説明

熱可塑性合成繊維

【課題】水着や下着などの用途に最適な、透け防止性に優れる白色/淡色繊維を得ること。また、紡糸操業性、後工程通過性も実用上問題の無いレベルであること。
【解決手段】二酸化チタンなどの白色顔料を2〜10重量%含み、カーボンブラックなどの黒色顔料を2〜10ppm含む、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂からなることを特徴とする合成繊維。好ましくは、さらに蛍光増白剤を0.01重量%〜0.05重量%含む。白色顔料の平均粒径は0.2μm〜1μmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用途に最適な熱可塑性合成繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、発色性、染色堅牢度、強度、加工汎用性において天然繊維より優れる。このため、スポーツ、婦人、紳士等のあらゆる衣料分野に利用されている。
【0003】
合成繊維は、様々な方法で作られるが、最も一般的なのは熱可塑性樹脂(以下ポリマーと称する)を溶融紡糸したものである。合成繊維の原料であるポリマーは、それだけであれば無色透明である。従ってポリマーをそのまま繊維にすれば、透明な糸になる。そのような糸は衣料用途には適しておらず、通常の衣料用合成繊維は原料のポリマー中に艶消剤として酸化チタンの粒子を添加している。
【0004】
合成繊維に酸化チタンを加えるのは、古くからの慣用技術である。特許明細書などに酸化チタンの添加について記載していない場合であっても、特に「酸化チタンを一切添加していない」と明記している場合以外は合成繊維には酸化チタンが含まれていると考えるのが常識である。
【0005】
一般に衣料用によく用いられるポリアミド繊維とポリエステル繊維には、高々1%余りの酸化チタンが含まれる。多くの衣料品は繊維や布を染色して用いるので、この程度の酸化チタンの添加量で十分な遮蔽性を持ち衣料用途に適したものとなる。
しかし、淡色布帛や染色をしない白色布帛は透けやすく、水に濡れると著しく透けて見える欠点を有しているため、水着等のスポーツ衣料分野においては白色や淡色でも透けない布帛が要望されていた。
【0006】
従来より、このような欠点を改善するのに、ポリマー中に酸化チタン等の艶消剤を通常よりも多量に混合して合成繊維の不透明化を図る方法等が提案されている。しかしながら、多量の艶消剤をポリマー中に添加すると、紡糸操業性が下がる、強度などの糸物性が下がる、織編時の機械部品の磨耗が著しいなどの欠点が顕著に見られる。そこで、多量の艶消剤を含む成分と、通常のポリマー成分(ここにも当然少量の酸化チタンは含まれる)とからなる複合繊維が提案されている。しかし、これらの方法で得られた布帛は、隠ぺい力不足で透け防止性に満足するものでなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−60485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような現状に鑑みて行われたもので、透け防止性に優れるい白色/淡色繊維を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本願発明は、白色顔料を2〜10重量%含み、黒色顔料を2〜10ppm含む熱可塑性樹脂からなることを特徴とする合成繊維を主旨とする発明である。好ましい態様としては、白色顔料が酸化チタンであること、そしてその平均粒径が0.2〜1μmであること、黒色顔料がカーボンブラックであること、さらに蛍光増白剤を0.01〜0.05重量%含むことなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紡糸操業性、後工程通過性と遮蔽性に優れた白色および淡色の合成繊維が得られる。このような糸は水着などのスポーツ衣料に特に好適に用いられるほか、上着などに利用された際には下に着ている衣料品の色柄が見えないので、ファッション性に富むものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明でいう熱可塑性樹脂(ポリマー)とは、重合反応によって合成され得る繊維形成能を有するポリマー全般を意味するものである。