説明

熱転写シート

【課題】高い耐熱性を有するとともに、耐熱滑性層への染料の移行、該移行した染料の再転移が生じ難く、更に、耐熱滑性層を製造するための耐熱滑性層用塗工液のポットライフに優れ、簡易かつ安定的に製造することができる熱転写シートを提供する。
【解決手段】基材フィルムの一方に熱転写色材層を有し、他方の面に耐熱滑性層が形成された熱転写シートであって、前記耐熱滑性層は、脂肪族多環式(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有し、かつ、前記脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比が、質量比で45〜95%である耐熱滑性層用樹脂を含有し、前記耐熱滑性層用樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、下記式(1)より算出される絶対温度(K)を摂氏(℃)に換算した値で115〜150℃、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万であることを特徴とする熱転写シート。
1/Tg=Σ(w/Tg) (1)
式(1)中、wは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiの質量分率を表し、Tgは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度を表し、Tg及びTgは、いずれも絶対温度(K)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写を利用した画像形成における熱転写シートとして、ポリエステルフィルム等の基材シートの一方の面に、色材層として昇華性染料とバインダーとからなる昇華転写型インク層を設けた昇華型熱転写シートや、該昇華転写型インク層の代わりに顔料とワックスとからなる溶融転写型インク層を設けた熱溶融型の熱転写シートが知られている。
これらの熱転写シートは、更に、必要に応じ、基材シートの色材層と同一面上に、熱転写受像シートに転写する保護層を設けることもできる。
【0003】
これらの熱転写シートは、一般に、基材シートの色材層と反対側の面にサーマルヘッドからの熱エネルギーに耐え得るよう、耐熱滑性層が設けられている。
ところが、熱転写シートを用いた熱転写記録方式における印画速度を高速化することや、より高濃度で鮮明な画像を出力するため、サーマルヘッドの熱エネルギーは増加の一途をたどっている。このようなサーマルヘッドの熱エネルギーの増加は、熱転写シートにかかる熱ダメージを増大させ、印画シワ、サーマルヘッド融着、リボン破断等の問題が顕在化してきた。
これらの問題を解決するため、熱転写シートのサーマルヘッド接触側に設けられている耐熱滑性層をより高耐熱化させる方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2に、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン変性ポリイミド樹脂等の高耐熱特殊樹脂を使用した耐熱滑性層を有する熱転写シートが開示されている。
しかしながら、高耐熱特殊樹脂は、溶剤溶解性に乏しいため、耐熱滑性層を形成するための塗工液作製にあたり、高耐熱特殊樹脂を溶解させる際に特殊溶媒が必要であり、インキ安定性や製造安定性に劣るという問題があった。また、特殊な樹脂等を用いる必要があるため、製造コストの高騰の原因となっていた。
【0005】
また、例えば、特許文献3に、架橋剤を用い、加熱により架橋させることにより耐熱性を高めた耐熱滑性層を有する熱転写シートが開示されている。
しかしながら、この耐熱滑性層は、充分に硬化させるためには、長期間に渡る熱処理(エイジング)が必要となり、製造工程が煩雑であるだけでなく、安定した品質の熱転写シートを製造することが困難であるといった問題があった。
【0006】
また、耐熱滑性層の製造にあたり、樹脂及び架橋剤を含有する塗工液に触媒を添加することで、熱処理時間(エイジング)の短縮化を図ることも一般的である。
しかしながら、この方法では、塗工液のポットライフが著しく短くなり、熱転写シートを安定的に製造することが困難であるという問題があった。
【0007】
更に、特許文献4に、耐熱滑性層の製造にあたり、塗工液を塗布した後、樹脂を硬化させるために紫外線又は電子ビームを照射する方法が開示されている。
しかしながら、この方法では、耐熱滑性層の製造に際して特殊装置が必要となり、工程が煩雑化するだけでなく、製造コストの高騰の原因となっていた。
【0008】
また、耐熱滑性層が設けられた熱転写シートは、製造後に巻き取り状態で保管した際、色材層と耐熱滑性層とが接することにより色材層から耐熱滑性層へ染料が移行する(キック)という問題があった。また、この耐熱滑性層へ移行した染料が巻き返されることにより、他の色の色材層、保護層等へ再転移し(バック)、この汚染された層が受像シートへ熱転写されることにより指定された色と異なる色相となり印画精度を著しく損なってしまうという問題があった。更に、耐熱滑性層と色材層との長期接触により、色材層表面に染料がブリードし、印画の際に未印画部(サーマルヘッドからの加熱がない領域)が着色する地汚れが生じることもあった。
一方、近年のプリンターの高速化に伴い、サーマルヘッドの熱エネルギー増加、インクリボンの高感度化、色材層における染料含有率の増加等が求められるが、これらの変更は、色材層から耐熱滑性層への染料の移行や、この移行に起因した熱転写時のトラブル発生の可能性を高めるものである。このため、キックバック性能が良好な耐熱滑性層への要求は更に大きくなってきている。
【0009】
