説明

熱可塑性エラストマー組成物

【課題】 耐熱性、耐候性、耐油性、耐薬品性および柔軟性に優れ、特に、耐磨耗性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得る。
【解決手段】 メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体であって、少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されているアクリル系ブロック共重合体を主成分とする熱可塑性エラストマー組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐薬品性、柔軟性、耐磨耗性に優れた熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタアクリル酸エステルなどをハードセグメント、アクリル酸エステルなどをソフトセグメントに有するアクリル系ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての特性を有することが知られている。アクリル系ブロック共重合体を構成する単量体成分を適宜選択することで、スチレン系ブロック共重合体などの他の熱可塑性エラストマーに比べて極めて柔軟なエラストマーを与えることが可能である。また、アクリル系ブロック共重合体は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐薬品性に優れるという特徴を有している。さらには、例えばイニファーター法で製造したメタアクリル系重合体ブロックとアクリル系重合体ブロックを有するアクリル系ブロック共重合体が優れた機械特性を示すことが特許文献1には記載されている。このようなアクリル系ブロック共重合体は、例えば、原子移動ラジカル重合によって製造することができる(特許文献2、3)。
【0003】
【特許文献1】特開平1−26619号公報
【特許文献2】特開平10−509475号公報
【特許文献3】特開2001−200026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクリル系ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての性質を示すため、射出成形や押出成形、プレス成形、パウダースラッシュ成形などによる成形が可能である。しかしながら、低硬度の熱可塑性エラストマーは粘着性を有するために、成形体の耐磨耗性が低いことが問題となる場合がある。そのような場合、熱可塑性エラストマーに滑剤を配合するなどの手段が一般的に取られているが、大量の滑剤を熱可塑性エラストマーに配合した場合、ブリードアウトなどの問題が生じることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、メタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体であって、少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されているアクリル系ブロック共重合体を主成分とする熱可塑性エラストマー組成物が、耐磨耗性に優れていることを見出し、発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体であって、少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されているアクリル系ブロック共重合体を主成分とする熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【0007】
好ましい実施態様としては、アクリル系ブロック共重合体が、トリブロック共重合体もしくはジブロック共重合体である、上記の熱可塑性エラストマー組成物、
アクリル系ブロック共重合体の数平均分子量が、10,000〜500,000である、上記の熱可塑性エラストマー組成物、
アクリル系ブロック共重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.8以下である、上記の熱可塑性エラストマー組成物、
アクリル系ブロック共重合体が、原子移動ラジカル重合により製造されたことを特徴とする、上記の熱可塑性エラストマー組成物、
炭素数が10以上のアルキル基が、ラウリル基、トリデシル基もしくはステアリル基である、上記の熱可塑性エラストマー組成物、
が挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、アクリル系ブロック共重合体の特徴である耐熱性、耐候性、耐油性、耐薬品性、柔軟性に加えて、耐磨耗性に優れる。このため、滑剤を使用しない、もしくはその使用量を低減しても、良好な耐磨耗性を示す熱可塑性エラストマー組成物が得られる。従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐磨耗性が重要視される内装材などに好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0010】
<アクリル系ブロック共重合体>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、メタアクリル酸エステルを主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル酸エステルを主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体であって、少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されているアクリル系ブロック共重合体を主成分とする。ここで、(メタ)アクリル系単量体は、アクリル系単量体またはメタアクリル系単量体を意味する。
【0011】
アクリル系ブロック共重合体の構造は、線状ブロック共重合体、分岐状(星状)ブロック共重合体のいずれか、またはこれらの混合物であってもよい。このようなブロック共重合体の構造は、必要とされるアクリル系ブロック共重合体の物性に応じて適宜選択されるが、コスト面や重合容易性の点で、線状ブロック共重合体が好ましい。
【0012】
線状ブロック共重合体は、いずれの構造のものであってもよいが、線状ブロック共重合体の物性および組成物の物性の点から、メタアクリル系重合体ブロック(a)をa、アクリル系重合体ブロック(b)をbと表現したとき、(a−b)n型、b−(a−b)n型および(a−b)n−a型(nは1以上の整数、たとえば1〜3の整数)からなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系ブロック共重合体からなることが好ましい。これらの中でも、加工時の取り扱い容易性や組成物の物性の点から、a−b型のジブロック共重合体、a−b−a型のトリブロック共重合体、またはこれらの混合物が好ましい。
