説明

熱転写リボン

【目的】 熱溶融転写記録に使用する熱転写リボンとして、表面平滑性の低い記録紙に高速印字する場合にも、ボイドのない良好な印字品質が得られるようにする。
【構成】 熱溶融転写記録に使用する熱転写リボン11が、基材1、熱溶融性インク層3、熱溶融性インク層3上に積層したトップコート層5からなり、トップコート層5は、転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、サーマルヘッド等を用いる熱転写記録に有用な熱転写リボンに関する。
【0002】
【従来の技術】熱転写記録方法は、使用する装置が軽量かつコンパクトで騒音が少なく、比較的低価格で得られ、操作性、保守性にも優れ、さらに記録画像の耐久性も良好であることから、近年、コンピューターの端末等のプリンター、ワードプロセッサー、ファクシミリ、複写機等の記録方法として広く用いられている。
【0003】熱転写記録方法のうち熱溶融転写記録方法と称される方法においては、一般に図2に示すように、熱転写記録媒体として、シート状の基材1の片面にプライマー層2、インク層3を順次積層させ、基材1の他方の面にバックコート層4を積層させた熱転写リボン10を使用する。そして、この熱転写リボン10のバックコート層4側からサーマルヘッド等の発熱素子を用いてインク層3を加熱溶融させ、記録紙等の被転写体にインクを移行させて転写画像を形成する。なお、ここでプライマー層2は、転写画像のエッジの切れ性を改善して印字品質を向上させ、そして基材1に対するインク層3の接着性も向上させるために設けられており、またバックコート層4は、熱転写リボンのスティッキングを防止し、スムーズな走行を確保するために設けられている。
【0004】しかし、このような熱転写リボン10を使用して記録紙に熱転写を行うと、その記録画像の品質は記録紙の表面平滑性により著しく異なるという問題があった。すなわち、表面平滑性が高い記録紙に印字する場合には良好な印字品質が得られるが、ラフ紙のように表面平滑性が低い記録紙に印字する場合には、ボイドが生じて印字品質は著しく低下したものとなる。これは、表面平滑性の低い記録紙として、例えばベック平滑度30秒程度の紙の場合、その表面凹凸の凸部と凹部との段差は10μmに及び、隣接する凸部と凸部との間隔は長いもので100μm程度となるが、一方、熱転写リボン10のインク層3の厚さは4μm程度であるため、記録紙の表面の凹部を転写したインクで十分に充すことができないためである。
【0005】そこでこのような問題に対して、従来より、熱転写リボン10のインク層3の厚みを厚くし、記録紙の凹部にインクが充されるように転写させようとすることが試みられている。
【0006】また、インクの記録紙に対する接着力を高めるために、インク層の上にポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の転写時に熱溶融する熱可塑性樹脂からなるトップコート層を設けることも試みられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、表面平滑性が低い記録紙に対する印字品質を向上させるため、熱転写リボン10のインク層3の厚みを厚くすると、転写時のインク層の切れ性が低下し、鮮明な転写画像が得られなくなるという問題が生じ、さらに、サーマルヘッドから供給する熱エネルギーを通常よりも大きくすることが必要となるので実用的でないという問題も生じた。
【0008】また、熱転写リボン10のインク層3上に転写時に熱溶融する熱可塑性ポリエステル樹脂等からなるトップコート層を設ける方法によっても、表面平滑性が低い記録紙に対する印字品質を十分に向上させることはできないという問題があった。
【0009】この発明は以上のような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、表面平滑性が低い記録紙に対しても優れた印字品質で転写画像を形成することのできる熱転写リボンを得られるようにすることを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】この発明者は、熱転写リボンのインク層上に設けるトップコート層として、転写時にトップコート層を形成していた樹脂が記録紙の表面凹部を蓋して覆うようにすれば印字品質を改善できること、特にこのようなトップコート層として、転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂からなる層を形成すれば印字品質を著しく改善できることを見出し、この発明を完成させるに至った。
【0011】すなわち、基材およびその上に積層した熱溶融性インク層からなる熱転写リボンにおいて、該熱溶融性インク層上に、転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂からなるトップコート層が形成されていることを特徴とする熱転写リボンを提供する。
【0012】図1は、この発明の実施例の熱転写リボン11の断面図である。同図の熱転写リボン11は、従来例と同様にシート状の基材1の片面にプライマー層2、インク層3が順次積層し、基材1の他方の面にはバックコート層4が積層しているが、さらにインク層3上にはトップコート層5が積層したものとなっている。
【0013】この発明において、このようなトップコート層5は、転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂からなる。ここで転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂としては、例えばニトリルゴムを使用することができる。この場合、ニトリルゴムとしては、良好な印字濃度を保持し、転写性を向上させる点から、ニトリル量15〜55重量%のものがトップコート層中15〜30重量%含まれるようにすることが好ましい。
