説明

熱レンズ分光分析システム及び熱レンズ信号補正方法

【課題】 外部環境変化により熱レンズ信号強度が変化しても試料を正確に測定することができる熱レンズ分光分析システム及び熱レンズ信号補正方法を提供する。
【解決手段】 熱レンズ分光分析システム10は、中に液中試料が注入された溝1を有するマイクロ化学チップ2と、液体試料に光ファイバー5を介して光源ユニット7から伝播された励起光及び検出光を集光して熱レンズ信号を生成する屈折率分布型ロッドレンズ3と、励起光及び検出光の光量と熱レンズ信号強度を検出する光電変換器22と、熱レンズ信号強度の測定値、(励起光の所定光量/励起光の測定光量)、及び/又は第2の比(検出光の所定光量/検出光の測定光量)を積算することにより熱レンズ信号強度の測定値を補正するパーソナルコンピュータ25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱レンズ分光分析システム及び熱レンズ信号補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学反応の高速化や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から、化学反
応を微小空間で行うための集積化技術が注目されており、そのため研究が精力的に進めら
れている。
【0003】
このような集積化技術の1つとして、マイクロ化学チップを用いて、液体試料の混合、
反応、分離、抽出、検出等を行う熱レンズ分光分析システムがある。
【0004】
例えば、図4に示すように、熱レンズ分光分析システム1000は、流路内に液中試料が満たされた流路付き板状部材120と、流路付き板状部材120の上方に配設され、先端にレンズを取り付けたレンズ付き光ファイバー100と、レンズ付き光ファイバー100に接続され、流路付き板状部材120の流路内の液中試料に励起光を照射すると共に、当該照射された励起光によって液中試料に生成される熱レンズに検出光を照射する光源ユニット110と、流路付き板状部材120の下方に配設され、励起光によって流路付き板状部材120の流路内の液中試料に生成された熱レンズを介して検出光を検出する検出装置130とを備える。
【0005】
レンズ付き光ファイバー100は、レンズ102と、一端がレンズ102に接続され、他端が光源ユニット110に接続される光ファイバー101と、光ファイバー101をフェルール103を介して固定するスリーブ104とから成る。
【0006】
光源ユニット110は、励起光を出力する励起光用光源105と、励起光用光源105
に接続され、励起光用光源105から出力される励起光を変調するモジュレーター107と、検出光を出力する検出光用光源106と、励起光用光源105及び検出光用光源106に夫々光ファイバー114を介して接続され、且つレンズ付き光ファイバー100の光ファイバー101に接続され、励起光用光源105から出力される励起光及び検出光光源106から出力される検出光を合波して光ファイバー101に合波したこれらの励起光及び検出光を夫々入射させる光合波器108とから成る。
【0007】
流路付き板状部材120は、レンズ付き光ファイバー100側から順に3層に重ねて接着された上部ガラス基板201、中部ガラス基板202、及び下部ガラス基板203から成る。流路付き板状部材120の中間層である中部ガラス基板202には、熱レンズ分光分析システム1000により液中試料の混合、攪拌、合成、分離、抽出、及び検出等の操作の際に液中試料を流す流路204を有する。
【0008】
検出装置130は、流路付き板状部材120の流路204に面する位置であって、レ
ンズ付き光ファイバー100に対向する位置に配設され、合波された励起光及び検出光を
分離して検出光のみを選択的に透過させる波長フィルター402と、波長フィルター402の下側であって、流路204に面する位置に配設された検出光を検出するための光電変
換器401と、光電変換器401にロックインアンプ404を介して接続されたコンピュ
ータ405とから成る(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この熱レンズ分光分析システム1000において、温度変化等の外部環境変化の影響を受けて、励起光用光源105及び検出光用光源106から出力された励起光及び検出光の光量が変化したり、光合波器108の損失が変化したり、熱レンズ分光分析システム1000が載置されたステージ(不図示)の膨張等に起因して、レンズ102と流路付き板状部材120との位置ずれやレンズ102と光電変換器401との位置ずれが発生したりしていた。
【0010】
