説明

熱可塑性樹脂押出発泡断熱板

【課題】 本発明は、ポリスチレン樹脂と非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とする押出発泡体について、長期間に亘り安定した断熱性を維持する、高厚みの、外観等が良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくともハイドロフルオロオレフィンからなる発泡剤を含有する発泡性樹脂溶融物を押出発泡して得られる、見かけ密度20〜50kg/m、厚み10〜150mmの、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板であって、該発泡断熱板を構成する基材樹脂がポリスチレン樹脂と下記の条件を満足するポリエステル樹脂とからなり、前記ポリスチレン樹脂と前記ポリエステル樹脂の重量比率が、95:5〜50:50であることを特徴とする。
条件:JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が小さく、長期間に亘る断熱性に優れ、高度な難燃性を有し、機械的強度にも優れる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板(以下、「押出発泡断熱板」、「発泡板」ともいう。)に関し、建築物の壁、床、屋根等の断熱材として有用な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン樹脂押出発泡断熱板は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、板状に成形されたものが断熱材等として広く使用されている。このような発泡板は、一般に押出機中でポリスチレン樹脂を加熱溶融した後、得られた溶融物に物理発泡剤を混練して得られる発泡性溶融混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイなどから低圧域に押出発泡することにより製造されている。
【0003】
上記のようなポリスチレン樹脂押出発泡断熱板の製造に使用される物理発泡剤は、従来は、ジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという)が広く使用されてきたが、CFCはオゾン層を破壊する危険性が大きいことから、オゾン破壊係数の小さい水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという)がCFCに替わって用いられてきた。しかしながら、HCFCもオゾン破壊係数が0(ゼロ)でないことから、オゾン層を破壊する危険性が全くないわけではない。近年においては、オゾン層破壊係数が0(ゼロ)であり、分子中に塩素原子を持たないフッ化炭化水素(以下、HFCという)を発泡剤として使用することが検討されてきている。
【0004】
しかし、HFCは、オゾン層破壊係数を有しない点では好ましいものであるが、地球温暖化係数が大きいため、地球環境保護の観点からは未だ改善の余地がある。
【0005】
このためオゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さい、環境にやさしい発泡剤が種々検討されており、近年フッ素化されたオレフィン(ハイドロフルオロオレフィン、以下、HFOともいう。)がHFCの代替品として、特許文献1に提案されている。
【0006】
一方、ポリスチレン樹脂押出発泡体の断熱性を改良する手段としては、ガスバリアー性樹脂をポリスチレン樹脂に配合した樹脂を使用することが知られており、例えば、特許文献2、3には、イソブタンを含む発泡剤を使用し、ポリスチレン樹脂に、ニトリル系樹脂やビニルアルコール系樹脂を添加して押出発泡断熱板を製造する方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献4には、発泡体製造後1ヶ月以内に、ポリスチレン樹脂押出発泡断熱板の表面に非ハロゲン系物質のガスバリアー性被膜を形成させることにより、ポリスチレン樹脂押出発泡断熱板からの物理発泡剤の逸散を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010−522808号公報
【特許文献2】特開2006−131719号公報
【特許文献3】特開2006−131757号公報
【特許文献4】特開2002−144497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の発泡体は、発泡剤としてHFOを使用したものであるが、長期の断熱性を満足しつつ、高厚みの発泡体を得るには課題を残すものであった。
【0010】
また、特許文献1〜3は、ガスバリアー性に優れる周知の樹脂を選択しポリスチレン樹脂に混合することにより発泡剤の逸散を防ぐことが記載されているが、一般にガスバリアー性樹脂として知られている樹脂を添加しても、長期断熱性が得られない場合があった。
【0011】
特許文献4に記載のスチレン系樹脂発泡断熱板をガスバリアー性被膜で被覆する方法は、製造するために特別な装置を必要とするうえに、発泡断熱板の切断加工や、釘などの金具により発泡断熱板の施工時に被膜が傷つけられると断熱性能が維持できなくなるため、実用性に劣るといった問題があった。
【0012】
一方、本発明者らは、前記ポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂との混合物の押出発泡技術について種々の検討を重ねた結果、ポリスチレン樹脂とポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とする押出発泡技術において、ポリエステル系樹脂の結晶化開始温度がポリスチレン系樹脂の発泡温度よりも高く、結晶化速度も速いことから、押出機内にて基材樹脂を発泡温度まで冷却する前にポリエステル系樹脂の結晶化が開始してしまい、高厚み、高発泡倍率の押出発泡板を得る際の発泡成形性の悪化を招いていたという知見を得た。更に、鋭意研究を重ねた結果、ポリスチレン系樹脂と、非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とすることにより、高厚み、高発泡倍率の良好な発泡成形体を得ることが出来ることを見出した。また、フィルムのガス透過性データからガスバリアー性樹脂として扱われることのない非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂が、驚くべきことにポリスチレン樹脂と混合され、高厚み、高発泡倍率の発泡成形体が形成されることにより発泡体からの発泡剤の逸散と発泡体への空気の流入を抑制する良好なガスバリアー性を示すことを見出した。
【0013】
本発明は、前記ポリスチレン樹脂と非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とする押出発泡体について検討し、さらに長期間に亘り安定した断熱性を維持する、高厚み、外観等が良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、以下の(1)ないし(6)に記載する発明を要旨とする。
(1)少なくともハイドロフルオロオレフィンからなる発泡剤を含有する発泡性樹脂溶融物を押出発泡して得られる、見かけ密度20〜50kg/m、厚み10〜150mmの、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板であって、該発泡断熱板を構成する基材樹脂がポリスチレン樹脂と下記の条件を満足するポリエステル樹脂とからなり、前記ポリスチレン樹脂と前記ポリエステル樹脂の重量比率が、95:5〜50:50であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
条件:JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)
