説明

熱転写シート

【課題】染料層の経時変化を抑制することが可能な熱転写シートを提供すること。
【解決手段】本発明に係る熱転写シートは、基材の一方の面に設けられた、所定の色相を有する染料とバインダ樹脂とを少なくとも含む染料層を備え、バインダ樹脂は、所定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と、非晶性飽和ポリエステル樹脂との混合物を含み、ポリビニルアセタール樹脂と非晶性飽和ポリエステル樹脂との質量比は、95:5〜70:30である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、染料拡散熱転写方式のプリンタにおける即時印画性の高さにより、銀塩方式の写真に取って代わり、端末機器であるコンピュータにより写真画像を選択し、上記染料拡散熱転写方式のプリンタにより選択した写真画像を出力する、フォトキオスク等の設置が拡がっている。この際、単位時間当たりの出力画像数を上げるために印画速度の高速化が求められており、短時間の加熱で必要な染料染着濃度を得るべく、熱転写シートや被転写シートの高感度化が進められている。
【0003】
従来の熱転写シートを用いて高速印画を実施すると、感度不足による印画濃度不足を生じ、更なる高濃度を得るために印加エネルギーを上げると、サーマルヘッド等の加熱手段の高温化により被転写シートとの剥離不良が生じたり、熱転写シートの伸びやシワによる走行不良が生じたりすることとなる。
【0004】
このような状況において、熱転写シートの高感度化を図るために、一般的には、熱転写シートのベースフィルムの薄膜化による熱伝導性の向上や、熱転写シートの染料層における染料・樹脂比率を高める手段が採られることが多い。しかしながら、特に、染料・樹脂比率を上げた場合には、シェルフライフと呼ばれる熱転写シートの保存安定性(濃度特性の変化や染料の結晶化)が低下する現象が生じやすい。
【0005】
そこで、熱転写シートの染料層に用いられる樹脂の改良を行うことで、印画濃度向上や保存安定性の向上を図る試みが行われている(例えば、以下の特許文献1〜7を参照。)。
【0006】
具体的には、以下に示した特許文献1〜特許文献4には、染料層の形成に用いる樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂を使用することが記載されている。より詳細には、特許文献1には、分子量6万〜20万、ガラス転移温度60〜110℃、ビニルアルコール部分の質量%が10%〜40%であるポリビニルアセタール樹脂を90質量%以上含む熱転写層を有する熱転写シートを用いることにより、高濃度かつ鮮明な画像(印画物)が得られることが記載されている。
【0007】
特許文献2、3には、熱転写層のバインダ樹脂として、ポリビニルアセトアセタールを使用することが記載されている。かかる樹脂を利用した熱転写インクリボンは、保存中に染料が熱転写層の表面に浸出せず、かつ、結晶化することがないので、保存性に優れ、更に、サーマルヘッドなどの加熱手段により加熱された際に染料の熱移行を阻害せず、優れた記録濃度の画像記録を実現できる旨が記載されている。
【0008】
特許文献4には、染料層のバインダ樹脂として、ポリビニルアセトアセタール樹脂とフェニルアルデヒド変性ポリアセタールとを用いることで、熱転写時における染料の放出性の向上を図る技術が記載されている。
【0009】
また、引用文献2及び引用文献5〜引用文献7には、ポリビニルアセタール樹脂に他の樹脂をブレンドすることによって、性能の向上を図る方法について記載されている。
【0010】
例えば、特許文献2には、ポリビニルアセタール樹脂に、更にバインダ樹脂中の10質量%までの範囲でセルロース系樹脂をブレンドすることにより、熱転写層を塗布形成する際の乾燥性が向上することが記載されている。
【0011】
また、特許文献5には、熱転写層のバインダ樹脂中の10質量%未満の範囲で、ポリビニルアセタール樹脂に、セルロース系樹脂をブレンドする方法が記載されている。特許文献5には、かかる方法を用いることで、熱転写層内における染料の経時的な凝集、結晶成長及び析出が防止され、地汚れを生じることなく、比較的低エネルギーで高濃度及び鮮明な画像(印画物)を形成することが可能である旨が記載されている。
【0012】
特許文献6には、感熱転写記録用シートのインク層に、ポリビニルブチラール及びニトロセルロースを使用することが記載されている。特許文献6には、かかる方法を用いることで、感熱転写記録用受像シートとの融着や当該シートの地汚れの発生が防止され、かつ、画像濃度の低下が抑えられ、保存性が改良される旨が記載されている。
【0013】
特許文献7には、色素供与層のバインダ樹脂として、非相溶のポリマーブレンドを用いることが記載されている。かかる方法を用いることで、熱融着、給紙性及び搬送性等の改良のため離型剤を用いても、色素供与材料と色素受像材料との間で滑りが起きず、いわゆる「後端色ズレ転写」のない印画物を得ることが可能となる。すなわち、非相溶なポリマーをバインダ樹脂にブレンドすることにより、相分離が生起され、色素供与材料と色素受像材料との静止摩擦が大きくなり、両者の間の滑りが低減される。その結果、特許文献7では、印画ズレ、インクリボン裏面への染料移行によるサーマルヘッドの汚染、転写濃度の低下及び濃度ムラを抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭60−101087号公報
【特許文献2】特開昭63−151484号公報
【特許文献3】特開平4−236205号公報
【特許文献4】特開平6−048053号公報
【特許文献5】特開平6−24159号公報
【特許文献6】特開平4−115991号公報
