説明

熱転写受像シート

【課題】本発明は、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造可能であり、かつ、離型性と印画感度とに優れた受容層を備える熱転写受像シートを提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、基材シートと、上記基材シート上に形成され、染料染着性を有し、かつ水系溶媒に分散・溶解可能な受容層形成用樹脂および冷却ゲル化剤を含有する受容層とを備える熱転写受像シートであって、上記受容層に金属せっけんが含まれることを特徴とする熱転写受像シートを提供することにより、上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写方式による印画に用いられる熱転写受像シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱転写を利用した画像の形成方法として、記録材としての熱拡散型染料(昇華型染料)をプラスチックフィルム等の基材シート上に担持させた熱転写シートと、紙やプラスチックフィルム等の別の基材シート上に受容層を設けた熱転写受像シートとを互いに重ね合わせてフルカラー画像を形成する熱拡散型転写方式(昇華型熱転写方式)が知られている。この方法は、熱拡散型染料を色材としているためドット単位で濃度、階調を自由に調節でき、原稿通りのフルカラー画像を受像シート上に鮮明に表現することができるので、デジタルカメラ、ビデオ、コンピューター等のカラー画像形成に応用されている。その画像は、銀塩写真に匹敵する高品質なものである。
【0003】
熱転写受像シートを得る方法として、例えばグラビアコート等により、基材シート上に多孔質層や受容層を順次形成する方法が知られている。しかしながら、この方法は各層を順次形成する方法であるため、工程数が多くなるといった問題があった。そのため、より少ない工程数で熱転写受像シートを得るため、同時に複数の層を形成する方法等が注目を浴びている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、基材上に、断熱層や受像層等の複数の層を同時重層塗布することにより形成した熱転写受像シートが開示されている。具体的には、同時重層塗布の塗布方式としてスライドコート法を用いて、熱転写受像シートを得たことが記載されている(実施例:熱転写受像シート5の作製)。また、特許文献2においては、水性中間層と水性受容層を同時塗布することを特徴とする熱転写受像シートの製造方法が開示されており(請求項1)、さらに、特許文献3においては、水溶性樹脂を最表層に有するインクジェット記録媒体が開示されており(請求項1)、インク受容層用塗布液と塩基性溶液とを同時塗布することについて記載されている。
【0005】
このように、複数の層を同時に形成することにより、熱転写受像シートを製造する方法は、製造効率や製造コスト等において非常に有利な面がある。しかしながら、その一方で上記水系受容層に用いられる樹脂は、種類が限られていたことから離型性に優れた受容層を形成することが困難であるという問題点があった。
このような問題点に対し、特許文献4には受容層中にワックス類を添加し、中間調の転写感度を向上させる例が開示されている。しかしながら、上記受容層にワックスを添加すると、熱転写受像シートを用いて印画物を作製する際に、上記受容層に加えられる熱により受容層が軟化して離型性が悪化し、結果として高濃度部の印画感度が低下してしまうという問題点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−88691公報
【特許文献2】特開平6−171240号公報
【特許文献3】特開2006−103040公報
【特許文献4】特開2007−112079公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造可能であり、かつ、離型性と印画感度とに優れた受容層を備える熱転写受像シートを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、基材シートと、上記基材シート上に形成され、染料染着性を有し、かつ水系溶媒に分散・溶解可能な受容層形成用樹脂および冷却ゲル化剤を含有する受容層とを備える熱転写受像シートであって、上記受容層に金属せっけんが含まれることを特徴とする熱転写受像シートを提供する。
【0009】
本発明によれば、上記受容層に金属せっけんが含まれていることにより、受容層の表面に滑り性を付与することができるため、受容層の離型性を向上させることができる。また、上記金属せっけんは、本発明の熱転写受像シートを用いて印画物を作製する際に、受容層に加わる熱を消費することがないため、上記金属せっけんの存在によって上記受容層の印画感度が実質的に低下してしまうこと防止できる。このため、本発明によれば離型性と印画感度とに優れた熱転写受像シートを得ることができる。
さらに、本発明によれば、上記受容層形成用樹脂が水系溶媒に分散・溶解可能なものであり、かつ、上記受容層に冷却ゲル化剤が含まれているため、例えばスライドコート法等を用いることにより、水系で複数の層を同時に形成することにより本発明の熱転写受像シートを高効率で製造することが可能になる。
このようなことから本発明によれば、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造可能であり、かつ、離型性と印画感度とに優れた受容層を備える熱転写受像シートを提供することができる。
【0010】
本発明においては、上記金属せっけんが、炭素数10以上の脂肪酸塩を含有するものであることが好ましい。また、本発明においては上記受容層中における上記金属せっけんの含有量が、固形分比率で5質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましい。これにより、本発明における受容層の離型性をより向上させることができるからである。
【0011】
さらに本発明においては上記基材シートと、上記受容層との間に、中空粒子および冷却ゲル化剤を含有する多孔質層を有するものであることが好ましい。このような多孔質層を有することにより、当該多孔質層の断熱性の寄与により、本発明の熱転写受像シートをより印画特性に優れたものにできるからである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱転写受像シートは、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造可能であり、かつ、離型性と印画感度とに優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の熱転写受像シートについて説明する。
【0014】
上述したように本発明の熱転写受像シートは、基材シートと、上記基材シート上に形成され、染料染着性を有し、かつ水系溶媒に分散・溶解可能な受容層形成用樹脂および冷却ゲル化剤を含有する受容層とを備える熱転写受像シートであって、上記受容層に金属せっけんが含まれることを特徴とするものである。