(2)前記発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィンと、炭素数3〜5の飽和炭化水素と、二酸化炭素および/または水とからなり、前記発泡断熱板中の、ハイドロフルオロオレフィンと炭素数3〜5の飽和炭化水素との合計残存量が前記発泡断熱板1kg当たり0.4モル以上であり、前記残存量中のハイドロフルオロオレフィンの存在比率が5モル%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
(3)前記ハイドロフルオロオレフィンがテトラフルオロプロペンであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
(4)前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜80モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体から選択されるものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【発明の効果】
【0015】
本発明による熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、ポリスチレン樹脂と前記ポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂とするものであり、発泡体表面に凹凸状の波うちがなく、外観が良好であり、十分な厚みを有し、発泡倍率が高く、長期断熱性にも優れる、良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板である。
【0016】
特に、前記押出発泡断熱板がポリスチレン樹脂と特定のポリエステル樹脂とからなる基材樹脂により構成されることにより、発泡剤として使用され発泡断熱板中に残存するハイドロフルオロオレフィンが発泡断熱板から逸散し難くなると共に、発泡断熱板への空気の流入が抑制されるため、低い熱伝導率が長期に亘って維持され、優れた断熱性能を保持することが可能となる。
従って、本発明の、高厚み、長期断熱性を有する押出発泡体は、省エネ、環境対応技術として、次世代の建築、土木用断熱材として有用である。
【0017】
前記発泡断熱板中の、ハイドロフルオロオレフィンと炭素数3〜5の飽和炭化水素との合計残存量が前記発泡断熱板1kg当たり0.4モル以上であり、前記残存量中のハイドロフルオロオレフィンの存在比率が5モル%以上であることにより、押出発泡後の発泡断熱板にHFOが残存して、より優れる長期断熱性が発揮される。
【0018】
本発明では前記ポリエステル樹脂が、特に環状エーテル骨格を有するグリコールを特定量含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるものであることにより、特に耐熱性にも優れた発泡断熱板となり、高温時の寸法安定性が要求される屋根や外壁などの外張り断熱工法用の発泡断熱板として好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板について説明する。
【0020】
(1)基材樹脂
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、ポリスチレン樹脂(A)と、非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)(以下、ポリエステル樹脂(B)ともいう。)を基材樹脂とするものである。
【0021】
本発明の特徴の一つは、基材樹脂として、ポリスチレン樹脂(A)と非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)とを配合することにある。非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)の酸素、窒素、炭化水素などのガス透過速度は、結晶性ポリエステル樹脂よりも数倍高いことが知られており、延伸によるガスバリアー性向上効果も殆ど期待できない。従って、本発明の目的とする発泡体からの発泡剤の逸散および発泡体への空気の流入の抑制には、非晶性或いは低結晶性ポリエステル樹脂(B)をポリスチレン樹脂(A)に配合することが効果的とは常識的には考えられない。また、ポリスチレン樹脂と代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートとの混合物を基材樹脂として押出発泡を行うと、安定して押出発泡を行うことができないうえに、得られる発泡体も機械的物性や独立気泡率に劣るものとなる。
【0022】
しかしながら、本発明の基材樹脂として、ポリスチレン樹脂(A)と非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)とを配合した場合には、上述した発泡適性の悪化を招くことなく、安定して高発泡倍率で外観が良好な高厚みの熱可塑性樹脂押出発泡断熱板が得られる。
【0023】
また、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とが配合された基材樹脂は、発泡体からの発泡剤の逸散および発泡体への空気の流入を抑制するに足る十分なガスバリアー性を発現することができる。なお、本発明の押出発泡断熱板が優れたガスバリアー性を発現することの理由については定かではないが、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とが比較的混練性に優れることから、ポリエステル樹脂(B)が良好に微分散することにより起こるガス透過遮蔽効果によるものと考えられる。このことは、押出発泡断熱板を構成する気泡膜部断面におけるポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂(B)との分散状態が海島構造を示すものが、特に優れた前記ガスバリアー性能を発揮することからも裏づけられる。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は気泡膜部断面において、ポリスチレン樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)が連続相をなし、連続相中に他方が分散相をなして海島構造を形成していることが好ましく、特に、分散相が、連続相中で層状に分散していることが、より一層優れた長期断熱性を達成する上で望ましい。なお、高発泡倍率で、高厚みの外観が良好な発泡断熱板を押出発泡法により製造する観点からは、ポリスチレン樹脂(A)が連続相をなし、ポリエステル樹脂(B)が分散相をなしていることが好ましい。なお、本発明の押出発泡断熱板は、海島構造ではなくポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)が両連続相構造をなす場合もある。
【0025】
押出発泡断熱板の気泡膜内にて海島構造として分散相を形成させた熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を得るためには、例えば該ポリエステル樹脂(B)がポリスチレン樹脂(A)との相溶性に優れ、両者の溶融粘度が近い値を示し、かつ得られる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の見掛け密度が20〜50kg/m程度の高発泡倍率となるように調整される。
【0026】
ポリスチレン樹脂(A)と、本発明における非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)との熱伝導率を非発泡状態、すなわちポリマー同士で比較すると、一般に、ポリスチレン樹脂(A)に比べ、ポリエステル樹脂(B)の方が熱伝導率は高くなる。従って、ポリスチレン樹脂(A)にポリエステル樹脂(B)を混合した場合には、その混合物の熱伝導率はポリスチレン樹脂単独の熱伝導率よりも高くなる。それに対して、発泡体においては、ポリスチレン樹脂単独発泡体と、ポリスチレン樹脂(A)に非晶性ポリエステル樹脂(B)を配合した基材樹脂からなる熱可塑性樹脂発泡断熱板とを比較すると、非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)を配合した熱可塑性樹脂発泡断熱板の方がポリスチレン樹脂単独発泡体に比べ熱伝導率が低くなり、さらに、熱可塑性樹脂発泡断熱板を構成する基材樹脂中の該ポリエステル樹脂の含有量が増すにしたがって、熱伝導率が低下する傾向があることが見出されたことも本発明の特有の効果の一つである。
