説明

熱動形過負荷継電器

【課題】熱動形過負荷継電器のトリップ動作特性に与える影響が大きい常閉接点の可動接触子片について、接点を固着する製造過程で可動接触子片の先端部に生じる撓み,反り変形を抑えて安定した品質管理,トリップ動作特性を確保できるように改良する。
【解決手段】常閉接点13の固定接点13bに対向する可動接点13aを薄板ばね材で作られた可動接触子片13cの先端部に設け(カシメ止め)、この可動接触子片13cを主バイメタルの湾曲変位に応動して反転動作する反転機構に連係させてトリップ動作位置に駆動するようにした熱動形過負荷継電器において、可動接触子片13cの先端部の左右両側縁に曲げ加工を施してL曲げ部13c-1を形成する、あるいはビード加工を施して接点の取付部位を含む先端部の剛性を高めるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁接触器と組み合わせてモータなどの配電回路に適用する熱動形過負荷継電器(サーマルリレー)に関し、詳しくは反転機構に連係してそのトリップ動作,リセット操作により接点を開閉する補助接点の接点構造に係わる。
【背景技術】
【0002】
頭記の熱動形過負荷継電器として、そのケース内に過負荷電流を検知して湾曲変位する主バイメタル、該主バイメタルに連係したシフタの変位に従動する釈放レバー、釈放レバーの駆動により反転動作して常開接点,常閉接点をトリップさせる反転機構、およびトリップ動作後に反転機構を手動,ないし自動でリセット位置に復帰させるリセット棒を配備し、ここで前記反転機構は、一端を揺動支点としてフレームに枢支した反転板と、前記支点を挟んで反転板とフレームのばね支持部との間に張架された引張コイルばねの反転ばねとの組立体で構成し、過負荷電流による主バイメタルの湾曲変位を前記反転板に伝え、その反転動作に連動して前記常開接点,常閉接点を切替えるようにした熱動形過負荷継電器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
次に、従来における熱動形過負荷継電器の構造,動作を図3〜図6で説明する。なお、図3(a),(b)は主要部の組立図、図4は反転機構および該反転機構に連係したa接点の組立構造,動作の説明図、図5はb接点の組立構造図、図6はb接点の開閉動作の説明図である。
各図において、1は主バイメタル1aの周面に加熱ヒータ1bを巻装して主回路に接続したヒートエレメント、2は主バイメタル1aの自由端に連係したシフタ、3はシフタ2の先端に対向配置した温度補償バイメタル、4は温度補償バイメタル3に結合した釈放レバー、5は調整リンク、6は整定電流調整ダイヤル、7はその反転動作により後記するa接点(常開接点),b接点(常閉接点)をトリップ,リセット位置に切替え駆動する反転機構、8はトリップ動作した反転機構7を手動ないし自動でリセット位置に復帰させるリセット棒であり、後記する外部端子付きの導体フレームなどの部品と組み合わせてケース(不図示)に組み込んで熱動形過負荷継電器を構成している。
【0003】
ここで、反転機構7は、第1の導体フレームA9に下端を枢支して揺動自在に支持した反転板10と、前記の揺動支点を挟んで反転板10と前記導体フレームA9のアーム部A9aとの間に張架した反転ばね(引張コイルばね)11からなり、この反転ばね11の線条部に先記釈放レバー4の先端が対向している。
また、前記の反転機構7に連係して補助接点のa接点(常開接点)12およびb接点(常閉接点)13が次記のように配置されている。すなわち、a接点12については、図4で示すように可動接点12aを反転板10の上端部に設け、この可動接点12aに対向する固定接点12bは薄板ばね材で作られた固定接触子片12cの上端に設けた上で、該固定接触子片12cの下端が第2の導体フレームB14に結合されている。そして、この固定接触子片12aの背面側に先記したリセット棒8の操作端が対向している。なお、図中で1cはヒートエレメント1の上端からケースの背後に引き出した外部端子、A9bは可動接点12aに対応して前記導体フレームA9からケースの背後に引出した外部端子、B14aは固定接点12bに対応して前記導体フレームB14からケースの背後に引出した外部端子である。