【0015】
このような本発明の熱転写受像シートについて図を参照しながら説明する。図1は本発明の熱転写受像シートの一例を示す概略図である。図1に例示するように、本発明の熱転写受像シート10は、基材シート1と、上記基材シート1上に形成され、染料染着性を有し、かつ、水系溶媒に分散・溶解可能な受容層形成用樹脂および冷却ゲル化剤を含有する受容層2と、を備えるものである。
このような例において、本発明の熱転写受像シート10は、上記受容層2に金属せっけんが含まれることを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、上記受容層に金属せっけんが含まれていることにより、受容層の表面に滑り性を付与することができるため、受容層の離型性を向上させることができる。また、上記金属せっけんは、本発明の熱転写受像シートを用いて印画物を作製する際に、受容層に加わる熱を消費することがないため、上記金属せっけんの存在によって上記受容層の印画感度が実質的に低下してしまうこと防止できる。このため、本発明によれば離型性と印画感度とに優れた熱転写受像シートを得ることができる。
さらに、本発明によれば、上記受容層形成用樹脂が水系溶媒に分散・溶解可能なものであり、かつ、上記受容層に冷却ゲル化剤が含まれているため、例えばスライドコート法等を用いることにより、水系で複数の層を同時に形成することにより本発明の熱転写受像シートを高効率で製造することが可能になる。
このようなことから本発明によれば、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造可能であり、かつ、離型性と印画感度とに優れた受容層を備える熱転写受像シートを提供するができる。
【0017】
本発明の熱転写受像シートは少なくとも、基材シートと、受容層とを有するものであり、必要に応じて他の構成を有してもよいものである。
以下、本発明の熱転写受像シートに用いられる各構成について説明する。
【0018】
1.受容層
まず、本発明に用いられる受容層について説明する。本発明に用いられる受容層は、後述する基材シート上に形成されるものであり、本発明の熱転写受像シートを用いて熱転写方式よって印画物を形成する際に、染料を受容する機能を有するものである。また本発明に用いられる受容層は受容層形成用樹脂と、冷却ゲル化剤とを含有し、さらに金属せっけんを含有することを特徴とするものである。
以下、このような受容層について詳細に説明する。
【0019】
(1)金属せっけん
まず、本発明に用いられる金属せっけんについて説明する。本発明に用いられる金属せっけんは、受容層に含有されることにより受容層表面にすべり性を付与し、これによって受容層の離型性を向上させる機能を有するものである。本発明に用いられる金属石鹸としては、このような機能を備えるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられる金属せっけんは、脂肪酸のアルカリ金属以外の金属の塩であることが好ましい。このような金属せっけんを用いることにより、本発明に用いられる受容層の離型性をより向上させることができるからである。
【0020】
本発明に用いられる金属せっけんとして、上記脂肪酸のアルカリ金属以外の金属塩が用いられる場合、上記脂肪酸としては受容層に所望のすべり性を付与することができる程度の炭素数を有するものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられる上記脂肪酸は、炭素数が10〜30の範囲内であることが好ましく、10〜20の範囲内であることがより好ましく、12〜20の範囲内であることがさらに好ましい。上記金属せっけんとして炭素数が上記範囲内である脂肪酸の金属塩が用いられることにより、離型性に優れた受容層を形成することが容易になるからである。すなわち、本発明の熱転写受像シートは、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造可能であることも特徴とするものであるところ、上記脂肪酸の炭素数が上述した範囲内であることにより、水系の受容層を作製する際に金属せっけんを受容層の表面に偏在させることができる。このため、作製される受容層を表面の滑り性に優れたものにできる結果、より離型性に優れた受容層を形成することができるからである。
【0021】
このような、本発明に用いられる金属せっけんの具体例としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウム、リシノール酸バリウム、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛等を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれの金属せっけんであっても好適に用いることができる。なかでも本発明においては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸亜鉛がより好適に用いられる。
【0022】
なお、本発明に用いられる金属せっけんは1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0023】
本発明における受容層に含まれる金属せっけんの含有量としては、本発明に用いられる金属せっけんの種類に応じて、受容層の離型性を所望の程度にできる範囲内で適宜調整することができるものである。なかでも本発明においては、上記金属せっけんの含有量が、上記受容層の固形分比率で5質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましく、5質量%〜25質量%の範囲内であることがより好ましく、5質量%〜20質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
(2)受容層形成用樹脂
次に、本発明に用いられる受容層形成用樹脂について説明する。本発明に用いられる受容層形成用樹脂としては、染料染着性を有し、かつ水系溶媒に分散・溶解可能なものであれば特に限定されるものではない。
ここで、上記「水系溶媒」とは、水を主成分とする溶媒をいう。水系溶媒における水の割合は、通常60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上記水以外の溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類等を例示することができる。
【0025】
本発明に用いられる上記受容層形成用樹脂は、ガラス転移温度が20℃以上であるものが好ましく、30℃以上であるものがより好ましく、40℃以上であるものがさらに好ましい。また、上記受容層形成用樹脂はガラス転移温度が120℃以下であるものが好ましい。このような範囲のガラス転移温度を有する受容層形成用樹脂を用いることにより、特に耐熱性に優れた熱転写受像シートを得ることができるからである。
【0026】