【特許文献7】特開平5−58055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、熱転写シートにおける印画濃度向上や保存安定性の向上を目指して、上記特許文献1〜7に記載のように様々な方法が検討されているが、本発明者らは、熱転写シートの染料層に使用するバインダ樹脂について検討を進めるうちに、熱転写シートの保存前後での印画特性に経時変化が生じるという問題点を見いだすに至った。また、本発明者らは、かかる問題点について更なる検討を行った結果、上記特許文献1〜7に記載の技術では、保存前後での印画特性の経時変化を抑制することができないことに想到した。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、染料層の経時変化を抑制することが可能な、新規かつ改良された熱転写シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、基材の一方の面に設けられた、所定の色相を有する染料とバインダ樹脂とを少なくとも含む染料層を備え、前記バインダ樹脂は、所定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と、非晶性飽和ポリエステル樹脂との混合物を含み、前記ポリビニルアセタール樹脂と前記非晶性飽和ポリエステル樹脂との質量比は、95:5〜70:30である熱転写シートが提供される。
【0018】
ここで、非晶性飽和ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が40〜70℃であり、数平均分子量が8000〜25000であることが好ましい。
【0019】
また、染料層は、ポリビニルアセタール樹脂として、ガラス転移温度が90〜110℃である、ポリビニルアセトアセタール樹脂又はポリビニルアセトアセタール/ポリビニルブチルアセタール共重合体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、染料層のバインダ樹脂を特定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と非晶性飽和ポリエステルとから構成し、これらの質量比を特定の範囲としたので、染料層の経時変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る熱転写シートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
また、以下の説明において、「部」という記載は、質量部を意味するものとする。
【0024】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
(1)本発明の実施形態に係る熱転写シートの概要
(2)第1の実施形態
(2−1)熱転写シートの構成について
(3)実施例及び比較例
(3−1)熱転写シートの製造例
(3−2)保存方法について
(3−3)印画方法について
(3−4)評価
【0025】
(本発明の実施形態に係る熱転写シートの概要)
まず、本発明の実施形態に係る熱転写シートについて詳細に説明するに先立ち、本発明の実施形態に係る熱転写シートの概要について、簡単に説明する。
【0026】
本発明者らは、熱転写方式のプリンタについて、熱転写シートにおける印画濃度向上や保存安定性の向上を目指して、染料層に使用するバインダ樹脂について検討を行ってきた。かかる検討を行ってきた結果、本発明者らは、熱転写シートの保存前後での印画特性に経時変化が生じるという、未だ知られていない未解決の問題点が存在することに想到した。
【0027】
かかる問題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を行った結果、以下で詳細に説明するように、染料層に用いるバインダ樹脂として、特定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と、非晶性飽和ポリエステル樹脂との混合物を用いることで、保存前後の印画特性の経時変化を抑制可能であることに想到した。
【0028】
上記特許文献、例えば、特許文献7には、ポリビニルアセタール樹脂と、このポリビニルアセタール樹脂とは非相溶なポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等とをブレンドする技術が記載されている。しかしながら、特許文献7を含む上記引用文献では、本発明者らが見いだしたような熱転写シートの保存による印画特性変化については、認識すらされていない。また、上記特許文献に記載されているようなバインダ樹脂を組み合わせることでは、本件発明者らが見いだした問題点である、熱転写シートの保存前後での印画特性の経時変化を抑制することは出来なかった。
【0029】
また、非晶性飽和ポリエステルの分子量やガラス転移温度の違い(換言すれば、構成モノマー等の違い)により、上記特許文献で言及されている相溶性も変化する。しかしながら、相溶性が悪く表面の微細凹凸により光沢を失ったものであっても、また相溶性があり光沢を維持したものであっても、本発明で初めて見いだされた効果が左右されるものではない点に注意されたい。
【0030】
また、以下の説明では、印画特性変化をΔEとして示しているが、たとえばイエローやシアンの染料を用いた場合では保存により濃度上昇が観察される一方、マゼンタの染料を用いた場合では濃度低下が観察されており、一概に染料転写による濃度低下としては現れていない。また、一部、添加により結晶化を起こす組成においてはバックコート層への裏移りは確認されるものの、その他の組成においては裏移りに差はなく、本効果は、裏移り量には依存していない。従って、本発明者らは、本効果は、主に塗装乾燥工程におけるバインダ樹脂中の染料の安定化や均質化に起因するものではないかと推測している。
【0031】
