説明

熱転写両面受像シート

【課題】一方の面と他方の面の熱転写濃度(感度)がほとんど差が見られない、熱転写両面受像シートを提供する。
【解決手段】基材11と、前記基材上の両面に、クッション層12.15と、断熱層13.16と、受容層14.17とをこの順に有してなる、熱転写両面受像シート10において、前記の断熱層は、中空粒子を含み、前記のクッション層は、ガラス転移温度が20〜60℃のビニル系樹脂から選択された1種又は2種以上の材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写両面受像シートに関し、詳しくは、熱転写両面受像シートの一方の面と他方の面との熱転写濃度(感度)の差が低減されており、さらに環境への影響を配慮した熱転写両面受像シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の印字方法が知られているが、その中でも熱拡散型転写方式(昇華型熱転写方式)は、昇華性染料を色材としているため、濃度階調を自由に調節でき、中間色や階調の再現性にも優れ、銀塩写真に匹敵する高品質の画像を形成することができる。
【0003】
この熱拡散型転写方式とは、色素(昇華性染料)を含有する熱転写インクシートと熱転写受像シートとを重ね合わせ、次いで、電気信号によって発熱が制御されるサーマルヘッドによってインクシートを加熱することでインクシート中の色素を受像シートに転写して画像情報の記録を行うものである。
【0004】
上記のような受像シートとして、樹脂を有機溶剤に溶解または分散させた塗工液を用いて染料受容層を形成したような、いわゆる「溶剤系の受像シート」と、樹脂を水系の溶媒に溶解または分散させた塗工液を用いて染料受容層を形成したような、いわゆる「水系の受像シート」が知られている。特に、廃液等の処理による環境への影響等の問題から、近年では、有機溶剤を使用しない水系の受像シートが注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1で提案されているように、基材上に、中空粒子とバインダとを含有する多孔質層と、受容層とが形成された熱転写受像シート、が知られている。特許文献1では、熱転写濃度(感度)を高めつつ、多孔質層の凝集破壊を抑制する事を目的としており、中空粒子の添加量が異なった2層の多孔質層を有する熱転写受像シートを提案している。
【0006】
ところで、熱拡散型転写方式の用途の一つとして、フォトブックが知られている。フォトブックとは、印画紙に記録された写真が表紙と一体になって綴じられた冊子である。また、フォトブックの製造に適した熱転写受像シートとして、基材の両面に受容層が形成された熱転写両面受像シートが知られている。
【0007】
このようなものとして、特許文献2で提案されているように、基材の両面に断熱層と受容層を備えた熱転写受像シートが知られている。
【0008】
熱転写両面受像シートを用いた画像の形成は、最初に一方の面に画像を形成し、その後に他方の面に画像を形成することによって行なう。この画像形成は、熱転写両面受像シートと熱転写シートとを、サーマルヘッドと呼ばれる発熱部材とプラテンローラーで挟持しつつ、サーマルヘッドを発熱させることによって行なう。
【0009】
多孔質層などに含まれる中空粒子は、圧力や熱が付与されると、その一部が潰れてしまい、本来の断熱性を失う可能性がある。熱転写両面受像シートを用いた画像の形成においては、一方の面に画像を形成する際には、他方の面にも圧力や熱が付与される。これによって他方の面では、画像形成の前に、多孔質層などに含まれる中空粒子の一部が潰れる虞がある。このために、他方の面では画像を形成する前に断熱性が低下し、一方の面と比較して熱転写濃度(感度)が低くなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−83050号公報
【特許文献2】特開2009−56598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、一方の面と他方の面の熱転写濃度(感度)に、ほとんど差が見られない熱転写両面受像シート、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため、基材と、前記基材上の両面に、クッション層と、断熱層と、受容層とをこの順に有してなる熱転写両面受像シートにおいて、特定の樹脂からなるクッション層を形成することによって上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の一態様は、基材と、前記基材上の両面に、クッション層と、断熱層と、受容層とをこの順に有してなる、熱転写両面受像シートにおいて、前記の断熱層は、中空粒子を含み、前記のクッション層は、ガラス転移温度が20〜60℃のビニル系樹脂から選択された1種又は2種以上の材料からなる、ことを特徴とする、熱転写両面受像シート、である。
【0014】