キックバック性能を改良した熱転写シートとして、例えば、耐熱滑性層に用いるポリビニルアセタール樹脂のTgを80℃以上に、滑剤として使用するリン酸エステルの融点を35℃以上に限定し、保護膜への再転写(バック)を抑制した熱転写シート(例えば、特許文献5)、耐熱滑性層の粗度(SRz)を3.0μm以上に限定して、ラミネート層への着色(バック)を抑制した熱転写シート(例えば、特許文献6)、耐熱性樹脂と、融点が33℃以上でありIO値が0.23以上である滑剤と、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物の混合物から形成した耐熱滑性層を備えた熱転写シート(例えば、特許文献7)等が挙げられる。
しかしながら、これらの熱転写シートは、何れも、色材層から耐熱滑性層への染料の移行(キック)と、該耐熱滑性層から保護層への着色(バック)とを同時に抑制できず、架橋をしないと耐熱的に不足するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−334760号公報
【特許文献2】特開平05−229272号公報
【特許文献3】特開平06−278373号公報
【特許文献4】特開平05−043516号公報
【特許文献5】特開平09−300827号公報
【特許文献6】特開2000−225775号公報
【特許文献7】特開2002−011967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、高い耐熱性を有するとともに、耐熱滑性層への染料の移行、該移行した染料の再転移が生じ難く、更に、耐熱滑性層を製造するための耐熱滑性層用塗工液のポットライフに優れ、簡易かつ安定的に製造することができる熱転写シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基材フィルムの一方に熱転写色材層を有し、他方の面に耐熱滑性層が形成された熱転写シートであって、上記耐熱滑性層は、脂肪族多環式(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有し、かつ、上記脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比が、質量比で45〜95%である耐熱滑性層用樹脂を含有し、上記耐熱滑性層用樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、下記式(1)より算出される絶対温度(K)を摂氏(℃)に換算した値で115〜150℃、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万であることを特徴とする熱転写シートである。
1/Tg=Σ(w/Tg) (1)
式(1)中、wは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiの質量分率を表し、Tgは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度を表し、Tg及びTgは、いずれも絶対温度(K)である。
【0013】
上記耐熱滑性層用樹脂の酸価が1〜50mgKOH/gであることが好ましい。
また、上記基材フィルムと耐熱滑性層との間に下引き層を有し、上記下引き層は、ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明者らは、特定の性状及び構造を有する耐熱滑性層用樹脂を用いてなる耐熱滑性層が設けられた熱転写シートは、耐熱性に優れ、耐熱滑性層への染料の移行、該移行した染料の再転移(以下、キックバックともいう)が生じ難く、更に、上記耐熱滑性層を形成するための塗工液のポットライフに優れ、簡易かつ安定的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
図1は、本発明の熱転写シートの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の熱転写シート1は、基材シート2の一方の面に熱転写性色材層3が形成され、他方の面に耐熱滑性層4が形成されている。
【0016】
本発明の熱転写シート1において、基材シート2としては、従来公知のある程度の耐熱性と強度とを有するものであれば特に限定されず、いずれのものであってもよい。
基材シート2としては、各種紙類、フィルム等が挙げられる。
具体的には、例えば、グラシン紙、コンデンサー紙、パラフィン紙等の紙類;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム等の耐熱性の高いポリエステルフィルムや、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等が挙げられる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、又は、その混合物からなるポリエステルフィルムが好ましい。上記ポリエステルフィルムは、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよいが、延伸フィルム、特に2軸延伸フィルムが好ましく用いられる。
基材シート2は、上述の紙類、プラスチックフィルム等を積層したものであってもよい。
【0017】
基材シート2の形態としては特に限定されず、例えば、枚葉状でもあってよいし、連続フィルム状であってもよい。
【0018】
基材シート2の厚さとしては、強度、耐熱性等が適切になるように材料に応じて適宜選択することができるが、通常は0.5〜50μm程度が好ましい。より好ましい下限は1μm、より好ましい上限は20μmであり、更に好ましくは、上限が10μmである。
【0019】
また、基材シート2は、隣接する層との接着性を向上させるため、表面処理が施されていてもよい。
上記表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、グラフト処理等公知の樹脂表面改質処理技術を適用することができる。これらの表面処理は、1種のみを行ってもよいし、2種以上行ってもよい。なかでも、コストが低い点で、コロナ放電処理又はプラズマ処理が好適に行われる。
【0020】
更に、基材シート2は、必要に応じ、その一方の面又は両面に下引き層(プライマー層)を形成するものであってもよい。
