説明

熱転写受像シート

【課題】 外観上、高い光沢性、高い反射性、高い受像性(定着性)を有し、かつ奥行きのある立体感を有した非常に高級感を有する熱転写画像を発現できる熱転写受像シートを提供する。
【解決手段】 基材上に親水性を有する膜である受容層を設けた構成と、基材上にクッション層を介して親水性を有する膜である受容層を設けた構成であり、いずれのものでも、受容層を設ける表面において、高さが10nm以上700nm以下であり、個数が1000個〜10000個/mm2である凸部を有するものである。その凸部の特有の形状を平坦化せずに、その表面形状が維持するように、受容層が薄膜で設けられた構成となり、製品外観上、高い光沢性、高い反射性、高い受像性(定着性)を有し、かつ奥行きのある立体感を有した非常に高級感を有する熱転写画像が発現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写受像シートに関し、特に外観上、高い光沢性、高い反射性、高い受像性(定着性)を有し、かつ奥行きのある立体感を有した非常に高級感を有する熱転写画像を発現できる熱転写受像シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法として熱転写方法が広く使用されるようになってきた。熱転写方法は、基材シートの一方の面に色材層が設けられた熱転写シートと、必要に応じて画像受容層が設けられた熱転写受像シートを重ね合わせ、サーマルヘッド等の加熱手段により熱転写シートの背面を画像状に加熱して、色材層に含まれる色材を選択的に移行させて、熱転写受像シート上に画像を形成する方法である。
【0003】
この熱転写方法は、溶融転写方式と昇華転写方式に分けられる。溶融転写方式は顔料等の色材を熱溶融性のワックスや樹脂等のバインダーに分散させた熱溶融インキ層をPETフィルム等の基材シートに担持させた熱転写シートを用い、サーマルヘッド等の加熱手段に画像情報に応じたエネルギーを印加し、紙やプラスチックシート等の熱転写受像シート上に、色材をバインダーと共に転写する画像形成方法である。溶融転写方式による画像は、高濃度で鮮鋭性に優れ、文字等の2値画像の記録に適している。
【0004】
一方、昇華転写方式は主に昇華により熱移行する染料を樹脂バインダー中に溶解、或いは分散させた染料層をPETフィルム等の基材シートに担持させた熱転写シートを用い、サーマルヘッド等の加熱手段に画像情報に応じたエネルギーを印加し、紙やプラスチック等の基材シートに必要に応じて染料受容層を設けてなる熱転写受像シート上に、染料のみを転写移行させる画像形成方法である。昇華転写方式は、印加されるエネルギー量に応じて染料の移行量を制御できるため、サーマルヘッドのドット毎に画像濃度を制御した階調画像の形成を行なうことができる。また、使用する色材が染料であるため、形成される画像には透明性があり、異なる色の染料を重ねた場合の中間色の再現性が優れている。したがって、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等の異なる色の熱転写シートを用い、熱転写受像シート上に各色染料を重ねて転写する際にも、中間色の再現性に優れた高画質な写真調フルカラー画像の形成が可能である。
【0005】
これらの熱転写方法では、各種の画像を簡便に形成することができるので、印刷枚数が比較的少なくてもよい印刷物、例えば身分証明書やIDカード、クレジットカード、その他カード類への顔写真などの出力、さらに遊園地、ゲームセンター、博物館、水族館などのアミューズメント施設における合成写真、記念写真、絵ハガキや、他にメッセージカード、カレンダー、システム手帳等の様々な用途に利用されるようになっている。しかしながら、上述のような用途の多様化による市場の拡大に伴い、高い光沢性、高い反射性などの高級感を有する外観及び風合いに対する市場の要望は益々大きくなっている。
【0006】
このような背景から、例えば、高い光沢度、平滑性を受像シートに付与する方法としては、特許文献1のように色材受容層表面にプラスチックフィルムを重ね合わせて加熱・加圧し、積層する方法(熱ラミ)が示されている。また、特許文献2、特許文献3及び特許文献4には、受像シートの基材、或いは基材の一部として用いるプラスチックフィルムまたは合成紙の最表面に無機微細粉末や微細空隙を実質的に含有しない熱可塑性表面層(以下、スキン層と言う)を設けることが示されている。しかし、上記の方法を用いた場合、光沢を得ることはできるものの、光沢性の他に立体感を有する熱転写画像が得られていないのが、現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平2−122991号公報
【特許文献2】特開昭62−87390号公報
【特許文献3】特開昭62−278087号公報
【特許文献4】特開平5−246153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外観上、高い光沢性、高い反射性、高い受像性(定着性)を有し、かつ奥行きのある立体感を有した非常に高級感を有する熱転写画像を発現できる熱転写受像シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の状況を鑑み、鋭意研究開発を進め、本発明に到った。