説明

熱風炉の燃焼制御方法および燃焼制御装置

【課題】熱風炉の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制すること。
【解決手段】燃焼制御装置104が、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標と、各熱風炉の熱負荷を表す指標と、各熱風炉の熱余裕を表す指標とのデータを用いて、これらの指標の間に成り立つ関係を表すモデルを熱風炉毎に構築し、熱負荷を表す指標と熱余裕を表す指標との値を熱風炉毎に設定し、設定した値を各熱風炉のモデルに入力することによって、各熱風炉の熱レベルの目標値を算出し、各熱風炉の熱レベルが目標値に漸近的に一致するように各熱風炉の蓄熱部への投入熱量を制御する。これにより、熱風炉の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉に熱風を供給する熱風炉の燃焼制御方法および燃焼制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱風炉は、燃焼期において、燃焼ガスにより炉内の蓄熱部を昇温させて熱エネルギーを蓄積し、燃焼期に引き続く送風期において、炉内に冷風を通して蓄熱部との熱交換によって熱風を生成し、生成された熱風を高炉に供給する設備である。このような熱風炉では、燃焼期には、引き続く送風期の間、所望の熱風温度を確保するために必要な熱量を蓄熱部に投入する必要がある。しかしながら、省エネルギーと炭酸ガス排出量の削減とを実現するためには、蓄熱部への投入熱量を極力抑えることが望ましい。
【0003】
一方、蓄熱部を構成する珪石レンガは、変態点温度である573℃より温度が低下すると急激に膨張し、崩壊する可能性がある。このため、蓄熱部への投入熱量は、送風期の末期においても珪石レンガの温度が変態点温度以上になるように調整する必要がある。また、設備保護の観点からは、熱風炉の炉頂部であるドーム部をある温度以上に加熱することはできない。このため、蓄熱部への投入熱量は上述の制約条件の下で最小化することが望ましい。
【0004】
熱風炉の操業には、1基の熱風炉からの熱風と冷風とを混合して温度調整を行って高炉に熱風を供給するシングル操業と、少なくとも3基以上の熱風炉のうちの2基の熱風炉に時間をずらして同時に通風し、得られた熱風を混合して高炉に供給するスタガードパラレル操業とがある。図9は、スタガードパラレル操業の概念図である。図9において、パラメータkは、離散化された時刻を示し、炉の切替時刻に一致させている。以後、熱風炉の切替時刻の間隔をピリオドと称する。
【0005】
図9に示す例では、熱風炉(1HS)は、時刻k=0において送風期を終えて燃焼期に入る。熱風炉(2HS)は、1ピリオド遅れて時刻k=1において送風期を終えて燃焼期に入る。熱風炉(3HS)は、時刻k=0において燃焼期を終えて送風期に入る。熱風炉(4HS)は、1ピリオド遅れて時刻k=1において燃焼期を終えて送風期に入る。このため、時刻k=1と時刻k=2との間では、熱風炉(3HS)と熱風炉(4HS)との2基の熱風炉が送風状態になる。また、時刻k=1と時刻k=2との間では、熱風炉(3HS)は、熱風炉(2HS)の後行炉であり、先行する熱風炉(2HS)よりも熱レベルが高く、より高温の熱風を供給する役割を担う。
【0006】
従って、時刻k=1においては、熱風炉(3HS)からの熱風温度は高炉への送風温度設定値よりも高い状態にあることが重要である。このため、時刻k=1では、熱風炉(3HS)および熱風炉(4HS)からの熱風は共に送風温度設定値よりも高くなる。そこで、熱風炉(4HS)は、熱風炉(3HS)からの熱風温度が送風温度設定値まで低下する時刻(図9では符号Aで示す)まで待機し、その間は熱風炉(3HS)だけを送風状態とし、熱風炉(3HS)からの熱風に冷風を混合することによって送風温度を制御する。
【0007】
シングル操業の場合、各熱風炉からの熱風温度は送風温度設定値よりも常に高くなければならない。これに対して、スタガードパラレル操業の場合には、送風温度設定値よりも温度が低い先行炉からの熱風と送風温度設定値よりも温度が高い後行炉からの熱風とを混合して使用する。このため、スタガードパラレル操業はシングル操業と比較して蓄熱量のレベル(以下、熱レベル)を下げることができ、熱効率を上げることができる。これにより、大型の高炉に熱風を供給する場合には、スタガードパラレル操業が行われるのが一般的である。
【0008】
