説明

熱風炉の燃焼制御装置及び熱風炉の燃焼制御方法

【課題】各炉への投入熱量を最適化することを可能にした熱風炉の燃焼制御装置及びその燃焼制御方法を提供する。
【解決手段】燃焼制御装置40は、各炉の送風期において熱風炉から高炉に供給すべき熱風の熱量を表す指標(供給熱量指標)QREFに基づいて、各炉の送風期における熱レベルを表す指標の目標値(熱レベル指標目標値)QLREF0を設定する。また、各炉の熱余裕を表す指標(熱余裕指標)の実績値QYと目標値QYREFとの差分ΔQYに基づいて、熱レベル指標目標値QLREF0を補正する。そして、各炉の熱レベルが補正後の熱レベル指標目標値QLREFに一致するように、各炉の燃焼期における投入熱量Gを設定し、熱風炉のガス流量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉などに対して熱風を供給する熱風炉の燃焼制御装置及びその燃焼制御方法に関し、特に、熱風炉の燃焼期における投入熱量を最適化するための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
熱風炉は、燃焼期に燃焼ガスなどによりレンガなどから構築された炉内の蓄熱部を昇温させて熱エネルギーを蓄積し、それに引き続く送風期において炉内に冷風を通して蓄熱部との熱交換によって熱風を得て、それを高炉に供給する設備である。
図5は、熱風炉の炉内の構造を示す模式図である。図5に示すように、熱風炉11は燃焼室12と蓄熱室13とからなっている。蓄熱室13の内部には、蓄熱レンガ19が積まれており、符号14の部位はドーム、符号15の部位は珪石レンガ下部と呼ばれている。燃焼期には、燃焼室12において、燃料ガスを供給口16から、燃焼用空気を供給口17から、それぞれ供給して燃焼させ、その燃焼排ガスを蓄熱室13に通して内部の蓄熱レンガ19を加熱する。引き続く送風期には、供給口18から冷風を蓄熱室13に通し、蓄熱レンガ19との熱交換により熱風を得る。このような熱風炉11を複数基設置し、位相を炉ごとにずらしながら燃焼期と送風期のサイクルを繰り返すことによって、高炉操業において必要な温度及び流量の熱風を途切れることなく供給している。
【0003】
図6は、送風期における送風温度制御系の模式図である。1基の熱風炉11にのみ通風する場合と2基に同時に通風する場合があり、前者では混冷バタフライ弁MBの開度を調整して冷風を混合することにより、後者では一方の熱風炉11の冷風バタフライ弁CBを開とし、もう一方の熱風炉11の冷風バタフライ弁CBの開度を調整することにより高炉に送風する熱風の温度制御を行う。図6では、熱風炉1(1HS)と熱風炉2(2HS)の2基に同時に通風する場合を示している。
【0004】
燃焼期には、引き続く送風期の間、熱風温度を確保するのに必要な熱量を投入する必要があるが、省エネルギー及び炭酸ガス排出削減のためには投入熱量を極力抑える必要がある。しかし、珪石レンガは、変態点温度である573℃よりも温度が下がると急激な膨張を生じ、崩壊する可能性がある。そのため、送風末期においても珪石レンガ下部15の温度を変態点温度以上に保つ必要がある。また、設備保護の観点から、ドーム14はある温度以上に加熱することはできない。投入熱量は、このような制約条件のもとで最小化することが望ましく、この投入熱量決定が熱風炉の燃焼制御の重要な課題である。
熱風炉の操業には、一つの炉からの熱風と冷風を混合して温度調整を行って高炉に熱風を供給するシングル操業と、少なくとも3基以上の熱風炉のうちの2基を、時間をずらして同時に通風し、得られた熱風を混合して高炉に供給するスタガードパラレル操業がある。
【0005】