【0013】
アクリル系ブロック共重合体には、メタアクリル系重合体ブロック(a)、アクリル系重合体ブロック(b)の少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されていてもよい。その数が二以上である場合には、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が共重合されている様式は、ランダム共重合またはブロック共重合であることができる。すなわち、a−b−a型のトリブロック共重合体を例にとって表わすと、(a/z)−b−a型、(a/z)−b−(a/z)型、z−a−b−a型、z−a−b−a−z型、a−(b/z)−a型、a−b−z−a型、a−z−b−z−a型、(a/z)−(b/z)−(a/z)型、z−a−z−b−z−a−z型などのいずれであってもよい。ここでzとは、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体または重合体ブロックを表し、(a/z)とは、メタアクリル系重合体ブロック(a)に炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が共重合されていることを表し、(b/z)とは、アクリル系重合体ブロック(b)に炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が共重合されていることを表す。また、メタアクリル系重合体ブロック(a)あるいはアクリル系重合体ブロック(b)中で、zの含有される部位と含有される様式は適宜設定することができ、目的に応じて適宜選択される。このようなブロック共重合体の構造は、目的とする機械物性等の必要特性に応じて使い分けられる。
【0014】
アクリル系ブロック共重合体の数平均分子量は、10,000〜500,000が好ましく、更に好ましくは20,000〜300,000である。数平均分子量が10,000より小さいと機械強度が低下する傾向がある。数平均分子量が500,000より大きいと加工性が低下する傾向がある。分子量は、アクリル系ブロック共重合体に必要とされる特性に応じて設定することができる。なお、ここで示した分子量は、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレンゲルカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算によって測定した場合の分子量である。
【0015】
アクリル系ブロック共重合体のGPCで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は特に限定されないが、1.8以下であることが好ましい。Mw/Mnが1.8をこえるとアクリル系ブロック共重合体の均一性が低下する傾向がある。
【0016】
アクリル系ブロック共重合体を構成するメタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、成形時の形状の保持およびエラストマーとしての弾性の観点から、ブロック(a)が5〜95重量%、ブロック(b)が95〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは、ブロック(a)が10〜90重量%、ブロック(b)が90〜10重量%である。ブロック(a)の割合が5重量%より少ないと、成形時に形状が保持されにくい傾向があり、ブロック(b)の割合が10重量%より少ないと、エラストマーとしての弾性および成形時の溶融性が低下する傾向がある。エラストマー組成物の硬度の観点からは、ブロック(a)の割合が大きいと硬度が高くなり、また、ブロック(b)の割合が大きいと硬度が低くなる傾向があるため、エラストマー組成物の必要とされる硬度に応じて適宜設定する。
【0017】
<メタアクリル系重合体ブロック(a)>
メタアクリル系重合体ブロック(a)は、メタアクリル酸エステルを主成分としてなる単量体を重合してなるブロックである。主成分であるとは、メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成する単量体のうちの50重量%以上であることを意味する。メタアクリル酸エステル単量体成分が50重量%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械特性やゴム弾性が低下する傾向にある。
【0018】
メタアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸−n−プロピル、メタアクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸−t−ブチル、メタアクリル酸−n−ペンチル、メタアクリル酸−n−ヘキシル、メタアクリル酸−n−ヘプチル、メタアクリル酸−n−オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニルなどの、炭素数10未満のアルキル基を有するメタアクリル酸エステル;メタアクリル酸シクロヘキシルなどの、炭素数10未満の脂環式炭化水素を有するメタアクリル酸エステル;メタアクリル酸ベンジルなどの炭素数10未満のアラルキル基を有するメタアクリル酸エステル;メタアクリル酸フェニルなどの炭素数10未満の芳香族炭化水素を有するメタアクリル酸エステル;メタアクリル酸−2−メトキシエチル、メタアクリル酸−3−メトキシブチルなどの、炭素数10未満であり、さらにエーテル性酸素を有するメタアクリル酸エステル;メタアクリル酸トリフルオロメチル、メタアクリル酸トリフルオロメチルメチルなどの、炭素数10未満であるフッ化アルキル基を有するメタアクリル酸エステルなどがあげられる。これらは単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、特にメタアクリル酸メチルが、耐候性、低コスト、入手容易性などの点から好ましい。
【0019】
メタアクリル系重合体ブロック(a)は、メタアクリル酸エステルを主成分とするが、これと共重合可能な異種のビニル系単量体50〜0重量%を含んでいてもよい。共重合可能な異種のビニル系単量体としては、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげることができる。