【0027】
前記非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(B)を配合した熱可塑性樹脂発泡断熱板の方が、ポリスチレン樹脂単独発泡体に比べ熱伝導率が低くなる理由は定かではないが、おそらく、ポリスチレンの赤外領域の吸収帯にさらにポリエステル樹脂(B)の吸収帯が付加され、すなわち赤外領域の吸収帯が増し、混合樹脂が赤外線を吸収するためと推測される。一般的に固体状態の非発泡の樹脂では、熱は主に熱伝導の形で固体中を伝わる。そのため、非発泡の樹脂の熱伝導率は樹脂自体の熱伝導率により決定される。それに対して、発泡体では樹脂自体の熱伝導のほかに、発泡体の気泡中の気体(残存発泡剤及び大気成分)による熱伝導及びその対流によっても熱が伝わり、さらに、発泡体において気泡は幾重にも亘って形成されていることから、気泡膜間の赤外線の輻射によっても熱が伝わる。ポリスチレン樹脂(A)にポリエステル樹脂(B)を混合した熱可塑性樹脂発泡断熱板では、ポリエステル樹脂(B)の赤外線の吸収により、この輻射による伝熱を低減する効果が向上し輻射伝熱を小さくすることで断熱性を向上させることができるものと推測される。
【0028】
また、ポリスチレン樹脂(A)に前記ポリエステル樹脂(B)を配合した場合、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との屈折率が異なり、また混合物は完全な相溶系を呈しないために白濁を生じる。この白濁化は赤外領域まで影響し、赤外線を乱反射し、輻射による伝熱低減効果が向上して輻射伝熱を小さくすることで熱伝導率を低下させることにより、発泡体としたときにのみ断熱性を向上させているものとも推測される。
【0029】
さらに、本発明においては、ポリスチレン樹脂(A)にポリエステル樹脂(B)を配合した熱可塑性発泡断熱板では、該発泡断熱板中に残存するHFOの逸散が抑制され、発泡断熱板中の発泡剤の残存量を高く維持し、上記の発泡断熱板における非晶性ポリエステル樹脂(B)の赤外線の吸収により、この輻射による伝熱を低減する効果が向上し輻射伝熱を小さくすることに加えて、更に断熱性を向上させるものと推測される。
【0030】
(i)ポリスチレン樹脂(A)
本発明において使用されるポリスチレン樹脂(A)としては、例えばスチレンホモポリマーやスチレンを主成分とするスチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレンアクリレート共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体、ハイインパクトポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン樹脂)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用される。なお、上記スチレン系共重合体におけるスチレン成分含有量は50モル%以上が好ましく、特に好ましくは80モル%以上である。
【0031】
前記ポリスチレン樹脂の中でも、スチレンホモポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体が好ましく、なかでも、スチレンホモポリマー、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体が好適である。
【0032】
本発明において用いられるポリスチレン樹脂(A)は、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度(η)が500〜10000Pa・sのものが好ましく、更に700〜8000Pa・sのものが好ましく、特に1000〜6000Pa・sのものが好ましい。ポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度(η)が上記範囲内であることにより、押出発泡断熱板を製造する際の押出成形性に優れると共に、得られる押出発泡断熱板が機械的強度に優れるものとなり、前記ポリエステル樹脂(B)との混練性に優れる観点からも好ましく、発泡断熱板を構成するポリスチレン樹脂(A)と前記ポリエステル樹脂(B)との混合物からなる基材樹脂により一層良好なガスバリアー性を発現することにもなる。
【0033】
(ii)非晶性或いは低結晶性のポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂(B))
本発明で用いられるポリエステル樹脂(B)としては、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合させる方法やポリエステル単独重合体及び/又はポリエステル共重合体のエステル交換反応等により製造されるポリエステル共重合体が挙げられる。
【0034】
本発明において使用される該ポリエステル樹脂(B)は、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置(以下、DSC装置という。)を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)の条件を満足するものである。
前記ポリエステル樹脂(B)の結晶化開始温度が前記ポリスチレン樹脂(A)の発泡温度よりも高く、結晶化速度も速いことから、押出機内にて基材樹脂を発泡温度まで冷却する前に、前記ポリエステル樹脂(B)の結晶化が開始してしまい、目的とする押出発泡断熱板を得ることが困難となる。
なお、該ポリエステル樹脂(B)の吸熱ピーク熱量は、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを配合した基材樹脂の発泡適性の観点から更に2J/g未満(0も含む。)であることが好ましい。
【0035】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(B)のジカルボン酸成分について詳述する。該ジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体が使用できる。エステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキルエステルなどのエステル誘導体、ジアンモニウム塩などの塩、ジクロリドなどの酸ハロゲン化物などを挙げることができる。該ポリエステル樹脂(B)中のジカルボン酸成分単位としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物等の誘導体、またはシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体、または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で使用してもよく2種以上の複合使用でもよい。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂(B)は、主たるジカルボン酸成分単位として、芳香族ジカルボン酸またはその酸無水物、またはその誘導体からなる酸成分単位、例えば、テレフタル酸成分単位、イソフタル酸成分単位、ナフタレンジカルボン酸成分単位、これらのジカルボン酸成分を一種類以上含むことが好ましい。
【0037】
本発明で用いられるポリエステル樹脂(B)のジオール成分について詳述する。該ジオール成分としては、脂肪族系および芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)或いはそのエステル形成性誘導体を使用することができる。
【0038】
