説明

熱動形過負荷継電器

【課題】外郭ケースに収容したヒータユニットの通電,発熱に伴う圧入支持部の変形の影響を受けずに動作特性の安定維持が図れるようにヒータユニットの支持構造を改良する。
【解決手段】ケース本体2,ケースカバー3からなるモールド樹脂製の外郭ケース1に、主回路の各相に接続した主バイメタル7のヒータユニット4、該主バイメタルにシフターを介して連係した接点開閉機構を内装した熱動形過負荷継電器であり、前記ヒータユニット4はその主バイメタル7の基部を支持プレート8にT継手接合した構造になりものにおいて、本体ケース2,ケースカバー3には、ヒータユニット4の支持プレート8を前後から挟持する圧入リブ2d,3aを一体に成形し、該圧入リブ2d,3aに支持プレート8の前部,後部を圧挿して主バイメタル7を直立姿勢に支持し、樹脂成形品の残留応力緩和,クリープ変形に起因して主バイメタル7の姿勢が湾曲方向に変化しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁接触器などに組合せて使用する熱動形過負荷継電器(サーマルリレー)に関し、詳しくはその外郭ケースに収容したヒータユニットの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
頭記の熱動形過負荷継電器は、主回路の各相(三相回路)に接続した主バイメタルのヒータユニット、および各相の主バイメタルにシフターを介して連係した接点開閉機構をモールド樹脂製の外郭ケースに内装した構成になる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この熱動形過負荷継電器の動作は周知の通りであり、主回路に整定電流を超えた過電流が流れると、ヒータ導体の発熱により主バイメタルが湾曲してシフターを押し、釈放レバーを介して接点開閉機構を切換え動作させる。なお、欠相保護機能付の熱動形過負荷継電器では、前記シフターとして、欠相の検出機能を備えた差動増幅リンク形のシフターが採用されている。
【0004】
一方、最近になり、前記外郭ケースの内部に画成してヒータユニットを収容する各相のユニット室に、固定ネジを使わないネジレス固定方式でヒータユニットを圧入支持するようにした組立構造の熱動形過負荷継電器の製品が開発されており、その従来構造を図5〜図10に示す。
【0005】
まず、図5において、1は箱形のケース本体2と該ケース本体2の開放端面を被せたケースカバー3とからなるモールド樹脂製の外郭ケースで、そのケース本体2の内部には図6で示すように3相回路のR,S,T各相に対応するヒータユニット4,接点開閉機構5,およびヒータユニット4の主バイメタルと接点開閉機構5の操作レバーの間を連係するシフター6が組み込まれている。なお、図7はヒータユニット4,出力接点機構5,シフター6の組立図(S相のヒータユニットは省略)である。
【0006】
ここで、ヒータユニット4は、図8で示すように、主バイメタル7の基部(図の下端側)を支持プレート8(電気亜鉛メッキ鋼板のプレス加工品)の板面中央に開口した溝穴に嵌合してT継手接合(例えば、レーザ溶接法によりバイメタルの周縁をすみ肉溶接する)するとともに、主バイメタル7の周面にヒータ導体9を巻き付けてその導体の両端を主バイメタル7の板面,および負荷側端子10に接続し、さらに支持プレート8から電磁接触器に接続するリード導体11を引出した組立体で構成されている。そして、このヒータユニット4は外郭ケース1のケース本体2に対して次記のようにネジを使用しないネジレス固定方式でケース内部に圧入して直立姿勢に支持される。
【0007】
すなわち、図9(図9は図5に示したユニットケース1の天地を逆にして描いている)で示すように、外郭ケース1のケース本体2には各相のヒータユニット4を1素子ずつ収容するR,S,T各相に対応するユニット室2aが仕切壁2bを介して左右に画成されており、かつ各ユニット室2aには前記ヒータユニット4の支持プレート8に対応して左右の仕切壁2bからユニット室内の中央に向けて向かい合わせに突き出した二股構造の圧入リブ2c(図10(b)参照)が形成されている。