上記下引き層を構成する樹脂としては従来公知の樹脂が用いられるが、接着性の点からポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
上記下引き層の厚さとしては特に限定されないが、例えば、該下引き層を構成する樹脂が上記ポリエステル樹脂である場合には、0.02〜0.5μm程度であることが好ましい。0.02μm未満であると、接着性が不十分となることがあり、0.5μmを超えると、サーマルへッドの感度や耐熱性の低下が生じることがあり、好ましくない。
【0021】
また、上記下引き層は、帯電防止剤を含有していてもよい。
上記帯電防止剤としては、従来公知の各種帯電防止剤が利用できるが、例えば、4級アンモニウム塩化合物や4級アンモニウム塩変性ポリマーなどのイオン系、非イオン界面活性剤系、カーボン、アンチモン・スズ化合物(ATO)、インジウム・スズ化合物(ITO)などの無機系や、スルホン化ポリアニリンなどの非イオンポリマー系などが挙げられる。これらは、単体で用いられてもよく、適当なバインダー樹脂にブレンド、分散させて用いられてもよい。中でも湿度に影響の少ない、カーボン、アンチモン・スズ化合物(ATO)、インジウム・スズ化合物(ITO)などの無機系や、スルホン化ポリアニリンなどの非イオンポリマー系などが好ましい。
【0022】
本発明の熱転写シート1において、耐熱滑性層4は、上述した基材シート2の一方の面に形成されている。
本発明の熱転写シート1において、耐熱滑性層4は、脂肪族多環式(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有する耐熱滑性層用樹脂を有するものである。上記脂肪族多環式(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有することで、上記耐熱滑性層用樹脂を用いてなる耐熱滑性層4の耐熱性が優れたものとなり、本発明の熱転写シート1にキックバックの問題が発生することを防止することができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0023】
上記脂肪族多環式(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、イソボルニルメタクリレートが好適に用いられる。
【0024】
上記耐熱滑性層用樹脂における上記脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比は、質量比で45〜95%である。45%未満であると、耐熱滑性層4の耐熱性が不充分となり、95%を超えると、耐熱滑性層4の被膜の柔軟性や基材シート2との接着性が不充分となる。上記脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比の好ましい下限は50%、好ましい上限は85%であり、より好ましい下限は55%、より好ましい上限は75%である。なお、上記耐熱滑性層用樹脂における脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比は、仕込みのモノマー比率により調整することができる。
【0025】
また、上記耐熱滑性層用樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が115〜150℃、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万である。このようなガラス転移温度及び重量平均分子量を有する耐熱滑性層用樹脂を含有することで、耐熱滑性層4の耐熱性が優れたものとなる。また、上記耐熱滑性層用樹脂を含有する耐熱滑性層4を形成するための塗工液(以下、耐熱滑性層用塗工液ともいう)のポットライフを優れたものとすることができる。よって、上記耐熱滑性層用樹脂を含有する耐熱滑性層用塗工液を用いた耐熱滑性層4の製造を安定的に行うことができ、更に、特別な溶媒や装置等も不要であるため、製造工程が煩雑になることもない。
【0026】
上記耐熱滑性層用樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が115〜150℃である。115℃未満であると、耐熱滑性層4の耐熱性が不充分となり、150℃を超えると、耐熱滑性層4の被膜の柔軟性や基材シート2との接着性が不充分となる。
上記耐熱滑性層用樹脂のガラス転移温度(Tg)の好ましい下限は130℃、好ましい上限は145℃である。
なお、本明細書において、上記ガラス転移温度(Tg)は、下記式(1)より算出される絶対温度(K)を摂氏(℃)に換算した値である。
1/Tg=Σ(w/Tg) (1)
なお、式(1)中、wは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiの質量分率を表し、Tgは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度を表し、Tg及びTgは、いずれも絶対温度(K)で表した値である。
また、Tgは、「ポリマーハンドブック第4版(POLYMER HANDBOOK、FOURTH EDITION)、John Wiley & Sons Inc、J.Brandrup、VI/p,193〜253」に記載されている値である。
【0027】
また、上記耐熱滑性層用樹脂は、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万である。5万未満であると、耐熱滑性層4の耐熱性が不充分となり、50万を超えると、耐熱滑性層用塗工液の塗工適性が劣ることとなる。
上記耐熱滑性層用樹脂の重量平均分子量(Mw)の好ましい下限は10万、好ましい上限は40万であり、より好ましい下限は15万、より好ましい上限は30万である。
なお、本明細書において、上記重量平均分子量(Mw)は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製 商品名HLC−8120)を用いて測定される値を意味する。
