燃料電池の製造方法
【課題】燃料拡散性の向上を図ることができ、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図り、低コストで燃料電池を製造することができる燃料電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】
電解質層5および電解質層5に積層されるアノード電極6を備える膜・電極接合体2と、膜・電極接合体2に積層されるアノード側拡散層8とを備える単位セル16を有する燃料電池1の製造において、まずアノード側拡散層8を水に浸漬し、その後膜・電極接合体2に接触するようにアノード側拡散層8を積層する。この燃料電池1の製造方法ではアノード側拡散層8を水に浸漬するため、最初の運転時からアノード側拡散層8の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。そのため、このような燃料電池1の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても燃料電池1の安定化を図ることができる燃料電池1を低コストで製造することができる。
【解決手段】
電解質層5および電解質層5に積層されるアノード電極6を備える膜・電極接合体2と、膜・電極接合体2に積層されるアノード側拡散層8とを備える単位セル16を有する燃料電池1の製造において、まずアノード側拡散層8を水に浸漬し、その後膜・電極接合体2に接触するようにアノード側拡散層8を積層する。この燃料電池1の製造方法ではアノード側拡散層8を水に浸漬するため、最初の運転時からアノード側拡散層8の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。そのため、このような燃料電池1の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても燃料電池1の安定化を図ることができる燃料電池1を低コストで製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造方法、詳しくは、液体燃料が用いられる燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体燃料を使用する燃料電池として、例えば、直接メタノール形燃料電池、直接ジメチルエーテル形燃料電池、ヒドラジン形燃料電池などが知られている。
【0003】
液体燃料を使用する燃料電池は、具体的には、電解質層と、その電解質層を挟んで対向配置される燃料側電極および酸素側電極とを備える膜・電極接合体と、燃料側電極に対向配置される燃料側セパレータと、酸素側電極に対向配置される酸素側セパレータとを備える単位セルを有している。
【0004】
そして、このような燃料電池においては、燃料や空気を円滑に拡散させ、また、生成する水を円滑に排出させるために、ガス拡散層基材を、膜・電極接合体と燃料側セパレータとの間、および、膜・電極接合体と酸素側セパレータとの間のそれぞれに介在させることが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−257928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記したガス拡散層基材は、燃料拡散性を向上させ、燃料電池の性能の安定化を図るべく、最初の運転時に、液体燃料との親和性を確保する必要があり、長期間の慣らし運転を要するという不具合がある。
【0007】
一方、例えば、ガス拡散層基材の燃料拡散性を向上させるために、ガス拡散層基材に対して、親水化処理することなども検討されるが、このような親水化処理には、手間やコストがかかるという不具合がある。
【0008】
本発明の目的は、燃料拡散性の向上を図ることができ、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図り、低コストで燃料電池を製造することができる燃料電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池の製造方法は、電解質層、および、前記電解質層に積層される燃料側電極を備える膜・電極接合体と、前記膜・電極接合体に積層されるガス拡散層とを備える単位セルを有する燃料電池の製造方法であって、前記ガス拡散層を、水に浸漬する浸漬工程、および、前記膜・電極接合体に接触するように、前記ガス拡散層を積層する積層工程を備えることを特徴としている。
【0010】
このような燃料電池の製造方法によれば、ガス拡散層を水に浸漬するため、最初の運転時から、ガス拡散層の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。
【0011】
そのため、このような燃料電池の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図ることができる燃料電池を製造することができる。
【0012】
また、本発明の燃料電池の製造方法は、さらに、前記浸漬工程の後、前記積層工程の前に、水に浸漬された前記ガス拡散層を凍結させる凍結工程を備えることが好適である。
【0013】
このような燃料電池の製造方法では、積層工程において、ガス拡散層が水に浸漬および凍結されているため、ガス拡散層の剛性を確保することができ、積層工程における作業性(組み付け性)の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池の製造方法では、ガス拡散層を水に浸漬するため、最初の運転時から、ガス拡散層の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。
【0015】
そのため、このような燃料電池の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図ることができる燃料電池を、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す燃料電池の製造方法を示す工程図であって、(a)は、ガス拡散層を水に浸漬する浸漬工程、(b)は、ガス拡散層を凍結させる凍結工程、(c)は、膜・電極接合体にガス拡散層を積層する積層工程、(d)は、ガス拡散層に燃料供給部材および空気供給部材を積層する工程、(e)は、これにより得られる単位セルを示す。
【図3】参考実施例に用いられたガス拡散層を示す。
【図4】参考比較例に用いられたガス拡散層を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.燃料電池
