説明

熱交換装置

【課題】高速で回転する回転体によって発生する摩擦熱を熱源として利用し、発生した摩擦熱を熱交換処理に利用することが可能な熱交換装置を提供することを課題とする。
【解決手段】常温で固体のハンダ4を貯留する貯留空間14及び貯留空間14の上方に開口した開口部15を有する内筒部5と、内筒部5の外側に設けられ、内筒部5との間に冷却水の流通する媒体流路11が形成された外筒部6と、回転体7と、回転体7を軸支し回転させる回転駆動機構部8と、上方位置UP及び挿入位置の間で回転体7を鉛直方向に昇降させる回転体昇降部9と、回転体7及び固体のハンダ4を接触させることによって摩擦熱を発生させる摩擦熱発生部10と、発生した摩擦熱を利用して媒体流路11に冷却水を流通させる熱媒体流通部12とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置に関するものであり、特に低融点物質に対して高速で回転する回転体を接触させることによって摩擦熱を発生させ、当該摩擦熱を熱交換のための熱源として利用可能な熱交換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種産業分野において熱交換器(熱交換装置)が用いられている。例えば、工場内全体の空気調和を図るための空気調和設備、或いは食品加工の際に利用される熱を利用した熱処理設備等が知られている。ここで、熱交換器の中には、熱交換処理の方式の相違によって様々なタイプのものが開発され、実用化されている。例えば、複数の筒及び管を備え、管内と筒内とにそれぞれ異なる液体(流体、媒体)を流通させることにより、互いの液体間の液温の違いによって熱交換を行う多管式熱交換器、凹凸が形成された複数のプレートを所定間隔ずつ離間した状態で交互に重ね合わせ、当該プレート間に液体または気体の流体(媒体)を流通させることにより、プレートの熱を当該流体に伝搬させて熱交換を行うプレート式熱交換器、及び伝熱管にフィンを取付け、伝熱管と接触する流体との熱交換をおこなうフィンチューブ型熱交換器等が知られている。これらの各種熱交換器が、用途及び求められる能力に応じて適宜選択され、各所に設置されている。
【0003】
熱交換器の基本的な原理は、温度の高い物体から低い物体に熱を移動させるものであり、そのため予め物体を高温に加熱する熱源が必須の構成となる。従来の熱交換器では、係る熱源として蒸気ボイラー、燃焼ガス加熱設備、及び電気抵抗加熱設備等の周知の加熱手段が利用されている。
【0004】
一方、金属加工の現場において、ドリル等の切削工具を利用して対象となる金属製品のワークの加工を行う場合、高速で回転するドリルと接触するワークとの間には摩擦熱が発生することが知られている。係る摩擦熱によってドリル及びワークが高温となることがあり、ドリル及びワークの熱変形が生じる可能性があり、ワークの加工精度が著しく低下することがあった。そのため、上述の金属加工の場合、ドリルとワークの接触する箇所に、潤滑油等を連続的に供給し、摩擦熱を除去することを行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した蒸気ボイラー等の一般的な加熱手段を熱源として利用する場合には、発生させた熱量に対し、熱交換に利用される比率が低いことがあり、熱交換効率が劣ることがあった。そのため、発生した熱を有効に活用することが望まれていた。
【0006】
一方、金属加工の際に発生する摩擦熱は、潤滑油等によって冷却されるだけのものであり、係る摩擦熱の発生原理を利用して熱源(加熱手段)として使用する熱交換器は存在していなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、高速で回転する回転体によって発生する摩擦熱を熱源として利用し、発生した摩擦熱を熱交換処理に利用することが可能な熱交換装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の熱交換装置は、「常温で固体の低融点物質を貯留する貯留空間及び前記貯留空間の上方に開口した開口部を有する内筒部と、前記内筒部の外側に設けられ、前記内筒部との間に熱媒体の流通する媒体流路が形成された外筒部と、長棒状の回転体と、先端部を下方に向けた状態で前記回転体を軸支し、回転軸に沿って前記回転体を回転させる回転駆動機構部と、前記低融点物質の上方の上方位置及び前記低融点物質に挿入した挿入位置の間で前記回転体を鉛直方向に昇降させる回転体昇降部と、前記上方位置から前記挿入位置まで前記回転体を回転させながら降下させ、前記回転体及び前記低融点物質を接触させることによって摩擦熱を発生させる摩擦熱発生手段と、発生した前記摩擦熱によって前記低融点物質が固体から液体に相転移した状態で、前記媒体流路に前記熱媒体を流通させる熱媒体流通手段と」を具備するものから主に構成されている。
