ガスを用いることによって高速で温度遷移させることができると共に、熱サイクル中の一定温度、あるいは一定ランプレートで温度を保持する際に温度精度を高くすることができる熱サイクル印加装置および熱サイクル印加方法を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
1.2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加装置。
2.前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする1の熱サイクル印加装置。
3.さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする1または2の熱サイクル印加装置。
4.さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする1〜3のいずれかの熱サイクル印加装置。
5.流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする1〜4のいずれかの熱サイクル印加装置。
6.前記熱媒体が、気体であることを特徴とする1〜5のいずれかの熱サイクル印加装置。
7.前記熱媒体が、空気であることを特徴とする1〜5のいずれかの熱サイクル印加装置。
8.2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加方法。
9.前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする8の熱サイクル印加方法。
10.さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする8または9の熱サイクル印加方法。
11.さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする8〜10のいずれかの熱サイクル印加方法。
12.流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする8〜11のいずれかの熱サイクル印加方法。
13.前記熱媒体が、気体であることを特徴とする8〜12のいずれかの熱サイクル印加方法。
14.前記熱媒体が、空気であることを特徴とする8〜12のいずれかの熱サイクル印加方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱サイクル印加装置によれば、温度及び流量を制御した熱媒体を用いることによって高速で温度遷移させることができる。また、熱サイクルにおいて、一定温度に保持する場合に、それぞれの熱媒体流の制御に3つ以上の流量特性が異なる高速に切替可能な電磁弁を並列で使用することによって、温度遷移速度を低下させることなく、一定温度や一定傾きの温度制御精度を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る熱サイクル印加装置について添付図面を用いて説明する。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0014】
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態に係る熱サイクル印加装置21の構成を示すブロック図である。この熱サイクル印加装置21は、熱媒体として圧縮ガス源1、マニホールド2、電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3f、冷却コイル4、熱風ヒータ5、チャンバ6を備える。さらに、バイパス経路7を備えていてもよい。この熱サイクル印加装置21では、圧縮ガス源1より供給された圧縮ガスがマニホールド2内に並列に設置された電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fに分配される。圧縮ガスは、マニホールド2内の電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fの後で、冷却ラインと加熱ラインに分割される。冷却ラインでは冷却コイル4を通過して冷却された後、冷風がチャンバ6に供給される。一方、加熱ラインでは熱風ヒータ5を通過して加熱された後、熱風がチャンバ6に供給される。電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fの制御により冷却ライン及び加熱ラインからチャンバ6に供給される圧縮ガスを制御して、チャンバ6内に保持されたサンプルに所定の熱サイクルを印加する。