図7は、スタガードパラレル操業の概念図である。図7において、kは離散化された時刻であり、炉の切替時刻に一致させている。以降、炉の切替間隔をピリオドと呼ぶ。熱風炉1(図6の1HS)は、時刻k=0において送風期を終え、燃焼期に入る。熱風炉2(図6の2HS)は、1ピリオド遅れて時刻k=1において送風期を終えて燃焼期に入る。熱風炉3(図6の3HS)は、時刻k=0において燃焼期を終えて送風期に入る。熱風炉4(図6の4HS)は、時刻k=1において燃焼期を終えて送風期に入る。そのため、k=1からk=2の間は3HSと4HSの2基送風状態となる。k=0からk=1の間、3HSは後行炉であり、3HSに先行する2HSよりも熱レベルが高く、より高温の熱風を供給する役割を担う。したがって、k=1においては3HSからの熱風温度は高炉への送風温度設定値よりも高い状態にあることが必要である。そのため、k=1では3HS,4HSからの熱風はともに送風温度設定値よりも高くなる。そこで、4HSは3HSからの熱風温度が送風温度設定値まで低下する時刻(図7の矢印A)まで待機し、その間は3HSの1基送風とし、3HSからの熱風に冷風(混合冷風)を混合することにより送風温度制御を行う。
【0006】
シングル操業の場合には、各炉からの熱風温度は送風温度設定値よりも常に高い必要があるが、スタガードパラレル操業では、送風温度設定値よりも低い先行炉からの熱風と、送風温度設定値よりも高い後行炉からの熱風を混合して使用するため、前者に比べて炉の蓄熱量のレベル(以下、熱レベル)を下げることができ、熱効率を上げることができる。そのため、大型高炉の場合には、スタガードパラレル操業が行われるのが一般的である。
【0007】
従来、熱風炉の燃焼制御方法に関しては、燃焼期及び送風期からなる1つのサイクルが終了した後の熱風炉の熱レベルを求め、それに基づいて次回の投入熱量を決定する方法が一般に行われている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、送風終了時の熱風炉の熱レベル、熱レベルの変化、レンガ温度をファジィ理論に基づく判断関数に変換し、それぞれの実測値に基づいてファジィ推論に基づいて操作量の選択と投入熱量を決定する方法が開示されている。ここでは、熱レベルを表す指標として、ドーム温度、珪石レンガ継目温度、冷風バタフライ弁CBの開度が用いられている。
【0008】
また、特許文献3には、熱風炉シミュレータを用いて数サイクル先の送風終了後の熱レベルを求め、数サイクル先が熱余りか熱不足かを表す熱傾向指数を求め、現在の熱レベルと熱傾向指数によって投入熱量を修正する方法が開示されている。ここでは、熱レベルを表す指標として、各炉からの熱風温度と送風温度設定値との偏差、珪石レンガ下部温度、混合冷風量が用いられている。
また、特許文献4には、送風期のある一定時点における熱レベルとその目標値の偏差を監視し、この偏差が設定値よりも大きいときにはファジィ推論を、設定値以下の時には最適フィードバック制御によって燃焼期の排ガス温度最終値を演算し、この排ガス温度最終値に基づいて投入熱量を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−37651号公報
【特許文献2】特公平7−100806号公報
【特許文献3】特開平10−226809号公報
【特許文献4】特開平1−319619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
スタガードパラレル操業では、2基に同時に通風するため、先行炉の熱レベルによって後行炉が冷風に与えるべき熱エネルギーの量が影響を受ける。例えば、先行炉の熱レベルが高ければ後行炉への通風が開始されるタイミング(4HSの場合、図7のA点)が遅れ、実質的な送風期間が短くなり、その分後行炉は熱エネルギーを使わずに済み、熱余りの状態になる。さらに、それが次の炉の熱レベルにも伝播する。また、逆にある炉が熱不足になれば、後続する炉にもそれが伝播して熱不足の傾向が長く続く。スタガードパラレル操業では、このような炉間の干渉のため、投入熱量を変更したときに炉の熱レベルが定常状態に達するまでに2,3日を要し、炉間の干渉がないシングル操業に比べて熱風炉全体の応答は非常に遅くなる。
【0011】
