説明

熱動形過負荷継電器

【課題】過負荷電流発生時、或いは欠相発生時における押しシフタ、引きシフタ及び差動レバーの動作特性を安定させ、バイメタルの湾曲変位を効率良く接点機構に伝達することができる熱動形過負荷継電器を提供する。
【解決手段】収納空間仕切り壁10及びバイメタル仕切り壁15,16にシフタ摺動用スリット10a,15a,16aを形成し、これらシフタ摺動用スリットに押しシフタ7及び引きシフタ8を挿入する。押しシフタ及び引きシフタのそれぞれに、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在するガイド長穴22,23,30,31を形成する。バイメタル仕切り壁のシフタ摺動用スリット15a,16aのスリット面に、ガイド長穴22,23,30,31の長軸方向の内壁に係合する係合突起24,25,32,33を形成する。これらガイド長穴、係合突起をシフタ変位ガイド部として押しシフタ及び引きシフタが変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機などの過電流保護及び欠相保護を行う熱動形過負荷継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば配線用遮断器、電磁接触器などとともに用いられ、電動機などの過電流保護及び欠相保護を行う熱動形過負荷継電器として、例えば特許文献1の装置が知られている。
この特許文献1の熱動形過負荷継電器は、ケース内に、昇温時における湾曲変位方向を一致させて列状に配置した複数のバイメタル及び各バイメタルに巻装したヒータエレメントからなるヒータと、差動シフタ機構と、接点が開閉する接点機構と、差動シフタ機構に連動して接点機構の開閉動作を行なう接点開閉機構とが収納されている。
差動シフタ機構は、バイメタルの湾曲変位に従動する平板状の押しシフタ及び引きシフタと、押しシフタ及び引きシフタに係合し、接点開閉機構を連動させる差動レバーとを備えている。
【0003】
押しシフタは、バイメタルが延在する方向に対して直交する方向に面方向が延在し、各バイメタルの湾曲変位方向の一方の面に係合し、湾曲変位方向に略沿って変位可能に配置されている。また、引きシフタは、押しシフタと同一平面に配置され(厚み方向が押しシフタと同一平面となるように配置され)、複数のバイメタルの湾曲変位方向の他方の面に係合して湾曲変位方向に略沿って変位可能とされている。
そして、ヒータは、ケースに設けた第1収納空間に収納され、接点開閉機構は、第1収納空間に隣接してケースに設けた第2収納空間に収納され、差動シフタ機構の押しシフタ、引きシフタ及び差動レバーが第1及び第2収納空間に跨がった位置に収納され、差動レバーが接点開閉機構を直接に連動させる構造としている。
【0004】
上記構成の熱動形過負荷継電器は、主回路に過負荷電流が流れると、ヒータエレメントの発熱による複数のバイメタルの湾曲変位で押しシフタが押されて変位し、それにより差動レバーが変位し、押しシフタ及び差動レバーとともに引きシフタも変位する。差動レバーが変位すると、接点開閉機構が連動して接点機構の接点を切替え動作させる。また、欠相発生時には、欠相の生じた相の湾曲変位しないバイメタルが引きシフタの変位を規制し、押しシフタは過負荷電流が流れたときと同様に変位する。このように、押しシフタ及び引きシフタの変位量に差が生じることで差動レバーが大きく変位し、過負荷電流が流れたときより早く接点開閉機構が連動し、接点機構の接点を切替え動作させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭59−21134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、押しシフタ及び引きシフタは厚み方向が同一平面となるように配置されているが、これら押しシフタ及び引きシフタが、前記平面上においてバイメタルの湾曲変位方向に沿う方向に直交する方向は、バイメタルに係合せず変位が規制されていない(以下、湾曲変位方向に沿う方向に直交する方向を非規制方向と称する)。すなわち、押しシフタ及び引きシフタは、非規制方向の周縁部がケースの内壁との接触のみで支持されていることから、非規制方向へのガタが大きく、バイメタルが湾曲変形して押圧された押しシフタ及び引きシフタは、非規制方向に変位する場合がある。したがって、過負荷電流発生時、欠相発生時の押しシフタ及び引きシフタの湾曲変位方向への変位量が小さくなってしまい、差動シフタ機構の動作特性が安定しないという問題がある。