具体的にはナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリ−m−フェニレンイソフタラミド等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアクリロニトリル等のポリアクリル類が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではなく、他の種類のポリマーの使用も可能である。また、各ポリマーは、ホモポリマーに限らず、ブレンド体、共重合体等でもよい。
これらのポリマーの中で、ポリエステルを好適に利用することが出来る。
【0012】
本願発明の合成繊維中には白色顔料が特定量含まれる必要がある。具体的には2〜10重量%含まれる必要があり、3〜10重量%が好ましく、3〜8重量%が特に好ましい。
白色顔料の添加量が2重量%未満であると、目的とする遮蔽効果が得られない。添加量が10重量%を超えると、単糸切れ、毛羽立ちなどの紡糸時のトラブルが頻発する上に、繊維の表面凹凸が激しい為紡糸・後加工の機械部品の磨耗が激しくなる。
【0013】
透け紡糸性能と紡糸操業性・後加工性のバランスを考慮すると、用いる白色顔料の平均粒径は0.2〜1μmが好ましく、0.2μm〜0.8μmがより好ましく、0.2μm〜0.5μmが特に好ましい。
【0014】
白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、シリカ等を挙げることができる。この中では酸化チタンが最も好ましく用いられる。
【0015】
白色顔料の添加方法は特に制限は無い。最もよく用いられるのは、予め高濃度に白色顔料を添加したマスターチップと通常のチップを混ぜて、これを紡糸する方法である。なお、最初にも述べたが、「通常のチップ」であっても少量の白色顔料が含まれている。
【0016】
本発明の合成繊維中には、黒色顔料が2ppm〜10ppm含まれる必要がある。その顔料としてはカーボンブラック系顔料、アニリンブラック系顔料、酸化鉄ブラック系顔料などがある。汎用性やコストを考慮すると、カーボンブラック(CB)の利用が最も好ましい。
【0017】
黒色顔料が含まれることで、繊維の遮蔽効果が格段に向上する。黒色顔料の量が2ppmに満たない場合、遮蔽効果の向上は見られない。一方10ppmを超えると、糸の黒さ(暗さ)が目立つようになり、白色、淡色などの明るい糸が必要とされる用途に適さなくなる。糸の遮蔽効果と白さのバランスを考えると黒色顔料の添加量は2ppm〜6ppmが好ましい。
【0018】
黒色顔料の添加方法は特に制限は無い。よく用いられるのは、予め高濃度に黒色顔料を添加したマスターチップと通常のチップを混ぜて、これを紡糸する方法である。また、チップと黒色顔料を混ぜてこれを紡糸に供する方法もある。
【0019】
本発明においては、ポリマー中に蛍光増白剤を加えることが好ましい。蛍光増白剤の使用は、後染めで白色にするよりも耐光性や染色堅牢度に優れるので好ましい。
【0020】
ここで言う蛍光増白剤とは、繊維製造時のポリマーに添加される原着用蛍光増白剤を意味しており、紡糸性、延伸性に支障をきたさないものが必要であり、具体的には、スチルベン系蛍光増白剤、イミダゾール系蛍光増白剤、イミダゾロン系蛍光増白剤、トリアゾール系蛍光増白剤、チアゾール系蛍光増白剤、オキサゾール系蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0021】
蛍光増白剤の含有量は任意であるが、白色効果を得る為には少なくとも0.01重量%の添加は必要となる。一方、大量に蛍光増白剤があると自己消光を起こし、増白効果が薄れるので添加量は高々0.05重量%で十分である。
【0022】
蛍光増白剤の添加方法は特に制限は無い。よく用いられるのは、予め高濃度に蛍光増白剤を添加したマスターチップと通常のチップを混ぜて、これを紡糸する方法である。また、チップと蛍光増白剤を混ぜてこれを紡糸に供する方法もある。