例えば、送風温度設定値が上昇すると、送風期に炉が失う熱量が増加するために熱レベルが下がり、それが後続の炉に波及すると高炉に十分な熱量を供給できなくなるおそれがある。そのため、そのような負荷変動に対応できるように、熱レベルに余裕を持たせておく必要がある。一方、熱レベルが高い状態で操業することは、投入熱量が多いということであり、過剰な熱量は炉体からの放散の増大や排ガス温度の上昇をもたらし、熱効率が低下する。したがって、燃焼制御においては、熱が不足したり過剰になったりしないように、投入熱量を操作して熱レベルを適正に保つことが重要である。
そのためには、燃焼制御における熱レベル目標値を適切に設定する必要がある。すなわち、熱風炉の負荷が高いとき(送風温度が高く、送風流量が大きいとき)は熱レベルを高くし、熱風炉の負荷が低いとき(送風温度が低く、送風流量が小さいとき)は熱レベルを低くする必要がある。
【0012】
上記従来の熱風炉の燃焼制御方法では、熱レベルを表す指標として、ドーム温度や珪石レンガ継目温度、冷風バタフライ弁CBの開度、混合冷風量、各炉からの熱風温度と送風温度設定値との偏差を用い、ファジィ推論などによって投入熱量を設定している。しかしながら、これら指標の目標値の設定については開示されていない。これは、ファジィ制御では、熱レベルが高いか、適切か、低いかがメンバーシップ関数によって表現され、目標値という概念が薄いからである。したがって、従来の熱風炉の燃焼制御方法では、熱風炉の負荷に応じて適切な目標値を設定することができない。そのため、負荷が高いときには熱不足となり、逆に負荷が低いときには熱が過剰となって熱効率が低下してしまう。
そこで、本発明は、各炉への投入熱量を最適化することを可能にした熱風炉の燃焼制御装置及びその燃焼制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱風炉の燃焼制御装置は、複数基の熱風炉に対して予め定められた制御周期ごとに燃焼期及び送風期のサイクルを繰り返して行うことにより、高炉に対して所望の温度と流量の熱風を供給する熱風炉の燃焼制御装置であって、各熱風炉の送風期において熱風炉から高炉に供給すべき熱風の熱量を表す指標に基づいて、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標の目標値を設定する熱レベル指標目標値設定手段と、各熱風炉の熱余裕を表す指標の実績値と各熱風炉の熱余裕を表す指標の目標値との差分に基づいて、前記熱レベル指標目標値設定手段で設定した目標値を補正する熱レベル指標目標値補正手段と、各熱風炉の熱レベルが前記熱レベル指標目標値補正手段で補正した目標値に一致するように、各熱風炉の燃焼期における投入熱量を設定する投入熱量設定手段と、を備えることを特徴としている。
【0014】
これにより、熱風炉の熱レベルを表す指標の目標値(熱レベル指標目標値)を、高炉へ供給すべき熱量を表す指標(供給熱量指標)の変化に対応して設定することができる。そのため、熱風炉の負荷変動に応じて適切に熱レベル指標目標値を設定することができ、負荷が高いときに熱が不足したり、負荷が低いときに熱が過剰になって熱効率が低下したりするのを防止することができる。
【0015】
さらに、熱レベル指標目標値を、熱風炉の熱余裕を表す指標(熱余裕指標)の実績値と熱余裕指標の目標値との差分に応じて補正するので、過剰あるいは過少な熱余裕を防止する熱レベル指標目標値を設定することができる。また、このように熱余裕指標に目標値を設定して熱レベル指標目標値を補正するので、意図的に熱風炉の熱余裕を大きくしたい場合や、供給熱量指標が変化しても熱風炉の熱余裕を一定に保ちたい場合などに対応することができ、操業状態に応じた熱余裕を熱風炉に持たせることができる。
【0016】
また、上記において、前記熱レベル指標目標値補正手段は、各熱風炉の熱余裕を表す指標の実績値と、各熱風炉の熱余裕を表す指標の目標値との差分が大きいほど、前記熱レベル指標目標値設定手段で設定した目標値を補正するための補正量を大きく設定することを特徴としている。
