説明

熱転写受容シート及びその製造方法

【課題】高温高湿度下の画像保存安定性向上。
【解決手段】支持体2、中間層3、染料受容層4を有する熱転写受容シートであり、中間層3は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と第4級アンモニウムイオンを導入した膨潤性雲母層間から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱により熱転写シートから転写される染料を受容する染料受容層が中間層を介して支持体上に形成された熱転写受容シートに関するものであり、更に詳しくは、染料受容層に形成された画像の保存性が改善され、特に高温高湿度環境下で色滲みや染料裏抜けが無い熱転写受容シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華型感熱転写記録技術は、非銀塩写真プロセス、非電子写真プロセスで画像を形成するが、小型、保守性、即時性を備え、銀塩カラー写真画像に近い画像を形成することができる画像形成技術である。昇華型感熱転写記録技術の画像形成の原理は、サーマルヘッドに対し、画像信号により制御された熱エネルギが加わり、サーマルヘッドからの熱エネルギに応じて熱転写シート上の色材が相変化(溶融又は昇華)し、熱転写受容シート上に色材が転移して、階調を含む画像を形成するものである。この記録方式は、使用する色材が染料であることから非常に鮮明であり、かつ透明性に優れているため、得られた画像は中間色の再現性や諧調性に優れ、銀塩写真に匹敵する画像を形成することが可能である。
【0003】
近年のコンピュータの家庭への普及に伴い、昇華型感熱転写記録方式、インクジェット記録方式をはじめとする種々の記録方式は、ホームユースへの応用が盛んに行われている。また、近年のディジタルカメラの急速な普及により、高画質で銀塩写真に匹敵する写真プリントへの要望が急速に拡大している。
【0004】
高画質プリントを行うには、種々の特性が要求される。要求特性の一つとしては、印画後の画像保存安定性が挙げられる。これは、熱転写受容シートでは、染料受容層に対して転写された染料が経時で拡散していくからである。染料の拡散は、印画濃度の低下、色滲み、裏抜けといった画像保存安定性の悪化につながる。
【0005】
色滲み、裏抜けは、支持体に中空粒子層を積層してなる熱転写受容シートの場合においては特に顕在となる。このような熱転写受容シートとしては、例えば、下記の特許文献1に記載されているような、加熱により、軟化且つ膨張可能な樹脂球体中に、加熱されてガス化する膨張剤を内包してなるマイクロカプセル状発泡体を予め膨張させた膨張済みの中空粒子バルーンにより形成された微小気孔を有する樹脂層を断熱層として基体上に設け、この断熱層上に昇華性染料を吸着する染料受容層を設けた昇華転写用被転写紙がある。
【0006】
更に、支持体にセルロースパルプを主成分とする紙基材を用いた場合には、湿度の影響をより大きく受けることとなるため、高温高湿度環境下で保存された場合の色滲み、裏抜けは加速度的に進行することとなる。
【0007】
これらの課題を解決するために、特許文献2、3には、一定の溶解性パラメータを有する熱可塑性樹脂や、特定のポリウレタン樹脂を含む中間層を基材と受容層との間に設けることが記載されている。しかしながら、中間層を形成する樹脂は、溶剤可溶性であり、染料画像の長期保存性については必ずしも十分ではない。
【0008】
