説明

燃料電池スタック

【課題】ガス拡散層の破損を防止する。
【解決手段】燃料電池スタックは、固体電解質膜12を一対の電極14で挟持すると共に、この一対の電極14の外側にそれぞれガス拡散層16を配置した電解質膜・電極・ガス拡散層構造体をセパレータ18を介して複数積層して形成される。そして、ガス拡散層16と、セパレータ18の間に両者間の摩擦を低減する摩擦低減手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質膜を一対の電極で挟持すると共に、この一対の電極の外側にそれぞれガス拡散層を配置した電解質膜・電極・ガス拡散層構造体を、セパレータを介して複数積層して形成された燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、1セルで得られる電圧が0.7V程度である。動力用のモータを駆動する場合には、大きな電力を必要とし、例えば電気自動車においては200V〜300Vまたはそれ以上の電源電圧を必要とする。このため、燃料電池は、所定数(例えば、数10個)積層された燃料電池スタックとして構成され、この燃料電池スタックを適宜個数利用して電源が構成される。
【0003】
ここで、燃料電池スタックに大きな力が掛かる場合が想定される。例えば、車両に搭載された燃料電池スタックでは、車両の衝突時において非常に大きな力が掛かる場合がある。このような場合に、燃料電池スタックの各セルについて互いにずれる方向に力が掛かると、各セル内に積層面に平行な方向のせん断力が加わる場合がある。
【0004】
ここで、燃料電池セルは、通常固体高分子電解膜の両面に電極層、ガス拡散層を設け、これらをセパレータで挟持して構成される。セパレータは、通常金属で構成され強度が強いため、隣接する2つのセパレータの位置がずれると、その間に配置される各層にせん断力が掛かる。ガス拡散層は、カーボン繊維などの多孔質の基材などで形成され、他の層と比べると厚いため、ガス拡散層が破損しやすい。そして、ガス拡散層が破損すると、ガスがリークしたり、短絡が発生したりして、燃料電池の運転が継続できなくなる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−277016号公報
【特許文献2】特開2003−157858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ガス拡散層を多層体として形成し、ガス拡散層内において、ずれを許容することで、ガス拡散層の破損を防止している。しかし、ガス拡散層の破損をさらに確実に防止したという要求がある。また、特許文献1では、ガス拡散層内において、ずれを許容するため、ガス拡散性、水流動性が悪化し、電気抵抗が増大しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、固体電解質膜を一対の電極で挟持すると共に、この一対の電極の外側にそれぞれガス拡散層を配置した電解質膜・電極・ガス拡散層構造体を、セパレータを介して複数積層して形成された燃料電池スタックであって、前記ガス拡散層と、前記セパレータの間に両者間の摩擦を低減する摩擦低減手段を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記摩擦低減手段は、両者の間にボールを介在させるベアリング構造を有することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
燃料電池スタックに大きな力が掛かったときに、ガス拡散層と、セパレータの界面において、すべりが発生するため、ガス拡散層が破壊することを防止することができる。また、電解質膜・電極・ガス拡散層構造体は、内部にずれなどを発生せずに保持されるので、電気抵抗が増大することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の構成を示す要部概略断面図である。
【図2】ボールベアリングの構成を示す模式図である。
【図3】ボールをガス拡散層に埋め込んだ状態を示す模式図である。
【図4】他の実施形態の構成を示す要部概略断面図である。
【図5】さらに他の実施形態の構成を示す要部概略断面図である。
【図6】燃料電池スタックに力が掛かったときの状態を示す図である。
【図7】ガス拡散層が破損する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る燃料電池スタックの要部の断面説明図である。図においては、2つのセパレータで挟まれた1セル分を示してある。
【0013】
固体電解質膜12の両側には、電極14が配置され、この電極14の両側にガス拡散層16が配置されている。そして、このガス拡散層16の外側をセパレータ18で挟んでいる。また、固体電解質膜12は、電極14、ガス拡散層16よりも大きく、周辺まで伸び、この周辺部がセパレータ18にシール材20で接着されている。
【0014】
固体電解質膜12、電極14、ガス拡散層16は、一体的に接合されて、1枚の板状の電解質・電極・ガス拡散層接合体を形成しており、この接合体と、同じく板状のセパレータ18を交互に配置することで多数の燃料電池セルを積層した燃料電池スタックが構成される。なお、燃料電池スタックの最外部には、一対のエンドプレートが配置され、この一対のエンドプレートをボルト締めすることで、スタック全体を固定している。また、スタックの周辺部には、マニホールドが形成され、燃料ガスや、酸化ガスを各セルに供給するガス通路となっている。
【0015】
固体電解質膜12は、固体高分子物質からなるイオン交換膜である。固体電解質膜12を挟んで形成される電極14は、触媒担持カーボンなどから構成され、燃料ガス(通常水素ガス)が供給される側が燃料極、酸化ガス(通常空気)他方が酸素極として機能する。ガス拡散層16は、カーボン繊維をクロス、ペーパー、フェルト状に形成したものが用いられ、内部にガスが拡散流通され、電極14の全体にガスを供給している。セパレータ18は、例えばステンレスなどの金属から構成され、燃料ガス、酸化ガスの供給排出通路を提供すると共に、隔壁として機能する。また、シール材20には、エポキシ樹脂などの樹脂が用いられ、これによってセルの周囲が密閉される。
【0016】
