説明

燃料電池システム

【課題】ガス配管の帯電防止を図ることができると共に、機械的強度を向上させることができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムは、樹脂材料で形成された酸素系ガス及び燃料系ガスのガス配管13が燃料電池に接続されて構成されている。該燃料電池は多数の燃料電池セルを積層したスタック構造を有している。前記ガス配管13の内部には除電補強部材14が埋設されると共に、その一部には端部がガス配管13の内周面に臨む導電接続体14aが接合されている。前記除電補強部材14はステンレス鋼により網目状に形成され、円環状に配置されている。除電補強部材14の一部にはステンレス鋼製のアース線15が接続され、その他端は燃料電池車両のボディに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池車両の燃料電池に接続される酸素系ガス及び燃料系ガスのガス配管内に発生する静電気によって生じる不具合を防止し、かつ加圧されたガスに対する耐圧強度等の機械的強度の向上を図ることができる燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいては、燃料系ガスとしての水素及び酸素系ガス(酸化ガス)としての空気が各ガス配管を介して燃料電池に供給される。これらのガス配管として、軽量化や耐食性などの観点から樹脂材料を用いたものが知られている。しかしながら、ガス配管に樹脂材料を用いると電気絶縁性が高いため、ガスの流れによってガス配管の内部に静電気が発生しやすく、発生した静電気によって燃料電池システムに不具合が生じるおそれがある。そのような事態を防止するため、ガス配管に発生する静電気を除電することができる燃料電池システムが提案されている(特許文献1を参照)。
【0003】
すなわち、この燃料電池システムは、ガス配管に樹脂を用いてなる燃料電池システムにおいて、ガス配管に接触してこれをアースする除電手段を備えたものである。具体的には、この除電手段は、配管内に設けられた取付け溝からの抜け落ちが阻止される鍔部と、配管内の流路に臨む本体部と、前記鍔部及び車体に接続される金属製のブラケットとより構成されている。そして、ガス配管内で発生した静電気は、本体部、鍔部からブラケットを経て車体へとアースされるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−353402号公報(第2頁、第3頁及び第8頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガス配管内に供給される空気及び水素は0.2MPa(2気圧)程度の圧力を有しているためガス配管はそれに耐える必要があると共に、燃料電池車両の振動などによって損傷を受けないようにする必要もあり、ガス配管には十分な機械的強度が要求される。この場合、ガス配管は直線的に延びているだけではなく、設置スペースが制約されているため曲線状に延びる曲がり部分を有していることから、特にその曲がり部分での座屈等による損傷を防止できるに足る機械的強度が要求される。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている燃料電池システムでは、除電手段によって静電気の蓄積を防止することはできるものの、除電手段がガス配管の一部に設けられているだけであることから機械的強度の向上は図られていない。従って、燃料電池システムに用いられるガス配管としては不適当であり、斯かるガス配管には帯電防止のほか、十分な耐圧強度等の機械的強度が望まれている。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、ガス配管の帯電防止を図ることができると共に、機械的強度を向上させることができる燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の燃料電池システムは、樹脂材料で形成された酸素系ガス及び燃料系ガスのガス配管が燃料電池に接続されて構成されている。