説明

燃料ガス用付臭剤

【課題】硫黄含量を増加させることなく、気温変動などによる影響を受けにくく、かつ臭質や臭気強度に優れた燃料ガス用付臭剤を提供する。
【解決手段】メルカプタン類とシクロヘキセンを必須成分として含有し、メルカプタン類とシクロヘキセンの混合比が質量比で85:15〜25:75の範囲であることを特徴とする燃料ガス用付臭剤。ターシャリブチルメルカプタンとシクロヘキセンの質量比85:15〜50:50の混合物が特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液化天然ガス(LNG)、都市ガスおよびLPガスなどの燃料用付臭剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料ガスによる中毒、引火あるいは爆発などの災害を防止するため、燃料ガスが漏洩した場合に嗅覚に訴えて迅速かつ容易に検知できるように、液化天然ガス(LNG)、都市ガスおよびLPガスなどの燃料ガスに対して燃料ガス用付臭剤が添加されている。このような燃料ガス用付臭剤としては、メルカプタン類、スルフィド類等が知られ、これらは単独または数種が混合されて使用されている。現在使用されている含硫黄化合物は微量で付臭効果が高く、その臭室は一般にガス臭として感知される。
【0003】
しかしながら硫黄化合物は燃料の燃焼に伴い大気汚染物質である二酸化硫黄等の発生源となるので好ましくない。近年、硫黄分を含まない液化天然ガスをベースとした都市ガスが普及するにつれて、硫黄分を含まないガス付臭剤が求められてきている。
【0004】
また、現在開発が進められてきている燃料電池のうち、定置型の燃料電池ではすでに供給設備が整備されている都市ガスを水素の供給原料とするものが他のシステムに先んじて普及し始めている。都市ガスを水素源とする場合は改質装置をにより水素を発生させるが、改質触媒被毒防止の必要性から硫黄分は除去する必要がある。このため、現在は燃料ガス中に含まれる付臭剤由来の硫黄化合物の脱硫が行われており、脱硫装置の省略もしくは脱硫装置の長寿命化などのために、燃料ガス中の硫黄分を極力減らすことが求められている。
【0005】
近年は、前記の目的を達成する手段として様々な手段が提案されており、たとえば硫黄化合物に変えて吉草酸とアクリル酸エステルとの混合物(下記特許文献1参照)、シクロヘキセン(下記特許文献2参照)、5−エチリデン−2−ノルボルネンを必須成分とする付臭剤(下記特許文献3参照)、非硫黄系成分として2−メトキシ−3−イソブチルピラジンを含みこれとメルカプタンやスルフィドを組み合わせた付臭剤(下記特許文献4参照)、およびピラジン(下記特許文献5参照)等が非硫黄系付臭剤として用いられることが示唆されている。
【特許文献1】特開昭48−79804号公報
【特許文献2】特開昭54−58701号公報
【特許文献3】特開昭55−56190号公報
【特許文献4】特開昭60−92396号公報
【特許文献5】特開昭55−59190号公報
【特許文献6】特開平8−60167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来燃料ガスに用いられる付臭剤として、近年提案されている非硫黄系付臭剤はメルカプタン類と比較して臭気強度が弱く、臭質が異なるためメルカプタン類の代替品として充分使用できるものが見いだされていないのが実情である。
【0007】
一方、メルカプタン類は低温で固化する、土壌透過性が比較的低く埋設設備で漏洩した場合に発見が遅れる可能性があるなどの問題があり、状況によっては単独で使用すると取り扱い難い場合があった。これに対して、他の含硫化合物や非硫黄系の付臭剤と混合するなどの方法も提案されている。
【0008】
しかしながら、メルカプタン類以外の含硫化合物はメルカプタン類ほどの臭気強度が得られないため、硫黄化合物の使用量が増すという問題があった。また、メルカプタン類と非硫黄系化合物との混合物については、たとえば前記特許文献2にみられるように、非硫黄系化合物とメルカプタン類を混合して使用する方法が示唆されているにとどまり、その配合比率による特性については何ら検討されていない。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、硫黄含量を増加させることなく、気温変動などによる影響を受けにくく、かつ臭質や臭気強度に優れた燃料ガス用付臭剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、硫黄の量を制限し、かつ取り扱いの容易な、メルカプタン類を有効成分とする燃料ガス用付臭剤を完成するに至った。すなわち本発明は、メルカプタン類とシクロヘキセンを必須成分として含有し、メルカプタン類とシクロヘキセンの混合比が質量比で85:15〜25:75の範囲であることを特徴とする燃料ガス用付臭剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の付臭剤は燃料ガスに対し低濃度であっても感知効果を有するため経済的である。また、比較的低温の環境下であってもメルカプタン類が固化することが無いため、付臭装置を保温するなどの操作をすることなく容易に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の付臭剤について説明する。本発明によれば、メルカプタン類とシクロヘキセンを必須成分として含有し、メルカプタン類とシクロヘキセンを質量比で85:15〜25:75の範囲で配合することにより硫黄含量を増加させることなく、低温でも取り扱いが容易で土壌透過性も良好な燃料ガス用付臭剤を得ることができる。さらには、メルカプタン類とシクロヘキセンを質量比で85:25〜50:50の範囲で配合することが、低温下におけるメルカプタン類の固化を防止しつつ、メルカプタン類単独の場合とほぼ同等な認知閾値が得られるため特に好ましい。
