説明

熱音響機関

【課題】従来のループ管と共鳴管を備える熱音響機関に比較して、低温駆動を可能とする熱音響機関を提供する。
【解決手段】作動気体が封入される環状のループ管10と、ループ管10に連通して一端が接続された共鳴管11と、を有し、作動気体を加熱および冷却する蓄熱器21と、蓄熱器21の一端部(高温部21b)を加熱する加熱器22と、蓄熱器21の他端部(常温部21a)の熱を外部に放出する冷却器23と、を備え、蓄熱器21の両端部間に温度勾配を形成して作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関1であって、ループ管10は、ループ管10の他の部位よりも内径が大きい拡大管部15を有し、拡大管部15は、拡大管部15における冷却器23側の先端が、冷却器23における蓄熱器21と反対側の先端からループ管10の管路方向の長さの1/4以下の長さの部位に位置するように設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ管と共鳴管を備える熱音響機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化やエネルギ問題が深刻化してきている。工場や車両において発生する膨大な廃熱や、太陽光エネルギを高効率で回収することが可能であれば、地球温暖化やエネルギ問題を解決するための切り札となる。そこで、これらのエネルギを回収し、動力化するために、熱音響機関に関する研究が活発に行われている。
【0003】
熱音響機関は、管内に生じる自励振動を利用したものである。すなわち、管内に狭い流路の束(以下、蓄熱器と称する)を設置し、蓄熱器両端の温度比をある臨界値以上にすると、管内の流体が自励振動を起こす。この作用は熱力学的には可動部品の無い原動機と見ることができ、この作用を用いたものが熱音響機関である(例えば、特許文献1、2参照)。熱音響機関はスターリングサイクルで駆動する外燃機関であるために、太陽光や工業廃熱等、あらゆる熱源から高効率で仕事を取り出せる可能性がある。また音波を利用して熱交換するシンプルな構成である為に、通常のスターリングエンジンと違い、ピストン、タービン等の可動部品を全く必要とせず、安価、長寿命、メンテナンスフリーという利点を有する。
【0004】
ここで、近年において実用化を目指して研究が行われている代表的な熱音響機関(例えば、非特許文献1参照)の構成を図6に示す。図6(a)に示す熱音響発電機500は、ループ管100と共鳴管111とを備える。そして、ループ管100内には、原動機200を構成する、蓄熱器210、加熱器220および冷却器230を備え、共鳴管111の先端には発電機(リニア発電機)300を備える。熱音響発電機500においては、蓄熱器210に温度勾配を与えると、音波である自励振動(すなわち熱音響自励振動)が励起され、この音の振動エネルギ(すなわち音響エネルギ)Eをリニア発電機300で電力に変換する。熱音響発電機500は廃熱利用発電機やソーラーパネルを超える高効率太陽光発電機としての利用が想定されている。
【0005】
一方、冷房や保冷庫、極低温を生成する装置として図6(b)に示す熱音響冷凍機600(例えば、非特許文献2参照)の研究も活発に行われている。熱音響冷凍機600は、2つのループ管100,120と共鳴管111とを備える。そしてループ管100内には、原動機200を構成する、蓄熱器210、加熱器220および冷却器230を備え、ループ管120内には、冷凍機400を構成する、冷凍用蓄熱器410、冷気放出器420および冷凍用冷却器430を備える。熱音響冷凍機600では、一方のループ管100内に設置した蓄熱器210に温度勾配を与えると自励振動が励起される。この自励振動による音響エネルギEは、共鳴管111を通じてもう一方のループ管120に流れ込み、逆スターリングサイクルを実行することで冷凍用蓄熱器410を冷凍作動させる。このような管内音波である自励振動を使って低温生成を行う熱音響冷凍機600には、パルス管冷凍機を超えるポテンシャルがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−118728号公報
【特許文献2】特開2009−74734号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Backhaus, E.Tward and M.Petach, Appl.Phys.Lett., Vol.85, pp.1085-1087(2004)、図4