これにより、熱余裕指標の変化に同期して熱レベル指標目標値を変更することができる。そのため、操業状態に応じた適切な熱余裕を熱風炉に持たせることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る熱風炉の燃焼制御方法は、複数基の熱風炉に対して予め定められた制御周期ごとに燃焼期及び送風期のサイクルを繰り返して行うことにより、高炉に対して所望の温度と流量の熱風を供給する熱風炉の燃焼制御方法であって、各熱風炉の送風期において熱風炉から高炉に供給すべき熱風の熱量を表す指標に基づいて、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標の目標値を設定するステップと、各熱風炉の熱余裕を表す指標の実績値と各熱風炉の熱余裕を表す指標の目標値との差分に基づいて、設定した前記目標値を補正するステップと、各熱風炉の熱レベルが補正した前記目標値に一致するように、各熱風炉の燃焼期における投入熱量を設定するステップと、を備えることを特徴としている。
これにより、炉の熱レベル指標目標値を、熱風炉負荷と熱余裕の両方を考慮して適正に設定することができる。したがって、熱風炉への投入熱量を最適化することができる燃焼制御方法とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱風炉負荷と熱余裕の様々な状況に対応して熱レベル指標の目標値を設定することができるので、熱風炉への投入熱量を最適化することができ、省エネルギーや炭酸ガス排出量の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態における熱風炉の燃焼制御装置及び関連設備の構成を示す図である。
【図2】燃焼制御装置の具体的構成を示すブロック図である。
【図3】目標値補正量の決定方法を説明するための図である。
【図4】本実施形態の動作を説明するための図である。
【図5】熱風炉の炉内の構造を示す模式図である。
【図6】送風期における送風温度制御系の模式図である。
【図7】スタガードパラレル操業の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(構成)
図1は、本実施形態における熱風炉の燃焼制御装置及び関連設備の構成を示す図である。
図中、符号11は熱風炉(以下、単に炉とも称す)である。この熱風炉11は、図5に示すように燃焼室12と蓄熱室13とからなっている。蓄熱室13の内部には、蓄熱レンガ19が積まれており、符号14の部位はドーム、符号15の部位は珪石レンガ下部と呼ばれている。燃焼期には、燃焼室12において、燃料ガスを供給口16から、燃焼用空気を供給口17から、それぞれ供給して燃焼させ、その燃焼排ガスを蓄熱室13に通して内部の蓄熱レンガ19を加熱する。引き続く送風期には、供給口18から冷風を蓄熱室13に通し、蓄熱レンガ19との熱交換により熱風を得る。このとき得られた熱風は高炉へ供給される。このような熱風炉11を複数基(例えば、図6に示すように4基)連結し、図7に示すように、位相を炉ごとにずらしながら予め定められた制御周期ごとに燃焼期と送風期のサイクルを繰り返すことによって、高炉操業において必要な温度及び流量の熱風を途切れることなく供給している。
【0021】
図1に示すように、熱風炉11の出口側には、高炉に供給する熱風の温度(送風温度)を測定する送風温度計31が取り付けられている。また、熱風炉11のドーム14には、ドーム温度を測定するドーム温度計32が取り付けられ、熱風炉11の珪石レンガ下部15には、レンガ温度を測定するレンガ温度計33が取り付けられている。さらに、混冷バタフライ弁MBには、当該混冷バタフライ弁MBの開度を検出する混冷弁開度センサ34が取り付けられている。
【0022】
送風温度計31、ドーム温度計32及び冷弁開度センサ34の出力信号は、燃焼制御装置40に入力される。また、送風温度計31の出力信号は、送風温度制御装置50に入力される。なお、図1では図示を省略したが、他の熱風炉11においても温度計31〜33をそれぞれ備えており、それらの出力信号は燃焼制御装置40や送風温度制御装置50に入力されるようになっている。