従来の熱風炉の燃焼制御方法では、燃焼期および送風期からなる1つのサイクルが終了した後の熱風炉の熱レベルを算出し、算出された熱レベルに基づいて次回の投入熱量を決定する方法が一般的である。例えば、特許文献1,2には、送風終了時の熱風炉の熱レベル、熱レベルの変化、および珪石レンガの温度をファジィ推論に基づく判定関数に変換し、ファジィ推論に基づいてそれぞれの実測値から操作量と投入熱量とを決定する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、熱風炉シミュレータを用いて数サイクル先の送風終了後の熱レベルを算出し、数サイクル先が熱余り状態か熱不足状態であるかを示す熱傾向指数を算出し、現在の熱レベルと熱傾向指数とに基づいて投入熱量を修正する方法が記載されている。また、特許文献4には、送風期のある一定時点における熱レベルとその目標値との偏差を監視し、偏差が設定値よりも大きい時にはファジィ推論、偏差が設定値以下の時には最適フィードバック制御によって燃焼期の排ガス温度最終値を算出し、算出された排ガス温度最終値に基づいて投入熱量を制御する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平6−37651号公報
【特許文献2】特公平7−100806号公報
【特許文献3】特開平10−226809号公報
【特許文献4】特開平1−319619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、スタガードパラレル操業では、2基の熱風炉に同時に通風するために、後行炉が冷風に与えるべき熱エネルギーの量は先行炉の熱レベルによって変化する。例えば、先行炉の熱レベルが高ければ、後行炉への通風が開始されるタイミング(図9の熱風炉(4HS)の場合はA点)が遅れ、実質的な送風期間が短くなり、その分後行炉は熱エネルギーを使わずに済み、熱余りの状態になる。そして、それが次の熱風炉の熱レベルにも伝播し、熱余りの傾向が続くことになる。一方、ある熱風炉が熱不足の状態になった場合には、後続する熱風炉にもそれが伝播して、熱不足の傾向が続くことになる。スタガードパラレル操業では、このような熱風炉間の干渉のために、投入熱量を変更した際、熱レベルが定常状態に達するために2,3日を要し、熱風炉間の干渉がないシングル操業に比べてシステム全体の応答は非常に遅くなる。
【0012】
例えば、送風温度設定値が上昇した場合、送風期の熱風炉が失う熱量が増加するために熱レベルが下がり、それが後続の熱風炉に波及すると、十分な熱量を供給できなくなるおそれがある。このため、そのような負荷変動に対応できるように各熱風炉の熱レベルに余裕を持たせておく必要がある。一方、熱レベルが高い状態で操業することは、投入熱量が多いということであり、過剰な熱量は熱風炉体からの熱の放散量の増大や排ガス温度の上層をもたらし、熱効率が低下する。従って、熱風炉の燃焼制御では、熱が不足したり、過剰になったりしないように投入熱量を操作して熱レベルを適正に保つことが重要である。
【0013】
熱レベルを適正に保つためには、燃焼制御における熱レベル目標値を適切に設定する必要がある。すなわち、熱風炉の負荷が高いとき、換言すれば、送風温度が高く、送風流量が大きいときは、熱レベル目標値を高く設定し、熱風炉の負荷が低いとき、換言すれば、送風温度が低く、送風流量が小さいときには、熱レベル目標値を低く設定する必要がある。しかしながら、特許文献1〜4記載の技術は、熱レベルの目標値の設定方法については一切開示、示唆されていない。これは、ファジィ制御では、熱レベルが高い、適切、若しくは低いかがメンバーシップ関数によって表現され、目標値という概念が薄いためであると考えられる。このため、特許文献1〜4記載の技術によれば、熱風炉の負荷が変動した際、適切な熱レベル目標値を設定することができず、結果として、負荷が高いときには熱不足になり、負荷が低いときには熱が過剰になることによって、熱効率が低下する。このため、熱レベル目標値を適切に設定することによって、熱風炉の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制する技術の提供が期待されていた。