以上説明したような概要に基づき、以下では、本発明の実施形態に係る熱転写シートについて、詳細に説明する。
【0032】
(第1の実施形態)
<熱転写シートの構成について>
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る熱転写シート10の構成について説明する。
【0033】
本実施形態に係る熱転写シート10は、熱転写シート基材101と、熱転写シート基材101の一方の面に形成される耐熱滑性層103と、熱転写シート基材101において耐熱滑性層103が形成される面とは逆側の面に形成される染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111と、を主に備える。また、図1に示したように、熱転写シート基材101と、染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111との間には、プライマー層105が形成されていてもよい。
【0034】
このプライマー層105は、図1に示したように、熱転写シート基材101の耐熱滑性層103が設けられている面とは逆側の面全体に設けられていてもよく、熱転写シート基材101と、特定の層との間にのみ設けられていてもよい。例えば、プライマー層105は、熱転写シート基材101と、染料層107及びセンサマーク層111との間にのみ設けられ、熱転写シート基材101とラミネート層109との間には設けられていなくともよい。
【0035】
[熱転写シート基材]
熱転写シート基材101は、0.5〜50μm、好ましくは1〜10μmの厚さの平板形状を有している。熱転写シート基材101を構成する樹脂は、公知の熱転写シート基材を構成する樹脂であり、かつ、ある程度の耐熱性と強度を有するものであればいずれのものでも良い。
【0036】
このような樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルフィドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等が挙げられる。
【0037】
[耐熱滑性層]
耐熱滑性層103は、サーマルヘッドの熱によるスティッキングや印画シワ等の悪影響を防止するために、熱転写シート基材101の一方の面に設けられるもので、樹脂及び滑り性付与剤や、所望により添加される充填剤からなるものである。
【0038】
耐熱滑性層103を構成する樹脂としては、公知の耐熱滑性層を構成する樹脂であればどのようなものであってもよい。このような樹脂としては、例えば、ポリビニルブチルアセタール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0039】
滑り性付与剤は、耐熱滑性層103に添加あるいは上塗りされるものである。滑り性付与剤としては、例えば、高級脂肪酸およびその塩、高級脂肪酸グラフトポリマー、ナイロン系フィラー等の有機微粒子、グラファイトパウダー等の無機微粒子、リン酸エステル、シリコーンオイル、シリコーン系グラフトポリマー、フッ素系グラフトポリマー、アクリルシリコーングラフトポリマー、アクリルシロキサン、アリールシロキサン等のシリコーン重合体等が挙げられる。
【0040】
耐熱滑性層103はポリオール、例えば、ポリアルコール高分子化合物とポリイソシアネート化合物及びリン酸エステル系化合物からなる層であってもよい。
【0041】
耐熱滑性層103は、以下の方法により形成される。すなわち、まず、樹脂、滑り性付与剤、及び所望により添加される充填剤を所定の溶剤に溶解又は分散させることで、耐熱滑性層組成物(組成液)を調製する。ついで、この組成物を、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により熱転写シート基材101の裏面に塗布し、乾燥する。これにより、耐熱滑性層103が形成される。耐熱滑性層103は、乾燥時の膜厚が0.1g/m〜3.0g/mとなることが好ましい。
【0042】
[プライマー層]
プライマー層105は、熱転写シート基材101の表面(耐熱滑性層103とは逆側の面)に形成され、熱転写シート基材101と後述する染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111との接着力を強化するものである。プライマー層105を構成する樹脂は、公知のプライマー層を構成する樹脂であれば、どのようなものであってもよい。このような樹脂としては、特に、異常転写抑制のために熱転写シート基材101と染料層107との接着力が強く、かつ印画濃度の低下を抑制するために染料がプライマー層105へ染着しにくいものが好ましい。
【0043】
このような好ましい樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂あるいはポリビニルピロリドン樹脂等のビニル系樹脂や、ポリビニルアセトアセタールあるいはポリビニルブチルアセタール等のポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。
【0044】
プライマー層105は、例えば以下のように形成される。すなわち、樹脂を所定の溶剤に溶解又は分散させることでプライマー層用組成物(組成液)を調製する。ついで、この組成物を例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により熱転写シート基材101に塗布し、乾燥する。これにより、プライマー層105が形成される。また、プライマー層用組成物(組成液)には、蛍光増白剤などの添加剤やフィラーなどを適宜添加しても良い。プライマー層105は、乾燥時の膜厚が0.01〜2.0g/mとなるように塗布するようにする。また、プライマー層105は、熱転写シート基材101の形成時に、熱転写シート基材101の延伸前に熱転写シート基材101上に塗布し、その後熱転写シート基材101と一緒に延伸することにより形成されるようにしても良い。