すなわち、請求項1に記載の発明は、基材上に受容層を設けた熱転写受像シートにおいて、該受容層が設けられた側の基材表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、前記受容層が気相法により形成された親水性を有する膜であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、基材上にクッション層を介して受容層を設けた熱転写受像シートにおいて、該クッション層は、受容層が設けられた側の表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、前記受容層が気相法により形成された親水性を有する膜であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の熱転写受像シートにおいて、クッション層が設けられた側の基材表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、クッション層が凸部を有した基材表面の形状をトレースするように形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項2に記載の熱転写受像シートにおいて、基材上にクッション層を設けた後に、クッション層の表面に前記所定の高さと個数を有する凸部を2P法に形成し、クッション層の上に受容層を設けたことを特徴とする。請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱転写受像シートにおいて、基材上に設けた受容層が基材表面上に存在する凸部の側面に形成されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱転写受像シートは、基材上に親水性を有する膜である受容層を設けた構成と、基材上にクッション層を介して親水性を有する膜である受容層を設けた構成であり、いずれのものでも、受容層を設ける表面において、高さが10nm以上700nm以下であり、個数が1000個〜10000個/mm2である凸部を有するものである。熱転写受像シートの受容層側に入射した光が、受容層の表面と、基材の受容層側の表面において、両方の反射光が相互に干渉し合って、奥行きのある立体感を有し、光沢性の高い熱転写受像シートが得られる。基材と受容層の間にクッション層を有する場合は、熱転写受像シートの受容層側に入射した光が、受容層の表面と、クッション層の受容層との界面と、さらに基材の受容層側の表面において、夫々の3種の反射光が相互に干渉し合って、奥行きのある立体感を有し、光沢性の高い熱転写受像シートが得られる。上記凸部の特有の形状を平坦化せずに、その表面形状が維持するように、受容層が薄膜で設けられた構成となり、製品外観上、高い光沢性、高い反射性、高い受像性(定着性)を有し、かつ奥行きのある立体感を有した非常に高級感を有する熱転写画像が発現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の熱転写受像シート1の一つの実施形態を示す概略断面図であり、基材2上に受容層3を設けた構成であり、該受容層3が設けられた側の基材2表面に凸部4を有し、該凸部4の高さ(a)が10nm以上700nm以下であり、該凸部4の個数が1000個〜10000個/mm2であり、前記受容層3が気相法により形成された親水性を有する膜である。この熱転写受像シート1の受容層3側に入射した光が、受容層3の表面と、基材2の表面において、両方の反射光が相互に干渉し合って、奥行きのある立体感を有し、光沢性の高い熱転写受像シートが得られる。
【0015】
図2は、本発明の熱転写受像シート1の他の実施形態を示す概略断面図であり、基材2上にクッション層5を介して受容層3を設けた構成であり、該クッション層5は、受容層3が設けられた側の表面に凸部4を有し、該凸部4の高さ(a)が10nm以上700nm以下であり、該凸部4の個数が1000個〜10000個/mm2であり、前記受容層3が気相法により形成された親水性を有する膜である。図2で示した熱転写受像シート1では、クッション層5が設けられた側の基材2表面に凸部4を有し、該凸部4の高さ(a)が10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、クッション層5が凸部4を有した基材2表面の形状をトレースするように形成され、また受容層3も該クッション層5の表面の形状をトレースするように形成されている。この熱転写受像シート1の場合では、受容層3側に入射した光が、受容層3の表面と、クッション層5の受容層3との界面と、さらに基材2の表面において、夫々の3種の反射光が相互に干渉し合って、奥行きのある立体感を有し、光沢性の高い熱転写受像シートが得られる。
【0016】
図3は、本発明の熱転写受像シート1の他の実施形態を示す概略断面図であり、基材2上にクッション層5を介して受容層3を設けた構成であり、この場合は基材2には凸部が形成されてなく、クッション層5の表面に所定の高さと個数を有する凸部4が形成されたもので、該クッション層5の上に受容層3が該クッション層5の表面の形状をトレースするように形成されている。また、図4は、本発明の熱転写受像シート1の他の実施形態を示す概略断面図であり、基材2上にクッション層5を介して受容層3を設けた構成であり、この場合は基材2には凸部が形成されてなく、クッション層5の表面に所定の高さと個数を有する凸部4が形成され、該クッション層5の凸部4の上に、受容層3が設けられ、またクッション層5の凹部6に受容層3が形成されている。但し、この場合の受容層3は、クッション層5の凸部4の側面7には形成されていないものである。この場合の受容層3は、クッション層5の凸部4の上と、クッション層5の凹部6の領域で、分断され、連続した皮膜ではない。
【0017】
以下、本発明の熱転写受像シートを構成する各層について、説明する。
(基材)