これにより、熱レンズを形成するために流路204内の液中試料に入射される励起光の光量が変化したり、光電変換器401に入射される検出光の光量が変化したりすることがある。
【0011】
また、熱レンズ分光分析システム1000によって実行される熱レンズ分光分析法は、通常、アナログ測定であるので、上述した流路204内の液中試料に入射される励起光の光量変化及び光電変換器401に入射される検出光の光量変化は、最終的に測定される熱レンズ信号の強度変化となって表れ、熱レンズ信号強度測定における再現性が低下していた。
【0012】
熱レンズ信号強度測定における再現性を高めるために、光源ユニット110にペルチェ素子等の電子部品を付加して温度を制御したり、熱レンズ分光分析システム1000の測定環境を厳密に温度管理したりすることにより、熱レンズ信号強度測定における再現性低下の根本的な原因である温度変化等の外部環境変化を取り除くことが考えられるが、この場合、ペルチェ素子等の電子部品の付加による熱レンズ分光分析システム1000の大型化及びコスト増大や、測定環境の汎用性欠如等の問題がある。
【0013】
よって、流路204内の液中試料に入射される励起光の光量変化及び光電変換器401に入射される検出光の光量変化に応じて熱レンズ信号強度を補正することが考えられる。既に、2つの感光検出器(photo-sensitive detector)を用いて、測定されたレーザー光の光量を補正する輻射熱センサーが開示されている(例えば、特許文献2参照)。この輻射熱センサーのような光ファイバーを使用しない空間光学系においては、光路途中に設置したフィルター等により光を分岐させることができるので、この分岐光の光量に基づいてレーザー光の光量を容易に補正することができる。
【特許文献1】特開2002−365252号公報
【特許文献2】米国特許第5513006号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、光ファイバーを使用する熱レンズ分光分析システムにおいては、光が光ファイバー内に閉じ込められているので、光を分岐させるには特殊な分岐モジュールが必要となり、分岐光を容易に検出することができない。特に、可視領域光を分岐する分岐モジュールは、分岐モジュール自体が温度変化の影響を受け易く、光の分岐比が変動してしまうものが多い。よって、熱レンズ信号強度を補正するための分岐光検出において、光の分岐比の変化分を検出しているのか、励起光及び検出光の光量変化を検出しているのかを区別することができない。
【0015】
また、熱レンズ分光分析システムは、励起光及び検出光の2種の光を用いているため、励起光及び検出光の光量を検出するためには少なくとも2つの検出器が必要となり、熱レンズ分光分析システムが大型化してしまう。
【0016】
また、光合波器108の損失を補正するためには、励起光及び検出光が合波した後に光量を検出する必要があるが、光ファイバー内で合波した励起光及び検出光を分離して検出するのは難しい。
【0017】
本発明の目的は、外部環境変化により熱レンズ信号強度が変化しても試料を正確に測定することができる小型の熱レンズ分光分析システム及び熱レンズ信号補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、請求項1記載の熱レンズ分光分析システムは、内部に液体試料が注入された溝を有するチップと、前記液体試料に光伝送経路を介して光源から伝播された励起光及び検出光を集光して熱レンズ信号を生成する対物レンズとを備える熱レンズ分光分析システムにおいて、前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定部と、前記熱レンズ信号の強度を測定する熱レンズ信号強度測定部と、前記励起光の所定光量と前記測定された励起光の光量との第1の比、及び前記検出光の所定光量と前記測定された検出光の光量との第2の比を算出する比算出部と、前記測定された熱レンズ信号の強度、前記第1の比、及び/又は前記第2の比を積算することにより前記測定された熱レンズ信号の強度を補正する熱レンズ信号強度検出補正部とを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項2記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項1記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定部は1つの検出器から成ることを特徴とする。
【0020】
請求項3記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項1記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定部と、前記熱レンズ信号の強度を測定する熱レンズ信号強度測定部とは、1つの検出器から成ることを特徴とする。
