説明

燃料電池スタックの膜含水量測定方法及びその制御方法

【課題】簡単な工程で、膜含水量を正確に推定することができ、しかも該膜含水量に基づいて燃料電池の運転制御を良好に遂行可能にする。
【解決手段】燃料電池スタック10の膜含水量測定方法では、複数の燃料電池22に積層方向に付与される締め付け荷重を測定する工程と、シール部材に前記積層方向に付与される負荷荷重を推定する工程と、作動圧に基づく前記積層方向の作動圧荷重を推定する工程と、前記締め付け荷重から前記負荷荷重及び前記作動圧荷重を減算して膜荷重を求め、前記膜荷重から電解質膜の含水量を算出する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが、シール部材を介装して積層される燃料電池を備えるとともに、複数の前記燃料電池が積層される燃料電池スタックの膜含水量測定方法及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)が、セパレータによって挟持された単位セルを備えている。この種の燃料電池は、通常、所定の数の単位セルを積層することにより、車載用燃料電池スタック等として使用されている。
【0003】
この種の燃料電池スタックでは、所望の発電性能を得るとともに、所望のシール機能を発揮させるために、燃料電池内部の状態、例えば、温度分布、電流密度分布又は水分布等を把握する必要がある。特に、燃料電池内部のMEAの含水量は、発電性能及び耐久性に影響し易く、燃料電池の運転中や停止中にも、含水量を正確に把握することが望まれている。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムが知られている。この燃料電池システムは、燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する膜電極接合体を導電性のセパレータを介して複数積層し、積層体を両側から定寸に締結した燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに前記燃料ガスと酸化剤ガスとを供給することによって前記燃料電池スタックを運転する運転手段と、前記運転手段による前記運転中に、前記膜電極接合体における面内の荷重分布を推定する荷重分布推定手段と、前記膜電極接合体の表面を複数の領域に分けて、各領域に対して個別に荷重を掛ける荷重付与手段と、前記荷重分布推定手段により得られた荷重分布に基づいて前記荷重付与手段を制御して、前記膜電極接合体における面内の荷重分布の偏りを低減する分布偏り低減手段とを備えている。
【0005】
そして、荷重分布推定手段は、燃料電池スタックの要求電流、前記燃料電池スタックの温度、燃料ガスの供給圧力及び酸化剤ガスの供給圧力のうちの少なくとも1つである運転パラメータを検出するパラメータ検出手段を備えている。これにより、燃料電池の運転状態に関わらず、膜電極接合体の面内における荷重分布を均一とすることができる、としている。
【0006】
また、特許文献2に開示されている燃料電池システムでは、電解質膜の両面を一対の触媒層で挟んだ膜−電極接合体を有し、反応ガスの供給を受けて当該反応ガスの電気化学反応により電力を発生する燃料電池と、第1の周波数領域における前記燃料電池のインピーダンスであって前記電解質膜の抵抗に対応する第1のインピーダンス、及び前記第1の周波数領域よりも低周波の領域である第2の周波数領域における前記燃料電池のインピーダンスである第2のインピーダンスをそれぞれ算出するインピーダンス算出部と、前記第2のインピーダンスと前記第1のインピーダンスとの差である差分インピーダンスを用いて、前記燃料電池の含水量を算出する含水量算出手段とを備えている。これにより、燃料電池内の乾燥度合をより的確に把握することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−305686
【特許文献2】特開2010−165463
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1及び特許文献2では、特殊なセンサ類が必要であるとともに、装置が大型且つ複雑なものになるという問題がある。しかも、常時、リアルタイムで計測を行うことができないという問題がある。