そして、このケース本体2にヒータユニット4を組み込む際には、図示矢印のようにケース本体2の開放端面から挿入して前記支持プレート8を圧入リブ2cの間に圧挿し、図10(a),(b)で示すように主バイメタル7の板面を左右に向けて直立姿勢に支持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−116370号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、最近では資源のリサイクル化から前記外郭ケース1の材質を熱硬化性樹脂から熱可塑性樹脂に代えて製作することが主流になっている。このために、先記のように熱可塑性樹脂(エンジニアリングプラスチック)製になるケース本体2のユニット室2aに形成した左右の圧入リブ2cの間にヒータユニット4の支持プレート8を圧入して主バイメタル7を直立姿勢に保持した支持構造では、主バイメタル7の姿勢保持性について次記のような課題が残る。
【0010】
すなわち、モールド樹脂の成形品はそのモールド工程で残留応力が生じる。また、前記のようにケース本体2のユニット室2aに左右仕切壁2bから中央に向けて突き出した圧入リブ2cの間に跨がって支持プレート8を圧入すると、支持プレート8の圧挿に伴い圧入リブ2cには曲げ応力が生じるほか、熱動形過負荷継電器の実使用状態ではヒータ導体9の通電による熱が圧入リブ2cに伝熱して熱可塑性樹脂に特有なクリープ変形,応力緩和が生じようになる。しかもこのクリープ,応力緩和に伴う圧入リブ2cの変形量は一定せず、このために先記支持プレート8を左右から挟持している圧入リブ2cの先端位置が相対的に上下方向にずれが生じて主バイメタル7の起立姿勢が図10(b)の図示矢印で表すように左右の方向へ僅かに傾くようになり、その結果として主バイメタル7の先端に対向するシフター6との相対位置が当初の組立位置から微妙に変位して熱動形過負荷継電器の動作特性が変動してしまう。
【0011】
このような問題に対して従来では、組立後の製品について行う検査,調整工程でヒータユニット2に過負荷に相当する電流を通電して熱的な使用環境を再現し、この状態で動作特性のテストを行った上で、主バイメタルの先端に対向するシフターをトリミングするなどして仕様通りの動作特性が得られるように調整している。
【0012】
しかしながら、組立後の製品について一個ずつ個別に通電して所定のアニール処理温度になるまで待ってから動作特性のテストを行い、その結果を基にさらにシフターをトリミングカットするなどして動作特性を調整するのに長い作業時間を要する。このために生産リードタイムが長引いてしまい、ヒータユニット4をネジレス固定方式で外郭ケース1に圧入支持する組立性の利点が十分に活かせない。
【0013】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、ヒータユニットの支持プレートをモールド樹脂製の外郭ケース内部に形成した圧入リブに圧挿して主バイメタルを直立姿勢に支持するようにしたネジレス固定方式の支持構造において、ヒータユニットの通電,発熱に伴う圧入リブの応力緩和,クリープ変形の影響を受けずに動作特性の安定維持が図れるようにヒータユニット支持構造を改良した熱動形過負荷継電器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、主回路の各相に接続した主バイメタルのヒータユニット、および各相の主バイメタルにシフターを介して連係した接点開閉機構をモールド樹脂製の外郭ケースに内装した熱動形過負荷継電器であって、前記ヒータユニットはヒータ導体を巻装した主バイメタルの基部を支持プレートにT継手接合した構造になり、各相のヒータユニットを左右の向きに配列してケース本体とケースカバーからなる外郭ケースに収容保持したものにおいて、
前記外郭ケースには、その内部に画成した各相のユニット室ごとに前記ヒータユニットの支持プレートを前後から挟持する圧入リブを一体に成形し、該圧入リブに前記支持プレートの前部,後部を圧挿して各相の主バイメタルを直立姿勢に支持するものとし(請求項1)、具体的には次記のような態様で構成する。
(1)前記の外郭ケース内部に設けた圧入リブを、ケース本体に画成した各ユニット室の奥部と、ケースカバーの内面とに分けて形成し、支持プレートを前後から圧入支持させるようにする(請求項2)。
(2)前項(1)において、ケース本体の奥部に成形した圧入リブは、撓み性を持たせるようにその左右両側縁をケース本体の壁面から離間して形成する(請求項3)。