熱転写受像シートの基材2としては、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、セルロース繊維紙等の紙ベースのものや、高分子基材が使用できる。但し、基材表面に凸部が形成されたものは、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2である条件を満足できるものであれば、基材の種類を限定するものではない。高分子基材としては、具体的には、
・エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)系樹脂、
・環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン系樹脂(APO)、
・ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2、6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、
・ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)系樹脂、
・ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、
・ポリイミド(PI)系樹脂、
・ポリエーテルイミド(PEI)系樹脂、
・ポリサルホン(PS)系樹脂、
・ポリエーテルサルホン(PES)系樹脂、
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、
・ポリカーボネート(PC)系樹脂、
・ポリビニルブチラート(PVB)系樹脂、
・ポリアリレート(PAR)系樹脂、
・ポリスチレン系樹脂、
・エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂、
等を用いることができる。
【0018】
また基材は、用途に応じて透明なものであっても、不透明なものであってもよく、フィルム状であっても、板状であってもよく、さらに、ガラスやシリコンウエハー、紙のような固体表面を高分子によりコーティングした基材でも良い。基材の厚みは、通常3〜300μm程度であり、本発明においては、取扱い適性等を考慮し、20〜175μm程度のものを用いるのが好ましい。
【0019】
また、上記に挙げた高分子基材を構成する樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1種または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを基材として用いることも可能である。さらに,ガラスやシリコンウエハー、紙のような固体表面にこれらの樹脂をコーティングした基材でも良い。
【0020】
基材表面に凸部が形成されたものは、その凸部の形成方法、すなわち凹凸の形成方法は特に限定されるものではないが、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、好ましくは30nm以上500nm以下、更に好ましくは50nm以上380nm以下である。これは、該凸部の高低差が大きい程、奥行きのある立体感を有した非常に高級感を有する熱転写受像シートとなるが、高低差が可視光領域と重なる場合は特に、その構造体自体が光学干渉効果による発色が起こる為、可視光の波長以下の高さとすることが好ましい。
基材表面に凸部が形成されたものは、その凸部の形成方法、すなわち凹凸の形成方法は特に限定されるものではないが、上記の基材表面に形成された凸部が1,000個〜100,000個/mm2、好ましくは2,000〜80,000個/mm2の範囲内であることが好ましい。上記基材表面の凸部が、上記範囲内であることにより、高い光沢性、高い反射性能、高親水性を発現することが可能であるからである。尚、本発明で凸部の高さ、個数を規定しているが、全て原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI 3800N)を用いて、コンタクトモードで測定した条件である。
【0021】
基材表面への凹凸の形成方法として、具体的には、コロナ処理、プラズマ照射によるエッチング、反応性イオンエッチング、スパッタエッチング、光エッチング、溶液処理、フォトリソグラフィー、光触媒を用いたマスク露光、押し出し成型時にマットドラムで型をつける方法、あるいは上記光硬化性樹脂からなる基材の場合、後記のクッション層で詳細に説明する2P法等が挙げられる。
【0022】
(受容層)
本発明の受容層は、上述した表面凹凸を形成した基材上に気相法により形成された親水性を有する膜であれば、その原材料等は特に限定されるものではないが、上記受容層は、平面に形成した場合の水との接触角が0〜50°、中でも0〜30°の範囲内で形成されている材料であることが好ましい。上記受容層が、平面に形成された場合に、水との接触角が上記の範囲内である材料により形成されていることから、表面に凹凸を有する基材上に形成した場合には、さらに高い親水性を付与することが可能となるからである。本発明における水との接触角は、協和界面化学社の接触角測定装置(型番CA−Z)を用いて測定したものである。具体的には、被測定対象物の表面上に、純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間(10秒間)経過後顕微鏡またはCCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める。
【0023】