【非特許文献1】M. Miwa, T. Sumi, T. Biwa, Y. Ueda and T. Yazaki, Ultrasonics, 44, e1527-e1529(2006)、図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、熱音響機関は高い理論熱効率と広い応用範囲、さらにはシンプルかつ安価であるというメリットを有する。しかしながら、一般的にその発振温度(駆動温度)は400〜600℃程度であり、現実の自動車や工場において発生する100〜300℃程度の廃熱の温度と比較して格段に高温である。そのため現段階では、前記した熱音響機関を「廃熱を回収する」という用途に使用することは難しく、実用化はなされていない。しかしながら低温駆動を可能とすることができれば、熱電変換素子を超える超高効率熱エネルギ変換デバイスとして、一般社会に熱音響機関の普及が急速に進むと考えられる。
【0009】
本発明はこのような背景のもとになされたものであり、従来のループ管と共鳴管を備える熱音響機関に比較して、低温駆動を可能とする熱音響機関を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る熱音響機関は、作動気体が封入される環状のループ管と、当該ループ管に連通して一端が接続された共鳴管と、を有し、前記ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、を備え、前記蓄熱器の両端部間に温度勾配を形成して前記作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関であって、前記ループ管は、前記冷却器における前記蓄熱器と反対方向の位置に、前記ループ管の他の部位よりも内径が大きい拡大管部を有し、前記拡大管部は、当該拡大管部における前記冷却器側の先端が、前記冷却器における前記蓄熱器と反対側の先端から前記ループ管の管路方向の長さの1/4以下の長さの部位に位置するように設けられていることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、蓄熱器の一端部が加熱器により加熱され、蓄熱器の他端部が冷却器により冷却されることで、蓄熱器の両端部間に温度差、すなわち温度勾配が生じる。そしてこの温度差により、主として作動気体の進行波からなる自励振動(圧力振動)による仕事が生じる。そして、ループ管の所定位置に拡大管部を有することで、自励発振時における発振温度が低下する。なお、自励発振時とは、自励振動が生ずる時のことであり、発振温度とは、熱音響機関が駆動(作動)するときに必要な温度のことである。
【0012】
本発明に係る熱音響機関は、前記拡大管部の管路方向の長さ(すなわち流路方向の長さ)が、前記ループ管全体の管路方向の長さの1/30〜1/5であることが好ましく、また、前記拡大管部の内径(直径)が、前記ループ管の他の部位の内径の1.2〜5倍であることが好ましい。
このような構成によれば、拡大管部の長さや内径を規定することで、発振温度がより低下しやすくなり、また、熱音響機関の体積が増大するのを抑制することができる。
【0013】
本発明に係る熱音響機関は、さらに、前記共鳴管の他端に、前記作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なう発電機を備えることで熱音響発電機とすることができる。
このような構成によれば、作動気体に発生した自励振動による音響エネルギが、発電機によって電気エネルギに変換される。そして、熱音響発電機として、より低温で駆動することができる。
【0014】
本発明に係る熱音響機関は、さらに、前記共鳴管の他端に連通して接続された環状の冷凍用ループ管を有し、前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を冷却する冷凍用蓄熱器と、前記冷凍用蓄熱器の前記自励振動が伝わる一端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の一端部の熱を外部に放出する冷凍用冷却器と、前記冷凍用蓄熱器の他端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の他端部に発生する冷気を外部に放出する冷気放出器と、備えることで熱音響冷凍機とすることができる。
【0015】
このような構成によれば、冷凍用蓄熱器の一端部が冷凍用冷却器により冷却されるとともに、作動気体に発生した自励振動による音響エネルギが、冷凍用蓄熱器に伝達される。これにより、伝達された音響エネルギが冷凍用蓄熱器一端部と冷凍用蓄熱器の他端部との間における温度差に変換される。そして、この冷凍用蓄熱器の両端の温度差によって冷凍用蓄熱器の他端部に発生した冷気が、冷気放出器によって外部に取り出される。そして、熱音響冷凍機として、より低温で駆動することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る拡大管部を設けた熱音響機関によれば、従来のループ管と共鳴管を備える熱音響機関と比較して、拡大管部の著しい体積増大を抑制しつつ、発振温度を大幅に低下させることが可能である。そのため、より低温で駆動させることができる。また、音響エネルギをより大きく励起することが可能であり、さらにエネルギ変換効率の向上が可能である。そして、少ない投入エネルギで発振可能なため、装置全体の小型化が可能であり、また装置全体の体積を減少させることが可能である。