このような受容層形成用樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、セルロース誘導体系樹脂、または、ポリエーテル系樹脂等を挙げることができる。本発明においては、これらの樹脂のいずれであっても好適に用いることができるが、なかでもポリビニル系樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
本発明に好適に用いられる上記ポリビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/アクリル化合物共重合体、エチレン/塩化ビニル/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体等を挙げることができる。
【0028】
上記塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニルと酢酸ビニルとからなる共重合体であれば特に限定されず、塩化ビニルおよび酢酸ビニルに加えてこれら必須単量体と共重合可能な単量体をも少量重合したものであってもよい。
【0029】
上記塩化ビニル/アクリル化合物共重合体は、塩化ビニルとアクリル化合物とからなる共重合体であれば特に限定されず、塩化ビニルおよびアクリル化合物に加えてこれら必須単量体と共重合可能な単量体をも少量共重合したものであってもよい。
なお、本明細書において、「アクリル化合物」とは、(メタ)アクリル酸および/またはそのアルキルエステルを意味する。
【0030】
上記アクリル化合物としては、例えば、アクリル酸;アクリル酸カルシウム、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸アルミニウム等のアクリル酸塩;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸シクロヘキシル、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレン、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン等のメタクリル酸エステル等を挙げることができる。
【0031】
上記エチレン/塩化ビニル/アクリル酸エステル共重合体およびエチレン/酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体(以下、各共重合体を総称して、「エチレン/塩化ビニル系共重合体」といもいう。)は、少なくとも、エチレン、塩化ビニルおよびアクリル酸エステルの3種、または、エチレン、酢酸ビニルおよび塩化ビニルの3種の単量体を重合して得られる共重合体であれば特に限定されず、これらの3種の単量体以外に少量の微量単量体をも共重合したものであっても良い。
【0032】
上記エチレン/酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体は、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)と塩化ビニルとの共重合体であっても良く、該EVA/塩化ビニル共重合体としては、EVAに塩化ビニルをグラフト共重合したものであっても良い。EVAは、該共重合体における酢酸ビニル単位の全部または一部が鹸化されたものをも含む。
【0033】
本発明において、上記エチレン/塩化ビニル/アクリル酸エステル共重合体を構成する「アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステルに加え、メタクリル酸エステルをも含む概念である。上記アクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等を挙げることができ、上記メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸シクロヘキシル、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸−1,3−ブチレン、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0034】
なお、本発明においては、上記受容層形成用樹脂を1種のみを用いてもよく、単量体組成、平均分子量等が異なる2種以上を用いてもよい。
【0035】
(3)冷却ゲル化剤
次に、本発明に用いられる冷却ゲル化剤について説明する。本発明に用いられる冷却ゲル化剤は、冷却されることによりゲル化する性質を有するものであり、本発明の熱転写受像シートを、基材シート上に、水系の受容層を含む複数の層を同時に形成することにより高効率で製造することを可能にするものである。
【0036】
このような冷却ゲル化剤としては、冷却ゲル化特性を備えるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられる冷却ゲル化剤は、水に溶解した状態での15℃における粘度が80℃における粘度に対して、3倍以上、特に5倍以上、さらには10倍以上であるものが好ましい。
なお、水に溶解する際の濃度によって粘度特性が異なる場合は、特定の濃度において上記の粘度特性を示すものであればよい。
【0037】
本発明に用いられる冷却ゲル化剤としては、例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、ペクチン等を挙げることができる。
【0038】
ここで、上記ゼラチンは、上述したように三重へリックス構造を有するコラーゲンを変性させることによって得られるペプチド鎖からなるものであり、冷却されることにより部分的に上記三重へリックス構造を回復し、回復された三重へリックス構造を起点として三次元ネットワークを形成することにより、冷却ゲル化特性を示すものである。
【0039】
上記κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、および、ι−カラギーナンは、紅藻類海藻から抽出される分子量100000〜500000程度のガラクトース、3,6−アンヒドロガラクトースを主成分とする天然高分子化合物である。分子内に半エステル型の硫酸基を有することを特徴とするものであり、通常、ローカストビーンガムや、金属塩化合物等の増粘剤が併用されることにより、冷却ゲル化特性を示すものである。
【0040】
上記ペクチンは、植物の細胞壁を構成する天然多糖類であり、イオン性の化合物と併用されることにより、冷却ゲル化特性を示すものである。
【0041】
本発明においては、上記冷却ゲル化剤のいずれであっても好適に用いることができる。また、本発明においては、1種類の冷却ゲル化剤のみを用いてもよく、あるいは、2種類以上の冷却ゲル化剤を用いてもよい。
【0042】
本発明の受容層における冷却ゲル化剤の含有量としては、本発明の熱転写受像シートを製造する際に、受容層に形成するために用いられる受容層形成用塗工液に所望の粘度特性を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、冷却ゲル化剤が、受容層形成用塗工液中の固形分100に対して、重量換算で2〜50の範囲内であることが好ましく、特に2〜30の範囲内であることが好ましく、さらに2〜20の範囲内であることが好ましい。冷却ゲル化剤の含有比が上記範囲よりも少ないと、例えば、上記受容層形成用塗工液を上記基材シート上に塗布・乾燥する際に、ムラなどが生じやすくなる場合があるからである。また、上記範囲よりも多いと、例えば、画像形成の際に染料の染着を妨害し、濃度が低下する場合があるからである。