ポリエステル樹脂(B)中のジオール成分単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、または1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,6−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、またはビスフェノールA等の芳香族ジオール、または3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、スピログリコールという)等の環状エーテル骨格を有するジオールを挙げることができる。これらのジオール成分は、単独使用でもよく2種以上の複合使用でもよい。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂(B)は、主たるジオール成分単位として、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール成分単位、ネオペンチルグリコール成分単位、スピログリコールの環状エーテル骨格を有するジオール成分単位、これらのジオール成分を一種類以上含むことが好ましい。また、これらのジオール成分の合計量はジオール成分中10モル%以上、更に10〜80モル%含有することが好ましい。
【0040】
また、主たるジオール成分単位として、スピログリコールの環状エーテル骨格を有するジオール成分単位、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオールから誘導される成分単位を含有する場合は耐熱性を向上させることができ、スピログリコール成分単位はジオール成分中10〜80モル%、更に10〜60モル%、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール成分単位はジオール成分中25〜60モル%含有することが好ましい。またネオペンチルグリコール成分単位を含有する場合においても、未添加のものよりもガスバリアー性の高いものが得られる。ネオペンチルグリコール成分単位はジオール成分中10〜40モル%好ましくは、20〜40モル%含有することが好ましい。
【0041】
本発明にける該ポリエステル樹脂(B)は、例えば少量の安息香酸,ベンゾイル安息香酸,メトキシポリエチレングリコール等のごとき単官能化合物から誘導される成分単位によって分子末端を封止されていてもよい。また、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される成分単位を少量含んでいてもよい。
【0042】
該ポリエステル樹脂(B)の結晶性の程度は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸等2種以上使用してそれらジカルボン酸成分単位のモル比を変える方法や、ジオール成分としてエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノール等2種以上使用してそれらジオール成分単位のモル比を変える方法等により調整することができる。
【0043】
本発明の押出発泡断熱板を構成する基材樹脂が前記の好ましいモルフォロジーをなすためには、ポリエステル樹脂(B)の溶融粘度はポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度に近いほど好ましく、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度(η)が500〜10000Pa・s、更に700〜8000Pa・s、特に1000〜6000Pa・sの範囲内であることが好ましい。
【0044】
本発明の押出発泡断熱板の基材樹脂におけるポリエステル樹脂(B)の配合量は、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の重量比率が、ポリスチレン樹脂(A):ポリエステル樹脂(B)=95:5〜50:50である。ポリエステル樹脂(B)の配合量が少なすぎると押出発泡断熱板のガスバリアー性を向上させる効果が小さくなる。一方、ポリエステル樹脂(B)の配合量が多すぎると基材樹脂の溶融張力が低下して発泡成形が困難になり、高発泡倍率の押出発泡断熱板が得られない虞れがあるうえに、ポリエステル樹脂(B)の種類にもよるが、得られる押出発泡断熱板の耐熱性が従来の一般的なポリスチレン樹脂発泡断熱板と比べ劣るものとなる虞れがある。また、ガスバリアー性に優れ、高発泡倍率と高い独立気泡率とを兼ね備えた押出発泡断熱板を得る観点から、ポリスチレン樹脂(A):ポリエステル樹脂(B)は、90:10〜55:45であることが好ましく、85:15〜60:40であることがより好ましい。
【0045】
また本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲内で、基材樹脂中に、ポリオレフィン樹脂、スチレン系エラストマーやポリフェニレンエーテル樹脂のような他の重合体を、配合目的に応じて混合して使用することもできる。なお、そのような他の重合体の使用量は、基材樹脂中(基材樹脂を100重量%として)に、30重量%を上限とすることが好ましく、20重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
(2)物理発泡剤(C)
本発明おいて、物理発泡剤(C)は、オゾン破壊係数がゼロ又は極めて低く、かつ地球温暖化係数の低いものであることが好ましい。物理発泡剤(C)は、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の熱伝導率を低下させることを目的に、少なくともハイドロフルオロオレフィン(HFO)(C1)を物理発泡剤として使用することを必須とする。
【0047】
上記HFO(C1)は、具体的には、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランスHFO−1234ze)、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(シスHFO−1234ze)、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)等が挙げられる。これらの発泡剤は単独でまたは2種以上を併用することもできる。なお、上記ハイドロフルオロオレフィンは、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が非常に小さい他、気体状態の熱伝導率が低く、燃え難い性質を持っている。
【0048】
なお、上記HFOは従来のフロン類に比べるとポリスチレン樹脂に対する透過速度が相対的に速いことから、従来の押出発泡板においては、発泡後、比較的早期に発泡体から逸散してしまい、上記HFOが発泡板の長期断熱性に影響することは少なかった。本発明においては、発泡断熱板を構成する基材樹脂がポリスチレン樹脂(A)と特定のポリエステル樹脂(B)とからなることによって、発泡剤としてHFOを使用した場合であっても、HFOの発泡断熱板からの逸散を効果的に防止し、HFOの熱伝導率が低いという特性を利用して、長期断熱性を有する発泡断熱板となる。
【0049】
また、上記のHFOの中でも、特に熱伝導率が低い押出発泡断熱板を得る観点からは、ポリスチレン樹脂への浸透率が低く、また熱伝導率が0.013W/m・Kと低いHFOである、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを用いることが好ましい。
【0050】
上記のHFO(C1)の配合量は、前記基材樹脂1kg当たり0.05〜0.8モル/kgであることが好ましい。上記範囲内であれば、押出発泡後の発泡断熱板に、HFOが有効量残存して、長期断熱性を有する押出発泡断熱板となる。上記観点から、前記HFOの配合量は0.1〜0.6モル/kgであることがより好ましい。
【0051】
物理発泡剤(C)として、上記HFO以外に、得られる押出発泡体の製造時の安全性や押出発泡体の難燃性などの観点から、スチレンに対するガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤(C2)と、上記のガス透過速度が比較的速い物理発泡剤(C3)とを併用した混合発泡剤を使用することが好ましい。