【0009】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程で、膜含水量を正確に推定することができ、しかも該膜含水量に基づいて燃料電池の運転制御が良好に遂行可能な燃料電池スタックの膜含水量測定方法及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電解質膜の両側に電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが、シール部材を介装して積層される燃料電池を備えるとともに、複数の前記燃料電池が積層される燃料電池スタックの膜含水量測定方法に関するものである。
【0011】
この膜含水量測定方法では、複数の燃料電池に積層方向に付与される締め付け荷重を測定する工程と、シール部材に前記積層方向に付与される負荷荷重を推定する工程と、作動圧に基づく前記積層方向の作動圧荷重を推定する工程と、前記締め付け荷重から前記負荷荷重及び前記作動圧荷重を減算して膜荷重を求め、前記膜荷重から前記電解質膜の含水量を算出する工程とを有している。
【0012】
また、この膜含水量測定方法では、燃料電池スタックは、複数の燃料電池の積層方向両端に一対のエンドプレートを配設し、前記一対のエンドプレートは、互いの離間距離を保持して一体に固定されるとともに、前記一対のエンドプレート間には、複数の荷重センサを設ける荷重測定機構が配設されることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、電解質膜の両側に電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが、シール部材を介装して積層されるとともに、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスにより発電し、且つ供給される冷却媒体により冷却される燃料電池を備え、複数の前記燃料電池が積層される燃料電池スタックの制御方法に関するものである。
【0014】
この制御方法では、複数の燃料電池に積層方向に付与される締め付け荷重を測定する工程と、シール部材に前記積層方向に付与される負荷荷重を推定する工程と、作動圧に基づく前記積層方向の作動圧荷重を推定する工程と、前記締め付け荷重から前記負荷荷重及び前記作動圧荷重を減算して膜荷重を求め、前記膜荷重から前記電解質膜の含水量を算出する工程と、算出された前記含水量に基づいて、燃料ガス及び酸化剤ガスの流量、冷却媒体の流量又は発電量の少なくともいずれかを調整する工程とを有している。
【0015】
さらにまた、この制御方法では、燃料電池スタックは、複数の燃料電池の積層方向両端に一対のエンドプレートを配設し、前記一対のエンドプレートは、互いの離間距離を保持して一体に固定されるとともに、前記一対のエンドプレート間には、複数の荷重センサを設ける荷重測定機構が配設されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の燃料電池に積層方向に付与される締め付け荷重の変動から、電解質膜の含水量が算出されるため、燃料電池スタックの状態、例えば、運転中や停止中に関わらず、前記電解質膜の含水量を正確且つ確実に推定することが可能になる。
【0017】
これにより、簡単な工程で、膜含水量を正確に推定することができ、電解質膜・電極構造体を効率的な状態に維持することが可能になる。従って、発電性能の向上を図るとともに、耐久劣化を抑制することができ、膜含水量に基づいて燃料電池の運転制御が良好に遂行可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る膜含水量測定方法及び制御方法を実施するための燃料電池スタックの概略説明図である。
【図2】前記燃料電池スタックの要部分解斜視説明図である。
【図3】前記燃料電池スタックを構成する燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図4】前記燃料電池の、図3中、IV−IV線断面図である。
【図5】セル厚と膜荷重特性との関係説明図である。
【図6】膜含水量と膨潤量との関係説明図である。
【図7】膜荷重と膜含水量との関係説明図である。
【図8】作動圧荷重と締め付け荷重の変動量との関係説明図である。
【図9】締め付け荷重と分担荷重との関係説明図である。
【図10】締め付け荷重から膜荷重を算出するための説明図である。
【図11】前記燃料電池スタックの運転時における前記膜含水量測定方法を説明するフローチャートである。