また、特許文献4には、支持体に形成されたフィルム層と画像受容層との間に、ポリエステル系樹脂、ナイロン6樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、及びポリウレタン系樹脂から選択される樹脂であり、且つJIS K 7126に基づく酸素透過係数が60以下である高分子樹脂を主成分とする染料バリア層を設けた熱転写受容シートが記載されている。しかしながら、染料バリア層の樹脂は、フィルム層に対し塗工されて形成された場合には十分な性能を発揮するが、セルロースパルプを主成分とする支持体上に形成された場合には十分な性能を発揮せず、また印画紙の割れ等の問題が発生する。
【0009】
特許文献5には、基材シートの一方の面に中間層と染料受容層とを順次積層してなる熱転写受容シートが記載されており、この中間層は平均粒径が6.0μm以下で厚みが粒径の半分以下の扁平粒子を含有する樹脂層であることが記載されている。
【0010】
しかしながら、この方法であっても、扁平粒子が中間層塗工液に十分に分散しておらず、塗工液としての安定性に問題があり、且つ分散が不十分なゆえに十分な色滲み防止性を発揮できない。
【0011】
また、特許文献6、7には、受容層と支持体の間に中間層を設けた熱転写用受像シートが記載されており、中間層にエチレンとビニルアルコールのモル比を25/75〜50/50の範囲とするエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有することが記載されている。
【0012】
しかしながら、この方法では、中間層が湿度の影響を受けやすく、長期にわたる高温高湿度環境下における保存性に問題が生じる。
【0013】
また、特許文献8には、支持体の少なくとも一面に、バリア層、画像受容層を順次積層した熱転写受容シートが記載されている。バリア層は、膨潤性無機層状化合物と水溶性高分子化合物を主成分とする。特許文献8の膨潤性無機層状化合物は、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物に対する分散性は問題ないが、耐湿度性を向上させるためエチレン-ビニルアルコールを用いた場合、分散性は不十分であり、結果として十分なバリア性を発揮できない。
【0014】
上述したように、熱転写受容シートでは、印画後の画像保存安定性を良好にするために、様々の方法があるが、これらの方法では十分に滲みや裏抜けを防止できず、特に、高温高湿環境下における滲みや裏抜け、更には、支持体にセルロースパルプを主成分とする紙類を用いた場合の滲みや裏抜けを防止することが困難である。これにより、熱転写受容シートでは、印画後の画像保存安定性が良好とならず、形成した画像を良好な状態で維持することが困難である。
【0015】
【特許文献1】特開昭63−87286号公報
【特許文献2】特開平7−68953号公報
【特許文献3】特開平8−276669号公報
【特許文献4】特開2004−314378号公報
【特許文献5】特開2003−034084号公報
【特許文献6】特開平7−089244号公報
【特許文献7】特開平7−179065号公報
【特許文献8】特開2004−284347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、印画後の画像保存安定性に優れ、特に高温高湿度環境下での画像保存安定性に優れ、色滲み、裏抜けの無い熱転写受容シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る熱転写受容シートは、上述のような課題を解決すべく、支持体の少なくとも一方の面に、中間層が形成され、この中間層上に染料を受容層する染料受容層が積層されたものであり、中間層は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂と無機化合物とを含有し、無機化合物は、膨潤性雲母層間に下記の化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンが導入した有機処理雲母であることを特徴とする。
【0018】
【化1】