【0052】
上記ガス透過速度が比較的遅い物理発泡剤(C2)の具体例としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタンシクロブタン、シクロペンタン、等の炭素数3〜5の飽和炭化水素が挙げられる。これらの物理発泡剤(C2)は単独または2種以上を併用することもできる。これらの中でも、ガス透過速度が遅く発泡剤として好適な、イソブタンが特に好ましい。前記物理発泡剤(C2)を使用することにより、長期断熱性を阻害しない範囲で、上記HFOの配合量を削減し、より安価に製造することが可能となる。
【0053】
一方、ガス透過速度が比較的速い物理発泡剤(C3)としては、例えば、塩化アルキル、アルコール類、エーテル類、ケトン類、蟻酸メチル、二酸化炭素、水等が挙げられる。これらの発泡剤の中でも炭素数1〜3の塩化アルキル、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1〜3のエーテル類、二酸化炭素、水等が物理発泡剤として好適なものである。炭素数1〜3の塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル,塩化エチル等が挙げられる。炭素数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。アルキル鎖の炭素原子数が1〜3のエーテル類としては例えばジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチレンジメチルエーテル等が挙げられる。特に、発泡倍率向上効果などが期待でできるものとして、塩化メチル、ジメチルエーテル、メタノール、エタノール、二酸化炭素、水などが挙げられる。これらの物理発泡剤(C3)は単独または2種以上を併用することもできる。前記物理発泡剤(C3)は、発泡体から早期に逸散することから、発泡断熱板の形状を早期に安定化させることが可能となるとともに、十分な発泡倍率を有する発泡断熱板を得ることが可能となる。
【0054】
また、上記物理発泡剤(C3)としては、二酸化炭素及び/または水を使用することが特に好ましい。二酸化炭素は、得られる押出断熱発泡断熱板の気泡を小さくする効果があるので気泡調整剤の添加量を減らすことができる効果や断熱性能を向上させる効果が期待できる。一方、水を使用した場合には、基材樹脂との混練性に優れることから、より高発泡倍率の押出発泡断熱板を得ることができる。
【0055】
本発明においては上記の観点から、物理発泡剤として、HFO(C1)と、上記の炭素数3〜5の飽和炭化水素(C2)と、二酸化炭素及び/または水(C3)とを用いることが好適である。
【0056】
これら物理発泡剤の基材樹脂に対する添加量の合計量は、所望する発泡倍率との関連で適宜選択されるが、見かけ密度が20〜50kg/cmの発泡断熱板を得るには、通常、基材樹脂1kg当たり、混合発泡剤として概ね0.5〜3モル配合され、好ましくは0.6〜2.5モルが配合される。
【0057】
なお、発泡断熱板の断熱性と難燃性を考慮すると、物理発泡剤(C2)は基材樹脂1kg当たり、0.1〜3モル、好ましくは0.2〜2.5モル、より好ましくは0.3〜2モル配合されることが好ましい。また、発泡断熱板の成形性を考慮すると、ガス透過速度が比較的速い物理発泡剤(C3)は基材樹脂1kg当たり、0.03〜3モル、好ましくは0.05〜2.5モル、より好ましくは0.1〜2モル配合されることが好ましい。
【0058】
(3)難燃剤
本発明により得られる熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、主に建築用断熱板として使用されることから、JIS A9511(2006年)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な難燃性が要求される。さらに、本発明により得られる熱可塑性樹脂発泡断熱板は、JIS A9511(2006年)4.2で規定される熱伝導率の規格を満足することが望ましい。
【0059】
前記JIS A9511(2006年)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な断熱性能が要求される熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、前記物理発泡剤(C2)の発泡断熱板中の含有量の調整に加えて、難燃剤を添加することにより達成される。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板に配合できる難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく使用される。臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、N−2,3−ジブロモプロピル−4,5−ジブロモヘキサヒドロフタルイミド、臭素化ポリスチレン、臭素化ビスフェノールエーテル誘導体、臭素化SBSブロックポリマーなどが挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。上記の臭素系難燃剤の中でも、その熱安定性が高く、高い難燃効果が得られることから、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0061】
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板中における難燃剤の含有量は、難燃性を向上させるとともに、発泡性の低下および機械的物性の低下を抑制するうえで、基材樹脂100重量部当たり1〜10重量部が好ましく、1.5〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。
【0062】
さらに、本発明おいては、押出発泡断熱板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記臭素系難燃剤と併用して使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物、トリフェニルホスフェート、クレジルジ−2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0063】
該難燃助剤の配合量は基材樹脂100重量部に対し、ジフェニルアルカンやジフェニルアルケンの場合は0.05〜1重量部、好ましくは0.1〜0.5重量部の範囲で使用され、その他の難燃助剤の場合は0.5〜5重量部、好ましくは1〜4重量部の範囲で使用することができる。
【0064】
(4)断熱性向上剤
本発明においては基材樹脂に、断熱性向上剤を配合してさらに断熱性を向上することができる。断熱性向上剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミ等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどが例示される。これらは1種又は2種以上を使用することができる。該断熱性向上剤の添加量は基材樹脂100重量部に対し、0.5〜5重量部、好ましくは1〜4重量部の範囲で使用される。
【0065】
(5)その他の添加剤
また、本発明においては基材樹脂に、必要に応じて、気泡調整剤、顔料,染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0066】
前記気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。なかでも難燃性を阻害することがなく気泡径を調整することが容易であるタルクが好適である。特にJIS Z8901(2006年)に規定される粒径が0.1〜20μm、更に0.5〜15μmの大きさのタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、該気泡調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、基材樹脂100重量部に対し、概ね、0.01〜8重量部、更に0.01〜5重量部、特に0.05〜3重量部が好ましい。
