説明

燃料電池を構成する発電モジュール

【課題】燃料電池において発電モジュールの組み付け性を向上する技術を提供する。
【解決手段】発電モジュール110は、燃料電池100において、配置方向を交互に反転させて積層される。発電モジュール110は、2つ膜電極接合体11,12と、流体のための流路溝が両面に設けられた3枚のセパレータ21〜23とを備える。各膜電極接合体11,12と各セパレータ21〜23とは交互に配置されるとともに接着シール部40によって一体的に保持される。接着シール部40の外周には、発電モジュール110の厚み方向に渡って延びるとともに、燃料電池100を構成したときに、隣接する発電モジュール110の側まで突出する突起部45が設けられている。突起部45は、隣接する発電モジュール110の配置方向が反転されていなかった場合には、当該隣接する発電モジュール110に設けられた突起部45と互いに接触して燃料電池の組み付けを妨げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は通常、複数の発電モジュールが積層されたスタック構造を有する(下記特許文献1等)。各発電モジュールは、電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、膜電極接合体の両側に配置されるセパレータとを有する。燃料電池の各発電モジュールには、水素や酸素などの反応ガスや反応熱を冷却するための冷媒などの流体が外部から供給される。
【0003】
ところで、各発電モジュールを燃料電池スタックとして組み付ける際に、その配置位置や配置方向がずれてしまうと、燃料電池スタック内部における上記流体のシール性が低下したり、各発電モジュール間の接触抵抗が増大してしまう場合があった。しかし、これまで、こうした問題に対して十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3721321号公報
【特許文献2】特許第3968278号公報
【特許文献3】特開2002−260689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、燃料電池スタックにおいて発電モジュールの組み付け性を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池スタックを構成するために積層される発電モジュールであって、積層される際に、隣接する発電モジュールに対して、積層方向と垂直な面上において180°回転した反転状態で積層可能なように構成された発電モジュールであり、電解質膜の両面に電極が配置された発電体である2N(Nは自然数)個の膜電極接合体と、流体のための流路溝が両面に設けられた2N+1枚のセパレータとを備え、前記2N個の膜電極接合体と前記2N+1枚のセパレータとは、前記2N個の膜電極接合体のそれぞれが前記セパレータによって狭持されるように交互に配置されるとともに、外部への流体の漏洩を防止するために前記発電モジュールの外周を囲むように設けられたシール部によって一体的に保持され、前記シール部の外周には、前記発電モジュールの厚み方向に渡って延びるとともに、前記燃料電池を構成したときに、隣接する発電モジュールの側まで突出する突起部が設けられており、前記発電モジュールの最も外側に配置された最外部セパレータの外表面に設けられた前記流路溝は、前記燃料電池スタックが構成されたときに、前記反転状態にある前記隣接する発電モジュールの最外部セパレータの流路溝と対向して冷媒のための冷媒流路を形成し、前記突起部は、前記燃料電池スタックを構成するために複数の前記発電モジュールを積層する工程において、隣接する発電モジュールが前記反転状態で配置されない場合には、前記隣接する発電モジュールに設けられた前記突起部と接触して前記燃料電池スタックの組み立てを妨げるように構成されている、発電モジュール。
この発電モジュールによれば、燃料電池スタックを構成する際に、発電モジュールを誤った配置方向で積層しようとすると、当該発電モジュールの突起部と、隣接する発電モジュールに設けられた突起部とが干渉するため、発電モジュールが誤った配置方向で配置されてしまうことを抑制できる。従って、発電モジュールの組み付け性が向上する。
【0008】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池スタック、その燃料電池スタックを備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】燃料電池の構成を示す概略図。
【図2】発電モジュールの構成を示す概略図。
