説明

熱融着性弾性繊維及びその製造方法並びに該弾性繊維を用いた織編物

【解決手段】ベア編地法において95℃で30分間沸水処理した時の熱融着力が0.1cN/dtex以上であり、かつ、チーズ表層における接着率が2.5倍未満である熱融着性弾性繊維。
【効果】本発明は、沸水処理により編地端のほつれ等を生じさせにくくする熱融着性弾性繊維を提供するものである。これにより、例えば、染色処理時における沸水状態の染料によって編み終わり部等を熱融着させることができ、染色工程におけるほつれを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理を施すことにより織編物内で熱融着する弾性繊維、及び該繊維を用いた織編物、特に沸水による熱処理でも適度な熱融着性を発揮できる熱融着性弾性繊維に関し、中でも、熱融着性を有するポリウレタン弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維、特にポリウレタン弾性繊維を混用した緯編地、経編地、織物等のストレッチ生地を使用した衣類は、伸びが大きく、伸長状態からの回復力やフィット性が良いため広く利用されている。しかし、ポリウレタン弾性繊維を混用した生地を裁断したままで伸長、着用を繰り返すと、変形して不均一な生地になり「変形、目ずれ、わらい」、糸が抜け出す「ほつれ」、生地の組織にはしご状の傷やずれが発生した「ラン、デンセン」、生地が湾曲した「カール」等の問題が起き易い。また、縫製部分でも繰り返し伸長によりポリウレタン弾性繊維が縫い目から抜け出す、いわゆる「スリップイン」も起き易い。
【0003】
これらの現象は、ポリウレタン弾性繊維以外の弾性繊維を使用した織編物でも起きるが、伸縮性の強いポリウレタン弾性繊維の場合は特に顕著である。
【0004】
これらの問題の対策として、編地端を折り返したり、別布や伸縮性テープを付けて、縫製したりすることが一般的に行われているが、凸状や段差、縫い目等が肌に直接接触することによる皮膚障害が懸念されたり、肌触り感や着心地といった着用感の低下、外衣にひびきやすいという審美性の低下等の問題が解決されておらず、編地端を縫製しないで「切りっぱなし」のままで使用できる編地が求められていた。
【0005】
このような要望に対し、編地中に編み込むポリウレタン弾性繊維相互を「熱融着」させることで、変形、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カール等の低減をはかり、「切りっぱなし」で衣類にする提案(特許文献1、2)がなされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2については、いずれも比較的高温で熱処理することにより「熱融着」させるもので、その製造工程上、高温処理できないものに対しては適用することができないものであった。
【0007】
【特許文献1】WO2004/053218号公報
【特許文献2】特開2005−113349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、比較的低温の熱処理によっても良好な熱融着力を有するポリウレタン弾性繊維を提案し、その工程上、湿熱処理を施すこととなるパンティストッキングなどに良好に適用できるものを開発している(特願2005−346915号)。
しかしながら、そこで提案されたポリウレタン弾性繊維は、従来の技術に比べればその低温時の熱融着性は大幅に向上したものの、織編物の製造工程における様々な処理との関係から、更に低温な熱処理であっても熱融着性の良好な弾性繊維を提供することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ベア編地法において95℃で30分間沸水処理した時の熱融着力が0.1cN/dtex以上であり、チーズ表層の接着率が2.5倍未満である熱融着性弾性繊維を用いることにより、例えば、カバリング糸を作製する場合等の解舒性が良好であり、更に、織編物の編み終わり部に使用して低温熱処理により熱融着させることで、編み終わり部のほつれを防止することができること等を見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)ベア編地法において95℃で30分間沸水処理した時の熱融着力が0.1cN/dtex以上であり、かつ、チ−ズ表層における接着率が2.5倍未満である熱融着性弾性繊維、
(2)前記熱融着性弾性繊維は、熱融着性ポリウレタン弾性繊維であることを特徴とする(1)に記載の熱融着性弾性繊維、
(3)溶融紡糸法により前記熱融着性弾性繊維を紡糸することを特徴とする(2)に記載の熱融着性弾性繊維、
(4)主として、ポリオール、ジイソシアネート及び低分子量ジオールを反応させて得られるポリウレタン弾性繊維であって、ジセミカルバジド類をポリオール、ジイソシアネート及び低分子量ジオールの全重量に対し0.25〜5重量部含むことを特徴とする(3)に記載の熱融着性弾性繊維、
(5)更にエチレンビスアミド類を0.01〜5重量部含むことを特徴とする(4)に記載の熱融着性弾性繊維、
(6)ポリオール、ジイソシアネート及び炭素数2〜6の少なくとも2種の低分子量ジオールを反応させて得られるポリマーからなるポリウレタン弾性繊維であって、低分子量ジオールのうち主となる低分子量ジオールの含有率が、全低分子量ジオールに対して55モル%以上85モル%未満であることを特徴とする(3)から(5)のいずれか一項に記載の熱融着性弾性繊維、
(7)紡糸直後のポリマーの窒素含有率が2.8〜4.2質量%であることを特徴とする(6)に記載の熱融着性弾性繊維、及び、
(8)請求項1から7のいずれか一項に記載の熱融着性弾性繊維を含み、その端部のほつれ防止機能を有することを特徴とする織編物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
織編物の製造に当たって染色工程を経る場合、沸水状態にある染料に該織編物を浸漬させるが、そのような低い熱(95℃程度)でも十分に織編物中の弾性繊維を熱融着させることができる。
従来、製品形状に編成することを特徴とする成型編地においては、その成型した編地を、ドラムの中で攪拌するように染色する工程を経るため、染色後の編地端には、どうしても「ほつれ」が生じてしまっていた。
そこで、本発明の熱融着性弾性繊維をそのような成型編地の編地端に用いることにより、染色工程でかかる沸水程度の熱量で、その染色処理中に「ほつれ」を発生させない程度に編地端を融着させることができ、工程上の不良品を低減させることが可能となった。