【0043】
(4)その他
上記以外に、受容層に添加することができる任意の化合物としては、例えば、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、フィラー、顔料、帯電防止剤、可塑剤、熱溶融性物質等を挙げることができる。
上記離型剤としては、シリコーンオイル、リン酸エステル系化合物、フッ素系化合物等、公知のものが挙げられるが、特に、シリコーンオイルが好ましい。
上記シリコーンオイルとしては、エポキシ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、ビニル変性シリコーンオイル、ハイドロジェン変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイルが好ましい。また、エマルジョン化させたシリコーンも好適に用いることができる。上記離型剤は、上述の受容層形成用樹脂100質量部に対して、0.5質量部〜30質量部の範囲内となるように添加されることが好ましい。
【0044】
(5)受容層
本発明に用いられる受容層の厚みは、上記受容層形成用樹脂の種類に応じて所望の印画濃度を発現できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、なかでも本発明においては、0.5μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、特に1μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、さらに1μm〜15μmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
2.基材シート
次に、本発明に用いられる基材シートについて説明する。本発明に用いられる基材シートは、上述した受容層を支持する機能を有するものである。
以下、このような基材シートについて説明する。
【0046】
本発明に用いられる基材シートとしては、本発明の熱転写受像シートを用いて画像を形成する際の印画温度等に応じて、所望の耐熱性を備えるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、レジンコート紙、樹脂製フィルム基材、および紙製基材等を挙げることができ、なかでもレジンコート紙が好ましい。
【0047】
レジンコート紙は、通常、基紙の両面に基材樹脂層を積層してなるものである。上記基紙を構成する原紙としては、例えば、天然パルプ、合成パルプ、それらの混合物から抄紙されるパルプ紙等を挙げることができ、なかでも木材パルプを主成分とする紙を用いることが好ましい。また、上記原紙は、必要に応じて後述するカレンダー処理等の従来公知の処理を施したものであってもよい。
【0048】
上記基紙は、厚みが10μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、50μm〜300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0049】
上記基紙は、公知の方法によって作製することができるが、原紙に対してカレンダー処理したものが好ましい。原紙にカレンダー処理をした基紙を用いると、平滑度を向上することができ、得られる熱転写受像シートの光沢感を高めることができるからである。
【0050】
上記基材樹脂層を形成するための樹脂としては、ネックインが小さく、ドローダウン性が良好な樹脂であることが好ましく、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン、ポリウレタン等を挙げることができ、耐水性、強度、光沢等に優れたフィルムが得られる点で、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0051】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等を挙げることができ、中でも高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、特にポリプロピレンが好ましい。
【0052】
上記基材樹脂層は、上記樹脂を1種もしくは2種以上混合して得られるフィルムまたはシートであっても良いし、上記樹脂に加え、顔料、充填剤等を加えて成膜したフィルムまたはシートであっても良い。また、上記樹脂は、改質剤等の添加剤を配合し、接着性を向上させたものであっても良い。上記改質剤としては、例えば、タフマー(三井化学社製)等のオレフィン系コポリマー等を挙げることができる。
【0053】
上記レジンコート紙は、例えばドライラミネーション、ウェットラミネーション、エクストリュージョン等の公知の積層方法により作製することができる。上記各層は、層間密着力を向上させることを目的として、その表面に適宜プライマー処理やコロナ放電処理を施すことができる。
【0054】
上記レジンコート紙の厚みは、全体で、例えば10μm〜1000μmの範囲内、中でも50μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0055】
一方、本発明に用いられる樹脂製フィルム基材としては、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等を挙げることができる。なかでも本発明においては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン樹脂を好適に用いることができる。
【0056】
上記樹脂製フィルム基材の厚みとしては、例えば20μm〜100μmの範囲内、中でも、25μm〜60μmの範囲内、特に30μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0057】
本発明に用いられる紙製基材としては、例えば、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、または、サイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙、セルロース繊維紙等を挙げることができる。
【0058】
上記紙製基材の厚みとしては特に限定されるものではないが、例えば80μm〜400μmの範囲内、中でも100μm〜300μmの範囲内、特に100μm〜210μmの範囲内であることが好ましい。
【0059】
3.任意の構成