一方、補助接点のb接点13は前記反転機構8の背後に配備されており(図3(b)参照)、その構造を図5に示す。すなわち、b接点13の可動接点13aは燐青銅などの薄板ばね材で作られた可動接触子片13cの上端部にカシメ止めして固着し、この可動接触子片13cはその下端部を第3の導体フレームC15に結合して片持ち式に支持されている。また、可動接点13aに対向する固定接点13bは固定接触子片13dに設け、該固定接触子片13dの下端部が第4の導体フレームD16に結合されている。なお、C15a,D16aは可動接点13a,固定接点13bに対応して前記導体フレームC15,D16からケースの背後に引出した外部端子である。
【0004】
そして、b接点13には、その可動接触子片13cの上端部(先端側)に対向して絶縁樹脂製の連動板17(図4(a)参照)を配置し、該連動板14が先記の反転板10に次記のように連係されている。すなわち、図4(a)において、連動板17はケース側に設けた支軸(不図示)に軸受部17aを介して回動可能に支持され、この軸受部17aと偏心した位置に形成した係合突起17bを介して反転板10の端部に係合連結されている。この組立位置で、連動板17に後部側に一体形成した操作部17cの端面がb接点13の可動接触子片13cに上端板面に対峙している。
上記の構成で、平時は反転機構7の反転板10が反転ばね11の付勢を受けて図4(a)の位置に傾動して停止している。この状態では、a接点12の可動接点12aは固定接点12bから開離して接点OFFである。また、反転板10に連係した連動板17の操作部17cはb接点13の可動接触子片13cから後退した位置に停止している。これにより、図6(a)で示すように、b接点13の可動接点13aは固定接点13bに接触してONとなり、かつ薄板ばね材で作られた可動接触子片13cのばね力(撓み応力)が接触圧を加えている。
この状態から、主回路に流れる過負荷電流によりヒートエレメント1のヒータ1bが発熱して主バイメタル1aが湾曲すると、シフタ2が図3(a)の矢印P方向に変位し、これに従動して釈放レバー4が時計方向に回動して反転ばね11の中腹(引張コイルばねの線状部)を押し込む。そして、釈放レバー4の回動がさらに進んで反転ばね11の作用線が反転板10の枢支支点を反対側に超えると、図4(b)のように反転板10は急速に反転動作して反時計方向に揺動する(トリップ動作)。
【0005】
これにより、a接点12は可動接点12aが固定接点12bに接触してON動作する。また、反転板10の反転動作に従動して、連動板17は軸受部18aを支点として時計方向に回動する(図4(b)参照)。これにより、図6(b)で示すように連動板17の操作部17cがb接点13の可動接触子片13cの上端部に突き当たってこれを押し込む。これにより、可動接点13aが固定接点13bから開離してb接点13がOFF動作する。そして、このb接点13のOFF動作信号を受けて電磁接触器が開極動作し、負荷に通じる主回路を断路する。なお、a接点12のON動作信号は外部のアラーム表示装置などに出力される。
一方、主回路電流の遮断後に主バイメタル1aが冷え、その湾曲が十分に戻って釈放レバー4が反転ばね11から後退したところで、リセット棒8(図3参照)を手動で押し込むと、リセット棒8の操作端がa接点12の可動接触子片12cを背後から押し込み、その押圧力が接点を介して反転板10に加わる。このリセット操作過程で反転板10が反転ポイントを超えると反転ばね11の付勢により初期位置に反転動作し、同時にこの反転板10の反転動作に従動して連動板17が図6(a)の位置に戻る(リセット動作)。これにより、a接点12はOFFとなり、またb接点13はON位置(図6(a)参照)に復帰し、この接点の切替え動作により電磁接触器が閉極して主回路の通電が再開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平2−18915号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記の熱動形過負荷継電器については、仕様で定めた動作特性を安定確保するために製品の部品,および組立精度に高い品質管理が要求される。特に熱動形過負荷継電器のトリップ動作特性に関与するb接点については、その部品の寸法,形状,組立位置にバラツキがあると動作不良の原因となる。