【0023】
燃焼制御装置40は、上述した入力信号に基づいて、各炉への投入熱量を設定する。そして、設定した投入熱量に基づいて、熱風炉11の燃料ガス供給口16(図5)の上流側に設けられたガス弁16aの開度を制御する。これにより、ガス流量又はガスカロリーを調整することができる。
燃焼制御装置40の制御対象は、上述のように、図5の熱風炉11が図6に示すように連結されたものである。熱風炉11では、図7に示すように燃焼・送風のサイクルを繰り返しながらスタガードパラレル操業が実施されており、投入熱量の設定は、各炉の燃焼期に先立って図7の離散化された時刻k=1,2,…(白い四角で示したタイミング)で行うものとする。この燃焼制御装置40で実施する投入熱量設定処理については、後で詳述する。
【0024】
送風温度制御装置50は、上述した入力信号に基づいて、熱風炉11からの送風温度が高炉に必要な熱量に応じて決定される送風温度設定値となるように送風温度制御を行う。具体的には、熱風炉11からの送風温度が送風温度設定値となるように、スタガードパラレル操業において、1基の熱風炉11にのみ通風する場合での混冷バタフライ弁MBの開度調整、及び2基に同時に通風する場合での冷風バタフライ弁CBの開度調整をすることによって、高炉に送風する熱風の温度を制御する。
【0025】
次に、燃焼制御装置40で実施する投入熱量設定処理について具体的に説明する。図2は、燃焼制御装置40の具体的構成を示すブロック図である。
この燃焼制御装置40では、熱風炉11の負荷に相当する高炉に供給すべき熱量を表す指標(供給熱量指標)に応じて熱風炉11の熱レベルを表す指標の目標値(熱レベル指標目標値)を設定し、設定した熱レベル指標目標値を熱風炉11の熱余裕を表す指標(熱余裕指標)と同期して補正することで、最適な熱レベル指標目標値を設定する。そして、その熱レベル指標目標値に熱風炉11の熱レベルを一致させるように熱風炉11への投入熱量を設定し、燃焼制御を行う。
【0026】
ここで、熱風炉11の熱レベルは、燃焼期に炉が得る熱量と送風期に炉が失う熱量とのバランスによって決まるものであり、熱風炉11の熱余裕は、高炉から要求された温度、流量の熱風を供給するのに必要な最低限の熱量よりもどれだけ多くの熱量を各炉が有しているかを示すものである。
図2に示すように、燃焼制御装置40は、熱レベル指標目標値設定部41と、熱余裕指標実績出力部42と、減算器43と、目標値補正量決定部44と、加算器45と、減算器46と、熱レベル制御部47とを備える。
【0027】
熱レベル指標目標値設定部41は、供給熱量指標に基づいて、熱レベル指標目標値QLREF0を設定する。ここでは、高炉に供給する熱量を表す指標として、高炉に供給する送風温度を用い、熱レベルを表す指標としてドーム温度を用いるものとする。すなわち、供給熱量指標は、高炉の操業状態に応じた高炉必要熱量から決定される送風温度設定値である。熱レベル指標目標値QLREF0は、ドーム温度の目標値であり、例えば次式をもとに算出する。
QLREF0=a・QREF+b ………(1)
ここで、QREFは供給熱量指標、a,bは予め設定された定数である。
【0028】
熱余裕指標実績値出力部42は、熱余裕を表す指標の実績値(熱余裕指標実績値)QYを出力する。ここでは、熱余裕指標として炉の送風終了時の混冷バタフライ弁MBの開度(混冷弁開度)MBxを用いる。熱余裕指標実績値QYは、混冷弁開度センサ34で検出した混冷弁開度MBxを取り込み、例えば次式をもとに演算する。
QY=f(MBx) ………(2)
ここで、f( )は括弧内の変数をパラメータとし、熱余裕指標実績値QYを演算する関数である。
【0029】
減算器43は、作業者が設定した熱余裕指標の目標値(熱余裕指標目標値)QYREFから熱余裕指標実績出力部42で出力した熱余裕指標実績値QYを減算し、熱余裕指標の差分ΔQYを算出する。算出した差分ΔQYは目標値補正量決定部44に出力する。