そして、前記ガス配管の内部又は内周面には除電補強部材が配設されると共に、該除電補強部材がガス配管の内部に配設される場合にはその少なくとも一部が内周面に臨むように構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明の燃料電池システムは、請求項1に係る発明において、前記除電補強部材は網目状に形成され、環状に配置されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明の燃料電池システムは、請求項2に係る発明において、前記除電補強部材はガス配管の内部に埋め込まれ、該除電補強部材には端部が内周面に臨む導電接続体が接続されて構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明の燃料電池システムは、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記除電補強部材は酸素系ガスが流通するガス配管に設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明の燃料電池システムは、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記除電補強部材はステンレス鋼により形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明の燃料電池システムにおいては、樹脂材料で形成された酸素系ガス及び燃料系ガスのガス配管が燃料電池に接続されている。そして、ガス配管の内部又は内周面には除電補強部材が配設されている。特に、除電補強部材がガス配管の内部に配設される場合にはその少なくとも一部が内周面に臨むように構成されている。このため、樹脂材料製のガス配管内のガスの流れにより発生する静電気が除電補強部材を介してアースされ、ガス配管における帯電が防止される。さらに、除電補強部材により、ガス配管の内部において、或いはガス配管の内周面においてガス配管が補強される。
【0013】
従って、燃料電池システムでは、ガス配管の帯電防止を図ることができると共に、機械的強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態における燃料電池システムを構成するガス配管であって、内部に除電補強部材を備えたガス配管を示す斜視図。
【図2】燃料電池システムを構成する燃料電池に酸素系ガス配管及び燃料系ガス配管が接続された状態を示す斜視図。
【図3】(a)は第2実施形態における燃料電池システムを構成するガス配管であって、内周面に除電補強部材を備えたガス配管を示す斜視図、(b)はそのガス配管を示す断面図。
【図4】本発明の別例を示し、内周面に除電補強部材としての金網を備えたガス配管を示す斜視図。
【図5】本発明のさらに別例を示し、内部にテーパ状の金網を有する除電補強部材を備えたガス配管を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した燃料電池システムの実施形態について詳細に説明する。
(第1実施形態)
図2に示すように、燃料電池システム10は四角箱状をなす燃料電池11を備え、該燃料電池11は多数の燃料電池セル11aを積層すると共に、その両端に端板11b、11cを設けたスタック構造を有し、電解質として固体高分子電解質を用いた構造のものである。燃料電池11の一方の端板11bの下部には燃料系ガスを各燃料電池セル11aの流通孔12A内へ供給する入り口側ガス配管13aが取付けられると共に、端板11b上部には各燃料電池セル11aの流通孔12B内からオフガス(未反応ガス)を排出する出口側ガス配管13bが取付けられている。また、燃料電池11の他方の端板11cの下部には酸素系ガスを各燃料電池セル11aの流通孔12C内へ供給する入り口側ガス配管13cが取付けられると共に、端板11cの上部には各燃料電池セル11aの流通孔12D内からオフガスを排出する出口側ガス配管13dが取付けられている。これらのガス配管13(13a〜13d)は燃料電池11への取付部分ではクランク状に曲げ形成されている。
【0016】
前記燃料系ガスとしては例えば水素(H)が用いられ、酸素系ガスとしては例えば空気や酸素(O)が用いられる。これらの燃料系ガスや酸素系ガスは高圧ボンベやコンプレッサ(共に図示しない)から加圧状態で供給されるため、ガス配管13は例えば0.2MPa(2気圧)程度の圧力に耐え得る耐圧強度が要求される。各燃料電池セル11a内では、燃料系ガスとしての水素と酸素系ガスとしての酸素との反応により水が生成すると同時に、電力を発生させるようになっている。
【0017】
前記ガス配管13は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等のエンジニアリングプラスチックのほか、ポリプロピレン樹脂等の樹脂材料により形成されている。このため、曲がり部分を有するガス配管13の成形が容易であると共に、得られるガス配管13は優れた電気絶縁性を有し、さらにガス配管13の軽量化や耐食性を発揮することができる。
【0018】