【0023】
この他に、繊維物性の改善や機能化を目的として各種添加剤を加えることは任意である。このような添加剤としてたとえば制電剤、耐光剤、耐熱剤、難燃剤などがある。また、通常のポリマーは重合触媒である金属成分の存在により、わずかであるが着色されている。このような触媒による着色は少量の染料・顔料を加えることで著しく軽減する場合がある。
【0024】
本願発明品を得る為の紡糸法に特に制限はない。公知の方法が適宜利用できる。繊維はフィラメント、ステープルいずれの形態でもよく、用途に応じて作り分けられる。また、フィルム状に成形したものをカッターでテープ状に裁断して得られる「スリットヤーン」のようなものでもよい。
【0025】
本願発明の繊維の断面形状に特に規定はない。一般的には丸断面のものが用いられるが、多角形や扁平など、形状を変えることにより、繊維表面の光の反射具合が変化し、これにより遮蔽性能を上げることも可能となる。
【0026】
さらに、通常の紡糸で得られた繊維に適宜撚りをかけたり(特に強撚)、布帛とした後にアルカリ溶液などで繊維の表面の一部を溶解させることで、繊維表面の光の反射具合を変化させ遮蔽性能を上げることも期待出来る。
【0027】
本願発明の繊維は、単独で用いてもよいし、混繊糸の1成分として用いても良い。例えば、カバリング糸の外糸に用いることが出来る。
【0028】
また、布帛化する際に他の繊維と混用してもよい。具体的には交編、交織などの方法がある。他繊維と混用する際には、他繊維を用いることで本願発明品の隠蔽性能が相殺されることを考慮に入れる必要がある。
【0029】
本願発明の繊維は、染色せずにそのまま「白色繊維(布帛)」として利用することが出来るが、少量の染料で染色して「淡色繊維(布帛)」としてもよい。淡色であってももちろん隠蔽性能を発揮することが出来る。また、通常の染色に供することも当然可能である。
【0030】
本願発明の繊維からなる布帛は、水着などのスポーツ用途に好適に用いられる。水に濡れても透けることがない。
さらに、本願発明の繊維からなるパンツ(ズボン)や上着はその下につけている衣類の色柄が目立ちにくいという効果を有する。これは、上に着ている衣服のそのものの色合いを際立たせることが出来るので、意匠性に優れるという効果を奏することを意味する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例で具体的に本願発明を説明する。
(繊維の製造例)
レギュラーPET樹脂(酸化チタン0.03重量%含有)を用いて、平均粒径が0.3μmの酸化チタン含量が20重量%のマスターチップ(M1)を製造した。M1と上述のレギュラーPET樹脂を適宜混ぜた。これに適量のカーボンブラックや蛍光増白剤(クラリアントジャパン社HOSTALUX)をまぶして均一にしたものを紡糸原料とした。
上記原料を用いて、常法によって紡糸、延伸して56dtex/36fの繊維を得た。
【0032】
(紡糸操業性の評価)
上記繊維の製造工程において、製造中の糸切れの発生や単糸切れ毛羽立ちなどの不良品の割合、その他トラブルの発生状況を見た。
【0033】
(遮蔽性の評価)
白板(L値91.0)、黒板(L値20.2)に繊維を均一に巻き付け、そのL値を測定した。白板に巻きつけたサンプルのL値をLw、黒板に巻きつけたサンプルのL値をLbとし、両者の差をΔLとしたとき、ΔLが小さいほど遮蔽性が優れることになる。
実際に種々のサンプルで検討した結果、(1)Lwが91.5以上であれば白色繊維として十分な白さを具備している、(2)ΔLが3.5以下であれば布帛にした時の遮蔽性も十分である、という目安により評価した。
【0034】
また目視による遮蔽性評価もおこなった。上記白板の上に28ポイントで印刷されたアルファベットを貼り付け、その上から繊維を均一に巻きつけた。文字の見え具合を10段階で評価した。数値が見えにくいほど高得点とした。評価点が8以上であれば十分な遮蔽性を示す。
【0035】
(磨耗性の評価)
