説明

燃料噴射ポンプのプリストローク調整治具

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃料噴射ポンプのプリストロークを調整する治具に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、燃料噴射ポンプではプランジャバレルの窓孔からばね部材を挿入し、このばね部材をタイミングスリーブの下端に宛い、そのタイミングスリーブを上方へ押し上げた状態で、各筒のプリストロークを調整するようにしている。
【0003】即ち、図3は従来の調整方法を示しており、まずワイヤ100を用いてタイミングスリーブ101を上方へ持ち上げ、それによって生じたタイミングスリーブ101の下端の隙間に、図4に示すように、ピンセットなどを用いて板ばね103を差し込み、この板ばね103によりタイミングスリーブ101を上方へ押し上げる。この作業を繰り返しながら、全筒のタイミングスリーブ101を上方へ押し上げた後、図5に示すように、全てのプリストローク調整孔105を、気密用プラグ107によって塞ぐ。この状態で、公知の方法により、各筒毎に燃料を供給して、夫々のプランジャのプリストロークをシム調整する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の構成では、板ばね103を用いてタイミングスリーブ101を上方へ押し上げる作業がきわめて厄介である。また、その作業の際にプランジャのリードに傷をつけたり、タイミングスリーブ101の形状によっては板ばね103を用いることができなかったりすることがある。
【0005】さらに、全筒のタイミングスリーブ101を上方へ押し上げた後には、すべてのプリストローク調整孔105を気密用プラグ107によって塞いでしまうが、その後は、かりに板ばね103が外れたとしてもそれを確認することができない、など種々の問題がある。
【0006】そこで、本発明の目的は、上述した従来の技術が有する問題点を解消し、タイミングスリーブを押し上げる作業を簡単に行うことができ、且つ、プランジャのリードに傷をつけたりすることのない調整治具を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、プランジャバレルの窓孔から挿入した爪部材により、プランジャに嵌め込まれたタイミングスリーブを押し上げて、その状態でプリストロークを調整するようにしたものにおいて、燃料噴射ポンプ本体のタイミングロッド挿入孔に挿入され、この挿入孔内に回転自在に支持されるシャフトと、このシャフトに取り付けられると共に、プランジャバレンの窓孔から挿入されて、タイミングスリーブに係合する爪部材と、この爪部材がタイミングスリーブを押し上げる方向に、シャフトを回転させるためのレバーと、このレバーによりシャフトを回転させた後に、シャフトが逆戻りしないように、レバーを固定するためのピンとを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
【作用】本発明によれば、燃料噴射ポンプ本体のタイミングロッド挿入孔に、まず、この発明に係る治具を挿入する。この治具のレバーを回転すると、そのレバーに取付けられた爪部材がすべてのタイミングスリーブを一度に押し上げ、その後、そのシャフトはピンにより固定されるので、すべてのタイミングスリーブは押し上げられた状態で保持される。この状態から、公知の方法により各筒毎に燃料が供給されて、夫々のプランジャのプリストロークが調整される。
【0009】
【実施例】以下、本発明による燃料噴射ポンプの噴射時期調整治具の一実施例を図1、及び図2を参照して説明する。
【0010】図1において、1は燃料噴射ポンプを示している。この燃料噴射ポンプ1は6筒であって、その内部には、プランジャ3、プランジャバレル5、タイミングスリーブ7、デイバリバルブホルダ9などがセットになった燃料噴射エレメント11が6個設けられている。プランジャ3の下端は、カム軸13のカム15に当接しており、このカム軸13が回転すると、プランジャ3が上下動して、燃料が圧送されるしくみになっている。
【0011】このような燃料噴射ポンプ1では、製造後の段階で、各筒のプリストロークを調整する。そのための治具として、この実施例では、図1に示すような治具200が与えられる。
【0012】この治具200は、本体1のタイミングロッド挿入孔17に挿入されるシャフト21と、このシャフト21を回転自在に支持するベアリング23と、シャフト21の軸端にボルト止めされたレバー25と、さらにはシャフト21の軸部にボルト止めされた6枚の爪部材(以下プレートという)27とからなっている。
【0013】上記挿入孔17は本体1の上部に横方向に貫通しており、プリストローク調整後、この挿入孔17には、タイミングロッド(図示せず)が挿入される。
【0014】また、プレート27は、後述するように、本体1の内部において、プランジャバレル5の窓孔5aから挿入されて(図1に点線で示す)、タイミングスリーブ7に引掛けられる。これら6枚のプレート27は夫々が各筒のタイミングスリーブ7に引掛けられる。なお、このプレート27は板ばねが望ましいが、その代りとして巻きばねなどであってもよい。
【0015】ここで、プリストロークとは、プランジャ3が下死点から徐々に上昇して、プランジャ3の上端が、プランジャバレル5に設けられた燃料の吸排口(図示せず)を塞ぐ時までのプランジャ3の移動量をいう。吸排口を塞ぐ時点は静的噴射始め位置であるが、この噴射時期の調整はきわめて重要であり、この調整はタイミングスリーブ7を上方へ押し上げた状態で行なわれる。