【0014】また、粘着付与性樹脂としては種々のものを使用でき、例えばテルペン樹脂、ロジン樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂等を使用することができる。この場合、軟化点(SP)が80〜130℃のものが70〜85重量%含まれるようにすることが好ましい。軟化点70℃程度の樹脂を含有させると保存性(保存評価60℃)の点から好ましくなく、また軟化点が高い樹脂を過度に多く含有させると転写性が低下するので好ましくない。
【0015】トップコート層5は、このようなエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂の他にブロッキング防止剤としてワックス等を含有することができ、その他種々の添加剤も含有することができる。
【0016】トップコート層5の形成方法は、常法によりエラストマー樹脂や粘着付与性樹脂を溶媒等と混合し、インク層3上に厚さ0.1〜5μm程度塗布すればよい。この場合、溶媒としては塗布時にインク層3を溶解しないものを使用することが好ましく、例えばMEK、MIBK等のケトン系溶媒、アルコール系溶媒、水系溶媒を使用することが好ましい。
【0017】この発明の熱転写リボン体は、トップコート層5を上記のように形成する限り他の構成要素については従来例と同様にすることができる。すなわち、シート状の基材1としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンフタレート、トリアセチルセルロース、ポリアミド、ポリイミド等の比較的耐熱性の良好なプラスチックフィルム、セロハン、硫酸紙、コンデンサーペーパー等から形成することができる。その厚さは通常2〜10μmとすることが好ましい。
【0018】プライマー層2は転写時のインク層の切れ性を良好にし、印字品質を向上させるため、あるいは基材1に対するインク層3の接着性を良好にするため、必要に応じて設けられる。この層はポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム等のエラストマー類等から形成することができる。また、この層の厚さは通常0.1〜3μmとすることが好ましい。
【0019】インク層3は、顔料や染料の着色剤をバインダーに分散させた熱溶融性インクを、常法により通常厚さ1〜10μm塗布することにより形成することができる。この場合、顔料としては、カーボンブラックや種々の有機顔料あるいは無機顔料を使用することができ、インク中の顔料の含有量は80重量%以下とすることが好ましい。また、バインダーとしては、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、ラノリンワックス、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、セレシンワックス等の天然系ワックス、酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、天然ゴム等を使用することができ、この他、可塑剤、分散剤等の添加剤も使用することができる。また、インクは融点50〜120℃、粘度100〜10000cps(140℃)のものを使用することが好ましい。
【0020】バックコート層4は、熱転写リボンのスティッキングを防止し、スムーズな走行を確保するため必要に応じて設けられる。この層はシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース等の耐熱性に優れた樹脂から形成することができる。また、この層の厚さは通常0.1〜1μmとすることが好ましい。
【0021】
【作用】この発明の熱転写リボンには、熱溶融性インク層上にエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂からなるトップコート層が形成されており、このエラストマー樹脂は転写時に熱溶融しないものからなるので、従来の熱可塑性樹脂からなるトップコート層を設けた熱転写リボンに比べて、高速転写時にボイドがなく、エッジの切れ性もよく、高い印字品質の転写画像を得ることが可能となる。すなわち、従来の熱可塑性樹脂からなるトップコート層は、転写時にサーマルヘッドからの熱供給量が多くなると軟化するのでトップコート層内部の凝集力が著しく低下する。このため、記録紙上に転写したトップコート層はその記録紙表面の凹部を蓋するように覆うことはない。
【0022】これに対してこの発明のトップコート層は転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂からなるので、転写時にトップコート層内部の凝集力が著しく低下することはなく、記録紙上に転写したトップコート層はその記録紙表面の凹部を蓋するように覆うことができる。よって、記録紙上でこのようなトップコート層上に形成されるインク層は、ボイドが発生しないものとなる。
【0023】
【実施例】以下、この発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0024】実施例1〜9、比較例1〜3図1に示した熱転写リボンと同様の層構成の熱転写リボンを、基材として厚さ3.5μmのPETフィルムを使用し、トップコート層の配合を表1のように変え、各層を以下の通りにして作成した。ただし、比較例3ではトップコート層を形成しなかった。また、プライマー層は、実施例1〜2、4〜9、比較例1〜3においては形成せず、実施例3においてのみ形成した。
【0025】
【表1】