【0021】
請求項4記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項2又は3記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記励起光のみを透過する励起光透過フィルター及び前記検出光のみを透過する検出光透過フィルターが入れ替え可能に設置された光透過フィルターを備え、前記検出器は前記光透過フィルターを透過した励起光及び検出光の光量を測定することを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記検出器の出力値に基づいて前記熱レンズ信号の強度を補正することを特徴とする。
【0023】
請求項6記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項5記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記検出器の出力値は電流値であることを特徴とする。
【0024】
請求項7記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項5記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記検出器の出力値は電圧値であることを特徴とする。
【0025】
請求項8記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項7記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記電圧値を測定する音声入力端子を備えることを特徴とする。
【0026】
請求項9記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記光伝送経路は光ファイバーであることを特徴とする。
【0027】
請求項10記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記対物レンズはロッドレンズであることを特徴とする。
【0028】
請求項11記載の熱レンズ分光分析システムは、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システムにおいて、前記熱レンズ信号は高速フーリエ変換処理によって得られることを特徴とする。
【0029】
請求項12記載の熱レンズ信号補正方法は、チップにおける溝内部に注入された液体試料に励起光及び検出光を照射することにより生成した熱レンズ信号を補正する熱レンズ信号補正方法において、前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定ステップと、前記熱レンズ信号の強度を測定する熱レンズ信号強度測定ステップと、前記励起光の所定光量と前記測定された励起光の光量との第1の比、及び前記検出光の所定光量と前記測定された検出光の光量との第2の比を算出する比算出ステップと、前記測定された熱レンズ信号の強度、前記第1の比、及び/又は前記第2の比を積算することにより前記測定された熱レンズ信号の強度を補正する熱レンズ信号強度検出補正ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1記載の熱レンズ分光分析システム及び請求項12記載の熱レンズ信号補正方法によれば、測定された熱レンズ信号の強度、励起光の所定光量と測定された励起光の光量との第1の比、検出光の所定光量と測定された検出光の光量との第2の比を積算することにより測定された熱レンズ信号の強度を補正するので、外部環境変化により熱レンズ信号強度が変化しても試料を正確に測定することができる。
【0031】
請求項2記載の熱レンズ分光分析システムによれば、測定された熱レンズ信号の強度を補正するために用いる、励起光の光量及び検出光の光量を1つの検出器で測定するので、熱レンズ分光分析システムを小型化することができる。
【0032】
請求項3記載の熱レンズ分光分析システムによれば、励起光の光量及び検出光の光量に加えて、熱レンズ信号の強度を1つの検出器で測定するので、熱レンズ分光分析システムの構造を簡単にして、より小型化することができる。
【0033】
請求項4記載の熱レンズ分光分析システムによれば、励起光のみを透過するフィルター及び検出光のみを透過するフィルターを入れ替えて励起光の光量及び検出光の光量を測定する機構であるので、検出器の構造を簡単にして熱レンズ分光分析システムをさらに小型化することができると共に、励起光及び検出光の光量変化を確実に測定して熱レンズ信号を確実に補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳説する。