受容層を構成する物質としては、上記のように基材上に気相法により形成された親水性を有する膜であれば、良いが、例えば、金属酸化物の一種である酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミ(Al23)等が挙げられる。中でも、特に親水性が高いことから、酸化チタン及び酸化ケイ素が好ましい。これは、熱転写シートから転写される熱転写用インキと親和性の高い金属酸化物を用いることが好ましいからである。この親水性の高い材料に、本発明の効果を損なわない範囲で水接触角が50°〜90°の物質とその他の物質とからなるものであってもよい。受容層の親水性膜は、例えばプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を用いて、酸化チタン、酸化ケイ素等の無機酸化物の蒸着薄膜を形成して製膜化することができる。また、受容層の親水性薄膜として、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)を用いて、酸化チタン、酸化ケイ素等の無機酸化物の蒸着薄膜を形成して製膜化することもできる。
【0024】
上述した受容層における好適な膜厚は、1nm〜150nmの範囲内、中でも1nm〜100nm、特に1nm〜50nmの範囲内であることが好ましい。受容層の膜厚が、上記範囲より薄い場合、受容層を均一に形成することが困難であり、受容層が形成されない部分が生じる等の高親水性層としての機能を発揮できない可能性が生じることから好ましくなく、また上記範囲より膜厚が厚い場合、上記基材表面の凹凸を平坦化してしまう可能性があり、またコスト面で問題となる可能性があるため好ましくない。
また、受容層は基材表面の凸部を全面覆うことによる高反射性の熱転写画像が得られ、また凸部の側面だけを被覆しないことによる高光沢性の熱転写画像が得られる。後者を形成する手法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法及び真空蒸着法などの物理蒸着法が挙げられる。化学反応が関与する為に基材との密着性がよいこと、生産性に優れることからイオンプレーティング法が好ましい。蒸着材料には酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミなどが挙げられる。
【0025】
上記の受容層を形成する方法としては気相法であれば特に限定されるものではないが、通常、CVD法が好ましい。CVD法には、上記のようにプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等があるが、低温で被膜を形成することが可能であること、化学反応を用いるため基材との密着性が良いこと、条件の制御により微細凹凸の形状を変化させることが可能なこと等の観点から、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法によって、主として酸化ケイ素からなる親水性薄膜である受容層を形成する場合、酸化ケイ素の原料としては、例えば、シラン、ジシラン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、テトラメトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラエトキシシラン等のSi系化合物を用いることが可能である。
【0026】
またプラズマCVD法によって、主として酸化チタンからなる親水性薄膜である受容層を形成する場合、酸化チタンの原料としては、チタンテトライソプロポキシド(TTIP)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド、チタンテトラsec−ブトキシド、四塩化チタン等を用いることができる。
【0027】
また、本発明の受容層は、自己組織化単分子膜(SAM)を利用することができる。自己組織化単分子膜とは、固体/液体もしくは固体/気体界面で、有機分子同士が自発的に集合し、会合体を形成しながら自発的に単分子膜を形作っていく有機薄膜である。例えば、ある特定の材料でできた基板を、その基板材料と化学的親和性の高い有機分子の溶液または蒸気にさらすと、有機分子は基板表面で化学反応し吸着する。その有機分子が、化学的親和性の高い官能基と、基板との化学反応を全く起こさないアルキル基との2つのパートからなり、親和性の高い官能基がその末端にある場合、分子は反応性末端が基板側を向き、アルキル基が外側を向いて吸着する。アルキル基同士が集合すると、全体として安定になるため、化学吸着の過程で有機分子同士は自発的に集合する。分子の吸着には、基板と末端官能基との間で化学反応が起こることが必要であることから、一旦基板表面が有機分子でおおわれ単分子膜ができあがると、それ以降は分子の吸着は起こらない。その結果、分子が密に集合し、配向性のそろった有機単分子膜ができる。このような膜を本発明においては、自己組織化単分子膜とする。ここで、上記の基板と結合する反応性末端基を吸着基、外側を向いて配向する基を配向基とする。
【0028】
特に、自己組織化単分子膜の配向基がヒドロキシル基に置換されたヒドロキシル基置換層であるものが好ましく用いられる。このヒドロキシル基置換層とは、上記自己組織化単分子膜が形成された後に、上記配向基がヒドロキシル基に置換された層である。このような自己組織化単分子膜を形成することにより、上記基材の表面の凹凸を平坦化することなく、層を単分子で均一に上記基材表面に形成することができる。また、上記配向基がヒドロキシル基に置換されていることにより、高い親水性を有する膜(高親水性層)とすることが可能となる。自己組織化単分子膜の形成方法は、上記の酸化チタン及び酸化ケイ素の受容層の場合と同様の方法が挙げられ、特に限定されるものではないが、特に熱CVD法により形成することが好ましい。自己組織化単分子膜を形成する工程が、熱CVD法であることにより、熱CVD法では、原料となる物質を気化し、基材上に均一になるように材料を送り込み、酸化、還元、置換等の反応を行わせることから、上記基材の凹凸表面にも均一に自己組織化単分子膜を形成することが可能であり、上記基材表面に形成された凹凸を平坦化することなく、高親水性層を形成することが可能である。