そこで、本発明は、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時における差動シフタ機構(押しシフタ、引きシフタ及び差動レバー)の動作特性を安定させ、バイメタルの湾曲変位を効率良く接点機構に伝達することができる熱動形過負荷継電器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る熱動形過負荷継電器は、ケース内に収納空間仕切り壁を間に設けて隣接して設けた第1収納空間及び第2収納空間と、昇温時の湾曲変位方向が前記第2収納空間を向くように一致させて前記第1収納空間に列状に配置した複数のバイメタルと、前記収納空間仕切り壁と平行に前記第1収納空間に設けられ、前記複数のバイメタルを個別に収納する複数のバイメタル仕切り壁と、前記第2収納空間に配置されて接点機構の開閉動作を行なう接点開閉機構と、厚み方向が同一平面となるように配置され、前記複数のバイメタルの自由端部に係合して前記第1収納空間及び前記第2収納空間に跨がりながら延在している平板状の押しシフタ及び引きシフタと、前記押しシフタ及び前記引きシフタの前記第2収納空間に位置する部位に係合した差動レバーと、を備え、前記複数のバイメタルの湾曲変位により前記押しシフタ及び前記引きシフタが変位して前記差動レバーが従動すると、当該差動レバーの変位が前記接点開閉機構の伝達部材に直接伝達されるようにした熱動形過負荷継電器において、前記押しシフタ及び前記引きシフタが直線状に変位するように支持するシフタ変位ガイド部を設けたことを特徴とする熱動形過負荷継電器である。
【0008】
この発明によると、押しシフタ及び引きシフタは、シフタ変位ガイド部により湾曲変位方向に沿う方向以外の変位が規制され、押しシフタ、引きシフタ及び差動レバーの動作特性を安定させることができるので、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時のバイメタルの湾曲変位を効率良く接点機構に伝達させることが可能となる。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の熱動形過負荷継電器において、前記収納空間仕切り壁及び前記複数のバイメタル仕切り壁のそれぞれにシフタ摺動用スリットを形成し、これらシフタ摺動用スリットに前記押しシフタ及び前記引きシフタを挿入し、前記シフタ変位ガイド部として、前記押しシフタ及び前記引きシフタのそれぞれに形成され、前記湾曲変位方向に沿って直線状に延在する少なくとも2箇所のガイド長穴と、前記複数のバイメタル仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリットのスリット面に形成され、前記押しシフタ及び前記引きシフタの前記ガイド長穴の長軸方向の内壁に係合して入り込む係合突起と、を設け、前記係合突起の周面及び前記ガイド長穴の長軸方向の内壁が摺動しながら前記押しシフタ及び前記引きシフタが変位するようにした。
【0010】
この発明によると、シフタ変位ガイド部として、押しシフタ及び引きシフタのそれぞれに形成したガイド長穴と、複数のバイメタル仕切り壁のシフタ摺動用スリットのスリット面に形成した係合突起とが互いに摺動するようにしたので、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時に、押しシフタ及び引きシフタが回動して湾曲変位方向への変位量が小さくなることが確実に解消される。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の熱動形過負荷継電器において、前記収納空間仕切り壁及び前記複数のバイメタル仕切り壁のそれぞれにシフタ摺動用スリットを形成し、これらシフタ摺動用スリットに前記押しシフタ及び前記引きシフタを挿入し、前記シフタ変位ガイド部として、前記押しシフタ及び前記引きシフタのそれぞれに形成され、前記湾曲変位方向に沿って直線状に延在する2箇所のガイド長穴と、前記収納空間仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリット及び前記収納空間仕切り壁に対して最も離間した前記バイメタル仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリットのスリット面に形成され、前記押しシフタ及び前記引きシフタの前記ガイド長穴の長軸方向の内壁に係合して入り込む係合突起と、を設け、前記係合突起の周面及び前記ガイド長穴の長軸方向の内壁が摺動しながら前記押しシフタ及び前記引きシフタが変位するようにした。