このことは、該弾性繊維を含み、成型された状態で染色工程を経ることとなる成型編地や、ショーツ、肌着、手袋、サポーターなどに共通に言えることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の弾性繊維は、ベア編地法において、95℃で30分間、沸水処理した時の熱融着力が0.1cN/dtex以上である熱融着性弾性繊維である。熱融着力が0.1cN/dtex未満では、編地の編み終わり部に使用した該弾性繊維の熱融着が不十分で、編み終わり部のほつれを確実に防止できない場合もある。本発明では、編み終わり部のほつれを確実に防止する為に、0.1cN/dtex以上を必要とするものである。
【0013】
ここで、本発明において熱融着とは、弾性繊維が、熱処理により、弾性繊維相互及び/又は弾性繊維と他の繊維とが融着し、密着している状態や、繊維の少なくとも一部が融着し、密着している状態、或いは融着まで至らなくても繊維同士が接着している状態をいう。
【0014】
また、本発明においてベア編地法とは、以下の方法をいう。
(1)パンスト編機(ロナティ社製L416/R、釜径:4インチ、針数400本)の給糸口に弾性繊維を給糸し、カウント2400コース、伸び寸45cmとし、弾性繊維のみのベア編地を作製する。
(2)作製したベア編地を、無伸長の状態で、所定の温度で30分間沸水処理(95℃)する。
(3)熱融着力を以下の方法で測定する。
引張試験機[島津製作所(製)精密万能試験機]上部チャックに把持した編地の端から解編したベア編地を0.1cNの荷重下で下部チャックに把持し、つかみ間隔(チャック間隔)100mm、引張速度100mm/分で引張り、編地から弾性繊維を解編する時の張力を測定する。
次いで、熱融着部位が解離する度に計測される解編張力のピーク点について、解編応力が安定する伸長量100mmから200mmの間で値が大きい3番目までのピーク点を平均して、ピーク平均解編張力を求める。続いて、ピーク平均解編張力(cN)を弾性繊維の初期繊度(dtex)で除して熱融着力(cN/dtex)とする。
【0015】
弾性繊維相互の熱融着度が高くなると、ベア編地の解編張力は大きくなる。更に熱融着が進み一層強く熱融着すると、把持したベア編地中の弾性繊維は、溶融状態になることで破断してしまう。この場合は「完全融着」と評価して、熱融着力が最大に達したことを表す。
【0016】
また、本発明の熱融着性弾性繊維は、チ−ズ表層における接着率が2.5倍未満である。チ−ズ表層における接着率が2.5倍以上であると、チーズに巻き取られた弾性繊維を編成する際に、チーズから弾性繊維が剥がれ難いといった解舒不良が発生しやすくなり、カバリング工程上の問題となり得る恐れがある。解舒性を良好にさせるためには、表層部における接着率は2.0倍未満が好ましい。
【0017】
チ−ズ表層における接着率とは、その弾性繊維がその巻糸体に接着してしまっている度合いを指し、次のように測定する。
糸の送り出し装置を用いて、巻糸体(チーズ)から弾性繊維を一定速度(10m/分)で送り出し、送り出された弾性繊維の巻取り速度を一定割合(0.5m/分)で増していった時、送り出し地点から120mm前方の検地センサー上で接着による糸跳ね(解舒しようとする糸とチーズとの接触により、糸が撓む状態を言う)が発生しない速度を求め、以下の式で算出する。
接着率=糸跳ねが発生しない最低巻取り速度÷送り出し速度
接着率の割合が小さいほど、解舒性が良好であることが言える。
なお、チ−ズ表層とは、巻糸体のチ−ズ最表層及びそこから巻き取り量全体の10質量%分の領域を指す。
【0018】
本発明の熱融着性弾性繊維は、更に以下の物性を有していることが好ましい。
【0019】
即ち、本発明の弾性繊維の耐熱強力保持率は、90℃で45秒間乾熱処理した場合には、40%以上が好ましく、特に50%以上であることが好ましい。
本発明の熱融着弾性繊維は、主に、編地の編み終わり部に使用され、熱融着させることでほつれを防止する役割を持つ。したがって、パンティストッキング等に使用される弾性繊維ほど、耐熱強力保持率が高くなくても良く、上記数値を満たすものであれば、本発明の用途に対し、好適に使用できる。
【0020】
耐熱強力保持率は、以下の測定方法による。
弾性繊維を把握長8cmで保持し、16cmに伸長する。伸長した状態で所定温度に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行う。熱処理後の弾性繊維の破断時強力を、定伸長の引っ張り試験機を使用し、把握長5cm、伸長速度500m/分で測定する。測定時の環境は温度20℃、相対湿度65%とする。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率を表示する。
【0021】
本発明の熱融着性弾性繊維は、特に制限されるものではないが、ポリウレタン弾性繊維が好適に用いられる。以下の発明の詳述は、ポリウレタン弾性繊維を中心に記載する。
ポリウレタン弾性繊維の製造方法は、上記特性を備えたポリウレタン弾性繊維が得られる限り、特に制限されるものではないが、溶融紡糸法を用いるのが好ましい。
【0022】
溶融紡糸法により本発明のポリウレタン弾性繊維を得る方法は、特に制限されるものではないが、例えば以下の3つの方法が知られている。
(1)ポリウレタン弾性体チップを溶融紡糸する方法。
(2)ポリウレタン弾性体チップを溶融した後、ポリイソシアネート化合物を混合して紡糸する方法。
(3)ポリオールとジイソシアネートを反応させたプレポリマーと低分子量ジオールとを反応させた紡糸用ポリマーを合成した後、固化させることなく紡糸する反応紡糸方法。
【0023】
(3)の方法は、(1)、(2)の方法に比べ、ポリウレタン弾性体チップを取り扱う工程が無いため簡略であり、また、プレポリマーの反応機への注入割合を調節して、紡糸後のポリウレタン弾性繊維中の残留イソシアネート基の量を調整でき、この残留イソシアネート基による鎖延長反応で耐熱性の向上を得ることもできるため、好適な方法である。
【0024】
より具体的には、(I)第一ポリオール及びジイソシアネートを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマー(以下「両末端イソシアネート基プレポリマー」とする)と、(II)第二ポリオール、ジイソシアネート及び低分子量ジオールを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマー(以下「両末端水酸基プレポリマー」とする)とを反応させて得られるポリマーを固化することなく溶融紡糸する方法を好適に採用することができる。
【0025】
