説明

燃料電池のマニフォールド

【課題】外部配管からマニフォールドへの流れ、またはスタックからマニフォールドへの流れを、マニフォールドの入口部から出口側へと向かう途中で大きく曲げる構造では、当該屈曲部にて流体が剥離や渦を生じるため圧力損失および騒音、振動が発生する。
【解決手段】スタック2からの流体が流入する内部側通路11bの途中に屈曲部22を有するマニフォールド1において、前記屈曲部の下流側に、途中から2方向に分岐したのち合流する分岐状通路部23a、23bを設ける。屈曲部を通過した流れは2方向に案内され、通路が単一である場合に比較して流れの自由度が制限されることから円滑な流れを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックへ燃料ガス等の流体を分配供給し、または燃料電池スタックからの排出流体を回収するためのマニフォールドの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に適用する燃料電池では、セルと呼ばれる単位燃料電池を多数積層してスタック体を構成し、さらに複数のスタック体を積層してスタック配列を構成することにより、高出力、高電圧を得るようにしている。
【0003】
個々のセルの作動に必要な燃料ガスや酸化ガス、またはセル冷却のための冷却液等の流体は、スタック配列に取り付けられた供給マニフォールドを介して各スタック体に分配され、さらに各スタック体の内部に形成された共通の供給流路から各セルに分配供給される。また、各セルにて消費されなかった燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却液は、各スタック体内部に形成された共通の排出流路から排出マニフォールドに集合し、スタック配列の外部へと排出される。
【0004】
マニフォールドによる各スタック体への燃料ガス等の流体の分配は、各スタック体の起動や出力が一律となるように均等に行う必要がある。このような機能が求められるマニフォールドの構造として、たとえば特許文献1に示したように、流体の種類毎に通路を階層的に設けたものが知られている。
【特許文献1】特表2002-532855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術のように複数の流体通路を階層化した構造ではマニフォールドの階層方向の寸法的制約が問題となる。特に車載用の燃料電池においては、限られたスペース内でスタック容積を可能な限り大きく取ろうとするので、それだけマニフォールドについては寸法的制約が大きくなり、このため前述のような階層構造を適用すると各流体の通路断面積が過小となり、必要流量を確保しようとしたときのエネルギ損失が大きくなる傾向がある。
【0006】
特に階層構造のマニフォールドでは、外部配管からマニフォールドへの流れ、またはスタックからマニフォールドへの流れを、マニフォールドの入口部から出口側へと向かう途中で大きく曲げる構造とせざるをえないという問題がある。このような屈曲部があると、流体は流れの慣性があるため流速によっては向きの変更に追従できず、通路形状に沿っていた流れが逸脱し,剥離部や渦を生成する。この結果、圧力損失が増大するのみならず、騒音や振動を発するという問題が生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、燃料電池のスタックに供給する複数種類の流体毎に、スタックに設けられた流体給排口に接続する内部側通路と、この内部側通路を外部配管に接続する外部側通路とを備え、前記スタックからの流体が流入する内部側通路または外部配管からの流体が流入する外部側通路の途中に屈曲部を有する燃料電池のマニフォールドである。
【0008】
本発明では、前記屈曲部の下流側に、途中から2方向に分岐したのち合流する分岐状通路部を設けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈曲部から下流側で通路が2方向に分岐していることから、屈曲部を通過した流れが2方向に案内され、言い換えれば通路が単一である場合に比較して流れの自由度が制限されることから、屈曲部通過後の流れが円滑となる。これにより、屈曲部による造波抵抗の発生が抑制されて、圧力損失および振動、騒音が低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係るマニフォールド構造を示しており、図中の1がマニフォールド、2が燃料電池のスタックを表している。図は前記マニフォールド1の側面図上の通路配置を示したものであり、図中で網点等のパターン模様を施した部分はマニフォールド1の材質部分、内側の白地部分は通路部分を表している。なおこの図は通路配置を示すための説明図であり、機械製図法による断面図とは異なる。
【0011】
このマニフォールド1は、樹脂の射出成形または鋳造等により一体または積層構造となるように型形成してある。スタック2に循環する流体として、酸化剤ガス、燃料ガス、冷却液の3種類の流体を流すように3系統の通路が階層的に形成されているが、図ではそのうちの1系統の通路11のみを示している。
【0012】
前記通路11は、外部側通路11a、内部側通路11b、前記外部側通路と内部側通路の中間に形成した容積部11cからなる。内部側通路11bは、スタック2の流体通路(図にはたとえば使用済みの燃料ガスを排出する流路2fのみを示す)に接続するように開口している。一方、外部側通路11aは、マニフォールド1の上面側に設けた外部配管(図示せず)との接続フランジ部14に開口している。
【0013】
前記接続フランジ部14は、全体が直方体状をなすマニフォールド1の長手方向の一端部に設けてある。この接続フランジ部14に開口した外部側通路11aを、容積部11cを介して内部側通路11bと連通し、その開口部は長手方向の他端部側にて前述したようにスタック2側の通路2fと接続するようにしてある。これら通路開口部の配置はスタック2の通路構造に対応して設定されるものである。
【0014】
