説明

熱動形過負荷継電器

【課題】熱動形過負荷継電器の温度補償機能,動作特性の信頼性向上が図れるように調整ダイヤル/釈放レバーの間を連係する調整リンク機構を改良する。
【解決手段】主バイメタル2、シフタ−3、シフタ−3の変位に従動する釈放レバー5、該釈放レバーに反転ばね7を介して連係した出力接点開閉機構6、整定電流を設定する調整ダイヤル11、調整ダイヤルの従節としてカム部11aと釈放レバー5との間を連係する調整リンク12、および周囲温度の補償バイメタル4からなる熱動形過負荷継電器において、調整リンク12は、そのリンク部材の下端側の固定軸部12aを介して外郭ケース1に枢支し、他端側の可動軸部12cに釈放レバー5を連結するとともに、そのリンク部材の中間に補償バイメタル4を片持ち式に分岐結合して、その先端を調整ダイヤル11のカム部周面に当接させ、周囲温度の変化に伴う補償バイメタル4の湾曲変位を、前記調整リンク12を介して釈放レバー5に伝えて動作特性の温度補償を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁接触器,配線用遮断器などに組み合わせて使用する温度補償付きの熱動形過負荷継電器(サーマルリレー)に関し、詳しくは整定電流の調整ダイヤルと釈放レバーとの間を連係する調整リンク機構に係わる。
【背景技術】
【0002】
まず、頭記した熱動形過負荷継電器の代表的な従来例の構成を図6に示す(例えば、特許文献1参照)。図6において、1はモールド樹脂製の外郭ケース、2は3相主回路の各相に対応するヒートエレメントの主バイメタル、2aは加熱ヒータ、3は各相の主バイメタル2にまたがって連係させたシフター、4はシフター3の先端に対向する出力レバー兼用の補償バイメタル(周囲温度の補償バイメタル)、5は補償バイメタル4の上端に結合した釈放レバー、6は釈放レバー5の動きに応動する出力接点開閉機構である。この接点開閉機構6は、釈放レバー4の押圧操作によりスナップアクション動作する反転ばね7と、反転ばね7の先端に連結したスライダ8と、スライダ8の動きに従動して接点が開閉する出力接点9(a接点),10(b接点)との組立体からなる。また、11は整定電流の調整ダイヤル、12は調整ダイヤル11の従節要素として調整ダイヤル11のカム部11aと釈放レバー5との間を連係する調整リンク、14は接点開閉機構6を手動操作で復帰させるリセットボタンである。
【0003】
ここで、前記の調整ダイヤル11はカム部(円筒形の外接偏心カム)11aをケース内方に突き出して外郭ケース1の頂部に嵌合保持し、保持用ばね部材13(ピアノ線で成形した線材ばね)により外郭ケース1に嵌合保持されている。一方、調整リンク12は上下方向に延在するシーソー式のリンク部材で、その中央部に形成した固定軸受部12aを外郭ケース1に設けた支軸1aに嵌合して回動可能に枢支している。また、調整リンク12の上端にはカムフォロア12b(動作ポイントの調整カムを兼ねた偏心カム軸)を設け、該カムフォロア12bを前記カム部11aの周面に当接して調整リンク12を調整ダイヤル11の目盛位置に合わせて位置決めするようにしている。さらに、調整リンク12の下端に設けた可動軸部12cには釈放レバー5を軸支して調整リンク12と釈放レバー5との間を回動可能にリンク結合している。なお、調整リンク12は、先記した保持用ばね部材13によりカムフォロア12bを調整ダイヤル11のカム部11aに押しつけようにしている。
【0004】
上記構成で、主回路の電流通電によるヒータ2aの加熱を受けて主バイメタル2が湾曲し、これに連動してシフター3が図示矢印Aの方向に移動すると、主バイメタル2の変位量が補償バイメタル4を介して釈放レバー5に伝わる。これにより、釈放レバー5は調整リンク12の可動軸部12cを支点に反時計方向(矢印B)に回転して反転ばね7の操作端を押す。ここで、調整ダイヤル11で設定した整定電流を超える過電流が主回路に通電して主バイメタル2が湾曲変位すると、釈放レバー5で押圧された反転ばね7が反転動作し、この反転動作により接点開閉機構6のスライダ8が矢印C方向に移動して出力接点9,10を切換える。そして、この接点出力信号を受けた電磁接触器,配線用遮断器が開極動作して主回路を断路する。なお、主回路を断路した後(主バイメタル2は常温に戻って元の状態に復帰)に、配電路の安全を確認した上でリセットボタン14を押し込むと、スライダ8が左方向に移動して接点9,10を復帰動作させるとともに、反転ばね7が初期状態に強制反転してサーマルリレーがリセットされる。