【0029】
上記の熱CVD法により形成する自己組織化単分子膜の場合、例えば、材料としてオクタデシルトリメトキシシランやオクタデシルトリクロロシラン等の有機シランを使用して自己組織化単分子膜を形成することにより、基材と自己組織化単分子膜の密着性が良く、また凹凸を有した基材表面の形状をトレース(敷き写し)するように自己組織化単分子膜を形成することができる。また、自己組織化単分子膜の膜厚は、上記の酸化チタン及び酸化ケイ素の受容層の場合と同様である。
【0030】
高親水性層である受容層がヒドロキシル基置換層である場合、上記高親水性層の形成工程は、自己組織化単分子膜形成物質を用いて、CVD法により自己組織化単分子膜を形成する工程と、上記自己組織化単分子膜形成工程により形成された自己組織化単分子膜の配向基をヒドロキシル基に置換する配向基除去工程とを有する工程となる。この配向基除去工程とは、上述した自己組織化単分子膜形成工程により形成された自己組織化単分子膜の配向基を自己組織化単分子膜上から除去し、ヒドロキシル基に置換する工程である。この配向基除去工程は、上記自己組織化単分子膜上から配向基を除去し、ヒドロキシル基に置換することが可能であれば、方法等は特に限定されるものではないが、中でも反応性雰囲気下で高エネルギーを照射することにより行われることが好ましい。これにより、容易に上記自己組織化単分子膜の配向基を除去し、ヒドロキシル基を導入することが可能となることから、高い親水性を有する受容層を有する熱転写受像シートを効率よく製造することが可能となるからである。
【0031】
(クッション層)
本発明のクッション層は、熱転写受像シートの基材と受容層との間に形成されるもので、該クッション層は、受容層が設けられた側の表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2である。クッション層の形成方法は、以下の2通りの方法に大別される。一つは、熱転写受像シートの基材表面に、凹凸の形成されたものを使用し、該基材表面の微細な凹凸をトレース(敷き写し)するように、クッション層を塗布する方法である。このクッション層は、材料に応じて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、プラズマ重合法などの真空成膜法や、マイクログラビア印刷、スクリーン印刷などの各種の印刷法、コーティング方法を用いて形成すればよい。
【0032】
例えば、クッション層をプラズマCVD法により形成する場合、上記の受容層で説明したような、主として酸化ケイ素や酸化チタンからなる薄膜を同様に使用することができる。但し、この場合、クッション層と受容層との構成材料は、互いに異なる材料条件にすることが好ましい。基材表面の微細な凹凸をトレースするように、クッション層を塗布する方法の場合、その厚みとしては、乾燥状態で、1〜20nm程度が好ましい。
【0033】
またクッション層の別の形成方法は、2P(Photo Polymerization)法といわれる、表面に凹凸を有する原版(スタンパ)を用意し、該スタンパと基材との間に液状の紫外線硬化性樹脂を充填し、紫外線を照射して樹脂を硬化させた後、スタンパを剥がすことによって、基材上のクッション層に凹凸を形成するものである。この場合のクッション層は、紫外線硬化性樹脂から構成される。
【0034】
紫外線硬化樹脂としては、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射によって活性エネルギー線硬化性樹脂を架橋硬化させたものが適用でき、好ましくは紫外線硬化樹脂である。なお、本明細書では、硬化前の前駆体を硬化性樹脂、紫外線の照射による硬化後の樹脂を硬化樹脂という。具体的に、紫外線硬化性樹脂組成物としては、分子中に重合性不飽和結合または、エポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー、及び/又はモノマーを
適宜に混合したものである。紫外線硬化性樹脂組成物中のプレポリマー、オリゴマーの例としては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシア
クリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物が挙げられる。
【0035】
紫外線硬化性樹脂組成物中のモノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリル酸メチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシブチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシメチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸−2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸−2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸−2−(N,N−ジベンジルアミノ)メチル、アクリル酸−2−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル等の不飽和置換の置換アミノアルコールエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミド、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート等の化合物、ジプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等の多官能性化合物、及び/又は分子中に2個以上のチオール基を有するポリチオール化合物、例えばトリメチロールプロパントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリチオプロピレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等が挙げられる。