【0020】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニルなどの、炭素数10未満のアルキル基を有するアクリル酸エステル;アクリル酸シクロヘキシルなどの、炭素数10未満の脂環式炭化水素を有するアクリル酸エステル;アクリル酸ベンジルなどの炭素数10未満のアラルキル基を有するアクリル酸エステル;アクリル酸フェニルなどの炭素数10未満の芳香族炭化水素を有するアクリル酸エステル;アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチルなどの、炭素数10未満であり、さらにエーテル性酸素を有するアクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロメチルメチルなどの、炭素数10未満であるフッ化アルキル基を有するアクリル酸エステルなどがあげられる。
【0021】
芳香族アルケニル化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどをあげることができる。
【0022】
シアン化ビニル化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどをあげることができる。
【0023】
共役ジエン系化合物としては、たとえば、ブタジエン、イソプレンなどをあげることができる。
【0024】
ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどをあげることができる。
【0025】
ビニルエステル化合物としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどをあげることができる。
【0026】
マレイミド系化合物としては、たとえば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどをあげることができる。
【0027】
これらの化合物は、それぞれ単独で又は二以上組み合わせて用いることができ、要求される組成物の特性に応じて適宜選択される。
【0028】
<アクリル系重合体ブロック(b)>
アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸エステルを主成分としてなる単量体を重合してなるブロックである。主成分であるとは、アクリル系重合体ブロック(b)を構成する単量体のうちの50重量%以上であることを意味する。50重量%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性や耐油性が低下する傾向にある。
【0029】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニルなどの、炭素数10未満のアルキル基を有するアクリル酸エステル;アクリル酸シクロヘキシルなどの、炭素数10未満の脂環式炭化水素を有するアクリル酸エステル;アクリル酸ベンジルなどの炭素数10未満のアラルキル基を有するアクリル酸エステル;アクリル酸フェニルなどの炭素数10未満の芳香族炭化水素を有するアクリル酸エステル;アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチルなどの、炭素数10未満であり、さらにエーテル性酸素を有するアクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロメチルメチルなどの、炭素数10未満であるフッ化アルキル基を有するアクリル酸エステルなどがあげられる。これらの中でも、アクリル酸ブチルがゴム弾性、低コスト、低温特性のバランスの点で好ましく、アクリル酸エチルが耐油性、機械特性の点で好ましく、アクリル酸−2−メトキシエチルが低温特性と耐油性のバランスの点で好ましい。これらは単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸エステルを主成分とするが、これと共重合可能な異種のビニル系単量体50〜0重量%を含んでいてもよい。共重合可能な異種のビニル系単量体としては、上述の、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげることができる。
【0031】
<炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成するアクリル系ブロック共重合体は、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)の少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されていることを特徴とする。
【0032】
炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルが入手容易性の点で好ましい。
【0033】
炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体の、アクリル系ブロック共重合体への共重合部位については、特に限定されないが、メタアクリル系重合体ブロック(a)には炭素数10以上のアルキル基を有するメタアクリル系単量体を、アクリル系重合体ブロック(b)には炭素数10以上のアルキル基を有するアクリル系単量体を共重合させることが、共重合が容易であるという観点から好ましい。
【0034】
炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体は、少なくともひとつ共重合されるが、上限は特に限定されない。しかしながら、例えば、メタアクリル系重合体ブロック(a)に共重合された場合には、重合体ブロック間の相分離性が低下するために圧縮永久歪などが低下する恐れがある。一方、アクリル系重合体ブロック(b)に共重合された場合には、アクリル系重合体ブロックのガラス転移温度が上がるためにゴム弾性が低下したり、極性が低下するために耐油性が低下する恐れがある。従って、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体の量は、これらの影響と、期待する耐磨耗性のバランスから適宜設定する必要がある。
【0035】
<アクリル系ブロック共重合体を製造する方法>
アクリル系ブロック共重合体を製造する方法は、特に限定されないが、開始剤を用いた制御重合を用いることが好ましい。制御重合としては、リビングアニオン重合や連鎖移動剤を用いるラジカル重合、近年開発されたリビングラジカル重合があげられる。なかでも、リビングラジカル重合が、アクリル系ブロック共重合体の分子量および構造の制御の点から好ましい。
【0036】