【0015】
熱サイクルにおいて、高速に温度遷移させる場合でも、一定温度や一定傾きで温度制御する場合でも、熱媒体の温度はチャンバに供給される前に、サンプルの目標温度よりも加熱ラインは高温に、冷却ラインは低温になるように、予めある範囲内に制御しておくことが好ましい。その制御温度は、高速に温度遷移させる場合には、サンプルの目標温度との差が大きい方が遷移速度が上がり有利であるが、反面一定温度や一定傾きで温度制御する場合では、サンプルの目標温度との差が小さい方が温度制御精度が高まり有利であるなど、相反する要求となるため、その最適化が必要である。例えば目標温度が50〜95℃ぐらいの温度サイクルの場合には、熱媒体の温度は、加熱ラインは150〜200℃、冷却ラインは0〜30℃が好ましい。
【0016】
急速に温度を遷移させる場合には、熱媒体の流量というよりも、サンプル境界付近での熱媒体の流速が重要であり、その流速は10〜30m/秒が好ましい。そのためには、各熱媒体ラインに必ず1つは音速コンダクタンスCが大きい、すなわち大流量を流すことが可能な電磁弁を設置するとともに、加熱の場合は電磁弁3a、3b、3cを、冷却の場合は3d、3e、3fを目標温度近くなるまですべて開放し、最大流速を流すような制御が好ましい。またオーバーシュートしないで目標温度に迅速に精度良く到達させるためには、反対方向の電磁弁、すなわち加熱中であれば冷却ラインの電磁弁、冷却中であれば加熱用の電磁弁を使用して、最適にブレーキを掛けることが重要であるが、この場合に使用する電磁弁は、前記の音速コンダクタンスCが大きいものでは制御が振動し不可能である。そこで、音速コンダクタンスCが小さい、すなわち小流量を流すことが可能な電磁弁を各熱媒体ラインに必ず1つ設置して、最適のブレーキを掛けることが必要である。
【0017】
一方、一定温度や一定傾きで温度制御する場合には、熱媒体を微流量にし、あるいは熱媒体の供給を停止させるなど細かなタイミングで制御するほうが温度制御精度を向上できる。そのためには、各熱媒体ラインに必ず1つは音速コンダクタンスCが極めて小さい、すなわち微流量を流すことが可能な電磁弁を設置するとともに、その電磁弁を中心に制御することが好ましい。
【0018】
制御方法は、現在温度と目標温度との上下関係のみで加熱あるいは冷却の電磁弁を全開する、いわゆる2位置制御法は、制御が振動しやすいので好ましくない。現在温度と目標温度との偏差に比例定数を乗じた値を出力値とする、いわゆるP制御(比例制御)が、振動が小さくなり好ましく、さらに振動が小さくなるPID制御(比例積分微分制御)がより好ましい。
【0019】
また本発明では複数の電磁弁を使用するので、制御出力を一元化するため各電磁弁の音速コンダクタンスCと電磁弁の開時間との積を出力指標(以下C×Tと記す)にし、さらに加熱する出力値を正の数、冷却を負の数とすることで、加熱から冷却までの全電磁弁を1つの出力指標C×T値で制御することが可能である。詳細には、電磁弁ごとにC×T値の守備範囲を予め規定しておき、実際にどの電磁弁をどれぐらいの時間開放するかは、まずC×T値により、どの電磁弁が制御対象になるかを判断し、次に出力指標C×T値をその電磁弁のC値で除算して開放時間を決定する。この制御を一定周期毎に繰り返すのだが、この周期を短くすればより細かな制御か可能となり、温度制御精度も高くなる。しかし、実際には電磁弁の応答性に限界があり、あまり短時間の制御には追従しなくなる問題がある。汎用の電磁弁ではその時間が5〜20msecぐらいであるので、このことも考慮すると、制御周期は100〜200msecが好ましい。もちろん応答性の速い特殊な電磁弁を使用する場合には、それ以下の制御周期でも可能であると思われる。
【0020】
本発明の熱サイクル印加装置では、音速コンダクタンスCの異なる複数の電磁弁を並列に配置することで、かつそれぞれの開閉弁の音速コンダクタンスと開時間の積を指標に制御することで、温度遷移速度を低下させることなく、一定温度や一定傾きの温度制御精度を高めることが可能となる。
【0021】
なお、本明細書中では、「チャンバ」もしくは「サンプルチャンバ」という用語は、サンプルを保持でき、所望の温度に変化させた圧縮ガスが送り込まれる部分を示す。また、「サンプル」という用語は、試験サンプル又は検定サンプルを指し、ここでは、検査対象から採取した試料と様々な試験試薬を混合したものである。
【0022】
以下に、この熱サイクル印加装置21の各構成部材について説明する。
【0023】
(圧縮ガス源)