(1−1)燃料電池の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池を示す概略構成図、図2は、詳しくは後述するが、図1に示す燃料電池の製造方法を示す工程図である。
【0018】
図1および図2において、燃料電池1は、液体の燃料成分が直接供給されるアニオン交換型燃料電池である。
【0019】
燃料電池1に供給される燃料成分としては、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジン(水加ヒドラジン、無水ヒドラジンなどを含む)などが挙げられる。
【0020】
燃料電池1は、膜・電極接合体2、膜・電極接合体2の一方側(アノード側)に積層されたガス拡散層としてのアノード側拡散層8、アノード側拡散層8における膜・電極接合体2の他方側に積層された燃料供給部材3、膜・電極接合体2の他方側(カソード側)に積層されたガス拡散層としてのカソード側拡散層9、および、カソード側拡散層9における膜・電極接合体2の他方側に積層された空気供給部材4を有する単位セル16(燃料電池セル)が、複数積層されたスタック構造に形成されている。
【0021】
なお、図1では、複数の単位セル16のうち1つだけを取り出して分解して表し、その他の単位セル16については積層状態を示している。また、図2では、複数の単位セル16のうち1つだけを取り出してその製造方法を示し、その他の単位セル16については省略している。
【0022】
膜・電極接合体2は、図2(c)〜(e)に示されるように、電解質膜5、電解質膜5の厚み方向一方側の面(以下、単に一方面と記載する。)に形成される燃料側電極としてのアノード電極6、および、電解質膜5の厚み方向他方側の面(以下、単に他方面と記載する。)に形成されるカソード電極7を備えている。
【0023】
電解質膜5は、アニオン成分が移動可能な層であり、例えば、アニオン交換膜を用いて形成されている。
【0024】
アニオン交換膜としては、アニオン成分(例えば、水酸化物イオン(OH−)など)が移動可能な媒体であれば、特に限定されず、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0025】
アニオン交換膜を形成する固体高分子としては、例えば、ポリスチレンおよびその変性体などの炭化水素系の固体高分子膜などが挙げられる。
【0026】
また、アニオン交換膜を形成する固体高分子は、その分子構造において、架橋構造を有していてもよい。
【0027】
また、アニオン交換膜は、市販品として入手可能であり、例えば、セレミオン(旭硝子社製)、ネオセプタ(アストム社製)などが挙げられる。
【0028】
また、電解質膜5の膜厚は、例えば、10〜100μmである。
【0029】
アノード電極6は、例えば、触媒を担持した触媒担体により形成されている。また、触媒担体を用いずに、触媒を、直接、アノード電極6として形成してもよい。
【0030】
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ニッケルが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
触媒担体としては、例えば、カーボンなどの多孔質物質が挙げられる。
【0032】
アノード電極6の厚みは、例えば、10〜200μm、好ましくは、20〜100μmである。
【0033】
カソード電極7は、例えば、アノード電極6と同様に、触媒を担持した触媒担体により形成されている。
【0034】
また、カソード電極7は、例えば、錯体形成有機化合物および/または導電性高分子とカーボンとからなる複合体(以下、この複合体を「カーボンコンポジット」という。)に、遷移金属が担持されている材料により形成されてもよい。
【0035】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、銀、コバルトが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0036】
錯体形成有機化合物は、金属原子に配位することによって、当該金属原子と錯体を形成する有機化合物であって、例えば、ピロール、ポルフィリン、テトラメトキシフェニルポルフィリン、ジベンゾテトラアザアヌレン、フタロシアニン、コリン、クロリンなどの錯体形成有機化合物またはこれらの重合体が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ピロールの重合体であるポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0037】
導電性高分子としては、上記錯体形成有機化合物と重複する化合物もあるが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリトリフェニルアミン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン、ポリイソチアナフテン、ポリピリジンジイル、ポリチエニレン、ポリパラフェニレン、ポリフルラン、ポリアセン、ポリフラン、ポリアズレン、ポリインドール、ポリジアミノアントラキノンなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
カソード電極7の厚みは、例えば、10〜300μm、好ましくは、20〜150μmである。
【0039】
アノード側拡散層8としては、例えば、カーボンペーパーあるいはカーボンクロスなどが、必要によりフッ素処理されているガス透過性材料が挙げられる。また、アノード側拡散層8は、集電体としても作用する。
【0040】
アノード側拡散層8は、市販品として入手可能であり、例えば、B−1 Carbon Cloth Type A No wet proofing(BASF社製)、ELAT(登録商標)、LT 1400−W(BASF社製)などが挙げられる。
【0041】
燃料供給部材3は、ガス不透過性の導電性部材からなり、アノード側拡散層8を介して、アノード電極6に液体燃料を供給する。また、燃料供給部材3は、セパレータとしても兼用される。燃料供給部材3には、その表面から凹む、例えば、葛折状などの溝が形成されている。そして、燃料供給部材3は、溝の形成された表面がアノード電極6に対向接触されている。これにより、アノード電極6の一方面と燃料供給部材3の他方面(溝の形成された表面)との間には、アノード電極6全体に燃料成分を接触させるための燃料供給路10が形成される。
【0042】