リビングラジカル重合は、重合末端の活性が失われることなく維持されるラジカル重合である。リビング重合とは狭義においては、末端が常に活性をもち続ける重合のことを指すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれる。ここでの定義も後者である。リビングラジカル重合は、近年様々なグループで積極的に研究がなされている。
【0037】
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)」)、1994年、第116巻、7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、第27巻、7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかはとくに制約はないが、制御の容易さの点などから原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0038】
原子移動ラジカル重合を用いてアクリル系ブロック共重合体を製造する方法は、例えば、WO2004/013192に挙げられた方法などを用いることができる。
【0039】
これらの方法によると、一般的に、非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭い(Mw/Mn=1.1〜1.8)重合体が得られ、分子量を単量体と開始剤の仕込み比によって自由にコントロールすることができる。
【0040】
アクリル系ブロック共重合体を重合させる方法としては、単量体を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次のブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法などがあげられる。これらの方法はいずれを用いてもよく、目的に応じて適宜選択すればよい。なお、製造工程の簡便性の点からは単量体の逐次添加による方法が好ましい。
【0041】
重合によって得られた反応液は、重合体と金属錯体の混合物を含んでおり、カルボキシル基、もしくは、スルホニル基を含有する有機酸を添加して金属錯体との塩を生成させ、生成した金属錯体との塩を濾過などにより、固形分を除去し、引き続き、塩基性活性アルミナ、塩基性吸着剤、固体無機酸、陰イオン交換樹脂、セルロース陰イオン交換体吸着処理により溶液中に残存する酸などの不純物を除去することで、アクリル系ブロック共重合体溶液を得ることができる。
【0042】
このようにして得られた重合体溶液は、引き続き、蒸発操作により重合溶媒及び未反応モノマーを除去する。これにより、アクリル系ブロック共重合体を単離することができる。蒸発方式としては薄膜蒸発方式、フラッシュ蒸発方式、押出しスクリューを備えた横型蒸発方式などを用いることができる。アクリル系ブロック共重合体は粘着性を有するため、上記蒸発方式の中でも押出しスクリューを備えた横型蒸発方式単独、あるいは他の蒸発方式と組み合わせることにより効率的な蒸発が可能である。
【0043】
<熱可塑性エラストマー組成物>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、必要に応じて充填材を配合することができる。充填材としては、特に限定されないが、木粉、パルプ、木綿チップ、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、ケイソウ土、白土、シリカ(ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸など)、カーボンブラックのような補強性充填材;重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、べんがら、アルミニウム微粉末、フリント粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華、亜鉛末、炭酸亜鉛およびシラスバルーンなどのような充填材;石綿、ガラス繊維およびガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバーなどのような繊維状充填材などがあげられる。これら充填材のうちでは機械特性の改善や補強効果、コスト面等から無機充填材がより好ましく、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ、タルクがより好ましい。
【0044】
ここで、シリカとしては、その表面がオルガノシランやオルガノシラザン、ジオルガノポリシロキサンなどの有機ケイ素化合物で予め疎水処理されたシリカを用いてもよい。また、炭酸カルシウムとしては、脂肪酸、脂肪酸石鹸、脂肪酸エステルなどの有機物や各種界面活性剤、および、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤などの各種カップリング剤などの表面処理剤を用いて表面処理を施したものを用いてもよい。
【0045】
充填材を用いる場合の添加量は、アクリル系ブロック共重合体100重量部に対して、充填材を5〜200重量部の範囲で使用するのが好ましく、10〜100重量部の範囲で使用するのがより好ましい。配合量が5重量部未満の場合には、得られる成形体の補強効果が不充分となることがあり、200重量部を越えると得られる組成物の成形性が低下する傾向にある。充填材は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、熱可塑性エラストマー組成物および得られる成形体の諸物性の調整を目的として、必要に応じて、上記以外の各種添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、安定剤、可塑剤、柔軟性付与剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤などがあげられる。
【0047】