すなわち、図5に示したb接点の組立構造における可動接触子片13cについては、図6で示すように反転機構7の反転板10に連係した連動板17の操作部17c(図4参照)が可動接触子片13cの上端板面に対峙し、熱動形過負荷継電器のトリップ動作時にはこの操作部17cが可動接触子片13cの上端部(力の作用点となる)の板面に当接して押し込み、可動接点13aを固定接点13bから開離させる。したがって、可動接触子片13cの板面に撓み,反りなどの変形が生じていると、可動接触子片13の上端部と連動板17の操作部17cとの間の初期ギャップがばらつき、これが原因でトリップ動作時におけるb接点の開離動作が滞ったり、遅れたりしてトリップ動作不良を引き起こすおそれがある。
しかも、先記のように従来の可動接触子片13cは、板厚が0.1〜0.15mm程度の薄板ばね材で作られており、その上端側の板面に可動接点13aをカシメ止めしていることから、このカシメ加工の際に加わる加工荷重を受けて母材である可動接触子片13cに撓み,反りなどの変形が生じ易く、このために製品の組立状態では可動接触子片13の上端部と連動板17の操作部17cとの間の初期ギャップがばらつくようになる。
【0008】
そこで、従来では組立工程を経て完成した段階で製品の個体ごとに検査を行いし、その検査工程では前記反転機構を機械的にトリップ,リセット操作して接点のトリップ動作特性,リセット動作特性を確認,評価し、その評価結果に基づき組立部品を調整して検査に合格した製品を出荷するようにしている。しかしながら、この部品調整工程では製品の一部を一旦分解した上で、調整を要する部品の変形の矯正,組立位置の調整,部品を交換するなど、その調整作業には手間と時間が掛かることからその改善策が要望されている。
この発明は上記の点に鑑みなされたものであり、トリップ動作特性に与える影響が大きい常閉接点の可動接触子片について、その板面に接点を固着する製造過程で生じる撓み,反りなどの変形,バラツキを抑えてトリップ動作特性,製品の品質安定化が図れるように改良した熱動形過負荷継電器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明によれば、固定接点に対向する可動接点を薄板ばね材で作られた可動接触子片の先端部に設け、この可動接触子片を主バイメタルの湾曲変位に応動して反転動作する反転機構に連係させてトリップ動作位置に駆動するようにした熱動形過負荷継電器において、
接点取付部位を含む前記可動接触子片の先端部の剛性を高める補強手段として、
(1)第1の発明では、可動接点を設けた可動接触子片の先端部の左右両側縁に曲げ加工を施す(請求項1)。
(2)また、第2の発明では、可動接点を設けた可動接触子片の先端部の板面にビード加工を施す(請求項2)。
(3)ここで、前記の可動接触子片は、一端を導体フレームに片持ち支持してその先端部に可動接点をカシメ止めした常閉接点の可動接触子片であり、該可動接触子片の先端部を反転機構の連動板に対向配置する(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、薄板ばね材で作られた可動接触子片の先端部に曲げ加工,ビード加工を施しておくことによりこの部分の剛性が高まり、可動接点を固着(カシメ止め)する加工の際に加わる荷重によって不要な撓み,反りなどの変形,バラツキが生じるのを効果的に抑えることができる。
これにより、部品の安定した品質管理が達成され、製品組立後に行う検査工程での可動接点に対する調整作業を省略,ないし簡略化して仕様通りのトリップ,リセット動作特性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の第1実施例による可動接触子片を用いて構成した常閉接点の斜視構造図である。
【図2】この発明の第2実施例による可動接触子片を用いて構成した常閉接点の構造図であって、(a)は全体の斜視図、(b)は(a)におけるA部の拡大図である。
【図3】この発明の実施対象となる熱動形過負荷継電器の主要部の組立構造図であって、(a),(b)はそれぞれ正面側,背面側から見た俯瞰図である。
【図4】図3における反転機構,および常開接点の構造,および動作の説明図であって、(a)はリセット状態,(b)トリップ動作の状態を表す図である。
【図5】図3における常閉接点の従来における組立構造の斜視である。