【0017】
また、熱音響発電機として用いた場合、従来のループ管と共鳴管を備える熱音響機関と比較して、発電量の向上が可能である。熱音響冷凍機として用いた場合、従来のループ管と共鳴管を備える熱音響機関と比較して、低温駆動を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る熱音響機関の構成を模式的に示す模式図である。
【図2】本発明に係る熱音響機関を熱音響発電機として用いた場合の模式図である。
【図3】(a)〜(c)は、発電機における発電について説明するための模式図である。
【図4】本発明に係る熱音響機関を熱音響冷凍機として用いた場合の模式図である。
【図5】実施例における、拡大管部の位置と発振温度差の関係を示すグラフである。
【図6】従来の熱音響機関の構成を模式的に示す模式図であり、(a)は、熱音響機関を熱音響発電機として用いた場合の模式図、(b)は、熱音響機関を熱音響冷凍機として用いた場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。
≪熱音響機関≫
図1に示すように、熱音響機関1は、作動気体が封入される環状のループ管10と、ループ管10に連通して一端が接続された共鳴管11と、を有するものである。そして、ループ管10の管路に、原動機20として、蓄熱器21と、加熱器22と、冷却器23と、を備える。さらに、ループ管10は、ループ管10の他の部位よりも内径が大きい拡大管部15を有している。
以下、各構成について説明する。
【0020】
[ループ管10および共鳴管11]
ループ管(原動機用ループ管)10は、作動気体が封入される環状の管であり、その管路は角丸の四角形に形成され、四辺に該当する直線部を形成する直管部10a〜10dからなる。すなわち、縦方向に略平行に並んだ2つの直管部10a、10bと、横方向に略平行に並んだ2つの直管部10c、10dと、を有している。そして、直管部10aの一端と直管部10cの一端、直管部10bの一端と直管部10cの他端、直管部10bの他端と直管部10dの一端が接続されてこの部位で湾曲している。また、直管部10aの他端と直管部10dの他端が接続されるとともに、この部位において、ループ管10に連通して共鳴管11の一端が接続されている。
【0021】
共鳴管11は、作動気体が封入される直線状の管であり、その一端がループ管10に連通して、すなわち作動気体がループ管10と共鳴管11とを通動可能な状態で接続されている。ここで、図1の破線(符号A1)を基準として図1における紙面上、左側の管部がループ管10であり、右側の管部が共鳴管11である。
なお、作動気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ヘリウムとアルゴンとの混合物や空気等がよく用いられる。
【0022】
[原動機]
原動機20は、熱音響機関1の自励振動発生手段として機能するものである。原動機20は、ループ管10内に設けられた蓄熱器21と、蓄熱器21の両端を挟むように設けられた加熱器22および冷却器23とを有している。より具体的には、原動機20は、本実施形態において、ループ管10における共鳴管11が接続されている側、すなわちループ管10の直管部10aの管路に設けられている。そして、加熱器22は蓄熱器21の直管部10d側に配置され、冷却器23はその反対側、すなわち蓄熱器21の直管部10c側に配置されている。
【0023】
(蓄熱器)
蓄熱器(原動機用蓄熱器)21は、ループ管10の管路に設けられ、作動気体を加熱および冷却するものである。
蓄熱器21は、加熱器22および冷却器23によって蓄熱器21の両端部間に温度勾配を形成して作動気体の自励振動を発生させる。すなわち蓄熱器21は、その一端部(以下、適宜、高温部21bと称する)と、その他端部(以下、適宜、常温部(原動機側常温部)21aと称する)との間に生じる温度差を保つことによって、主として作動気体の進行波からなる自励振動(圧力振動)による仕事を発生する機能を有している。蓄熱器21は、例えばループ管10の延在方向(管路方向)に多数の平行通路を有するセラミックス製のハニカム構造体や、多数枚のステンレス鋼メッシュ薄板を微小ピッチで積層した構造体とすることができる。あるいは金属繊維よりなる不織布状物等を用いることも可能である。