安定剤としては、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などがあげられる。例えば、老化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン(PAN)、オクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン(IPPN)、N,N’−ジアリル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン誘導体、ジアリル−p−フェニレンジアミン混合物、アルキル化フェニレンジアミン、4,4’−ビス(α、α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイロキシ−2−ヒドロプロピル)−p−フェニレンジアミン、ジアリルフェニレンジアミン混合物、ジアリル−p−フェニレンジアミン混合物、N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン誘導体などのアミン系老化防止剤、2−メルカプトベンゾイミダゾール(MBI)などのイミダゾール系老化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピネート]などのフェノール系老化防止剤、ニッケルジエチル−ジチオカーバメイトなどのリン酸塩系老化防止剤、トリフェニルホスファイトなどの2次老化防止剤、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレートなどがあげられる。また、光安定剤や紫外線吸収剤としては、4−t−ブチルフェニルサリシレート、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−ヒドロキシ−5−クロルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、モノグリコールサリチレート、オキザリック酸アミド、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどがあげられる。
【0048】
工業製品としては、Irganox(登録商標)1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、サノール(登録商標)LS770(三共ライフテック株式会社)、アデカスタブ(登録商標)LA−57(旭電化工業株式会社製)、アデカスタブLA−68(旭電化工業株式会社製)、Chimassorb(登録商標)944(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、サノールLS765(三共ライフテック株式会社)、アデカスタブLA−62(旭電化工業株式会社製)、TINUVIN(登録商標)144(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、アデカスタブLA−63(旭電化工業株式会社製)、TINUVIN622(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、アデカスタブLA−32(旭電化工業株式会社製)、アデカスタブLA−36(旭電化工業株式会社製)、TINUVIN571(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、TINUVIN234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、アデカスタブLA−31(旭電化工業株式会社製)、TINUVIN1130(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)、アデカスタブAO−20(旭電化工業株式会社製)、アデカスタブAO−50(旭電化工業株式会社製)、アデカスタブ2112(旭電化工業株式会社製)、アデカスタブPEP−36旭電化工業株式会社製)、スミライザー(登録商標)GM(住友化学工業株式会社)、スミライザーGS(住友化学工業株式会社)、スミライザーTP−D(住友化学工業株式会社)などがあげられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでもアクリル系ブロック体の熱や光による劣化防止効果やコスト点で、サノールLS770、Irganox1010、スミライザーGS、TINUVIN234が好ましい。
【0049】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル等のフタル酸誘導体;ジメチルイソフタレートのようなイソフタル酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタル酸のようなテトラヒドロフタル酸誘導体;アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、アジピン酸ジ−(2−エチルヘキシル)、アジピン酸イソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブチルジグリコール等のアジピン酸誘導体;アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル等のアゼライン酸誘導体;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸誘導体;ドデカン−2−酸誘導体;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジ−2−エチルヘキシル等のマレイン酸誘導体;フマル酸ジブチル等のフマル酸誘導体;トリメリト酸トリス−2−エチルヘキシル等のトリメリト酸誘導体;ピロメリト酸誘導体;クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸誘導体;イタコン酸誘導体;オレイン酸誘導体;リシノール酸誘導体;ステアリン酸誘導体;その他脂肪酸誘導体;スルホン酸誘導体;リン酸誘導体;グルタル酸誘導体;アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸などの二塩基酸とグリコールおよび一価アルコールなどとのポリマーであるポリエステル系可塑剤、グルコール誘導体、グリセリン誘導体、塩素化パラフィン等のパラフィン誘導体、エポキシ誘導体ポリエステル系重合型可塑剤、ポリエーテル系重合型可塑剤、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート誘導体等が挙げられる。本発明において可塑剤はこれらに限定されるいことがなく、種々の可塑剤を用いることができ、ゴム用可塑剤として広く市販されているものも用いることができる。これらの化合物は、アクリル系ブロック共重合体(A)の粘度を低くすることが期待できる。市販されている可塑剤としては、チオコールTP(モートン社製)、アデカサイザー(登録商標)O−130P、C−79、UL−100、P−200、RS−735(旭電化工業株式会社製)などが挙げられる。これら以外の高分子量の可塑剤としては、アクリル系重合体、ポリプロピレングリコール系重合体、ポリテトラヒドロフラン系重合体、ポリイソブチレン系重合体などがあげられる。特に限定されないが、このなかでも低揮発性で加熱による減量の少ない可塑剤であるアジピン酸誘導体、フタル酸誘導体、グルタル酸誘導体、トリメリト酸誘導体、ピロメリト酸誘導体、ポリエステル系可塑剤、グリセリン誘導体、エポキシ誘導体ポリエステル系重合型可塑剤、ポリエーテル系重合型可塑剤、などが好ましい。
【0050】