線径35μmのステンレス線を滑車を使って水平にセットした。ステンレス線の両端には10gの重りを吊るした。ステンレス線に垂直かつ地面に水平になるように試料(繊維)を一定速度で走行させた。走行を開始してからステンレス線が試料との摩擦で切断されるまでの時間を測定した。この時間が長いほど、実際の紡糸機、後加工装置の部品の磨耗が少ない。実際の加工評価との相関から、切断時間が60秒以上であれば、実用上十分である。
【0036】
実施例1
上記製造例に従い繊維を製造するに際して、カーボンブラックの量は繊維中6ppm、蛍光増白剤の量は0.05重量%(500ppm)又は0(含まない)の一定になるようにし、酸化チタンの量を表1に示すように種々変えた繊維を製造した。
得られた繊維はいずれも繊維としての強度、伸度は十分であった。
得られた繊維について、上記評価を行った。結果を表1に示す。
なお、表1の実験No.1は通常のレギュラーPET繊維(CB、蛍光増白剤は含まない)であり、磨耗性評価の参考試料である。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から分かるのは、酸化チタンが2重量%未満では十分な遮蔽効果は得られないということである。また酸化チタンの増加に伴い磨耗評価は劣る傾向があり、酸化チタンが10重量%を超えると操業性に支障が出ることが予想される。実際、試験No.1〜7については紡糸時の糸切れ、単糸切れ、毛羽立ちなどのトラブルは見られず、紡糸口金の濾圧上昇も問題とならなかったが、試験No.8は口金濾圧上昇が大きく、また単糸切れ、毛羽立ちなどが多く見られて実用上の問題が多かった。
一方表に示した糸はほとんどが白色繊維として十分な白さを有していたが、No.2の糸が白さが十分ではなかった。
【0039】
表1中の試験No.4と5を比較する。両者は酸化チタン、カーボンブラックの添加量は同じであるがNo.4には蛍光増白剤が含まれていない。このため、L値はNo.5に較べて相対的に低くなる。表中には示していないLbの値もNo.4のほうが小さい。白さを強調する為には蛍光増白剤の添加が有効であることが分かる。
【0040】
実施例2
上記製造例に従い繊維を製造するに際して、繊維中の酸化チタン量は6重量%一定、蛍光増白剤の量は0.05重量%または0(無添加)になるようにし、カーボンブラックの量を表2に示すように種々変えた繊維を製造した。
得られた繊維はいずれも繊維としての強度、伸度は十分であった。
得られた繊維について、上記評価を行った。結果を表2に示す。
なお、表1の実験No.11は通常のレギュラーPET繊維(先の実施例1のNo.1と同一品)であり、磨耗性評価の参考試料である。
【0041】
【表2】

【0042】
表2を見れば分かるように、カーボンブラックの量が2ppmより少ないと、遮蔽性が十分ではない。また10ppmを超えると遮蔽性は十分ではあるものの、Lw値が低かった。No.18の実際の見た目も白色繊維と称するには黒すぎるものであった。なおこれらのNo.11〜18の繊維は紡糸時の糸切れ、単糸切れ、毛羽立ちなどのトラブルは見られず、紡糸口金の濾圧上昇も問題とならなかった。
【0043】
また試験No.15と16を比較することで蛍光増白剤の効果を確認できる。すなわち蛍光白色剤を添加したNo.16は同等の組成のNo.15よりもL値が高く、見た目も白さが優れる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により得られる白色および淡色の合成繊維は、水着などのスポーツ衣料を初めとする衣料品分野に広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色顔料を2〜10重量%含み、黒色顔料を2〜10ppm含む熱可塑性樹脂からなることを特徴とする合成繊維。
【請求項2】
白色顔料が酸化チタンである請求項1記載の合成繊維。
【請求項3】
酸化チタンの粒径が0.2〜1μmである請求項2記載の合成繊維。
【請求項4】
黒色顔料がカーボンブラックである請求項1〜3いずれかに記載の合成繊維。
【請求項5】
蛍光増白剤を0.01〜0.05重量%含む請求項1〜4いずれかに記載の合成繊維。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がポリエステルである請求項1〜5いずれかに記載の合成繊維。