説明

燃料電池用担持触媒及び燃料電池

【課題】 高い活性を示す燃料電池用担持触媒及び燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明に係る燃料電池用担持触媒は、直径が10nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15cm/gの範囲内にあるカーボン担体と、前記カーボン担体に担持された触媒粒子とを備えている。また、この燃料電池用担持触媒は、比表面積当りの酸性官能基量が0.4μmol/m以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用担持触媒及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、発電効率が高く、小型化が容易であり、且つ環境への悪影響が少ない電力源として広く注目されている。特に固体高分子型燃料電池は、室温作動が可能であり、出力密度も高いため、自動車用途等に適した形態として、活発に研究されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、アノードにおける水素の酸化反応とカソードにおける酸素の還元反応との組み合わせにより起電力を発生する。したがって、固体高分子型燃料電池の性能を向上させるためには、上記の各反応を効率的に行う必要がある。
【0004】
この目的で、固体高分子型燃料電池では、白金等の触媒金属を含んだアノード及び/又はカソード触媒層を使用することで、上記反応の効率を高め、性能を向上させている。
【0005】
例えば、特許文献1には、白金又は白金合金を担持したカーボン担体を含んだアノード及び/又はカソード触媒層を備えた固体高分子型燃料電池が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、固体高分子型燃料電池の担体として、直径2.5〜7.0nmの細孔が占める容積が全細孔容積の30.1%以上であり且つ比表面積が800m/g以上である炭素微粉末を用いる技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、近年の燃料電池技術の発展に伴って、燃料電池用担持触媒には、更なる高活性化が求められている。
【特許文献1】特開2002−015745号公報
【特許文献2】特許第3407320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い活性を示す燃料電池用担持触媒及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1側面によると、直径が10nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15cm/gの範囲内にあるカーボン担体と、前記カーボン担体に担持された触媒粒子とを具備し、比表面積当りの酸性官能基量が0.4μmol/m以上である燃料電池用担持触媒が提供される。
【0010】
本発明の第2側面によると、アノード触媒層とカソード触媒層とを具備し、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層の少なくとも一方は、第1側面に係る燃料電池用担持触媒とプロトン伝導性固体電解質とを含有している燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、高い活性を示す燃料電池用担持触媒及び燃料電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一態様に係る燃料電池を概略的に示す断面図。
【図2A】従来の燃料電池用担持触媒におけるカーボン担体と触媒粒子とプロトン伝導性固体電解質との関係の一例を概略的に示す図。
【図2B】本発明の一態様に係る燃料電池用担持触媒におけるカーボン担体と触媒粒子とプロトン伝導性固体電解質との関係の一例を概略的に示す図。
【図3】カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積と燃料電池におけるプロトン伝導過電圧との関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一態様に係る燃料電池を概略的に示す断面図である。図1には、一例として、固体高分子型燃料電池用の膜/電極接合体を示している。
【0015】
この膜/電極接合体1は、アノード触媒層2及びカソード触媒層3と、それらの間に介在すると共にプロトン伝導性固体電解質を含んだプロトン伝導性固体電解質層4とを備えている。
【0016】
アノード触媒層2は、担持触媒5aとプロトン伝導性固体電解質6とを含んでいる。カソード触媒層3は、担持触媒5bとプロトン伝導性固体電解質6とを含んでいる。また、プロトン伝導性固体電解質層4は、プロトン伝導性固体電解質6を含んでいる。
【0017】
膜/電極接合体1は、アノード触媒層2側から水素ガスを供給すると共にカソード触媒層3側に酸素又は空気を供給すると、アノード触媒層2とカソード触媒層3との間に起電力を生じる。より詳細には、アノード触媒層2では、触媒粒子の触媒作用によって水素分子が酸化され、プロトンと電子とを生じる。ここで生じた電子は、カーボン担体等の導電性担体を導体路としてアノード触媒層2から外部回路へと取り出され、プロトンはアノード触媒層2からプロトン伝導性固体電解質層4を経由してカソード触媒層3へと移動する。カソード触媒層3に到達したプロトンは、触媒粒子の触媒作用によって、外部回路からカーボン担体等の導電性担体を導体路として供給される電子及び酸素分子と反応して水を生じる。この膜/電極接合体1は、このような現象を利用して、水素ガスと酸素ガスとから電気エネルギーを生成する。
【0018】
担持触媒5a及び担持触媒5bの各々は、導電性担体と、これに担持された触媒粒子とを含んでいる。
【0019】
担持触媒5a及び担持触媒5bの少なくとも一方では、導電性担体として、直径が10nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15cm/gの範囲内にあるカーボン担体を用いる。こうすると、後で詳しく説明するように、高い活性を達成することができる。このカーボン担体の材料としては、例えば、黒鉛、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ又はこれらの組み合わせを使用する。
【0020】
カーボン担体における「直径が10nm以下の細孔の容積」は、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を用いて得られる細孔分布曲線から算出する。
【0021】