柔軟性付与剤としては、特に限定はなく、プロセスオイル等の軟化剤;動物油、植物油等の油分;灯油、軽油、重油、ナフサ等の石油留分などが挙げられる。軟化剤としては、プロセスオイルが挙げられ、より具体的には、パラフィンオイル;ナフテン系プロセスオイル;芳香族系プロセスオイル等の石油系プロセスオイル等が挙げられる。植物油としては、例えばひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、パインオイル、トール油等が例示でき、これらの柔軟性付与剤は少なくとも1種用いることができる。
【0051】
難燃剤としては、次の化合物が挙げられるが、特に限定はなく、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、デカブロモビフェニル、デカブロモビフェニルエーテル、三酸化アンチモンなどが例示でき、これらは単独で用いてもよく、複数を組合せて用いてもよい。
【0052】
顔料としては、次の化合物が挙げられるが、特に限定はなく、カーボンブラック、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛などが例示でき、これらは単独で用いてもよく、複数を組合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、良好な耐磨耗性を示すが、さらなる耐磨耗性のため、もしくは金型離型性のために、各種滑剤を配合してもよい。
【0054】
滑剤としては、たとえば、ステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウムなどの脂肪酸金属塩、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸系ワックスなどのワックス類、低分子量ポリエチレンや低分子量ポリプロピレンなどの低分子量ポリオレフィン、ジメチルポリシロキサンなどのポリオルガノシロキサン、オクタデシルアミン、リン酸アルキル、脂肪酸エステル、エチレンビスステアリルアミドなどのアミド系滑剤、4フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末、シリコーン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、シリカなどを用いることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、脂肪酸エステル、エチレンビスステアリルアミドがコスト面や成形性の点で優れており好ましい。
【0055】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法には特に制限はなく、バッチ式混錬装置や連続混錬装置を用いることにより製造することができる。例えばバッチ式混練装置としては、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、高剪断型ミキサーが使用でき、連続混練装置としては単軸押出機、二軸押出機、KCK押出混練機などを用いても良い。さらに、機械的に混合しペレット状に賦形する方法などの既存の方法を用いることができる。
【0056】
<熱可塑性エラストマー組成物の成形方法>
熱可塑性エラストマーの製造方法の項で得られた組成物は、一般的に用いられる種々の方法で成形できる。例えば、パウダースラッシュ成形、射出成形、射出ブロー成形、ブロー成形、押出ブロー成形、押出成形、カレンダー成形、真空成形、プレス成形などが適用可能である。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例におけるBA、EA、TBA、STA、MMAはそれぞれ、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸ステアリル、メタアクリル酸メチルを表わす。
【0058】
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
【0059】
<重合反応の転化率測定法>
本実施例に示す重合反応の転化率は以下に示す分析装置、条件で測定した。
使用機器:(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−14B
分離カラム:J&W SCIENTIFIC INC製、キャピラリーカラムDB−17、0.35mmφ×30m
分離条件:初期温度60℃、3.5分間保持
昇温速度40℃/min
最終温度140℃、1.5分間保持
インジェクション温度250℃
ディテクター温度250℃
試料調整:サンプルを酢酸エチルにより約10倍に希釈し、酢酸ブチルまたはアセトニトリルを内部標準物質とした。
【0060】
<機械強度>
JIS K7113に記載の方法に準用して、島津製作所製のオートグラフAG−10TB型を用いて測定した。測定はn=3にて行ない、試験片が破断したときの強度(MPa)と伸び(%)の値の平均値を採用した。試験片は2(1/3)号形の形状にて、厚さが約2mm厚のものを用いた。試験は23℃にて500mm/分の試験速度で行なった。試験片は原則として、試験前に温度23±2℃、相対湿度50±5%において48時間以上状態調節したものを用いた。
【0061】
<耐薬品性(耐エタノール性)試験>
本実施例および比較例に示す耐エタノール性は以下に示す条件で測定した。
実施例および比較例にて作成した、シボ模様のシートを平面に設置し、ピペットにてエタノール(和光純薬(株)製)を1滴滴下し、24時間室温で放置した。その後表面を目視で観察し、跡のないものを◎、白化がみとめられるものを×で評価した。
【0062】
<耐油性試験>
本実施例および比較例に示す耐油性は以下に示す条件で測定した。
実施例および比較例にて作成した、シボ模様のシートを平面に設置し、ピペットにて流動パラフィン(ナカライテスク(株)製)を1滴滴下し、24時間室温で放置した。その後、流動パラフィンをキムワイプ(登録商標)((株)クレシア製)でふき取り、表面を目視で観察し、跡のないものを◎、白化がみとめられるものを×で評価した。
【0063】
<磨耗性評価試験>
プレス成形により得られたシートから3cm×10cmのサンプルを切り出し、これを用いて、磨耗試験機にて、磨耗性試験を行った。
使用機器:ヘイドン式磨耗試験機14DR(新東科学(株)製)
移動速度:6000mm/分
移動長さ:5cm
移動回数:5往復
荷重重さ:1kg
磨耗ジグ:ASTM式ジグを、ジグがサンプルに対して常に平行になるように軸に固定した。ASTMジグの下側に、アルミニウム製、直径2.5cm、長さ1cmの円柱を半分に切断した半円柱を接着した。その上から、金巾3号の布を4重巻きにて取り付け、ASTMジグの止め具にて固定した。