【0019】
本発明に係る熱転写受容シートの製造方法は、支持体の少なくとも一方の面に、中間層を形成し、この中間層上に染料を受容する染料受容層を形成する熱転写受容シートを製造する方法であり、膨潤性雲母層間に上記化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入して、膨潤性雲母をへき開した有機処理雲母と、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂とを溶媒中で混合した中間層塗工液を支持体の一方の面に塗工し、乾燥して中間層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂が含有されていることによって、滲みや裏抜けを防止することができ、更にこのエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に、膨潤性雲母がへき開して生成された化学式(1)に示される第4級アンモニウムイオンが導入された有機処理雲母が含有されていることによって、高温高湿度環境下においても、滲みや裏抜けを十分に防止することができる。これにより、本発明では、常温、常湿環境下だけではなく、高温高湿度環境下においても、滲みや裏抜けが無く、印画後の画像保存安定性に優れたものとできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を適用した熱転写受容シート1について図面を参照して詳細に説明する。図1に示す被熱転写シート1は、例えばイエロー、マゼンタ、シアンの3色、又はこの3色に更にブラックを加えた4色の昇華性分散染料、熱溶融性染料又は熱拡散性染料からなる各色の2染料層と、ラミネートフィルム層が順次並設された熱転写シートを備える熱転写プリンタ装置に用いられる。この熱転写プリンタ装置では、被熱転写シート1にカラー画像を形成する場合、熱転写シートと対向する位置に被熱転写シート1を搬送し、被熱転写シート1と熱転写シートとを重ね合わせ、印刷指令情報に基づき、サーマルヘッドを駆動させ、先ずイエローの染料層を選択的に加熱し、イエローの染料を昇華、溶融又は熱拡散させ、被熱転写シート1に転写する。続いて、熱転写プリンタ装置では、イエローと同様に、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の染料を順々に転写し、更に転写された染料で形成された画像上にラミネートフィルムを転写し、被熱転写シート1にフルカラー画像を形成する。この熱転写プリンタ装置では、サーマルヘッドの染料の加熱温度や加熱時間が印刷指令情報に基づいて制御されることによって、連続的な階調の画像を形成することができる。染料が熱転写される被熱転写シート1は、転写された染料を保持することで、長期間、画像を高品質の状態で保持することができる。
【0022】
このように染料が熱転写される被熱転写シート1は、図1に示すように、支持体2上に、画像の画像保存安定性を向上させる中間層3を形成し、この中間層3上に染料を受容する染料受容層4が積層された構造からなる。支持体2は、セルロースパルプを主成分とする紙類や合成樹脂フィルム等を挙げることができる。セルロースパルプを主成分とする紙類としては、上質紙、中質紙、コート紙、樹脂ラミネート紙等を挙げることができる。合成樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート等を挙げることができる。なお、本発明に係る被熱転写シート1は、これらに限定されるものではない。これらの合成樹脂フィルムは、フィルム同士、又は他のフィルムやセルロースパルプを主成分とする紙類との積層貼合による多層フィルムとしても使用可能である。
【0023】
この支持体2上には、色滲みや裏抜けを防止し、特に、高温高湿度環境下における色滲みや裏抜けを防止し、画像保存安定性を向上させるために、中間層3を形成する。
【0024】
中間層3は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂と無機化合物とを含有する。エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、結晶性が非常に高く、分子間の空隙が小さいため、高い染料滲み、裏抜け防止性を発揮する。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、エチレンユニットの存在により耐湿度性が高く、高温高湿度環境下においても高い滲み、裏抜け防止性を発揮する。更に、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、水溶性高分子化合物であるため、中間層塗工液の塗工性を低下させることもない。
【0025】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂とは、エチレンと酢酸ビニルを特定のモル比で混合し、公知のラジカル重合開始剤を添加し溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等により重合させた後、水酸化ナトリウム等でけん化することにより得ることができる。これらの重合法の中でも、平均分子量、分子量分布、組成分布等の制御が容易なことから、溶液重合法により重合することが好ましい。
【0026】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、構成するエチレンとビニルアルコールのモル比が20/80〜60/40であることが好ましく、更に好ましくは25/75〜50/50である。エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂では、エチレンのモル比を20%以上とすることによって、ビニルアルコールユニットが支配的とならず、親水性が高くなり過ぎないため、中間層樹脂として耐湿度性が悪化することを防止できる。また、エチレンのモル比を60%以下とすることによって、ビニルアルコールユニットが減少し過ぎて、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂の結晶性が低下することを防止できるため、色滲み防止性の低下を防止できる。
【0027】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、水溶性高分子化合物として分類されるが、水又は低級アルコールの単独溶媒に対してはほとんど溶解又は分散せず、水とアルコールの混合溶媒に対して溶解性を示す。したがって、中間層塗工液には、水/アルコールの混合溶媒を使用することが好ましい。混合溶媒に用いるアルコールとして好適なものとしては、1−プロパノール又は2−プロパノールを挙げることができ、中間層塗工液をより低粘度に保つために、1−プロパノールがより好ましい。混合溶媒における水/アルコールの混合比は、重量比で10/90〜90/10が好ましく、更に好ましくは30/70〜70/30である。
【0028】
このようなエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂に添加する無機化合物は、膨潤性雲母層間に下記の化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母である。中間層3では、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂にこのような無機化合物を添加することによって、高温高湿度環境下における絶大な色滲みや裏抜け防止効果が得られる。
【0029】
【化2】