本発明の熱転写受像シートは、少なくとも上記基材シートと、受容層とを有するものであるが、必要に応じて他の任意の構成を有するものであってもよい。このような他の構成としては、例えば、上記受容層と上記基材シートとの間に形成され、中空粒子および冷却ゲル化剤を含有する多孔質層、上記基材シートと上記多孔質層または受容層との間に形成され、上記基材シートと上記多孔質層または受容層との接着性を向上させる下引き層、および、上記多孔質層が用いられる場合に、上記多孔質層と上記受容層との間に形成され、上記多孔質層と上記受容層との接着性を向上させるプライマー層を挙げることができる。以下、本発明に用いられるこれらの各層について順に説明する。
【0060】
(1)多孔質層
まず、本発明に用いられる多孔質層について説明する。本発明に用いられる多孔質層は、基材シート上に形成されるものであり、中空粒子および冷却ゲル化剤を含むものであり、本発明の熱転写受像シートを用いて画像を形成する際に、サーマルヘッドから受容層に加えられた熱が、基材シート等へ伝熱することによって損失されることを防止する断熱性を有するものである。
【0061】
本発明の熱転写受像シートにこのような多孔質層が用いられている場合について、図を参照しながら説明する。図2は本発明の熱転写受像シートに多孔質層が用いられている場合の一例を示す概略図である。図2に例示するように、本発明の熱転写受像シート10は、基材シート1と、受容層2との間に多孔質層3が形成されたものであってもよい。
【0062】
本発明の熱転写受像シートに、このような多孔質層が用いられることにより、当該多孔質層の断熱性の寄与によって、本発明の熱転写受像シートをより印画特性に優れたものにできる。このため、本発明の熱転写受像シートには、多孔質層が用いられることが特に好ましいものである。
以下、このような多孔質層について説明する。
【0063】
(中空粒子)
まず、本発明に用いられる中空粒子について説明する。本発明に用いられる中空粒子は多孔質層に断熱性を付与する機能を有するものである。また、本発明に用いられる中空粒子は、多孔質層にクッション性を付与する機能を有するものである。
【0064】
本発明に用いられる中空粒子としては、多孔質層に所望の断熱性およびクッション性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。したがって、本発明に用いられる中空粒子は発泡粒子であってもよく、あるいは、非発泡粒子であってもよい。また、上記発泡粒子は、独立発泡粒子であってもよく、あるいは、連続発泡粒子であってもよい。さらに、本発明に用いられる中空粒子は、樹脂等から構成される有機系中空粒子であってもよく、ガラス等から構成される無機系中空粒子であってもよい。また、上記中空粒子は、架橋中空粒子であってもよい。
【0065】
上記中空粒子を構成する樹脂としては、例えば、架橋スチレン−アクリル樹脂等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル−アクリル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂等を挙げることができる。
【0066】
上記中空粒子の平均粒径は、中空粒子を構成する樹脂の種類等に応じて、多孔質層に所望の断熱性およびクッション性を付与できる範囲であれば特に限定されるものではないが、通常、0.1μm〜15μmの範囲内であることが好ましく、特に0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。平均粒径が小さすぎると、中空粒子の使用量が増えコストが高くなり、平均粒径が大きすぎると、平滑な多孔質層を形成することが困難になるからである。
【0067】
本発明において、多孔質層に含まれる中空粒子の量としては、所望の断熱性およびクッション性を有する多孔質層を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば30質量%〜90質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも50質量%〜80質量%の範囲内であることが好ましい。含有量が少なすぎると、多孔質層における空隙が少なくなり、充分な断熱性およびクッション性が得られない場合があり、含有量が多すぎると、接着性が劣るからである。
【0068】
また本発明において、多孔質層中に含有される中空粒子と、後述する冷却ゲル化剤との割合は、所望の断熱性を有する多孔質層を形成することができれば特に限定されるものではない。なかでも、本発明においては、冷却ゲル化剤が、多孔質層中の固形分100に対して、重量換算で10〜50の範囲内であることが好ましく、特に10〜40の範囲内であることが好ましく、さらに12〜40の範囲内であることが好ましい。中空粒子と冷却ゲル化剤の含有比が上記範囲内であることにより、断熱性に優れた多孔質層を形成することができるからである。
【0069】
(冷却ゲル化剤)
次に、上記多孔質層に用いられる冷却ゲル化剤について説明する。本発明に用いられる冷却ゲル化剤は、冷却されることによりゲル化する性質を有するものであり、本発明の熱転写受像シートを、基材シート上に、水系の受容層と受容層とを含む複数の層を同時に形成する方法により高効率で製造することを可能にするものである。
ここで、上記多孔質層に用いられる冷却ゲル化剤については、上記「1.受容層」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0070】
(任意の化合物)
本発明に用いられる多孔質層は、少なくとも上記冷却ゲル化剤および中空粒子を含有するものであるが、必要に応じて任意の化合物を含むものであってもよい。上記任意の化合物として多孔質層に含有させることができるものとしては、例えば、多孔質層形成用バインダー、ノニオン系シリコーン系等の界面活性剤、イソシアネート化合物等の硬化剤、濡れ剤、および、分散剤等を挙げることができる。
【0071】
上記多孔質層形成用バインダーとしては、通常、水系樹脂が用いられる。このような水系樹脂としては、例えば、アクリル系ウレタン樹脂等のポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、SBR、NBR、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオイキサイド、ポリビニルピロリドン、プルラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、ポリアクリル酸及びその塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、カゼイン、キサンテンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アラビアゴム、特開平7−195826号公報及び同7−9757号公報に記載のポリアルキレノキサイド系共重合ポリマー、水溶性ポリビニルブチラール、あるいは、特開昭62−245260号公報に記載のカルボキシル基やスルホン酸基を有するビニルモノマーの単独重合体や共重合体等を挙げることができる。また、上記樹脂の2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0072】
(多孔質層)