前記の断熱層と前記の受容層との間に中間層を有し、前記の中間層は、ガラス転移温度が70〜90℃である塩化ビニル樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合樹脂又は塩化ビニルーアクリル共重合樹脂、から選択された1種又は2種以上の材料からなる、ものであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一方の面と他方の面の熱転写濃度(感度)にほとんど差が見られない熱転写両面受像シート、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による熱転写両面受像シートの一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明による熱転写両面受像シートの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
熱転写両面受像シート
本発明の熱転写両面受像シートは、基材と、該基材の両面上にクッション層と、断熱層と、受容層とをこの順に有してなるものである。好ましい態様では、熱転写両面受像シートは、断熱層と受容層の間に、プライマー層や中間層をさらに有してもよい。
【0018】
本発明の一態様によれば、基材上の両面に、断熱層と、受容層とをこの順に有してなる熱転写両面受像シートが提供される。具体的に、本発明による熱転写両面受像シートの一例の模式断面図を図1に示す。図1に示される熱転写両面受像シート10は、基材11と、該基材11上の一方の面にクッション層12と断熱層13、及び受容層14、他方の面にクッション層15と断熱層16、及び受容層17を、この順に有してなるものである。
【0019】
本発明による熱転写両面受像シートの、別の一例の模式断面図を図2に示す。図2に示される熱転写両面受像シート100は、基材101と、該基材101上の一方の面にクッション層102と、断熱層103と、中間層104及び受容層105、他方の面にクッション層106と、断熱層107と、中間層108及び受容層109を、この順に有してなるものである。これによって、一方の面と他方の面の熱転写濃度(感度)差を、さらに低減することができる。
【0020】
基材
本発明における基材は、受容層を保持するという役割を有するとともに、熱転写時には熱が加えられるため、加熱された状態でも取り扱い上支障のない程度の機械的強度を有する材料であることが好ましい。
【0021】
このような基材の材料としては、例えば、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、またはサイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙等、セルロース繊維紙、あるいはポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン等のフィルムが挙げられ、また、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムも使用でき、特に限定されない。また、上記基材の任意の組み合わせによる積層体も使用できる。代表的な積層体の例として、セルロース繊維紙と合成紙或いはセルロース合成紙とプラスチックフィルムとの合成紙が挙げられる。本発明においては、市販の基材を用いることもでき、例えば、RCペーパー(三菱製紙(株)製)等が好ましい。なお、基材の厚みは、熱転写両面受像シートに要求される強度や耐熱性等や、基材として採用した素材の材質に応じて、適宜変更可能であり、具体的に、基材の厚みは、50μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、100μm〜300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0022】
断熱層
本発明における断熱層は、熱転写による画像形成時に加えられた熱が、基材等への伝熱によって損失されることを防止できる断熱性やクッション性を有するものである。本発明における断熱層は、中空粒子を含むものであり、下記の親水性バインダー、およびその他の添加剤をさらに含んでもよい。断熱層は、中空粒子を含むことにより、クッション性を備えることができる。また、好ましい態様によれば、断熱層は2層以上からなるものであってもよい。このように断熱層を2層以上設けることで、印画品質に影響する断熱性およびクッション性と、基材への密着性とを改善することができる。ここで、断熱層のクッシ
ョン性の程度は、熱転写両面受像シートの用途等に応じて適宜調整することができるものである。なお、断熱層のクッション性の程度についても、例えば、断熱層の厚みを変更することにより任意の範囲に調整することができる。断熱層の厚みは、断熱性、クッション性等を所望の程度に調整できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、10μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜50μmの範囲内であることがより好ましい。また、断熱層の密度は、例えば0.1g/cm3〜0.8g/cm3の範囲内、なかでも0.2g/cm3〜0.7g/cm3の範囲内であることが好ましい。
【0023】
(中空粒子)