【0030】
有機処理雲母は、膨潤性雲母の層間のカリウムやマグネシウム等の陽イオン交換により得られる。有機処理雲母の製造方法は、先ず、第一段階として、膨潤性雲母を水中に分散させて、膨潤性雲母の水分散液を作製する。好適な膨潤性雲母としては、ナトリウム四珪素雲母、カリウム四珪素雲母、ナトリウムテニオライト、リチウムテニオライト等を挙げることができる。膨潤性雲母の合成法としては、水熱合成法と乾式合成法の2通りの合成法を挙げることができるが、中間層3に含有させる膨潤性雲母としては乾式合成法によって製造した膨潤性雲母の方が好ましい。
【0031】
次に、第二段階としては、膨潤性雲母の水分散液に、化学式(1)で示される第四級アンモニウムイオンを添加することで、第4級アンモニウムイオンが導入された有機処理雲母が得られる。
【0032】
第四級アンモニウムイオンとしては、具体的に、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリラウリルメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。なお、本発明に用いる有機処理雲母の製造方法に関しては、特開2001−048523号公報に詳細が開示されている。
【0033】
このようにして得られた膨潤性雲母層間に下記の化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に分散する。具体的に、有機処理を施していない膨潤性雲母をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に含有させた場合には、図2(A)に示すように、1次粒子が層状に積層した状態(2次粒子)で、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に分散する。なお、図2中、膨潤性雲母を符号10で示し、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を符号11で示し、有機処理雲母を符号12で示す。
【0034】
第4級アンモニウムイオンを導入して、有機処理した有機処理雲母をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に含有させた場合には、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を溶媒に溶解又は分散させた溶液中で膨潤性雲母がへき開、即ち膨潤性雲母の粒子層間を解離し、1次粒子の状態で分散するため、図2(B)に示すように、1次粒子の状態で、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に分散する。したがって、支持体2上に形成する中間層3には、1次粒子の状態で有機処理雲母が多数積層して分散することとなる。これにより、有機処理雲母を中間層3に含有させた場合には、有機処理を施していない膨潤性雲母を中間層3に含有させた場合と比べて、有機処理雲母が1次粒子の状態で多数分散して存在するため、有機処理を施していない膨潤性雲母よりも、雲母間の隙間が狭くなる。中間層3では、層中に有機処理雲母が分散されているため、染料が層中を通り抜けにくくなり、染料受容層4から支持体2に向かって染料が移行したり、熱転写受容シート1の面方向に移行することを防止できる。また、中間層3では、膨潤性雲母がへき開することによって、層中に1次粒子の状態で多数分散するため、有機処理を施さず2次粒子の状態で含有させる場合よりも、少ない含有量で染料の移行を十分に防止することができる。
【0035】
また、第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母は、例えばナトリウムを導入したナトリウム四珪素雲母と比較し、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂に対する分散性に優れている。これにより、中間層3では、第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母を用いることによって、ナトリウムを導入したナトリウム四珪素雲母を用いた場合よりも、絶大な滲み防止効果を発揮することができる。
【0036】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂と有機処理雲母の配合比は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂100質量部に対して、有機処理雲母が1〜100質量部であることが好ましく、更に好ましくは5〜50質量部である。
【0037】
中間層3の固形分塗工量は、好ましくは0.1〜10g/mであり、更に好ましくは0.5〜5g/mである。中間層3の固形分塗工量を0.1g/m以上とすることによって、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂を成膜でき、均一な中間層3を形成することができるため、十分な染料滲み及び裏抜けを防止することができる。中間層3の固形分塗工量を10g/m以下とすることによって、滲み防止効果が得られ、コストが高くなり過ぎず、熱転写受容シート1を曲げた際に、染料受容層4表面に割れが発生することを防止できる。
【0038】
このような中間層3は、先ず、水と低級アルコールの混合溶媒に、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂と、膨潤性雲母層間に化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母とを上述した混合比で混合して、有機処理雲母がへき開して分散している中間層塗工液を作製する。次に、作製した中間層塗工液を支持体2の一方の面に、グラビアコータ、ロールコータ、ダイコータ、カーテンコータ、ブレードコータ、ワイヤーブレード等により塗工し、乾燥して形成することにより、1次粒子の状態で有機処理雲母が分散している中間層3を形成することができる。
【0039】
以上のような構成から中間層3は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に、化学式(1)に示される第4級アンモニウムイオンが導入された有機処理雲母が含有されていることによって、常温、常湿環境下に限らず、高温高湿度環境下においても、染料受容層4から支持体2側に向かって移行、又は熱転写シート1の面方向に移行することをより防止でき、滲みや裏抜けを十分に防止することができる。
【0040】