(3)前記ヒータユニットの支持プレートの前後端部には、圧入リブとの押圧接触を逃がすように板厚を縮小した低段差部を形成して圧入支持するようにする(請求項4)。
【発明の効果】
【0015】
ヒータユニットの支持プレートを外郭ケース内部に形成した圧入リブに圧挿して主バイメタルを起立姿勢に保持する支持構造に関して、支持プレートを左右から挟持していた従来構造から前後から圧入リブで挟持するように変更したことにより、ヒータユニットの通電,発熱に伴うクリープ変形,応力緩和の影響を受けて前部側の圧入リブと後部側の圧入リブとの間に上下方向の相対的なずれが生じても、支持プレートに直立支持した主バイメタルの先端がバイメタルの湾曲方向に変位することがないので、熱動形過負荷継電器の動作特性を安定確保できる。これにより、従来構造のように組立後の製品検査,調整工程でヒータユニットに通電して行っていた圧入リブのアニール処理を省略して生産リードタイムの短縮化が図れる。
【0016】
また、外郭ケースのケース本体に形成した前部側の圧入リブについては、その左右側縁をユニット室の仕切壁から離間させておくことにより、圧入リブの長手方向に撓み性を持たせて主バイメタルの支持プレートを的確に圧入保持することができる。
【0017】
さらに、主バイメタルの支持プレートについて、その前後端部分に低段差部を形成しておくことにより、支持プレートを圧入リブに圧入する際に圧入リブの根元部分に過大な押圧荷重が加わってリブが割れるトラブルを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例による熱動形過負荷継電器の外郭ケースに収容したヒータユニットの支持構造図であって、(a)は外郭ケースの一部をカットした内部構造の斜視図、(b)は(a)の要部断面図である。
【図2】図1における矢視A部,B部の拡大図であって、(a)は矢視A部の拡大図、(b)は(a)の圧入リブからヒータユニットを取り外した状態の拡大図、(c)矢視B部の拡大図である。
【図3】図1におけるヒータユニットを外郭ケースのケース本体に収容する組立手順を表す説明図である。
【図4】図3のケース本体にヒータユニットを圧入支持した組立段階を表す図であって、(a),(b)はそれぞれケース本体の一部をカットした側視図,および底部の平面図である。
【図5】熱動形過負荷継電器の従来製品の俯瞰図である。
【図6】図5の内部構造を表す斜視図である
【図7】図6における内部構造部品の組立図である
【図8】図7におけるヒータユニットの構造を表す外形斜視図である。
【図9】図6におけるヒータユニットを外郭ケースのケース本体に収容する組立手順を表す説明図である。
【図10】図9のケース本体にヒータユニットを圧入支持した組立段階を表す図であって、(a)はケース本体の開放面側から見た斜視図、(b)は(a)における矢視A部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図4に示す実施例に基づいて説明する。なお、実施例の図中で、図5〜図10に対応する部材には同じ符号を付してその説明は省略する。
図示実施例の熱動形過負荷継電器において、外郭ケース1,およびその内部に収容したヒータユニット4は基本的に従来の構造と同様であるが、ヒータユニット4の支持構造については次記のようにヒータユニット4の支持プレート8を前後から圧入支持するように変更している。
【0020】
すなわち、図10の従来構造では、ヒータユニット4を外郭ケース1のケース本体2の内部に支持する圧入リブ2cをユニット室2aの仕切壁2bに沿って支持プレート8の左右両側に形成しているのに対して、本発明の実施例では図1で示すように支持プレート8の前後に対向してケース本体2の内部に画成したユニット室2aの奥部,およびケースカバー3にそれぞれ二股構造の圧入リブ2d,3aを形成し、この圧入リブ2dと3aの間に跨がって支持プレート8を前後から挟持して主バイメタル7を直立姿勢に支持するようにしている。なお、図1の矢視A部,B部の拡大図を図2(a)〜(c)に示す。
【0021】