【0012】
この発明によると、シフタ変位ガイド部として、押しシフタ及び引きシフタのそれぞれに形成したガイド長穴と、収納空間仕切り壁に形成したシフタ摺動用スリット及び収納空間仕切り壁に対して最も離間したバイメタル仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリットのスリット面に形成した係合突起とが互いに摺動するようにしており、収納空間仕切り壁のスリット面及び収納空間仕切り壁に対して最も離間したバイメタル仕切り壁のスリット面を使用することで、請求項2の発明と比較して、押しシフタ及び引きシフタを支持するピッチが長く設定されることになり、押しシフタ及び引きシフタをさらに直線状に変位させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る熱動形過負荷継電器によれば、押しシフタ及び引きシフタは、シフタ変位ガイド部により湾曲変位方向に沿う方向以外の変位が規制され、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時に押しシフタ及び引きシフタが回動して湾曲変位方向への変位量が小さくなることが解消されるので、押しシフタ、引きシフタ及び差動レバーの動作特性を安定させることができ、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時のバイメタルの湾曲変位を効率良く接点機構に伝達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る熱動形過負荷継電器の内部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の押しシフタ及び引きシフタとこれらを支持する構造を取付け側から示した図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態の押しシフタ及び引きシフタとこれらを支持する構造を取付け側から示した図である。
【図4】図3のA−A矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示す熱動形過負荷継電器1は、三相交流の主回路を制御対象とし、過負荷電流が発生した場合、及び、欠相が生じた場合に接点を開閉し、電磁接触器等の回路遮断手段を動作させる装置である。
本実施形態の熱動形過負荷継電器1は、図1に示すように、ケース2内に、ヒータ3、差動シフタ機構4、接点機構5及び接点開閉機構6が収納されており、差動シフタ機構4は、平板状の押しシフタ7、引きシフタ8及び差動レバー9で構成されている。
【0016】
ケース2は、例えば樹脂製のインジェクション成型品であり、このケース2の図1における上部に接点機構5が収納されている。
接点機構5は、過負荷保護時、又は欠相保護時に接点が開閉されるものであって、図示しない電磁接触器等の回路遮断器に接続される。
ケース2には、接点機構5と図1の下端の取付け板2aとの間の内部空間を図1の左右の空間に仕切る仕切り壁10が設けられており、図1の右側の空間が第1収納空間11とされ、図1の左側の空間が第2収納空間12とされている。なお、取付け板2a近傍の仕切り壁10にはスリット10aが形成されている。
【0017】
第1収納空間11にはヒータ3が収納されており、第2収納空間12には接点開閉機構6が収納されている。
ヒータ3は、三相交流のR,S,Tの各相に対応して設けられ、熱膨張率の異なった1対の金属板を層状に接合した帯板状の部材である3本のバイメタル12R,12S,12Tと、これらバイメタル12R,12S,12Tにそれぞれ巻き付けられた抵抗線であるヒータエレメント13R,13S,13Tとで構成されており、ヒータエレメント13R,13S,13Tに加熱されるとバイメタル12R,12S,12Tが湾曲変位する。