中間層3上に積層される染料受容層4は、熱転写シートから転写された染料を受容し、染料を保持する。染料受容層4に求められる条件は、熱転写シートから転写される染料との相溶性に優れていること、転写後の熱転写シートの剥離性に優れていること、熱転写シートから転写された画像を保護するラミネート層を形成する樹脂との相溶性が優れていること等を挙げることができる。これらの特性を満たす染料受容層4の樹脂として好適なものとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。なお、染料受容層4の樹脂としては、これらに限定されるものではない。また、染料受容層4には、これらの樹脂に対して、必要に応じ架橋剤、離型剤、フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0041】
染料受容層4の固形分塗工量は、好ましくは1〜15g/mであり、更に好ましくは2〜10g/mである。染料受容層4の固形分塗工量を1g/m以上とすることによって、染料受容層塗工液の成膜性が良好となり、支持体2や中間層3の凹凸の影響を受けずに、平滑な染料受容層4を形成することができる。また、染料受容層4の固形分塗工量を15g/m以下とすることによって、サーマルヘッドから加えられた熱エネルギの断熱効果が低下せず、印画濃度の低下や染料受容層4の割れ、カール等の種々の問題が発生することを防止できる。
【0042】
以上のような構成からなる熱転写受容シートは、支持体3上に、溶媒中に、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂と膨潤性雲母間に化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母とを混合した中間層塗工液をグラビアコータ等により塗工し、乾燥して中間層3を形成し、中間層3上に、溶媒中に、上記樹脂と必要に応じて添加剤を加えて作製した染料受容層塗工液をグラビアコータ等により塗工し、乾燥して、染料受容層4を形成し、作製することができる。
【0043】
なお、熱転写受容シート1では、図3に示すように、支持体2と中間層3との間に、中空粒子を含有する中空粒子層5を積層することが好ましい。
【0044】
中空粒子層5は、中空粒子がバインダ樹脂中に分散された構成からなる。中空粒子としては、低沸点炭化水素をコアとし、塩化ビニリデン、アクリロニトリルなどの熱可塑性樹脂の殻壁でマイクロカプセル化したもの、例えばダイフォーム(大日精化工業株式会社)、アドバンセル(積水化学工業株式会社)、マツモトマイクロスフェアーF(松本油脂製薬株式会社)を挙げることができる。なお、中空粒子としては、これらに限定されるものではない。また、これらの中空粒子は、未発泡の状態で中空粒子層塗工液に含有させ、中空粒子層塗工液を支持体2上に塗工し、後の乾燥工程で発泡させる、又は予め発泡させた状態で中空粒子層塗工液に含有させてもよい。
【0045】
中空粒子層5に用いるバインダ樹脂としては、水溶性高分子化合物又は水に対し分散した樹脂が好ましく、例えばポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アクリル系エマルジョン、アクリル酸エステル系エマルジョン、スチレン−アクリル系エマルジョン、スチレン-ブタジエン系ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ラテックス等を用いることができる。なお、バインダ樹脂としては、これに限定されるものではない。
【0046】
中空粒子層5の固形分塗工量は、好ましくは1〜100g/mであり、更に好ましくは5〜50g/mである。中空粒子層5の固形分塗工量を1g/m以上とすることによって、十分な断熱性、クッション性が得られる。中空粒子層5の固形分塗工量を100g/m以下とすることによって、効果が飽和せず、コストが高くならずに中空粒子層5を形成することができる。中空粒子層5は、溶媒中に中空粒子と樹脂を添加して作製した中空粒子層塗工液を支持体2上に、グラビアコータ、ロールコータ、ダイコータ、カーテンコータ、ブレードコータ、ワイヤーブレード等により塗工し、乾燥して形成する。
【0047】
また、熱転写受容シート1では、必要に応じて、図3に示すように、支持体2の染料受容層4等が形成されている面とは反対側の裏面にバックコート層6を設けてもよい。このバックコート層6は、染料受容層4と接触した際の染料受容層4の傷つきを防止し、帯電防止性、カール矯正、印画時に熱転写プリンタ装置内における搬送性を向上させることを目的とする。
【0048】
バックコート層6は、樹脂とフィラーから構成される。樹脂として好適なものとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等を挙げることができる。フィラーとして好適なものとしては、種々の有機、無機フィラーを挙げることができる。有機フィラーの代表的なものとしては、ナイロンフィラー、セルロースフィラー、ベンゾグアナミンフィラー、スチレンフィラー、アクリルフィラー、シリコンフィラー等を挙げることができる。無機フィラーの代表的なものとしては、シリカ、タルク、クレー、カオリン、マイカ、スメクタイト、硫酸バリウム、二酸化チタン、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0049】
以上のような構成からなる熱転写受容シート1は、支持体2上に、中間層3を介して染料受容層4を積層し、中間層3をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母をへき開させて多数分散させて形成することによって、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂及び有機処理雲母によって、染料受容層4中の染料が中間層3を通りにくくなり、染料が染料受容層4から支持体2側に移行することや染料が面方向に移行することを防止できる。これにより、この熱転写受容シート1では、染料滲みや裏抜けを防止でき、特に、高温高湿環境下における滲みや裏抜けを十分に防止でき、印画後の画像保存安定性が優れたものとすることができる。
【0050】
また、熱転写受容シート1では、染料が支持体2側に移行することを防止できるため、画像の印画濃度が低下することを防止できる。
【0051】
また、熱転写受容シート1では、中空粒子層5を設けても、染料層4と中空粒子層5との間に中間層3が介在していることによって、中空粒子層5を設けることによる裏抜けや滲みが発生することも防止できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の好適な実施例を実験結果に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において、特に断りのない限り「部」は「質量部」を示す。
【0053】
〈実施例1〉
実施例1では、支持体上に、中空粒子層、中間層、染料受容層を順に積層した熱転写受容シートを作製した。
【0054】
先ず、支持体として厚さ150μmのアート紙を使用し、その片面に下記の表1に示す組成の中空粒子層塗工液を固形分塗工量40g/mとなるよう塗工し、乾燥させて中空粒子層を形成した。
【0055】
【表1】