【0045】
なお、熱転写シート基材101の表面に、熱転写シート基材101と、後述する染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111との接着力を強化するための層としてプライマー層105を形成する場合について説明したが、プライマー層形成処理に変えて各種の接着処理を実施することも可能である。かかる接着処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、グラフト化処理等公知の樹脂表面改質技術をそのまま適用することができる。また、接着処理は、上記処理を二種以上併用したものであってもよい。
【0046】
[染料層]
本実施形態では、染料層107が、互いに色の異なる染料層107Y、107M、107Cを有する場合について説明するが、単一の色相からなる染料層であってもよい。
【0047】
○染料について
染料層107は、プライマー層105上に順次形成された染料層107Y、107M、107Cを有している。染料層107Y、107M、107Cは、染料と、当該染料を担持するバインダ樹脂とを含む。ここで、染料層107Yは、イエローの色相を有する染料が含まれる染料層であり、染料層107Mは、マゼンタの色相を有する染料が含まれる染料層であり、染料層5Cは、シアンの色相を有する染料が含まれる染料層である。染料層107に添加される染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であれば、公知のものを利用可能である。
【0048】
このような公知の染料としては、例えば、ジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン、ピラゾロンメチン等のメチン系、インドアニリン、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラゾールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系染料が挙げられる。また、染料層107Y、107M、107Cは、上述の染料以外にも熱転写方法に使用される他の公知の染料をさらに含んでもよい。
【0049】
染料層107Y、107M、107Cに添加される染料は、これらの染料の色相、印画濃度、耐光性、保存性、バインダへの溶解度等の特性を考慮して決定される。
【0050】
染料層107Y、107M、107Cの各々におけるバインダ樹脂と染料全体との質量比は、熱転写シートの染料層として通常適用されている値を適用することが可能であるが、例えば、乾燥時で、バインダ樹脂100質量部に対し、染料全体が30〜300質量部となるようにすればよい。
【0051】
○バインダ樹脂について
染料層107を構成するバインダ樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂及び非晶性飽和ポリエステル樹脂で構成され、これらの質量比は、95:5〜70:30(ポリビニルアセタール樹脂の質量:非晶性飽和ポリエステル樹脂の質量)の範囲内の値となる(乾燥時)。
【0052】
ポリビニルアセタール樹脂とは、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒド類と反応させ、アセタール化して得られる樹脂である。アルデヒド成分としては特に制限はなく、例えば、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等を選択することができる。また、このポリビニルアセタール樹脂は、2種類以上のアルデヒド成分を同時にアセタール化反応させたものや、2種類以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物からなるものでもよい。
【0053】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、エスレックBL−S,エスレックBX−1、エスレックBX−5、エスレックKS−1、エスレックKS−3、エスレックKS−5、エスレックKS−10(いずれも商品名、積水化学工業株式会社製)、デンカブチラール#5000−A、デンカブチラール#5000−D、デンカブチラール#6000−C、デンカブチラール#6000−EP、デンカブチラール#6000−CS、デンカブチラール#6000−AS(いずれも商品名、電気化学工業株式会社製)等が用いられる。
【0054】
ここで、本実施形態に係る染料層のバインダ樹脂に用いられるポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度(Tg)は、90℃〜110℃であることが好ましい。ガラス転移温度が90℃未満の場合、保存中のブロッキングや染料層における染料再結晶化が促進され保存性が低下するため、好ましくない。また、ガラス転移温度が110℃を超える場合は、印画記録時の染料放出性が低下するため好ましくない。
【0055】
ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸(その誘導体含む。)とジオール(その誘導体を含む。)との重縮合により得られるものである。
【0056】
ジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、イソフタル酸、トリメリット酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等、またはそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0057】
ジオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリシクロデカンジメタノール、1,4−ブタンジオール、ビスフェノール等、またはそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0058】
本実施形態では、上記のジカルボン酸およびジオールを重縮合させたポリエステル樹脂のうち、特に、非晶性飽和ポリエステル樹脂が使用される。なお、非晶性飽和ポリエステル樹脂の合成法は、公知の方法であればどのようなものであってもよい。
【0059】
非晶性飽和ポリエステルとしては、例えばバイロン103、バイロン200、バイロン280等(いずれも商品名、東洋紡株式会社製)、KA−1038C(商品名、荒川化学工業株式会社製)、TP220、TP235(いずれも商品名、日本合成化学株式会社製)、エリーテルUE−3210、エリーテルUE−3600、UE−3690等(いずれも商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0060】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、40℃以上、70℃以下が好ましい。ガラス転移温度が40℃未満の場合、ブロッキングや染料層中の染料が再結晶する等、保存安定性が低下するため好ましくない。また、ガラス転移温度が40℃未満の場合には、さらに非加熱部分やごく低いエネルギーで発色してしまう「カブリ」という現象を起こす。また、ガラス転移温度が70℃を超えると、保存安定性の効果が低く、相溶性も低下し、インクの塗膜としての強度・表面性が低下しやすい。
【0061】
また、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、8000以上、25000以下が好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が8000未満又は25000超過である場合には、やはり保存安定性の効果が劣り、強度や表面性においても好ましくない傾向にある。
【0062】
なお、ポリビニルアセタール樹脂やポリエステル樹脂のガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量測定法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)を用いて測定可能である。また、ポリエステル樹脂の数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)を用いて測定可能である。
【0063】
本実施形態では、ポリビニルアセタール樹脂及び非晶性飽和ポリエステル樹脂の質量比が95:5〜70:30(ポリビニルアセタール樹脂の質量:非晶性飽和ポリエステル樹脂の質量)の範囲内の値となっている。ポリビニルアセタール樹脂の比率が95を超えると、本実施形態の効果(印画特性の経時変化安定性)が損なわれる。またポリビニルアセタール樹脂の比率が70未満となっても、本来のポリビニルアセタールの熱的安定性が損なわれる。従って、本実施形態の効果が損なわれることとなる。一方、非晶性飽和ポリエステルの質量比が30を超えると、染料が結晶化しやすくなり、相溶性の低下による低濃度印画部のザラツキの発現、バックコート層とのブロッキングや密着による表面の変形を起こしやすくなる。
【0064】
本実施形態の効果が得られる理由のひとつとしては、非晶性飽和ポリエステル樹脂が染料層107に共存することで、染料層107の塗布・乾燥工程において染料が満遍なく分布する(すなわち、分布が安定化する)ことが考えられる。このように、染料が満遍なく分布することで、染料層107形成後の経時および保存時の熱履歴による変化が減少し、印画特性の変化が抑制されると考えられる。
【0065】
染料層107に添加できるその他の樹脂成分としては、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸・酪酸セルロース等のセルロース樹脂;ポリ酢酸ビニル、塩ビ酢ビ共重合樹脂(塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂)、スチレン樹脂、ポリビニルピロリドン等のビニル系樹脂;ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等が例示できる。上記成分に限らず、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂成分を適宜添加することができる。
【0066】
また、染料層107には、必要に応じて公知の各種添加剤を加えてもよい。その添加剤として、例えば、ポリエチレンワックス、アクリル、シリコーン、ベンゾグアナミン系樹脂等の有機微粒子、炭酸カルシウム、シリカ、雲母等の無機粒子、シリコーン樹脂、シリコーンオイル、リン酸エステルなどが挙げられる。このような添加剤は、被転写シートとの離型性や染料の塗布適性を向上させるために、染料層107に添加される。
【0067】
以上説明したような染料層107は、以下のように形成される。すなわち、まず、染料、バインダ樹脂、及び必要に応じて所望の添加剤を所定の溶剤に加え、各成分を溶解または分散させることで、染料層組成物(組成液)を調製する。ついで、この組成物(組成液)を熱転写シート基材101の上に塗布、乾燥させる。これにより、染料層107が形成される。塗布方法としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の公知の手段が挙げられる。また、これら以外の各種の塗布方法を適用することも可能である。染料層107Y、107M、107Cの膜厚は、乾燥時に0.1〜6.0g/m、好ましくは0.2〜3.0g/mとなることが好ましい。
【0068】
[ラミネート層]
