説明

熱印字媒体

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は熱印字媒体、特に、少なくとも表面の一部が塩化ビニル系樹脂で形成されている被記録体上に印字画像を熱転写させて記録画像を形成するのに適した熱印字媒体に関する。
(従来の技術)
非衝撃式画像形成手段として近年採用されている熱転写プリンタは、サーマルヘッドにより電気信号を熱エネルギに変換し、その熱エネルギによりサーマルへッドが接する熱転写リボン上のインクを熔融させて記録用紙上に転写させることにより印字画像を形成させるものであるが、その熱転写リボンとしては、通常、基体上にワックスを含むインク層を積層してなる熱印字媒体をリボン状に形成したものが採用されている。
また、非衝撃式画像形成手段としてホットスタンプも知られているが、このホットスタンプ用フィルムも前記熱転写プリンタと同様な構成の熱印字媒体が採用されている。
(発明が解決しようとする問題点)
しかしながら、従来の熱印字媒体では、表面を比較的平滑に加工した普通紙にしか良質の記録画像を形成することができず、近年急速な普及をみているキヤッシュカード、テレフォンカード、ラベル、シート等の材料として主流を占めている塩化ビニル系樹脂表面に熱転写により記録画像を形成することは極めて困難であり、たとえ熱転写により記録画像を形成できても、記録画像をこすると、すぐに拭い去られてしまったり剥離したりするという問題があった。
従って、本発明は、塩化ビニル系樹脂製のカード、ラベル、シートの表面、あるいは少なくとも表面の一部を塩化ビニル系樹脂で被覆された物品の当該樹脂表面に極めて強固な印字画像を熱転写により形成できる熱印字媒体を得ることを目的とする。
(問題点を解決するための手段)
本発明は、この問題点を解決する手段として、第1図に示すように、基体1と、該基体の片側表面上に積層された透過性保護層2と、該透過性保護層2の上に積層されたインク層3とからなり、前記透過性保護層2が塩素化ポリオレフィン系樹脂で形成され、前記インク層3がアクリル酸又はメタクリル酸エステル重合体に着色剤を分散させてなる非ワックス系インクからなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂表面への画像形成用熱印字媒体を提供するものである。
(作用)
本発明に係る熱印字媒体は、例えば、熱転写プリンタの熱転写リボンとして用いた場合、サーマルヘッドから熱を受けると、その熱によりインク層3と透過性保護層2とを構成する樹脂がそれぞれ熱溶融し、同時に被記録体の塩化ビニル系樹脂の表面も溶融軟化するため、サーマルヘッドの押圧力により溶融した熱転写インクが被記録体表面に転着し、それに伴い透過性保護層が被記録体上のインク表面を保護層が覆うことになり、サーマルヘッドが離れると外気により冷却固化される。この転写の過程でサーマルヘッドの押圧力により熱軟化した被記録体表面に熱転写インクおよび保護層が埋め込まれるように転着するため、固化後、転写画像は摩擦に対する抵抗が強くなり、接着性が著しく向上する。
即ち、本発明は、従来インク層の成分として使用されているワックス類が被記録体の表面を形成する塩化ビニル系樹脂に対するインクの密着性を阻害することからワックス類を全く含有せず、被記録体と溶着し易い成分組成の非ワックス系インクでインク層を形成させる一方、基体とインク層との間に透明ないし半透明の透過性保護層を設け、熱転写する際に被記録体上に転写したインク層の上に保護層の成分を移行させて被記録体上の樹脂成分と一体的に熔融固化させることによって、インク層を保護し、記録画像の耐摩擦性を向上させるようにしたものである。
基体は、インク層を支持する支持体として機能すると共に、サーマルヘッドからの熱を保護層およびインク層に伝える熱伝導体として機能するもので、その材料としてはポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂等、従来から熱転写リボンの基体として使用されでるプラスチック薄膜の他、薄葉紙、金属薄膜等を用いることができる。
透過性保護層は、インク層のインクと共に塩化ビニル系樹脂からなる被記録体上に熱転写され、先に熱転着したインクの表面を覆うと共に、被記録体に強固に固着し、かつ、基体上に転写されているインク層を透視させる必要があることから接着性に優れ、かつ、無色又は淡色で透明もしくは半透明であることが要求される。これらの要件は、保護層の材料として塩素化ポリオレフィン系樹脂を採用することにより満足させることができる。
塩素化ポリオレフィン系樹脂としては、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン一酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。これらの塩素化ポリオレフィン系樹脂は、融点が比較的低い、例えば、塩素化ポリプロピレンでは110〜120℃であるため、従来のサーマルヘッドの動作温度よりも50℃程度高くするだけで熱転写させることができ、従って、サーマルヘッドの寿命が極端に劣化することはない。
前記保護層は、耐摩擦性を向上させるため、組成中に少量の滑剤を添加しても良い。滑剤としては、例えば、ステアリン酸,ACポリエチレン等常温で固形の滑剤が使用できる。