【0024】
(加熱器)
加熱器22は、蓄熱器21の一端側に隣接してループ管10の管路に設けられ、蓄熱器21の一端部(高温部21b)を加熱するものである。すなわち加熱器22は、外部熱源を用いて蓄熱器21の一端を加熱する熱入力部として機能する。加熱器22は、例えば、加熱用の熱交換器から構成される。具体的には、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされる。この加熱器22には図示しない加熱装置が接続されており、その外周に設けられた環状部材22aを介して加熱処理される構成とされている。なお、図面では便宜上、蓄熱器21と加熱器22の間に環状部材22aの上壁が示されているが、加熱器22は、この上壁を通して蓄熱器21の一端側と隣接、すなわち密着している。
【0025】
(冷却器)
冷却器23は、蓄熱器21の他端側に隣接してループ管10の管路に設けられ、蓄熱器21の他端部(常温部21a)の熱を外部に放出するものである。すなわち冷却器23は、冷却水や空気等を用いて蓄熱器21の他端の熱を外部に放出して冷却する機能を有している。冷却器23は、例えば、冷却用の熱交換器から構成される。冷却器23としては、基本的には加熱器22と同一構成とされており、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされている。この冷却器23は、その周囲に冷却ブラケット23aが配設されている。この冷却ブラケット23aには図示しない冷却水路が接続されており、冷却水路を流れる冷却水により、冷却器23は冷却ブラケット23aを介して一定の冷却温度を維持しうる構成とされている。なお、図面では便宜上、蓄熱器21と冷却器23の間に冷却ブラケット23aの下壁が示されているが、冷却器23は、この下壁を通して蓄熱器21の他端側と隣接、すなわち密着している。
【0026】
[拡大管部]
拡大管部15は、ループ管10の一部を構成するものであり、ループ管10の他の部位よりも大きい内径を有する。すなわち拡大管部15は、ループ管10の経路中に設けられ、可能な限りその管部の体積増大を抑制しつつ、発振温度の低下効果を最大限発揮させるには、所定の長さおよび所定の内径を有する。この拡大管部15は、冷却器23における蓄熱器21と反対方向の位置に、拡大管部15における冷却器23側の先端が、冷却器23における蓄熱器21と反対側の先端からループ管10の管路方向の長さの1/4以下の長さの部位に位置するように設けることが重要である。例えば、ループ管10の管路方向の長さが1500mmであれば、375mm以下の長さの部位に位置するように設ければよい。ここで、ループ管10の管路方向の長さとは、符号A1の破線部分から、直管部10d、10b、10c、10aを合計した長さ(各直管部の接続部分も含む)である。なお、長さを測定する基準は、ループ管10の直径の中心部を基準とする。
【0027】
すなわち本実施形態では、拡大管部15の最下部、つまり図1における紙面上、ループ管10の時計回りの方向における先端部が、冷却器23の最上部、つまり紙面上、ループ管10の反時計回りの方向における先端部から冷却ブラケット23aの上壁を介して所定距離離間して設けられている。なお、ここでは拡大管部15は、冷却器23の周囲の設けられた冷却ブラケット23aの上壁に隣接することで、冷却器23と所定距離離間している。このように、ループ管10において拡大管部15が適宜の体積で適宜の位置に配置されることで、理由は不明であるが、発振温度を大幅に低下させることができる。
【0028】
ここで前記したように、拡大管部15の配置は、ループ管10の管路方向の長さの1/4以下の長さの部位に位置するように設けられていれば、冷却器23からの距離は限定されるものではない。しかしながら、拡大管部15の位置が冷却器23に近づくほど、発振温度を低下させる効果が高くなる。したがって、拡大管部15における冷却器23側の先端は、冷却器23における蓄熱器21と反対側の先端からループ管10の管路方向の長さの1/10以下の長さの部位に位置するように設けられていることが好ましい。より好ましくは、1/30以下の長さである。
【0029】
さらには、拡大管部15における冷却器23側の先端が、冷却器23における蓄熱器21と反対側の先端から0m、すなわち拡大管部15が冷却器23と隣接、つまり密着して設けられていることが好ましい。拡大管部15と冷却器23とが隣接していることで、発振温度をさらに大幅に低下させることが可能である。なお、ここでは、拡大管部15と冷却器23との間に冷却ブラケット23aの上壁を介しているが、熱音響機関1や冷却器23の形態等によっては、拡大管部15と冷却器23とを直接接合し、拡大管部15が冷却器23と隣接(密着)する構成とすることができる。