ここで、支持プレート8の前端に対向してケース本体2のユニット室に形成した圧入リブ2dについては、図2(b),図4(b)で示すように圧入リブ3dの左右側縁が仕切壁2bの壁面から離間するようにスリットgを形成してリブに撓み性を持たせている。一方、支持プレート8の後端に対向してケースカバー3に形成した圧入リブ3aはカバーの内面からケース本体2のユニット室内に向けて突出して形成している。
【0022】
また、支持プレート8についても、その前後端部にプレス加工を施して図1(b)で示すように凹ました低段差部8aを形成しておき、支持プレート8を圧入リブ2d,3aに圧挿した際に、この低段差部8aの段差Δhが逃げとなって圧入リブ2d,3aの根元側に過大な押圧荷重が加わるのを避けて安定した圧入支持が得られるようにしている。
【0023】
上記の支持構造によれば、ヒータユニット4の通電に伴う発熱の影響で支持プレート8を前後から圧入支持している圧入リブ2d,3aに残留応力の緩和,クリープ変形が生じ、このために支持プレート8,主バイメタル7の姿勢に傾きが生じても、この影響を受けずに熱動形過負荷継電器の動作特性を安定状態に維持することができる。
【0024】
すなわち、ヒータユニット4の通電,発熱に伴う圧入リブ2d,3aの応力緩和,クリープ変形に起因する主バイメタル7の姿勢変動は図1(b)の矢印で表す前後方向である。一方、主バイメタル7は直立姿勢が前後方向に傾いても湾曲方向の位置には影響なく、したがって主バイメタル7の先端に対向するシフター6(図7参照)との相対位置、動作特性には変化がない。
【0025】
これにより、製品の組立後に行う検査,調整工程では、従来のようにヒータユニットに通電してその発熱により外郭ケースの圧入リブをアニール処理する時間と手間を省いて動作特性のチエック,調整作業を進めることができて生産リードタイムの短縮化が図れるとともに、熱動形過負荷継電器の長期使用でも動作特性を安定維持して製品の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 外郭ケース
2 ケース本体
2a ユニット室
2d 圧入リブ
3 ケースカバー
3a 圧入リブ
4 ヒータユニット
5 接点開閉機構
6 シフター
7 主バイメタル
8 支持プレート
8a 低段差部
9 ヒータ導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路の各相に接続した主バイメタルのヒータユニット、および各相の主バイメタルにシフターを介して連係した接点開閉機構をモールド樹脂製の外郭ケースに内装した熱動形過負荷継電器であって、前記ヒータユニットがヒータ導体を巻装した主バイメタルの基部を支持プレートにT継手接合した構造になり、各相のヒータユニットを左右の向きに配列してケース本体とケースカバーからなる前記外郭ケースに収容保持したものにおいて、
前記外郭ケースには、その内部に画成した各相のユニット室ごとに前記ヒータユニットの支持プレートを前後から挟持する圧入リブを一体に成形し、該圧入リブに前記支持プレートの前部,後部を圧挿して各相の主バイメタルを直立姿勢に支持したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱動形過負荷継電器において、外郭ケースに設けた圧入リブを、ケース本体に画成した各ユニット室の奥部とケースカバーの内面とに分けて形成したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項3】
請求項2に記載の熱動形過負荷継電器において、ケース本体の奥部に成形した圧入リブは、その左右両側縁がケース本体の壁面から離間していることを特徴とする熱動形過負荷継電器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の熱動形過負荷継電器において、ヒータユニットの支持プレートに対し、その前後端部に圧入リブとの押圧接触を逃がす低段差部を形成したことを特徴とする熱動形過負荷継電器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−129156(P2012−129156A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281948(P2010−281948)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)