本発明に用いられる多孔質層は、本発明の熱転写受像シートを用いて画像を形成する際に、サーマルヘッドから受容層に加えられた熱が、基材シート等へ伝熱することによって損失されることを防止する断熱性を有するものである。ここで本発明に用いられる多孔質層が備える断熱性は、本発明の熱転写受像シートの用途等に応じて適宜調整することができるものである。
ここで、多孔質層の断熱性は、例えば、多孔質層の厚みを変更することにより任意の範囲に調整することができる。
【0073】
また、上記多孔質層の断熱性は、多孔質層の空隙率によっても制御することができる。ここで、本発明に用いられる多孔質層の空隙率は、15%〜80%の範囲内であることが好ましい。
なお、上記空隙率は、(中空粒子の空隙率)×(多孔質層における中空粒子の含有率)で表される値を指すものとする。
【0074】
本発明に用いられる多孔質層の厚みは10μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜50μmの範囲内であることがより好ましい。また、上記多孔質層の密度は、例えば0.1g/cm〜0.8g/cmの範囲内、なかでも0.2g/cm〜0.7g/cmの範囲内であることが好ましい。
【0075】
本発明に用いられる多孔質層は、単一の層からなる構成を有するものであってもよく、あるいは、複数の層が積層された構成を有するものであってもよい。ここで、複数の層が積層された構成を有する多孔質層としては、同一組成の層が積層された構成を有するものであってもよく、あるいは、異なる組成の層が積層された構成を有するものであってもよい。なかでも本発明に用いられる多孔質層は、組成の異なる2層が積層された構成を有するものであることが好ましい。このような構成とすることにより、さらに機能的な多孔質層を得ることができるからである。
【0076】
本発明に用いられる多孔質層が2層構造である場合の一例としては、上記多孔質層が、基材シート側から、中空粒子aを含有する多孔質層Aと、および上記中空粒子aよりも中空率の小さな中空粒子bを含有する多孔質層Bとが積層された構成を有するものを挙げることができる。上記多孔質層としてこのような構成を有するものを用いることにより、印画時に、濃度ムラやハイライト部の白抜けを防止することができるという利点がある。
【0077】
(2)下引き層
次に、上記下引き層について説明する。本発明に用いられる下引き層は、上記基材シートと上記多孔質層または受容層との間に形成され、上記基材シートと上記多孔質層との接着性を向上させる機能を有するものである。
【0078】
本発明の熱転写受像シートが上記下引き層を有する場合について図を参照しながら説明する。図3は本発明の熱転写受像シートが、上記下引き層を有する場合の一例を示す概略図である。図3に例示するように、本発明の熱転写受像シート10は、基材シート1と、上記基材シート1上に形成された多孔質層3と、上記多孔質層3上に形成された受容層2と、上記基材シート1および上記多孔質層3との間に形成され、上記基材シート1と上記多孔質層3との接着性を向上させる下引き層4と、を有するものであってもよい。
【0079】
本発明に用いられる下引き層としては、上記基材シートと上記多孔質層との密着性を所望の程度に向上できるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、水系溶媒に分散・溶解な下引き層形成用樹脂を含むものを用いることが好ましい。
ここで、上記下引き層形成用樹脂としては、上記「(1)多孔質層」の項に記載した、多孔質層形成用バインダーとして用いられる水系樹脂と同様のものを用いることができる。
【0080】
また、本発明に用いられる下引き層には冷却ゲル化剤が含まれることが好ましい。下引き層にも冷却ゲル化剤が含まれることにより、本発明の熱転写受像シートを製造する際に、基材シート上に、下引き層、多孔質層および受容層を同時に塗布することが容易になるからである。
ここで、上記冷却ゲル化剤としては、上記「1.受容層」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0081】
上記下引き層として、上記下引き層形成用樹脂と、冷却ゲル化剤とを含むものを用いる場合、下引き層中の下引き層形成用樹脂と、冷却ゲル化剤との比率としては、上記下引き層を形成する際に、下引き層形成用塗工液に所望の粘度特性を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、冷却ゲル化剤が、下引き層形成用塗工液中の固形分を100とした場合、重量換算で1〜100の範囲内であることが好ましく、特に20〜80の範囲内であることが好ましく、さらに25〜75の範囲内であることが好ましい。冷却ゲル化剤の含有比が上記範囲よりも少ないと、例えば、上記受容層形成用塗工液を上記基材シート上に塗布・乾燥する際に、ムラなどが生じやすくなる場合があるからである。また、上記範囲よりも多いと、例えば、他の層との密着性が低下する場合があるからである。
【0082】
なお、本発明に用いられる下引き層には、上記下引き層形成用樹脂および上記冷却ゲル化剤以外に、例えば、ノニオン系シリコーン系等の界面活性剤、イソシアネート化合物等の硬化剤、濡れ材、分散剤等を挙げることができる。上記硬化剤は、例えば、下引き層形成用樹脂として、活性水素を有する熱可塑性樹脂を用いた場合等に特に有効である。
【0083】
(3)プライマー層
次に、本発明に用いられるプライマー層について説明する。本発明に用いられるプライマー層は、上記多孔質層と上記受容層と間に形成され、上記多孔質層と上記受容層との接着性を向上させる機能を有するものである。
【0084】
本発明の熱転写受像シートが上記プライマー層を有する場合について図を参照しながら説明する。図4は本発明の熱転写受像シートが、上記プライマー層を有する場合の一例を示す概略図である。図4に例示するように本発明の熱転写受像シート10は、基材シート1と、上記基材シート1上に形成された多孔質層3と、上記多孔質層3上に形成された受容層2と、上記基材シート1および上記多孔質層3との間に形成され、上記基材シート1と上記多孔質層3との接着性を向上させる下引き層4と、上記多孔質層3と上記受容層2との間に形成され、上記多孔質層3と上記受容層2との接着性を向上させるプライマー層5を有するものであってもよい。
【0085】
本発明に用いられるプライマー層としては、所定の性質を備えるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられるプライマー層は、水系溶媒に分散・溶解可能なプライマー層形成用樹脂を含むものであることが好ましい。
ここで、上記プライマー層形成用樹脂としては、上記「(1)多孔質層」の項に記載した、多孔質層形成用バインダーとして用いられる水系樹脂と同様のものを用いることができる。
【0086】
また、本発明に用いられるプライマー層には冷却ゲル化剤が含まれることが好ましい。下引き層にも冷却ゲル化剤が含まれることにより、本発明の熱転写受像シートを製造する際に、基材シート上に、下引き層、多孔質層および受容層を同時に塗布することが容易になるからである。