【0030】
また、拡大管部15の管路方向の長さLは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば特に限定されるものではないが、ループ管10全体の管路方向の長さの1/30〜1/5であることが好ましい。より好ましくは、1/20〜1/8である。さらには、1/15〜1/9が好ましい。拡大管部15の長さLがこの範囲であれば、発振温度を低下させる効果を向上させやすくなり、また、熱音響機関1の体積が増大しすぎることがない。
【0031】
さらには、拡大管部15の内径も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば特に限定されるものではないが、拡大管部15の内径は、ループ管10の他の部位の内径の1.2〜5倍であることが好ましい。より好ましくは、1.5〜3倍、さらに好ましくは1.5〜2.5倍である。拡大管部15の内径がこの範囲であれば、発振温度を低下させる効果が向上しやすくなり、また、熱音響機関1の体積が増大しすぎることがない。
【0032】
また、拡大管部15の外径も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば特に限定されるものではないが、前記内径の倍率に合わせて、ループ管10の他の部位の外径の1.2〜5倍であることが好ましい。なお、製造上の観点、および、本発明の効果を発揮させやすくする観点から、拡大管部15の肉厚(すなわち外径と内径との差の1/2)は、ループ管10の他の部位の壁厚と同程度とすることが好ましい。
【0033】
本発明の熱音響機関は、主に、熱音響発電機や、熱音響冷凍機として用いられる。
次に、図面を参照して、前記の熱音響機関を用いた熱音響機関の一例として、熱音響発電機および熱音響冷凍機について説明する。
【0034】
<熱音響発電機>
図2に示すように、熱音響発電機50は、前記した熱音響機関1に加え、さらに、共鳴管11の他端に、作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なう発電機(リニア発電機)30を備えるものである。発電機30を備える以外については、前記の熱音響機関1で説明したとおりであるので、ここでは発電機30について説明する。
【0035】
[発電機]
発電機30は、共鳴管11の他端に、ループ管10の一部に連通するかたちで設けられており、作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なうリニア発電機として機能する。すなわち、音響エネルギEである自励振動に基づき内側ヨーク33を往復振動させて、音響エネルギEを電気エネルギに変換するものである。これにより、共鳴管11を通って伝達した音響エネルギEを、内側ヨーク33の往復運動を介して電気エネルギに変換する、いわゆる熱音響発電機50を形成することができる。
【0036】
発電機30は、共鳴管11の他端に接続され、ループ管10および共鳴管11の内部で生じる圧力変動に対応した内部圧力変動を受ける圧力容器39を備えている。圧力容器39内には、外側ヨーク(円筒)31,31と、外側ヨーク31,31にそれぞれ収容されるコイル32,32と、外側ヨーク31,31の間に位置する内側ヨーク(円筒)33と、外側ヨーク31,31のそれぞれと内側ヨーク33との間に設けられた永久磁石34,34と、が備えられている。なお、永久磁石34,34は、それぞれS極とN極の磁石から構成されている。
【0037】
発電機30におけるこのような構造は、コイル32,32を周回する磁束密度の時間変化により電流が発生するという原理に基づいた発電方式を採用している。すなわち、音響エネルギEである自励振動に基づき内側ヨーク33がストロークすることにより、コイル32,32を周回する磁束密度が大きく変化し、発電が行われる。また、内側ヨーク33に突起33aを取り付けることによって、エアギャップを磁束が通過することによる磁束密度の低下を抑止することができる。
【0038】
次に、図3(a)〜(c)を参照して、発電機30による発電について説明する。
図3(a)〜(c)に示すように、内側ヨーク33が中立位置にある状態(図3(b))では、永久磁石34,34を中心として短い磁路のループが形成される(磁路については図示省略)。一方、内側ヨーク33が図3における紙面上、左にストロークして、左位置にある状態(図3(a))、および、内側ヨーク33が図3における紙面上、右にストロークして、右位置にある状態(図3(c))では、コイル32,32を取り囲む長い磁路Mのループが形成される。このとき図3(a)の状態と図3(c)の状態とでは、磁束の方向は逆方向となるため、大きな磁束密度変動が発生し、これにより発電が行われる。
【0039】