【0036】
通常、紫外線硬化性樹脂組成物中のモノマーとしては、以上の化合物を必要に応じて、1種若しくは2種以上を混合して用いるが、紫外線硬化性樹脂組成物に通常の塗布適性を与えるために、前記のプレポリマー又はオリゴマーを5質量%以上、前記モノマー及び/又はポリチオール化合物を95質量%以下とするのが好ましい。クッション層として、紫外線硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させたときのフレキシビリティーが要求されるときは、モノマー量を減らすか、官能基の数が1又は2のアクリレートモノマーを使用するとよい。
【0037】
紫外線硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させたときのフレキシビリティーや、表面硬度等の物性を調整するため、紫外線硬化性樹脂組成物に、紫外線照射では硬化しない樹脂を添加することもできる。その具体的な樹脂の例としては、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等の添加がフレキシビリティーの向上の点で好ましい。
【0038】
一般的な紫外線硬化性樹脂組成物には、光重合開始剤や光重合促進剤を添加する。光重合開始剤としては、一般的には、ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等を単独又は混合して用いる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、光重合開始剤として、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタセロン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等を単独又は混合物として用いる。光重合開始剤の配合量は、紫外線硬化性組成物100質量部に対し、0.1〜10質量部である。
【0039】
以上のような紫外線硬化性樹脂組成物を用いて、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ダイコーティングなどの印刷及びコーティング法により、基材又はスタンパ上に塗布する。好ましくはスクリーン印刷法、ダイコーティング法である。このように塗布されるクッション層の厚さは、乾燥状態で、1〜10μm程度である。
【0040】
そして、スタンパと基材の間へ液状の紫外線硬化性樹脂が充填され、スタンパの表面にある微細な凹凸にも充填されている状態で、紫外線を照射して硬化させる。照射する紫外線装置としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が使用される。波長200〜400nmの紫外線を用い、照射量としては積算エネルギーが0.01〜10J/cm2となる程度とすることが好ましい。また、紫外線硬化の場合は、紫外線硬化性樹脂へ光重合開始剤、及び/又は光重合促進剤を添加したもので、エネルギーの高い電子線硬化の場合は添加しないでもよい。また、適正な触媒が存在すれば、熱エネルギーでも硬化できる。
【0041】
尚、クッション層を介して基材上に、受容層を設ける場合、前記の受容層で説明したようなプラズマCVD法等の気相法により受容層を形成できる。この受容層を形成する際、基材表面に凸部を有する場合でも、またクッション層表面に凸部を有する場合でも、いずれの場合でも同様に、プラズマCVD法等の気相法が適用できる。また、マイクログラビア印刷、スクリーン印刷などの各種の印刷法、コーティング方法を用いて形成することも可能である。この場合は、クッション層表面の微細な凹凸をトレースするように、塗布して、その厚みとしては、乾燥状態で、1〜20nm程度が好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
(表面凹凸形成)
PET基材を容量結合型高周波プラズマ装置を用い下記の方法により、酸素プラズマエッチングした。まず、PET基材をチャンバー中に設置した後、減圧手段により反応チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで真空にした。基材には12μm−PET(ユニチカ(株)社製PTM)を使用した。また、酸素原子を含むガスとして酸素ガスを用い、チャンバー中に5Pa導入した。プラズマ生成にはVHF電源を用いた。100Wの電力で、10分間酸素プラズマエッチングを実施した。エッチング後のPET表面の平均二乗粗さ(すなわち基材表面の凸部の高さ)は約30nmであった。また、該凸部の個数は、2000個/mm2であった。これらの表面粗さ、個数の測定は、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製;SPI3800N)を用いて、タッピングモードで測定された。
【0043】
(熱CVD工程による親水性薄膜形成;自己組織化単分子膜の成膜)
上述した酸素プラズマエッチングされたPET基材と、ガラス容器に入れたオクタデシルトリメトキシシラン(ODS、東京化成工業(株)社製 00256)約0.2mlを、テフロン(登録商標)容器内に設置し、100℃のオーブン中に3時間放置し、熱CVDによる自己組織化単分子膜(以下、ODS−SAMと略称する。)形成を行った。