配合量(重量部) 実 施 例 比較例 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3トップコート層 ニトリルゴム*1 15 20 20 30 20 20 20 20 ニトリルゴム*2 20 テルペンフェノール*3 85 80 80 70 70 80 100 80 テルペンフェノール*4 10 30 スチレン系樹脂*5 80 70 50 スチレン系樹脂*6 10 熱可塑性エラストマー*7 20 MEK(溶媒) 400 400 400 400 400 400 400 400 400 400 400プライマー層 無 無 有 無 無 無 無 無 無 無 無 無印字評価(印字品質/印字濃度OD) 印字速度30cps,紙*8 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ × 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.0 1.3 1.0 紙*9 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.2 印字速度70cps,紙*8 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × × 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.0 1.0 1.0 紙*9 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ △ 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.2 1.2 1.2 (表1の注)
*1 ニトリルゴム、1022、日本ゼオン製*2 ニトリルゴム、1042、日本ゼオン製*3 テルペンフェノール(軟化点115℃)、T115、安原油脂工業製*4 テルペンフェノール(軟化点130℃)、T130、安原油脂工業製*5 スチレン系樹脂(軟化点95℃)、FTR6100、三井石油化学製*6 スチレン系樹脂(軟化点125℃)、FTR7125、三井石油化学製*7 ポリエステルエラストマー(軟化点112℃)、UE3221、ユニチカ製*8 表面の粗い紙(ベック平滑度30秒)
*9 表面の平滑な紙(ベック平滑度200秒)
インク層の配合 カーボン(モナーク120、キャボット社製) 20重量% パラフィンワックス(HNP10、日本精蝋製) 70重量% EVA(KC10、住友化学製) 5重量% 分散剤(ディスパランOF14、吉川製油製) 5重量%プライマー層の配合 ポリアミド樹脂(バーサシド335、ヘンケル白水製) 2重量% トルエン 50重量% イソプロピルアルコール 48重量%バックコート層の配合 アクリルシリコン(US290、東亜合成化学製) 12重量% イソシアネート(硬化剤) 1重量% トルエン 50重量% MEK 37重量%評価得られた熱転写リボンを使用して、表面の粗い紙(ベック平滑度30秒)と表面の平滑な紙(ベック平滑度200秒)のそれぞれに印字速度30cps(キャラクター/秒)と印字速度70cpsの2通りの印字速度で印字し、得られた印字の品質と濃度を次のような評価基準により評価した。なおこの場合、プリンターとしては印字速度30cpsで印字するときはソニー製RJ555を使用し、70cpsで印字するときは東芝製Rupo90を使用し、いずれも印字濃度は標準に設定した。また、印字濃度の測定機としてはマクベス製TR924を使用した。結果を表1に示した。
【0026】印字評価基準印字品質(印字パターン:キャラクターANK)
○…転写性良好、ボイド無、エッジのシャープ性良好△…転写性多少劣る、ボイド少しあり、エッジのシャープ性劣る×…転写性劣る、ボイドあり、エッジのシャープ性劣る印字濃度(印字パターン:ベタ) 光学密度O.D.
表1から、トップコート層を形成しないと(比較例3)、印字品質、印字濃度が著しく劣ること、エラストマー樹脂を含有させることなく粘着付与性樹脂からトップコート層を形成すると(比較例1)、粗い紙に印字した場合、印字速度を速くした場合に印字品質、印字濃度が劣ること、また、トップコート層を熱可塑性エラストマーから形成すると(比較例2)、印字速度が遅い場合には印字品質、印字濃度が良好であるが、印字速度が速くなると印字品質、印字濃度が低下すること、これに対してこの発明の実施例は印字速度が遅い場合だけでなく速い場合も印字品質、印字濃度が優れていることが確認できた。またこの実施例において、トップコート層中のニトリルゴムの量が15〜30重量%で良好な印字が得られることも確認できた。
【0027】
【発明の効果】この発明の熱転写リボンによれば、表面平滑性が高い記録紙だけでなく低い記録紙に対しても、また低速印字する場合だけでなく高速印字する場合でも、優れた印字品質および印字濃度で転写画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例の熱転写リボンの断面図である。
【図2】従来の熱転写リボンの断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 プライマー層
3 インク層
4 バックコート層
5 トップコート層
10 熱転写リボン
11 熱転写リボン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材およびその上に積層した熱溶融性インク層からなる熱転写リボンにおいて、該熱溶融性インク層上に、転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂と粘着付与性樹脂からなるトップコート層が形成されていることを特徴とする熱転写リボン。
【請求項2】 該トップコート層が、転写時に熱溶融しないエラストマー樹脂として、ニトリルゴムを15〜30重量%含む請求項1記載の熱転写リボン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−294079
【公開日】平成5年(1993)11月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−128193
【出願日】平成4年(1992)4月21日
【出願人】(000108410)ソニーケミカル株式会社 (595)