このような直線運動を直接電力に変換するリニア発電システムは、変換機構による変換ロスや摩擦損失が根本的に存在しないというメリットがあり、発電機全体を小型化することや、高効率化を期待することができる。また、往復運動のストローク変動が発生するフリーピストン型スターリングエンジンを用いたり、潮力エネルギ、振動エネルギ等を発電に利用したりした場合、振動を回転に変換することが困難であることから、高効率リニア発電機へのニーズは高まっている。
【0040】
<熱音響冷凍機>
図4に示すように、熱音響冷凍機60は、前記した熱音響機関1に加え、さらに、共鳴管11の他端に連通して接続された環状の冷凍用ループ管12を有する。そして、冷凍用ループ管12の管路に、冷凍機40として、冷凍用蓄熱器41と、冷凍用冷却器43と、冷気放出器42と、を備える。冷凍機40を備える以外については、前記の熱音響機関1で説明したとおりであるので、ここでは冷凍機40およびこれを管路に備える冷凍用ループ管12について説明する。
【0041】
[冷凍用ループ管]
冷凍用ループ管12は、作動気体が封入される環状の管であり、その管路は角丸の四角形に形成され、四辺に該当する直線部を形成する直管部12a〜12dからなる。すなわち、四辺に該当する直線部を形成する縦方向に略平行に並んだ2つの直管部12a、12bと、横方向に略平行に並んだ2つの直管部12c、12dと、を有している。そして、直管部12aの一端と直管部12cの一端、直管部12bの一端と直管部12cの他端、直管部12bの他端と直管部12dの一端が接続されて湾曲している。また、直管部12aの他端と直管部12dの他端が接続されるとともに、この部位において、冷凍用ループ管12に連通して共鳴管11の他端が接続されている。ここで、図4の破線(符号A2)を基準として図4における紙面上、右側の管部が冷凍用ループ管12であり、左側の管部が共鳴管11である。
【0042】
[冷凍機]
冷凍機40は、原動機20によって発生する作動気体の自励振動による仕事を冷気(冷熱)に変換するヒートポンプ手段として機能するものである。冷凍機40は、冷凍用ループ管12内に設けられた冷凍用蓄熱器41と、冷凍用蓄熱器41の両端を挟むように設けられた冷凍用冷却器43および冷気放出器42とを有している。より具体的には、冷凍機40は、本実施形態において、冷凍用ループ管12における共鳴管11が接続されている側、すなわち冷凍用ループ管12の直管部12aの管路に設けられている。そして、冷凍用冷却器43は冷凍用蓄熱器41の直管部12c側に配置され、冷気放出器42はその反対側、すなわち冷凍用蓄熱器41の直管部12d側に配置されている。
【0043】
(冷凍用蓄熱器)
冷凍用蓄熱器41は、冷凍用ループ管12の管路に設けられ、作動気体を冷却するものである。
冷凍用蓄熱器41は、原動機20から、共鳴管11、冷凍用ループ管12の直管部12d,12b,12c,12aの順にこれらの管を通じて冷凍用蓄熱器41の一端部(以下、適宜、常温部(冷凍機側常温部)41aと称する)に伝達された自励振動を、冷凍用蓄熱器41の一端部(常温部41a)と冷凍用蓄熱器41の他端部(以下、適宜、低温部41bと称する)との間における温度差に変換する機能を有している。冷凍用蓄熱器41の常温部41aは冷凍用冷却器43によって冷却されているため、伝達された自励振動によって、冷凍用蓄熱器41の低温部41bは、常温部41aよりも低い温度まで冷却されて冷気が発生する。この冷気は、冷気放出器42によって外部に取り出される。冷凍用蓄熱器41は、熱容量の大きい蓄冷材からなる。蓄冷材としては、例えば、ステンレス鋼、銅、鉛等を用いることができ、またその形状は多様な形状を適用することが可能である。
【0044】
(冷凍用冷却器)
冷凍用冷却器43は、冷凍用蓄熱器41の自励振動が伝わる一端側に隣接して冷凍用ループ管12の管路に設けられ、冷凍用蓄熱器41の一端部(常温部41a)の熱を外部に放出するものである。すなわち冷凍用冷却器43は、冷却水や空気等を用いて冷凍用蓄熱器41の一端の熱を外部に放出して冷却する機能を有している。冷凍用冷却器43は、例えば、冷却用の熱交換器から構成される。具体的には、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされている。この冷凍用冷却器43は、その周囲に冷却ブラケット43aが配設されている。この冷却ブラケット43aには図示しない冷却水路が接続されており、冷却水路を流れる冷却水により、冷凍用冷却器43は冷却ブラケット43aを介して一定の冷却温度を維持しうる構成とされている。なお、図面では便宜上、冷凍用蓄熱器41と冷凍用冷却器43の間に冷却ブラケット43aの下壁が示されているが、冷凍用冷却器43は、この下壁を通して冷凍用蓄熱器41の一端側と隣接、すなわち密着している。