【0009】
ここで、低融点物質とは、後述の回転体によって発生させる摩擦熱によって融解し、固体から液体に相転移可能な常温で固体の物質であり、複数種類の金属を特定比率で混合してなる合金や低融点の樹脂等を利用することが可能なものである。なお、常温とは、日本工業規格で規定される20℃±15℃(5〜35℃)の範囲を示すものである。したがって、発生した摩擦熱によって融解可能なように、通常の金属等の物質と比較して融点が低い特性を有する必要がある。ここで、低融点とは、例えば、80℃以上、300℃以下程度の範囲の物質が一般的に想定される。さらに、摩擦熱の発生がなくなると(回転体の回転停止)、液体に相転移した低融点物質は再び固化し、物性変化がない相転移の可逆性を備える物質である必要がある。そのため、例えば、ハンダ等の金属或いは合金、または熱可塑性樹脂等の利用が想定される。
【0010】
一方、内筒部とは、例えば、ステンレス等の金属製素材によって略筒状に形成され、上記の低融点物質を内部に貯留可能な貯留空間及び貯留空間の上方に開口した開口部を有する低融点物質の貯留容器としての機能を有するものである。これにより、所定量の低融点物質が貯留可能となる。さらに、外筒部とは、同様にステンレス等の金属製素材を利用して、内筒部の内筒外表面を被覆可能なサイズで形成され、内筒外表面及び外筒部の外筒内表面を互いに離間させることにより熱媒体(水、空気等)が流通可能な媒体流路を形成可能なものである。これにより、媒体流路内を熱媒体を流通させることができ、貯留空間内で高温となった低融点物質との間で熱交換を行うことができる。さらに外筒部には、媒体流路と連通し、当該媒体流路内に熱媒体を供給する供給口及び熱交換後の熱媒体を排出する排出口が設けられている。
【0011】
加えて、回転体とは、低融点物質との接触及び発生する摩擦熱によって摩滅や変形等が生じることがない硬質かつ高融点の物質が利用され、回転軸に従って回転可能なように長棒状、例えば、円筒状または円錐状を呈するように形成されている。係る回転体を軸支して、既存の回転用モータ及びカップリング等の駆動伝達機能を備える回転駆動機構部によって高速で回転させることが可能となる。また、回転体昇降部とは、上述の回転体、または回転体及び回転体駆動機構部を含めて上下方向に移動(昇降)させるものである。ここで、回転体は、内筒部の上方の上方位置から内筒部の内部の貯留空間に挿入した挿入位置の間で鉛直方向に沿って昇降可能で、かつ回転体の先端部が下方に向けられている。
【0012】
したがって、本発明の熱交換装置によれば、高速で回転する回転体を回転体昇降部を利用して上方位置から内筒部の貯留空間に挿入した挿入位置まで降下させる。これにより、貯留空間に貯留された常温で固体の低融点物質と回転体が先端部から接触することになる。このとき、回転する回転体と低融点物質との間に接触による摩擦熱が発生し、当該摩擦熱の発生によって低融点物質の温度が上昇する。そして、摩擦熱による温度上昇によって低融点物質が融点以上の温度に到達すると、低融点物質は固体から液体へと変化する(相転移)。すなわち、回転体と接触する低融点物質の一部が液体に変化した後、その後、高温の液体の低融点物質の熱が貯留空間内の低融点物質全体に伝搬するとともに、回転体昇降部によって貯留空間に挿入される回転体の位置(低融点物質の深さ)が変化するため、回転体と低融点物質との接触面積が大きくなるため、最終的に全ての低融点物質が液体となる。したがって、回転体全体が低融点物質に埋まった状態になる。このとき、回転体の回転は継続しているため、上記摩擦熱が常に発生しているため、熱が随時供給されることになり、低融点物質の液体化は継続する。これにより、回転体の回転を阻害することがない。係る状態で、媒体流路にポンプ等の周知の熱媒体流通手段を利用して熱媒体(水等)を供給することで、摩擦熱によって高温となった低融点物質と熱媒体との間の熱交換が行われ、暖かくなった熱媒体が排出口から排出される。
【0013】
さらに、本発明の熱交換装置は、上記構成に加え、「前記回転体は、前記先端部が円錐状を呈し、回転体中央部の少なくとも一部が回転体外径を狭小にして形成されるくびれ部」を具備するものであっても構わない。
【0014】