圧縮ガス源1において、熱媒体として用いる圧縮ガスの圧力は0.05MPa〜1.0MPaの範囲内が好ましく、更に好ましくは0.2MPa〜0.5MPaの範囲がよい。圧縮ガスの成分は、特に限定はないが、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどでもよい。特に好ましくは、廃棄およびリサイクルに関する問題を解消することができる空気がよい。また、圧縮ガスを用いることによってサンプルを高速に温度遷移させることができるので、非常に高速に温度変化させる必要があるサンプルでは、ランプ時間が重要な因子であるので、特に有用である。
【0024】
(マニホールド)
圧縮ガスは、マニホールド部2で2種類の流路に分岐される。一方は、冷却ラインであって、熱交換コイル部に導かれ、冷却されてもよい。もしくは、空冷にて冷却されても良い。もう一方は、加熱ラインであって、熱風ヒータ5などにより加熱される。冷却ラインで冷却された圧縮ガスと、加熱ラインで加熱された圧縮ガスは、チャンバ6の入り口部で合流される。この冷却ラインからは、例えば、0℃〜30℃の圧縮ガスと、加熱ラインからは、例えば、150℃〜200℃の圧縮ガスがチャンバ6に入力され、所定の制御タイミングでチャンバ6内に送風される。マニホールド部2に設置された電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fを制御して、圧縮ガスを所望の流量に調整することができる。電磁弁の個数は、冷却用、加熱用それぞれに3種類以上ずつ設置すると良い。なお、設置する電磁弁3a(あるいは3d)、3b(あるいは3e)、3c(あるいは3f)は異なる規格の電磁弁である。好ましくは、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の電磁弁、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar)の電磁弁、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下 dm3/(s・bar)の電磁弁を冷却用と加熱用にそれぞれ1個ずつ設置するのが好ましい。
【0025】
(チャンバ部)
チャンバ6の流体流路部の構造は、断面積が300mm2以下の直方体形状が好ましく、更に好ましくは、断面積が150mm2以下の直方体形状であればよい。チャンバ6の流体流路の外側は、耐熱性に優れた熱伝導度が小さい材料で構成することが好ましく、熱伝導度が0.3W/mK以下の材料で構成することが特に好ましい。マイクロヒュージ管を保持するための挿入部8は、30本以下が好ましく、15本以下が特に好ましい。マイクロヒュージ管の挿入部8は、圧縮ガスの流れる方向に沿って設けることが好ましい。さらに、挿入部8は、千鳥配置に設定するのがよい。ここで、千鳥配置とは、各サンプルを保持する挿入部8が圧縮ガスの流れる方向に沿って配置されると共に、圧縮ガスの流れる方向に対して挿入部8が1本毎にジグザグになるように設けられた配置をいう。また、各マイクロヒュージ管の挿入部8間の間隔は、圧縮ガスの流れる方向に沿った成分として3〜10mmの範囲であればよく、3〜5mmの範囲内で等間隔配置するのが好ましい。
【0026】
(マイクロヒュージ管)
マイクロヒュージ管は、チャンバ6内の一側面に設けられた挿入部9から空洞部に挿入されて保持される。このマイクロヒュージ管は、サンプル溶液部分が完全にチャンバ6内の圧縮ガスが流れる空洞部内に保持されるのが好ましい。更に、マイクロヒュージ管は、チャンバ内壁との距離が0.5mm以上離れている位置に設置できるよう設計されることがさらに好ましい。マイクロヒュージ管の詳細は、内部に空洞がある円筒形状が好ましく、外径φ1〜φ3mm、肉厚が0.2mm〜0.5mmものが好ましい。マイクロヒュージ(microfuge)管は、3μLから30μLの溶液を保持できるものがよい。なお、サンプルとして増幅する核酸が含まれる溶液を用いる場合には、その溶液部分がチャンバ6内の空洞部内に保持されることが好ましい。
【0027】
(バイパス経路)
バイパス経路7を備えることにより、一定温度や一定傾きの温度制御精度をさらに高めることが可能となる。つまり一定温度や一定傾きの温度制御時など通常微小流量では、熱媒体が持つ時間当たりの熱容量が小さくため、サンプル間に温度分布が発生しやすく、サンプル間の温度差が発生する危険がある。かつ温度センサへの熱伝達速度が遅くなり、この遅れにより温度制御がしづらくなり温度制御精度が低下する可能性がある。しかしチャンバ6の出口部から圧縮ガスの一部を回収し、再び入口部に戻すバイパス経路7によって、圧縮ガスを還流させチャンバ6内を攪拌することができるので、サンプル間の温度分布を軽減させ、かつ温度センサへの熱伝達速度が上がり、温度制御精度が向上させることができる。バイパス経路7は、チャンバ6の風下側に設けられたバイパス経路入口と、風上側に設けられたバイパス経路出口とを接続して設けられている。このバイパス経路入口と出口の内径は、φ2mm〜φ10mmが好ましく、φ3mm〜φ6mmが特に好ましい。また、バイパス経路入口と出口の間に、マイクロヒュージ管を保持するための全ての挿入部9が存在させることが好ましい。すなわち、バイパス経路7を接続するためのバイパス経路入口と出口とは、チャンバ6の一側面に設けられたマイクロヒュージ管を保持するための全ての挿入部9を挟んで設けることが好ましい。