図1に示すように、円筒状をなすガス配管13には、その厚み方向(径方向)のほぼ中央位置にステンレス鋼製の網目状かつ円筒状(円環状)に形成された除電補強部材14がガス配管13の長さ方向全体に亘って埋設されている。この除電補強部材14の埋設は、例えば金型内に除電補強部材14を配置した状態で溶融した樹脂材料を射出するインサート成形法や、樹脂材料と除電補強部材14を同時に押し出す押出成形法などによって行われる。該除電補強部材14にはステンレス鋼により形成された導電接続体14aの外端部が接合され、該導電接続体14aの内端部はガス配管13の内周面に臨むように構成されている。除電補強部材14の一部には、ステンレス鋼製のアース線15が接合され、その他端は図示しない燃料電池車両のボディに接続されている。
【0019】
前記導電接続体14aを含む除電補強部材14は、ステンレス鋼のほかアルミニウム等の導電性材料を用いて形成される。なお、前記導電接続体14aは、燃料系ガス又は酸素系ガスの出口側ガス配管13b、13dでは配管内の下部に水などの液体が溜まる可能性があるため、ガス配管13の内周面の上部に臨むように配置することが望ましい。
【0020】
次に、第1実施形態の燃料電池システム10について、その作用を説明する。
さて、燃料電池システム10においては、各燃料電池セル11aに燃料系ガスの入り口側ガス配管13aから燃料系ガスとしての水素が導入されると同時に、酸素系ガスの入り口側ガス配管13cから酸素系ガスとしての空気が導入される。そして、各燃料電池セル11a内では、水素と空気中の酸素との反応により水が生成すると同時に、電力が発生する。この電力によって燃料電池車両を駆動させることができる。水素と酸素の反応後には、水素のオフガスが燃料系ガスの出口側ガス配管13bより排出され、酸素のオフガスが酸素系ガスの出口側ガス配管13dより排出される。
【0021】
この場合、上記のように燃料系ガスの入り口側ガス配管13a内には水素が流れ、燃料系ガスの出口側ガス配管13b内には水素のオフガスが流れると共に、酸素系ガスの入り口側ガス配管13c内には空気が流れ、酸素系ガスの出口側ガス配管13d内には空気のオフガスが流れる。各ガス配管13は樹脂材料で形成され電気絶縁性が高いことから、各ガス配管13内のガスの流れによる摩擦に基づいて発生する静電気がガス配管13に蓄積される。この静電気は特にガス配管13の内周面に帯電しやすい。しかし、ガス配管13内には除電補強部材14が埋設され、その除電補強部材14にはガス配管13の内周面に臨む導電接続体14aが接続されているため、ガス配管13内で発生した静電気は導電接続体14aからガス配管13内の除電補強部材14を通ってアース線15に流れ、燃料電池車両のボディにアースされて除電される。
【0022】
また、樹脂材料で形成されたガス配管13内には補強性能に優れたステンレス鋼製で網目状をなす除電補強部材14が埋設されていることから、ガス配管13を強固なものにすることができる。従って、ガス配管13の曲がり部分においても十分な強度を保持することができ、ガス配管13内を流れるガスの圧力に十分に耐えることができると共に、燃料電池車の振動などに基づく応力にも十分に耐えることができる。
【0023】
以上の第1実施形態により発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
(1)第1実施形態の燃料電池システム10において、ガス配管13の内部には除電補強部材14が埋設され、その一部に接合された導電接続体14aがガス配管13の内周面に臨むように構成されている。このため、ガス配管13内を流れるガスにより発生する静電気が除電補強部材14からアース線15を介して流れ、ガス配管13における帯電が防止される。さらに、ガス配管13の内部に埋め込まれた除電補強部材14により、ガス配管13が補強される。従って、ガス配管13内を流れるガスの圧力や燃料電池車の振動に十分に耐えることができる。
【0024】
よって、燃料電池システム10では、ガス配管13の帯電防止を図ることができると共に、機械的強度を向上させることができ、燃料電池システム10の信頼性を高めることができる。
(2)前記除電補強部材14は網目状に形成され、円環状に配置されていることにより、ガス配管13の補強性能を高めることができ、機械的強度を一層向上させることができる。
(3)前記除電補強部材14は酸素系ガスが流通するガス配管13に設けられていることにより、ガス配管13内の酸素系ガスの流通によって発生しやすい静電気を除電することができる。
(4)前記除電補強部材14はステンレス鋼により形成されていることによって、錆の発生を伴うことなく補強性能を高めることができ、帯電防止及び機械的強度の向上を持続して発揮することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について説明する。なお、この第2実施形態においては、主に第1実施形態と異なる部分について説明し、同一部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0025】