目標値補正量決定部44は、減算器43から出力される差分ΔQYに基づいて、熱レベル指標目標値設定部41で設定した熱レベル指標目標値QLREF0を補正するための目標値補正量ΔQLを決定する。
【0030】
以下、目標値補正量ΔQLの決定方法について、図3を参照しながら説明する。図3の破線は、熱余裕指標と熱レベル指標の目標補正量との関係を示している。本実施形態では、熱余裕指標の差分ΔQYに対応する熱レベル指標目標補正量の差分を、目標値補正量ΔQLとする。すなわち、熱余裕指標目標値QYREF及び熱余裕指標実績値QYにそれぞれ対応する熱レベル指標目標補正量を求め、これら熱レベル指標目標補正量の差分を目標値補正量ΔQLとする。
【0031】
例えば、熱余裕指標目標値QYREFが18%、熱余裕指標実績値QYが40%である場合、図3(A)に示すように、熱余裕指標目標値QYREF=18%に対応する熱レベル指標目標補正量は30℃であり、図3(B)に示すように、熱余裕指標実績値QY=40%に対応する熱レベル指標目標補正量は82℃である。したがって、この場合、これらの差分−52℃(=30℃−82℃)が目標値補正量ΔQLとなり、熱レベル指標目標値QLREF0を52℃下げる補正を行うことになる。
すなわち、加算器45は、熱レベル指標目標値設定部41で設定した熱レベル指標目標値QLREF0と、目標値補正量決定部44で決定した目標値補正量ΔQLとを加算し、その結果を最終的な熱レベル指標目標値QLREFとして減算器46に出力する。
【0032】
減算器46は、加算器45から出力される最終的な熱レベル指標目標値QLREFと熱レベル指標の実績値QLとの差分を求め、これを熱レベル制御部47に出力する。
熱レベル制御部47は、減算器46から出力される熱レベル指標の差分に基づいて、最終的な熱レベル指標目標値QLREFを実現する熱風炉11への投入熱量Gを設定する。そして、設定した投入熱量Gに基づいて、熱風炉11のガス弁16aの開度を制御することでガス流量を調整する。本実施形態では、例えば、ドーム温度とガス流量との関係を示すモデルを作成しておき、最終的な熱レベル指標目標値QLREFを実現するためのガス流量を決定し、燃焼制御を行う。
【0033】
なお、図2において、熱レベル指標目標値設定部41が熱レベル指標目標値設定手段に対応し、熱余裕指標実績出力部42、減算器43、目標値補正量決定部44及び加算器45が熱レベル指標目標値補正手段に対応し、減算器46及び熱レベル制御部47が投入熱量設定手段に対応している。
【0034】
(動作)
次に、本実施形態の動作について説明する。
以下、炉修理を目的として1基を停止するために、炉修理前に他の炉の熱余裕を意図的に大きくした操業を行った場合について説明する。この場合の熱レベル指標目標値QLREF0と最終的な熱レベル指標目標値QLREFとの変化を図5に示す。ここでは、Period20,40前後において、熱余裕指標目標値QYREFを意図的に大きくした操業を行っている。
【0035】
Period20前後において、作業者が熱余裕指標目標値QYREFを意図的に大きく設定すると、熱余裕指標実績値QYとの差分ΔQYが正の方向に大きくなる。例えば、熱余裕指標実績値QYが18%であるとき、熱余裕指標目標値QYREFを40%に設定すると、図3(A)に示すように、熱余裕指標実績値QY=18%に対応する熱レベル指標目標補正量は30℃であり、図3(B)に示すように、熱余裕指標目標値QYREF=40%に対応する熱レベル指標目標補正量は82℃であるので、目標値補正量決定部44は、これらの差分52℃(=82℃−30℃)を目標値補正量ΔQLとして決定する。そして、この目標値補正量ΔQLが熱レベル指標目標値設定部41で設定した熱レベル指標目標値QLREF0に加算されることにより、熱レベル指標目標値QLREF0を52℃上げる補正が行われる。
したがって、熱余裕指標目標値QYREFを大幅に大きく変更すると、目標値補正量決定部44から比較的大きい値の目標値補正量ΔQLが出力されて、熱レベル指標目標値QLREF0が大きく増加補正される。すなわち、図5に示すように、最終的な熱レベル指標目標値QLREFは、熱レベル指標目標値QLREF0に対して大幅に大きくなる。