ここで、上記冷却ゲル化剤としては、上記「1.受容層」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0087】
上記プライマー層として、上記プライマー層形成用樹脂と、冷却ゲル化剤とを含むものを用いる場合、プライマー層中の下引き層形成用樹脂と、冷却ゲル化剤との比率としては、上記プライマー層を形成する際に、プライマー層形成用塗工液に所望の粘度特性を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、冷却ゲル化剤が、プライマー層形成用樹脂に対して、重量換算でプライマー層形成用塗工液中の固形分を100とした場合、重量換算で1〜100の範囲内であることが好ましく、特に3〜80の範囲内であることが好ましく、さらに5〜75の範囲内であることが好ましい。冷却ゲル化剤の含有比が上記範囲よりも少ないと、例えば、上記受容層形成用塗工液を上記基材シート上に塗布・乾燥する際に、ムラなどが生じやすくなる場合があるからである。また、上記範囲よりも多いと、例えば、他の層との密着性が低下する場合があるからである。
【0088】
なお、本発明に用いられるプライマー層には、上記プライマー層形成用樹脂および上記冷却ゲル化剤以外に、例えば、ノニオン系シリコーン系等の界面活性剤、イソシアネート化合物等の硬化剤、濡れ剤、および、分散剤等が含まれていてもよい。
【0089】
5.熱転写受像シートの製造方法
次に、本発明の熱転写受像シートの製造方法について説明する。本発明の熱転写受像シートは、一般的に熱転写受像シートを製造する方法として公知の方法を用いて製造することができる。なかでも本発明の熱転写受像シートの製造方法は、中空粒子および冷却ゲル化剤が水系溶媒に分散・溶解された多孔質層形成用塗工液と、受容層形成用樹脂および冷却ゲル化剤が水系溶媒に分散・溶解された受容層形成用塗工液を用い、スライドコート法によって、基材シート上に上記多孔質層形成用塗工液と、上記受容層形成用塗工液とを同時に塗布する同時多層塗布工程と、上記同時多層塗布工程によって基材シート上に形成された塗膜を冷却する冷却処理工程と、を用いる方法により高効率で製造することができる。
【0090】
上記多層同時塗布工程に好適に用いられるスライドコート法とは、例えば、図5に示すように、熱転写受像シートの各層を構成する複数の塗工液11〜13を上下に重ねた状態のまま、バックロール14に巻きつけた基材シート15に塗布する方法である。塗工品質の観点から見ると、スライドコート法は、膜厚均一性に優れ、回転部がないため塗工液の飛散による品質不良が発生しにくく、摩擦部がないため塗布部での原反切れに発生によるロスが発生しにくいという利点を有する。また、塗工液のハンドリング性の観点から見ると、スライドコート法は、塗工液の濃度、粘度、組成が変化しにくく、反応性が高く経時的に変化する塗工液を用いることができ、塗工液を使い切ることができ無駄が生じにくく、高固形分塗工液を用いることができ溶媒使用量を削減することができるという利点を有する。
【0091】
ここで、上記「水系溶媒」とは、水を主成分とする溶媒をいう。水系溶媒における水の割合は、通常60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上記水以外の溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類等を例示することができる。
【0092】
なお、上記スライドコート法においては、多孔質層形成用塗工液および受容層形成用塗工液が互いに混合しないように、通常、両塗工液間の表面張力の差が一定の範囲内となるように調整される。
【0093】
上記同時多層塗布工程において、各塗工液を基材シート上に塗布する際の塗工液の温度は、通常、25℃〜60℃の範囲内とされる。
【0094】
上記冷却処理工程において、基材シート上に形成された塗膜を冷却する方法としては、例えば、冷却された基材シート上に、上記塗膜を塗布する方法、上記基材シートを搬送するロールの表面を冷却し、基材シートを介して上記塗膜を冷却する方法、上記塗膜に冷風を吹き付ける方法、上記塗膜が形成された基材シートを所望の温度以下の室温に調整された冷却ゾーンを通過させる方法等が用いられる。冷却された基材シート上に、上記塗膜を塗布する方法は、上記基材シート上に上記塗膜が塗布された直後に、当該塗膜を強制冷却することができるため、上記多層塗膜を構成する複数の層が混合することを防止できる。
【0095】
上記冷却処理工程において、上記塗膜を強制冷却する温度は、通常、0℃〜常温の範囲内とされる。
【0096】
なお、本発明の熱転写受像シートは、上述した製造方法以外に、例えば、スライドコート法により、基材シート上に多孔質層を含む複数の層を同時に形成した後、別途、上記多孔質層上に受容層を形成する方法によっても製造することができる。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0099】
1.実施例1(熱転写受像シート1作製方法)
基材シートとしてRCペーパー(STF−150、三菱製紙社製)を用い、下記組成の多孔質層形成用塗工液1、受容層形成用塗工液1を40℃に加熱し、スライドコーティングを用いて、乾燥時の厚みがそれぞれ40μm、8μmとなるように塗布し、5℃にて1分間冷却・ゲル化させ、50℃にて5分間乾燥し、熱転写受像シート1を得た。
【0100】
(多孔質層形成用塗工液1)
・中空粒子(HP−91、ロームアンドハース社製) 70重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン社製) 30重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業社製) 0.15重量部
・水 500重量部
【0101】
(受容層形成用塗工液1)
・塩化ビニル系樹脂(ビニブラン690、日信化学工業(株)製) 70重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン(株)製) 20重量部
・ステアリン酸亜鉛(ハイミクロンL−111、中京油脂(株)製) 10重量部
・シリコーンエマルジョン(FZ4658、東レ・ダウコーニング(株)製)10重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業(株)製) 3重量部
・水 400重量部
【0102】
2.実施例2(熱転写受像シート2作製方法)
受容層形成用塗工液1に代えて、以下の組成を有する受容層用塗工液2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により熱転写受像シート2を作製した。
【0103】
(受容層形成用塗工液2)
・塩化ビニル系樹脂(ビニブラン690、日信化学工業(株)製) 60重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン(株)製) 20重量部
・ステアリン酸亜鉛(ハイミクロンL−111、中京油脂(株)製) 20重量部