この場合、紡糸用ポリマーの合成は、次の3つの反応で構成される。
(I)数平均分子量800〜3,500の第一ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーの合成。
(II)数平均分子量600〜3,000の第二ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマーの合成。
(III)これら二つのプレポリマーを反応機に導き、連続的に反応させる紡糸用ポリマーの合成。
【0026】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を溶融紡糸法で製造する場合、第一ポリオールの数平均分子量は、800〜3,500程度のポリマージオールを用いることが好ましく、第二ポリオールの数平均分子量は、600〜3,000程度のポリマージオールを用いることが好ましい。
【0027】
第一ポリオールの数平均分子量がこの範囲より小さいと、得られるポリウレタン弾性繊維の破断伸度や弾性回復性が低下する場合があり、大きいと破断強度や耐熱性、耐寒性などが低下したり、紡糸時の押出性、例えば溶融紡糸の場合では紡糸性が低下する場合がある。従って、より好ましくは、第一ポリオールの数平均分子量は、1,000〜3,000程度である。
【0028】
一方、第二ポリオールの数平均分子量がこの範囲より小さいと、糸が硬くなったり、均質性に欠ける場合があり、大きいと耐熱性や強度の改善効果が期待できないおそれがある。より好ましくは、第二ポリオールの数平均分子量は、800〜2,500程度である。
【0029】
第一ポリオールの分子量に比べて第二ポリオールはより低分子量とすると、糸の強度が上がるなど物性上好ましい。なお、ポリオールの数平均分子量の測定方法は、JIS K1557に従い、水酸基価より算出できる。
【0030】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維に使用できるポリオールとしては、ポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール等を用いることができる。
【0031】
ポリエーテルグリコールとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環重合により得られるポリエーテルジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコールの重縮合により得られるポリエーテルグリコール、THF及び3−MeTHFの共重合体である変性PTMG、THF及び2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG等が例示できる。
【0032】
ポリエステルグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコール類から選ばれる少なくとも1種と、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の二塩基酸類から選ばれる少なくとも1種との重縮合によって得られるポリエステルグリコール;ε−カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類の開環重合により得られるポリエステルグリコール等が例示される。
【0033】
ポリカーボネートグリコールとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート等から選ばれる少なくとも1種の有機カーボネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジオールとのエステル交換反応によって得られるカーボネートグリコール等が例示される。
【0034】
上記例示したポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコールは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、ポリエーテルジオール及び/又はポリエステルジオールを使用することが好ましい。
【0035】
次に、本発明の溶融紡糸法による熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造に使用できるジイソシアネートとしては、ポリウレタンの製造に際して通常使用されている脂肪族系、脂環式系、芳香族系、芳香脂肪族系等の任意のジイソシアネートを使用することができる。
【0036】
このようなジイソシアネートとしては、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メタ−テトラメチルキシレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシレンジイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらの中でも4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0037】
鎖長延長剤としては、低分子量ジオールや低分子量ジアミンを使用することができ、反応速度が適当であり、適度な耐熱性を与えるものが好ましく、分子中にイソシアネートと反応し得る少なくとも2個の活性水素原子を有し、一般に分子量が500以下の低分子量化合物が使用される。
【0038】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維に使用できる低分子量ジオールとしては、炭素数が2〜6のジオール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類を用いることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明においては特に、炭素数2及び/又は4のジオールと、炭素数3、5及び6のジオールから選ばれる少なくとも1種の低分子量ジオールとを組み合わせたり、炭素数6のジオールと、炭素数3及び/又は5のジオールとを組み合わせて、少なくとも2種の低分子量ジオールを併用することが優れた熱融着効果を示し、かつ反応性、紡糸の安定性、物性などの点から好ましい。また、上記において炭素数2〜6の低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールを使用することが好ましい。
【0040】