図3(a)及び(b)に示すように、ガス配管13の内周面には除電補強部材14として、ステンレス鋼製で細長丸棒状の第1除電補強線材14bが周方向に一定間隔をおいて(図では8本)配設されている。それら第1除電補強線材14bの内側には、同じく除電補強部材14としてステンレス鋼製で円環状をなす第2除電補強線材14cが第1除電補強線材14bの長さ方向に所定間隔をおいて(図では2本)配設されている。第1除電補強線材14bは第2除電補強線材14cによりガス配管13の内周面に押圧されて保持されると共に、第1除電補強線材14bと第2除電補強線材14cとは電気的に導通されている。なお、第1除電補強線材14b及び第2除電補強線材14cはアース線15により燃料電池車両のボディにアースされている。
【0026】
さて、この第2実施形態の燃料電池システム10において、ガス配管13内でガスの流れに基づいて発生した静電気は、第1除電補強線材14b又は第2除電補強線材14cへ流れ、さらにアース線15に流れて燃料電池車両のボディにアースされ、除電される。本第2実施形態の除電補強部材14は、ガス配管13の内周面において長さ方向の全体に亘って延びていることから、第1実施形態の除電補強部材14に比べて帯電防止効果を有効に発揮させることができ、ガス配管13内における部分的な帯電を防止することができる。
【0027】
また、第1除電補強線材14bは第2除電補強線材14cに保持されてガス配管13の内周面に押圧されていることから、ガス配管13が補強され、ガス配管13の直線部分だけではなく、曲がり部分においてもガス圧や振動による応力に対して耐え得る機械的強度を発揮することができる。
【0028】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 図4に示すように、除電補強部材14をステンレス鋼製の金網で円筒状に形成し、ガス配管13の内周面に配設することもできる。この場合、ガス配管13の帯電防止と機械的強度の向上とを有効に発揮させることができる。
【0029】
・ 図5に示すように、除電補強部材14をステンレス鋼製の金網でテーパ状に形成し、その短径側端部14dをガス配管13の内周面に臨むように配置し、長径側端部14eをガス配管13の内部に埋設するように構成することも可能である。さらに、このような構成の除電補強部材14をガス配管13の長さ方向に複数配置することができる。この場合、除電補強部材14がガス配管13の内部に斜めに埋設されるため、ガス配管13の機械的強度向上に有効である。
【0030】
・ 前記第1実施形態における導電接続体14aを板状の金網で構成し、その内端縁がガス配管13の内周面に臨むように、長さ方向に延長して配置することもできる。
・ 前記第1実施形態における除電補強部材14を、六角筒状、八角筒状等の多角筒状に形成することもできる。
【0031】
・ 除電補強部材14として、導電性に優れた炭素繊維、炭素フィルム等を用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
10…燃料電池システム、11…燃料電池、11c…燃料電池、13…ガス配管、13a…燃料系ガスの入り口側ガス配管、13b…燃料系ガスの出口側ガス配管、13c…酸素系ガスの入り口側ガス配管、13d…酸素系ガスの出口側ガス配管、14…除電補強部材、14a…除電補強部材を構成する導電接続体、14b…第1除電補強線材、14c…第2除電補強線材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で形成された酸素系ガス及び燃料系ガスのガス配管が燃料電池に接続されて構成されている燃料電池システムにおいて、
前記ガス配管の内部又は内周面には除電補強部材が配設されると共に、該除電補強部材がガス配管の内部に配設される場合にはその少なくとも一部が内周面に臨むように構成されていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記除電補強部材は網目状に形成され、環状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記除電補強部材はガス配管の内部に埋め込まれ、該除電補強部材には端部が内周面に臨む導電接続体が接続されて構成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記除電補強部材は酸素系ガスが流通するガス配管に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記除電補強部材はステンレス鋼により形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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