【0067】
気泡調整剤も他の添加剤と同様にマスターバッチを調製して使用することが添加剤の分散性の点から好ましい。気泡調整剤のマスターバッチの調製は、例えば、気泡調整剤としてタルクを使用した場合、基材樹脂に対してタルクの含有量が20〜80重量%となるように調製されることが好ましく、30〜70重量%となるように調整されることがより好ましい。
【0068】
以下、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の諸物性について詳述する。
(i)見かけ密度
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の見掛け密度は、20〜50kg/cmのものが好ましい。見掛け密度が小さすぎる場合は、押出発泡断熱板を製造すること自体かなり困難であり、用途によっては機械的強度が不十分なものとなる。一方、見掛け密度が大きすぎる場合は、押出発泡断熱板の厚みを相当厚くしない限り、充分な断熱性を発揮させることが困難であり、また軽量性の点からも好ましくない。
【0069】
(ii)厚み
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板は、その使用目的から厚みが10〜150mmのものが好ましい。厚みが薄すぎる場合には、特に断熱材として使用する場合に要求される断熱性が不十分となる虞がある。一方、押出機の大きさにもよるが、厚みが厚すぎる場合には発泡成形が難しくなる虞がある。なお、厚みは15mm〜120mmのものがより好ましい。
【0070】
(iii)厚み方向の平均気泡径
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の厚み方向平均気泡径は、好ましくは0.05〜2mmであり、より好ましくは0.06〜0.7mmであり、さらに好ましくは0.06〜0.3mmである。厚み方向の平均気泡径が上記範囲内にあることにより、前記見かけ密度範囲の構成と相俟って赤外線透過を抑制することができるなどの理由からより一層高い断熱性を有する押出発泡断熱板をとなるなどの利点がある。
【0071】
本明細書における平均気泡径の測定方法は次の通りである。
すなわち、押出発泡断熱板の厚み方向の平均気泡径(D:mm)及び押出発泡断熱板幅方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡断熱板の幅方向垂直断面(押出発泡断熱板の押出方向と直交する垂直断面)を、押出発泡断熱板の押出方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡断熱板の押出方向垂直断面(押出発泡断熱板の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分する垂直断面)の顕微鏡拡大写真を得る。次いで、該拡大写真上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(当然のことながら、この長さは拡大写真上の直線の長さではなく、写真の拡大率を考慮した直線の真の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0072】
平均気泡径の測定方法について詳述すると、厚み方向の平均気泡径(D:mm)の測定は、幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、厚み方向に押出発泡断熱板の全厚みに亘る直線を引き、各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0073】
幅方向の平均気泡径(D:mm)は、幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、押出発泡断熱板を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を幅方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0074】
押出方向の平均気泡径(D:mm)は、押出発泡断熱板の幅方向を二等分する位置で、押出発泡断熱板を押出方向に切断して得られた押出方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、押出発泡断熱板を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を押出方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を押出方向の平均気泡径(D:mm)とする。また、押出発泡断熱板の水平方向の平均気泡径(D:mm)は、DとDの相加平均値とする。
【0075】
(iv)独立気泡率
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率が高い程、発泡剤としてしようしたHFOが長く気泡中に留まることが可能となり、高い断熱性能を長期に亘って維持することができる。独立気泡率S(%)は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定される。
【0076】
本明細書において押出発泡断熱板の独立気泡率は、下記式(1)から求められる。押出発泡断熱板の中央部および幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用する。なお、カットサンプルは押出発泡断熱板から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断された、押出発泡断熱板表皮を有しないサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば縦25mm×横25mm×厚み10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。
【0077】
(数1)
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ) (1)
ただし、Vx:上記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡断熱板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡断熱板を構成する基材樹脂の密度(g/cm
【0078】
(v)熱伝導率
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の熱伝導率は、0.0280W/(m・K)以下であることが望ましく、0.0270W/(m・K)以下であることが更に好ましい。上記範囲内であれば、断熱性に優れる発泡断熱板となる。なお、熱伝導率は、製造直後から変動するものであるが、発泡断熱板の使用時に、上記範囲内の熱伝導率となっていればよい。さらに、本発明の発泡断熱板は、長期の断熱性にも優れるため、製造後100日経過後の熱伝導率においても、0.0280W/(m・K)以下であることが望ましく、0.0270W/(m・K)以下であることが更に好ましい。本発明の発泡断熱板は、基材樹脂として、前記ポリスチレン樹脂(A)と特定のポリエステル樹脂(B)からなることから、前記HFOの発泡断熱板からの逸散が効果的に防止され、製造後100日経過後であっても、熱伝導率が低く維持される。
【0079】
なお、本発明において熱伝導率は、押出発泡断熱板から縦200mm×横200mm×厚み10mmの押出発泡断熱板表皮が存在しない試験片を切り出し、該試験片についてJIS A1412−2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定される。なお、厚み10mmの試験片を切り出せない場合は複数枚(できるだけ少ない枚数)の厚みの薄い試験片を積層して厚み10mmの試験片とする。例えば、厚さ28mmの発泡断熱板を厚さ10mmにスライスした場合には、スライスしたサンプルの製造後100日後の測定値は、発泡断熱板(厚さ28mm)の780日経過後の値に相当する。