【0045】
(冷気放出器)
冷気放出器42は、冷凍用蓄熱器41の他端側に隣接して冷凍用ループ管12の管路に設けられ、冷凍用蓄熱器41の他端部(低温部41b)に発生する冷気を外部に放出するものである。すなわち冷気放出器42は、冷凍用蓄熱器41の他端において発生する冷気を外部に取り出す冷気出力部として機能する。冷気放出器42は、例えば、冷凍用の熱交換器から構成される。冷気放出器42としては、基本的には冷凍用冷却器43と同一構成とされており、例えば、メッシュ板等の多数枚の金属板が微小ピッチで積層された構成とされている。この冷気放出器42の外周位置には、冷気(冷熱)を取り出す高熱伝導率材料(例えば、銅)よりなる環状部材42aが配設されている。なお、図面では便宜上、冷凍用蓄熱器41と冷気放出器42の間に環状部材42aの上壁が示されているが、冷気放出器42は、この上壁を通して冷凍用蓄熱器41の他端側と隣接、すなわち密着している。
【0046】
<熱音響機関の動作>
次に熱音響機関の動作について、熱音響発電機および熱音響冷凍機を例にして図2および図4を参照して説明する。
【0047】
[熱音響発電機の動作]
図2に示すように、まず、原動機20において、加熱器22によって蓄熱器21の高温部21bを加熱し、かつ、冷却器23によって蓄熱器21の常温部21aを冷却すると、蓄熱器21の両端に、すなわち、高温部21bと常温部21aとの間に温度差が生じる。この温度差により、原動機20(具体的には、蓄熱器21)には、主として作動気体の進行波からなる自励振動による仕事が生じる。そして、原動機20において発生した自励振動による仕事は、音響エネルギEとしてループ管10の直管部10a,10c,10b,10d、共鳴管11の順にこれらの管を通じて発電機30に伝達される。そして発電機30に伝達された自励振動に基づき内側ヨーク33を往復振動させることで、音響エネルギEが電気エネルギに変換されて発電が行なわれる。
【0048】
[熱音響冷凍機の動作]
図4に示すように、前記した熱音響発電機の動作と同様にして、原動機20(具体的には、蓄熱器21)に主として作動気体の進行波からなる自励振動による仕事が生じる。そして、原動機20において発生した自励振動による仕事は、音響エネルギEとして共鳴管11を通じて冷凍機40に伝達される。より具体的には、蓄熱器21の高温部21bから、音響エネルギEとしてループ管10の直管部10a,10c,10b,10d、共鳴管11、冷凍用ループ管12の直管部12d,12b,12c,12aを通じて冷凍用蓄熱器41の常温部41aに伝達される。
【0049】
次に、冷凍用蓄熱器41に伝達された自励振動は、冷凍用冷却器43によって外部に熱を放出して冷却されている冷凍用蓄熱器41の常温部41aと冷凍用蓄熱器41の低温部41bとの間における温度差に変換される。そして、この冷凍用蓄熱器41の両端の温度差によって冷凍用蓄熱器41の低温部41bに発生した冷気(冷熱)が、冷気放出器42によって外部に取り出されることにより、冷凍能力が得られる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明に係る実施例について説明する。本実施例では、ループ管と共鳴管を備える熱音響機関において、本発明の拡大管部を有するものと、従来の拡大管部を有さないものについて、自励発振時における原動機での加熱器と冷却器との温度差(すなわち発振温度差)を調べた。なお、発振温度(駆動温度)が低下すれば、より低温で駆動することが可能となるため、発振温度差も小さくなる。具体的には、以下のとおりである。
【0051】
ループ管長さ(管路方向の長さ)約1475mm,管内径40mmの熱音響機関を用いて、拡大管部を設けた場合における発振温度計測実験を行った。なお熱音響機関の基本構成は図1に示すものと同様とし、拡大管の長さは130mm、内径は75mmとした。拡大管部の位置(すなわち拡大管部における冷却器側の先端の位置)はループ管と共鳴管の接合点をゼロ点とし、図1における反時計周りに設置位置を変更した。また、この熱音響機関と同様の構成において、拡大管部を有さないものについて同様の計測実験を行なった。これらの熱音響機関について、発振温度差を調べた。
【0052】
結果を図5に示す。なお、図中において、黒丸印は拡大管部を有する熱音響機関の実験結果、実線は拡大管部を有しない熱音響機関の実験結果である。また、加熱器、蓄熱器、冷却器は、紙面上、左からこの順に示している。
図5に示すように、拡大管部が冷却器に近づくに伴い発振温度差が減少している。さらに、冷却器直前に拡大管部を設けた場合には、拡大管を使用しない場合に比べ約50℃低い320℃の温度差での発振が可能になっていることがわかる。この結果は拡大管を冷却器直前に設置することによって、発振温度差を大幅に低下させることが可能であることを示している。発振温度差の低下は、発振温度の低下と同義であるため、低温発振が可能となる。