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱風炉の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制可能な熱風炉の燃焼制御方法および燃焼制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る熱風炉の燃焼制御方法は、複数基の熱風炉において、燃焼ガスにより炉内の蓄熱部を昇温させて熱エネルギーを蓄積する燃焼期と炉内に冷風を通して蓄熱部との熱交換によって熱風を生成する送風期とを繰り返し実行することによって、高炉に熱風を供給する熱風炉の燃焼制御方法であって、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標と、各熱風炉の熱負荷を表す指標と、各熱風炉の熱余裕を表す指標とのデータを用いて、これらの指標の間に成り立つ関係を表すモデルを熱風炉毎に構築するステップと、熱負荷を表す指標と熱余裕を表す指標との値を熱風炉毎に設定し、設定した値を各熱風炉の前記モデルに入力することによって、各熱風炉の熱レベルの目標値を算出するステップと、各熱風炉の熱レベルが前記目標値に漸近的に一致するように各熱風炉の蓄熱部への投入熱量を制御するステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る熱風炉の制御方法は、上記発明において、前記熱レベルを表す指標は各熱風炉の送風期終了時におけるドーム温度であり、前記熱負荷を表す指標は高炉に送風する熱風の温度であり、前記熱余裕を表す指標は各熱風炉の送風期終了時における各熱風炉の後行炉の冷風バタフライ弁開度であることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る熱風炉の燃焼制御装置は、複数基の熱風炉において、燃焼ガスにより炉内の蓄熱部を昇温させて熱エネルギーを蓄積する燃焼期と炉内に冷風を通して蓄熱部との熱交換によって熱風を生成する送風期とを繰り返し実行することによって、高炉に熱風を供給する熱風炉の燃焼制御装置であって、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標と、各熱風炉の熱負荷を表す指標と、各熱風炉の熱余裕を表す指標とのデータを用いて、これらの指標の間に成り立つ関係を表すモデルを熱風炉毎に構築するモデル構築部と、熱負荷を表す指標と熱余裕を表す指標との値を熱風炉毎に設定し、設定した値を各熱風炉の前記モデルに入力することによって、各熱風炉の熱レベルの目標値を算出する目標値設定部と、各熱風炉の熱レベルが前記目標値に漸近的に一致するように各熱風炉の蓄熱部への投入熱量を制御する投入熱量設定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る熱風炉の燃焼制御方法および燃焼制御装置によれば、熱風炉の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明が適用される熱風供給システムの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す熱風炉の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御システムの構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、図3に示す操業実績データベース内に格納される操業実績データの一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図6は、操業データの抽出タイミングを説明するための図である。
【図7】図7は、横軸にドーム温度、縦軸に送風温度をとり、冷風バタフライ弁開度を等高線で表示した図である。
【図8】図8は、ドーム温度目標値の設定方法を説明するための図である。
【図9】図9は、スタガードパラレル操業の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔本発明の概念〕
熱風炉の熱レベルは、燃焼期に得る熱量と送風期に失う熱量とのバランスによって決まる。従来技術では、熱レベルを表す指標として、ドーム温度、珪石レンガ継目温度、冷風バタフライ弁開度、混合冷風量、および各熱風炉からの熱風温度と送風温度設定値との偏差を用いて、これらのうちのいずれかを制御量として燃焼期の投入熱量を調整していた。しかしながら、これらの熱レベルを表す指標の適正値には、高炉への送風温度や送風流量、すなわち、熱風炉の負荷に依存して変化するものと熱風炉の負荷によらず一定としてよいものとがある。
【0021】
具体的には、各熱風炉からの熱風温度の適正値は送風温度によって変化する。熱風炉内の珪石レンガ温度は送風温度に直接影響する。このため、ドーム温度や珪石レンガ継目温度の適正値は送風温度によって変化する。従って、ドーム温度や珪石レンガ継目温度は熱風炉の熱レベルを表す直接的な指標であり、その適正値は熱風炉の負荷によって変化する。これにより、高炉への送風温度や送風流量の目標値変更に対応してこれらの指標の目標値を変更する必要がある。