燃料供給路10には、燃料成分を燃料供給部材3内に流入させるための燃料供給口11が一端側(図2(e)における紙面上側)に形成され、燃料成分を燃料供給部材3から排出するための燃料排出口12が他端側(図2(e)における紙面下側)に形成されている。
【0043】
カソード側拡散層9としては、例えば、アノード側拡散層8として例示した、ガス透過性材料などが挙げられる。また、アノード側拡散層8と同様に、カソード側拡散層9も、集電体としても作用する。
【0044】
空気供給部材4は、ガス不透過性の導電性部材からなり、カソード側拡散層9を介して、カソード電極7に空気を供給する。また、空気供給部材4は、セパレータとしても兼用される。空気供給部材4には、その表面から凹む、例えば、葛折状などの溝が形成されている。そして、空気供給部材4は、溝の形成された表面がカソード電極7に対向接触されている。これにより、カソード電極7の他方面と空気供給部材4の一方面(溝の形成された表面)との間には、カソード電極7全体に空気を接触させるための空気供給路13が形成される。
【0045】
空気供給路13には、空気を空気供給部材4内に流入させるための空気供給口14が一端側(図2(e)における紙面上側)に形成され、空気を空気供給部材4から排出するための空気排出口15が他端側(図2(e)における紙面下側)に形成されている。
(1−2)燃料電池による発電
上記した燃料電池1では、燃料成分が燃料供給口11からアノード電極6に供給される。一方、空気が空気供給口14からカソード電極7に供給される。
【0046】
アノード側では、液体燃料が、アノード電極6と接触しながら燃料供給路10を通過する。一方、カソード側では、空気が、カソード電極7と接触しながら空気供給路13を通過する。
【0047】
そして、各電極(アノード電極6およびカソード電極7)において電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、液体燃料がメタノールである場合には、下記式(1)〜(3)の通りとなる。
(1) CH3OH+6OH−→CO2+5H2O+6e−(アノード電極6での反応)
(2) O2+2H2O+4e−→4OH− (カソード電極7での反応)
(3) CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O (燃料電池1全体での反応)
すなわち、メタノールが供給されたアノード電極6では、メタノール(CH3OH)とカソード電極7での反応で生成した水酸化物イオン(OH−)とが反応して、二酸化炭素(CO2)および水(H2O)が生成するとともに、電子(e−)が発生する(上記式(1)参照)。
【0048】
アノード電極6で発生した電子(e−)は、図示しない外部回路を経由してカソード電極7に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e−)が、電流となる。
【0049】
一方、カソード電極7では、電子(e−)と、外部からの供給もしくは燃料電池1での反応で生成した水(H2O)と、空気供給路13を流れる空気中の酸素(O2)とが反応して、水酸化物イオン(OH−)が生成する(上記式(2)参照)。
【0050】
そして、生成した水酸化物イオン(OH−)が、電解質膜5を通過してアノード電極6に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
【0051】
このようなアノード電極6およびカソード電極7での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池1全体として上記式(3)で表わされる反応が生じて、燃料電池1に起電力が発生する。すなわち、燃料電池1は、燃料成分を消費して発電する。
【0052】
また、例えば、燃料成分がヒドラジンである場合には、電気化学反応は、下記式(4)〜(6)の通りとなる。
(4) N2H4+4OH−→N2+4H2O+4e− (アノード電極6での反応)
(5) O2+2H2O+4e−→4OH− (カソード電極7での反応)
(6) N2H4+O2→N2+2H2O (燃料電池1全体での反応)
2.膜電極接合体の製造方法
図2は、図1に示す燃料電池の製造方法を示す工程図であって、(a)は、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を水に浸漬する浸漬工程、(b)は、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を凍結させる凍結工程、(c)は、膜・電極接合体2にアノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を積層する積層工程、(d)は、アノード側拡散層8に燃料供給部材3を積層するとともに、カソード側拡散層9に空気供給部材4を積層する工程、(e)は、これにより得られる単位セルを示す。
【0053】
次に、本実施形態の燃料電池の製造方法について、図2を参照して説明する。
【0054】
まず、この方法では、図2(a)に示すように、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を水に浸漬する(浸漬工程)。
【0055】
浸漬条件としては、特に制限されないが、水温が、例えば、10〜80℃、好ましくは、25〜30℃であり、浸漬時間が、例えば、1分〜48時間、好ましくは、24〜48時間である。
【0056】
なお、例えば、真空密閉状態において、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を水に浸漬することにより、浸漬時間の短縮を図ることもできる。
【0057】
次いで、この方法では、図2(b)に示すように、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を凍結させる(凍結工程)。
【0058】
凍結条件としては、特に制限されないが、上記の水に浸漬されたアノード側拡散層8を、例えば、−80〜−5℃、好ましくは、−60〜−50℃において、例えば、10分〜8時間、好ましくは、1〜2時間放置する。
【0059】
このような燃料電池の製造方法では、後述する積層工程において、アノード側拡散層8が水に浸漬および凍結されているため、アノード側拡散層8の剛性を確保することができ、積層工程における作業性(組み付け性)の向上を図ることができる。
【0060】
次いで、この方法では、図2(c)に示すように、膜・電極接合体2に、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を積層する(積層工程)。