【0035】
図1は、本発明の実施の形態に係る熱レンズ分光分析システムの構成を概略的に示す図である。
【0036】
図1において、熱レンズ分光分析システム10は、中に液中試料が注入された溝1を有するマイクロ化学チップ2と、溝1の上方においてマイクロ化学チップ2上に所定間隔を介して配設され、後述する光ファイバー5から伝播された光を溝1に集光して熱レンズ信号を生成する円柱状のセルフォック(登録商標)等の屈折率分布型ロッドレンズ3と、屈折率分布型ロッドレンズ3の上方に配設され、屈折率分布型ロッドレンズ3に光を伝播する可視光用シングルモードの光ファイバー5と、光ファイバー5を保持するフェルール4と、屈折率分布型ロッドレンズ3を固定すると共に光ファイバー5をフェルール4を介して固定するスリーブ6と、光ファイバー5に接続され、光ファイバー5を介してマイクロ化学チップ2の溝1内の液中試料に励起光を照射すると共に、当該照射された励起光によって液中試料に生成される熱レンズに検出光を照射する光源ユニット7と、マイクロ化学チップ2の下方に配設され、光源ユニット7から照射された励起光によってマイクロ化学チップ2の溝1内の液中試料に生成された熱レンズを介して検出光を検出する検出装置8とを備える。
【0037】
マイクロ化学チップ2は、熱レンズ分光分析システム10により液中試料の混合、攪拌
、合成、分離、抽出、及び検出等の操作の際に液中試料を流す溝1を有している。
【0038】
マイクロ化学チップ2の材料は耐久性、耐薬品性の面からガラスが望ましく、さらに、
細胞等の生体試料、例えばDNA解析用としての用途を考慮すると、耐酸性、耐アルカリ
性の高いガラス、具体的には、硼珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ硼珪酸ガラ
ス、及び石英ガラス等が好ましい。しかし、用途を限定することによってプラスチック等
の有機物を用いることもできる。
【0039】
光源ユニット7は、励起光を出力する励起光用光源14と、励起光用光源14に接続さ
れ、励起光用光源14から出力される例えば波長658nmの励起光を例えば1kHzの周期でOn、Offするように変調する変調器15と、例えば波長785nmの検出光を出力する検出光用光源16と、励起光用光源14及び検出光用光源16に夫々光ファイバー17,18を介して接続され、且つ光ファイバー5に接続された、励起光用光源14から出力される励起光及び検出光光源16から出力される検出光を合波して光ファイバー5に合波したこれらの励起光及び検出光を夫々入射させる合波器19とから成る。
【0040】
光源ユニット7においては、合波器19の代わりにダイクロイックミラーを用いて励起
光用光源14から出力される励起光及び検出光用光源16から出力される検出光を合波し
、光ファイバー5に合波したこれらの励起光及び検出光を入射させてもよい。
【0041】
検出装置8は、光の一部のみを透過させるピンホール20aが形成された透過部材20と、マイクロ化学チップ2の溝1に面する位置であって、光ファイバー5に対向する位置に配設され、合波された励起光及び検出光を分離して選択的に透過させるフィルター21と、フィルター21の下側であって、溝1に面する位置に配設され、励起光及び検出光の光量及び熱レンズ信号強度を検出するための光電変換器(シリコンフォトダイオード)22(検出器)と、光電変換器22にIVアンプ(電流−電圧変換アンプ)23及び電圧計24を介して接続されたパーソナルコンピュータ(PC)25(熱レンズ信号強度検出補正部)とから成る。電圧計24はIVアンプ23とPC25との間に挿入してもよいし、独立してIVアンプ23と接続してもよい。この場合、IVアンプ23とPC25は直接接続される。光電変換器22から得られた信号は、次いで、PC25において分析される。
【0042】
図2は、図1における検出装置の構成を概略的に示す図である。
【0043】
図2において、フィルター21は、波長658nmの励起光のみを透過するバンド幅20nm、直径12.5mmφの励起光用バンドパスフィルター30と、波長785nmの検出光のみを透過するバンド幅20nm、直径12.5mmφの検出光用バンドパスフィルター31とを備え、これらのバンドパスフィルター30,31は、左右入替方式、回転方式、抜き取り方式等によって入れ替え可能な構成となっている。
【0044】