上記GPCにおけるカラムは、TSKgel G5000HXL*GMHXL−L(東ソー株式会社製)を使用した。検量線は、F288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(東ソー株式会社製 標準ポリスチレン)、及びスチレンモノマーを使用して作製した。そして、ポリマーを0.4質量%溶解したテトラヒドロフラン(THF)溶液を調製し、調製したTHF溶液を100μl使用して、40℃で測定を行い、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0028】
上記耐熱滑性層用樹脂は、耐熱性が劣ったり、耐熱滑性層4と基材シート2との接着性が悪かったりすると、耐熱滑性層4の成分がサーマルヘッド上にカスとして残り蓄積されるため、所望のエネルギーがサーマルヘッドから熱転写シート1に正確に伝達されず、良好な画像が得られなくなることがある。従って、熱転写により良好な画像を得るためには、耐熱滑性層4に用いる樹脂の耐熱性と耐熱滑性層4の基材シート2に対する接着性が重要となる。
このような性質を満たすために、上記耐熱滑性層用樹脂は、酸価が高いことがよく、具体的には、酸価が1〜50mgKOH/gであることが好ましい。1mgKOH/g未満であると、上記耐熱滑性層用樹脂を含有する耐熱滑性層4の基材シート2に対する接着性が不充分となることがあり、50mgKOH/gを超えると、溶剤溶解性が悪くなり、上記耐熱滑性層用塗工液の塗工適性が劣り、均一な耐熱滑性層4を形成できなくなることがある。上記耐熱滑性層用樹脂の酸価のより好ましい下限は5mgKOH/g、より好ましい上限は25mgKOH/gである。
なお、上記耐熱滑性層用樹脂の酸価は、該耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーの選択及びモノマー比率により、特に後述するカルボキシル基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーを含有する場合、これらの仕込みのモノマー比率により調整することができる。
【0029】
また、上記耐熱滑性層用樹脂は、上述した脂肪族多環式(メタ)アクリレート以外に、その他のモノマーを共重合体のモノマー単位として含有することができる。
その他のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートモノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリレートモノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレートモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系モノマー;等が挙げられる。なかでも、メチルメタクリレート、メタクリル酸が好適に用いられる。
【0030】
上記各モノマー成分を含有する耐熱滑性層用樹脂の合成方法としては、例えば、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法等の公知の重合方法が挙げられる。なかでも、懸濁重合法が好適である。
【0031】
上記耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する際の具体的な方法としては、例えば、水性媒体中に、モノマー混合物、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤等を添加して懸濁化し、その懸濁液を加熱して重合させ、重合後の懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥する方法が挙げられる。ただし、上記モノマー混合物は、上述した脂肪族多環式(メタ)アクリレートを含有するものであり、製造する耐熱滑性層用樹脂における該脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比が、質量比で45〜95%となるようにする必要がある。
【0032】
上記耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する際に使用する分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、あるいはこれらのモノマーの組み合わせからなるコポリマーや、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。なかでも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマーが好ましい。
【0033】
また、上記耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する場合、懸濁重合時の分散安定性の向上を目的として、無機電解質を併用することができる。
上記無機電解質としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する際に使用する重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0035】
上記耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する際に使用する連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)等のチオグリコール酸エステル類;β−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)等のメルカプトプロピオン酸エステル類;などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する際の重合温度は、50〜150℃であることが好ましく、60〜130℃であることがより好ましい。50℃未満であると、重合速度が遅く、生産性が悪い傾向にあり、150℃を超えると、重合速度が速く、重合温度の制御が困難になる傾向がある。