【0018】
第1収納空間11には、3本のバイメタル12R,12S,12Tを図1の左右方向に個別に収納するため、図1の上下方向に延在し、互いに平行な2箇所のバイメタル仕切り壁15,16が形成されており、これらバイメタル仕切り壁15,16の取付け板2a近傍にはスリット15a,16aが形成されている。これらバイメタル仕切り壁15,16、仕切り壁10及びケース2の側壁の間の空間に、各バイメタル12R,12S,12Tが略平行かつ等間隔に配列され、一方の端部(図1の上端部)が、支持金具17を介してケース2に固定されているとともに、他方の自由端部(図1の下端部)が、差動シフタ機構4の押しシフタ7及び引きシフタ8と係合している。
【0019】
各バイメタル12R,12S,12Tの配列方向は、それらの厚み方向と略一致する図1の左右方向であり、各バイメタル12R,12S,12Tの湾曲変位方向は配列方向に一致している。
そして、差動シフタ機構4の押しシフタ7及び引きシフタ8を、バイメタル仕切り壁15,16に設けたスリット15a,16a、仕切り壁10に設けたスリット10aにスライド自在に配置し、差動シフタ機構4の差動レバー9を、第2収納空間12に位置する押しシフタ7及び引きシフタ8に係合することで、差動シフタ機構4は、第1収納空間11及び第2収納空間12に跨がりながら、取付け板2aに沿ってケース2内に収納されている。
【0020】
接点開閉機構6は、差動シフタ機構4に連動して、接点機構5の接点を開閉駆動する伝達機構であり、差動シフタ機構4の差動レバー9に直接押圧される補償バイメタル6aを備えている。
図2は、本発明に係る第1実施形態の差動シフタ機構4を構成する押しシフタ7、引きシフタ8及び差動レバー9を示すものである。なお、この図2では、破線で囲まれた四角形状の空間を第1収納空間11とし、1点鎖線で囲まれた四角形状の空間を第2収納空間12としている。
【0021】
本実施形態の押しシフタ7及び引きシフタ8は、各相のバイメタル12R,12S,12Tの延在方向に直交する方向に面方向が延在し、厚み方向が同一平面となるように配置された板状部材である。また、図2の矢印X方向及び矢印Y方向は、押しシフタ7及び引きシフタ8を配置した同一平面上で延在する方向であり、矢印X方向は、各相のバイメタル12R,12S,12Tが湾曲変位する方向(以下、湾曲変位方向Xと称する)。
【0022】
押しシフタ7は、第1収納空間11から第2収納空間12まで延在して配置され、バイメタル仕切り壁15,16のスリット15a,16a及び仕切り壁10のスリット10aに摺動する帯状部18と、この帯状部18の側縁部から突出して形成された3つの腕部19R、19S、19Tと、これら腕部19R、19S、19Tにそれぞれ形成され、各相のバイメタル12R,12S,12Tが加熱されて湾曲変位した際に押圧される当接部20R、20S、20Tと、接点開閉機構6の補償バイメタル6a側に設けた腕部19Tに形成され、湾曲変位方向Xに向けて突出している押圧部21とを備えた部材である。
【0023】
また、帯状部18には、バイメタル仕切り壁15,16のスリット15a,16aに摺動する部位に2箇所のガイド長穴22,23が形成されている。これらガイド長穴22,23は、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在する長穴である。そして、これら2箇所のガイド長穴22,23に、バイメタル仕切り壁15,16に形成したスリット15a,16aのスリット面から突出する係合突起24,25がそれぞれ入り込んでいる。これら係合突起24,25は、これら係合突起24,25の周面がガイド長穴22,23の長軸方向の内壁に摺動自在となるように、ガイド長穴22,23の短軸方向の幅と略同一外径寸法の円筒形状に形成されている。
【0024】
また、引きシフタ8は、第1収納空間11から第2収納空間12まで延在して配置され、スリット15a,16a及びスリット10aに摺動する帯状部26と、この帯状部26の側縁部から突出して形成された3つの腕部27R、27S、27Tと、各相のバイメタル12R,12S,12Tが加熱されて湾曲変位する方向に対して反対側の部位に当接する当接部28R、28S、28Tと、帯状部26の第2収納空間12に位置する部位に形成されたピン挿入穴29とを備えた部材である。