なお、熱レンズ信号強度の測定は、検出光用バンドパスフィルター31が、透過部材20に形成されたピンホール20aに対向する位置に配設された状態(図2)で、IVアンプ23の出力信号を電圧計24を介してPC25に入力させることによって行われる。また、PC25への出力信号の入力はDAコンバーター(不図示)又は音声入力端子(不図示)を介して行われる。PC25に入力された出力信号は、高速フーリエ変換(FFT)処理が施されて熱レンズ信号として検出される。
【0045】
以下、熱レンズ分光分析システム10における励起光及び検出光の光量変化と熱レンズ信号の強度変化との関係について説明する。
【0046】
熱レンズ分光分析法では検出対象物質が吸収した光の量を熱レンズ現象を介して測定しているため、熱レンズ信号のみから物質の量(濃度)を直接計算することはできない。そのため、検出対象物質が種々の既知濃度で含まれている種々の試料溶液の熱レンズ信号を測定し、それに基づいて引いた検量線を使用することで、未知濃度の試料溶液に含まれる検出対象物質の濃度を計算することになる。この場合、検量線を引いたときの測定結果との比によって濃度を決定するため、検量線を引いたときと同じ条件で未知濃度の試料溶液の熱レンズ信号を測定することが重要となる。
【0047】
しかしながら、温度変化等の外的環境変化の影響により、励起光光源及び検出光光源から出力される光量が変化したり、光合波器108の損失(励起光及び検出光それぞれにおいて、合波器に入力する光量と出力される光量の比)が変化したり、レンズ102、板状部材120、及び光電変換器401の相対位置がずれたりすることによる熱レンズ信号強度の変動が発生する。このような変動が発生し、検量線を測定したときと異なる条件で未知濃度の試料溶液を測定した場合、熱レンズ信号強度に外的変動要因による変化分が含まれてしまうため、正確な濃度を得ることができない。よって、外的環境変化の影響によって変化した熱レンズ信号強度を、検量線を測定した条件で測定した場合の値へ補正することが必要となる。
【0048】
図3は、図1の熱レンズ分光分析システム10における励起光及び検出光の光量変化と熱レンズ信号強度変化との関係を示す図であり、(a)は励起光の光量のみが変化した場合における励起光測定強度と熱レンズ信号強度との関係を示す図であり、(b)は検出光の光量のみが変化した場合における検出光測定強度と熱レンズ信号強度との関係を示す図であり、(c)は励起光の光量及び検出光の光量が同時に変化した場合における励起光及び検出光の測定強度の積算値と熱レンズ信号強度との関係を示す図である。
【0049】
図3(a)において、縦軸は熱レンズ信号強度(mV)を示し、横軸は励起光の測定光量を表すIVアンプ23の出力(第1のIV出力)(V)を示し、熱レンズ信号強度(mV)は第1のIV出力(V)と比例する。また、図3(b)において、縦軸は熱レンズ信号強度(mV)を示し、横軸は検出光の測定光量を表すIVアンプ23の出力(第2のIV出力)(V)を示し、熱レンズ信号強度(mV)は第2のIV出力(V)と比例する。即ち、励起光及び検出光のうちいずれか1つの光量が変化した場合、熱レンズ信号強度(mV)は第1又は第2のIV出力(V)と比例する。
【0050】
ここで、励起光又は検出光の光量が変化した場合の熱レンズ信号強度の補正方法を説明する。例えば、検量線を引いたときに用いた励起光の所定光量測定値が2.4Vで、未知濃度の試料溶液を測定したときの励起光の光量測定値が2.2V、熱レンズ信号強度が3.1mVであったとする。この場合、このままの熱レンズ信号強度で検量線に照らし合わすと、得られる濃度は励起光の光量低下分だけ低い値となってしまう。よって、励起光の光量変化分に鑑み、未知試料溶液の熱レンズ信号強度を3.4mVに補正する。ここで、3.4mVは、未知濃度の試料溶液での熱レンズ信号強度の測定値に対して、第1の比(励起光の所定光量測定値/励起光の測定光量測定値)を乗じた値、即ち、3.1×(2.4/2.2)より算出された値である。
【0051】
検出光の光量変化についても同様の方法で、熱レンズ信号強度を補正する。
【0052】
図3(c)において、縦軸は熱レンズ信号強度(mV)を示し、横軸は第1のIV出力(V)と第2のIV出力(V)の積算値を示すが、この積算値は熱レンズ信号強度(mV)と比例している。即ち、励起光及び検出光の光量が変化した場合、熱レンズ信号強度(mV)は第1のIV出力(V)と第2のIV出力(V)の積算値と比例している。
【0053】
一般的に、熱レンズ信号強度は試料に入射する励起光強度又は検出光強度と比例することが知られている。しかしながら、励起光と検出光の光量が同時に変化した場合、それぞれの光量と熱レンズ信号強度との間にどのような関係があるかは分かっていなかった。そこで検討を重ねた結果、図3(c)で示したように、励起光の測定光量強度と検出光の測定光量強度を乗じた値と熱レンズ信号強度が比例していることを見出した。
【0054】