【0056】
次に、中空粒子層塗工液を塗工、乾燥して中空粒子層を形成した後の支持体に対し、下記の表2の組成の中間層塗工液−1を固形分塗工量2g/mとなるよう塗工し、乾燥させて中間層を形成した。
【0057】
【表2】

【0058】
次に、中間層塗工液−1を塗工、乾燥して中間層を形成した後の支持体に対し、下記の表3の組成の染料受容層塗工液を固形分塗工量が5g/mとなるよう塗工し、乾燥させた後、50℃で48時間硬化させて、染料受容層を形成して、熱転写受容シートを作製した。
【0059】
【表3】

【0060】
〈実施例2〉
実施例2では、中間層を下記の表4の組成の中間層塗工液−2を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は、実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0061】
【表4】

【0062】
〈実施例3〉
実施例3では、中間層を下記の表5の組成の中間層塗工液−3を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0063】
【表5】

【0064】
〈実施例4〉
実施例4では、中間層を下記の表6の組成の中間層塗工液−4を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0065】
【表6】

【0066】
〈実施例5〉
実施例5では、中間層を下記の表7の組成の中間層塗工液−5を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0067】
【表7】

【0068】
〈比較例1〉
比較例1では、中間層を下記の表8の組成の中間層塗工液−6を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0069】
【表8】

【0070】
〈比較例2〉
比較例2では、中間層を下記の表9の組成の中間層塗工液−7を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0071】
【表9】

【0072】
〈比較例3〉
比較例3では、中間層を下記の表10の組成の中間層塗工液−8を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0073】
【表10】

【0074】
〈比較例4〉
比較例4では、中間層を下記の表11の組成の中間層塗工液−9を用いて、実施例1の中間層と同様に形成した。支持体、中空粒子層、染料受容層は実施例1と同様の組成・手法で形成し、熱転写受容シートを作製した。
【0075】
【表11】

【0076】
以上、実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例4の熱転写受容シートの断面観察を行い、中間層の含有させた有機処理雲母、膨潤性雲母、非膨潤性雲母(無機化合物)の厚みをX線回折にて測定した。続いて、下記の方法で「裏抜け評価」「滲み評価」を実施した。結果を表12に示す。
【0077】
【表12】