【0025】
そして、帯状部26には、スリット15a,16aに摺動する部位に2箇所のガイド長穴30,31が形成されている。これらガイド長穴30,31は、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在する長穴である。そして、これら2箇所のガイド長穴30,31に、スリット15a,16aのスリット面から突出する係合突起32,33がそれぞれ入り込んでいる。これら係合突起32,33は、これら係合突起32,33の周面がガイド長穴30,31の長軸方向の内壁に摺動自在となるように、ガイド長穴30,31の短軸方向の幅と略同一外径寸法の円筒形状に形成されている。
【0026】
一方、差動レバー9は、湾曲変位方向Xに直交する方向Yに沿って配置した板状部材であり、一端側に回転ピン34が形成され、他端側に、接点開閉機構6の補償バイメタル6aに当接する押圧部35が形成され、回転ピン34及び押圧部35の間に、押しシフタ7の押圧部21が当接する当接壁9aが形成されている。
この差動レバー9は、引きシフタ8のピン挿入穴29に回転ピン34を挿入することで、引きシフタ8に対して回転ピン34を回転中心として回動可能となるように連結されている。
【0027】
次に、本実施形態の差動シフタ機構4の動作について説明する。
先ず、欠相が生じていない状態においては、主回路電流が通流されるヒータエレメント13R,13S,13Tによって、各相のバイメタル12R,12S,12Tは実質的に均等に加熱される。この加熱によってバイメタル12R,12S,12Tは湾曲変位が生じ、それらの自由端部が、図2で示す湾曲変位方向Xに変位する。これによって、押しシフタ7の各当接部20R,20S,20Tがバイメタル12R,12S,12Tの自由端部に押され、押しシフタ7は補償バイメタル6a側に変位する。この変位量は、バイメタル12R,12S,12Tの湾曲変位量とほぼ一致する。また、このとき引きシフタ8は、押しシフタ7に追従して補償バイメタル6a側に変位する。その結果、差動レバー9も補償バイメタル6a側へ平行移動する。
【0028】
そして、欠相が生じていない状態において、主回路に過負荷電流が流されると、バイメタル12R,12S,12Tの温度は通常使用時よりも上昇し、湾曲変位が大きくなる。これによって、押しシフタ7、引きシフタ8、差動レバー9の補償バイメタル6a側への変位量が大きくなり、差動レバー9の押圧部35が補償バイメタル6aを押圧し、この押圧力は接点開閉機構6を介して接点機構5に伝達され、接点の開閉が行われて回路保護が働く。
【0029】
次に、欠相が生じた場合の動作について説明する。ここでは、例として、R相が欠相した場合について説明する。R相が欠相すると、対応するバイメタル12Rは他のバイメタル12S,12Tに対して加熱されず低温となるので、湾曲変位は発生しないか、湾曲変位が発生したとしても他のバイメタル12S,12Tに対して小さくなる。このようにバイメタル12R,12S,12Tの湾曲変位量が相ごとに変化すると、押しシフタ7は、最も湾曲変位が大きいバイメタル12S,12Tの変位量だけ補償バイメタル6a側に変位するが、引きシフタ8は最も湾曲変位が小さいバイメタル12Rの変位量しか変位せず、押しシフタ7と引きシフタ8の変位量に差が生じる。このような差動が生じると、差動レバー9は、回転ピン34回りに、図2における反時計回りに回動する。この回動によって、差動レバー9の押圧部35の変位量は、押しシフタ7の変位量よりも大きくなり、欠相が生じた場合には、過負荷電流が流れたときより早く接点開閉機構6が動作し、欠相が生じていない場合に対して比較的小さい電流であっても回路保護が働く。
【0030】
ここで、本実施形態では、押しシフタ7の帯状部18には、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在する2箇所のガイド長穴22,23が形成されており、押しシフタ7が補償バイメタル6a側に変位する際には、2箇所のガイド長穴22,23が、バイメタル仕切り壁15,16のスリット15a,16aから突出する係合突起24,25に係合し続ける。また、引きシフタ8の帯状部26にも、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在する2箇所のガイド長穴30,31が形成されており、引きシフタ8が補償バイメタル6a側に変位する際には、2箇所のガイド長穴30,31が、バイメタル仕切り壁15,16のスリット15a,16aから突出する係合突起32,33に係合し続ける。