・シリコーンエマルジョン(FZ4658、東レ・ダウコーニング(株)製)10重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業(株)製) 3重量部
・水 400重量部
【0104】
3.実施例3(熱転写受像シート3作製方法)
受容層形成用塗工液1に代えて、以下の組成を有する受容層用塗工液3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により熱転写受像シート3を作製した。
【0105】
(受容層形成用塗工液3)
・塩化ビニル系樹脂(ビニブラン690、日信化学工業(株)製) 50重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン(株)製) 20重量部
・ステアリン酸亜鉛(ハイミクロンL−111、中京油脂(株)製) 30重量部
・シリコーンエマルジョン(FZ4658、東レ・ダウコーニング(株)製)10重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業(株)製) 3重量部
・水 400重量部
【0106】
4.実施例4(熱転写受像シート4作製方法)
受容層形成用塗工液1に代えて、以下の組成を有する受容層用塗工液4を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により熱転写受像シート4を作製した。
【0107】
(受容層形成用塗工液4)
・塩化ビニル系樹脂(ビニブラン690、日信化学工業(株)製) 60重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン(株)製) 20重量部
・ステアリン酸マグネシウム(川村化成工業(株)製) 20重量部
・シリコーンエマルジョン(FZ4658、東レ・ダウコーニング(株)製)10重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業(株)製) 3重量部
・水 400重量部
【0108】
5.比較例1(熱転写受像シート5作製方法)
受容層形成用塗工液1に代えて、以下の組成を有する受容層用塗工液5を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により熱転写受像シート2を作製した。
【0109】
(受容層形成用塗工液5)
・塩化ビニル系樹脂(ビニブラン690、日信化学工業(株)製) 80重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン(株)製) 20重量部
・シリコーンエマルジョン(FZ4658、東レ・ダウコーニング(株)製)10重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業(株)製) 3重量部
・水 400重量部
【0110】
6.比較例2(熱転写受像シート6作製方法)
受容層形成用塗工液1に代えて、以下の組成を有する受容層用塗工液6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により熱転写受像シート6を作製した。
【0111】
(受容層形成用塗工液6)
・塩化ビニル系樹脂(ビニブラン690、日信化学工業(株)製) 60重量部
・ゼラチン(RR、新田ゼラチン(株)製) 20重量部
・ケミパールW900(オレフィンワックス、三井化学(株)製) 20重量部
・シリコーンエマルジョン(FZ4658、東レ・ダウコーニング(株)製)10重量部
・界面活性剤(サーフィノール440、日信化学工業(株)製) 3重量部
・水 400重量部
【0112】
7.評価
上記実施例および比較例で作製した熱転写受像シートについて以下の評価を行った。
【0113】
<印画濃度>
昇華型熱転写プリンターCP−720(キヤノン(株)製)にて、熱転写受像シートにブラックの18ステップに分割された画像の印画を行った。
【0114】
<印画濃度測定方法>
光学濃度計(グレタグマクベス社製 spectrolino)による光学反射濃度が最大となる値を測定した。
【0115】
<離型性>
昇華型熱転写プリンターCP−720(キヤノン(株)製)にて、熱転写受像シートに黒ベタ画像を印画し、その際の剥離音を官能評価した。剥離音が大きいと離型性が悪いと判断した。剥離音がしているのは、インクリボン層と受容層樹脂が印画時の熱で融着して、インクリボンの巻上げの力によって、かろうじて剥離している状態であるためである。
【0116】
<官能評価の基準>
○:剥離音がない
×:剥離音がする
【0117】
以上の評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
比較例1では、金属石鹸を用いていないため、離型性が悪い。比較例2では、離型性向上は見られるが、濃度が低下している。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の熱転写受像シートの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の熱転写受像シートの他の例を示す概略図である。
【図3】本発明の熱転写受像シートの他の例を示す概略図である。
【図4】本発明の熱転写受像シートの他の例を示す概略図である。
【図5】スライドコート法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0121】
1,15 … 基材シート
2 … 受容層
3 … 多孔質層
4 … 下引き層
5 … プライマー層
10 … 熱転写受像シート
11,12,13 … 塗工液
14 … バックロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、
前記基材シート上に形成され、染料染着性を有し、かつ水系溶媒に分散・溶解可能な受容層形成用樹脂および冷却ゲル化剤を含有する受容層と、を備える熱転写受像シートであって、
前記受容層に金属せっけんが含まれることを特徴とする、熱転写受像シート。
【請求項2】
前記金属せっけんが、炭素数10以上の脂肪酸塩を含有するものであることを特徴とする、請求項1に記載の熱転写受像シート。
【請求項3】
前記受容層中における前記金属せっけんの含有量が、固形分比率で5質量%〜30質量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱転写受像シート。
【請求項4】
前記基材シートと、前記受容層との間に、中空粒子および冷却ゲル化剤を含有する多孔質層を有することを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の熱転写受像シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−83328(P2009−83328A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256816(P2007−256816)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】