【0037】
以上のように、上記耐熱滑性層用樹脂を構成する各モノマー単位の種類と量とを調節することで、耐熱滑性層用樹脂のガラス転移温度(Tg)を115〜150℃とし、重合温度、重合開始剤、連鎖移動剤等を適宜選択し、調整することで、耐熱滑性層用樹脂の重量平均分子量(Mw)を5万〜50万とすることができる。
【0038】
本発明の熱転写シート1において、耐熱滑性層4は、上述した本発明の効果を阻害しない範囲で、上述した耐熱滑性層用樹脂以外の熱可塑性樹脂バインダーを含有していてもよい。
【0039】
また、耐熱滑性層4には、アクリル樹脂に用いられる従来公知の架橋剤を併用することもできるが、このような架橋剤は併用しないことが好ましい。架橋剤を含有すると、後述する耐熱滑性層用塗工液のポットライフ性能が低下することがある。
【0040】
また、耐熱滑性層4は、熱離型剤又は滑剤を含有することが好ましい。
上記熱離型剤又は滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、金属石鹸、高級脂肪酸のアミド、高級脂肪酸エステル又は塩類等や、リン酸エステル、シリコーンオイル、シリコーン変性ポリマー、フッ素含有樹脂、二硫化モリブデン等従来公知のものが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。なかでも、ポリエチレンワックス、金属石鹸、リン酸エステル、シリコーン変性ポリマーが、その滑性の点から好ましい。
【0041】
上記金属石鹸としては特に限定されず、例えば、アルキルリン酸エステルの多価金属塩、アルキルカルボン酸の金属塩等が挙げられる。
上記アルキルリン酸エステルの多価金属塩としては、プラスチック用添加剤として公知のものを使用することができる。
また、上記アルキルリン酸エステルの多価金属塩としては、一般に、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を多価金属で置換することによって得られ、種々のグレードのものが入手可能である。
【0042】
上記滑剤又は熱離型剤の働きをする物質は、上記耐熱滑性層用樹脂又は上記耐熱滑性層用樹脂と熱可塑性樹脂バインダーの総量100質量部に対し5〜100質量部含有されていることが好ましい。5質量部未満であると、本発明の熱転写シート1への熱印加時におけるサーマルヘッドとの滑性不足、離型性不足により融着を引き起こす傾向がある。100質量部を超えると、耐熱滑性層4の物理的強度の低下や耐熱性不足を引き起こすことがある。
【0043】
本発明の熱転写シート1において、耐熱滑性層4は、上述した耐熱滑性層用樹脂、熱可塑性樹脂バインダー及び滑剤又は熱離型剤の働きをする物質に加え、サーマルヘッドに付着するカスのクリーニング性、滑性やブロッキング防止の調整等を目的として、フィラーを含有するものであってもよい。
【0044】
上記フィラーとしては、例えば、タルク、カオリン、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、シリコーンゴムフィラー、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられ、なかでも、タルク、シリコーンゴムフィラー、炭酸カルシウム等が好ましい。
【0045】
上記フィラーの添加量は、クリーニング性、滑性及び耐熱性の点で、上記耐熱滑性層用樹脂及び必要に応じて添加する熱可塑性樹脂バインダーの合計重量100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましい。1質量部未満であると、クリーニング性等の性能が発現しないことがあり、30質量部を超えると、耐熱滑性層4の可撓性や被膜強度が低下することがある。
【0046】
耐熱滑性層4は、上記耐熱滑性層用樹脂、及び、必要に応じて添加する熱可塑性樹脂バインダー、滑剤、離型剤、フィラーを、溶媒に溶解又は分散させて耐熱滑性層用塗工液を調製し、得られた塗工液を用いて基材シート2の一方の面に形成することができる。
【0047】
上記溶媒としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールや、これらの混合物等が挙げられる。
【0048】
上記耐熱滑性層用塗工液は、優れたポットライフを有するものである。これは、非硬化タイプによって、充分な耐熱性を有する耐熱滑性層4を形成することができるからであると考えられる。また、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン変性ポリイミド樹脂等の高耐熱特殊樹脂を溶解させるための特殊溶媒を使う必要がなく、インキ安定性に優れていることも要因である。
従って、上記耐熱滑性層用樹脂を含有する耐熱滑性層用塗工液を用いることで本発明の熱転写シートの製造を安定的に行うことができる。
【0049】
上記耐熱滑性層用塗工液を用いて耐熱滑性層4を形成する方法としては、一般のコーティング剤の塗布方法と同様に、例えば、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法等のコーティング法により、固形分0.1〜2g/m程度により上述した基材シート2に、耐熱滑性層用塗工液を塗布し、乾燥する方法が挙げられる。上記耐熱滑性層用塗工液の塗工量(固形分)のより好ましい下限は0.2g/m、より好ましい上限は1.5g/mである。
【0050】
ここで、上記耐熱滑性層用塗工液を基材シート2の一方の面に塗布した被膜は、乾燥することで上記溶媒が除去されるが、完全に除去されずに所謂残留溶媒として残ることも多い。乾燥後の被膜の残留溶媒量が多いと、得られる本発明の熱転写シート1に地汚れやブロッキング、保存性の低下といった問題が発生しやすくなり、また、製品から臭気がする等の問題が発生することがある。よって、上記乾燥後の被膜の残留溶媒量は可能な限り少ないことが好ましい。具体的には、上記乾燥後の被膜における残留溶媒量は、10.0mg/m以下であることが好ましい。より好ましくは5.0mg/m以下である。このような残留溶媒量は、上記耐熱滑性層用塗工液を用いて形成した被膜の厚さ等を考慮して、乾燥条件を種々選択することで達成することができる。