【0061】
膜・電極接合体2は、例えば、電解質膜5にアノード電極6およびカソード電極7を形成することにより得ることができる。
【0062】
アノード電極6およびカソード電極7を形成するには、まず、アノード電極6用の触媒インク、および、カソード電極7用の触媒インクを調製する。
【0063】
アノード電極6用の触媒インクの調製には、まず、上記した触媒100質量部に対して、電解質樹脂(アイオノマ)5〜50質量部、および、溶媒100〜10000質量部を加え、攪拌することによって、アノード電極6用の触媒インクを調製する。
【0064】
電解質樹脂(アイオノマ)としては、例えば、電解質膜5と同じアニオン導電性の樹脂が挙げられる。電解質樹脂(アイオノマ)は、予め、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール、水など、公知の溶媒に溶解されたものを用いてもよい。
【0065】
カソード電極7用の触媒インクは、例えば、アノード電極6用の触媒インクと同様にして、調製する。
【0066】
また、アノード電極6用の触媒インクおよびカソード電極7用の触媒インクは、例えば、公知の方法により、カーボンコンポジットを形成した後、このカーボンコンポジットに遷移金属を担持させて、調製してもよい。
【0067】
次いで、例えば、スプレー法、ダイコーター法、インクジェット法など公知の塗布方法により、電解質膜5の一方面にアノード電極6用の触媒インクを塗布し、電解質膜5の他方面にカソード電極7用の触媒インクを塗布し、例えば、10〜40℃で乾燥させ、必要により、加圧する。これにより、アノード電極6およびカソード電極7が電解質膜5に積層される膜・電極接合体2が形成される。
【0068】
そして、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を膜・電極接合体2に積層させるには、膜・電極接合体2の両側に、アノード側拡散層8がアノード電極6を被覆し、カソード側拡散層9がカソード電極7を被覆するように、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を配置して、必要により、ガスケット(図示せず)などで固定する。
【0069】
また、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を膜・電極接合体2に積層させるには、電解質膜5の両側に、アノード側拡散層8がアノード電極6を被覆し、カソード側拡散層9がカソード電極7を被覆するように、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を配置して、膜・電極接合体2の厚み方向両側から、例えば、0.5〜30MPa、好ましくは、1〜20MPaの圧力で加圧してもよい。
【0070】
次いで、この方法では、図2(d)に示すように、アノード側拡散層8に燃料供給部材3を積層するとともに、カソード側拡散層9に空気供給部材4を積層する。
【0071】
燃料供給部材3および空気供給部材4の積層では、特に制限されないが、例えば、膜・電極接合体2の両側に、燃料供給部材3がアノード側拡散層8を被覆し、空気供給部材4がカソード側拡散層9を被覆するように、燃料供給部材3および空気供給部材4を配置して、固定する。
【0072】
これにより、図2(e)に示すように、単位セル16を得ることができ、また、得られた単位セル16を複数積層することにより、燃料電池1を得ることができる(図1参照)。
3.作用効果
この燃料電池1の製造方法では、アノード側拡散層8を水に浸漬するため、最初の運転時から、アノード側拡散層8の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。
【0073】
また、アノード側拡散層8は、水に浸漬された状態で組み付けられ、密閉されるため、水により膨潤された状態が保たれる。
【0074】
そのため、このような燃料電池1の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池1の安定化を図ることができる燃料電池1を、低コストで製造することができる。
【0075】
なお、上記した実施形態では、アノード側拡散層8のみを水に浸漬および凍結させたが、必要により、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9の両方を、水に浸漬および凍結させることもできる。
【0076】
また、上記した実施形態では、アノード側拡散層8を水に浸漬させた後、凍結させたが、必要により、アノード側拡散層8(および必要によりカソード側拡散層9)を、水に浸漬させる一方、凍結させることなく用いることもできる。
【0077】
さらには、例えば、アノード側拡散層8(および必要によりカソード側拡散層9)を、水に浸漬させる前に、アノード側拡散層8(および必要によりカソード側拡散層9)を、公知の方法により親水化処理することもできる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を参考実施例および参考比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の参考実施例によって限定されるものではない。
(参考実施例)
アノード側拡散層(B−1 Carbon Cloth Type A No wet proofing:BASF社製)を用意し、25℃の水に、48時間浸漬した(図2(a)参照)。
【0079】
次いで、アノード側拡散層を、水中から取り出し、−5℃において8時間放置することにより、凍結させた(図2(b)参照)。
【0080】
これを、参考実施例におけるサンプルとした。
(参考比較例)
アノード側拡散層(B−1 Carbon Cloth Type A No wet proofing:BASF社製)を用意し、水に浸漬および凍結させることなく、参考比較例におけるサンプルとした。
(評価)
参考実施例および参考比較例のサンプル表面に、水滴を流した。そして、顕微鏡(倍率:10倍)により、サンプルの親水状態および撥水状態を確認した。その結果を、参考実施例のサンプルを図3に、参考比較例のサンプルを図4に示す。
(考察)
図3および図4に示されるように、水に浸漬および凍結されていない参考比較例のサンプル(図4、浸水未)は、水を弾き、燃料拡散性を十分に確保できない一方、水に浸漬および凍結された参考実施例のサンプル(図3、浸水済)は、水を吸収し、燃料拡散性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0081】