【0028】
(圧縮ガス還流用ポンプ)
チャンバ6の出口側から圧縮ガスの一部を入口側に還流させる方法は、チャンバ6の出口側の一部と入口側の一部とを接続するバイパス経路7を介してポンプ8を用いて強制的に還流させることによって実現できる。ここで使用されるポンプ8は、特に限定はないが、逆方向に流量制限がかかる逆止弁などの機構を有することが好ましい。更に好ましくは、ポンプヘッド部が小容量のダイヤフラムポンプがよい。また、ポンプ流量は、1L/min〜20L/minのものが好ましく、更に好ましくは4L/min〜10L/minがよい。
【0029】
チャンバ6内を流れる圧縮ガスの流量がポンプ8の能力範囲内の微少流量の場合には、チャンバ6内の風下側と風上側とを接続するバイパス経路7内のポンプ8の働きにより、循環風量が発生しチャンバ6内を撹拌することができる。このポンプでの攪拌により、サンプル間の温度分布を軽減できるとともに、温度制御精度も高くなる。一方、チャンバ6内の風量がポンプ8の能力を越える大流量の場合には、ポンプ8に設置されている逆止弁の働きによってポンプ8で形成されたバイパス経路7の流量がほぼ0になるので、チャンバ6の流量が低下することはない。つまり、温度を安定化するため微風量が要求される場合は、バイパス経路7が機能して循環風量が発生しチャンバ6内を撹拌することができる。一方、急激な温度変化を要求されている場合は、逆止弁の働きでバイパス経路7が実質的に機能しない状態となって大流量の圧縮ガスがチャンバ6内をそのまま流れてサンプルに急速に温度変化を生じさせることができる。つまりバイパス流路7やポンプ8を設けることで、温度遷移速度を低下させることなく、一定温度や一定傾きの温度制御時の精度を高めることが可能となる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例では、実施の形態に係る熱サイクル印加装置を核酸増幅装置として用いる場合の具体的な例について説明する。この核酸増幅装置は、図1とほぼ同様の構成を有する。各構成部材について以下に説明する。
【0031】
[実施例1]
a)圧縮ガス源1としては、約0.6MPaの施設計装エアーから圧力レギュレータ(SMC製AR425)により0.3MPaに減圧した圧縮空気を入力した。
【0032】
b)マニホールド2は、図1に示す圧縮ガス回路を有し、且つ、電磁弁3a、3b、3c、3d、3e、3fを固定できるようにジュラコンを材料にして加工製作した。電磁弁3a、3dには、高流量特性を有するCKD社製の型番「GFAB41−5−0−12C−3」(音速コンダクタンスC:2.1 dm3/(s・bar))の電磁弁を、電磁弁3b、3eには低流量特性を有するCKD社製の型番「GFAB21−1−0−12C−3」(音速コンダクタンスC:0.31 dm3/(s・bar))の電磁弁を、電磁弁3c、3fには微流量特性を有するCKD社製の型番「GFAB11−Z−0−12C−3」(音速コンダクタンスC:0.15 dm3/(s・bar))の電磁弁を選定し、マニホールド2に設置した。
【0033】
これらの電磁弁を使用した温度制御方法に関して以下に説明する。温度制御周期は100msecとした。制御出力は音速コンダクタンスCと電磁弁開時間の積を指標にする。具体的には一番小さい加熱ラインの電磁弁3fが全開のとき、すなわち100msec開放のときの積0.015s*( dm3/(s・bar))を100%とし、冷却ラインの同インピーダンスの電磁弁3cが全開のとき、-100%とし符号を付加した。他の電磁弁の出力はそれぞれの音速コンダクタンスCで補正し、表1のように決定した。電磁弁の制御に関しては、現在温度と目標温度との偏差に比例常数Pあるいは積分微分補正したP’を乗算し電磁弁の出力%に変換する。さらに算出された出力%の範囲によりどの電磁弁を選択するかは、表1の電磁弁の守備範囲に示した基準で決定する。表1では電磁弁1個使用を原則としたが、もちろん同一ラインの電磁弁であれば2個3個複数使用でも問題はないと考えている。ただし別ラインの電磁弁との複数使用はエネルギー効率が悪くなるので好ましくない。また急激な温度遷移の場合には、同一のラインの電磁弁をすべて開放したほうが遷移速度は向上する。