なお、上記乾燥後の被膜の残留溶媒量は、基材シートに耐熱滑性層のみを塗工し、これを5cm×5cmの大きさに切断して以下の条件でガスクロマトグラフィーを用いて溶剤の蒸発量を測定し、次に、基材シートのみの溶剤の蒸発量を同様に測定し、その差を残留溶剤量として測定することができる。
測定機器:GAS CHROMATOGRAPH GC−14A(島津製作所製)
C−R4AX CHROMATOPAC(島津製作所製)
HEDADSPACE SAMPLER HSS−2B(島津製作所製)
カラム :BX−10 Glass I.D.φ3×2.1m(島津製作所製)
測定条件:バイアル温度 130℃
保温時間 15分
気化室温度 200℃
カラム温度 50℃
検出器温度 200℃
【0051】
本発明の熱転写シート1は、基材シート2の上述した耐熱滑性層4が形成された面の反対側の面に熱転写色材層3が形成されている。
熱転写性色材層3は、昇華型熱転写シートの場合には、昇華性の染料を含む層を形成し、一方、熱溶融型の熱転写シートの場合には顔料で着色したワックスインキ層を形成する。以下、昇華型熱転写シートの場合を例として説明するが、本発明熱転写シートは昇華型のみに限定されるものではない。
【0052】
熱転写性色材層3に使用する染料としては、従来公知の熱転写シートに使用されている染料が使用できる。例えば、好ましく使用される染料としては、赤色染料としては、例えば、MS Red G、Macrolex Red、Violet R、CeresRed7B、Samaron Red F3BS等が挙げられる。
また、黄色の染料としては、例えば、ホロンブリリアントイエロー6GL 、PTY−52、マクロレックスイエロー6G等が挙げられる。
また、青色染料としては、例えば、カヤセットブルー714 、ワクソリンブルーAP−FW 、ホロンブリリアントブルーS−R 、MSブルー100等が挙げられる。
【0053】
上記染料を担持するためのバインダー樹脂としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、シドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酪酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。なかでも、セルロース系、ビニル系、アクリル系、ポリウレタン系及びポリエステル系等の樹脂が耐熱性、染料の移行性等の点から好ましい。
【0054】
熱転写性色材層3は、基材シート2の一方の面に、以上の如き染料及びバインダーに必要に応じて添加剤、例えば、離型剤等を加えたものを、適当な有機溶媒に溶解したり、或いは、有機溶媒や水に分散した分散体を、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により塗布及び乾燥して形成することができる。
【0055】
熱転写性色材層3は、厚みが0.2〜5.0μm、好ましくは0.3〜2.0μm程度の厚さであり、また、染料層中の昇華性染料は、染料層の重量の5〜90重量%、好ましくは10〜70重量%の量で存在するのが好適である。
【0056】
熱転写性色材層3は、所望の画像がモノカラーである場合は、上記染料のうちから1色を選んで形成し、また、所望の画像がフルカラーである場合は、例えば、適当なシアン、マゼンタ及びイエロー(更に必要に応じてブラック)を選択して、イエロー、マゼンタ及びシアン(更に必要に応じてブラック)の染料層を形成する。
【0057】
熱転写性色材層3の表面に、受像シートとの粘着防止を目的として、離型層を設けてもよい(特に図示しない)。
上記離型層としては、粘着防止性の無機粉末を付着させたもの、或いは、シリコーンポリマー、アクリルポリマー、フッ素化ポリマーのような離型性に優れた樹脂層等が挙げられる。
その厚みとしては、乾燥状態で0.01〜5μm、好ましくは0.05〜2μm程度である。なお、このような離型性に優れた効果を有する材料は、熱転写性色材層中に含有させても良好な効果が得られる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の熱転写シートは、耐熱滑性層が上述した耐熱滑性層用樹脂を含有するものであるため、耐熱性に優れるとともにキックバックが生じ難いものとなる。また、上記耐熱滑性層を形成するための耐熱滑性層用塗工液は、優れたポットライフを有し、本発明の熱転写シートを安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の熱転写シートの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳述する。なお、文中、部又は%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0061】
<分散剤>
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部、メチルメタクリレート12部を加えて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、重合温度50℃に昇温し、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に重合温度60℃に昇温した。該重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下し、重合温度60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明なポリマー水溶液である固形分10%の分散剤を得た。
【0062】
<耐熱滑性層用樹脂1>