【0005】
また、調整ダイヤル11で整定電流の設定値を変更すると、調整リンク12は固定軸受部12aを支点に下端側の可動軸部12cが左右方向に変位し、これにより釈放レバー5と反転ばね7との相対位置が変位してトリップ動作ポイントが変更されることは周知の通りである。
【0006】
次に、図6と異なる機種の従来例を図7に示す。このサーマルリレーは小形の電磁接触器に対応させて外郭ケース1の外形サイズ(高さ,横幅)を小さく抑えるように、外郭ケース1の底部側に各相の主バイメタル2を横置姿勢に並置し、その上段側に補償バイメタル4,釈放レバー5,出力接点開閉機構6、調整ダイヤル11,調整リンク12などの各部品を配置している。
【0007】
また、熱動形過負荷継電器に装備した調整リンク12について、図6,図7に示したシーソー式の調整リンクとは別に、調整リンクの下端に固定軸部を設けて外郭ケースに枢支し、可動軸部を調整リンクの中段位置に設けて釈放レバーと連結するようにした構造も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−116370号公報
【特許文献2】実開昭53−95168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、先記した従来構造の熱動形過負荷継電器は動作,温度補償の機能面で次記のような問題点がある。すなわち、
(1)熱動形過負荷継電器の汎用製品は周囲温度20℃を基準として調整されており、さらに周囲温度変化による動作特性への影響を少なくするために、シフター3と釈放レバー5との間に補償バイメタル4を介装してその上端を釈放レバー5に結合し(図6,図7参照)、周囲温度の変化に伴う主バイメタル2の変位を補償バイメタル4の湾曲変位で相殺して温度補償を行うようにしている。但し、この補償バイメタル4による温度補償範囲には限界があり、周囲温度が基準温度(20℃)から大幅に異なる盤内の環境で使用すると不動作,ミストリップとなる場合がある。そこで、周囲温度が例えば50〜60℃にもなる高温環境で使用する場合には、調整ダイヤル11で整定電流設定値を補正し、調整リンク12を介して釈放レバー5の位置を調整して対処するようにしている。
【0009】
しかしながら、この場合に従来構造では、シフター3と釈放レバー5との間に介装した補償バイメタル4による温度補償動作と、調整ダイヤル11の補正操作により調整リンク12を介して行う温度補償動作とでは釈放レバー5の動き方が異なることから、広範囲な周囲温度の変動に対して動作特性の温度補償を精度よく行うことが難しい。
(2)また、温度補償付きの熱動形過負荷継電器では、補償バイメタル(金属材)と主回路の充電部との間に十分な絶縁距離を確保することが規定されている。この点について、図6の構造は主バイメタル2と補償バイメタル4との間を外郭ケース1の内部隔壁で左右に隔離した上で、該隔壁を貫通したシフター3の先端に対峙して補償バイメタル4を配置しているので補償バイメタル/充電部との間で十分な絶縁強度を確保できるが、図7のように外郭ケース1の底部側に横置した主バイメタル2に対して補償バイメタル4をその上方に近接して配置した構造では、設計的な制約から補償バイメタル4と主バイメタル2との間に十分な絶縁距離を確保することが難しい。
(3)さらに、従来構造の熱動形過負荷継電器を高温,多湿の環境で使用すると、外郭ケースが変形してトリップ動作特性が変化するといった問題もある。すなわち、従来製品の外郭ケース1は、モールド加工性に優れたポリアミド系樹脂などのエンジニアリングプラスチックの成形品で作られているが、特にポリアミド系樹脂は吸湿性が大きく、熱動形過負荷継電器を高温,多湿の環境で使用すると外郭ケース1が熱膨張,吸湿して膨潤変形し、このために外郭ケース1に枢支した調整リンク12の固定軸部12aが当初の組立位置からずれて変位するようになる。
【0010】