2 膜電極接合体
5 電解質膜
6 アノード電極
7 カソード電極
8 アノード側拡散層
9 カソード側拡散層
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造方法、詳しくは、液体燃料が用いられる燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体燃料を使用する燃料電池として、例えば、直接メタノール形燃料電池、直接ジメチルエーテル形燃料電池、ヒドラジン形燃料電池などが知られている。
【0003】
液体燃料を使用する燃料電池は、具体的には、電解質層と、その電解質層を挟んで対向配置される燃料側電極および酸素側電極とを備える膜・電極接合体と、燃料側電極に対向配置される燃料側セパレータと、酸素側電極に対向配置される酸素側セパレータとを備える単位セルを有している。
【0004】
そして、このような燃料電池においては、燃料や空気を円滑に拡散させ、また、生成する水を円滑に排出させるために、ガス拡散層基材を、膜・電極接合体と燃料側セパレータとの間、および、膜・電極接合体と酸素側セパレータとの間のそれぞれに介在させることが、提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−257928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記したガス拡散層基材は、燃料拡散性を向上させ、燃料電池の性能の安定化を図るべく、最初の運転時に、液体燃料との親和性を確保する必要があり、長期間の慣らし運転を要するという不具合がある。
【0007】
一方、例えば、ガス拡散層基材の燃料拡散性を向上させるために、ガス拡散層基材に対して、親水化処理することなども検討されるが、このような親水化処理には、手間やコストがかかるという不具合がある。
【0008】
本発明の目的は、燃料拡散性の向上を図ることができ、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図り、低コストで燃料電池を製造することができる燃料電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池の製造方法は、電解質層、および、前記電解質層に積層される燃料側電極を備える膜・電極接合体と、前記膜・電極接合体に積層されるガス拡散層とを備える単位セルを有する燃料電池の製造方法であって、前記ガス拡散層を、水に浸漬する浸漬工程、および、前記膜・電極接合体に接触するように、前記ガス拡散層を積層する積層工程を備えることを特徴としている。
【0010】
このような燃料電池の製造方法によれば、ガス拡散層を水に浸漬するため、最初の運転時から、ガス拡散層の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。
【0011】
そのため、このような燃料電池の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図ることができる燃料電池を製造することができる。
【0012】
また、本発明の燃料電池の製造方法は、さらに、前記浸漬工程の後、前記積層工程の前に、水に浸漬された前記ガス拡散層を凍結させる凍結工程を備えることが好適である。
【0013】
このような燃料電池の製造方法では、積層工程において、ガス拡散層が水に浸漬および凍結されているため、ガス拡散層の剛性を確保することができ、積層工程における作業性(組み付け性)の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池の製造方法では、ガス拡散層を水に浸漬するため、最初の運転時から、ガス拡散層の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。
【0015】
そのため、このような燃料電池の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池の安定化を図ることができる燃料電池を、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す燃料電池の製造方法を示す工程図であって、(a)は、ガス拡散層を水に浸漬する浸漬工程、(b)は、ガス拡散層を凍結させる凍結工程、(c)は、膜・電極接合体にガス拡散層を積層する積層工程、(d)は、ガス拡散層に燃料供給部材および空気供給部材を積層する工程、(e)は、これにより得られる単位セルを示す。
【図3】参考実施例に用いられたガス拡散層を示す。
【図4】参考比較例に用いられたガス拡散層を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.燃料電池
(1−1)燃料電池の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池を示す概略構成図、図2は、詳しくは後述するが、図1に示す燃料電池の製造方法を示す工程図である。
【0018】
図1および図2において、燃料電池1は、液体の燃料成分が直接供給されるアニオン交換型燃料電池である。
【0019】
燃料電池1に供給される燃料成分としては、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジン(水加ヒドラジン、無水ヒドラジンなどを含む)などが挙げられる。
【0020】
燃料電池1は、膜・電極接合体2、膜・電極接合体2の一方側(アノード側)に積層されたガス拡散層としてのアノード側拡散層8、アノード側拡散層8における膜・電極接合体2の他方側に積層された燃料供給部材3、膜・電極接合体2の他方側(カソード側)に積層されたガス拡散層としてのカソード側拡散層9、および、カソード側拡散層9における膜・電極接合体2の他方側に積層された空気供給部材4を有する単位セル16(燃料電池セル)が、複数積層されたスタック構造に形成されている。
【0021】
なお、図1では、複数の単位セル16のうち1つだけを取り出して分解して表し、その他の単位セル16については積層状態を示している。また、図2では、複数の単位セル16のうち1つだけを取り出してその製造方法を示し、その他の単位セル16については省略している。
【0022】
膜・電極接合体2は、図2(c)〜(e)に示されるように、電解質膜5、電解質膜5の厚み方向一方側の面(以下、単に一方面と記載する。)に形成される燃料側電極としてのアノード電極6、および、電解質膜5の厚み方向他方側の面(以下、単に他方面と記載する。)に形成されるカソード電極7を備えている。