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水135部、硫酸ナトリウム0.3部、分散剤(固形分10%)0.5部を加えて撹拌し、均一な水溶液とした。
次に、イソボルニルメタクリレート65部、メチルメタクリレート34部、メタクリル酸1部、n−ドデシルメルカプタン0.1部、ラウロイルパーオキサイド0.7部を加え、水性懸濁液とした。
次に、重合装置内を窒素置換し、重合温度70℃に昇温して約1.5時間反応させ、さらに重合率を上げるため、後処理温度として95℃に昇温して30分間保持した後、40℃に冷却して、粒状のポリマーを含む水性懸濁液を得た。
この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄、脱水し、40℃で16時間乾燥して、耐熱滑性層用樹脂1を得た。この耐熱滑性層用樹脂1は、重量平均分子量(Mw)が204300であり、ガラス転移温度(Tg)が137℃であった。
【0063】
<耐熱滑性層用樹脂2〜17>
表1に示すモノマー、連鎖移動剤、重合開始剤を使用したこと以外は、耐熱滑性層用樹脂1と同様にして耐熱滑性層用樹脂2〜17を得た。得られた耐熱滑性層用樹脂2〜17の重量平均分子量、酸価及びガラス転移温度(Tg)を表1に示した。
【0064】
表1中の略号は以下の通りである。
IBXMA:イソボルニルメタクリレート
MMA :メチルメタクリレート
St :スチレン
BA :n−ブチルアクリレート
MAA :メタクリル酸
n−DM :n−ドデシルメルカプタン
LPO :ラウロイルパーオキサイド
【0065】
<耐熱滑性層用樹脂18>
耐熱滑性層用樹脂18として、ポリアミドイミド樹脂(バイロマックスHR−15ET、東洋紡績社製)を用いた。耐熱滑性層用樹脂18の重量平均分子量(Mw)、酸価及びガラス転移温度(Tg)を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例1)
基材シートとして、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)の一方の面に、下記配合の下引き層用組成物aをグラビアコーティングにより塗布し、110℃で1分乾燥処理して、乾燥塗布量が0.2g/mの下引き層aを形成した。
次いで、下記組成の耐熱滑性層用塗工液を、形成した下引き層上にグラビアコーティングにより塗布し、100℃で2分間乾燥処理して、乾燥塗布量が1.0g/mの耐熱滑性層を形成した。
更に、上記基材シートの耐熱滑性層と反対の面に、下記組成の色材層用塗工液をグラビアコーティングにより塗布し、80℃で2分間乾燥処理して、乾燥塗布量が1.0g/mの熱転写性色材層を形成し、実施例1の熱転写シートを作製した。
【0068】
<下引き層用組成物a>
ポリエステル樹脂(ポリエスターWR−961 固形分30wt%、日本合成化学工業社製) 100部
水 25部
イソプロピルアルコール 25部
【0069】
<耐熱滑性層用塗工液>
耐熱滑性層用樹脂1 100部
金属石鹸(1)(GF200、ステアリン酸亜鉛、日油社製) 5部
金属石鹸(2)(LBT−1830精製、ステアリルリン酸亜鉛、堺化学工業社製)5部
タルク(ミクロエースP−3、日本タルク社製) 5部
メチルエチルケトン 250部
トルエン 250部
【0070】
<色材層用塗工液>
C.I.ソルベントブルー63 3.0部
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX−1、積水化学工業社製) 3.0部
メチルエチルケトン 47部
トルエン 47部
【0071】
(実施例2〜17、比較例1〜7)
耐熱滑性層用樹脂及び配合(配合A〜E)並びに塗布量を表2に示した通りとした以外は、実施例1と同様にして耐熱滑性層用塗工液を調製し、その後、実施例1と同様にして実施例2〜17、比較例1〜7の熱転写シートを作製した。なお、表2における「配合A〜E」の具体的な内容を表3に示した。表3における「耐熱滑性層用樹脂」は、上述の耐熱滑性層用樹脂1〜18のいずれかであり、表2に示した耐熱滑性層用樹脂が夫々該当する。
また、実施例16に係る熱転写シートは、下引き層用組成物aに代えて、下記に示す配合の下引き層用組成物bを用い、実施例1と同様にして下引き層bを形成した。
【0072】
<下引き層用組成物b>
ポリエステル樹脂(バイロナールMD−1245 固形分30wt%、東洋紡績社製) 100部
水 25部
イソプロピルアルコール 25部
【0073】
評価
下記手順にて、各実施例及び比較例に使用した各耐熱滑性層用塗工液、及び、熱転写シートについて以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0074】
<耐熱滑性層用塗工液の塗工適性>
110mLガラス容器に、調製直後の各耐熱滑性層用塗工液50mLと攪拌子とを入れ、マグネチックスターラーで攪拌しながら30℃、50%条件下にて24時間及び72時間放置した後の耐熱滑性層用塗工液の状態(外観・粘性)を目視にて確認し、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
○:72時間放置した後の耐熱滑性層用塗工液が調製直後と比較して状態変化(増粘等)していない。
△:塗工が可能だが面質確保が難しい。
×1:72時間放置した後の耐熱滑性層用塗工液が調整直後と比較して状態変化(増粘等)している。
×2:溶剤溶解性が悪く、面質確保ができなかった。
【0075】
<耐熱性>
アルテック社製デジタルフォトプリンターメガピクセルIIを用い、実施例及び比較例で作製した熱転写シートを、メガピクセルII純正インクリボンのイエロー部、マゼンタ部及びシアン部に全て貼り込み、メガピクセルII純正印画紙(ポストカードサイズ)と組み合わせてベタ画像(階調値255/255:濃度MAX)を印画し、各印画後のインクリボンと得られた印画物の状態を観察し、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
○:印画後のインクリボンに破断が見られず、印画物にスティック痕や印画シワも見られない。