したがって、本発明の熱交換装置によれば、回転体の先端部が円錐状の形成され、回転体中央部にくびれ部が形成されている。すなわち、低融点物質と一番最初に接する部分が円錐状に形成されているため、装置稼働直後は一点で低融点物質と接触するために、摩擦熱の発生がしやすく、かつ液体化した低融点物質を押除けながらさらに下方の挿入位置まで回転体を進める動作が行い易くなる。加えて、くびれ部を有することにより、回転体表面積の増大に伴って低融点物質との間の接触面積が増加し、摩擦熱の発生効率を高めることが可能となる。なお、複数のくびれ部を設けることによって略玉状の部材が連結された回転体が形成されることになる。係るくびれ部を有する回転体の場合、低融点物質に埋没した状態で回転を停止すると、摩擦熱が発生しなくなるため、当該状態で低融点物質が液体から固体に凝固し、回転体を上方位置まで戻すこと及びそれ以降の回転を行うことが困難となる。そのため、回転を停止する前に回転体を上方位置まで上昇させる操作を行う必要がある。
【0015】
さらに、本発明の熱交換装置は、上記構成に加え、「前記低融点物質は、ハンダが利用される」ものであっても構わない。
【0016】
したがって、本発明の熱交換装置によれば、低融点物質としてハンダが利用される。ハンダは、スズ及び鉛を主成分とした合金の一種であり、金属同士の接合や電子回路の形成等のために主に使用されている。また、近年では鉛成分を含まない無鉛ハンダも利用されている。一般的なハンダ(スズ:62wt%、鉛:38wt%)の場合、融点が183℃であり、発生する摩擦熱によって十分に融解させることができる。さらに、固体から液体、及び液体から固体への相転移が可逆性を有し、かつ工業製品として安価に入手が容易である。そのため、本発明の低融点物質としてハンダを利用することが特に好適である。
【0017】
さらに、本発明の熱交換装置は、上記構成に加え、「前記回転体の前記先端部は、回転体表面から突設された撹拌フィン」を具備するものであっても構わない。
【0018】
したがって、本発明の熱交換装置によれば、回転体の先端部に撹拌フィンが設けられている。これにより、液体化した低融点物質を撹拌フィンで撹拌しながら回転体を回転させることができ、摩擦熱の伝搬効率をさらに高くすることが可能となる。その結果、貯留空間内の低融点物質全体が液体に相転移する効率が高められる。
【0019】
さらに、本発明の熱交換装置は、上記構成に加え、「前記媒体流路は、前記外筒部の外筒内表面から突設され、前記熱媒体の流通方向を規制し、前記媒体流路の滞留時間を長くする流通規制部」を具備するものであっても構わない。
【0020】
したがって、本発明の熱交換装置によれば、流通規制部によって熱媒体の媒体流路の対流時間が調整可能になる。すなわち、熱媒体として一般的な水を用いた場合、外筒部の上端近傍に設けられた導入口及び外筒部の底部近傍に設けられた排出口の間を重力に従って水は流れることになる。このとき、水の流通方向を規制することより(例えば、螺旋状)媒体流路の滞留時間を長くすることができ、熱媒体及び低融点物質の間の熱交換の効率が高くなる。すなわち、排出口から排出される熱媒体の温度を高めることが可能となり、熱交換装置としての性能を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の効果として、高速回転する回転体と物体(低融点物質)との間で発生させた摩擦熱を熱源として熱交換を行うことができ、熱交換の効率を高めることができる。特に、くびれ部を有する回転体及び低融点物質としてハンダを利用することにより、摩擦熱の発生及び熱媒体への効率的な伝搬を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の熱交換装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】回転体を挿入位置にした状態の熱交換装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】回転体の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態である熱交換装置1について、図1乃至図3に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の熱交換装置1の概略構成を示す説明図であり、図2は使用状態の熱交換装置1の構成を示す説明図であり、図3は回転体7の構成を示す説明図である。本実施形態の熱交換装置1は、熱交換の対象となる熱媒体として冷却水3を利用し、摩擦熱によって融解する低融点物質としてスズ及び鉛の共晶合金であるハンダ4を利用するものについて例示する。
【0024】