【図3】比較例としての燃料電池の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池スタック(以後、単に「燃料電池」とも呼ぶ)の構成を示す概略図である。この燃料電池100は、反応ガスとして水素と酸素との供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池100は、複数の発電モジュール110が積層されたスタック構造を有する。
【0011】
発電モジュール110は、2つの膜電極接合体11,12と、3枚のセパレータ21,22,23とを有している。各膜電極接合体11,12と各セパレータ21,22,23とはそれぞれ交互に積層される。具体的には、第1のセパレータ21、第1の膜電極接合体11、第2のセパレータ22、第2の膜電極接合体12、第3のセパレータ23の順で積層される。
【0012】
2つの膜電極接合体11,12はそれぞれ、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜の両面に電極(図示せず)が設けられた発電体である。なお、各電極には、反応ガスを電極面全体に行き渡らせるためのガス拡散層が設けられていることが好ましい。また、各電極には、燃料電池反応を促進するための触媒(例えば白金(Pt))が担持されていることが好ましい。
【0013】
3枚のセパレータ21,22,23はそれぞれ、ガス不透過の導電性を有する板状部材(例えば金属板)によって構成される。各セパレータ21,22,23は、各膜電極接合体11,12で発電された電気を集電するための集電部として機能する。また、各セパレータ21,22,23は凹凸を有するように波板状に折り曲げられている。これによって、各セパレータ21,22,23のそれぞれの両面には、併走する複数の流路溝(凹部)が、同じ数だけ、同程度の幅で形成されている。なお、図では、第1のセパレータ21の流路溝の深さは、第2と第3のセパレータ22の流路溝の深さよりも浅く形成されており、第2と第3のセパレータ22,23の流路溝の深さは同程度で形成されている。しかし、各セパレータ21,22,23の流路溝の深さは全て同程度であるものとしても良いし、全て異なるものとしても良い。
【0014】
ここで、発電モジュール110では、各セパレータ21,22,23の流路溝と、各膜電極接合体11,12の電極面とで、反応ガスのための流路が形成される。具体的には、第1のセパレータ21の流路溝と第1の膜電極接合体11の電極面とで第1の水素流路31aが形成される。また、第1の膜電極接合体11と第2のセパレータ22の流路溝とで第1の酸素流路32aが形成される。さらに、第2のセパレータ22の流路溝と第2の膜電極接合体12の電極面とで第2の水素流路31bが形成され、第2の膜電極接合体12の電極面と第3のセパレータ23の流路溝とで第2の酸素流路32bが形成される。なお、水素流路31a,31bと酸素流路32a,32bとは、膜電極接合体11,12を挟んで、互いに対向するように構成されることが好ましい。
【0015】
発電モジュール110の外周には、接着シール部40が設けられている。この接着シール部40は、各膜電極接合体11,12と各セパレータ21,22,23とを一体的に接着して保持するとともに、発電モジュール110の外部への流体の漏洩を防止するためのものである。接着シール部40は、接着剤によって形成されるものとしても良いし、射出成形によってシールガスケットとして形成されるものとしても良い。なお、接着シール部40は、電極同士の短絡を防止するために非導電性であることが好ましい。
【0016】
接着シール部40には、ガスケット42を配置するための凹部が設けられている。ガスケット42は、燃料電池100の外部への流体の漏洩を防止するため環状部材であり、互いに隣接する発電モジュール110同士の境界に配置される。なお、このガスケット42は、各発電モジュール110が積層されたときに、各発電モジュール110同士の配置位置がずれてしまうことを抑制するための位置決め部としても機能する。
【0017】
また、接着シール部40の外周のうちの一辺には、突起部45が設けられている。突起部45は、第1のセパレータ21の側から、第3のセパレータ23の側へと、発電モジュール110の厚み方向(積層方向)に渡って延びるとともに、積層される発電モジュール110同士の境界より長さxだけ突出している。この突起部45の機能については後述する。
【0018】