【0031】
このように、押しシフタ7は、ガイド長穴22,23及び係合突起24,25が係合することで、湾曲変位方向Xに直交する方向Yへの変位が規制される(湾曲変位方向X以外の変位が規制される)。また、引きシフタ8も、ガイド長穴30,31及び係合突起32,33が係合することで、湾曲変位方向Xに直交する方向Yへの変位が規制される(湾曲変位方向X以外の変位が規制される)。したがって、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時には、押しシフタ7及び引きシフタ8が回動して湾曲変位方向Xへの変位量が小さくなることが解消されるので、差動シフタ機構4の動作特性を安定させることができる。
したがって、本実施形態は、差動シフタ機構4の動作特性を安定させることができるので、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時のバイメタル12R,12S,12Tの湾曲変位を効率良く接点機構5に伝達させることができる熱動形過負荷継電器1を提供することができる。
【0032】
次に、図3及び図4は、本発明に係る第2実施形態の差動シフタ機構4を示すものである。なお、図2に示す構成と同一構成部分には、同一符号を付してその説明を省略する。
本実施形態の差動シフタ機構4は、図2で示したものと略同形状の押しシフタ7及び引きシフタ8と、差動レバー36とで構成されており、押しシフタ7及び引きシフタ8は、各相のバイメタル12R,12S,12Tの延在方向に直交する方向に面方向が延在し、互いに同一平面上に配置されている。
【0033】
本実施形態の押しシフタ7は、図2で示した帯状部18のバイメタル仕切り壁16のスリット16aに摺動する部位にガイド長穴23を形成しておらず、代わりに、図3に示すように、仕切り壁10のスリット10aに摺動する部位に、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在するガイド長穴37が形成されている。そして、ガイド長穴37には、仕切り壁10のスリット10aのスリット面から突出する係合突起38が入り込んでおり、この係合突起38は、突起周面がガイド長穴37の長軸方向の内壁に摺動自在となるように、ガイド長穴37の短軸方向の幅と略同一外径寸法の円筒形状に形成されている。
【0034】
また、引きシフタ8は、図2で示した帯状部26のバイメタル仕切り壁16のスリット16aに摺動する部位にガイド長穴23を形成しておらず、代わりに、図3に示すように、仕切り壁10のスリット10aに摺動する部位に、湾曲変位方向Xに沿って直線状に延在するガイド長穴39が形成されている。そして、ガイド長穴39には、仕切り壁10のスリット10aのスリット面から突出する係合突起40が入り込んでおり、この係合突起40は、突起周面がガイド長穴39の長軸方向の内壁に摺動自在となるように、ガイド長穴39の短軸方向の幅と略同一外径寸法の円筒形状に形成されている。
【0035】
本実施形態の差動レバー36は、湾曲変位方向Xに直交する方向Yに沿って配置した部材であり、一端側に、一対の挟持板部41,42が形成され(図4参照)、一方の挟持板部41から回転ピン43が突出して形成され、他端側に、接点開閉機構6の補償バイメタル6aに当接する押圧部44が形成され、一対の挟持板部41,42と押圧部44の間に、押しシフタ7の押圧部21が当接する当接壁45が形成されている。
【0036】
一対の挟持板部41,42は、第2収納空間に位置する引きシフタ8の帯状部26の一端側の表裏面を挟持する部材であり、図4に示すように、一方の挟持板部41から突出した回転ピン43に引きシフタ8のピン挿入穴29に回転ピン43を挿入することで、差動レバー36が、引きシフタ8に対して回転ピン43を回転中心として回動可能となるように連結されている。
【0037】
ここで、回転ピン43をピン挿入穴29に挿入するには、先ず、他方の挟持板部42が引きシフタ8の表面に当接しない位置、すなわち、図3において差動レバー36を引きシフタ8の一端側の下方位置に配置し、その状態で回転ピン43を引きシフタ8のピン挿入穴29に挿入した後、回転ピン43を回転中心として差動レバー36を時計回りに略180°回転させる動作を行なう。