前記インク層のマトリックス樹脂としては、アクリル酸もしくはメタクリル酸エステル重合体を採用することができる。このアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル重合体としては、メチル基又はブチル基を有する単独重合体、及びそれらの共重合体を単独であるいは2種以上の混合物を使用するのが好適である。なお、塩化ビニルをアクリル酸もしくはメタクリル酸エステルモノマーと共重合させたものでも良い。また、必要に応じて可塑剤を添加しても良い。
なお、インク層は被記録体との密着性が要求されるが、透過性保護層が被記録体材料と熔融固化するためマトリックス樹脂中に被記録体材料と同種の塩化ビニル系樹脂を加える必要は無く、従ってインク層の組成を簡単にでき、また着色剤との混合工程も簡単になるので、熱印字媒体のコストダウンを図ることもできる。
前記インク層のマトリックス樹脂中には、所望の色調を得るため着色剤が添加されるが、着色剤としては公知のものを使用すれば良い。なお、着色剤をマトリックス中に均一に分散させるため、分散剤を添加しても良く、また、熱転写の際のインクの流動性を向上させるため油状物、例えば、ヒマシ油、ミンク油を添加しても良い。しかし、従来インク層に添加されているワックス類、例えば、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等を添加すると、転写後の印字画像の耐摩擦性が低下するので望ましくない。
本発明に係る熱印字媒体は、基本的には、前記のように基体とインク層と透過性保護層とからなる三層構造を有するが、熱転写の際の基体からの離型性を向上させるため、要すれば、基体と保護層との間に離型層を設けても良い。この離型層は、通常、シリコン系離型剤、ポリアミド等の樹脂中にステアリン酸等の滑剤を含む混合物で形成される。これらは市販のものを使用すればよい。
前記基体、透過性保護層およびインク層の各層の厚さは、特に制限は無いが、熱転写プリンタ用の印字媒体として鮮明な画像を得る場合、基体の厚さは3〜15μ、保護層は0.5〜5μ、インク層は0.5〜7.5μの範囲が良く、保護層の方がインク層よりも薄いほうが好適である。
前記構造の熱印字媒体は、基体上に保護層およびインク層を順次積層することにより製造されるが、その方法としては従来公知の溶剤キヤステイング法、熱溶融キャステイング法など任意の方法を採用できる。
本発明は、塩化ビニル系樹脂製被記録体の表面に熱転写により印字画像を形成できるようにすることを目的として為されたものであるが、被記録体形成材料である塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル(単独重合体)、塩化ビニルーアクリル酸エステル共重合体、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体、塩化ビニルーエチレン共重合体、ポリ塩化ビニリデン樹脂などがあげられる。これらの被記録体は、前記塩化ビニル系樹脂の単体であるいは混合物で形成されていても良く、また、実施例に示すように、用途により可塑剤、ゴムやゴム系樹脂等の柔軟改質剤、あるいは着色剤、充てん剤を含有させたもので形成されていても良い。
また、被記録体は、必ずしも全体を前記塩化ビニル系樹脂で形成されている必要はなく、金属、紙その他の任意の材料の表面の少なくとも一部を前記塩化ビニル系樹脂で被覆したものであっても良い。
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
市販のポリエステルフイルム(厚さ:12μ)を基体として用い、その片側表面に下記組成の透過性保護層形成用組成物を用いてグラビア印刷した後、乾燥させて厚さ0.2μmの透過性保護層を形成した。
次いで、これとは別に用意した下記組成の熱転写インク層用組成物をグラビア印刷により前記透過性保護層の表面に積層して乾燥させ、1.5μm厚のインク層を形成し、13.7μm厚の熱印字媒体を得た。
(透過性保護層形成用組成物)
塩素化ポリプロピレン(東洋化成工業(株)製ハードレイン11L、登録商標)
0.6重量部塩素化エチレンー酢酸ビニル共重合体(東洋化成工業(株)製ハードレン14ーEV、登録商標)
0.15重量部ACポリエチレン(日本ポリコン(株)製A−20、商品名)
0.12重量部トルエン 89重量部イソプロピルアルコール 10重量部(熱転写インク層形成用組成物)
カーボンブラック(三菱化成(株)製MA−100、商品名)
8重量部ポリメチルメタクリレート(三菱レーヨン(株)製ダイヤナールLR−174、登録商標) 13重量部アマイド系分散剤(ビックマリンクロット社製BYK130、商品名)
1重量部ミンクオイル(日興リカ製) 1重量部溶媒(トルエン) 77重量部このようにして得た熱印字媒体を、その熱転写インク層が、ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に改質剤としてメタクリレートーブタジエンースチレン共重合体を5重量部と、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを2重量部添加してなる透明ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム(50μm)の表面に接するように重ね合わせ、サーマルヘッドを50℃高い温度で印字できるように改造した市販の熱転写プリンタに供給し、熱転写記録を行ったところ、黒色の鮮明な印刷が得られた。