ラミネート層109は、後述する被転写シートに熱転写された画像を保護するためのものである。すなわち、被転写シートに染料を含む画像を熱転写させただけだと、染料が被転写シートの表面に露出した状態になり、印画物(被転写シートの受容層に染料を熱転写させたもの)の耐光性、耐擦過性、耐薬品性等が不十分となる可能性がある。そこで、被転写シートの受容層に染料を含む画像を熱転写させた後に、ラミネート層109の少なくとも一部を被転写シートの受容層に熱転写して印画物を被覆させることで、印画物上に透明樹脂からなる印画物保護層を形成し、被転写シートを保護する。
【0069】
本実施形態に係るラミネート層109は、図1に示したように、離型性層151と、転写物被覆層153と、を備える。サーマルヘッド等の加熱手段により加熱されると、ラミネート層109のうち転写物被覆層153が剥離し、被転写シート上に転写された画像を被覆して、当該転写された画像を保護する透明な樹脂層(印画物保護層)となる。
【0070】
ここで、本実施形態に係る転写物被覆層153は、図1に示したように、保護層155及び接着層157からなる。
【0071】
離型性層151は、サーマルヘッド等の加熱手段により加熱された際に、プライマー層105に残存し、後述する転写物被覆層153(保護層155及び接着層157)を熱転写シート10から剥離させる層である。離型性層151は、例えば、シリコーンワックス等の各種ワックス類、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、セルロース誘導体樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸系ビニル樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アクリルビニルエーテル系樹脂、無水マレイン酸樹脂等の各種樹脂等やこれらの混合物で構成されている。離型性層151を構成する樹脂としては、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース誘導体樹脂を用いることが、良好な記録特性を得るうえで好ましい。
【0072】
転写物被覆層153を構成する保護層155は、熱転写性を有しており、サーマルヘッド等の加熱手段により加熱された際に被転写シートに転写された染料を含む画像上に熱転写されて、印画物保護層として被転写シートを保護する透明な樹脂層である。図1において、本実施形態に係る保護層155は単一層として図示されているが、保護層155は、複数の層から構成されていてもよい。
【0073】
保護層155を構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、これらの各樹脂のエポキシ変性樹脂、これらの樹脂をシリコーン変性させた樹脂、これらの各樹脂の混合物、電離放射線硬化性樹脂、紫外線遮断性樹脂等が挙げられる。好ましい樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ変性樹脂が挙げられる。中でもスチレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、塩ビ−酢ビ(塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合体)、塩化ビニル、セルロースエステル誘導体から選ばれる少なくとも1種の共重合体は、非転写時には接密着性を有し、熱転写時には剥離性を有し、良好な光沢を有するため好ましく、ポリスチレン樹脂及びその変性体や共重合体、あるいは、アクリル系樹脂及びその変性体や共重合体であることが最も好ましい。
【0074】
転写物被覆層153を構成する接着層157は、サーマルヘッド等の加熱手段により加熱された際に、被転写シートに転写された染料を含む画像上に保護層155とともに熱転写されて、保護層155を被転写シートに接着させる透明な樹脂層である。接着層157を構成する樹脂としては、公知である粘着剤、感熱接着剤等が配合されている樹脂をいずれも使用することが可能であるが、ガラス転移温度(Tg)が30〜80℃の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例として、例えば、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。
【0075】
以上、本実施形態に係るラミネート層109について説明した。
なお、本実施形態では、ラミネート層109が、離型性層151、保護層155及び接着層157の3層構造である場合について説明したが、ラミネート層109の構造が上述の例に限定されるわけではない。すなわち、保護層155及び接着層157からなる転写物被覆層153が、サーマルヘッド等の加熱手段による加熱で熱転写シート10から容易に剥離可能なのであれば、離型性層151は形成しなくともよい。また、サーマルヘッド等の加熱手段による加熱で熱転写シート10から容易に剥離可能なのであれば、ラミネート層109として、接着層157の機能も兼ねた保護層155のみを形成してもよい。
【0076】
[センサマーク層]
センサマーク層111は、熱転写を行うプリンタが染料層染料層107及びラミネート層109の位置を認識するために設けられる。
【0077】
以上、図1を参照しながら、本実施形態に係る熱転写シート10の構成について、詳細に説明した。
【0078】
このように、本発明の実施形態に係る熱転写シートは、染料層のバインダ樹脂として、特定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と非晶性飽和ポリエステル樹脂の混合物を利用する。これにより、本発明の実施形態に係る熱転写シートは、高い転写濃度(印画濃度)を有し、保存前後の印画特性の経時変化を抑制でき、印画適性に優れるものとなる。その結果、本発明の実施形態に係る熱転写シートは、熱転写の印画速度の高速化、熱転写画像の高濃度化、高品質化を実現することが可能となる。