【0022】
これに対して、冷風バタフライ弁開度は、高炉から要求された温度および流量の熱風を供給した後に熱風炉にどれだけの熱が残っているかを表す指標であり、その適正値は熱風炉の負荷に依存しない。同様に、混合冷風量は、高炉から要求された温度および流量の熱風を供給するために熱風炉からの熱風に混合した冷風の量であり、その適正値は熱風炉の負荷に依存しない。換言すれば、冷風バタフライ弁開度や混合冷風量は、高炉から要求された温度および流量の熱風を供給するために必要な最小限の熱量よりもどれだけ多くの熱量を各熱風炉が有しているか、いわば熱余裕を表す指標であり、それゆえ熱風炉の負荷に依存しない。
【0023】
例えば、高炉への送風温度の目標値が下げられて熱風炉の負荷が低下したとき、燃焼期における供給熱量を変更しないと熱余裕が大きくなり、混合冷風量は増加し、ドーム温度や珪石レンガ継目温度は上昇する。ここで、混合冷風量が元のレベルになるように燃焼期における供給熱量を調整すると、ドーム温度および珪石レンガ継目温度は元のレベルより低下する。送風温度が低ければ、レンガ温度が低くてもよいからである。従って、混合冷風量のような熱余裕の指標を制御量として熱風炉への供給熱量を操作すれば熱風炉の負荷によらず燃焼制御が行えるように思われる。しかしながら、熱余裕は熱風炉の熱レベルの絶対値を表すものではなく、燃焼期に熱風炉に供給した熱量と送風期に熱風炉が失った熱量とのバランスを表す量であるために、燃焼制御の制御量として設定することは好ましくない。すなわち、燃焼制御の制御量としては、レンガ温度のような炉の熱ベルの絶対量を直接表すものを用いるべきである。
【0024】
そこで、本発明の発明者らは、熱風炉の負荷の指標および熱風炉の負荷によって適正値が変化しない熱風炉の熱余裕の指標と、熱風炉の負荷によって適正値が変化する熱風炉の熱レベルの指標との関係を表すモデルを求め、求められたモデルにおける熱風炉の負荷の指標と熱風炉の熱余裕の指標とを設定することによって熱風炉の熱レベルの目標値を算出し、算出された熱レベルの目標値に熱風炉の熱レベルを一致させるように燃焼制御を行うという技術思想を想到した。このような技術思想によれば、熱風炉の熱レベルの目標値を熱風炉の負荷と熱余裕との両方を考慮して適切に設定することができる。
【0025】
具体的には、送風温度目標値が変化しても熱余裕を一定に保ちたい場合には、熱余裕の指標の設定を保ったまま、熱風炉の負荷の指標を送風温度目標値に合わせて変更すればよい。また、送風温度目標値が頻繁に変更され、熱風炉の熱レベルを追従させるだけの熱余裕がない場合には、熱余裕の指標の設定値だけを大きくすることによって、送風温度の目標値変更に対するマージンを大きくとるようにすることもできる。このような、熱風炉の負荷と熱余裕との様々な状況に対応して熱レベルの目標値を設定できるので、熱レベルの目標値に従って燃焼制御を行うことによって熱風炉への投入熱量を最適化し、省エネルギーおよび炭酸ガスの排出量削減を図ることができる。
【0026】
なお、モデルの構築方法としては、熱風炉の物理モデルを用いて熱風炉の操業をシミュレーションし、熱風炉の負荷、熱風炉の熱レベル、および熱風炉の熱余裕の関係を導出することも考えられるが、過去の操業実績データを用いて熱風炉の負荷、熱風炉の熱レベル、および熱風炉の熱余裕の関係を表す統計的なモデルを求めることが望ましい。この場合、最も簡単なモデルは線計回帰モデルであるが、過去の操業実績データと熱風炉の熱余裕との組み合わせと、現在の熱風炉の負荷の指標と所望の熱余裕の指標との組み合わせとを比較し、それらが類似しているデータほど大きな重みを付けて回帰を行う局所回帰モデルを用いることにより、非線形な関係の表現が可能となり、モデル精度の向上を図ることができる。また、類似しているデータほど大きな重みを付け、操業実績データ中の熱風炉の熱レベル実績の平均値を求め、それを熱レベルの目標値とする局所平均モデルを用いることによっても、同様に非線形な関係の表現が可能となり、モデルの精度向上を図ることができる。また、熱風炉の負荷、熱レベル、および熱余裕の指標のうち、2つの指標を直交する座標系にとり、残りの1つの指標をカラーマップ又は等高線で座標上に表示することによって、3つの指標の関係を視覚的にわかりやすく表示してもよい。これにより、熱レベルの目標値設定を容易にすることができる。
【0027】
以下、図面を参照して、上記の技術思想に基づき想到された本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御方法および燃焼制御方法について説明する。