この印字された透明ポリ塩化ビニル系樹脂フイルムを耐摩擦試験機にセットし、2Kgの荷重をかけて上質紙とこすり合わせたところ、100回摩擦しても印字には何等変化が認められなかった。また、その印字面を指で撫でたところ平滑であり、爪で引っ掻いても印字の剥離等は全く生じなかった。
(実施例2)
(透過性保護層形成用組成物)
塩素化エチレン一酢酸ビニル共重合体(三陽国策パイプ(株)製スーパークロンA,登録商標)
1.1重量部ACポリエチレン(日本ポリコン(株)製滑剤A−20、商品名)
0.15重量部トルエン 89重量部酢酸エチル 10重量部(熱転写インク層形成用組成物)
紅色顔料(大日本インキ(株)製シムラファーストマゼンタRH、商品名)
8重量部メタクリル酸メチルーメタクリル酸ブチル樹脂(三菱レーヨン(株)製ダイヤナールBR−106、登録商標)
5重量部ポリメチルメタクリレート(三菱レーヨン(株)製ダイヤナールLR−174、登録商標) 8重量部アマイド系分散剤(ビックマリンクロット社製BYK130、商品名)
1重量部ミンクオイル(日興リカ製) 1重量部溶媒(トルエン) 77重量部前記組成の透過性保護層形成用組成物及び熱転写インク層形成用組成物をそれぞれ調製し、実施例1と全く同様にして熱印字媒体を得た。
この熱印字媒体をその熱転写インク層がポリ塩化ビニル樹脂と酸化チタンとからなる白色のカードの表面に接するように重ね合わせ、温度を130℃に設定した市販のホットスタンプ装置に供給し、熱転写記録を行ったところ、紅色の鮮明な印字が得られた。
このカードの印字面を実施例1と同様にして耐摩擦試験を行ったところ、印字画像には全く変化が認められなかった。また、その印字面を指で撫でたところ平滑であり、爪で引っ掻いても印字の剥離等は全く生じなかった。
(比較例1)
実施例1で用いたポリエステルフイルムを基体とし、実施例1で調製した熱転写インク層形成用組成物を前記基体の表面に直接グラビア印刷して乾燥させ、1.5μm厚のインク層を形成して熱印字媒体を得た。
この熱印字媒体を用いて実施例1と同条件下で透明ポリ塩化ビニル系樹脂フイルム上に熱転写により印字したところ、鮮明な画像が得られず、またその画像を爪でこすると剥離した。
(発明の効果)
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、熱印字媒体をインク層と保護層を順次積層した三層構造とし、インク層および保護層を被記録体の塩化ビニル系樹脂と溶着し易い材料で形成することにより、従来の熱印字媒体では不可能であった塩化ビニル系樹脂製の物品、例えば、キャッシュカード、テレフォンカード等のカード類を始め、ラベル、OHPシート、樹脂コートペーパーや包装用フイルム、ケース等、表面が塩化ビニル系樹脂で形成されている物品に、バーコードや、文字、数字、記号その他の任意の画像を形成することができる。しかも、透過性保護層がインク層と共に被転写体に熱転写し、画像を塩化ビニル系樹脂表面に強固に固着させると共に、画像表面を覆って摩擦から保護するので、耐久性に優れ密着性の強固な画像を得ることができる。また、本発明に係る熱印字媒体は、感熱方式や熱転写方式のプリンタ用熱転写リボン、シートとして利用できるだけでなく、ホットスタンプ用熱印字媒体としても利用できるなど優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係る熱印字媒体の構造を示す断面図である。
1〜基体、2〜透過性保護層、3〜熱転写インク層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基体と、該基体の片側表面上に積層された透過性保護層と、該透過性保護層の上に積層されたインク層とからなり、前記透過性保護層が塩素化ポリオレフィン系樹脂で形成され、前記インク層がアクリル酸又はメタクリル酸エステル重合体に着色剤を分散させてなる非ワックス系インクからなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂表面への画像形成用熱印字媒体。
【請求項2】前記塩素化ポリオレフィン系樹脂が塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン及び塩素化エチレン一酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれた1種または2種以上の樹脂である特許請求の範囲第1項記載の熱印字媒体。
【請求項3】前記アクリル酸又はメタクリル酸エステル重合体がメチル基又はブチル基を有する単独重合体及びそれらの共重合体からなる群から選ばれた1種又は2種以上の樹脂である特許請求の範囲第1項記載の熱印字媒体。

【第1図】
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【公告番号】特公平6−65517
【公告日】平成6年(1994)8月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭61−188868
【出願日】昭和61年(1986)8月11日
【公開番号】特開昭63−42891
【公開日】昭和63年(1988)2月24日
【審判番号】平3−11003
【出願人】(999999999)日邦産業株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭55−105579(JP,A)
【文献】特開昭59−96992(JP,A)