【0023】
電解質膜5は、アニオン成分が移動可能な層であり、例えば、アニオン交換膜を用いて形成されている。
【0024】
アニオン交換膜としては、アニオン成分(例えば、水酸化物イオン(OH−)など)が移動可能な媒体であれば、特に限定されず、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0025】
アニオン交換膜を形成する固体高分子としては、例えば、ポリスチレンおよびその変性体などの炭化水素系の固体高分子膜などが挙げられる。
【0026】
また、アニオン交換膜を形成する固体高分子は、その分子構造において、架橋構造を有していてもよい。
【0027】
また、アニオン交換膜は、市販品として入手可能であり、例えば、セレミオン(旭硝子社製)、ネオセプタ(アストム社製)などが挙げられる。
【0028】
また、電解質膜5の膜厚は、例えば、10〜100μmである。
【0029】
アノード電極6は、例えば、触媒を担持した触媒担体により形成されている。また、触媒担体を用いずに、触媒を、直接、アノード電極6として形成してもよい。
【0030】
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ニッケルが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
触媒担体としては、例えば、カーボンなどの多孔質物質が挙げられる。
【0032】
アノード電極6の厚みは、例えば、10〜200μm、好ましくは、20〜100μmである。
【0033】
カソード電極7は、例えば、アノード電極6と同様に、触媒を担持した触媒担体により形成されている。
【0034】
また、カソード電極7は、例えば、錯体形成有機化合物および/または導電性高分子とカーボンとからなる複合体(以下、この複合体を「カーボンコンポジット」という。)に、遷移金属が担持されている材料により形成されてもよい。
【0035】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、銀、コバルトが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0036】
錯体形成有機化合物は、金属原子に配位することによって、当該金属原子と錯体を形成する有機化合物であって、例えば、ピロール、ポルフィリン、テトラメトキシフェニルポルフィリン、ジベンゾテトラアザアヌレン、フタロシアニン、コリン、クロリンなどの錯体形成有機化合物またはこれらの重合体が挙げられる。これらのうち、好ましくは、ピロールの重合体であるポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0037】
導電性高分子としては、上記錯体形成有機化合物と重複する化合物もあるが、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリトリフェニルアミン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン、ポリイソチアナフテン、ポリピリジンジイル、ポリチエニレン、ポリパラフェニレン、ポリフルラン、ポリアセン、ポリフラン、ポリアズレン、ポリインドール、ポリジアミノアントラキノンなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
カソード電極7の厚みは、例えば、10〜300μm、好ましくは、20〜150μmである。
【0039】
アノード側拡散層8としては、例えば、カーボンペーパーあるいはカーボンクロスなどが、必要によりフッ素処理されているガス透過性材料が挙げられる。また、アノード側拡散層8は、集電体としても作用する。
【0040】
アノード側拡散層8は、市販品として入手可能であり、例えば、B−1 Carbon Cloth Type A No wet proofing(BASF社製)、ELAT(登録商標)、LT 1400−W(BASF社製)などが挙げられる。
【0041】
燃料供給部材3は、ガス不透過性の導電性部材からなり、アノード側拡散層8を介して、アノード電極6に液体燃料を供給する。また、燃料供給部材3は、セパレータとしても兼用される。燃料供給部材3には、その表面から凹む、例えば、葛折状などの溝が形成されている。そして、燃料供給部材3は、溝の形成された表面がアノード電極6に対向接触されている。これにより、アノード電極6の一方面と燃料供給部材3の他方面(溝の形成された表面)との間には、アノード電極6全体に燃料成分を接触させるための燃料供給路10が形成される。
【0042】
燃料供給路10には、燃料成分を燃料供給部材3内に流入させるための燃料供給口11が一端側(図2(e)における紙面上側)に形成され、燃料成分を燃料供給部材3から排出するための燃料排出口12が他端側(図2(e)における紙面下側)に形成されている。
【0043】
カソード側拡散層9としては、例えば、アノード側拡散層8として例示した、ガス透過性材料などが挙げられる。また、アノード側拡散層8と同様に、カソード側拡散層9も、集電体としても作用する。
【0044】
空気供給部材4は、ガス不透過性の導電性部材からなり、カソード側拡散層9を介して、カソード電極7に空気を供給する。また、空気供給部材4は、セパレータとしても兼用される。空気供給部材4には、その表面から凹む、例えば、葛折状などの溝が形成されている。そして、空気供給部材4は、溝の形成された表面がカソード電極7に対向接触されている。これにより、カソード電極7の他方面と空気供給部材4の一方面(溝の形成された表面)との間には、カソード電極7全体に空気を接触させるための空気供給路13が形成される。
【0045】
空気供給路13には、空気を空気供給部材4内に流入させるための空気供給口14が一端側(図2(e)における紙面上側)に形成され、空気を空気供給部材4から排出するための空気排出口15が他端側(図2(e)における紙面下側)に形成されている。
(1−2)燃料電池による発電
上記した燃料電池1では、燃料成分が燃料供給口11からアノード電極6に供給される。一方、空気が空気供給口14からカソード電極7に供給される。
【0046】
アノード側では、液体燃料が、アノード電極6と接触しながら燃料供給路10を通過する。一方、カソード側では、空気が、カソード電極7と接触しながら空気供給路13を通過する。
【0047】
そして、各電極(アノード電極6およびカソード電極7)において電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、液体燃料がメタノールである場合には、下記式(1)〜(3)の通りとなる。