【0028】
〔熱風供給システムの構成〕
始めに、図1,2を参照して、本発明が適用される熱風供給システムの構成について説明する。
【0029】
図1は、本発明が適用される熱風供給システムの構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明が適用される熱風炉供給システム1は、複数の熱風炉10を備えている。各熱風炉10は、燃焼期において、燃焼ガスにより炉内の蓄熱室を昇温させて熱エネルギーを蓄積し、燃焼期に引き続く送風期において、炉内に冷風を通して蓄熱室との熱交換によって熱風を生成し、生成された熱風を高炉20に供給する。燃焼期および送風期のサイクルを複数の熱風炉10間でずらし、燃焼期および送風期のサイクルを繰り返し実行することによって、高炉操業において必要な温度および流量の熱風を途切れることなく高炉20に供給することができる。
【0030】
図1に示す熱風供給システム1では、通風期において、1つの熱風炉10のみに冷風を通風する場合と2つの熱風炉10に同時に冷風を通風する場合とがある。前者では、高炉20に冷風を供給する混冷バタフライ弁21と1つの熱風炉10に冷風を供給する冷風バタフライ弁22との開度を調整することによって、冷風と熱風とを混合して所望の熱風温度を実現する。一方、後者では、一方の熱風炉10に冷風を供給する冷風バタフライ弁22の開度を全開とし、他方の熱風炉10に冷風を供給する冷風バタフライ弁22の開度を調整することによって、2つの熱風炉10からの熱風を混合して所望の熱風温度を実現する。各バタフライ弁の開度は、送風温度計測部23によって計測される高炉20の羽口における熱風の温度(送風温度)に基づいて送風温度制御部24により制御される。
【0031】
図2は、図1に示す熱風炉10の構成を示す模式図である。熱風炉10は、燃焼室11と蓄熱室12とを備えている。燃焼室11は、燃焼期において、燃料ガス供給口13から供給される燃料ガスと燃焼用空気供給口14から供給される燃焼用空気とを燃焼させ、ドーム部15を介して燃焼によって発生した燃焼ガスを蓄熱室12に供給する。蓄熱室12の内部には珪石レンガ16が積まれており、燃焼室11から供給された燃焼ガスは珪石レンガ16を加熱する。蓄熱室12は、燃焼期に引き続く送風期において、冷風供給口17から内部に冷風を供給し、珪石レンガ16と冷風との間の熱交換によって熱風を生成する。
【0032】
〔燃焼制御システムの構成〕
次に、図3,4を参照して、本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御システムの構成について説明する。図3は、本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御システムの構成を示すブロック図である。図4は、図3に示す操業実績データベース103内に格納される操業実績データの一例を示す図である。
【0033】
図3に示すように、本発明の一実施形態である燃焼制御システム100は、送風温度計測部23、ドーム温度計測部101、冷風バタフライ弁開度計測部102、操業実績データベース103、燃焼制御装置104、および燃焼ガス流量調整部105を備えている。送風温度計測部23は、高炉20(図1参照)に供給する熱風の温度(送風温度)を計測し、計測された温度を示す信号を燃焼制御装置104に出力するものである。ドーム温度計測部101は、ドーム部15(図2参照)の温度(ドーム温度)を計測し、計測された温度を示す信号を燃焼制御装置104に出力するものである。
【0034】
冷風バタフライ弁開度計測部102は、冷風の流量を制御する冷風バタフライ弁22(図1参照)の開度を熱風炉10毎に検出し、検出された開度を示す信号を燃焼制御装置104に出力するものである。操業実績データベース103は、各熱風炉10の過去の操業に関するデータを操業実績データとして格納している。具体的には、図4に示すように、操業データは、熱風炉10および操業日時毎の、送風期終了時におけるドーム温度、送風期終了時における後行炉の冷風バタフライ弁開度、および高炉への送風温度に関するデータを含んでいる。
【0035】
燃焼制御装置104は、パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどの情報処理装置によって構成されている。燃焼制御装置104は、情報処理装置内のCPUなどの演算処理装置がコンピュータプログラムを実行することによって、モデル構築部104a、ドーム温度目標値設定部104b、および投入熱量設定部104bとして機能する。これら各部の機能については後述する。燃焼ガス流量調節部105は、燃焼制御装置104からの制御信号に従って燃料ガス供給口13から燃焼室11に供給される燃料ガスの流量を制御することによって燃焼ガスの流量を制御する。