【図6】図5に示した常閉接点の動作説明図であって、(a)はリセット状態,(b)トリップ動作状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を図1〜図6に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
まず、図1にこの発明の請求項1に対応した常閉接点(b接点)の組立構造を示す。この実施例では、図5に示した従来構造のb接点13と同様に、可動接点13aを上端側の板面にカシメ止めして固着した薄板ばね材の可動接触子片13cについて、可動接点13aの固着部位を含む先端側板面の左右側縁に曲げ加工を施してL曲げ部13c-1を形成し、この部分の撓み剛性を高めるようにしている。
上記の構成によれば、可動接点13aをカシメ止めする際の加工によって可動接触子片13cの先端部に撓み,反りなどの変形が生じるのを抑えることができて安定した部品の品質管理が確保される。したがって、この常閉接点13を図3のように熱動形過負荷継電器のケース内に組み込み、この位置で反転機構7の反転板10に連係した連動板17の操作部17cに対向させて連係配置した製品の組立状態では、操作部17cと該操作部17cから加わる力の作用点となる可動接触子片13cの先端部との間の初期ギャップのバラツキ発生を小さく抑えて、トリップ動作特性の安定化が図れる。
これにより、熱動形過負荷継電器の製品組立後にそのトリップ,リセット動作特性を確認,評価する検査工程での接点の調整作業を、従来と比べて大幅に簡略化できる。
【実施例2】
【0014】
次に、この発明の請求項2に対応する第2の実施例を図2(a),(b)で説明する。この実施例では、常閉接点13の可動接触子片13cに対する補強手段として、可動接点13aをカシメ止めする上端部の面域にビード加工を施して図示のようなビード13c-2を形成してこの部分の撓み剛性を高めるようにしている。
これにより、先記の実施例1と同様な効果を奏することができる。
なお、先記の実施例1,2では、b接点13を対象としてその可動接触子片13cの先端部の剛性を高める補強手段について述べたが、同様な剛性補強手段は図3に示したa接点12の固定接点12bを先端に設けた固定接触子片12cにも適用することができる。
【符号の説明】
【0015】
1:ヒートエレメント
1a:主バイメタル
2:シフタ
4:釈放レバー
7:反転機構
8:リセット棒
10:反転板
11:反転ばね
12:a接点(常開接点)
13:b接点(常閉接点)
13a:可動接点
13b:固定接点
13c:可動接触子片
13c-1:L曲げ部
13c-2:ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点に対向する可動接点を薄板ばね材で作られた可動接触子片の先端部に設け、この可動接触子片を主バイメタルの湾曲変位に応動して反転動作する反転機構に連係させてトリップ動作位置に駆動するようにした熱動形過負荷継電器において、
接点取付部位を含む前記可動接触子片の先端部の剛性を高める補強手段として、可動接点を設けた可動接触子片の先端部の左右両側縁に曲げ加工を施したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項2】
固定接点に対向する可動接点を薄板ばね材で作られた可動接触子片の先端部に設け、この可動接触子片を、主バイメタルの湾曲変位に従動して反転動作する反転機構に連係させて接点をトリップ位置に駆動するようにした熱動形過負荷継電器において、
接点取付部位を含む前記可動接触子片の先端部の剛性を高める補強手段として、可動接点を設けた可動接触子片の先端部の板面にビード加工を施したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかの項に記載の熱動形過負荷継電器において、可動接触子片は、一端を導体フレームに片持ち支持してその先端部に可動接点をカシメ止めした常閉接点の可動接触子片であり、該可動接触子片の先端部を反転機構の連動板に対向配置したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−159390(P2011−159390A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17683(P2010−17683)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)