本発明で用いる中空粒子の体積平均粒径は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.3〜5μmである。中空粒子の体積平均粒径が、上記範囲程度であれば、断熱性およびクッション性を断熱層に与えることができる。また、中空粒子の平均中空率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30〜80%である。中空粒子の平均中空率が、上記範囲程度であれば、断熱性およびクッション性を断熱層に与えることができる。さらに、樹脂等から構成される有機系中空粒子であってもよく、ガラス等から構成される無機系中空粒子であってもよい。また、上記中空粒子は、架橋中空粒子であってもよい。本発明においては、市販の中空粒子を用いることもでき、例えば、HP−1055、HP−91、およびローペイクSE(ロームアンドハース(株)製)、ならびにMH−5055(日本ゼオン)等が好ましい。
【0024】
なお、上記の架橋中空粒子の「平均粒子径」は、「体積平均粒子径」であり、例えば、以下のようにして求めることができる。中空粒子を水中に分散させてなる水分散体を調整し、この中空粒子の水分散体のものを乾燥させて乾燥体となし、その後に透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製)にて乾燥体における中空粒子をなす粒子(100個)を観察して、個々の粒子についてその外面側の直径(外径)を計測し、それらの値を平均して平均粒子径とした。また、「平均中空率」は以下のようにして求めることができる。中空粒子を水中に分散させてなる水分散体を調整し、この中空粒子の水分散体のものを乾燥させて乾燥体となし、その後に透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製)にて乾燥体中における中空粒子をなす粒子(100個)を観察して、個々の粒子についてその内面側の直径(内径)を計測し、それらの値を平均して平均粒子内径とした。そして、平均粒子内径から中空部の体積を定めるとともに、その値を上記平均粒子径から粒子の見掛けの体積で除して100を乗じることで平均中空率を算出した。
【0025】
(親水性バインダー)
本発明の好ましい態様によれば、断熱層および下記のプライマー層や中間層等に含まれる親水性バインダーとしては、ゼラチンおよびその誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオイキサイド、ポリビニルピロリドン、プルラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、ポリアクリル酸およびその塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、カゼイン、キサンテンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、ならびにアラビアゴムを挙げることができ、特にゼラチンが好ましい。このような親水性バインダーを用いることで、断熱層および中間層等の各層の層間接着性を向上させることができる。特に、水系塗布および同時重層塗布方式により各層を形成する場合には、ゼラチンを用いることで、塗布適性の向上ができる。また、各塗布液の粘度を所望の範囲に調整し、所望の膜厚を得ることができる。本発明においては、市販のゼラチンを用いることもでき、例えば、RR、R、およびCLV(新田ゼラチン(株)製)等が好ましい。
【0026】
受容層
本発明における受容層は、熱転写による画像形成時に熱転写インクシートから転写される昇華性染料を受容するとともに、受容した昇華性染料を受容層に保持することで、受容層の面に画像を形成かつ維持することができる。本発明においては、受容層は、熱可塑性樹脂を含むものであり、離型剤を含む事が好ましい。これによって、印画時に熱転写シートとのあいだで熱融着することを防止できる。
【0027】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂とは、熱転写インクシートから転写される昇華性染料を受容できるポリマーのことである。本発明では、溶剤系樹脂を熱可塑性樹脂として使用できる。これによって、熱可塑性樹脂を分散させた溶剤系溶液を調整し、この溶剤系溶液を使用して熱可塑性樹脂を分散させた、水系分散塗工液を調整する事ができる。
【0028】
溶剤系樹脂とは、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、トルエンやベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒およびそれらの混合物を主成分とする溶媒に溶解するポリマーのことである。このようなものとして、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などのビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びこれらの共重合体を、好ましく用いる事ができる。熱転写シートからの染料受容能力が高いという観点から、ビニル系樹脂とポリエステル系樹脂が特に好ましい。熱転写シートとの熱融着が起こりにくい観点から、ビニル系樹脂がさらに好ましい。
【0029】
(離型剤)