更に、紡糸性を阻害しない範囲内で、水酸基及び/又はアミノ基などの官能基を有する平均官能基数(分子中の活性水素原子の数)が3〜6、特に3又は4である活性水素化合物を使用することができる。このような化合物としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール(4価)、ソルボース(5価)、ソルビトール(6価)、1,3,5−トリアミノベンゼン等などが挙げられる。
【0041】
この場合、官能基数が6を超えると、最終的に得られるポリウレタンの弾性(柔軟性)を付与することができないため好ましくない。好ましくは3官能性化合物が使用され、特に、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンが好ましく使用される。
【0042】
上記活性水素化合物の使用量は、鎖長延長剤と活性水素化合物を合わせた全部に対して、3官能化合物が6当量%以下であることが好ましい。6当量%を超えると、柔軟性を付与できず、紡糸性が安定しないため好ましくなく、特に好ましくは、4当量%以下である。
【0043】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維には、耐候性、耐熱酸化性、耐黄変性改善のために、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の任意成分を添加することができる。安定剤を使用する場合は、安定剤の種類、配合量により耐熱性、耐黄変性が大きく異なるため、ポリウレタン重合体に対して効果を発揮する安定剤の種類を選択し、それぞれに効果のある安定剤の配合量を組み合わせて使用することが好ましい。適した安定性を使用することにより黄変しにくく、耐熱性の優れたポリウレタン弾性繊維を得ることができる。
【0044】
その他必要に応じて、ビスフェノールSなどの有機硫黄系二次酸化防止剤、ホスファイト系二次酸化防止剤、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、酸化チタン、ジルコニウム含有化合物等のような無機微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、オルガノシロキサン等の粘着防止剤、フッ素系又はシロキサン系などの帯電防止剤、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナなどの無機質コロイドゾル、シランカップリング剤、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ピロリン酸エステルなどの熱融着向上剤、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルなどの防腐剤、その他着色剤、防カビ剤、消泡剤、可塑剤、ワックス類、軟化剤、離型剤、発泡剤、増量剤、増核剤、抗菌剤、消臭剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。
【0045】
特に、本発明においては、ジセミカルバジド類をベースポリマー(ポリウレタン弾性繊維を構成するポリオール、ジイソシアネート及び低分子量ジオールをいう)に対し0.25〜5重量部添加するのが好ましく、0.5〜3重量部が更に好ましい。こうすることにより、ポリウレタン弾性繊維の溶融温度を下げることができ、低温領域で良好な熱融着力を達成することができる。
【0046】
ジセミカルバジド類が0.25重量部よりも少ないと、十分な熱融着性を得ることができず、耐黄変性能も向上させることができない。また、5重量部よりも多いと、原糸強力の低下、チーズから糸を剥離する際の解舒不良が発生し、カバリング工程でのローラへの巻き付き等、種々の問題が発生する。ジセミカルバジド類としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)といったものが挙げられるが、中でも、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジドが好ましい。
【0047】
なお、ジセミカルバジド類は、特に、NOxガス黄変を抑えるために、乾式紡糸法では通常よく用いられる添加剤であるが、溶融紡糸法には、粉体の粒子径が大きく、原液を循環する工程のフィルタ−を閉塞させるという理由から使用されてこなかった。本発明は、ジセミカルバジド類を反応紡糸工程の直前で添加することにより、この問題をクリアすることができ、ジセミカルバジド類を、溶融紡糸により製造工程でも問題なく使用できるようにした。
【0048】
さらに、エチレンアミド類を加えることで上述した解舒不良を改善することができ、ベースポリマーに対し0.01〜5重量部を添加するのが好ましく、0.25〜2重量部が更に好ましい。0.01重量部よりも少ないと、解舒性向上効果を十分に得ることができず、5重量部よりも多いと、紡糸工程で糸切れが多発してしまい、問題がある。エチレンアミド類としては、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドといったものが挙げられるが、中でもエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0049】
原料の組成比については、上記に記載の3つの反応を通算して、全ジイソシアネートのモル量と、全ポリオール及び全低分子量ジオールの合計モル量とのモル比を0.95〜1.25とするのが好ましく、更に好ましくは1.005〜1.205である。
【0050】
また、全ジイソシアネートとポリオール(第一ポリオールと第二ポリオールの合計)のモル比は2.4〜3.8が好ましく、更に好ましくは、2.5〜3.5である。モル比が2.4より低いと得られるポリウレタン弾性繊維の伸度が高くなるが、耐熱性が不足する場合があり、モル比が3.8より高いと耐熱性は良いが、糸が硬く伸度も低くなる場合がある。
【0051】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、低分子量ジオールの種類とその含有量及び紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率をそれぞれ調整することで、更に高い熱融着性を達成することができる。
【0052】
即ち、主となる炭素数2〜6のジオールの含有率が全低分子量ジオールに対して、55モル%以上85モル%未満とすることが好ましく、より好ましくは60モル%以上85モル%未満である。炭素数2〜6のジオールのうち、主となる低分子量ジオールである炭素数2〜6のジオールは、併用量が55モル%未満であると、繊維の伸長回復率、圧縮永久歪みや耐熱性が悪くなる場合がある。