×:印画後のインクリボンが破断若しくは印画物にスティック痕又は印画シワが見られる。
【0076】
<耐熱滑性層からオーバーコート層への染料の移行性(バック)評価>
実施例及び比較例で作製した熱転写シートの耐熱滑性層と下記色材層とを、耐熱滑性層と色材層とが接するよう対向させ、20kg/cm荷重をかけて、40℃、湿度20%環境下で96時間保管した後、耐熱滑性層に染料をキックさせた。色材層は、キャノン(株)製カラーインク/ペーパーセットKP−36IP(商品名)のマゼンタ部分を使用した。
上記方法にてキックさせた各熱転写シートとオーバーコート層(キャノン(株)製カラーインク/ペーパーセットKP−36IP(商品名))とを、耐熱滑性層とオーバーコート層とが接するよう対向させ、20kg/cm荷重をかけて、60℃、湿度20%環境下で24時間保管した。
その後、染料が移行したオーバーコート層と受像紙の受像面とを重ね合わせ、ラミネート試験機(ラミパッカーLPD2305PRO、フジプラ(株)製)を用いて、105℃、4mm/sec/lineにて転写を行った。更に、受像紙から保護層を剥がし、オーバーコート層の転写部の色相をグレタグ社製GRETAG Spectrolino(D65光源、視野角2°)を用いて測定し、下記基準に基づき評価した。なお、受像紙は、キャノン(株)製カラーインク/ペーパーセットKP−36IP(商品名)を使用し、色差は下記式に従い算出した。
ΔE*ab=((対向前後のL値の差)+(対向前後のa値の差)+(対向前後のb値の差)1/2
(評価基準)
◎:バックさせていないオーバーコート層の転写物とバックさせたオーバーコート層の転写物の色差ΔE*abが1.5未満。
○:バックさせていないオーバーコート層の転写物とバックさせたオーバーコート層の転写物の色差ΔE*abが1.5以上3.0未満。
×:バックさせていないオーバーコート層の転写物とバックさせたオーバーコート層の転写物の色差ΔE*abが3.0以上。
【0077】
<印画カス>
アルテック社製デジタルフォトプリンターメガピクセルIIを用い、実施例及び比較例で作製した熱転写シートを、メガピクセルII純正インクリボンのイエロー部、マゼンタ部及びシアン部に全て貼り込み、メガピクセルII純正印画紙(ポストカードサイズ)と組み合わせてベタ画像(階調値255/255:濃度MAX)を5枚連続印画し、同様にグレー画像(階調値128/255:濃度中間)を5枚連続印画し、各印画後のサーマルヘッドを顕微鏡を用いて観察し、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
◎:ベタ画像、グレー画像ともにカスは見られない。
○:ベタ画像ではカスが見られるが、グレー画像ではカスが見られない。
△:ベタ画像、グレー画像ともにカスが見られる。
×:ベタ画像、グレー画像ともにカスがこびりついている。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
表2に示したように、各実施例の熱転写シートは、耐熱性、キックバック性能に優れるものであり、また、実施例で用いた耐熱滑性層用塗工液は、ポットライフが長く熱転写シートを安定的に製造することができた。なお、酸価が0mgKOH/gであった耐熱滑性層用樹脂10を用いた実施例10は、他の実施例よりも印画カスの評価に劣り、酸価が65.2mgKOH/gであった耐熱滑性層用樹脂11を用いた実施例11は、他の実施例よりも塗工適性に劣るものであった。また、下引き層を形成しなかった実施例17は、他の実施例よりも耐熱滑性層と基材フィルムとの接着性に劣るものであったため、印画カスの評価に劣るものであった。
これに対して、各比較例の熱転写シートは、いずれも耐熱性、印画カス、キックバック及び塗工適性の全てに優れたものは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の熱転写シートは、耐熱滑性層が上述した耐熱滑性層用樹脂を含有するものであるため、耐熱性に優れるとともにキックバックが生じ難いものとなる。また、上記耐熱滑性層を形成するための耐熱滑性層用塗工液は、優れたポットライフを有し、本発明の熱転写シートを安定的に製造することができる。
【符号の説明】
【0082】
1:熱転写シート
2:基材シート
3:熱転写性色材層
4:耐熱滑性層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方に熱転写色材層を有し、他方の面に耐熱滑性層が形成された熱転写シートであって、
前記耐熱滑性層は、脂肪族多環式(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有し、かつ、前記脂肪族多環式(メタ)アクリレートの共重合比が、質量比で45〜95%である耐熱滑性層用樹脂を含有し、
前記耐熱滑性層用樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、下記式(1)より算出される絶対温度(K)を摂氏(℃)に換算した値で115〜150℃、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万である
ことを特徴とする熱転写シート。
1/Tg=Σ(w/Tg) (1)
式(1)中、wは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiの質量分率を表し、Tgは、耐熱滑性層用樹脂を構成するモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度を表し、Tg及びTgは、いずれも絶対温度(K)である。
【請求項2】
耐熱滑性層用樹脂の酸価が1〜50mgKOH/gである請求項1記載の熱転写シート。
【請求項3】
基材フィルムと耐熱滑性層との間に下引き層を有し、前記下引き層は、ポリエステル樹脂を含有する請求項1又は2記載の熱転写シート。


【図1】
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