【図12】前記燃料電池スタックの停止時における前記膜含水量測定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る膜含水量測定方法及び制御方法を実施するための燃料電池スタック10は、車載用燃料電池システム12に組み込まれる。この燃料電池システム12は、燃料電池スタック10に、燃料ガスである水素ガス(水素含有ガス)を供給するための水素供給装置14と、酸化剤ガスである空気(酸素含有ガス)を供給するための空気供給装置16と、冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置18と、全体の制御を行うECU(制御装置)20と、前記燃料電池スタック10から充電されるとともに、負荷に電力を供給可能な蓄電装置、例えば、バッテリ21とを備える。
【0020】
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池22が矢印A方向(鉛直方向)に積層された積層体24を備える。積層体24の積層方向下端(一端)には、第1ターミナルプレート25a、第1絶縁プレート26a及び第1エンドプレート28aが積層される。
【0021】
図1及び図2に示すように、積層体24の積層方向上端(他端)には、第2ターミナルプレート25b、第2絶縁プレート26b、荷重測定機構30及び第2エンドプレート28bが積層される。第2エンドプレート28bには、加圧機構32が設けられる。なお、積層体24は、複数の燃料電池22を水平方向(矢印B方向又は矢印C方向)に積層して構成してもよい。
【0022】
図3及び図4に示すように、燃料電池22は、電解質膜・電極構造体34が、第1セパレータ36及び第2セパレータ38に挟持される。第1セパレータ36及び第2セパレータ38は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、あるいはめっき処理鋼板等の金属セパレータやカーボンセパレータ等により構成される。
【0023】
図3に示すように、燃料電池22の矢印B方向(水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガスである空気を供給するための酸化剤ガス入口連通孔40a、及び燃料ガスである水素ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔42aが、矢印C方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0024】
燃料電池22の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔42b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔40bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0025】
燃料電池22の矢印C方向の両端縁部には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔44a、及び前記冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔44bが設けられる。
【0026】
第1セパレータ36の電解質膜・電極構造体34に向かう面36aには、酸化剤ガス入口連通孔40aと酸化剤ガス出口連通孔40bとに連通する酸化剤ガス流路46が設けられる。
【0027】
第2セパレータ38の電解質膜・電極構造体34に向かう面38aには、燃料ガス入口連通孔42aと燃料ガス出口連通孔42bとに連通する燃料ガス流路48が設けられる。
【0028】
互いに隣接する燃料電池22を構成する第1セパレータ36の面36bと、第2セパレータ38の面38bとの間には、冷却媒体入口連通孔44aと冷却媒体出口連通孔44bとを連通する冷却媒体流路50が設けられる。
【0029】
第1セパレータ36の面36a、36bには、第1シール部材52が、一体的又は個別に設けられるとともに、第2セパレータ38の面38a、38bには、第2シール部材54が、一体的に又は個別に設けられる。
【0030】
第1シール部材52及び第2シール部材54は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコンゴム、フロロシリコンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材を使用する。
【0031】
電解質膜・電極構造体34は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜56と、前記固体高分子電解質膜56を挟持するカソード側電極58及びアノード側電極60とを備える。
【0032】
カソード側電極58及びアノード側電極60は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成される電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜56の両面に形成されている。