【0036】
熱レベル指標目標値QLREF0を増加補正して最終的な熱レベル指標目標値QLREFが設定されると、熱レベル制御部47は、この熱レベル指標目標値QLREFを実現するような熱風炉11の投入熱量Gを設定し、熱風炉11のガス流量を制御する。これにより、当該熱風炉11の熱余裕は大きくなる。
同様に、Period40前後においても、作業者が熱余裕指標目標値QYREFを意図的に大きく設定すると、熱レベル指標目標値QLREF0が増加補正され、図4に示すように最終的な熱レベル指標目標値QLREFが大きくなる方向に修正される。
【0037】
ところで、本実施形態のような熱余裕指標と同期して熱レベル指標目標値QYREFを補正する機能を有していない場合、操業状態に応じた熱余裕を熱風炉に持たせたい場合であっても、熱余裕を変化させることができない。そのため、熱風炉への投入熱量を最適化することができず、熱余裕が過剰となったり過少となったりしてしまう。
これに対して本実施形態では、熱余裕指標の目標値の変更に対応して熱レベル指標目標値QLREFを変更することができるので、熱余裕を大きくしたい場合には熱レベル指標目標値QLREFを増加補正して熱風炉への投入熱量を大きくし、熱余裕を小さくしたい場合には熱レベル指標目標値QLREFを減少補正して熱風炉への投入熱量を小さくすることができる。したがって、熱風炉への投入熱量を最適化して、操業に必要な熱を適切に供給することができる。
【0038】
(効果)
このように、上記実施形態では、高炉へ供給すべき熱量を表す指標(供給熱量指標)に基づいて熱風炉の熱レベルを表す指標の目標値(熱レベル指標目標値)を設定するので、供給熱量指標の変化に対応して熱レベル指標目標値を変化させることができる。そのため、熱風炉の負荷変動に応じて適切な熱レベル指標目標値を設定することができ、負荷が高いときに熱が不足したり、負荷が低いときに熱が過剰になって熱効率が低下したりするのを防止することができる。
【0039】
また、供給熱量指標に応じて設定した熱レベル指標目標値を、熱風炉の熱余裕を表す指標(熱余裕指標)の実績値と熱余裕指標の目標値との差分に応じて補正するので、熱余裕指標の実績値の変化及び目標値の変化に対応して適切に熱レベル指標目標値を変更することができる。すなわち、熱余裕が目標値に対して大きいときには熱レベル指標目標値を減少補正して投入熱量を小さくし、熱余裕が目標値に対して小さいときには熱レベル指標目標値を増加補正して投入熱量を大きくすることができる。そのため、熱余裕が過剰あるいは過少となるのを防止することができる。
さらに、熱余裕指標に目標値を設定して熱レベル指標目標値を補正するので、操業変化に応じた熱余裕を熱風炉に持たせることができる。例えば、高炉への送風温度を急激に上昇させたい場合には、事前に熱風炉の熱余裕を大きくしておくことができる。これにより、熱不足を発生させずに送風温度を上昇させることができる。
【0040】
以上のように、炉の熱レベル指標目標値を、熱風炉負荷と熱余裕の両方を考慮して適正に設定することができる。すなわち、熱余裕指標目標値を保ったまま供給熱量指標を変更すれば、熱余裕を一定に保ったまま熱風炉負荷の変化に対応した燃焼制御を行うことができる。熱余裕指標目標値だけを大きく変化させれば、供給熱量指標の変更に対するマージンを大きくとることができ、例えば送風温度設定値が頻繁に変更され、熱風炉の熱レベルを追従させるだけの余裕がない場合でも対応可能となる。
このように、熱風炉負荷と熱余裕の様々な状況に対応して熱レベル指標目標値を設定することができるので、熱風炉への投入熱量を最適化することができ、省エネルギーや炭酸ガス排出量の削減を図ることができる。
【0041】
(応用例)