【実施例】
【0079】
(実施例及び比較例)
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、以下に示す実施例及び比較例中、「部」又は「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0080】
<熱転写シートの製造>
本実施例及び比較例では、熱転写シート10を以下の方法により製造した。
【0081】
まず、熱転写シート基材101として、表面を接着処理してプライマー層105を形成した、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)(三菱樹脂株式会社製、K604E 4.5W)を用意した。ついで、熱転写シート基材101の裏面に、下記組成の耐熱滑性層組成物をグラビアコーティングにより、乾燥後の塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥することで、耐熱滑性層103を形成した。なお、乾燥条件は、塗布速度100m/min、最大乾燥温度110℃とした。その後、50℃で5日間の硬化を行った。
【0082】
ついで、熱転写シート基材101の表面に、下記組成の染料層組成物をグラビアコーティングにより、乾燥厚0.5μmになるように塗布、乾燥することで、染料層107を形成した。ここで、乾燥条件は、塗布速度100m/min、最大乾燥温度110℃とした。その後、50℃で5日間の硬化を行った。これにより、熱転写シート10が形成される。
【0083】
○耐熱滑性層組成物
ポリビニルアセタール樹脂 3.0部
(積水化学工業製 エスレックBX−1)
ポリイソシアネート 2.0部
(日本ポリウレタン製 コロネートL )
リン酸エステル 1.0部
(プライサーフA208S 第一工業製薬製)
メチルエチルケトン 47.0部
トルエン 47.0部
【0084】
○染料層組成物
染料(質量比 a:b=2:1) 5部
ポリビニルアセタール樹脂 5−x部
非晶性飽和ポリエステル樹脂 x部
トルエン 45部
メチルエチルケトン 45部
【0085】
本実施例及び比較例では、染料、ポリビニルアセタール樹脂、非晶性飽和ポリエステル樹脂、及びxの値(非晶性飽和ポリエステル樹脂の質量部の値)を変えて、複数の熱転写シートを形成した(実施例1〜15、比較例1〜16)。各実施例及び比較例と染料等との関係を、以下の表1に示す。
【0086】
表1に示すように、各実施例及び比較例では、染料51〜55が使用される。製造した各熱転写シート10の染料層は、染料a及び染料bの2種類の染料を用いて形成され、これら2種類の染料の質量比a:bは、2:1である。本実施例で使用した染料a及び染料bは、以下の構造式(51a)〜(55b)で示される化合物である。例えば、染料51に含まれる染料aは、構造式(51a)で示されるものであり、染料51に含まれる染料bは、構造式(51b)で示されるものである。
【0087】
ここで、構造式(51a)及び構造式(51b)の2種類の染料を用いて形成された染料層、構造式(52a)及び構造式(52b)の2種類の染料を用いて形成された染料層、並びに、構造式(53a)及び構造式(53b)の2種類の染料を用いて形成された染料層は、それぞれシアンの色相を有する染料層である。また、構造式(54a)及び構造式(54b)の2種類の染料を用いて形成された染料層は、マゼンダの色相を有する染料層である。また、構造式(55a)及び構造式(55b)の2種類の染料を用いて形成された染料層は、イエローの色相を有する染料層である。
【0088】
【化1】

【0089】
【化2】

【0090】
【化3】

【0091】


【0092】
【化5】

【0093】
【化6】

【0094】
【化7】

【0095】
【化8】

【0096】
また、各実施例及び比較例では、ポリビニルアセタール樹脂A〜Cが使用される。ポリビニルアセタール樹脂Aは、デンカブチラール#6000−ASであり、ポリビニルアセタール樹脂Bは、デンカブチラール#6000−CSであり、ポリビニルアセタール樹脂Cは、エスレックKS−1である。
【0097】
ここで、デンカブチラール#6000−ASは、ポリビニルアセトアセタールからなる樹脂であり、デンカブチラール#6000−CSは、ポリビニルブチルアセタール樹脂及びポリビニルアセトアセタール樹脂からなる樹脂であり、エスレックKS−1は、ポリビニルアセトアセタール樹脂からなる樹脂である。
【0098】
また、デンカブチラール#6000−ASのガラス転移温度は110℃であり、デンカブチラール#6000−CSのガラス転移温度は95℃であり、エスレックKS−1のガラス転移温度は107℃である。
【0099】
【表1】

【0100】
<保存方法について>
実施例1〜15、比較例1〜16で製造された熱転写シート10を、公知の製品と同様に小巻し、温度45℃、湿度50%の環境下で、336時間(すなわち2週間)保存した。
【0101】
<印画方法について>
保存前及び保存後の熱転写シート10のそれぞれについて、以下の方法により印画を行った。すなわち、熱転写シート10及び純正メディア(ソニー株式会社製 UPC−R204)の被転写シートをプリンタ(ソニー株式会社製 UP−DR200)にセットし、16階調の印画パターンで印画を行った。印画は、温度23℃、湿度50%の環境下で行われた。
【0102】
<評価>
実施例1〜15、比較例1〜16で製造された熱転写シート10の各々について、色差△E、カブリの度合い、染料層107の結晶化の度合い及び染料層107の面荒れの度合いを評価した。
【0103】
[色差ΔE]