【0033】
図1に示すように、例えば、アルミニウム製の第1エンドプレート28a及び第2エンドプレート28b間には、複数本の連結バー61が架け渡され、前記第1エンドプレート28a及び前記第2エンドプレート28b間の距離が一定に保持される。連結バー61は、例えば、アルミニウム製の長尺な板状を有し、燃料電池スタック10の長辺側に2本ずつで、且つ、前記燃料電池スタック10の短辺側に1本ずつ配設される。連結バー61は、第1エンドプレート28a及び第2エンドプレート28bの側部にねじ62を介して固定される。
【0034】
第1エンドプレート28aには、酸化剤ガス入口連通孔40a、燃料ガス入口連通孔42a、冷却媒体入口連通孔44a、酸化剤ガス出口連通孔40b、燃料ガス出口連通孔42b及び冷却媒体出口連通孔44bに連通し、外部に延在するマニホールド(図示せず)が設けられる一方、第2エンドプレート28bは、これら及びシール部材を削除した平板状に構成される。
【0035】
図2に示すように、荷重測定機構30は、第2絶縁プレート26bに載置される加圧板64を備え、前記加圧板64には、例えば、四隅近傍にそれぞれ矩形状の凹部66が形成される。荷重測定機構30は、枠形状の連結部材68と、前記連結部材68の四隅にナット70を介して固定される荷重センサ、例えば、ロードセル72とを備える。
【0036】
連結部材68には、各ロードセル72の近傍に底面が球面を有する球面状凹部74が設けられる。各ロードセル72には、押圧部材76が装着されるとともに、前記押圧部材76は、加圧板64の各凹部66に配置される。
【0037】
加圧機構32は、複数、例えば、4つの荷重調整ボルト78を備える。各荷重調整ボルト78は、第2エンドプレート28bに形成されたねじ孔79にねじ込まれるとともに、各々の球面状先端部78aは、連結部材68の各球面状凹部74に配置される。各荷重調整ボルト78の中心と、各ロードセル72の中心とは、互いに位置がずれている。
【0038】
図1に示すように、水素供給装置14は、高圧水素を貯留する水素タンク80を備え、この水素タンク80が水素供給路82に配置される。水素供給路82は、燃料電池スタック10の燃料ガス入口連通孔42aに連通するとともに、減圧弁84及びエゼクタ86を配設する。
【0039】
水素供給装置14は、燃料電池スタック10の燃料ガス出口連通孔42bに連通する水素循環路(循環配管)88を備え、前記水素循環路88は、気液分離器90を介装してエゼクタ86に連通する。エゼクタ86は、水素循環路88を構成する配管部88aに配置される。
【0040】
気液分離器90の下部には、ドレイン配管88bが接続されるとともに、前記ドレイン配管88bにドレイン弁92が配設される。配管部88aの途上には、排気配管部88cが接続され、前記排気配管部88cには、開閉弁94を介して希釈器96が接続される。
【0041】
空気供給装置16は、エアポンプ98を備える。このエアポンプ98が接続される空気供給路100は、加湿器102を介装して燃料電池スタック10の酸化剤ガス入口連通孔40aに連通する。
【0042】
空気供給装置16は、燃料電池スタック10の酸化剤ガス出口連通孔40bに連通する空気排出路104を有する。空気排出路104は、加湿器102を介装して車外に延在するとともに、希釈配管104aが分岐する。希釈配管104aは、開閉弁106を介して希釈器96に接続される。加湿器102は、空気排出路104に排出される使用済みの加湿空気と、空気供給路100に導入される新たな空気との間で、水交換を行うことにより、この新たな空気を加湿する。
【0043】
冷却媒体供給装置18は、ラジエータ108を備える。ラジエータ108には、冷却媒体循環路110が接続されるとともに、前記冷却媒体循環路110は、燃料電池スタック10の冷却媒体入口連通孔44a及び冷却媒体出口連通孔44bに両端が接続される。この冷却媒体循環路110には、冷媒ポンプ112が介装される。
【0044】
水素供給装置14、空気供給装置16及び冷却媒体供給装置18には、それぞれ所定の状態を検出するためのセンサ114a、114b及び114cが設けられる。例えば、センサ114aは、燃料ガスの流量、湿度又は温度を検出し、センサ114bは、酸化剤ガスの流量や湿度を検出し、センサ114cは、冷却媒体の温度や流量を検出し、これらの検出信号がECU20に送られる。ECU20には、荷重センサであるロードセル72からの荷重信号が送られ、燃料電池スタック10全体の積層方向の締め付け荷重が検出される。
【0045】