ところで、この燃料電池100では、複数の発電モジュール110が、配置方向を交互に反転させて積層される。具体的には、各発電モジュール110は、隣接する発電モジュール110に対して、積層方向と垂直な面上において180°回転した反転状態で配置される。このように積層されることによって、各発電モジュール110同士の第1のセパレータ21の凸部と第3のセパレータ23の凸部とが直接的に接触する。また、互いに対向する第1のセパレータ21の凹部と第3のセパレータ23の凹部とが互いに対向し合い、併走する複数の流路33が形成される。この流路33には、燃料電池100を冷却するために外部から供給される冷媒が流入する。この流路33を以後、「冷媒流路33」と呼ぶ。
【0019】
図2は、図1における2−2切断における燃料電池100の断面を示す概略断面図である。なお、図2では、第1のセパレータ21の流路溝のハッチングを省略することにより、紙面に垂直な方向に沿って見たときの第1のセパレータ21における凸部と区別して示してある。また、図2には、ガスケット42によって形成されるシールラインを一点鎖線によって図示してある。
【0020】
各発電モジュール110の接着シール部40には、水素の供給用および排出用のマニホールド51,52と、酸素の供給用および排出用のマニホールド53,54と、冷媒の供給用および排出用のマニホールド55,56が貫通孔として設けられている。また、接着シール部40には、各マニホールド51〜56を囲むシールラインと、各マニホールド51〜56と各流体流路31〜33(図1)とを連結する流路とが設けられているが、その図示および説明は省略する。各マニホールド51〜56は、流体の種類に応じたサイズで形成されるものとしても良い。なお、図では、水素用のマニホールド51,52が最も小さいサイズで設けられ、冷媒用のマニホールド55,56が最も大きいサイズで形成されているが、各マニホールド51〜56は、他のサイズで形成されるものとしても良い。
【0021】
各マニホールド51〜56は、各供給用マニホールド51〜53と、各排出用マニホールド54〜56とが発電領域を挟んで対角するように設けられている。より具体的には、各マニホールド51〜56は、発電モジュール110の中心を対称中心として点対称に形成されている。従って、発電モジュール110を、紙面上下方向に反転するように180°回転させた場合には、供給用の各マニホールド51〜53の位置と排出用の各マニホールド54〜56の位置とが入れ替わる。即ち、上述したように、燃料電池100を構成する際に、一部の発電モジュール110の配置方向を反転させて配置した場合であっても、全ての発電モジュール110の各マニホールド51〜56は連結される。なお、発電モジュール110では、各マニホールド51〜56以外に、発電領域の形状や、接着シール部40に設けられるシールラインの形状などが、発電モジュール110の中心を対称中心として点対称に形成されることが好ましい。
【0022】
図3は、本発明の比較例としての燃料電池100aの構成を示す概略図である。図3は、突起部45が設けられていない点と、全ての発電モジュール110が、同じ配置方向で積層されている点以外は、図1とほぼ同じである。
【0023】
この比較例の燃料電池100aでは、各発電モジュール110同士の境界において、第1のセパレータ21の凸部と第3のセパレータ23の流路溝とが互いに対向して、第1と第3のセパレータ21,23同士が接触する。従って、各発電モジュール110の間に形成される冷媒流路は、第3のセパレータ23側の冷媒流路33aと第1のセパレータ23側の冷媒流路33bとに分断されて形成されてしまう。そのため、各冷媒流路33a,33bの流路断面積が、本実施例の燃料電池100における冷媒流路33の流路断面積より小さくなり、流入する冷媒の圧力損失が増大し、冷媒による冷却効率が低下してしまう。また、第1と第3のセパレータ21,23同士の接触面積が、本実施例の燃料電池100の場合より減少してしまうため各発電モジュール110間における接触抵抗が増大してしまう。
【0024】
即ち、この比較例の燃料電池100aでは、本実施例の燃料電池100よりも発電効率が低下してしまう可能性がある。従って、本実施例の燃料電池100のように、配置方向を180°回転させた発電モジュール110と、回転させていない発電モジュール110とを交互に積層する方が好ましい。
【0025】
ここで、各発電モジュール110には突起部45が設けられており、この突起部45は、長さxだけ隣り合う発電モジュール110同士の境界から突出している(図1)。そのため、燃料電池100を構成するための発電モジュール110の積層工程において、発電モジュール110の配置方向を交互に反転させることなく積層しようとすると、各発電モジュール110の突起部45同士が互いに接触して干渉し合う。従って、燃料電池100の組み立ての際に、発電モジュール110が誤った配置方向で積層されることを抑制でき、発電モジュール110の組み付け性が向上する。