【0053】
以上、本発明について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等が可能であることはいうまでもない。
【0054】
例えば、熱音響発電機や熱音響冷凍機の構成は、前記説明した形態のものに限定されるものではなく、その他の一般的に用いられている構成の熱音響発電機や熱音響冷凍機においても、本発明における拡大管部を有する構成を適用することができる。例えば、熱音響発電機においては、発電機(リニア発電機)の構成は、前記説明したものに限定されるものではなく、熱音響発電機として用いられる発電機であればどのような構成であってもよい。また、熱音響冷凍機においては、原動機と冷凍機を同一のループ管内に設け、1つのループ管を備える構成としてもよい。さらには、これに加え、共鳴管の端部に、ピストンの振動により原動機から出力される仕事量を大きくする共鳴タンクを備える構成としてもよい。
【0055】
また、ループ管や冷凍用ループ管の形状は、前記した実施形態では角丸の四角形としたが、これらの形状はこれに限定されるものではなく、例えば、正方形や円、あるいは楕円の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 熱音響機関
10 ループ管
11 共鳴管
12 冷凍用ループ管
15 拡大管部
20 原動機
21 蓄熱器
22 加熱器
23 冷却器
30 発電機(リニア発電機)
40 冷凍機
41 冷凍用蓄熱器
42 冷気放出器
43 冷凍用冷却器
50 熱音響電動機
60 熱音響冷凍機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動気体が封入される環状のループ管と、当該ループ管に連通して一端が接続された共鳴管と、を有し、前記ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を加熱および冷却する蓄熱器と、前記蓄熱器の一端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の一端部を加熱する加熱器と、前記蓄熱器の他端側に隣接して前記ループ管の管路に設けられ、前記蓄熱器の他端部の熱を外部に放出する冷却器と、を備え、前記蓄熱器の両端部間に温度勾配を形成して前記作動気体の自励振動を発生させる熱音響機関であって、
前記ループ管は、前記冷却器における前記蓄熱器と反対方向の位置に、前記ループ管の他の部位よりも内径が大きい拡大管部を有し、
前記拡大管部は、当該拡大管部における前記冷却器側の先端が、前記冷却器における前記蓄熱器と反対側の先端から前記ループ管の管路方向の長さの1/4以下の長さの部位に位置するように設けられていることを特徴とする熱音響機関。
【請求項2】
前記拡大管部の管路方向の長さが、前記ループ管全体の管路方向の長さの1/30〜1/5であることを特徴とする請求項1に記載の熱音響機関。
【請求項3】
前記拡大管部の内径が、前記ループ管の他の部位の内径の1.2〜5倍であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱音響機関。
【請求項4】
さらに、前記共鳴管の他端に、前記作動気体に発生する自励振動に応動して発電を行なう発電機を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱音響機関。
【請求項5】
さらに、前記共鳴管の他端に連通して接続された環状の冷凍用ループ管を有し、前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記作動気体を冷却する冷凍用蓄熱器と、前記冷凍用蓄熱器の前記自励振動が伝わる一端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の一端部の熱を外部に放出する冷凍用冷却器と、前記冷凍用蓄熱器の他端側に隣接して前記冷凍用ループ管の管路に設けられ、前記冷凍用蓄熱器の他端部に発生する冷気を外部に放出する冷気放出器と、備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱音響機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−112621(P2012−112621A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264133(P2010−264133)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)