(1) CH3OH+6OH−→CO2+5H2O+6e−(アノード電極6での反応)
(2) O2+2H2O+4e−→4OH− (カソード電極7での反応)
(3) CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O (燃料電池1全体での反応)
すなわち、メタノールが供給されたアノード電極6では、メタノール(CH3OH)とカソード電極7での反応で生成した水酸化物イオン(OH−)とが反応して、二酸化炭素(CO2)および水(H2O)が生成するとともに、電子(e−)が発生する(上記式(1)参照)。
【0048】
アノード電極6で発生した電子(e−)は、図示しない外部回路を経由してカソード電極7に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e−)が、電流となる。
【0049】
一方、カソード電極7では、電子(e−)と、外部からの供給もしくは燃料電池1での反応で生成した水(H2O)と、空気供給路13を流れる空気中の酸素(O2)とが反応して、水酸化物イオン(OH−)が生成する(上記式(2)参照)。
【0050】
そして、生成した水酸化物イオン(OH−)が、電解質膜5を通過してアノード電極6に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
【0051】
このようなアノード電極6およびカソード電極7での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池1全体として上記式(3)で表わされる反応が生じて、燃料電池1に起電力が発生する。すなわち、燃料電池1は、燃料成分を消費して発電する。
【0052】
また、例えば、燃料成分がヒドラジンである場合には、電気化学反応は、下記式(4)〜(6)の通りとなる。
(4) N2H4+4OH−→N2+4H2O+4e− (アノード電極6での反応)
(5) O2+2H2O+4e−→4OH− (カソード電極7での反応)
(6) N2H4+O2→N2+2H2O (燃料電池1全体での反応)
2.膜電極接合体の製造方法
図2は、図1に示す燃料電池の製造方法を示す工程図であって、(a)は、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を水に浸漬する浸漬工程、(b)は、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を凍結させる凍結工程、(c)は、膜・電極接合体2にアノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を積層する積層工程、(d)は、アノード側拡散層8に燃料供給部材3を積層するとともに、カソード側拡散層9に空気供給部材4を積層する工程、(e)は、これにより得られる単位セルを示す。
【0053】
次に、本実施形態の燃料電池の製造方法について、図2を参照して説明する。
【0054】
まず、この方法では、図2(a)に示すように、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を水に浸漬する(浸漬工程)。
【0055】
浸漬条件としては、特に制限されないが、水温が、例えば、10〜80℃、好ましくは、25〜30℃であり、浸漬時間が、例えば、1分〜48時間、好ましくは、24〜48時間である。
【0056】
なお、例えば、真空密閉状態において、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を水に浸漬することにより、浸漬時間の短縮を図ることもできる。
【0057】
次いで、この方法では、図2(b)に示すように、アノード側拡散層8(ガス拡散層)を凍結させる(凍結工程)。
【0058】
凍結条件としては、特に制限されないが、上記の水に浸漬されたアノード側拡散層8を、例えば、−80〜−5℃、好ましくは、−60〜−50℃において、例えば、10分〜8時間、好ましくは、1〜2時間放置する。
【0059】
このような燃料電池の製造方法では、後述する積層工程において、アノード側拡散層8が水に浸漬および凍結されているため、アノード側拡散層8の剛性を確保することができ、積層工程における作業性(組み付け性)の向上を図ることができる。
【0060】
次いで、この方法では、図2(c)に示すように、膜・電極接合体2に、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を積層する(積層工程)。
【0061】
膜・電極接合体2は、例えば、電解質膜5にアノード電極6およびカソード電極7を形成することにより得ることができる。
【0062】
アノード電極6およびカソード電極7を形成するには、まず、アノード電極6用の触媒インク、および、カソード電極7用の触媒インクを調製する。
【0063】
アノード電極6用の触媒インクの調製には、まず、上記した触媒100質量部に対して、電解質樹脂(アイオノマ)5〜50質量部、および、溶媒100〜10000質量部を加え、攪拌することによって、アノード電極6用の触媒インクを調製する。
【0064】
電解質樹脂(アイオノマ)としては、例えば、電解質膜5と同じアニオン導電性の樹脂が挙げられる。電解質樹脂(アイオノマ)は、予め、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール、水など、公知の溶媒に溶解されたものを用いてもよい。
【0065】
カソード電極7用の触媒インクは、例えば、アノード電極6用の触媒インクと同様にして、調製する。
【0066】
また、アノード電極6用の触媒インクおよびカソード電極7用の触媒インクは、例えば、公知の方法により、カーボンコンポジットを形成した後、このカーボンコンポジットに遷移金属を担持させて、調製してもよい。
【0067】
次いで、例えば、スプレー法、ダイコーター法、インクジェット法など公知の塗布方法により、電解質膜5の一方面にアノード電極6用の触媒インクを塗布し、電解質膜5の他方面にカソード電極7用の触媒インクを塗布し、例えば、10〜40℃で乾燥させ、必要により、加圧する。これにより、アノード電極6およびカソード電極7が電解質膜5に積層される膜・電極接合体2が形成される。
【0068】
そして、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を膜・電極接合体2に積層させるには、膜・電極接合体2の両側に、アノード側拡散層8がアノード電極6を被覆し、カソード側拡散層9がカソード電極7を被覆するように、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を配置して、必要により、ガスケット(図示せず)などで固定する。