【0038】
次に、本実施形態の差動シフタ機構4の動作について説明する。
欠相が生じていない状態において、主回路に過負荷電流が流されると、バイメタル12R,12S,12Tの温度は通常使用時よりも上昇し、湾曲変位が大きくなり、押しシフタ7、引きシフタ8、差動レバー36の補償バイメタル6a側への変位量が大きくなり、差動レバー36の押圧部44が補償バイメタル6aを押圧し、この押圧力が接点開閉機構6を介して接点機構5に伝達され、接点の開閉が行われて回路保護が働く。
【0039】
また、欠相が生じた場合(例えば、R相が欠相した場合)には、押しシフタ7は、最も湾曲変位が大きいバイメタル12S,12Tの変位量だけ補償バイメタル6a側に変位するが、引きシフタ8は最も湾曲変位が小さいバイメタル12Rの変位量しか変位せず、押しシフタ7と引きシフタ8の変位量に差が生じる。このような差動が生じることにより、差動レバー36は、回転ピン43回りに、図3における反時計回りに回動する。この回動によって、差動レバー36の押圧部44の変位量は、押しシフタ7の変位量よりも大きくなり、欠相が生じた場合には、過負荷電流が流れたときより早く接点開閉機構6が動作し、欠相が生じていない場合に対して比較的小さい電流であっても回路保護が働く。
【0040】
ここで、本実施形態では、押しシフタ7の帯状部18には、第1実施形態で示した2箇所のガイド長穴22,23と比較して互いの距離が長い、2箇所のガイド長穴22、37が形成されており、押しシフタ7が補償バイメタル6a側に変位する際には、2箇所のガイド長穴22,37が、バイメタル仕切り壁15のスリット15aから突出する係合突起24と、仕切り壁10のスリット10aから突出する係合突起38に係合し続ける。
【0041】
また、本実施形態の引きシフタ8の帯状部26にも、第1実施形態で示した2箇所のガイド長穴30,31と比較して互いの距離が長い、2箇所のガイド長穴30、39が形成されており、引きシフタ8が補償バイメタル6a側に変位する際には、2箇所のガイド長穴30,39が、バイメタル仕切り壁15のスリット15aから突出する係合突起32と、仕切り壁10のスリット10aから突出する係合突起40に係合し続ける。
【0042】
このように、本実施形態の押しシフタ7は、第1実施形態と比較して、ガイド長穴22,37及び係合突起24,38によって湾曲変位方向Xに直交する方向Yへの変位を規制する(湾曲変位方向X以外の変位を規制する)ための規制ピッチが長く設定されており、引きシフタ8も、第1実施形態と比較して、ガイド長穴30,39及び係合突起32,40によって湾曲変位方向Xに直交する方向Yへの変位を規制する(湾曲変位方向X以外の変位を規制する)ための規制ピッチが長く設定されているので、押しシフタ7及び引きシフタ8の変位方向は、ほとんど湾曲変位方向Xに沿った直線方向となる。
【0043】
したがって、本実施形態では、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時には、押しシフタ7及び引きシフタ8の変位方向が湾曲変位方向Xに沿った直線方向となるので、差動シフタ機構4の動作特性をさらに安定させることができる。
また、本実施形態は差動シフタ機構4の動作特性をさらに安定させることができるので、過負荷電流発生時、或いは欠相発生時のバイメタル12R,12S,12Tの湾曲変位を、さらに効率良く接点機構5に伝達させることができる熱動形過負荷継電器1を提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…熱動形過負荷継電器、2…ケース、2a…取付け板、3…ヒータ、4…差動シフタ機構、5…接点機構、6…接点開閉機構、6a…補償バイメタル(伝達部材)、7…押しシフタ、8…引きシフタ、9…差動レバー、9a…当接壁、10…仕切り壁(収納空間仕切り壁)、10a…スリット(シフタ摺動用スリット)、11…第1収納空間、12…第2収納空間、12R,12S,12T…バイメタル、13R,13S,13T…ヒータエレメント、15,16…バイメタル仕切り壁、15a,16a…スリット(シフタ摺動用スリット)、17…支持金具、18…押しシフタの帯状