【0080】
(vi)発泡断熱板中のHFO残存量
発泡断熱板中のHFOの残存量は、押出発泡断熱板1kg当たり0.02モル以上存在することが好ましい。上記範囲内であれば、HFOが有効に断熱性向上効果を発揮して、より断熱性に優れるものとなる。上記観点から、HFOの残存量は、0.1モル以上であることがより好ましい。一方、HFO残存量の上限は、発泡断熱板の見かけ密度などとも関連するが、概ね0.8モルであり、好ましくは0.7モルである。なお、HFOの残存量は、製造直後から変動するものであるが、発泡断熱板の使用時に、上記範囲内のHFO残存量であればよい。
なお、本発明の発泡断熱板が長期の断熱性に優れるという観点からは、押出発泡断熱板製造後100日経過後、押出発泡断熱板1kg当たり0.02〜0.5モル、更に0.1〜0.4モルの範囲を維持していることが好ましい。
【0081】
本明細書における発泡断熱板中の前記HFO残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定される値である。具体的には、押出発泡断熱板から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し発泡断熱板中のHFOをトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って発泡断熱板中のHFO残存量を求める。
【0082】
(vii)発泡断熱板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素とHFOの合計残存量
発泡断熱板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素とHFOの合計の残存量は、押出発泡断熱板1kg当たり0.4モル以上存在することが好ましい。上記範囲内であれば、炭素数3〜5の飽和炭化水素とHFOが有効に機能して、発泡断熱板は断熱性に優れるものとなる。上記観点から、炭素数3〜5の飽和炭化水素とHFOの残存量は、0.5モル以上であることがより好ましい。なお、炭素数3〜5の飽和炭化水素とHFO残存量の上限は、発泡断熱板の見かけ密度などとも関連するが、概ね3モルであり、好ましくは1.5モルである。なお、炭素数3〜5の飽和炭化水素とHFOの残存量は、製造直後から変動するものであるが、発泡断熱板の使用時に、上記範囲内のイソブタンとHFO残存量であればよい。特に、長期の断熱性に優れるという観点からは、押出発泡断熱板製造後100日経過後、押出発泡断熱板1kg当たり0.4〜3モル、更に0.5〜1.5モルの範囲を維持していることが好ましい。
【0083】
なお、本明細書における発泡断熱板中の前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定される値である。具体的には、押出発泡断熱板から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し発泡断熱板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って発泡断熱板中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量を求める。
【0084】
(viii)発泡断熱板中のハイドロフルオロオレフィンの存在比率
前記発泡断熱板中のイソブタンとHFOの合計残存量中のハイドロフルオロオレフィンの存在比率は、5モル%以上であることが好ましい。上記範囲内であれば、熱伝導率が低いHFOが有効に機能して、断熱性に優れる発泡断熱板となる。上記観点からは、前記存在比率の下限は、10モル%であることがより好ましく、18モル%であることがさらに好ましい。一方、その上限は、100モル%であるが、より好ましくは、80モル%であり、更に好ましくは70モル%である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
(1)実施例及び比較例で基材樹脂に使用した原材料を以下に示す。
(i)基材樹脂
基材樹脂を構成するポリスチレン樹脂(A)を表1に、ポリエステル樹脂(B)、比較例のガスバリアー樹脂を表2、表3に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
(ii)マスターバッチ
気泡調整剤マスターバッチ:ポリスチレン樹脂をベースレジンとし、タルク(松村産業(株)製、商品名:ハイフィラー#12)60重量%を含有するタルクマスターバッチを用いた。
【0091】
難燃剤マスターバッチ:テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)(第一工業製薬製 SR130)50重量%と、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)(第一工業製薬製 SR720)50重量%とからなる混合難燃剤を含有する難燃剤マスターバッチを、前記混合難燃剤の基材樹脂に対する添加量が5重量部となるように基材樹脂に添加した。
【0092】
(iii)発泡剤
発泡剤としては、HFO:トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(トランスHFO−1234ze)、炭素数3〜5の飽和炭化水素:イソブタン、二酸化炭素及び/または水を混合して用いた。
【0093】
(2)以下に評価方法を記載する。
(i)外観
表4、5における発泡断熱板の外観の評価は、下記評価基準により評価した。
○:発泡状態が良好であり、表面に波うちなどがない、良好な板状の押出発泡断熱板である。
×:発泡状態が悪く、表面に波うちなどが存在している押出発泡断熱板である。
【0094】
(ii)断面積
熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の断面積は、押出発泡断熱板の押出方向と直交する垂直断面(幅方向垂直断面)の断面積とする。
【0095】
(iii)溶融粘度
溶融粘度の測定は、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下において測定するものとし、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定される。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径1.0mm、長さ10.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を200℃にし、熱風循環式乾燥機によりガラス転移温度より10℃低い温度で十分に乾燥させた樹脂を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから測定し、そこで得られた溶融粘度(Pa・s)を採用する。なお、測定の際にオリフィスから押出されるストランドには気泡ができるだけ混入しないようにして測定した。
【0096】
(iv)溶融張力
本発明における溶融張力(MT)は、ASTM D1238に準じて測定された値であり、例えば、(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定することができる。
溶融張力(MT)は、ASTM D1238に準じて測定し、(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定した。シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径2.095mm、長さ8.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度200℃とし、試料の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛け、4分で引き取り速度が0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーで紐状物を引取って紐状物が破断した際の直前の張力の極大値を得た。ここで、引取り速度が0m/分から200m/分に達するまでの時間を4分とした理由は、樹脂の熱劣化を抑えるとともに得られる値の再現性を高めるためである。前記操作を異なる試料を使用し、計10回の測定を行い、10回で得られた極大値の最も大きな値から順に3つの値と、極大値の最も小さな値から順に3つの値を除き、残った中間の4つの極大値を相加平均して得られた値を溶融張力(cN)とした。