【0053】
炭素数2〜6のジオールの含有率が55モル%以上85モル%未満の場合、得られるポリウレタン弾性繊維の窒素含有率は2.8質量%以上4.2質量%以下、特に2.9質量%以上3.4質量%以下が好ましい。窒素含有率が低すぎると耐熱性が低くなる場合があり、高すぎると熱融着力が低くなる場合がある。
【0054】
一方、炭素数2〜6のジオールの含有率が85モル%以上98モル%未満の場合は、窒素含有率が2.2質量%以上4.2質量%以下、特に2.6質量%以上3.4質量%以下であることが好ましい。窒素含有率が低すぎると、イソシアネートとの反応に関わる結合の濃度が低下し、耐熱性や耐磨耗性が劣るため、好ましくなく、窒素含有率が高すぎると、イソシアネート化合物に起因するポリウレタン中のハードセグメントの凝集力が強くなり、熱融着力が低くなる場合がある。
【0055】
また、炭素数2〜6のジオールの含有率が98モル%以上100モル%以下の場合は、窒素含有率が2.2質量%以上2.8質量%未満、特に2.4質量%以上2.8質量%未満であることが好ましい。窒素含有率が低すぎると、イソシアネートとの反応に関わる結合の濃度が低下し、耐熱性や耐磨耗性が劣るため好ましくなく、窒素含有率が高すぎると、イソシアネート化合物に起因するポリウレタン中のハードセグメントの凝集力が強くなり、熱融着力が低くなる場合がある。
【0056】
なお、本発明において、主となる低分子量ジオールとは、全低分子量ジオールのうち、モル量が最も多い(55モル%以上)低分子量ジオールをいう。
【0057】
溶融紡糸方法についてより具体的に説明すると、(I)の両末端イソシアネート基プレポリマーは、例えば温水ジャケット及び撹拌機を具備したタンクに所定量のジイソシアネートを仕込んだ後、撹拌しながら所定量のポリオールを注入し、60〜130℃で30〜100分、更に好ましくは80〜120℃で50〜70分窒素パージ下で撹拌することにより得ることができる。
【0058】
反応温度が60℃未満では、反応時間が大幅に長くなり、場合によってはプレポリマーが析出してくるおそれがある。また、反応温度が130℃を超えると、イソシアネート基のダイマー及びトリマー化反応等の副反応が顕著になり好ましくない。
【0059】
この反応で得られた両末端イソシアネート基プレポリマーは、ジャケット付きギアポンプ(例えば、KAP−1 川崎重工業(株)製)を用いてポリウレタン弾性繊維用反応機に注入する。
【0060】
(II)の両末端水酸基プレポリマーは、温水ジャケット及び撹拌機を具備したタンクに所定量のジイソシアネートを仕込んだ後、撹拌しながら所定量のポリオールを注入し、60〜130℃で30〜100分、好ましくは80〜120℃で50〜70分、窒素パージ下で撹拌して前駆体を得、次いで、低分子量ジオールを注入し、撹拌して前駆体と反応させることで得ることができる。反応温度が80℃以下では、反応時間が大幅に長くなり、場合によってはプレポリマーが析出してくる。また、反応温度が130℃以上では、イソシアナート基のダイマー及びトリマー化反応等の副反応が顕著になり好ましくない。
【0061】
得られた両末端水酸基プレポリマーは、ジャケット付きギアポンプ(例えば、KAP−1 川崎重工業(株)製)を用いてポリウレタン弾性繊維用反応機に注入する。なお、この(I)、(II)の両プレポリマー合成時あるいは合成後に、耐候性、耐熱酸化性、耐黄変性等を改善するための上記各種薬品類を添加することができる。
【0062】
(III)の紡糸用ポリマーの合成は、一定比率で送り込まれた(I)、(II)のプレポリマーを、連続反応させて得ることができる。この場合、反応機としては、通常のポリウレタン弾性繊維の溶融紡糸法に用いられるものでよく、紡糸用ポリマーを加熱、溶融状態で撹拌、反応させ、更に紡糸ヘッドに移送する機構を備えた反応機が好ましい。
【0063】
反応条件は、160〜220℃で1〜90分、好ましくは180〜210℃で3〜80分である。反応温度が160℃未満では、(I)、(II)のプレポリマーが高粘度状態であるため均一に混合反応できず、また反応温度が220℃以上では、紡糸用ポリマーが熱により黄変したり劣化したりするため好ましくない。
【0064】
原料を直接反応機に投入して連続的に製造する場合、スクリュウやバレル、ポリマーの流路で局部反応がおこるため、ビス(ヒドロキシフェニル)類を上述プレポリマーに添加することができる。このビス(ヒドロキシフェニル)類は、特開平8−176254号公報の「ポリウレタン組成物」記載の通り、局部反応せず、均一混練下で重合することができるため、スケールが発生し難く、工程安定性の高いポリウレタンを供給することができる。
【0065】
このビス(ヒドロキシフェニル)類を1種単独で又は2種類以上混合して使用することにより、透明性に優れ、しかも強伸度、耐熱性等の物性も良好な実用性に富んだポリウレタン弾性繊維が得られる。好ましいビス(ヒドロキシフェニル)類は、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビスフェノールA、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフォン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフォン等が挙げられる。
【0066】
本発明の溶融紡糸法による熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、合成された紡糸用ポリマーを固化させることなく紡糸ヘッドに移送し、ノズルから吐出、紡糸して得ることができるが、紡糸用ポリマーの反応機内での平均滞留時間は反応機の種類によって異なり、下式により計算される。
反応機内での平均滞留時間=(反応機容積/紡糸用ポリマー吐出量)×紡糸用ポリマーの比重
【0067】
紡糸用ポリマーの反応機内での平均滞留時間は、一般的に円筒形反応機を用いる場合は約20〜180分であり、約30〜120分がより好ましく、2軸押出し機を用いる場合は30秒〜30分であり、1〜20分がより好ましい。紡糸温度は160〜230℃が好ましく、更に好ましくは180〜220℃であり、ノズルより連続的に押出した後、冷却し、紡糸油剤を付着して巻取ることによって得ることができる。
【0068】
紡糸温度が160℃未満では、紡糸用ポリマーがノズルより吐出不良を起こすため好ましくなく、また230℃以上の高温では、紡糸用ポリマーの分解反応が起こるため好ましくない。
【0069】