【0036】
このような構成を有する燃焼制御システム100は、以下に示す燃焼制御処理を実行することによって、各熱風炉10の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制する。以下、図5に示すフローチャートを参照して、この燃焼制御処理を実行する際の燃焼制御システム100の動作について説明する。
【0037】
〔燃焼制御処理〕
図5は、本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御処理の流れを示すフローチャートである。図5に示すフローチャートは、熱風供給システム1の操業が開始されたタイミングで開始となり、この燃焼制御処理はステップS1の処理に進む。この燃焼制御処理は所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0038】
ステップS1の処理では、モデル構築部104aが、熱風炉の負荷の指標、熱風炉の熱余裕の指標、および熱風炉の熱レベルの指標の関係を表すモデルを構築する。なお、本実施形態では、熱風炉の負荷の指標として高炉への送風温度、熱風炉の熱余裕の指標として送風期終了時における後行炉の冷風バタフライ弁開度、および熱風炉の熱レベルの指標として送風期終了時におけるドーム温度を用いる。すなわち、先行炉が送風を終了したタイミングで先行炉の熱にまだ余裕があれば、先行炉が冷風に与えられる熱量が大きくなって後行炉への通風量が少なくなるために、後行炉の冷風バタフライ弁開度は小さくなる。
【0039】
また、先行炉の熱余裕が非常に大きければ、送風末期まで先行炉だけで熱風を供給できるため、後行炉の冷風バタフライ弁開度は非常に小さくなり、シングル操業に近い状態となる。これに対して、先行炉の熱余裕が小さい場合には、後行炉から供給すべき熱量が多くなるために、後行炉の冷風バタフライ弁開度は大きくなる。このため、送風期終了時における後行炉の冷風バタフライ弁開度は、熱風炉の負荷に依存しない熱余裕の指標として用いることができる。また、送風期終了時におけるドーム温度は、先行炉の熱レベルを表しているが、その適正値は熱風炉の負荷に依存する。
【0040】
また、本実施形態では、モデル構築部104aは、各熱風炉10の特性の違いに対応するために、操業実績データベース103内に格納されている操業実績データを用いて熱風炉10毎にモデルを構築する。構築するモデルとしては、局所平均モデルを用いる。具体的には、モデル構築部104aは、操業実績データから送風温度(i)、冷風バタフライ弁開度(i)、およびドーム温度(i)の組を熱風炉本体10毎に抽出する。なお、iはデータの番号を示し、本実施形態ではiは1〜1000の整数とする。
【0041】
図6は、操業データの抽出タイミングを説明するための図である。図6に示すように、熱風炉(2HS)の操業実績データとしては、熱風炉(2HS)が送風終了となる時刻k=1において熱風炉(2HS)のドーム温度(点P1で示す)および熱風炉(3HS)の冷風バタフライ弁開度(点P2で示す)を収集し、次に熱風炉が送風終了となる時刻k=5において再び収集する(点P3,点P4で示す)。同様に、加熱炉(2HS)が送風終了となる時刻でデータ収集を繰り返し行うことによって必要な操業実績データが得られる。
【0042】
操業実績データから送風温度(i)、冷風バタフライ弁開度(i)、およびドーム温度(i)の組を抽出すると、モデル構築部104aは、現在時刻をj、現在の送風温度を送風温度(j)、現在の冷風バタフライ弁開度を冷風バタフライ弁開度(j)として、以下に示す数式(1)〜(3)で表されるモデルを構築する。なお、数式(1)のパラメータd(i)はi番目の操業実績データにおける送風温度(i)および冷風バタフライ弁開度(i)と送風温度(j)および冷風バタフライ弁開度(j)との距離を表し、数式(2)のW(i)は距離d(i)が小さいほど大きな値となる重みである。また、数式(2)中のパラメータpは正の定数を表している。これにより、ステップS1の処理は完了し、燃焼制御処理はステップS2の処理に進む。
【0043】
【数1】

【数2】

【数3】

【0044】