この場合に、図6,図7に示したシーソー式の調整リンク12のように、固定軸部12aを枢支支点としてリンクの上端を調整ダイヤル11のカム部11aに当接させ、下端側の可動軸部12cに釈放レバー5をリンク結合した構造では、調整ダイヤル11のカム部11aに当接した調整リンク12のカムフォロア12aを起点とした固定軸部12aまでの距離に比べて、可動軸部12cまでの距離の方が大となる。このために、外郭ケース1の膨潤変形に伴って調整リンク12の固定軸部12aの位置が変位すると、可動軸部12cは前記の長さ比によって変位量が拡大される。その結果、調整リンク12の可動軸部に連結した釈放レバー5が変位して熱動形過負荷継電器の動作特性(出力接点のトリップ動作ポイント)が変わり、製品の信頼性が損なわれてしまう。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、その目的は前記課題を解決して温度補償機能,動作特性の信頼性向上が図れるように調整リンク機構を改良した熱動形過負荷継電器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、主回路電流の通電加熱を受けて湾曲変位する主バイメタルと、主バイメタルに連係させたシフタ−と、該シフタ−の変位に従動する釈放レバーと、該釈放レバーに反転ばねを介して連係した接点開閉機構と、整定電流設定用のカム付き調整ダイヤルと、該調整ダイヤルの従節要素としてダイヤルのカム部と前記釈放レバーとの間を連係する調整リンクと、および周囲温度の補償バイメタルからなる組立体を外郭ケースに内装し、過電流の通電による主バイメタルの湾曲変位を捉えて前記出力接点をトリップ動作させる熱動形過負荷継電器であって、前記調整リンクは固定軸部を介して外郭ケースに枢支した上で、該調整リンクの可動軸部に前記釈放レバーをリンク結合したものにおいて、
前記補償バイメタルの配置位置を従来構造の位置(釈放レバーと主バイメタルのシフターとの間)から調整リンク機構側に移し替えて、該調整リンクのリンク部材と調整ダイヤルのカム部との間に架設し、周囲温度の変化に伴う補償バイメタルの湾曲変位を調整リンク経由の経路から釈放レバーに伝えて動作特性の温度補償を行うようにし(請求項1)、具体的には次記のような態様で構成する。
(1)前記の補償バイメタルは、片持ち梁形のバイメタルとしてその一端を調整リンクの固定軸部と可動軸部との中間位置に結合し、バイメタルの先端をカムフォロアとして調整ダイヤルのカム部に当接させるように配置する(請求項2)。
(2)また、調整ダイヤルのカム部周面に当接させた前記補償バイメタルの先端(カムフォロア)を起点として、釈放レバーに連結した調整リンクの可動軸部との間の距離を、外郭ケースに枢支した固定軸部との間の距離よりも短小に設定する(請求項3)。
(4)さらに、補償バイメタルを前記のように調整リンク側に配置した上で、主バイメタルのシフターと釈放レバーとの間を絶縁材のレバーを介して連係する(請求項4)。
【発明の効果】
【0013】
熱動形過負荷継電器を構成する各部品のうち、外郭ケースに内装した調整リンク機構,周囲温度の補償バイメタルについて、前記のように構成したことにより次記の効果が得られる。
(1)補償バイメタルを、図6,図7に示した従来構造(補償バイメタルを釈放レバーに結合して先端を主バイメタルのシフターに対峙させる)の位置から調整リンク機構側に移し替えて調整ダイヤルのカム部と調整リンクとの間に架設したことにより、調整ダイヤルの操作による釈放レバーの位置調整と、補償バイメタル自身の湾曲変位による釈放レバーの位置調整とが調整リンクを介して同じ経路から行われる。これにより、補償バイメタルによる温度補償,および調整ダイヤルの目盛補正操作による温度補償を含めて広範囲な周囲温度の使用環境下でも高精度で動作特性の温度補償行うことができる。
(2)また、上記の配置により補償バイメタルを主回路に接続した主バイメタル(充電部)から離間して両者の間に十分な絶縁距離を確保することができ、これに加えて主バイメタルのシフターと釈放レバーとの間を絶縁材のレバーで連係させることで、より安全な絶縁構造を構築できる。