ここで、両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとの比率は、紡糸した直後の糸中に残留イソシアネート基(残留NCO%)が0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.15〜0.90質量%残るように注入ギアポンプの回転比率を適宜調整することが好ましい。残留イソシアネート基が0.1質量%以上過剰に含まれていると、紡糸後の鎖延長反応により強伸度、耐熱性等の物性を向上させることもできる。しかし、残留イソシアネート基が0.1質量%より少ないと、得られるポリウレタン弾性繊維の耐熱性が低下するおそれがあり、また、1.0質量%を超えると紡糸用ポリマーの粘度が低くなり、紡糸が困難になる場合が生じる。また、紡糸した糸の融点が高くなりすぎるなどの欠点が生じるおそれがある。
【0070】
なお、紡糸した繊維中の残留イソシアネート基の含有率は以下のように測定する。
紡糸した繊維(約1g)をジブチルアミン/ジメチルホルムアミド/トルエン溶液で溶解した後、過剰のジブチルアミンと試料中の残留イソシアネート基を反応させ、残ったジブチルアミンを塩酸で滴定し、残留イソシアネート基の含有量を算出する。
【0071】
残留イソシアネート基を残したまま、紡糸するためには紡糸時に油剤を付与することが好ましい。油剤を付与しないままで紡糸すると、紡糸後に残留イソシアネート基が反応して糸同士が接着したり、解舒性が悪くなる場合がある。
【0072】
本発明で使用されるベース油剤の成分としては、鉱物油、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0073】
油剤は、ポリウレタン弾性繊維中に油剤が1〜10質量%、特に2〜8質量%含まれるように付与することが好ましい。上記値をポリウレタン弾性繊維に付与されている油剤の割合、即ち付与率といい、これは含有率(含有されている割合)と付着率(付着されている割合)の両者を合わせた率である。
【0074】
油剤がポリウレタン弾性繊維に対して1質量%未満であると、解舒性が悪く、編み針等の金属による摩耗を引き起こしやすいので好ましくなく、また10質量%を超えて付着していると、紙管に巻かれた糸の内層部に油剤が多く付着し内層ポリマーが油剤により劣化したり、ノズルカスを発生させたり、非弾性繊維と編地を作成した際に非弾性繊維のオリゴマーを析出するなどの悪影響を与えるため好ましくない。
【0075】
付与率の測定は、重量法又は石油エーテル抽出法によって行うことができる。重量法による測定方法は、事前に空紙管の質量、紡糸ノズルからのポリマーの単位時間当たりの吐出量、紙管への糸の巻取時間、巻糸体の質量を計量し、巻糸体の質量からポリマーの総吐出量及び空紙管の質量を差し引いた残りの質量が油剤の付与量であり、計算で求めた油剤の付与量からポリマーの総吐出量を除した割合が油剤の付与率である。
【0076】
石油エーテル抽出法による測定方法は、以下のとおりである。
(1)巻取糸サンプル(A)を約2g精秤した後、石油エーテル50mlで1分間洗浄する。
(2)この洗浄を3回繰り返した後、巻糸サンプルをろ紙で挟んで充分乾燥させる。
(3)室温にて風乾後、巻取り糸サンプルの重量(B)を測定する。下記式に従いOPUを算出する。
OPU(油剤付与量)%={(A−B)/(B)}×100
簡易的には重量法で、確認検査として石油エーテル抽出法のいずれの方法でもOPU%を求めることができる。
【0077】
油剤を付与して巻取られた糸は、固相重合を行い、反応を完結させる。
【0078】
本発明の熱融着ポリウレタン弾性繊維の繊度は、弾性繊維構造体の形状保持性能と製造コストの両面から適宜選択することができ、製造の容易さやコスト面から11〜800dtexであることが好ましく、更に好ましくは17〜622dtexである。特に好ましくは17〜156dtexである。得られる熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、単糸当たりのdtexが大きい方が熱セット性の向上には有利である。
【0079】
繊度の測定方法は、巻糸体から糸を解除し、24時間放置して収縮させた後、張力なしの状態で糸を繊度測定板に引いた直線に沿って置き、100cmの長さに50本切り、合計50本分の質量を測定する。
繊度(dtex)=測定質量(mg)/50×10
【0080】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、上述したように、紡糸した直後の糸中の残留イソシアネート基が0.1〜1.0質量%であることが好ましいが、残留イソシアネート基が0.1質量%未満では架橋結合の生成量が少ないために耐熱性が低く、糸切れしやすい。また残留イソシアネート基が1.0質量%を超えると架橋結合の生成量が多く、耐熱性が高くなるため溶融するまでに時間がかかり、熱融着性を得られにくいため好ましくない。
【0081】
上記範囲とすることで、ポリウレタン弾性繊維として必要な耐熱性を保ちつつ、沸水処理によっても、良好な熱融着性の効果を得ることができる。
【0082】
上記製法によって得られるポリウレタン弾性繊維は、ベア編地法において95℃で30分間沸水処理したときの熱融着力が0.10cN/dtex以上であるため、これを織編物に用いることで、ほつれ等の発生を抑えた織編物を得ることができる。
【0083】
また、本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、熱融着性ポリウレタン弾性繊維を含有した複合糸、具体的には、上記熱融着性ポリウレタン弾性繊維を芯糸とし、被覆繊維として非弾性糸を使用したSCY、コアスパン糸、又は合撚糸等として織編物に使用することもできる。
【0084】
更に、熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、原糸(未加工糸)、仮撚加工糸、先染糸等のいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。更に、高融点ポリウレタン弾性繊維を混用してもよい。
【0085】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、平織、綾織といった織物や、平編、ゴム編、パール編、両面編といった緯編地、及び、クサリ編、デンビ編、コード編といった経編地といった種々の織編物に使用することができるが、特に、染色時に編み終わり部を熱融着させるという目的から、成型編地の編み終わり部に、SCY糸を数コ−ス、使用するのが好適である。数コ−ス例えば3〜5コ−ス程度使用することで、沸水状態にある染料による熱融着を可能にし、染色時の「ほつれ」を好適に防止することができる。