部、19R,19S,19T…押しシフタの腕部、20R,20S,20T…押しシフタの当接部、21…押しシフタの押圧部、22,23…押しシフタのガイド長穴、24,25…係合突起、26…引きシフタの帯状部、27R,27S,27T…引きシフタの腕部、28R,28S,28T…引きシフタの当接部、29…ピン挿入穴、30…ガイド長穴、30,31…引きシフタのガイド長穴、32,33…係合突起、34…回転ピン、35…引きシフタの押圧部、36…差動レバー、37…押しシフタのガイド長穴、38…係合突起、39…引きシフタのガイド長穴、40…係合突起、41,42…挟持板部、43…回転ピン、44…押圧部、45…当接壁、X…湾曲変位方向、Y…湾曲変位方向に直交する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に収納空間仕切り壁を間に設けて隣接して設けた第1収納空間及び第2収納空間と、昇温時の湾曲変位方向が前記第2収納空間を向くように一致させて前記第1収納空間に列状に配置した複数のバイメタルと、前記収納空間仕切り壁と平行に前記第1収納空間に設けられ、前記複数のバイメタルを個別に収納する複数のバイメタル仕切り壁と、前記第2収納空間に配置されて接点機構の開閉動作を行なう接点開閉機構と、厚み方向が同一平面となるように配置され、前記複数のバイメタルの自由端部に係合して前記第1収納空間及び前記第2収納空間に跨がりながら延在している平板状の押しシフタ及び引きシフタと、前記押しシフタ及び前記引きシフタの前記第2収納空間に位置する部位に係合した差動レバーと、を備え、前記複数のバイメタルの湾曲変位により前記押しシフタ及び前記引きシフタが変位して前記差動レバーが従動すると、当該差動レバーの変位が前記接点開閉機構の伝達部材に直接伝達されるようにした熱動形過負荷継電器において、
前記押しシフタ及び前記引きシフタが直線状に変位するように支持するシフタ変位ガイド部を設けたことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項2】
前記収納空間仕切り壁及び前記複数のバイメタル仕切り壁のそれぞれにシフタ摺動用スリットを形成し、これらシフタ摺動用スリットに前記押しシフタ及び前記引きシフタを挿入し、
前記シフタ変位ガイド部として、前記押しシフタ及び前記引きシフタのそれぞれに形成され、前記湾曲変位方向に沿って直線状に延在する少なくとも2箇所のガイド長穴と、
前記複数のバイメタル仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリットのスリット面に形成され、前記押しシフタ及び前記引きシフタの前記ガイド長穴の長軸方向の内壁に係合して入り込む係合突起と、を設け、
前記係合突起の周面及び前記ガイド長穴の長軸方向の内壁が摺動しながら前記押しシフタ及び前記引きシフタが変位することを特徴とする請求項1記載の熱動形過負荷継電器。
【請求項3】
前記収納空間仕切り壁及び前記複数のバイメタル仕切り壁のそれぞれにシフタ摺動用スリットを形成し、これらシフタ摺動用スリットに前記押しシフタ及び前記引きシフタを挿入し、
前記シフタ変位ガイド部として、前記押しシフタ及び前記引きシフタのそれぞれに形成され、前記湾曲変位方向に沿って直線状に延在する2箇所のガイド長穴と、
前記収納空間仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリット及び前記収納空間仕切り壁に対して最も離間した前記バイメタル仕切り壁に形成した前記シフタ摺動用スリットのスリット面に形成され、前記押しシフタ及び前記引きシフタの前記ガイド長穴の長軸方向の内壁に係合して入り込む係合突起と、を設け、
前記係合突起の周面及び前記ガイド長穴の長軸方向の内壁が摺動しながら前記押しシフタ及び前記引きシフタが変位することを特徴とする請求項1記載の熱動形過負荷継電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−165492(P2011−165492A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27388(P2010−27388)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)