(3)さらに、前記のリンク機構について、調整ダイヤルのカム部周面に当接させた補償バイメタルの先端部を起点として、釈放レバーに連結した調整リンクの可動軸部との間の距離を、外郭ケースに枢支した固定軸部との間の距離よりも短小に設定したことにより、従来構造のシーソー式調整リンクで問題となっていたモールド樹脂の吸湿に伴う外郭ケースの膨潤,変形に起因する動作特性への影響を低く抑えて信頼性向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5に示す実施例に基づいて説明する。なお、図1は熱動形過負荷継電器の組立構成図(無通電状態)、図2は図1における要部の斜視図、図3はトリップ動作説明図、図4は補償バイメタルによる周囲温度補償機能の説明図、図5は過電流保護機能と欠相保護機能を備えたサーマルリレー(2Eサーマルリレー)に適用した実施例の構成図であり、実施例の図中で図6,図7に対応する部材には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0015】
図1〜図4に示す実施例は、図7に示した従来の熱動形過負荷継電器と同様に、外郭ケース1の底部側に主回路の各相に対応する主バイメタル2が横置姿勢に配置し、その上段側に釈放レバー5,出力接点開閉機構6,整定電流の調整ダイヤル11,および調整リンク12をレイアウトしているが、調整リンク12の構造、補償バイメタル4の配置、および釈放レバー5とシフター3との間の連係構造が図7に示した従来構造とは異なる。
【0016】
まず、補償バイメタル4については、図7の配置(補償バイメタル4の上端を釈放レバー5に片持ち結合し、下端をシフター3の側方に対峙させている)から調整リンク機構側に移し変え、外郭ケース1の頂部に配した調整ダイヤル11のカム部11aとその下方に配した調整リンク12との間に跨がって架設するように配置している。なお、この補償バイメタル4は、高膨張率板を右側,低膨張率板を左側に貼り合わせ、図示のように中間部を「く」の字形に屈曲した上で、上端側の先端部を調整ダイヤル11のカム部11aに対して内側(釈放レバー側)から当接するようにしている。
【0017】
一方、調整リンク12は、従来のシーソー式リンクに代えて、「く」の字形リンク部材の下端に固定軸部12aを形成して外郭ケース1に枢支し、可動軸部12cはリンク部材の上端側に形成して釈放レバー5とリンク結合するようにしている。そして、このリンク部材に対して前記の補償バイメタル4が図示のように固定軸部12aの上方箇所にカシメ止めしてバイメタル先端が調整ダイヤル11のカム部周面に向けて延在するよう片持ち梁式に結合されている。また、この調整リンク12の組立状態で、図2で示すように調整ダイヤル11のカム部11aの周面に当接させた補償バイメタル4の先端部を起点として、釈放レバー5を連結した調整リンク12の可動軸部12cとの間の距離L2を、外郭ケース1に枢支した固定軸部12aとの間の距離L1よりも短小(L2<L1)に設定している。
【0018】
さらに、釈放レバー5には絶縁材のレバー5aを結合して下方に延在させ、該レバー5aの下端をシフター3の端部に形成した凹溝に嵌合してシフター3と釈放レバー5との間を連係している。
【0019】
次に、上記実施例の熱動形過負荷継電器について、過電流通電時のトリップ動作、周囲温度の補償動作、および外郭ケースの吸湿による膨潤変形に伴う動作特性への影響について項目別に説明する。
(1)まず、過電流通電時のトリップ動作を図3で説明する。主回路に整定電流を超える過電流が流れ、この通電加熱を受けて湾曲する主バイメタル2によりシフター3が矢印A方向に変位すると、釈放レバー5は調整リンク12の可動軸部12cを支点に反時計方向(矢印B)に回動して反転ばね7を押して反転動作させる。これにより、反転ばね7に連係したスライダ8が矢印C方向に移動して出力接点9,10が切り替わる。このトリップ動作は従来構造と同様である。
【0020】
また、調整ダイヤル11で整定電流設定値を変更すると、カム部11aの周面に当接した補償バイメタル4がカムフォロアとして機能し、調整リンク12は固定軸部12aを支点に傾動し、釈放レバー5を新しい調整電流値に対応する位置に移動して出力接点開閉機構部6のトリップ動作ポイントを変える。この調整機能も従来構造と同様である。