【0086】
なお、ここにいう沸水処理とは、例えば、ポット染色機を用いて染色処理する際に、染料の分散された熱水によって、織編物を結果的に熱処理する場合が含まれる。本発明では、95℃で30分間沸水処理を施した場合の、良好な熱融着力を示すものであるが、その条件は、通常の酸性染料による染色条件に沿うものである。
【0087】
上述のとおり、本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、染色工程における比較的小さな熱量であっても、良好な熱融着性を獲得することができる。例えば、酸性染料による染色条件では、織編物に対し、例えば95℃で30分間染色処理を施すこととなるが、この時にかけられる熱により、本発明のポリウレタン弾性繊維は熱融着することができ、熱融着させるための熱処理工程を低減させることも可能となる。
【0088】
このような熱融着性ポリウレタン弾性繊維を使用した混用織編物は、ブリーフ、パンティ、ショーツ、アンダーシャツ、キャミソール、ガードル、ブラジャー、スパッツ、ボディスーツ、生理用ショーツ等の下着類、水着、レオタード、リゾートウエア、ホームウエア、アンダーウエア、スポーツ用タイツ、シャツ、上着材、手袋、靴下、腕カバー、医療用衣料、手術衣、半導体工場でのクリーンルーム作業用衣料、防塵衣料、サポーター、アイマスク等の衣料製品、失禁パット、ガーゼ、包帯、貼布材、包装材、マスク、シーツ、タオル、ハンカチ等の衛生用品、衣料芯地などで使用されるものであり、特に、成型編地の編み終わり部に好適に使用でき、染色処理時を防止することが可能となる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、部は質量部を示す。また、残留NCO%は塩酸による滴定法により測定した値である。数平均分子量の測定方法は、JIS K1557に準拠して行った。
【0090】
[実施例1]
両末端水酸基プレポリマーの合成
ジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)19.4部を窒素ガスでシールされた80℃の温水ジャケット付き反応釜に仕込み、ここにポリマージオールとして数平均分子量1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)39.1部を撹拌しながら注入し、1時間反応させた。次いで、低分子量ジオールとして1,4−ブタンジオール(BDO)14.8部を更に注入し、1時間反応させた。更に1,5−ペンタンジオール(PEDO)7.3部、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン(BHPS)1.0部を添加して15分撹拌して両末端水酸基プレポリマーを合成した。
【0091】
両末端イソシアネート基プレポリマーの合成
これと並行して、窒素ガスでシールされた80℃の温水ジャケット付き反応釜にジイソシアネートとしてMDIを29.6部仕込み、紫外線吸収剤(2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2Hベンゾトリアゾール(TIN234):20%)、酸化防止剤(3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン:50%)、光安定剤(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート:30%)の混合物1.3部を添加し、撹拌しながら数平均分子量2,100のポリエチレンアジペート(PEA)を69.1部注入し、40分間撹拌を継続して、両末端イソシアネート基プレポリマーを得た。
【0092】
ポリウレタン弾性繊維の溶融紡糸
得られた両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを、1:0.308の質量比で、ポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給した。反応機内での平均滞留時間は約1時間、反応温度は約197℃であった。
【0093】
得られた紡糸用ポリマーを固化することなく、197℃の温度に保った8ノズルの紡糸ヘッド2台に導入した。紡糸用ポリマーをヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、1ホールのノズルから紡糸筒内に吐出させ、紙管に巻き取り、110dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は70モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は2.99%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.20%であった。
【0094】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0095】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は80%であった。
【0096】
[実施例2]
両末端水酸基プレポリマーと両末端イソシアネート基プレポリマーの合計量を100部として、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド1.25部、エチレンビスステアリン酸アミド0.50部を両末端水酸基プレポリマーに添加して合成した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は70モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は3.09%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.20%であった。
【0097】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0098】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は70%であった。
【0099】
[実施例3]