【0044】
ODS−SAM成膜後、水滴接触角および膜厚を測定したところ、水との接触角が約150°であり、膜厚は1.8nmであった。SAM成膜前の水滴接触角が10°以下であったので、熱CVDにより、SAMが形成されていることがわかった。
ODS−SAM成膜後、XPSにより膜特性を評価したところ、膜中からSiおよびCの存在が確認された。なお、XPSによる評価は、Mg Kα使用、15kV、20mA(300W)という条件下で、XPS 220iXL(ESCALAB社製)を用い実施された。
【0045】
なお、この水との接触角の測定方法は、協和界面化学社の接触角測定装置(型番CA−Z)を用い、被測定対象物の表面上に、純水を一滴(一定量)滴下させ、一定時間経過後、CCDカメラを用いて水滴形状を観察し、物理的に接触角を求める方法を用いた。
【0046】
上記で作製したSAMコーティング膜を、172nmの中心波長を有する真空紫外光(VUV)照射装置を備えたチャンバー中に導入し、1000Paにて、20分間露光した。露光後、水滴接触角を測定したところ、水との接触角が10°以下であったので、VUV照射により、SAM配向基が除去され、親水基が導入されていることがわかった。これにより、基材表面に凸部を有した基材上に、自己組織化単分子膜からの親水性薄膜である受容層が気相法により形成された熱転写受像シートを作製した。
【0047】
(実施例2)
(表面凹凸形状形成)
実施例1と同様にしてPET上に凹凸を形成した。
【0048】
(プラズマCVD工程による親水性薄膜形成;シリカ系薄膜の成膜)
上記凹凸形成工程の酸素プラズマエッチング工程に引き続き,エッチングされたPET基材上に,シリカ系薄膜(SiOxCyHz系薄膜)を容量結合型高周波プラズマCVDにより成膜した。プラズマエッチング後, 再度チャンバー内の真空度を1.0×10-3Pa以下にした後, 原料ガスを反応チャンバー内に導入した。原料ガスとしては、有機珪素化合物としてテトラエトキシシラン((株)高純度化学研究所製)を用いた。チャンバー全圧が10Paとなるように圧力を調整した。プラズマ生成、原料分解には13.56MHzの高周波を用いた。成膜時間15秒間、200Wの電力でシリカ系薄膜を成膜した。成膜中、基材表面温度は50℃以下であった。シリカ系薄膜成膜後、水滴接触角および膜厚を測定したところ、水との接触角が20°であり、膜厚は約15nmであった。これにより、基材表面に凸部を有した基材上に、シリカ系薄膜からなる親水性薄膜である受容層が気相法により形成された熱転写受像シートを作製した。
【0049】
(実施例3)
(表面凹凸形状形成)
実施例1と同様にしてPET上に凹凸を形成した。
【0050】
(プラズマCVD工程による親水性薄膜形成;シリカ系薄膜の成膜)
上記凹凸形成工程の酸素プラズマエッチング工程に引き続き,エッチングされたPET基材上に,チタニア系薄膜(TiOxCyHz系薄膜)を容量結合型高周波プラズマCVDにより成膜した。プラズマエッチング後, 再度チャンバー内の真空度を1.0×10-3Pa以下にした後, 原料ガスを反応チャンバー内に導入した。原料ガスとしては、有機珪素化合物としてチタニウムテトライソプロポキシド(岳南化学(株)製)を用いた。チャンバー全圧が15Paとなるように圧力を調整した。プラズマ生成、原料分解には13.56MHzの高周波を用いた。成膜時間40秒間、250Wの電力でチタニア系薄膜を成膜した。成膜中、基材表面温度は50℃以下であった。チタニア系薄膜成膜後、水滴接触角および膜厚を測定したところ、水との接触角が15°であり、膜厚は約25nmであった。これにより、基材表面に凸部を有した基材上に、チタニア系薄膜からなる親水性薄膜である受容層が気相法により形成された熱転写受像シートを作製した。
【0051】
(実施例4)
(表面凹凸形成)
厚さが3.5mmの両面に2次研磨を施したソーダガラス板へポジ型レジスト(シプレイ社製、商品名フォトレジストs1805)1μm塗布して縦横10×10cm角のレジスト原版とし、非レジスト面へ屈折率1.515の屈折率標準液を滴下して、黒色ガラスを密着させた。該レジスト原版へ、レーザ光としてアルゴンイオンレーザの波長457.9nm(青色)を用い、該レーザ光を2分割した後に、それぞれの光束を、左方向と右方向から、それぞれ60度の角度でレジスト原版のレジスト面へ130mJ露光した。さらにレジスト原版を同一面で90度回転させた後に、同様に露光、現像して、原版を得た。
【0052】
(スタンパの用意)
上記で得た原版から2P法で複製版材(マスタ版M1)とし、該複製版材(マスタ版M1)から2P法で複製版材(マスタ版M2)とし、該複製版材(マスタ版M2)へ再度2P法で厚さが188μmのポリエチレンテレフタレートへ複製し、剥がして樹脂製のスタンパを得た。
【0053】
(塗布、エージング)
基材として厚さが1mmで9×9cm角の大きさのアクリライトL−100(三菱レイヨン社製、アクリルシート商品名)上へ、300メッシュのポリエチレンテレフタレート紗からなるスクリーン版を用いて、粘度2000センチポアズのUV−PAL(帝国インキ製造社製、紫外線硬化性樹脂商品名)を、厚さ8μm(乾燥状態)で大きさが8.5cm角のスクリーン印刷法で印刷した。該印刷物を、80℃のクリーンオーブン内で10分間エージングした。
【0054】
(充填、UV照射)
エージングした印刷物上へ、上記で得たスタンパを重ねて、2本のニップロール間を60N/cm2の圧力下で通過させて、プレスし、スタンパの表面にある微細な凹凸へ紫外線硬化性樹脂を充填させた。この状態で、超高圧水銀ランプの365nm輝線をスタンパ側から150mJ/cm2照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させた。