この実施形態では、前記通路11をスタック2からの使用済みの燃料ガスを外部に排出するための通路とした例を示しており、この構造においては内部側通路11bを、図示したようにスタック2から容積部11cへと流れの方向を変えるために略直角方向に屈曲した形状に形成している。
【0015】
図2に前記内部側通路11bの形状を示す。図中の21はスタックからの流体が流れ込む上流側通路部を、22は屈曲部を、23は前記屈曲部22から容積部へと至る下流側通路部を、それぞれ示している。
【0016】
下流側通路部23は、途中から分岐し、容積部11cに達する前に合流する2つの分岐状通路部23aと23bとを有している。この場合、前記2つの分岐状通路部23a、23bは、階層状に複数系統の通路を形成する構造に対応するように、スタック2との接合面に平行な面内にて分岐するように形成してある。
【0017】
本実施形態の構成においては、前記屈曲部22から下流側の通路部23が2つの分岐状通路部23aと23bの2方向に分岐していることから、屈曲部22を通過した流れが2方向に分流する。それまで単一の流れであった流体が2方向へと分流することで通路内の流れの自由度が少なくなることに伴い、圧力損失および振動、騒音が低減する。
【0018】
なお、前記分岐状通路部の分岐部と合流部との間(2つの分岐状通路部23aと23bの間)に形成される島状空間部24の断面形状を層流翼形に形成することにより、該通路内の流れをより円滑にして圧力損失や振動、騒音をより低減することができる。
【0019】
図3に本発明の第2の実施形態に係る通路構造を示す。なお図1または図2と対応する部分には同一の符号を付して示してある(以下の各図についても同様)。この実施形態は、前記島状空間部24に、マニフォールド1をスタック2に固定するためのボルト等の固定具を貫通または挿入するための挿入部25を設けたものである。この実施形態によれば、前記島状空間部24を利用してマニフォールド1の固定が図れるので、限られたマニフォールド容積を有効利用することができる。
【0020】
図4に本発明の第3の実施形態に係る通路構造を示す。この実施形態は、前記島状空間部24を貫通して、該通路部23を流れる流体を加熱する熱媒体、たとえば燃焼ガス用の通路31を設けたものである。この実施形態によれば、2つに分岐した通路部23aと23bとの間を熱媒体が通過する構成であるので、該通路部を通過する流体を効率よく加熱することができる。したがって、通路部23を酸化剤ガスまたは燃料ガスをスタック2に供給するためのガス供給用の通路(図1で外部側通路11aに相当)として構成することにより、低温時の燃料電池の起動時間短縮およびセル劣化防止を図ることができる。
【0021】
図5に本発明の第4の実施形態に係る通路構造を示す。この実施形態は、前記島状空間部24に、該通路部23を流れる流体を加熱するためのヒータ32を設けたものである。ヒータ32としては電熱線、PTC、ヒートパイプなどを適用することができる。この実施形態による場合も、第3の実施形態と同様に、通路部23を流れる酸化剤ガスまたは燃料ガスを効率よく加熱して、燃料電池の低温始動性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用可能なマニフォールド構造の概略構成を示す側面断面図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るマニフォールドの通路構造の説明図。
【図3】本発明の第2実施形態に係るマニフォールドの通路構造の説明図。
【図4】本発明の第3実施形態に係るマニフォールドの通路構造の説明図。
【図5】本発明の第4実施形態に係るマニフォールドの通路構造の説明図。
【符号の説明】
【0023】
1 マニフォールド
2 スタック
11a 外部側通路
11b 内部側通路
21 通路11bの上流側通路部
22 通路11bの屈曲部
23 通路11bの下流側通路部
23a,23b 分岐状通路部
24 島状空間部
31 加熱媒体の通路
32 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のスタックに供給する複数種類の流体毎に、スタックに設けられた流体給排口に接続する内部側通路と、この内部側通路を外部配管に接続する外部側通路とを備え、前記スタックからの流体が流入する内部側通路または外部配管からの流体が流入する外部側通路の途中に屈曲部を有する燃料電池のマニフォールドにおいて、
前記屈曲部の下流側に、途中から2方向に分岐したのち合流する分岐状通路部を設けたことを特徴とする燃料電池のマニフォールド。
【請求項2】
前記分岐状通路部の分岐部と合流部との間に形成される島状空間部の断面形状を層流翼形に形成した請求項1に記載の燃料電池のマニフォールド。
【請求項3】
前記分岐状通路部の分岐部と合流部との間に形成される島状空間部に、マニフォールドをスタックに固定するための固定具の挿入部を設けた請求項1に記載の燃料電池のマニフォールド。
【請求項4】
前記分岐状通路部を備えた外部側通路を酸化剤流体または燃料流体を供給する流体供給用通路として形成すると共に、前記分岐状通路部の分岐部と合流部との間に形成される島状空間部に前記流体を加熱する熱媒体用の通路を設けた請求項1に記載の燃料電池のマニフォールド。
【請求項5】
前記分岐状通路部を備えた外部側通路を酸化剤流体または燃料流体を供給する流体供給用通路として形成すると共に、前記分岐状通路部の分岐部と合流部との間に形成される島状空間部に前記流体を加熱するヒータを設けた請求項1に記載の燃料電池のマニフォールド。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−164831(P2006−164831A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356636(P2004−356636)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】