本実施形態の熱交換装置1は、図1乃至図3に示すように、内筒部5と、内筒部5の外側に設けられる外筒部6と、内筒部5の上方に配置される回転体7と、回転体7を回転させる回転駆動機構部8と、ハンダ4の上方位置UP及びハンダ4に挿入した挿入位置IPの間で鉛直方向に沿って回転体7を昇降させる回転体昇降部9と、回転駆動機構部8及び回転体昇降部9を制御し、回転体7及びハンダ4の接触によって摩擦熱を発生させる摩擦熱発生部10と、内筒部5及び外筒部6の間に設けられた媒体流路11に冷却水3を流通させ、熱交換させる熱媒体流通部12とを具備して主に構成されている。ここで、摩擦熱発生部10が本発明における摩擦熱発生手段に相当し、熱媒体流通部12が本発明における熱媒体流通手段に相当する。
【0025】
さらに具体的に説明すると、内筒部5は略円筒状を呈し、底部13が凸状に湾曲した湾曲面で形成され、ハンダ4を貯留可能な貯留空間14及び貯留空間14の上方に開口した開口部15を有して構成されている。さらに、開口部15の開口端15aから水平方向外側に向かって夫々延設された鍔部16及び鍔部16及び内筒外表面5aの間を連結し、鍔部16の強度を補強する補強部17が設けられている。そして、貯留空間14に常温で固体を示し、融点183℃のハンダ4が貯留されている。
【0026】
一方、外筒部6は、内筒部5の外側に設けられ、内筒外表面5aと外筒部6の外筒内表面6aを互いに離間させることにより、所定の空間(媒体流路11)を形成して取設されている。外筒部6の形状は、内筒部5と略同一の形状で構成され、円筒状を有し、底部18が凸状に湾曲した湾曲面で形成された内筒部5よりも稍サイズの大きなものである。そして、内筒部5の底部13から外筒部6を被せるようにして固定されている。さらに、外筒部6の上端部6bは、内筒外表面5a側に屈曲して形成され、当該内筒外表面5aと接続されている。これにより、内筒部5及び外筒部6は一体的に形成され、かつ媒体流路11は密閉された空間となる。また、外筒部6の外筒外表面5bの下部には四本の脚部19が取設されている。そのため、内筒部5及び外筒部6を含む本実施形態の熱交換装置1を設置面に対して立設させることができる。ここで、内筒部5及び外筒部6は、それぞれステンレス素材によって構成されている。
【0027】
さらに、外筒部6の上端部6bの近傍には、媒体流路11に冷却水3を導入するための導入口20が設けられ、一方、外筒部6の底部18の近傍には、熱交換後の冷却水3を媒体流路111から排出するための排出口21が設けられている。また、外筒部6の外筒内表面6aから内筒部5の内筒外表面5aに向かって突設した流通規制部22が2箇所に設けられている。これにより、媒体流路11を上層、中層、及び下層の三層に分割することができる。なお、流通規制部22の先端と内筒外表面5aとの間には隙間が形成されているため、媒体流路11の各層間の冷却水3の流通が完全に妨げられるものことはない。しかしながら、係る流通規制部22によって各層間の冷却水3の流通量が一定に制限されることとなり、さらに流通方向も規制される。その結果、媒体流路11内の滞留時間を流通規制部22のない場合に比べて延長することができる。これにより、内筒外表面5aを介した熱交換の効率が高められる。
【0028】
一方、回転体7は、全体が長棒状の外観を有し、先端部23が円錐状に形成され、回転体中央部24の二箇所に回転体7の最大外径Aに対して縮径した回転体外径Bを有するくびれ部25が設けられている(図1等参照)。すなわち、回転体7は、三つの大きな玉状部材が連なって構成されている。本実施形態の熱交換装置1における回転体7は、最大外径Aに対し、くびれ部25の縮径した回転体外径Bが1/2になるように設計されている。そして、先端部23を下方に向けた状態で、後端部26が後述の回転駆動機構部8に軸支されている。これにより、回転軸Cに従って回転することが可能となる。また、先端部23には、円錐状の先端部表面から突出した平板状の撹拌フィン27が先端部中心から四方向に十字形状に配置されている。ここで、回転体7はステンレス素材を利用して構成されている。
【0029】
回転駆動機構部8は、回転軸Cに沿って回転体7を高速で回転させるものであり、回転体7の後端部26を軸支する接続部28と、回転体7を回転させるための回転力を発生させる回転用モータ29と、接続部28及び回転体モータ29の間の回転力の伝達を制御するカップリンク30と、カップリンク30及び回転体用モータ29等を内筒部5及び外筒部6の上方に支持するための回転基部31とを具備して主に構成されている。
【0030】