ステップS2の処理では、ドーム温度目標値設定部104bが、ステップS1の処理によって構築されたモデルに現在の送風温度(j)および冷風バタフライ弁開度(j)を設定することによってドーム温度目標値(j)を算出する。具体的には、ステップS1の処理によって構築されたモデルを用いることによって、熱風炉の熱レベルの指標、熱風炉の熱余裕の指標、および熱風炉の負荷の指標の関係を図7のように可視化することができる。図7は、横軸にドーム温度、縦軸に送風温度をとり、冷風バタフライ弁開度を等高線で表示したものである。ドーム温度と送風温度とを適当な間隔で変更しながら構築されたモデルで冷風バタフライ弁開度を算出し、それを等高線表示した。細い線で囲まれた領域内は操業実績データが存在する部分で、それ以外の領域は外挿領域となってモデルの信頼性が低下するため等高線を表示していない。
【0045】
上記の領域内で、太線に挟まれた領域Aは、熱風炉の切替時刻における後行炉の冷風バタフライ弁開度が40〜60%となる領域であり、適正なレベルが達成されている。例えば送風温度目標値が1140℃のときに冷風バタフライ弁開度を50%としたい場合には、図8に示すように送風温度1140℃のラインを右にたどり、冷風バタフライ弁開度が50%である等高線との交点Pから下にたどることによって、ドーム温度目標値を1100℃に設定すればよいことがわかる。一方、図7における領域Bは、熱風炉の負荷が高いのにも係わらず熱レベルが高い領域であり、操業上は安全であるが、熱レベルを適正なレベルまで引き下げることができる領域である。従って、現在の操業状態が領域B,Cにあると判断されたときには、ドーム温度が領域Aに入るようにドーム温度目標値を設定するとよい。これにより、ステップS2の処理は完了し、燃焼制御処理はステップS3の処理に進む。
【0046】
ステップS3の処理では、投入熱量設定部104cが、ステップS2の処理によって設定されたドーム温度目標値を漸近的に達成するように投入熱量の設定値を算出し、算出された投入熱量の設定値になるようにガス流量調節部105を介して燃焼期に投入する燃焼ガスの流量を制御する。なお、本実施形態では、燃焼ガスの流量を調整することによって投入熱量を制御することとしたが、燃焼ガスのカロリーを調整することによって投入熱量を制御することとしてもよい。これにより、ステップS3の処理は完了し、一連の燃焼制御処理は終了する。
【0047】
〔変形例〕
上記実施形態では、構築するモデルとして局所平均モデルを用いたが、線形回帰モデルや局所線形回帰モデルを用いることもできる。いずれの場合にもモデル式は以下に示す数式(4)のような形になる。なお、数式(4)中の係数a,b,cは、定数であり、熱風炉毎に抽出した送風温度(i)、冷風バタフライ弁開度(i)、およびドーム温度(i)の組を用いて以下に示す数式(5)を最小化するような係数a,b,cの組として求めることができる。
【0048】
【数4】

【数5】

【0049】
但し、局所線形回帰モデルの場合には、数式(2)で示した重みW(i)を用いて数式(5)を以下に示す数式(6)のように表し、現在の送風温度(j)およびドーム温度(j)に類似したデータほど大きな重み付けをして回帰を行う。つまり、局所線形回帰モデルの場合には、現在の送風温度(j)およびドーム温度(j)の値に対してその都度定数a,b,cを求める。
【0050】
【数6】

【0051】
このように、局所平均モデルや局所線形回帰モデルでは、モデルの係数を1つ決定して全領域でそれを使うのではなく、現在の送風温度と冷風バタフライ弁開度に対してその都度モデルを求める。このため、モデルの入出力特性が非線形であったり、時間的に変動したりする場合にも対応が可能であり、モデル精度を高めることができるために、好適なモデルである。なお、上記数式(4)を以下に示す数式(7)のようにドーム温度(j)を直接出力する形に変形してもよい。
【0052】
【数7】

【0053】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である熱風炉の燃焼制御処理では、燃焼制御装置104が、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標と、各熱風炉の熱負荷を表す指標と、各熱風炉の熱余裕を表す指標とのデータを用いて、これらの指標の間に成り立つ関係を表すモデルを熱風炉毎に構築し、熱負荷を表す指標と熱余裕を表す指標との値を熱風炉毎に設定し、設定した値を各熱風炉のモデルに入力することによって、各熱風炉の熱レベルの目標値を算出し、各熱風炉の熱レベルが目標値に漸近的に一致するように各熱風炉の蓄熱部への投入熱量を制御する。これにより、熱風炉の負荷が変動した際に熱効率が低下することを抑制できる。