そして、各セルにおいて、燃料ガスの酸化反応が起こり、これによって生じた電力が両端から取り出される。
【0017】
ここで、本実施形態においては、セパレータ18に、図2に示すように溝22が形成されている。この溝22は、セパレータ18の表面部において、幅方向全体に伸びるように形成されており、この溝22内に多数のボール24が挿入されている。ボール24は、その一部が溝22から突出しており、従ってボールベアリングとして機能する。溝22は、横から見た場合に、ほぼ円形であるが、全面側が一部欠けており、ここからボール24が突出している。従って、ボール24は、溝22から前側に抜けることはない。ボール24は、横方向から溝22内に挿入され、その後溝の幅方向両端を閉じることが好適である。これによって、スタック組み付け時において、ボール24はセパレータ18に保持されており、問題が生じない。なお、ボール24は、カーボンで構成するのが好適であるが、ステンレスなど腐食しない金属で形成してもよい。
【0018】
なお、溝22、ボール24は、見やすくするために大きく書いてあるが、ボール24の直径が100〜500μm程度とするのが好ましい。
【0019】
このように、本実施形態においては、セパレータ18と、ガス拡散層16との界面において、ボールベアリングが形成されている。従って、両者の間の摩擦が小さくなっている。そこで、車両の衝突などの原因で、燃料電池スタックに大きな加速度が掛かったときに、セパレータ18とガス拡散層16との間がすべり、ガス拡散層16に大きなせん断力が印加されることを効果的に防止することができる。従って、衝突後において、ガス漏れなどを防止することが可能となる。
【0020】
また、ボール24を接着剤でセパレータ18に接着しておいてもよい。これによって、ボール24を溝内に横方向から挿入するなどの必要が無くなり、溝22を前面側が大きく開放したものとすることができ、作業が容易になる。また、接着剤を比較的弱い材料で形成しておけば、衝突時などにおいては、接着剤の拘束が外れることで、所期の目的を達成することが可能である。さらに、接着剤として、熱によって揮発しやすいものを採用しておけば、組み付け後に接着剤を蒸発させて、除去することができ、接着剤の拘束を解除することができる。
【0021】
図3は、他の構成例を示してある。この例では、ガス拡散層16にボール24を埋め込んでいる。ガス拡散層16は、上述のように、カーボン繊維などからなっており、多少の柔軟性を有している。そこで、ボール24を大きな力で押しつけることでボール24用の凹みが生じる。従って、ガス拡散層16にボール24を保持して、これをベアリングとして機能させることが可能となる。なお、この場合にも、ボール24を接着剤によって、ガス拡散層16に接着しておくことが好適であり、熱揮発性のものを利用することも好適である。
【0022】
図4には、さらに他の構成例を示してある。この例では、ガス拡散層16とセパレータ18の間に摩擦低減層26を配置している。この摩擦低減層26には、導電性グリースや、二硫化モリブデン粉末、カーボン粉末などが利用される。
【0023】
導電性グリースとしては、炭化水素系導電性グリースや、シリコーン系熱伝導グリースの他、パーフロロポリエーテルを導電性のフィラーでグリース化したものなどを採用することができる。二硫化モリブデン粉末や、カーボン粉末は市販のものを利用することができる。
【0024】
このように、摩擦低減層26を配置することで、ガス拡散層16とセパレータ18の間の摩擦が低減され、大きな加速度が掛かったときに、両者の界面がすべることでガス拡散層16が破壊されるのを防止することができる。
【0025】
図5は、さらに他の構成例を示しており、ガス拡散層16とセパレータ18の間にベアリングと摩擦低減層26の両方を形成してある。すなわち、セパレータ18には溝22が形成され、ここにボール24が収容されているとともに、摩擦低減層26が形成されている。これによって、より確実なガス拡散層16とセパレータ18間の摩擦低減が図れ、また両層間の電気抵抗をより小さなものにすることが可能となる。
【0026】
さらに、ガス拡散層16とセパレータ18の界面の摩擦低減のためには、一方の表面に離散的な凸部(表面は丸い方がよい)を設け、両層の接触面積を減少させて、摩擦を低減することもできる。
【0027】
このような構成によって、図6に示すように、燃料電池スタック100に対し、大きな加速度が掛かり、セル同士がずれた場合において、図7に示すようにガス拡散層16に亀裂が入り、破損したりすることを防止することができる。
【0028】
このように、本実施形態によれば、燃料電池スタックに大きな力が掛かったときに、ガス拡散層と、セパレータの界面において、すべりが発生するため、ガス拡散層が破壊することを防止することができる。また、すべりが発生するのは、ガス拡散層と、セパレータの界面であり、電解質・電極・ガス拡散層接合体自体はこていされたままで、内部にずれなどを発生せずに保持される。このため、電気抵抗が増大することを防止できる。
【符号の説明】
【0029】
12 固体電解質膜、14 電極、16 ガス拡散層、18 セパレータ、20 シール材、22 溝、24 ボール、26 摩擦低減層、100 燃料電池スタック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質膜を一対の電極で挟持すると共に、この一対の電極の外側にそれぞれガス拡散層を配置した電解質膜・電極・ガス拡散層構造体を、セパレータを介して複数積層して形成された燃料電池スタックであって、
前記ガス拡散層と、前記セパレータの間に両者間の摩擦を低減する摩擦低減手段を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックであって、
前記摩擦低減手段は、両者の間にボールを介在させるベアリング構造を有することを特徴とする燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−164425(P2012−164425A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21581(P2011−21581)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】