ここで励起光及び検出光の光量が同時に変化した場合の熱レンズ信号強度の補正方法を説明する。例えば、検量線を引いたときに用いた励起光の所定光量測定値が2.5V、検出光の所定光量測定値が5.4V、未知濃度の試料溶液を測定したときの励起光の光量測定値が2.2V、検出光の光量測定値が4.8Vで熱レンズ信号強度が2.75mVであったとする。この場合、このままの熱レンズ信号強度で検量線に照らし合わすと、得られる濃度は励起光及び検出光の光量低下分低い値となってしまう。よって、励起光及び検出光の光量変化分に鑑み、未知濃度の試料溶液の熱レンズ信号強度を3.5mVへ補正する。ここで、3.5mVは、未知濃度の試料溶液での熱レンズ信号強度の測定値に対して、第1の比(励起光の所定光量測定値/励起光の測定光量測定値)及び第2の比(検出光の所定光量測定値/検出光の測定光量測定値)の積算値を乗じた値、即ち、2.75×(2.5/2.2)×(5.4/4.8)より算出された値である。
【0055】
以上の説明では未知濃度の試料を測定したときの励起光及び検出光の光量(測定光量)が、検量線を測定したときの光量(所定光量)よりも低くなった場合を説明したが、測定光量が所定光量よりも高くなった場合も同じ式で同様に計算される。
【0056】
本実施の形態によれば、熱レンズ信号強度の測定値、第1の比(励起光の所定光量/励起光の測定光量)、及び第2の比(検出光の所定光量/検出光の測定光量)を積算することにより熱レンズ信号強度の測定値を補正するので、外部環境変化により熱レンズ信号強度が変化しても試料を正確に測定することができる。
【0057】
本実施の形態によれば、励起光及び検出光の光量測定と熱レンズ信号の測定を1つの光電変換器22(検出器)にて行っているため、熱レンズ分光分析システム10に必要な検出器は1つだけとなり、熱レンズ分光分析システム10を簡単にして小型化することができる。また、励起光及び検出光の光量変化を励起光及び検出光が試料を透過した後に測定しているため、光伝送経路である光ファイバーの途中に測定光学系を入れる必要がなく、熱レンズ分光分析システム10を簡単にして小型化することができると共に、正確に励起光及び検出光の光量変化を測定することができる。
【0058】
本実施の形態によれば、励起光及び検出光の光量測定をいずれか一方の光のみが透過するバンドパスフィルター30,31を用いることで行っているため、熱レンズ分光分析システム10に用いられている検出装置8に2つのフィルターを入れ替える機構を付加することのみで補正が可能となるので、熱レンズ分光分析システム10を簡単にして小型化することができる。
【0059】
本実施の形態では、励起光及び検出光のいずれか一方の光のみを透過するフィルターとしてバンドパスフィルター30,31を用いたが、逆に励起光及び検出光のいずれか一方の光のみを遮断するフィルターでもよく、ノッチフィルター、エッジフィルター等を用いてもよい。
【0060】
本実施の形態では、屈折率分布型ロッドレンズ3が溝1の上方においてマイクロ化学チップ2上に所定間隔を介して配設されているが、これに限定されるものではなく、マイクロ化学チップ2上に載置されていてもよく、またマイクロ化学チップ2上に接着されていてもよい。
【0061】
本実施の形態では、IVアンプ23の出力電圧値を電圧計24により読み取っているが、これに限定されるものではなく、音声入力端子への入力値を測定することによって電圧値を測定してもよい。これにより、電圧計24をIVアンプ23及びPC間に設置する必要をなくすことができる。
【0062】
本実施の形態では、透過部材20が設けられているが、これに限定されるものではなく、透過部材20が設けられていなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱レンズ分光分析システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】図1における検出装置の構成を概略的に示す図である。
【図3】図1の熱レンズ分光分析システムにおける励起光及び検出光の光量変化と熱レンズ信号強度変化との関係を示す図であり、(a)は励起光の光量のみが変化した場合における励起光測定強度と熱レンズ信号強度との関係を示す図であり、(b)は検出光の光量のみが変化した場合における検出光測定強度と熱レンズ信号強度との関係を示す図であり、(c)は励起光の光量及び検出光の光量が同時に変化した場合における励起光及び検出光の測定強度の積算値と熱レンズ信号強度との関係を示す図である。
【図4】従来の熱レンズ分光分析システムの構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 溝
2 マイクロ化学チップ