(2)次に、周囲温度の変化(温度上昇)に伴う動作特性への影響を軽減する温度補償機能を図4により説明する。図4において周囲温度が上昇すると、主バイメタル2に連係したシフター3が矢印D方向へ僅かに変位し、釈放レバー5を反時計方向に回動して反転ばね7を押そうとする。一方、周囲温度の上昇に伴って補償バイメタル4は「く」字形状を延ばす方向に変形(先端が左側に湾曲)しようとするが、補償バイメタル4の先端は調整ダイヤル11のカム部11aに突き当たってこの位置に拘束されていることから、その変形応力の反力(矢印F)が調整リンク12に作用することになる。これにより、調整リンク12は固定軸部12aを支点として時計方向(矢印E)に回動し、その可動軸部12cにリンク結合した釈放レバー5を矢印F方向に変位させる。その結果として、シフター3の変位(矢印D)に伴って反時計方向に回動しようとする釈放レバー5の動きが打ち消され、釈放レバー5は図示姿勢を保持したまま反転ばね7に相対して周囲温度変化による動作特性への影響を補償する。
【0021】
なお、主回路の定常時でも、通電に伴う主バイメタル2の湾曲変位(矢印D)によりシフター3を介して釈放レバー5が反時計方向に回動して反転ばね7を押圧する状態になると、その作用点に働く反転ばね7の反力を受けて釈放レバー5が調整リンク12の可動軸部12cを左方向(矢印Eとは逆方向)に押す。これにより、調整リンク12は固定軸部12aを支点にして反時計方向に回転しようとするが、調整リンク12には補償バイメタル4が分岐結合され、かつ先端が調整ダイヤル11のカム部11aに当接しているので調整リンク12は勝手に回転することなく、調整ダイヤル11で設定した整定電流値に対応した位置に保持される。また、主回路の通電中は、反転ばね7のばね反力を受けて補償バイメタル4の先端が調整ダイヤル11のカム部11aに押しつけられるので、従来構造(図6参照)のように従節部材である調整リンク12を調整ダイヤル11に押しつけるばね部材13が不要になる
また、周囲温度が基準温度(20℃)と大幅に異なる使用場所の環境下では、従来と同様に調整ダイヤル11の整定電流設定値を補正して温度補償を行う必要があるが、この場合に調整ダイヤル11を操作して釈放レバー5を変位させる場合の動きと、補償バイメタル4自身の変形によって釈放レバー5を変位させる動きは、いずれの場合でも調整リンク12を経由する経路から行われるので、これにより広範囲な周囲温度の変化に対して高い精度で温度補償を行うことが可能となる。
(3)次に、外郭ケースの吸湿による膨潤変形に伴う動作特性への影響について説明する。すなわち、図示実施例の調整リンク12は、外郭ケース1に枢支する固定軸部12aを下端に、釈放レバー5と連結する可動軸部12cを上端に設けたリンク部材に補償バイメタル4を結合した上で、補償バイメタル4の先端部を調整ダイヤル11のカム部11aに当接して配置し、ここで、図2で示すように調整ダイヤル11のカム部11aに当接した補償バイメタル4の先端部を起点Pとして、可動軸部12cとの間の距離L2を固定軸部12aとの間の距離L1よりも短小(L2<L1)となるように設定している。
【0022】
ところで、先記したように熱動形過負荷継電器を高温,多湿の環境で使用すると、外郭ケース1(ポリアミド系樹脂(ナイロン)の成形品)が吸湿膨潤して僅かながらケース外形が膨らむように変形する。また、このケースの膨潤変形に伴い、外郭ケース1に枢支した調整リンク12の固定軸部12aが当初の組立位置から図2の矢印a方向に変位すると、調整リンク12の可動軸部12cに連結した釈放レバー5の位置も図示矢印b方向に変位して反転ばね7(図1参照)との相対位置が変わることになる。この場合に、釈放レバー5の変位量が無視できない大きさになると、熱動形過負荷継電器の動作特性(出力接点開閉機構のトリップ動作ポイント)が変化して動作エラー(ミストリップ,不動作)を引き起こすおそれがある。
【0023】
かかる点、図示実施例の調整リンク機構では、図2のようにP点を起点とした距離L2をL1よりも短小(L2<L1)となるように設定している。これにより、固定軸部12aの変位(矢印a)に対する釈放レバー5の変位(矢印b)は小さくなるので、外郭ケース1の膨潤変形に起因する動作特性への影響を軽減できて製品の信頼性が向上する。
【0024】