【0034】
加熱能力と冷却能力が異なる場合はその能力比を考慮して、どちらのラインの出力%をその比で補正するとさらに好ましい。
【0035】
【表1】
【0036】
c)冷却コイル4には、内径φ5mmの銅管を約5m使用し、巻径約200mmのらせん状に巻いたものを使用した。その冷却コイル4を氷水中に浸漬して熱交換を行った。
【0037】
d)ヒータ5には、竹綱製作所製SH1A(800W/100V)を使用し、熱風の温度を180℃に制御してチャンバ6に供給した。
【0038】
e)チャンバ6は、テフロン(登録商標)を材料にして加工製作した。その空洞部は高さ20mm、幅6mm、長さ100mmの直方体形状とし、マイクロヒュージ管をチャンバ6の上部から挿入し、底面から約1mm離して風向に対して中央36mm内に13本を千鳥配置になるように設置できる構造とした。
【0039】
f)チャンバ6の空洞部の風下端から10mmの位置に設けられた内径4mmのバイパス入口と、風上端から10mmの位置に設けられた内径4mmのバイパス出口を接続するバイパス経路7を設けた。このバイパス経路7内には、ポンプ8を設けた。ポンプ8は、榎本マイクロポンプ製MV−600Gのダイヤフラム型空気ポンプを使用し、ガス流量は約6L/minであった。このバイパス経路7によって、チャンバ6内を流れる圧縮空気が微少流量又は停止状態の際には、チャンバ6内の空気を撹拌することができる。
【0040】
この実施例1では、図2に示すように、
i)加熱して98℃にする
ii)最初のサイクルのみ98℃で約15秒間保持する
iii)加熱して98℃にする
iv)98℃から70℃に冷却する。
v)70℃で約5秒間保持する。
という熱サイクルでiii〜vの熱サイクルを34回繰り返して印加した。また、図3は、図2の最初の部分拡大図である。
【0041】
このときの温度変動を測定すると、図4に示すような結果となった。図4の部分拡大図を図5に示す。全所用時間は4分45秒、70℃での温度制御時の標準偏差は約0.14℃であり、高速な温度遷移を実現し、かつ良好な温度制御精度を実現している。
【0042】
[実施例2]
なお、ここでは図3に示すような熱サイクルを印加したが、熱サイクルとしては上記の場合に限られず、例えば、図6に示すような熱サイクルも印加することができる。図6の熱サイクルでは、
i)加熱して90℃にする
ii)最初のサイクルのみ90℃で約15秒間保持する
iii)加熱して90℃にする。
iv)90℃から60℃に遷移させる。
v)60℃で3秒間保持する。
vi)60℃から72℃に遷移させる。
vii)72℃で3秒間保持する。
という熱サイクルを複数回にわたって印加する場合の最初の部分拡大図を示している。この熱サイクルでは、図3の熱サイクルと比較すると、第1の温度(90℃)、第2の温度(60℃)に加えて、第3の温度(72℃)での工程を設けている。このように、使用する酵素が働く温度に応じて熱サイクルを構成する温度を選択すればよい。また、この熱サイクルの回数は、サンプルに応じて適宜選択すればよい。例えば、核酸増幅がおよそ109(=230倍)倍程度必要な場合には、30サイクル程度行えばよい。
【0043】
[実施例3]
次に、2本鎖核酸の解離温度が核酸の長さに相関する性質を利用して増幅した核酸の増幅長を解析する、いわゆる融解曲線解析とよばれる手法においての温度印加方法について具体的に説明する。
【0044】
2本鎖核酸が解離したことを蛍光量の変化により検知する試薬システムおよび光学システムを採用して、図7に示すように、
i)加熱して70℃にする
ii)70℃で約5秒間保持する
iii)徐々に加熱して傾き0.2℃/秒で95℃に昇温する
という熱パターンを印加しながら、蛍光量が変化する最大点(変曲点)の温度を計測するのが、融解曲線解析である。この場合蛍光量が一方では温度に対して非常に敏感に変動するため、このときの温度制御精度を高めることが解析精度を向上させるのに重要である。
実施例においての温度変動を測定すると、図8に示すような結果となった。
【0045】
このように温度をある小さな一定傾きに沿って昇温する場合は、一定温度に維持する方法とは異なる制御方法が有効である。すなわち一定温度制御の場合には冷却ラインおよび加熱ラインに設置した低流量および微流量特性の電磁弁2個のON/OFFを利用して冷風や熱風双方で制御するほうが好ましいが、ある小さな一定傾きで昇温させる場合は、加熱ラインに設置した微流量の電磁弁1個のON/OFFのみで制御するほうが好ましい。
【0046】