【0055】
(スタンパを剥離)
スタンパを剥離し、基材へ密着した紫外線硬化樹脂層、すなわちクッション層が得られた。その表面には微細な凹凸が賦型された微細な凹凸を有する媒体が得られた。この凹凸に関し、該凸部の高さは20nmであり、該凸部の個数は2000個/mm2であった。これらの表面粗さ、個数の測定は、上記に示した方法と同様に行なった。
【0056】
(プラズマCVD工程による親水性薄膜形成;シリカ系薄膜の成膜)
上記の得られたクッション層付き基材で、クッション層の表面に凸部を有した条件であり、該クッション層の上に、実施例2で行なったプラズマCVD工程による親水性薄膜でるシリカ系薄膜の成膜を、同様に行なった。これにより、クッション層の表面に凸部を有した条件の基材上に、シリカ系薄膜からなる親水性薄膜である受容層が気相法により形成された熱転写受像シートを作製した。
【0057】
(実施例5)
実施例4で得られたクッション層付き基材に対して、イオンプレーティング工程による親水性薄膜形成を行った。下記に示した薄膜形成条件で薄膜成膜後、水滴接触角および膜厚を測定した。水との接触角が18°であり、膜厚は約20nmであった。これにより、基材表面に凸部を有した基材上に、シリカ系薄膜からなる親水性薄膜である受容層がイオンプレーティング法により形成された熱転写受像シートを作製した。なお、電子顕微鏡による観察から、図4に示したように、基材表面に存在する凸部の側面に受容層が形成されていないことを確認している。
(薄膜形成条件)
・投入電力3.2kW
・蒸着材料SiO2
・Ar流量15sccm
・O2流量5sccm
【0058】
上記の実施例1〜5で得られた熱転写受像シートを用いて、以下に示す条件で、熱転写を行ったところ、高い光沢性、高い反射性能、高い受像性が認められた。
(熱転写条件)
イエロー、シアン及びマゼンタの3色の染料層を面順次に有する熱転写シート(大日本印刷株式会社製)と上記の熱転写受像シートとを、夫々の染料層と受容層とを対向させて重ね合わせ、熱転写シートの裏面からヘッド印加電圧12.0V、パルス幅16msec、印画周期33.3msec、ドット密度6ドット/lineの条件でサーマルヘッドによる熱転写プリンターで記録を行い、熱転写受像シートの受容層にフルカラーの顔写真の画像を形成した。
【0059】
(比較例1)
実施例1で使用したPET基材を用い、基材表面に形成される凸部が50個/mm2になるように、酸素プラズマエッチングを実施した。その基材表面にシリカ系薄膜を実施例1と同様に形成し、熱転写受像シートを作製した。この比較例1で得られた熱転写受像シートを用いて、上記の熱転写条件で同様にして、熱転写を行ったところ、凸部間での光学干渉がおこらず、光沢性に欠ける受像シートとなった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の熱転写受像シートの一つの実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の熱転写受像シートの他の実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の熱転写受像シートの他の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明の熱転写受像シートの他の実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 熱転写受像シート
2 基材
3 受容層
4 凸部
5 クッション層
6 凹部
7 側面
a 凸部の高さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に受容層を設けた熱転写受像シートにおいて、該受容層が設けられた側の基材表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、前記受容層が気相法により形成された親水性を有する膜であることを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項2】
基材上にクッション層を介して受容層を設けた熱転写受像シートにおいて、該クッション層は、受容層が設けられた側の表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、前記受容層が気相法により形成された親水性を有する膜であることを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項3】
前記クッション層が設けられた側の基材表面に凸部を有し、該凸部の高さが10nm以上700nm以下であり、該凸部の個数が1000個〜10000個/mm2であり、クッション層が凸部を有した基材表面の形状をトレースするように形成されたことを特徴とする請求項2に記載の熱転写受像シート。
【請求項4】
前記基材上にクッション層を設けた後に、クッション層の表面に前記所定の高さと個数を有する凸部を2P法に形成し、クッション層の上に受容層を設けたことを特徴とする請求項2に記載の熱転写受像シート。
【請求項5】
前記基材上に設けた受容層が基材表面上に存在する凸部の側面に形成されていないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱転写受像シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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