このように構成される燃料電池スタック10の動作について、以下に説明する。
【0046】
先ず、図1に示すように、空気供給装置16では、エアポンプ98の駆動作用下に、空気供給路100に導出された圧縮空気は、加湿器102で加湿された後、燃料電池スタック10の酸化剤ガス入口連通孔40aに供給される。
【0047】
水素供給装置14では、水素タンク80に貯留されている高圧水素が、減圧弁84を介して減圧されて水素供給路82に送られる。燃料ガス(水素ガス)は、エゼクタ86から噴出されるとともに、後述する使用済みの燃料ガスを吸引して、燃料電池スタック10の燃料ガス入口連通孔42aに供給される。
【0048】
一方、冷却媒体供給装置18では、冷媒ポンプ112の作用下に、冷却媒体循環路110から燃料電池スタック10の冷却媒体入口連通孔44aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0049】
このため、図3に示すように、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔40aから第1セパレータ36の酸化剤ガス流路46に導入される。酸化剤ガスは、矢印B方向に移動しながら、電解質膜・電極構造体34を構成するカソード側電極58に供給される。
【0050】
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔42aから第2セパレータ38の燃料ガス流路48に導入される。この燃料ガスは、矢印B方向に移動しながら、電解質膜・電極構造体34を構成するアノード側電極60に供給される。
【0051】
従って、電解質膜・電極構造体34では、カソード側電極58に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極60に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0052】
次いで、カソード側電極58に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔40bに沿って矢印A方向に排出される。一方、アノード側電極60に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔42bに沿って矢印A方向に排出される。
【0053】
また、冷却媒体入口連通孔44aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ36及び第2セパレータ38間の冷却媒体流路50に導入された後、矢印C方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体34を冷却した後、冷却媒体出口連通孔44bから排出される。
【0054】
図1に示すように、酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔40bから空気排出路104に排出される。この酸化剤ガスは、加湿器102で新たな酸化剤ガスを加湿した後、車外に排出されるとともに、必要に応じて希釈配管104aを通って希釈器96に供給される。
【0055】
一方、燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔42bから水素循環路88に排出される。燃料ガスは、気液分離器90に導入されて水分が分離除去された後、配管部88aからエゼクタ86に吸引される。このため、燃料ガスは、新たな燃料ガスに混在して水素供給路82に導入され、燃料ガスとして燃料電池スタック10に供給される。なお、水素パージを伴う際には、開閉弁94が開放されて燃料ガスが希釈器96に導入される。
【0056】
また、冷却媒体は、冷却媒体出口連通孔44bから冷却媒体循環路110に戻されるとともに、ラジエータ108で冷却された後、燃料電池スタック10に循環供給される。
【0057】
次いで、本実施形態に係る膜含水量測定方法について、以下に説明する。
【0058】
先ず、実際に運転されている燃料電池スタック10の締め付け荷重W(ALL)が実測され、この締め付け荷重W(ALL)から電解質膜・電極構造体34に作用する膜荷重W(MEA)が算出される。
【0059】
具体的には、燃料電池スタック10の内部には、作動圧に基づく積層方向の作動圧荷重W(OP)、第1シール部材52及び第2シール部材54に前記積層方向に付与される負荷荷重W(SEAL)が発生する。このため、締め付け荷重W(ALL)=作動圧荷重W(OP)+負荷荷重W(SEAL)+膜荷重W(MEA)となる関係式が得られる。
【0060】