【0069】
また、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を膜・電極接合体2に積層させるには、電解質膜5の両側に、アノード側拡散層8がアノード電極6を被覆し、カソード側拡散層9がカソード電極7を被覆するように、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9を配置して、膜・電極接合体2の厚み方向両側から、例えば、0.5〜30MPa、好ましくは、1〜20MPaの圧力で加圧してもよい。
【0070】
次いで、この方法では、図2(d)に示すように、アノード側拡散層8に燃料供給部材3を積層するとともに、カソード側拡散層9に空気供給部材4を積層する。
【0071】
燃料供給部材3および空気供給部材4の積層では、特に制限されないが、例えば、膜・電極接合体2の両側に、燃料供給部材3がアノード側拡散層8を被覆し、空気供給部材4がカソード側拡散層9を被覆するように、燃料供給部材3および空気供給部材4を配置して、固定する。
【0072】
これにより、図2(e)に示すように、単位セル16を得ることができ、また、得られた単位セル16を複数積層することにより、燃料電池1を得ることができる(図1参照)。
3.作用効果
この燃料電池1の製造方法では、アノード側拡散層8を水に浸漬するため、最初の運転時から、アノード側拡散層8の液体燃料に対する親和性を確保し、優れた燃料拡散性を確保することができる。
【0073】
また、アノード側拡散層8は、水に浸漬された状態で組み付けられ、密閉されるため、水により膨潤された状態が保たれる。
【0074】
そのため、このような燃料電池1の製造方法によれば、慣らし運転の期間を短縮しても、燃料電池1の安定化を図ることができる燃料電池1を、低コストで製造することができる。
【0075】
なお、上記した実施形態では、アノード側拡散層8のみを水に浸漬および凍結させたが、必要により、アノード側拡散層8およびカソード側拡散層9の両方を、水に浸漬および凍結させることもできる。
【0076】
また、上記した実施形態では、アノード側拡散層8を水に浸漬させた後、凍結させたが、必要により、アノード側拡散層8(および必要によりカソード側拡散層9)を、水に浸漬させる一方、凍結させることなく用いることもできる。
【0077】
さらには、例えば、アノード側拡散層8(および必要によりカソード側拡散層9)を、水に浸漬させる前に、アノード側拡散層8(および必要によりカソード側拡散層9)を、公知の方法により親水化処理することもできる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を参考実施例および参考比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の参考実施例によって限定されるものではない。
(参考実施例)
アノード側拡散層(B−1 Carbon Cloth Type A No wet proofing:BASF社製)を用意し、25℃の水に、48時間浸漬した(図2(a)参照)。
【0079】
次いで、アノード側拡散層を、水中から取り出し、−5℃において8時間放置することにより、凍結させた(図2(b)参照)。
【0080】
これを、参考実施例におけるサンプルとした。
(参考比較例)
アノード側拡散層(B−1 Carbon Cloth Type A No wet proofing:BASF社製)を用意し、水に浸漬および凍結させることなく、参考比較例におけるサンプルとした。
(評価)
参考実施例および参考比較例のサンプル表面に、水滴を流した。そして、顕微鏡(倍率:10倍)により、サンプルの親水状態および撥水状態を確認した。その結果を、参考実施例のサンプルを図3に、参考比較例のサンプルを図4に示す。
(考察)
図3および図4に示されるように、水に浸漬および凍結されていない参考比較例のサンプル(図4、浸水未)は、水を弾き、燃料拡散性を十分に確保できない一方、水に浸漬および凍結された参考実施例のサンプル(図3、浸水済)は、水を吸収し、燃料拡散性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0081】
2 膜電極接合体
5 電解質膜
6 アノード電極
7 カソード電極
8 アノード側拡散層
9 カソード側拡散層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層、および、前記電解質層に積層される燃料側電極を備える膜・電極接合体と、
前記膜・電極接合体に積層されるガス拡散層と
を備える単位セルを有する燃料電池の製造方法であって、
前記ガス拡散層を、水に浸漬する浸漬工程、および、
前記膜・電極接合体に接触するように、前記ガス拡散層を積層する積層工程
を備えることを特徴とする、燃料電池の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記浸漬工程の後、前記積層工程の前に、
水に浸漬された前記ガス拡散層を凍結させる凍結工程
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項1】
電解質層、および、前記電解質層に積層される燃料側電極を備える膜・電極接合体と、
前記膜・電極接合体に積層されるガス拡散層と
を備える単位セルを有する燃料電池の製造方法であって、
前記ガス拡散層を、水に浸漬する浸漬工程、および、
前記膜・電極接合体に接触するように、前記ガス拡散層を積層する積層工程
を備えることを特徴とする、燃料電池の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記浸漬工程の後、前記積層工程の前に、
水に浸漬された前記ガス拡散層を凍結させる凍結工程
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−138276(P2012−138276A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290289(P2010−290289)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
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