磨耗性は、試験後のサンプルを目視で観察し、以下の規準で評価することにより行った。
正面から見て傷がよく分からないもの;◎
軽度の白化やえぐれが認められるもの;○
白化やえぐれなど明らかに傷が認められるもの;×
【0064】
(製造例1)(poly(MMA−co−EA)−block−poly(BA−co−TBA−co−STA)−block−poly(MMA−co−EA)の合成(poly(MMA−co−EA)−block−poly(BA−co−TBA−co−STA)−block−poly(MMA−co−EA)は、MMAおよびEAを含有するブロックと、BA、TBAおよびSTAを含有するブロックと、MMAおよびEAを含有するブロックとからなるトリブロック共重合体を意味する。また、poly(MMA−co−EA)/poly(BA−co−TBA−co−STA)=45/55(重量%)、MMA/EA=88/12(重量%)、BA/TBA/STA=91/4/5(重量%))
窒素置換した15L反応器に、アクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、BA861g、TBA37g、STA47gを仕込み、続いて臭化第一銅8.8gを仕込んで攪拌を開始した。その後、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル17gをアセトニトリル83gに溶解させた溶液を仕込み、ジャケットを加温して内温75℃で30分間保持した。その後、ペンタメチルジエチレントリアミン1.0gを加えて、アクリル系重合体ブロックの重合を開始した。重合開始から一定時間ごとに、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約0.2gを抜き取り、サンプリング溶液のガスクロマトグラム分析によりBAの転化率を決定した。ペンタメチルジエチレントリアミンを随時加えることで重合速度を制御した。
【0065】
BAの転化率が99%に到達したところで、トルエン1523g、塩化第一銅6.1g、ペンタメチルジエチレントリアミン1.0g、およびメタアクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、MMA706gおよびEA115gを加えて、メタアクリル系重合体ブロックの重合を開始した。MMAの転化率が95%に到達したところで、トルエン2400gを加えて反応溶液を希釈すると共に反応器を冷却して重合を停止させた。得られたアクリル系ブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量(Mn)は51,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.51であった。
【0066】
得られたアクリル系ブロック共重合体溶液に対しトルエンを加えて重合体濃度を25重量%とした。この溶液にp−トルエンスルホン酸一水和物を28g加え、反応器内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を34g添加した。その後、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機を用いて0.1〜0.4MPaGにて加圧濾過し、固体分を分離した。
【0067】
濾過後のアクリル系ブロック共重合体溶液に対し、協和化学製キョーワード500SHを25gを加え、30℃で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して反応終了とした。その後、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機を用いて0.1〜0.4MPaGにて加圧濾過して固体分を分離し、重合体溶液を得た。この重合体溶液を減圧乾燥して溶剤と未反応の単量体を除去し、目的とするアクリル系ブロック共重合体1を得た。
【0068】
(製造例2)(poly(MMA−co−EA)−block−poly(BA−co−TBA−co−STA)−block−poly(MMA−co−EA)の合成(ただし、poly(MMA−co−EA)/poly(BA−co−TBA−co−STA)=40/60(重量%)、MMA/EA=88/12(重量%)、BA/TBA/STA=76/4/20(重量%)))
アクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、BA492g、TBA23g、STA129gを用い、メタアクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、MMA381g、EA62gを用い、その他、臭化第一銅5.4g、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル10.5g、アセトニトリル57g、ペンタメチルジエチレントリアミン0.7g、トルエン822g、塩化第一銅3.8gを用いた以外は製造例1と同様の操作により重合をおこなった。得られたアクリル系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は48,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.45であった。
【0069】
得られたアクリル系ブロック共重合体溶液に対し、p−トルエンスルホン酸一水和物を17g、ラヂオライト#3000を21g、キョーワード500SHを16gを用いた以外は製造例1と同様の操作により精製・乾燥し、目的とするアクリル系ブロック共重合体2を得た。
【0070】
(製造例3)(poly(MMA−co−EA)−block−poly(BA−co−TBA)−block−poly(MMA−co−EA)の合成(ただし、poly(MMA−co−EA)/poly(BA−co−TBA)=45/55(重量%)、MMA/EA=88/12(重量%)、BA/TBA=96/4(重量%)))
アクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、BA71.3kg、TBA2.9kgを用い、メタアクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、MMA55.4kg、EA9.0kgを用い、その他、臭化第一銅691g、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.3kg、アセトニトリル6.5kg、ペンタメチルジエチレントリアミン84g、トルエン120kg、塩化第一銅477gを用いた以外は製造例1と同様の操作により重合をおこなった。得られたアクリル系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は55,800、分子量分布(Mw/Mn)は1.48であった。