電解質膜・電極構造体34(特に、固体高分子電解質膜56)は、燃料電池スタック10の運転状態によって含水量が変化し、膨潤することで厚さ寸法が変化する。その際、電解質膜・電極構造体34は、第1セパレータ36と第2セパレータ38とにより積層方向に拘束されており、図5に示すように、セル厚−膜荷重特性に沿って膜荷重W(MEA)が変化する。
【0061】
ここで、セル厚とは、電解質膜・電極構造体34を第1セパレータ36と第2セパレータ38とにより挟持した状態の厚さをいう。また、固体高分子電解質膜56に加わる荷重と前記固体高分子電解質膜56の厚さとの関係は、電解質膜・電極構造体34に加わる荷重とセル厚との関係に極めて近似する。一方、ガス拡散層及び電極触媒層では、それぞれに加わる荷重に対して、それぞれの含水量に基づく厚さの変化が非常に小さい。
【0062】
膜荷重W(MEA)が、第1膜荷重W1(MEA)から第2膜荷重W2(MEA)に変化した際、この荷重変化に必要なセル厚変化量は、tμmとなる。そして、湿度(含水量)n1%の電解質膜・電極構造体34のセル厚が、tμmだけ変化するためには、図6に示すように、(n2−n1)%の湿度(含水量)変化が必要となる。このため、電解質膜・電極構造体34の膜荷重W(MEA)と前記電解質膜・電極構造体34(特に、固体高分子電解質膜56)の含水量とは、図7に示す関係を有する。
【0063】
一方、作動圧荷重W(OP)の合計と締め付け荷重W(ALL)の変動量とは、図8に示す関係を有する。さらに、締め付け荷重W(ALL)における負荷荷重W(SEAL)と膜荷重W(MEA)との分担荷重は、図9に示す関係を有する。膜荷重W(MEA)の傾き(変動量)が大きいため、感度よく計測することができる。
【0064】
これにより、燃料電池22の負荷電流を変化させた際、実測された締め付け荷重W(ALL)に対応する作動圧荷重W(OP)、負荷荷重W(SEAL)及び膜荷重W(MEA)の関係が、図10に示される。これは、テーブルとしてECU20のメモリに記憶される。
【0065】
そこで、図11に示すように、燃料電池スタック10の運転時において、前記燃料電池スタック10の積層方向に付与されている締め付け荷重W(ALL)が、荷重測定機構30を構成する複数のロードセル72を介して検出(実測)される(ステップS1)。具体的には、4箇所のロードセル72の測定荷重を合算することにより、締め付け荷重W(ALL)が検出される。ECU20では、検出された締め付け荷重W(ALL)から電解質膜・電極構造体34の膜荷重W(MEA)が算出される(ステップS2)。
【0066】
具体的には、検出された締め付け荷重W(ALL)に基づいて、負荷荷重W(SEAL)が推定されるとともに、作動圧荷重W(OP)が推定される。そして、締め付け荷重W(ALL)から負荷荷重W(SEAL)及び作動圧荷重W(OP)が減算されて膜荷重W(MEA)が求められる。さらに、膜荷重W(MEA)に基づいて、電解質膜・電極構造体34の膜含水量が算出される(ステップS3)。
【0067】
この場合、本実施形態では、複数の燃料電池22に積層方向に付与される締め付け荷重W(ALL)の変動から、電解質膜・電極構造体34の膜荷重W(MEA)が求められ、さらに前記電解質膜・電極構造体34の含水量が算出されている。このため、燃料電池スタック10の状態、例えば、運転中や停止中に関わらず、電解質膜・電極構造体34の含水量を正確且つ確実に推定することが可能になる。
【0068】
これにより、簡単な工程で、電解質膜・電極構造体34の膜含水量を正確に推定することができ、前記電解質膜・電極構造体34を効率的な状態に維持することが可能になる。従って、発電性能の向上を図るとともに、耐久劣化を抑制することができ、膜含水量に基づいて燃料電池スタック10の運転制御が良好に遂行可能になるという効果が得られる。
【0069】
電解質膜・電極構造体34の膜含水量が算出された後、ステップS4に進んで、前記膜含水量が設定目標幅内であるか否かが判断される。膜含水量が、設定目標幅内であると判断されると(ステップS4中、YES)、膜含水量測定工程が終了する。一方、膜含水量が、設定目標幅内でないと判断されると(ステップS4中、NO)、ステップS5に進む。
【0070】
膜含水量が、設定目標幅よりも多いと判断されると(ステップS5中、YES)、ステップS6に進んで、冷却媒体供給装置18を構成するセンサ114cを介して冷却媒体の温度が検出され、前記冷却媒体の温度が、設定目標温度よりも低いか否かが判断される。冷却媒体の温度が、設定目標温度よりも低いと判断されると(ステップS6中、YES)、ステップS7に進んで、冷却媒体流量が減少される。