すなわち基本的な制御方法は実施例1に記載の方法と同じであるが、目標温度が一定ではなく、時間とともに直線的に増加させる、つまり1周期毎に目標温度を一定値増加させる必要がある。さらにこのように一定傾きで昇温させる場合は、冷却能力が高くなるため実際の出力%を計算するときに大きく出力を減少させる係数を乗算する必要があり、検討を進めた結果、補正係数がほぼ0、つまり冷却ラインのバルブは使用しないほうが温度の振動がなく制御精度が高い結果となった。またこの場合は加熱でのオーバーシュートを防止する目的で加熱能力も極力低くなるように、音速インピーダンスCができるだけ小さい電磁弁を使用することが重要であるので、電磁弁3fのみで制御することとした。
【0047】
温度精度を拡大し解析するため、時々刻々と変化する目標温度とその時点での温度のずれをプロットしたものが図9である。バラツキを定量化するためその温度のずれの標準偏差を計算したところ、SD=0.045℃であり、2SDでも0.1℃以内と精度高い温度制御結果であった。
【0048】
[比較例]
比較のために電磁弁3cと3fを使用せず、低流量特性を有する加熱ラインの電磁弁3eのみのON/OFF制御で、前記図7の熱サイクルを実施したところ、図10、図11に示す結果となった。同じくバラツキを定量化するため温度のずれの標準偏差を計算したところ、SD=0.068であり、2SDで約0.14℃と、上記6バルブ仕様に比べて性能が明らかに低下した結果となった。
【0049】
これらのことから熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする本発明の熱サイクル印加装置や方法で、高速な温度遷移と高い温度制御精度の両立が実現される。
【0050】
この核酸増幅装置によれば、核酸増幅を迅速に行うことができ、遺伝子判定、病原菌に対する薬剤選択などを迅速化できるので、産業界に大きく寄与することが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る熱サイクル印加装置は、圧縮ガスを用いてサンプルを高速に温度遷移させることができ、かつ一定温度や一定の温度傾きの制御精度を高めた性能を有するので、サンプルに多数回の熱サイクルを印加する核酸増幅装置としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱サイクル印加装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る熱サイクル例1である。
【図3】図2の拡大図である。
【図4】本発明の熱サイクル例1におけるデータである。
【図5】図4の拡大例である。
【図6】本発明の実施の形態に係る熱サイクル例2である。
【図7】本発明の実施の形態に係る加熱パターン例3である。
【図8】本発明の加熱パターン例3おけるデータである。
【図9】図8の拡大図である。
【図10】従来法の加熱パターン例3おけるデータである。(比較例)
【図11】図10の拡大図である。(比較例)
【符号の説明】
【0053】
1 圧縮ガス源、2 マニホールド、3a、3b、3c、3d、3e、3f 電磁弁、4 冷却コイル、5 ヒータ、6 チャンバ、7 バイパス経路、8 ポンプ、9 マイクロヒュージ管挿入部、21 熱サイクル印加装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加装置。
【請求項2】
前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする請求項1に記載の熱サイクル印加装置。
【請求項3】
さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱サイクル印加装置。
【請求項4】
さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項5】
流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項6】
前記熱媒体が、気体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項7】
前記熱媒体が、空気であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項8】
2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加方法。
【請求項9】
前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする請求項8に記載の熱サイクル印加方法。
【請求項10】
さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする請求項8または9に記載の熱サイクル印加方法。
【請求項11】
さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項12】
流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項13】
前記熱媒体が、気体であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項14】
前記熱媒体が、空気であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項1】
2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加装置。
【請求項2】
前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする請求項1に記載の熱サイクル印加装置。
【請求項3】
さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱サイクル印加装置。
【請求項4】
さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項5】
流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項6】
前記熱媒体が、気体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項7】
前記熱媒体が、空気であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱サイクル印加装置。
【請求項8】
2つ以上の熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、前記複数の熱媒体供給手段から供給された熱媒体を1つに集合し入口側から出口側に流す空洞部分と、前記熱媒体の流れの方向に沿って複数のサンプルを前記空洞部分に保持するサンプル保持部を有するチャンバとを備えた熱サイクル印加装置において、熱媒体の供給を制御するために、流量特性が異なる開閉弁を1つの熱媒体につき並列に3つ以上有することを特徴とする熱サイクル印加方法。
【請求項9】
前記開閉弁が電気的に開閉制御可能な電磁弁であることを特徴とする請求項8に記載の熱サイクル印加方法。
【請求項10】
さらに、チャンバとは別体として並列に設けられ、該チャンバの出口側の一部と入り口の一部とに接続され、該チャンバの該出口側から熱媒体の一部を該入り口側に還流させるバイパス経路を備えたことを特徴とする請求項8または9に記載の熱サイクル印加方法。
【請求項11】
さらに、流量特性が異なる開閉弁を、それぞれの開閉弁の音速コンダクタンスCと開時間の積を指標に制御する機構を備えたことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項12】
流量特性が異なる開閉弁が、音速コンダクタンスCが0.1以上0.2以下dm3/(s・bar)の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが0.2以上0.5以下 dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択され、音速コンダクタンスCが1.5以上3.5以下dm3/(s・bar) の開閉弁から少なくとも一つ選択されることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項13】
前記熱媒体が、気体であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【請求項14】
前記熱媒体が、空気であることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の熱サイクル印加方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−199901(P2008−199901A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35977(P2007−35977)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
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