3 屈折率分布型ロッドレンズ
5 光ファイバー
7 光源ユニット
10 熱レンズ分光分析システム
22 光電変換器
25 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体試料が注入された溝を有するチップと、前記液体試料に光伝送経路を介して光源から伝播された励起光及び検出光を集光して熱レンズ信号を生成する対物レンズとを備える熱レンズ分光分析システムにおいて、前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定部と、前記熱レンズ信号の強度を測定する熱レンズ信号強度測定部と、前記励起光の所定光量と前記測定された励起光の光量との第1の比、及び前記検出光の所定光量と前記測定された検出光の光量との第2の比を算出する比算出部と、前記測定された熱レンズ信号の強度、前記第1の比、及び/又は前記第2の比を積算することにより前記測定された熱レンズ信号の強度を補正する熱レンズ信号強度検出補正部とを備えることを特徴とする熱レンズ分光分析システム。
【請求項2】
前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定部は1つの検出器から成ることを特徴とする請求項1記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項3】
前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定部と、前記熱レンズ信号の強度を測定する熱レンズ信号強度測定部とは、1つの検出器から成ることを特徴とする請求項1記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項4】
前記励起光のみを透過する励起光透過フィルター及び前記検出光のみを透過する検出光透過フィルターが入れ替え可能に設置された光透過フィルターを備え、前記検出器は前記光透過フィルターを透過した励起光及び検出光の光量を測定することを特徴とする請求項2又は3記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項5】
前記検出器の出力値に基づいて前記熱レンズ信号の強度を補正することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項6】
前記検出器の出力値は電流値であることを特徴とする請求項5記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項7】
前記検出器の出力値は電圧値であることを特徴とする請求項5記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項8】
前記電圧値を測定する音声入力端子を備えることを特徴とする請求項7記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項9】
前記光伝送経路は光ファイバーであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項10】
前記対物レンズはロッドレンズであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項11】
前記熱レンズ信号は高速フーリエ変換処理によって得られることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の熱レンズ分光分析システム。
【請求項12】
チップにおける溝内部に注入された液体試料に励起光及び検出光を照射することにより生成した熱レンズ信号を補正する熱レンズ信号補正方法において、前記励起光及び前記検出光の光量を測定する光量測定ステップと、前記熱レンズ信号の強度を測定する熱レンズ信号強度測定ステップと、前記励起光の所定光量と前記測定された励起光の光量との第1の比、及び前記検出光の所定光量と前記測定された検出光の光量との第2の比を算出する比算出ステップと、前記測定された熱レンズ信号の強度、前記第1の比、及び/又は前記第2の比を積算することにより前記測定された熱レンズ信号の強度を補正する熱レンズ信号強度検出補正ステップとを備えることを特徴とする熱レンズ信号補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−300721(P2006−300721A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122678(P2005−122678)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】