【0078】
各実施例及び比較例の熱転写受容シートに対し、デジタルフォトプリンタ(UP−CR10L、ソニー株式会社)とイエロー、マゼンタ、シアンの各染料インク層を有するインクリボン(2UPC−C15、ソニー株式会社)を用いて、裏抜け及び滲み評価を行うために印画を行った。
【0079】
裏抜けの評価は、上記印画条件で、印画パターンとして黒ベタ画像を印画した後に、60℃85%RH環境下で2週間保存し、保存試験後の各実施例及び比較例の熱転写受容シートについて裏面から目視による裏抜け防止性の評価を行った。中間層の染料裏抜け防止性が優れている場合には、裏面に染料の染着が観察されない。裏抜け防止性が不十分な場合には、裏面が染料で染着されることとなる。評価は、下記基準にて良いものから順にA、B、Cの3段階評価とした。
【0080】
評価基準
A:熱転写受容シートの裏面に染料の染着が確認されない。
B:熱転写受容シートの裏面に染料の染着がわずかに確認された。
C:熱転写受容シートの裏面に染料の染着が確認された。
【0081】
滲み評価は、上記印画条件で、印画パターンとして線幅0.5mm(黒ベタ)のパターンを印画した後に、60℃85%RH環境下で2週間保存し、線幅の増幅率を測定した。保存後、線幅に変化が見られなかった場合は、増幅率0%となり、色滲みにより線幅が増幅している場合は、数値が高くなる。線幅増幅率の測定には、マイクロデンシトメータ(245型、株式会社阿部設計)を用いた。
【0082】
表12に示す結果から、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂に有機処理雲母が分散されている中間層を有する実施例1〜実施例5の熱転写受容シートでは、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂に膨潤性雲母や非膨潤性雲母が分散されている中間層を有する比較例1〜比較例4と比べて、高温高湿度環境下で保存した後であっても、裏抜けがなく、線幅の増幅も小さく、滲みも防止できた。
【0083】
実施例1〜実施例5の熱転写受容シートでは、中間層がエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中にへき開して1次粒子の状態の有機処理雲母が多数分散されて形成されていることによって、染料受容層に転写された染料が中間層中を通り抜けにくくなり、高温高湿度環境下において、染料受容層から支持体側に染料が移行せず、また面方向への移行も防止でき、裏抜けや滲みを防止することができた。
【0084】
一方、比較例1〜比較例4の熱転写受容シートでは、中間層がエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に2次粒子の状態で膨潤性雲母や非膨潤性雲母が分散されて形成されていることによって、へき開して1次粒子の状態の有機処理雲母が多数分散されている状態よりも、雲母間の隙間が広く、染料受容層に転写された染料が中間層を通り抜けやすくなり、高温高湿度環境下において、裏抜けや滲みが生じた。
【0085】
以上のことから、熱転写受容シートにおいて、支持体と染料受容層との間に中間層を設け、その中間層をエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に有機処理雲母を分散させて形成することは、高温高湿度環境下において裏抜けや滲みを防止する上で重要であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明を適用した熱転写受容シートの断面図である。
【図2】図2(A)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に有機処理を施していない膨潤性雲母が分散している状態を示す断面図であり、図2(B)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂中に有機処理雲母が分散している状態を示す断面図である。
【図3】同熱転写受容シートの支持体と中間層との間に、中空粒子層を設け、支持体の裏面に、バックコート層を設けた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 被熱転写シート、2 支持体、3 中間層、4 染料受容層、5 中空粒子層、6 バックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも一方の面に、中間層が形成され、この中間層上に染料を受容する染料受容層が積層された熱転写受容シートにおいて、
上記中間層は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂と無機化合物とを含有し、
上記無機化合物は、膨潤性雲母層間に下記の化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入した有機処理雲母であることを特徴とする熱転写受容シート。
【化1】

【請求項2】
上記支持体と上記中間層との間に、中空粒子を含有する中空粒子層を積層してなることを特徴とする請求項1記載の熱転写受容シート。
【請求項3】
上記支持体は、セルロースパルプを主成分とするシート状であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の熱転写受容シート。
【請求項4】
支持体の少なくとも一方の面に、中間層を形成し、この中間層上に染料を受容する染料受容層を形成する熱転写受容シートの製造方法において、
膨潤性雲母層間に下記の化学式(1)で示される第4級アンモニウムイオンを導入して、上記膨潤性雲母をへき開した有機処理雲母と、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂とを溶媒中で混合した中間層塗工液を支持体の一方の面に塗工し、乾燥して上記中間層を形成することを特徴とする熱転写受容シートの製造方法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−143183(P2009−143183A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325122(P2007−325122)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】