【0013】
メルカプタン類とシクロヘキセンの配合比において、メルカプタン類が85質量%を越えると、低温下で固化しやすくなるため、環境によって取り扱い方を変える必要が生じる。また、シクロヘキセンが75質量%を越えると、付臭剤の認知閾値が上昇するため、単位量の燃料ガスに対するメルカプタン類の必要量が増加するため、好ましくない。
【0014】
本発明におけるメルカプタン類の例としては、エチルメルカプタン、n−プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、セカンダリブチルメルカプタン、ターシャリブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、2−ペンチルメルカプタン、3−ペンチルメルカプタン、2−メチルブチルメルカプタン、3−メチルブチルメルカプタン、1,1−ジメチルプロピルメルカプタン、2,2−ジメチルプロピルメルカプタン、1,2−ジメチルプロピルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、2−ヘキシルメルカプタン、3−ヘキシルメルカプタン、1−メチルペンチルメルカプタン、2−メチルペンチルメルカプタン、3−メチルペンチルメルカプタン、1−メチルペンチルメルカプタン、3−メチル−2−ペンチルメルカプタン、4−メチル−2−ペンチルメルカプタン、2−メチル−3−ペンチルメルカプタン、3−メチル−3−ペンチルメルカプタン、1,1−ジメチルブチルメルカプタン、2,2−ジメチルブチルメルカプタン、3,3−ジメチルブチルメルカプタン、1,2−ジメチルブチルメルカプタン、1,3−ジメチルブチルメルカプタン、2,3−ジメチルブチルメルカプタン、1,1,2−トリメチルプロピルメルカプタン、1,2,2−トリメチルプロピルメルカプタン、フルフリルメルカプタン等があげられる。その中でも臭質の点から、エチルメルカプタン、n−プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、ターシャリブチルメルカプタン、フルフリルメルカプタンが好ましい。
【0015】
本発明の燃料ガス用付臭剤には、化学的安定性をより高めるため、または、土壌透過性をより高めるためにスルフィド類を配合することができる。スルフィド類の例としてはジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、メチルエチルスルフィド、ジn−プロピルスルフィド、n−プロピルイソプロピルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、メチルn−プロピルスルフィド、メチルイソプロピルスルフィド、エチルn−プロピルスルフィド、エチルイソプロピルスルフィド、ジn−ブチルスルフィド、ジイソブチルスルフィド、ジターシャリブチルスルフィド、n−ブチルメチルスルフィド、n−ブチルエチルスルフィド、n−ブチルn−プロピルスルフィド、n−ブチルイソプロピルスルフィド、イソブチルメチルスルフィド、イソブチルエチルスルフィド、イソブチルn−プロピルスルフィド、イソブチルイソプロピルスルフィド、ターシャリブチルメチルスルフィド、ターシャリブチルエチルスルフィド、ターシャリブチルn−プロピルスルフィド、ターシャリブチルイソプロピルスルフィド、テトラヒドロチオフェン等があげられる。その中でも臭質の点からジメチルスルフィド、テトラヒドロチオフェンが好ましい。
【0016】
また、本発明の燃料ガス用付臭剤には、硫黄含量を低減する目的で非硫黄系の付臭剤を配合することもできる。非硫黄系付臭剤としては、たとえば低級脂肪酸類、ピラジン類、ピリジン類、ピリミジン類などの含窒素化合物類などが挙げられる。これら非硫黄系付臭剤としてより具体的には、2−アルコキシ−3−アルキルピラジンが挙げられる。その中でも臭質および臭気強度の点から、2−メトキシ−3−イソ−プロピルピラジンまたは2−メトキシ−3−イソ−ブチルピラジンが好ましいものとして挙げられる。
【0017】
本発明のスルフィド類の混合割合は付臭効果が発揮される範囲にあれば特に限定されるものではないが、硫黄含量を低減するために極力低い濃度であることが好ましい。
【0018】
本発明の付臭剤の燃料ガスに対する添加割合は、付臭効果が発揮される範囲にあれば特に限定されるものではないが、経済性の観点からできるだけ低いことが好ましい。具体的には、0.1〜100mg/Nmの範囲であり、5〜50mg/Nmにあることがより好ましい。