【0016】つぎに、この実施例によるプリストロークの調整手順を説明する。
【0017】図1を参照して、治具200をタイミングロッド挿入孔17に挿入し、この挿入孔17内に軸端のベアリング23を嵌め込んで、本体1内にシャフト21を回転自在に支持する。そして、レバー25を矢印の方向に回して、このレバー25の回り止めのピン31を燃料噴射ポンプ1のピン孔33に嵌め込む。
【0018】図2を参照して、シャフト21に固定された6枚のプレート27は、夫々が対応する各筒のタイミングスリーブ7の溝7a内に挿入されており、上述のように、レバー25を回して、シャフト21を回転させると、タイミングスリーブ7はプレート27により押し上げられる。
【0019】このプレート27はばね部材であり、このプレート27がたわむ程度にまでレバー25を回転させておいてから、上述のピン31をピン孔33に差し込むと、このピン31に当接するまでレバー25が逆回転して戻ったとしても、タイミングスリーブ7はプレート27により押し上げられた状態で保持される。
【0020】すなわち、この実施例によると、治具200を使って、6筒夫々のタイミングスリーブ7を同時に押し上げた状態で保持することができるので、従来のように、タイミングスリーブ7を1つ1つ押し上げる必要がなく、その作業がきわめて単純化される。
【0021】また、レバー25を回転させるだけの操作で、タイミングスリーブ7を押し上げることができるので、その作業の際にプランジャ3のリード(図示せず)に傷をつけるようなことはない。さらに、従来のように、板ばね103(図4)などを用いずに、プレート27によりタイミングスリーブ7を押し上げるので、そこからプレート27が外れるようなことはない。
【0022】6筒すべてのタイミングスリーブ7を押し上げたら、6筒ずつ燃料を供給して順に公知の手順でプリストロークの調整を行う。
【0023】ただし、プリストロークの調整時には、プランジャバレル5内に燃料を供給する都合から、シャフト21の端部から燃料が洩れ出ないように、本体1の端壁にはカバー35(図1)が4本のボルト37で止められる。
【0024】プリストロークの調整は、要するに、1筒ずつ燃料を供給しながら、プランジャ3を押し上げて、供給された燃料が所定のタイミングで圧送されるかを見ることにより行なわれる。
【0025】そのタイミングがずれているようだったら、プランジャバレル5の取り付け位置を、本体1に対して上下させるために、プランジャバレル5の取り付け面に、図1に示すように、間隔調整用のシム39を挾み込み、あるいはそのシム39を取り外す。
【0026】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、燃料噴射ポンプ本体のタイミングロッド挿入孔に調整治具を挿入し、この治具のレバーを回転することにより、爪部材を介してすべてのタイミングスリーブを一度に押し上げ、その後、公知の方法により各筒毎に燃料を供給して、夫々のプランジャのプリストロークを調整するので、従来のものに比べて、タイミングスリーブを押し上げるための作業がきわめて簡素化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるプリストローク調整治具の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の要部断面図である。
【図3】従来の図2相当図である。
【図4】板ばねを挿入する手順を示す斜視図である。
【図5】プラグをねじ込む手順を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 燃料噴射ポンプ
3 プランジャ
5 プランジャバレル
5a 窓孔
7 タイミングスリーブ
9 デイバリバルブホルダ
11 燃料噴射エレメント
17 タイミングロッド挿入孔
21 シャフト
23 ベアリング
25 レバー
27 爪部材
31 ピン
35 カバー
200 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プランジャバレルの窓孔から挿入した爪部材により、プランジャに嵌め込まれたタイミングスリーブを押し上げて、その状態でプリストロークを調整するようにしたものにおいて、燃料噴射ポンプ本体のタイミングロッド挿入孔に挿入され、この挿入孔内に回転自在に支持されるシャフトと、このシャフトに取り付けられると共に、プランジャバレルの窓孔から挿入されて、タイミングスリーブに係合する爪部材と、この爪部材がタイミングスリーブを押し上げる方向に、シャフトを回転させるためのレバーと、このレバーによりシャフトを回転させた後に、シャフトが逆戻りしないように、レバーを固定するためのピンとを備えたことを特徴とする燃料噴射ポンプのプリストローク調整治具。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【特許番号】特許第3142184号(P3142184)
【登録日】平成12年12月22日(2000.12.22)
【発行日】平成13年3月7日(2001.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−43305
【出願日】平成5年2月8日(1993.2.8)
【公開番号】特開平6−235364
【公開日】平成6年8月23日(1994.8.23)
【審査請求日】平成10年12月8日(1998.12.8)
【出願人】(000003333)株式会社ボッシュオートモーティブシステム (510)