【0071】
具体的には、図1に示すように、冷却媒体供給装置18を構成する冷媒ポンプ112が制御され、燃料電池スタック10に循環供給される冷却媒体の流量が減少される。このため、燃料電池スタック10の内部温度が上昇し、電解質膜・電極構造体34の膜含水量が低下する。
【0072】
また、冷却媒体の温度が、設定目標温度よりも高いと判断されると(ステップS6中、NO)、ステップS8に進む。このステップS8では、バッテリ21の充電状態を監視し、このバッテリ21の残量が目標よりも低いと判断されると(ステップS8中、YES)、ステップS9に進む。ステップS9では、水素供給装置14を構成する減圧弁84及び空気供給装置16を構成するエアポンプ98が制御され、燃料電池スタック10に供給される燃料ガス及び酸化剤ガスの流量が増加される。これにより、燃料電池スタック10の内部の水蒸気の排出水量が増加し、電解質膜・電極構造体34の膜含水量が低下する。
【0073】
ステップS8において、バッテリ21の残量が目標よりも高いと判断されると(ステップS8中、NO)、ステップS10に進んで、燃料電池スタック10の発電量が減少される。このため、燃料電池スタック10の内部に生成される水分量が減少され、電解質膜・電極構造体34の膜含水量が低下する。
【0074】
一方、ステップS5において、膜含水量が、発電性能が良好となる含水量範囲である設定目標幅(例えば、0.2g/cm以上で、飽和含水量以下)よりも少ないと判断されると(ステップS5中、NO)、ステップS11に進んで、冷却媒体の温度が、設定目標温度よりも高いか否かが判断される。冷却媒体の温度が、設定目標温度よりも高いと判断されると(ステップS11中、YES)、ステップS12に進んで、冷却媒体流量を増加させる。従って、燃料電池スタック10内部の温度が低下し、電解質膜・電極構造体34の膜加湿量が増加する。
【0075】
ステップS11において、冷却媒体の温度が、設定目標温度よりも低いと判断されると(ステップS11中、NO)、ステップS13に進む。このステップS13では、バッテリ21の残量が目標よりも高いと判断されると(ステップS13中、YES)、ステップS14に進む。ステップS14では、燃料電池スタック10に供給される燃料ガス及び酸化剤ガスの流量が減少される。このため、燃料電池スタック10内部における水蒸気の排水流量が低下し、電解質膜・電極構造体34の膜加湿量が増加する。
【0076】
ステップS13において、バッテリ21の残量が目標よりも低いと判断されると(ステップS13中、NO)、ステップS15に進んで、燃料電池スタック10の発電量が増加される。従って、バッテリ21への充電又は負荷への電流の供給が行われるとともに、燃料電池スタック10の内部に生成される水分量が増加され、電解質膜・電極構造体34の膜加湿量が増加する。
【0077】
これにより、本実施形態では、電解質膜・電極構造体34の膜含水量を、運転時、設定目標幅内に維持することができ、前記電解質膜・電極構造体34にとって効率のよい状態を維持することが可能になる。従って、電解質膜・電極構造体34の発電性能の向上を図るとともに、耐久劣化を可及的に抑制することができるという利点がある。
【0078】
また、本実施形態では、燃料電池スタック10の運転停止時に、膜含水量を設定目標幅内に維持した状態で停止する際にも、上記の工程に沿って(図11に沿って)処理を行うことができる。
【0079】
図12は、燃料電池スタック10の停止時(イグニッションオフ時)における膜含水量測定方法を説明する他のフローチャートである。なお、図11に示すフローチャートと同一の工程では、その詳細な説明は省略する。
【0080】
燃料電池スタック10の締め付け荷重W(ALL)が検出された後(ステップS21)、ステップS24までの工程が、ステップS1〜ステップS4と同様に行われる。そして、膜含水量が、設定目標幅内でないと判断されると(ステップS24中、NO)、ステップS25に進んで、膜含水量が、設定目標幅よりも多いか否かが判断される。
【0081】
膜含水量が、設定目標幅よりも多いと判断されると(ステップS25中、YES)、ステップS26に進んで、燃料電池スタック10に供給される燃料ガス及び酸化剤ガスの流量が増加される。このため、燃料電池スタック10の内部の水蒸気の排出水量が増加し、電解質膜・電極構造体34の膜含水量が低下する。
【0082】
一方、膜含水量が、設定目標幅よりも少ないと判断されると(ステップS25中、NO)、ステップS27に進んで、燃料電池スタック10が一定時間だけ発電される。これにより、発電反応により生成水が得られ、電解質膜・電極構造体34の膜含水量が増加する。
【0083】