【0019】
本発明の燃料ガス用付臭剤が適用される燃料ガスは特に限定されるものではないが、具体的には、液化天然ガス(LNG)、工業用ガス、あるいは液化石油ガス等の燃料ガスが挙げられる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限を受けるものではない。以下の実施例において付臭剤の認知閾値を下記の試験方法により評価した。
【0021】
(臭室評価)
ガス付臭剤として最も基本的な特性である臭気強度、臭質の測定に当たっては日本ガス協会の「ガスの臭気濃度の測定方法」に準拠して無臭室法で行った。即ち8mの無臭室に大気中の披験物質の濃度が一定になるまでかき混ぜ静置した後入室して臭気強度および臭質の評価を行った。臭気強度の判定は5名の熟練したパネルを用い下記の6段階臭気強度表示法により測定し平均値を測定値とし、臭気強度が2となる付臭剤濃度を認知閾値とした。
「6段階臭気強度表示法」
0:無臭
1:何のにおいかわからないが、やっとかすかに感じるにおい
2:何のにおいかわかる、楽に感じるにおい
3:明らかに感じるにおい
4:強いにおい
5:耐えられないほど強いにおい
【0022】
(実施例1)
ターシャリブチルメルカプタン(TBM)とシクロヘキセンを重量比で5:95〜100:0の割合で攪拌混合して付臭剤溶液を調整した。この溶液を液化天然ガスに対して0.1〜100mg/Nmとなるように添加した。この試料を前記試験方法により認知閾値濃度を評価した。その結果から、TBMとシクロヘキセンの混合物中のTBM配合量(質量%)と、燃料ガスに対する、認知閾値に達するのに必要なTBMの添加量(μg/Nm)を比較した。その結果を図1に示す。
【0023】
試験結果から、TBM配合量が25質量%未満の領域では、燃料ガス中のTBMの絶対量が急激に増加する傾向があることが判明した。これにより、TBMとシクロヘキセンからなる組成物を付臭剤として使用する場合は、組成物中のTBM配合量が25%以上であることが好ましいと判断した。
【0024】
(物性試験)
燃料ガス用付臭剤として実用化されるためには基本的であるが凝固点が低く取扱いが容易であることがあげられる。TBMは凝固点が1℃であり、寒冷地などでは単独で使用することが困難である。そこでシクロヘキセンとの混合液を調整し、−20℃のフリーザーで凝固点の確認を行った。また、燃料ガス用付臭剤として実用化されるために化学的に安定であることが必要である。本発明による燃料ガス用付臭剤について、これらの条件を満足させるものであることを確認した。
【0025】
(化学安定性)
30mLのガラス製密栓容器に20gの付臭剤と酸化第二鉄粉0.2gを添加し、50℃で10日間加熱し、ガスクロマトグラフィーで測定し加熱前後の試料の組成変化の有無を調べ、何らかの反応でクロマトグラフィーに新たなピークが検出されなければ安定と判断した。これらの試験結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
この結果により、TBMとシクロヘキサンからなる組成物では、各種の使用条件を満たすものであることを確認したが、TBMの配合量が85%以下であることが、気候環境による操作性の悪化がないため好ましいと判断した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の燃料ガス用付臭剤は、硫黄含量を増加させることなく、気温変動による影響を受けにくい、臭質や臭気強度に優れたものであって、各種燃料ガスに添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】TBMとシクロヘキセンの混合物中のTBM配合量(質量%)と燃料ガスに対する認知閾値に達するのに必要なTBMの添加量(μg/Nm)のグラフ。(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルカプタン類とシクロヘキセンを必須成分として含有し、メルカプタン類とシクロヘキセンの混合比が質量比で85:15〜25:75の範囲であることを特徴とする燃料ガス用付臭剤。
【請求項2】
メルカプタン類とシクロヘキセンからなり、メルカプタン類とシクロヘキセンの混合比が質量比で85:15〜25:75の範囲であることを特徴とする燃料ガス用付臭剤。
【請求項3】
メルカプタン類がターシャリブチルメルカプタンである、請求項1または2に記載の燃料ガス用付臭剤。
【請求項4】
ターシャリブチルメルカプタンとシクロヘキセンの混合比が質量比で85:15〜50:50の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の燃料ガス用付臭剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−112969(P2007−112969A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308871(P2005−308871)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)