また、回転体昇降部9は、前述の回転体7及び回転駆動機構部8を上下方向(鉛直方向)に沿って昇降させるものであり、内筒部5の鍔部16の上面から垂設された複数本の柱状のスライド軸32と、スライド軸32に沿って回転駆動機構部8の回転基部31を昇降させるための昇降用モータ33とを具備して主に構成されている。ここで、回転基部31には、スライド軸32の位置に位置及び大きさに合わせて開孔したスライド軸孔34がそれぞれ設けられている。そして、スライド軸孔34の近傍にスライド軸受35が設置されている。これにより、回転体昇降部9の昇降用モータ33を稼働させることにより、当該モータ33の回転に応じて回転体7及びこれを軸支する回転駆動機構部8の全体が上下方向に移動することになる。その結果、貯留空間14に貯留されたハンダ4の上方位置UP及びハンダ4に回転体7を挿入し、埋没させた挿入位置IPの間を自在に変位させることが可能となる。なお、回転体7が挿入位置にあるときは、内筒部5の鍔部16の上面と回転駆動機構部8の回転基部31が当接することになり、当該回転基部31が内筒部5の開口部15を閉塞する蓋部としての機能を有することになる。そのため、回転体7が回転し、ハンダ4が液化した場合に貯留空間13から内筒部5の外部に液状のハンダ4が飛散するのを防止することができる。
【0031】
摩擦熱発生部10は、上述した回転駆動機構部8及び回転体昇降部9を電気的に制御するものであり、具体的には回転体7の回転のオン及びオフと回転数の制御、及び、回転体7の上方位置UP及び挿入位置IPの変位を制御するものである。係る二つの構成を制御することにより、回転体7及びハンダ4との接触による摩擦熱を発生させることができる。一方、熱媒体流通部12は、周知のポンプ等を利用して熱媒体となる冷却水3を所定の水圧で外筒部6の供給口20から媒体流路11内に導入するものであり、媒体流路11内に冷却水3の流れを創出するものである。
【0032】
次に、本実施形態の熱交換装置1の使用方法の一例について説明する。ここで、初期状態として、熱交換装置1の回転体7は、回転体昇降部9によって上方位置UPにセットされている。すなわち、ハンダ4と回転体7の先端部23は接触していない状態にある。そして、熱交換装置1を稼働状態にする。これにより、熱媒体流通部12によって冷却水3が供給口20から媒体流路11に入り、排出口21から排出される冷却水3の流れが形成される。さらに、回転駆動機構部8におって回転体7が回転軸Cに沿って所定の回転数で回転する。このとき、回転体4の先端部23及び撹拌フィン27は、ハンダ4と接触していないため、係る状態で摩擦熱が発生することはない。
【0033】
そして、摩擦熱発生部10を制御し、回転体昇降部9によって回転体7を上方位置IPから徐々に下方に降下させる。これにより、回転体7の先端部23は、貯留空間13に貯留されたハンダ4のハンダ上面に到達する。このとき、貯留空間13内のハンダ4は、常温のため固体である。
【0034】
そして、ハンダ上面に到達した回転体7は、ハンダ4と接している回転体7の先端部23が高速で回転しているため、接触箇所で摩擦熱が発生する。ハンダ4の融点は183℃と他の金属等に比べて比較的低いため、上述の摩擦熱によって固体から液体へと相転移が開始される。このとき、回転体7の先端部23が錘状に形成されているため、先端部23の頂点と接触したハンダ4が摩擦熱によって加熱され、融解する。そして、回転体昇降部9によって回転体7が徐々に降下するため、融解したハンダ4が先端部23及び先端部23に設けられた撹拌フィン27によって押除けながら固体のハンダ4と接触し、摩擦熱による加熱及び融解を継続する。
【0035】
その結果、図2に示すように、回転体7の大部分がハンダ4に埋没した挿入位置IPまで到達する。係る状態でも回転体7による回転を継続することにより、回転体7と接触するハンダ4によって常に摩擦熱が発生し続けることになる。そのため、回転体7の周囲のハンダ4が融解し、当該摩擦熱が貯留空間13のハンダ4の全体に伝搬されることになる。その結果、全てのハンダ4が液体に相転移する。これにより、貯留空間13内のハンダ4が融点以上(183℃以上)の高温の状態になる。なお、回転体7の回転及びハンダ4の量によっては貯留空間13の全体が液体に相転移せずに、一部のみが融解する場合もある。この場合であっても摩擦熱によって貯留空間13内のハンダ4は少なくとも120℃以上の高温になっている。このとき、回転体7は複数のくびれ部25を有するものであり、ハンダ4との回転中の接触面積が大きくなる。その結果、摩擦熱の発生効率が高くなる。
【0036】
係る状態で熱媒体流通部12によって媒体流路11を冷却水3が流通している。その結果、貯留空間13に高温の状態で貯留された液体のハンダ4からの熱(摩擦熱)がステンレス製の内筒部5を介して内筒外表面5aに伝達されることになる。そして、当該内筒外表面5aの近傍を通過する冷却水3に伝搬され、冷却水3が温められる。その結果、冷却水3の水温が高くなる。一方、貯留空間13内のハンダ4は冷却水3への熱の伝搬(熱交換)によって液温が低くなる。しかしながら、回転体7による摩擦熱の発生が継続しているため、貯留空間13のハンダ4の温度が低下することがない。さらに、回転体7に設けられた撹拌フィン27によって液体のハンダ4が撹拌されるため、貯留空間13のハンダ4の温度が均一化する。そして、熱交換によって温められた冷却水3が排出口21から排出され、通常の熱交換処理に利用することができる。さらに、媒体流路11に設けられた流通規制部22によって、冷却水3の媒体流路11における滞留時間を長くすることができ、より熱交換のより高い効率を維持することができる。