両末端水酸基プレポリマーの合成で用いる1,5−ペンタンジオール(PEDO)の使用量を13.8部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は58モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は3.07%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.20%であった。
【0100】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0101】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は70%であった。
【0102】
[実施例4]
両末端水酸基プレポリマーの合成で用いる1,5−ペンタンジオール(PEDO)の使用量を21.1部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は45モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は3.08%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.20であった。
【0103】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0104】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は60%であった。
【0105】
[実施例5]
両末端水酸基プレポリマーの合成で用いる1,5−ペンタンジオール(PEDO)の使用量を43.8部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は22モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は3.08%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.20%であった。
【0106】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0107】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は50%であった。
【0108】
[比較例1]
両末端水酸基プレポリマーと両末端イソシアネート基プレポリマーの合計量を100部として、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド1.25部、亜リン酸エステル0.75部を両末端水酸基プレポリマーに添加して合成した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は70モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は3.08%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.20%であった。
【0109】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0110】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は70%であった。
【0111】
[比較例2]
両末端水酸基プレポリマーの合成で用いる1,5−ペンタンジオール(PEDO)の使用量を4.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性繊維を得た。
なお、全低分子量ジオール(BDO+PEDO)に対するBDOの割合は7モル%であった。また、紡糸直後のポリウレタン弾性繊維に含まれる窒素含有率(N%)は3.08%であり、残留イソシアネート基(残留NCO%)は0.425%であった。
【0112】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0113】
ポリウレタン弾性繊維(表層)を2倍に伸長した状態で90℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行った。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率は100%であった。
【0114】
実施例1〜5並びに比較例1及び2の熱融着力及びチーズ表層の接着率を、下記表1にまとめて示す。
【0115】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベア編地法において95℃で30分間沸水処理した時の熱融着力が0.1cN/dtex以上であり、かつ、チ−ズ表層における接着率が2.5倍未満である熱融着性弾性繊維。
【請求項2】
前記熱融着性弾性繊維は、熱融着性ポリウレタン弾性繊維であることを特徴とする請求項1に記載の熱融着性弾性繊維。
【請求項3】
溶融紡糸法により前記熱融着性弾性繊維を紡糸することを特徴とする請求項2に記載の熱融着性弾性繊維。
【請求項4】
主として、ポリオール、ジイソシアネート及び低分子量ジオールを反応させて得られるポリウレタン弾性繊維であって、ジセミカルバジド類をポリオール、ジイソシアネート及び低分子量ジオールの全重量に対し0.25〜5重量部含むことを特徴とする請求項3に記載の熱融着性弾性繊維。
【請求項5】
更にエチレンビスアミド類を0.01〜5重量部含むことを特徴とする請求項4に記載の熱融着性弾性繊維。
【請求項6】
ポリオール、ジイソシアネート及び炭素数2〜6の少なくとも2種の低分子量ジオールを反応させて得られるポリマーからなるポリウレタン弾性繊維であって、低分子量ジオールのうち主となる低分子量ジオールの含有率が、全低分子量ジオールに対して55モル%以上85モル%未満であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の熱融着性弾性繊維。
【請求項7】
紡糸直後のポリマーの窒素含有率が2.8〜4.2質量%であることを特徴とする請求項6に記載の熱融着性弾性繊維。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の熱融着性弾性繊維を含み、その端部のほつれ防止機能を有することを特徴とする織編物。

【公開番号】特開2008−95240(P2008−95240A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278380(P2006−278380)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】