【0054】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。例えば、熱風炉の負荷、熱レベル、および熱余裕の各指標は1つだけでなく、それぞれ複数用いてもよい。具体的には、熱風炉の負荷の指標として送風温度と送風流量、熱レベルの指標としてドーム温度と珪石レンガ継目温度、熱余裕の指標として冷風バタフライ弁開度と混合冷風量とをそれぞれ用いることもできる。
【0055】
この場合、送風温度(i)、送風流量(i)、冷風バタフライ弁開度(i)、混合冷風量(i)、ドーム温度(i)、および珪石レンガ継目温度(i)のデータを収集し、データ中の送風温度(i)、送風流量(i)、ドーム温度(i)、および珪石レンガ継目温度(i)の組と現在のこれらの値との距離に応じてデータ中の冷風バタフライ弁開度と混合冷風量との重み付き平均をとる局所平均モデルを用いることもできるし、線形回帰モデルや局所線形回帰モデルを用いてもよい。このように、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例、および運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 熱風炉供給システム
10 熱風炉
11 燃焼室
12 蓄熱室
13 燃料ガス供給口
14 燃焼用空気供給口
15 ドーム部
16 珪石レンガ
16a 珪石レンガ下部
17 冷風供給口
20 高炉
21 混冷バタフライ弁
22 冷風バタフライ弁
23 送風温度計測部
24 送風温度制御部
100 燃焼制御システム
101 ドーム温度計測部
102 冷風バタフライ弁開度計測部
103 操業実績データベース
104 燃焼制御装置
104a モデル構築部
104b ドーム温度目標値設定部
104c 投入熱量設定部
105 燃焼ガス流量調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数基の熱風炉において、燃焼ガスにより炉内の蓄熱部を昇温させて熱エネルギーを蓄積する燃焼期と炉内に冷風を通して蓄熱部との熱交換によって熱風を生成する送風期とを繰り返し実行することによって、高炉に熱風を供給する熱風炉の燃焼制御方法であって、
各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標と、各熱風炉の熱負荷を表す指標と、各熱風炉の熱余裕を表す指標とのデータを用いて、これらの指標の間に成り立つ関係を表すモデルを熱風炉毎に構築するステップと、
熱負荷を表す指標と熱余裕を表す指標との値を熱風炉毎に設定し、設定した値を各熱風炉の前記モデルに入力することによって、各熱風炉の熱レベルの目標値を算出するステップと、
各熱風炉の熱レベルが前記目標値に漸近的に一致するように各熱風炉の蓄熱部への投入熱量を制御するステップと、
を含むことを特徴とする熱風炉の燃焼制御方法。
【請求項2】
前記熱レベルを表す指標は各熱風炉の送風期終了時におけるドーム温度であり、前記熱負荷を表す指標は高炉に送風する熱風の温度であり、前記熱余裕を表す指標は各熱風炉の送風期終了時における各熱風炉の後行炉の冷風バタフライ弁開度であることを特徴とする請求項1に記載の熱風炉の燃焼制御方法。
【請求項3】
複数基の熱風炉において、燃焼ガスにより炉内の蓄熱部を昇温させて熱エネルギーを蓄積する燃焼期と炉内に冷風を通して蓄熱部との熱交換によって熱風を生成する送風期とを繰り返し実行することによって、高炉に熱風を供給する熱風炉の燃焼制御装置であって、
各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標と、各熱風炉の熱負荷を表す指標と、各熱風炉の熱余裕を表す指標とのデータを用いて、これらの指標の間に成り立つ関係を表すモデルを熱風炉毎に構築するモデル構築部と、
熱負荷を表す指標と熱余裕を表す指標との値を熱風炉毎に設定し、設定した値を各熱風炉の前記モデルに入力することによって、各熱風炉の熱レベルの目標値を算出する目標値設定部と、
各熱風炉の熱レベルが前記目標値に漸近的に一致するように各熱風炉の蓄熱部への投入熱量を制御する投入熱量設定部と、
を備えることを特徴とする熱風炉の燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−95946(P2013−95946A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238108(P2011−238108)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)