【0037】
以上、説明したように、本実施形態の熱交換装置1は、回転体7及びハンダ4(低融点物質)との接触により、摩擦熱を発生させ、当該摩擦熱を熱交換に利用することができる。これにより、従来の熱交換器等に利用されている熱源に比べ、熱効率を高めることができるとともに、熱交換装置全体のサイズをコンパクトなものとすることができる。
【0038】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0039】
すなわち、本実施形態の熱交換装置1において、低融点物質としてハンダ4を用いるものを示したがこれに限定されるものではなく、その他の低融点の金属或いは合金、または低融点の特性を有する樹脂であっても構わない。また、熱媒体として冷却水3を用いるものを示したが、その他の液体または気体等の従来から周知の媒体を使用するものであっても構わない。さらに、回転体7として、くびれ部25を有するものを示したが、係る外観形状に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0040】
1 熱交換装置
3 冷却水(熱媒体)
4 ハンダ(低融点物質)
5 内筒部
6 外筒部
7 回転体
8 回転駆動機構部
9 回転体昇降部
10 摩擦熱発生部(摩擦熱発生手段)
11 媒体流路
12 熱媒体流通部(熱媒体流通手段)
14 貯留空間
15 開口部
22 流通規制部
23 先端部
24 回転体中央部
25 くびれ部
27 撹拌フィン
29 回転用モータ(回転駆動機構部)
30 カップリンク(回転駆動機構部)
31 回転基部(回転駆動機構部)
32 スライド軸(回転体昇降部)
33 昇降用モータ(回転体昇降部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体の低融点物質を貯留する貯留空間及び前記貯留空間の上方に開口した開口部を有する内筒部と、
前記内筒部の外側に設けられ、前記内筒部との間に熱媒体の流通する媒体流路が形成された外筒部と、
長棒状の回転体と、
先端部を下方に向けた状態で前記回転体を軸支し、回転軸に沿って前記回転体を回転させる回転駆動機構部と、
前記低融点物質の上方の上方位置及び前記低融点物質に挿入した挿入位置の間で前記回転体を鉛直方向に昇降させる回転体昇降部と、
前記上方位置から前記挿入位置まで前記回転体を回転させながら降下させ、前記回転体及び前記低融点物質を接触させることによって摩擦熱を発生させる摩擦熱発生手段と、
発生した前記摩擦熱によって前記低融点物質が固体から液体に相転移した状態で、前記媒体流路に前記熱媒体を流通させる熱媒体流通手段と
を具備することを特徴とする熱交換装置。
【請求項2】
前記回転体は、
前記先端部が円錐状を呈し、回転体中央部の少なくとも一部が回転体外径を狭小にして形成されるくびれ部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記低融点物質は、
ハンダが利用されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換装置。
【請求項4】
前記回転体の前記先端部は、
回転体表面から突設された撹拌フィンをさらに具備することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の熱交換装置。
【請求項5】
前記媒体流路は、
前記外筒部の外筒内表面から突設され、前記熱媒体の流通方向を規制し、前記媒体流路の滞留時間を長くする流通規制部をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の熱交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57903(P2012−57903A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203988(P2010−203988)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(309028802)
【出願人】(309028824)