まず、上記の印画により得られた印画物の同一印画部分におけるL測色値を、上記環境下での保存の前後それぞれで測色色差計(マクベスグレタグ社製 SPM100−II)を用いて測定した。さらに、得られた測色値と、以下の式(1)とに基づいて、色差△Eを算出した。色差△Eが大きいほど、熱転写シート10の経時変化が進んでいると評価される。
【0104】
【数1】

【0105】
ここで、式(1)において、L値の隣に付された数字「0」は、保存前のL測色値であることを示しており、数字「1」は、保存後のL測色値であることを示している。
【0106】
[カブリの度合い]
「カブリ」とは、本来発色がない部分(白地の部分)に発色が生じることである。従って、16階調の1段階目から発色してしまっている場合に、「カブリ」が発生したと評価した。上記から明らかなように、カブリの度合いが小さいほど、印画物の品質が高くなる。そこで、本実施例では、カブリの度合いを以下のように評価した。
【0107】
すなわち、保存前の熱転写シート10を用いた印画物について、16階調の1段階目の印画部分(白地部分)の反射濃度を上記の測色色差計を用いて測定し、ポリビニルアセタール樹脂単独を用いて形成した熱転写シートの反射濃度と比較して、以下のようにカブリの度合いを評価した。
【0108】
○:保存前の評価対象の反射濃度の値が、ポリビニルアセタール樹脂単独の場合に比べて0.02未満だけ増加している。
△:保存前の評価対象の反射濃度の値が、ポリビニルアセタール樹脂単独の場合に比べて0.02以上0.04未満だけ増加している。
×:保存前の評価対象の反射濃度の値が、ポリビニルアセタール樹脂単独の場合に比べて0.04以上増加している。
【0109】
[染料層の結晶化の度合い]
染料層107の結晶化が進むほど印画物の品質が低下し、熱転写シート10は経時変化していると判断できる。本実施例では、保存後の熱転写シート10の染料層107を顕微鏡観察し、結晶化の度合いを以下のように評価した。
【0110】
○:染料が結晶化していないもの
△:染料の結晶化が始まっているもの
×:結晶が拡大しているもの
【0111】
[染料層の面荒れの度合い]
染料層107の面荒れが大きいほど印画物の品質が低下し、熱転写シート10は経時変化していると判断できる。本実施例では、保存前の熱転写シート10について染料層の表面状態を目視観察し、ポリビニルアセタール樹脂単独を用いて形成した熱転写シートと比べて光沢がどのように変化しているかを判断した。この際、以下の基準に則して、染料層の面荒れの度合いを評価した。
【0112】
○:染料層の光沢に変化はない
△:光沢が明らかに低下している
×:光沢が無くなっている(完全に無光沢化している)
【0113】
以上のようにして実施した評価の結果を、以下の表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
保存による印画色相変化の抑制効果は、用いる染料の色相によっても異なるため、使用した染料ごとに比較を行った。すなわち、表2に示した結果について、染料及びポリビニルアセタール樹脂の組み合わせが同じ実施例と比較例とを、互いに比較した。表2に示されるように、ポリビニルアセタール樹脂単独で染料層を形成した比較例と比べて、特定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と非晶性飽和ポリエステルとの質量比が95:5〜70:30の範囲内の値となる場合に、色差△Eが低くなっていることがわかる。さらに、非晶性飽和ポリエステルのガラス転移温度や数平均分子量が上述した範囲内となる場合、結晶化の度合い、カブリの度合い及び面荒れの度合いがいずれも低くなっていることがわかる。
【0116】
以上により、本発明の実施形態によれば、ポリビニルアセタール樹脂と非晶性飽和ポリエステル樹脂との質量比を95:5〜70:30の範囲内の値とすることにより、色差△Eの値を低く抑えることができる。すなわち、本発明の実施形態によれば、染料層107の経時変化を抑制することができる。
【0117】
さらに、非晶性飽和ポリエステルのガラス転移温度が40〜70℃の範囲内の値となり、数平均分子量が8000〜25000の範囲内の値とすることにより、結晶化の度合い、カブリの度合い及び面荒れの度合いがいずれも好ましい値となる。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0119】
10 熱転写シート
101 熱転写シート基材
103 耐熱滑性層
105 プライマー層
107 染料層
109 ラミネート層
151 離型性層
153 転写物被覆層
155 保護層
157 接着層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に設けられた、所定の色相を有する染料とバインダ樹脂とを少なくとも含む染料層を備え、
前記バインダ樹脂は、所定のガラス転移温度を有するポリビニルアセタール樹脂と、非晶性飽和ポリエステル樹脂との混合物を含み、
前記ポリビニルアセタール樹脂と前記非晶性飽和ポリエステル樹脂との質量比は、95:5〜70:30である、熱転写シート。
【請求項2】
前記非晶性飽和ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が40℃〜70℃であり、数平均分子量が8000〜25000である、請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記染料層は、前記ポリビニルアセタール樹脂として、ガラス転移温度が90〜110℃である、ポリビニルアセトアセタール樹脂又はポリビニルアセトアセタール/ポリビニルブチルアセタール共重合体を含む、請求項1又は2に記載の熱転写シート。


【図1】
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