【0071】
得られたアクリル系ブロック共重合体溶液に対し、p−トルエンスルホン酸一水和物を2.2kg、ラヂオライト#3000を2.6kg、キョーワード500SHを1.3kgを用いた以外は製造例1と同様の操作により精製した。
【0072】
得られた重合体溶液に、イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を重合体の重量に対して0.6重量部加えた後、SCP100(栗本鐵工所(株)製、伝熱面積1m2)を用いて溶媒成分を蒸発した。蒸発機入口の熱媒オイルを180℃、蒸発機の真空度を0.01MPa以下、スクリュー回転数を60rpm、重合体溶液の供給速度を32kg/hとした。重合体はφ4mmのダイスを通してストランドとし、水槽で冷却後ペレタイザーにより、ペレット状のアクリル系ブロック共重合体3を得た。
【0073】
(製造例4)(poly(MMA−co−EA)−block−poly(BA−co−TBA)−block−poly(MMA−co−EA)の合成(ただし、poly(MMA−co−EA)/poly(BA−co−TBA)=40/60(重量%)、MMA/EA=88/12(重量%)、BA/TBA=96/4(重量%)))
アクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、BA78.4kg、TBA2.9kgを用い、メタアクリル系重合体ブロックを構成する単量体として、MMA48.2kg、EA7.8kgを用い、その他、臭化第一銅688g、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.3kg、アセトニトリル7.1kg、ペンタメチルジエチレントリアミン83g、トルエン104kg、塩化第一銅475gを用いた以外は製造例1と同様の操作により重合をおこなった。得られたアクリル系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は53600、分子量分布(Mw/Mn)は1.50であった。
【0074】
得られたアクリル系ブロック共重合体溶液に対し、p−トルエンスルホン酸一水和物を2.2kg、ラヂオライト#3000を2.6kg、キョーワード500SHを1.3kgを用いた以外は製造例1と同様の操作により精製した。
【0075】
得られた重合体溶液から製造例3と同様の操作により、ペレット状のアクリル系ブロック共重合体4を得た。
【0076】
(実施例1)
製造例1で得られたアクリル系ブロック共重合体1を100重量部、カーボンブラック(旭カーボン(株)製、旭#15)を1重量部の割合で、180℃に設定したラボプラストミル50C150(ブレード形状:ローラー形R60(株)東洋精機製作所製)を用いて100rpmで15分間、溶融混練し、ブロック状サンプルを得た。
【0077】
得られたサンプルを、皮シボ金属板を用い、設定温度200℃で5分間熱プレス((株)神藤金属工業所製 圧縮成形機NSF−50)成形し、皮シボ模様が転写された厚さ1mmの評価用の成形体を得た。この成形体について、機械強度、耐エタノール性、耐油性、耐磨耗性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
アクリル系ブロック共重合体2を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。この成形体について、同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
アクリル系ブロック共重合体3を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。この成形体について、同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例2)
アクリル系ブロック共重合体4を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。この成形体について、同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、ほぼ同等の構造(数平均分子量、分子量分布およびメタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の重量比など)でありながら、炭素数10以上のアルキル基を有するアクリル系ブロック共重合体を含有する熱可塑性エラストマー組成物(実施例1、2)は、該アルキル基を有さないアクリル系ブロック共重合体を含有する組成物(比較例1、2)に比べて、耐磨耗性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体であって、少なくとも一方の重合体ブロックに、炭素数10以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル系単量体が少なくともひとつ共重合されているアクリル系ブロック共重合体を主成分とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
アクリル系ブロック共重合体が、トリブロック共重合体もしくはジブロック共重合体である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
アクリル系ブロック共重合体の数平均分子量が、10,000〜500,000である、請求項1、2のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
アクリル系ブロック共重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.8以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
アクリル系ブロック共重合体が、原子移動ラジカル重合により製造されたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
炭素数が10以上のアルキル基が、ラウリル基、トリデシル基もしくはステアリル基である、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。

【公開番号】特開2006−321833(P2006−321833A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143718(P2005−143718)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】