次に、前記した実施例の調整リンク機構を、過負荷,欠相保護機能を備えたサーマルリレー(2Eサーマルリレー)に適用した実施例の構成を図5に示す。この実施例では、外郭ケース1の底部側に配した主回路(3相)の主バイメタル2に連係させたシフター3が、主バイメタル2の先端を挟んでその両側に互い違いに配置した2枚のシフター3a,3bと、シフター3aと3bとの間にまたがる出力レバー3cとの組立体からなり、該出力レバー3cの先端(上端)に結合したプッシャー部材を釈放レバー5に結合した絶縁物製のレバー5aに対向させている。なお、過負荷,欠相検出に対応したシフター機構,動作は周知であり、ここではその説明は省略する。
【0025】
また、外郭ケース1の内部の上半部には先記実施例で述べたと同様な出力接点開閉機構、調整ダイヤル11,調整リンク12,および補償バイメタル4を配置して熱動形過負荷継電器を構成している。なお、15は主回路の外部接続端子、16は出力接点の外部端子である。また、図中に表してないが、外郭ケース1はその外周面が壁で覆われている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例による熱動形過負荷継電器の組立構成図
【図2】図1における要部組立構造の斜視図
【図3】図1の過電流によるトリップ動作説明図
【図4】図1の補償バイメタルによる周囲温度補償機能の説明図
【図5】図1と異なる機種の熱動形過負荷継電器に適用した実施例の組立構成を示す斜視図
【図6】熱動形過負荷継電器の従来例の構成図
【図7】図6と異なる機種の従来例の構成図
【符号の説明】
【0027】
1 外郭ケース
2 主バイメタル
3 シフター
4 補償バイメタル
5 釈放レバー
5a 連係レバー(絶縁材製)
6 出力接点開閉機構
7 反転ばね
9,10 出力接点
11 調整ダイヤル
11a カム部
12 調整リンク
12a 固定軸部
12c 可動軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路電流の通電加熱を受けて湾曲変位する主バイメタルと、主バイメタルに連係させたシフタ−と、該シフタ−の変位に従動する釈放レバーと、該釈放レバーに反転ばねを介して連係した接点開閉機構と、整定電流設定用のカム付き調整ダイヤルと、該調整ダイヤルの従節としてダイヤルのカム部と前記釈放レバーとの間を連係する調整リンクと、および周囲温度の補償バイメタルからなる組立体を外郭ケースに内装し、過電流の通電による主バイメタルの湾曲変位を捉えて前記出力接点をトリップ動作させる熱動形過負荷継電器であって、前記調整リンクは固定軸部を介して外郭ケースに枢支した上で、該調整リンクの可動軸部に前記釈放レバーをリンク結合したものにおいて、
前記補償バイメタルを調整リンクと調整ダイヤルのカム部との間にまたがって架設し、周囲温度の変化に伴う補償バイメタルの湾曲変位を、調整リンクを介して釈放レバーに伝えて動作特性の温度補償を行うことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱動形過負荷継電器において、補償バイメタルはその一端を調整リンクの固定軸部と可動軸部との中間に結合し、先端を調整ダイヤルのカム部に当接させた片持ち梁形のバイメタルであることを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の熱動形過負荷継電器において、調整ダイヤルのカム部に当接させた補償バイメタルの先端部を起点として、釈放レバーに連結した調整リンクの可動軸部との間の距離を、外郭ケースに枢支した固定軸部との間の距離よりも短小に設定したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の熱動形過負荷継電器において、主バイメタルのシフターと釈放レバーとの間を絶縁材のレバーを介して連係させたことを特徴とする熱動形過負荷継電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−37978(P2009−37978A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203372(P2007−203372)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(503361927)富士電機アセッツマネジメント株式会社 (402)