本発明の好ましい態様によれば、受容層は、離型剤をさらに含んでもよい。受容層用塗布液の調製においては、溶剤系溶液に含まれてもよい。離型剤としては、溶剤系シリコーンやフッ素系界面活性剤を挙げることができ、特に溶剤系シリコーンが好ましい。溶剤系シリコーンとしては、ジメチルシリコーン等の各種の変性シリコーンを用いることができる。具体的には、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、ウレタン変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーン、アミド変性シリコーン等を用い、これらを混合して用いたり、各種の反応を用いて重合させて用いたりすることもできる。また、2種以上の離型剤を混合して用いてもよい。このような離型剤を含む水系分散塗布液を用いて受容層を形成することで、印画時に熱転写インクシートと熱転両面写受像シートの受容層との融着および印画感度低下などの問題を改善することができる。本発明においては、市販の溶剤系離型剤を用いることもでき、例えば、信越化学工業株式会社製のX−22−163、X−22−173D、X−22−343、X−22−2000、X−22−3000T、KF−101、KF−102、KF−1001、KF−1002、KP―1800U、X−22−4015、X−22−1660B、X−22−160ASD、KF−410等が好ましい。
【0030】
クッション層
本発明におけるクッション層は、画像形成の際に熱転写両面受像シートに負荷される圧力と熱によって中空粒子が潰れること、を低減するものである。本発明においてクッション層は、ガラス転移温度(Tg)が20〜60℃であるのビニル系樹脂から選択された1種又は2種以上の材料からなるものである。クッション層に含まれる樹脂のTgが20℃以上であれば、中空粒子の潰れを低減する事ができ、60℃以下であれば、印画物の高温環境下での保存によって発生する画像の『にじみ』を低減する事ができる。なお、Tgは示差走査熱量測定(DSC)によって測定した値である。
【0031】
上記のようなTgを有することによって、中空粒子の潰れが低減できる理由は、詳細には不明であるが、おおよそ以下の通りであると推測している。すなわち、中空粒子を構成する樹脂のTgと比較して、クッション層を構成する樹脂のTgが低ければ、中空粒子に負荷された圧力や熱をクッション層で和らげる事ができる。これによって、中空粒子が潰れることを低減することができる。
【0032】
クッション層に含まれる樹脂は、、例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、及びこれらの共重合体、などのビニル系樹脂を用いることができる。基材と断熱層との接着性の観点から、塩化ビニル樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニルーアクリル共重合樹脂が、特に好ましい。本発明においては市販の樹脂を用いることもでき、例えば、日信化学工業株式会社製のビニブラン278(Tg30℃)、ビニブラン711(Tg30℃)、ビニブラン721(Tg40℃)、ビニブラン603(Tg60℃)、ビニブラン690(Tg45℃)、ビニブラン902(Tg60℃)、ビニブラン603S(Tg45℃)、ビニブラン603SA(Tg45℃)、ビニブラン603VS(Tg20℃)等が好ましい。
【0033】
クッション層の厚みは、クッション性等を所望の程度に調整できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、1μm〜5μmの範囲内であることがより好ましい。
【0034】
中間層
本発明において、中間層は、画像形成の際に熱転写両面受像シートに負荷される圧力と熱によって中空粒子が潰れることをさらに低減する、任意の構成要件である。本発明において中間層は、ガラス転移温度が70〜90℃である塩化ビニル樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合樹脂又は塩化ビニルーアクリル共重合樹脂、から選択された1種又は2種以上の材料からなるものである。中間層に含まれる樹脂のTgが70℃以上であれば、中空粒子の潰れを低減する事ができ、Tgが90℃以下であれば、印画時の『ざらつき』を低減することができる。『ざらつき』とは印画物の発色ムラのことであり、熱転写両面受像シートとサーマルヘッドのと接触が不均一な場合に発生するものである。なお、Tgは示差走査熱量測定(DSC)によって測定した値である。
【0035】
上記のようなTgを有することによって、中空粒子の潰れが低減できる理由は、詳細には不明であるが、おおよそ以下の通りであると推測している。昇華型熱転写方式においては、イエロー、マゼンタ、シアンの順に3回の印画(加熱)を行なうことによって、画像が形成される。この印画時に負荷される熱と圧力によって、一部の中空粒子が潰れている。例えば、マゼンタを第一色目として印画した時と比較して、イエローを印画した後にマゼンタを印画した時は、その熱転写感度が低下する。特に受容層が印画(加熱)によって軟化すると、中空粒子が受ける熱と圧力はサーマルヘッドとの接触部分付近でのみ局所的に大きくなり、中空粒子が潰れる程度が増加する。受容層を構成する樹脂と比較して高いTgを有する中間層を設けた場合は、中間層が中空粒子の保護層として機能し、負荷される熱と圧力を、ある程度の面積を持った範囲に分散して受けることができる。これによって一部の中空粒子に対してのみ、局所的に大きな負荷がかかることを抑制し、中空粒子の潰れを低減することができる。