なお、上記実施形態においては、高炉に供給する熱風の熱量を表す指標として、高炉への送風温度を用いる場合について説明したが、これに代えて高炉への送風量を用いることもできる。また、熱レベルを表す指標として、ドーム温度を用いる場合について説明したが、これに代えて珪石レンガ継目温度を用いることもできる。さらに、熱余裕指標として、混冷弁開度を用いる場合について説明したが、これに代えて後行炉の冷風バラフライ弁の開度や送風量、混冷バタフライ弁からの送風量と冷風バラフライ弁からの送風量との比率を用いることもできる。また、これら指標は一つだけでなく、それぞれ複数からなるようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態においては、熱レベル指標目標値の補正に際し、熱余裕指標実績値QYと熱余裕指標目標値QYREFとの差分ΔQYが大きいほど目標値補正量ΔQLを大きく設定して、熱レベル指標目標値QLREF0を1回で補正する場合について説明したが、複数回の燃焼に分散して一定量ずつ補正するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
11…熱風炉、12…燃焼室、13…蓄熱室、14…ドーム、15…珪石レンガ下部、16…供給口(燃料ガス)、17…供給口(燃焼用空気)、18…供給口(冷風)、19…蓄熱レンガ、31…送風温度計、32…ドーム温度計、33…レンガ温度計、34…混冷弁開度センサ、40…燃焼制御装置、41…熱レベル指標目標値設定部、42…熱余裕指標実績出力部、43…減算器、44…目標値補正量決定部、45…加算器、46…減算器、47…熱レベル制御部、50…送風温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数基の熱風炉に対して予め定められた制御周期ごとに燃焼期及び送風期のサイクルを繰り返して行うことにより、高炉に対して所望の温度と流量の熱風を供給する熱風炉の燃焼制御装置であって、
各熱風炉の送風期において熱風炉から高炉に供給すべき熱風の熱量を表す指標に基づいて、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標の目標値を設定する熱レベル指標目標値設定手段と、
各熱風炉の熱余裕を表す指標の実績値と各熱風炉の熱余裕を表す指標の目標値との差分に基づいて、前記熱レベル指標目標値設定手段で設定した目標値を補正する熱レベル指標目標値補正手段と、
各熱風炉の熱レベルが前記熱レベル指標目標値補正手段で補正した目標値に一致するように、各熱風炉の燃焼期における投入熱量を設定する投入熱量設定手段と、を備えることを特徴とする熱風炉の燃焼制御装置。
【請求項2】
前記熱レベル指標目標値補正手段は、各熱風炉の熱余裕を表す指標の実績値と、各熱風炉の熱余裕を表す指標の目標値との差分が大きいほど、前記熱レベル指標目標値設定手段で設定した目標値を補正するための補正量を大きく設定することを特徴とする請求項1に記載の熱風炉の燃焼制御装置。
【請求項3】
複数基の熱風炉に対して予め定められた制御周期ごとに燃焼期及び送風期のサイクルを繰り返して行うことにより、高炉に対して所望の温度と流量の熱風を供給する熱風炉の燃焼制御方法であって、
各熱風炉の送風期において熱風炉から高炉に供給すべき熱風の熱量を表す指標に基づいて、各熱風炉の送風期における熱レベルを表す指標の目標値を設定するステップと、
各熱風炉の熱余裕を表す指標の実績値と各熱風炉の熱余裕を表す指標の目標値との差分に基づいて、設定した前記目標値を補正するステップと、
各熱風炉の熱レベルが補正した前記目標値に一致するように、各熱風炉の燃焼期における投入熱量を設定するステップと、を備えることを特徴とする熱風炉の燃焼制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−107291(P2012−107291A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256959(P2010−256959)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)