【0097】
なお、見かけ密度、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、熱伝導率、発泡剤残存量の測定方法は前述の通りである。
【0098】
実施例1〜11、比較例1〜5
内径65mmの第1押出機と内径90mmの第2押出機と内径150mmの第3押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、間隙1mm×幅90mmの幅方向断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第3押出機の出口に連結された製造装置を用いた。
【0099】
更にフラットダイの樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設されている。表3〜4中に示すそれぞれの配合量となるように樹脂、難燃剤及び気泡調整剤を、前記第1押出機に供給し、220℃まで加熱し、これらを溶融、混練し、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表中に示す配合組成の物理発泡剤を表中に示す割合で溶融物に供給し溶融混練した発泡性樹脂溶融物を、続く第2押出機及び第3押出機に供給して樹脂温度を表中に示すような発泡適性温度(表中では発泡樹脂温度と表記した。この発泡温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性樹脂溶融物の温度である。)に調整した後、吐出量50kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら厚み方向に28mmの間隙で平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)し、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板を製造した。評価結果を表4〜5にまとめて示す。
【0100】
表4〜5中のポリスチレン樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)の配合比率は、基材樹脂100重量%に対する割合であり、例えば、表4中の実施例1のPS1が80、S30が20は、基材樹脂としてPS1を80重量%、ポリエステル樹脂としてS30を20重量%の割合で配合したことを意味する。
【0101】
また、表4〜5中の発泡剤種類のHFOはトランスHFO−1234ze(トランス−1,1,1,3−テトラフルオロプロペン)、i−Bはイソブタン、COは二酸化炭素を意味する。なお、発泡剤配合量は、基材樹脂1kgに対するモル数である。
【0102】
[評価結果]
実施例1〜5においては、混合発泡剤の配合割合を変化させた例である。混合発泡剤としてHFOを含有していると、長期断熱性に優れた発泡断熱板となる。一方、比較例1は、混合発泡剤としてHFOを配合していない例である。その結果、得られた押出発泡断熱板の100日経過後の熱伝導率が高くなっている。発泡断熱板の気泡膜断面において、ポリエステル樹脂(B)が海島構造として分散していることが観察される。
また、実施例6は、発泡剤としてHFOとイソブタンと水とからなる発泡剤を用いた例である。
【0103】
実施例7〜10は、ポリエステル樹脂(B)の種類を変えた例である。ポリエステル系樹脂(B)の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満である場合には、発泡断熱板の気泡膜断面において、ポリエステル樹脂(B)が海島構造として分散していることが観察され、このモルフォロジーによるガスバリアー性の向上効果によって、長期断熱性に優れることが分かる。
【0104】
比較例2は、ポリエステル樹脂の種類を変えた例である。比較例2は基材樹脂に本発明のポリエステル系樹脂(B)以外のポリエステル樹脂を使用したものであり、発泡成形性が悪化し、良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板が得られなかった。
【0105】
比較例3は、基材樹脂に本発明のポリエステル系樹脂(B)以外のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリルを使用したものであり、発泡成形性が悪化し、良好な熱可塑性樹脂押出発泡断熱板が得られなかった。
【0106】
比較例4は、実施例3と対比されるものであり、本発明のポリエステル樹脂を添加しない例を示す。実施例3に対して、100日経過後のHFO残存割合が低く、熱伝導率も高い値であった。特に、HFOの存在比率が大きく減少しており、長期断熱性が得られるものではないことが分かる。
なお、実施例3の熱伝導率は、製造直後で0.0210W/m・Kであり、製造後50日後で0.0259W/m・Kであり、製造100日後で0.0262W/m・Kである。一方、比較例4の熱伝導率は、製造直後で0.0228W/m・Kであり、製造50日後で0.0272W/m・Kであり、製造100日後で0.0276W/m・Kである。
従って、製造100日後以降の熱伝導率はほぼ安定していることが上述の経時変化から分かり、実施例3の発泡断熱板の方が長期断熱性に優れることが分かる。
【0107】
実施例11、12はポリスチレン樹脂の種類を変えた例である。いずれも発泡体中のHFO添加量に対する残存量の割合が高く、熱伝導率が低く維持され、長期断熱性が優れたものであった。
【0108】
【表4】

【0109】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともハイドロフルオロオレフィンからなる発泡剤を含有する発泡性樹脂溶融物を押出発泡して得られる、見かけ密度20〜50kg/m、厚み10〜150mmの、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板であって、該発泡断熱板を構成する基材樹脂がポリスチレン樹脂と下記の条件を満足するポリエステル樹脂とからなり、前記ポリスチレン樹脂と前記ポリエステル樹脂の重量比率が、95:5〜50:50であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
条件:JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)
【請求項2】
前記発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィンと、炭素数3〜5の飽和炭化水素と、二酸化炭素および/または水とからなり、前記発泡断熱板中の、ハイドロフルオロオレフィンと炭素数3〜5の飽和炭化水素との合計残存量が前記発泡断熱板1kg当たり0.4モル以上であり、前記残存量中のハイドロフルオロオレフィンの存在比率が5モル%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロオレフィンがテトラフルオロプロペンであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜80モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体から選択されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板。


【公開番号】特開2013−82805(P2013−82805A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223418(P2011−223418)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】