従って、燃料電池スタック10の運転停止時に、膜含水量を設定目標幅内に維持した状態で、前記燃料電池スタック10の運転を停止することができ、固体高分子電解質膜56の耐久性を向上させることが可能になる。
【0084】
なお、荷重センサは、ロードセル72に限定されるものではない。例えば、一対のエンドプレート28a、28b間に渡されたバー又はボルトに歪みゲージを設けるとともに、各歪みゲージから測定される荷重の値を合算してもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…燃料電池スタック 12…燃料電池システム
14…水素供給装置 16…空気供給装置
18…冷却媒体供給装置 20…ECU
22…燃料電池 24…積層体
25a、25b…ターミナルプレート 26a、26b…絶縁プレート
28a、28b…エンドプレート 30…荷重測定機構
32…加圧機構 34…電解質膜・電極構造体
36、38…セパレータ 40a…酸化剤ガス入口連通孔
40b…酸化剤ガス出口連通孔 42a…燃料ガス入口連通孔
42b…燃料ガス出口連通孔 44a…冷却媒体入口連通孔
44b…冷却媒体出口連通孔 46…酸化剤ガス流路
48…燃料ガス流路 50…冷却媒体流路
56…固体高分子電解質膜 58…カソード側電極
60…アノード側電極 61…連結バー
64…加圧板 68…連結部材
72…ロードセル 76…押圧部材
78…荷重調整ボルト 80…水素タンク
86…エゼクタ 88…水素循環路
90…気液分離器 98…エアポンプ
112…冷媒ポンプ 114a、114b、114c…センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが、シール部材を介装して積層される燃料電池を備えるとともに、複数の前記燃料電池が積層される燃料電池スタックの膜含水量測定方法であって、
複数の前記燃料電池に積層方向に付与される締め付け荷重を測定する工程と、
前記シール部材に前記積層方向に付与される負荷荷重を推定する工程と、
作動圧に基づく前記積層方向の作動圧荷重を推定する工程と、
前記締め付け荷重から前記負荷荷重及び前記作動圧荷重を減算して膜荷重を求め、前記膜荷重から前記電解質膜の含水量を算出する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池スタックの膜含水量測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の膜含水量測定方法において、前記燃料電池スタックは、複数の前記燃料電池の積層方向両端に一対のエンドプレートを配設し、前記一対のエンドプレートは、互いの離間距離を保持して一体に固定されるとともに、
前記一対のエンドプレート間には、複数の荷重センサを設ける荷重測定機構が配設されることを特徴とする燃料電池スタックの膜含水量測定方法。
【請求項3】
電解質膜の両側に電極を設けた電解質膜・電極構造体とセパレータとが、シール部材を介装して積層されるとともに、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスにより発電し、且つ供給される冷却媒体により冷却される燃料電池を備え、複数の前記燃料電池が積層される燃料電池スタックの制御方法であって、
複数の前記燃料電池に積層方向に付与される締め付け荷重を測定する工程と、
前記シール部材に前記積層方向に付与される負荷荷重を推定する工程と、
作動圧に基づく前記積層方向の作動圧荷重を推定する工程と、
前記締め付け荷重から前記負荷荷重及び前記作動圧荷重を減算して膜荷重を求め、前記膜荷重から前記電解質膜の含水量を算出する工程と、
算出された前記含水量に基づいて、前記燃料ガス及び前記酸化剤ガスの流量、前記冷却媒体の流量又は発電量の少なくともいずれかを調整する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池スタックの制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の制御方法において、前記燃料電池スタックは、複数の前記燃料電池の積層方向両端に一対のエンドプレートを配設し、前記一対のエンドプレートは、互いの離間距離を保持して一体に固定されるとともに、
前記一対のエンドプレート間には、複数の荷重センサを設ける荷重測定機構が配設されることを特徴とする燃料電池スタックの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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