【0036】
中間層に含まれる樹脂は、例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、などのビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びこれらの共重合体、などを用いることができる。断熱層と受容層との接着性の観点から、塩化ビニル樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニルーアクリル共重合樹脂が、特に好ましい。本発明においては市販の樹脂を用いることもでき、例えば、日信化学工業株式会社製のソルバインC(Tg70℃)、ソルバインCH(Tg73℃)、ソルバインCN(Tg75℃)、ソルバインCNL(Tg76℃)、ソルバインA(Tg76℃)、ソルバインAL(Tg76℃)、ソルバインTA5R(Tg78℃)、ソルバインTA2(Tg70℃)、ソルバインTAO(Tg77℃)、ソルバインTAOL(Tg70℃)、ソルバインM5(Tg70℃)、ソルバインMKF(Tg80℃)、ビニブラン985(Tg80℃)、ビニブラン700(Tg70℃)、ビニブラン701(Tg73℃)、ビニブラン900(Tg70℃)、等が好ましい。
【0037】
中間層の厚みは、所望の程度に調整できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、1μm〜5μmの範囲内であることがより好ましい。
【0038】
熱転写両面受像シートの製造方法
熱転写両面受像シートの各層の塗布には、ロールコート、バーコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ダイコート、スライドコート、およびカーテンコート等の公知の方法を用いることができ、スライドコートやカーテンコート等の複数の層を同時重層塗布できる方法が好ましい。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の熱転写両面受像シートの製造方法は、基材上に受容層や他の層を塗布により形成した後に、セット工程や乾燥工程をさらに経るものであってもよい。本発明でいうセット工程とは、例えば、冷風等を支持体上の塗膜面に吹き付けて温度を下げるなどの手段により、塗膜組成物の粘度を高め、各層間および各層内の物質流動性を鈍化させるゲル化促進の工程をいう。冷風を用いる場合の温度条件としては、25℃以下が好ましく、10℃以下であることがより好ましい。また、塗膜が冷風に晒される時間は、塗布搬送速度にもよるが、10秒以上120秒以下であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。なお、表記の質量部は固形分で記載し、純水を用いて希釈して、各塗布液の全固形分が15〜30%となるように調整した。
実施例1
熱転写両面受像シート1の作製
基材シートとしてRCペーパー(三菱製紙(株)製)を用い、その一方の面に、下記組成の、クッション層塗布液1、断熱層用塗布液1および受容層用塗布液1(水系分散塗布液)を40℃にそれぞれ加熱し、スライドコーティングを用いて、乾燥時の厚みがそれぞれ2μm、12μm、3μmとなるように塗布し、5℃にて30秒間冷却した後、50℃にて2分間乾燥し、熱転写受像シート(層構成:基材/クッション層1/断熱層1/受容層1)を得た。得られた熱転写受像シートの、他方の面に、クッション層1、断熱層用塗布液1および受容層用塗布液1(水系分散塗布液)を上記と同様にして形成し、熱転写両面受像シート1(層構成:受容層1/断熱層1/クッション層1/基材/クッション層1/断熱層1/受容層1)を得た。この熱転写両面受像シートは、図1に示されるような層構成を有していた。
【0041】
クッション用塗布液1の層構成
・ビニブラン278(塩ビ系樹脂、日信化学工業(株)製、Tg30℃) 100質量部
断熱層用塗布液1の組成
・中空粒子(日本ゼオン(株)製、商品名:MH5055、体積平均粒径0.5μm)
70質量部
・ゼラチン(新田ゼラチン(株)製、商品名:RR) 25質量部
・水性ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、商品名:ハイドランAP40)
5質量部
受容層用塗布液1の組成
・塩酢ビ系樹脂(日信化学(株)製、商品名:ソルバインC)
45質量部
・アニオン系乳化剤(アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、花王(株)製、商品名:ペレックス NBL) 2.5質量部
・離型剤(エポキシアラルキル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、商品名:X−22−3000T)
2.3質量部
・純水 270質量部
なお、受容層用塗布液1(水系分散塗布液)は、以下のようにして調製した。まず、下記の組成となるように、水系溶液1および溶剤系溶液1を調製した。この水系溶液1と溶剤系溶液1とを、混合・撹拌した後、ホモジナイザーを用いて分散を行い、溶剤系塩ビ系樹脂を水溶液中に乳化させ、その後、有機溶媒を除去して、水系分散塗布液を調製した。調製した水系分散塗布液の固形分量は、15%であった。この水系分散塗布液が受容層塗布液1の組成となる様に離型剤を配合し、これを受容層用塗布液として用いた。以下、各実施例および比較例においても、同様の方法により受容層用塗布液を調製した。