【0026】
なお、突起部45が各発電モジュール110の境界から突出する長さxは、発電モジュール110の厚みtより小さいことが好ましい(0<x<t)。これによって、配置方向が同じ発電モジュール110同士の突起部45が干渉し合うことを回避できる。また、突起部45には、突起部45同士の接触を検出するセンサが設けられるものとしても良い。これによって、さらに、発電モジュール110の配置方向の誤りの発生を抑制でき、その組み付け性が向上する。
【0027】
このように、本実施例の発電モジュール110によれば、ガスケット42や突起部45によって、燃料電池100を構成する際の積層工程において、発電モジュール110が誤った配置位置や配置方向で積層されてしまうことを抑制できる。また、発電モジュール110は、2つの膜電極接合体11,12と3枚のセパレータ21,22,23とで構成されており、燃料電池100は、各発電モジュール110同士の境界に冷媒流路33が設けられる。従って、本実施例の発電モジュール110によれば、各膜電極接合体ごとに冷媒流路が設けられる燃料電池に比較して、燃料電池100を小型化することができる。さらに、本実施例の発電モジュール110によれば、燃料電池100において各発電モジュール110同士の間に形成される冷媒流路33の圧力損失の低下や、各発電モジュール110同士の間の接触抵抗の増大を抑制することができる。従って、燃料電池100の発電効率の低下を抑制できる。
【0028】
なお、本実施例の発電モジュール110は、2つの膜電極接合体11,12と、3枚のセパレータ21,22,23とを有していたが、発電モジュール110は、さらに複数の膜電極接合体およびセパレータを有しているものとしても良い。即ち、発電モジュール110は、2N(Nは自然数)個の膜電極接合体と、2N+1枚のセパレータとを有し、2N個の膜電極接合体のそれぞれがセパレータによって狭持されるように交互に配置されるものとしても良い。
【符号の説明】
【0029】
11…第1の膜電極接合体
12…第2の膜電極接合体
21…第1のセパレータ
22…第2のセパレータ
23…第3のセパレータ
31a…第1の水素流路
31b…第2の水素流路
32a…第1の酸素流路
33,33a,33b…冷媒流路
40…接着シール部
42…ガスケット
45…突起部
51〜56…マニホールド
100,100a…燃料電池
110…発電モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックを構成するために積層される発電モジュールであって、積層される際に、隣接する発電モジュールに対して、積層方向と垂直な面上において180°回転した反転状態で積層可能なように構成された発電モジュールであり、
電解質膜の両面に電極が配置された発電体である2N(Nは自然数)個の膜電極接合体と、
流体のための流路溝が両面に設けられた2N+1枚のセパレータと、
を備え、
前記2N個の膜電極接合体と前記2N+1枚のセパレータとは、前記2N個の膜電極接合体のそれぞれが前記セパレータによって狭持されるように交互に配置されるとともに、外部への流体の漏洩を防止するために前記発電モジュールの外周を囲むように設けられたシール部によって一体的に保持され、
前記シール部の外周には、前記発電モジュールの厚み方向に渡って延びるとともに、前記燃料電池を構成したときに、隣接する発電モジュールの側まで突出する突起部が設けられており、
前記発電モジュールの最も外側に配置された最外部セパレータの外表面に設けられた前記流路溝は、前記燃料電池スタックが構成されたときに、前記反転状態にある前記隣接する発電モジュールの最外部セパレータの流路溝と対向して冷媒のための冷媒流路を形成し、
前記突起部は、前記燃料電池スタックを構成するために複数の前記発電モジュールを積層する工程において、隣接する発電モジュールが前記反転状態で配置されない場合には、前記隣接する発電モジュールに設けられた前記突起部と接触して前記燃料電池スタックの組み立てを妨げるように構成されている、発電モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−287367(P2010−287367A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138926(P2009−138926)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】