【0042】
水系溶液1の組成
・アニオン系乳化剤(アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、花王(株)製、商品名:ペレックス NBL) 2.5重量部
・純水 270重量部
溶剤系溶液1の組成
・塩酢ビ系樹脂(日信化学(株)製、商品名:ソルバインC)
45重量部
・酢酸エチル(溶剤) 450重量部
実施例2
受容層塗布液1の組成を、下記の受容層用塗布液2とした以外は、実施例1と同様にして熱転写両面受像シート2を得た。
【0043】
受容層用塗布液2
・塩酢ビ系樹脂、日信化学(株)製、商品名:ビニブラン603)
100質量部
・ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製、商品名:KF−615A)
10質量部
実施例3
クッション層塗布液1組成を、下記のクッション層塗布液2とした以外は、実施例1と同様にして熱転写両面受像シート3を得た。
【0044】
クッション層塗布液2
・ビニブラン603(塩ビ系樹脂、日信化学工業(株)製、Tg60℃) 100質量部
実施例4
クッション層塗布液1組成を、下記のクッション層塗布液3とした以外は、実施例1と同様にして熱転写両面受像シート4を得た。
【0045】
クッション層塗布液3
・ビニブラン690(塩ビ系樹脂、日信化学工業(株)製、Tg45℃) 100質量部
実施例5
断熱層1と受容層1の間に、以下の中間層用塗布液1を、厚みが2μmとなるように形成した以外は、実施例1と同様にして熱転写両面受像シート5を得た。この熱転写両面受像シートは、図2に示されるような層構成を有していた。
【0046】
中間層用塗布液1
・塩ビ系樹脂(日信化学(株)製、商品名:ビニブラン985) 100質量部
実施例6
中間層用塗布液1を、以下の中間層用塗布液2に変更した以外は、実施例5と同様にして熱転写両面受像シート6を得た。
【0047】
中間層用塗布液2
・塩ビ系樹脂(日信化学(株)製、商品名:ビニブラン900) 100質量部
比較例1
クッション層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして熱転写両面受像シート7を得た。
【0048】
(熱転写濃度評価試験)
各実施例、及び比較例の熱転写両面受像シートの一方の面に、シチズンシステムズ社製プリンター(製品名:CW−01)にて、シアンの光学濃度が0.5付近、1.0付近となる様に調整したベタパターンを印画した。その後、他方の面に同じ条件で、同じパターンを印画した。なお光学濃度は、分光測定器SpectroLino(Gretag Macbeth社製、光源:D65、視野角:2°、濃度測定用フィルター:ANSI Status A)で測定した値である。熱転写濃度評価は、一方の面と他方の面に形成された画像濃度を目視にて比較し以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
<評価条件>
◎:画像濃度に差がない。
○:僅かに画像濃度に差がある。
×:画像濃度に差がある。
【0049】
【表1】

表1から明らかなように、本願発明で製造された実施例1〜6の熱転写両面受像シートは、熱転写濃度の差がほとんどみられず、良好な評価結果を得ることができた。一方、比較例1の熱転写両面受像シートは、熱転写濃度の差が発生した。
【符号の説明】
【0050】
10 熱転写両面受像シート
11 基材
12 クッション層
13 断熱層
14 受容層
15 クッション層
16 断熱層
17 受容層
100 熱転写両面受像シート
101 基材
102 クッション層
103 断熱層
104 中間層
105 受容層
106 クッション層
107 断熱層
108 中間層
109 受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上の両面に、クッション層と、断熱層と、受容層とをこの順に有してなる、熱転写両面受像シートにおいて、
前記の断熱層は、中空粒子を含み、
前記のクッション層は、ガラス転移温度が20〜60℃のビニル系樹脂から選択された1種又は2種以上の材料からなる、
ことを特徴とする、熱転写両面受像シート。
【請求項2】
前記の断熱層と前記の受容層との間に、中間層を有し、
前記の中間層は、ガラス転移温度が70〜90℃である、塩化ビニル樹脂、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合樹脂又は塩化ビニルーアクリル共重合樹脂、から選択された1種又は2種以上の材料からなる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の熱転写両面受像シート。

【図1】
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【図2】
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