この細孔分布曲線は、具体的には、以下の方法により得ることができる。まず、77.4K(窒素の沸点)の窒素ガス中で、窒素ガスの圧力P(mmHg)を徐々に高めながら、各圧力Pで、炭素材料の窒素ガス吸着量(cc/g)を測定する。次いで、圧力P(mmHg)を窒素ガスの飽和蒸気圧P0(mmHg)で除した値を相対圧力P/P0として、各相対圧力P/P0に対する窒素ガス吸着量をプロットすることにより吸着等温線を得る。その後、この吸着等温線から、BJH法に従って細孔分布を求める。このようにして、細孔分布曲線が得られる。なお、BJH法は、例えば、「J.Am.Chem.Soc.(1951),73,373−380」などに記載されている。
【0022】
なお、担持触媒5a及び担持触媒5bの一方のみに上記のカーボン担体を用いる場合、これらの他方に用いる導電性担体には、特に制限はない。例えば、この導電性担体として、上記の要件を満たしていないカーボン担体を用いてもよい。
【0023】
触媒粒子は、例えば貴金属を含んでおり、典型的には白金又は白金合金を含んでいる。この白金合金としては、例えば、白金と、鉄、マンガン、コバルト、アルミニウム、銅、クロム、パラジウム、タングステン、イリジウム、金、ロジウム又はルテニウムとの合金を用いる。
【0024】
触媒粒子の平均粒子径は、例えば、3.0乃至7.0nmの範囲内とする。こうすると、後で説明するように、特に高い活性を達成することができる。なお、この平均粒子径は、X線回折(XRD)スペクトルのピークの半値幅から求めた値を意味している。
【0025】
上記のカーボン担体を含んだ担持触媒5a及び/又は担持触媒5bは、比表面積当りの酸性官能基量が0.4μmol/m以上である。こうすると、後で詳しく説明するように、高い活性を達成することができる。
【0026】
担持触媒における「比表面積当りの酸性官能基量」は、以下のようにして求める。まず、1.0gの担持触媒を、100mLの0.1N水酸化ナトリウム水溶液に懸濁させる。その後、この懸濁液を濾過する。そして、得られた濾液を、0.1N塩酸水溶液を用いて逆滴定する。このようにして、単位質量当りの酸性官能基量(mol/g)を求める。次いで、得られた値を、BET法により求めた単位質量当りの比表面積で除する。これにより、「比表面積当りの酸性官能基量(mol/m)」を得る。
【0027】
図1に示す膜/電極接合体1において、アノード触媒層2、カソード触媒層3及びプロトン伝導性固体電解質層4中のプロトン伝導性固体電解質6は、例えば、水を含んでいる。
【0028】
プロトン伝導性固体電解質6としては、例えば、アイオノマーを用いる。このアイオノマーとしては、典型的には、−SO3- 基を有するものを用いる。このようなアイオノマーとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸アイオノマーが挙げられる。
【0029】
なお、図1に示す膜/電極接合体1では、アノード触媒層2とカソード触媒層3とプロトン伝導性固体電解質層4とで同種のプロトン伝導性固体電解質6を使用してもよく、或いは、互いに異なる種類のプロトン伝導性固体電解質6を使用してもよい。
【0030】
上述した通り、担持触媒5a及び担持触媒5bの少なくとも一方は、直径が10nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15cm/gの範囲内にあるカーボン担体と、このカーボン担体に担持された触媒粒子とを備えていると共に、比表面積当りの酸性官能基量が0.4μmol/m以上である。本発明者らは、このような構成を採用すると、高い活性を達成できることを見出している。
【0031】
従来、触媒層における酸素の拡散性を向上させること及び触媒粒子の粒子径を小さくすること等を目的として、細孔容量が大きいカーボン担体が使用されてきた。しかしながら、本発明者らは、このような構成を採用した場合、必ずしも高い活性を得ることができないことを見出した。その理由を鋭意検討した結果、本発明者らは、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積が、触媒の活性に本質的な影響を与えることを見出した。そして、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積を0.03乃至0.15cm/gの範囲内とすることにより、高い活性を達成できることを見出した。以下、図2A及び2Bを参照しながら、その推定メカニズムについて説明する。
【0032】
図2Aは、従来の燃料電池用担持触媒におけるカーボン担体と触媒粒子とプロトン伝導性固体電解質との関係の一例を概略的に示す図である。図2Bは、本発明の一態様に係る燃料電池用担持触媒におけるカーボン担体と触媒粒子とプロトン伝導性固体電解質との関係の一例を概略的に示す図である。図2A及び図2Bには、カーボン担体を構成しているカーボン粒子10の表面近傍における触媒粒子20とプロトン伝導性固体電解質30との位置関係を、概念的に描いている。なお、図2A及び図2Bには、各カーボン粒子10の一部のみを描いている。
【0033】
図2Aに示す例では、上述した理由により、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積が大きい。この場合、触媒粒子20の多くが、カーボン粒子10において、直径が10nm以下の細孔の内表面に担持されている。しかしながら、プロトン伝導性固体電解質30は、直径が10nm以下の細孔中には侵入できないか、又は、侵入することが困難である。したがって、直径が10nm以下の細孔中では、触媒粒子20とプロトン伝導性固体電解質30との接触が生じないか、又は、この接触が生じ難い。即ち、触媒粒子20の多くは、電極反応及びそれに起因したプロトン伝導に寄与することができない。それゆえ、この場合、高い活性を達成することができない。
【0034】
これに対し、図2Bに示す例では、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積を、0.15cm/g以下に抑えている。よって、この場合、カーボン粒子10上の触媒粒子20の多くが、プロトン伝導性固体電解質30と接触できる。それゆえ、この場合、高い活性を達成できる。
【0035】
なお、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、上述した通り、0.03cm/g以上とする。この細孔容積が過度に小さいと、担体上で平滑な部分が多くなる。そのため、担体上に触媒粒子を担持させる製造工程において、触媒粒子のシンタリングが生じ易くなる。その結果、高い活性を達成することが困難となる。
【0036】
カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、好ましくは0.03乃至0.15cm/gの範囲内とし、より好ましくは0.05乃至0.10cm/gの範囲内とする。こうすると、特に高い活性を達成できる。
【0037】
また、本発明者らは、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積を上記範囲内にすると共に、触媒の比表面積当りの酸性官能基量を高くすると、より高い活性を達成できることを見出した。より具体的には、比表面積当りの酸性官能基量を0.4μmol/m以上とする必要があることを見出した。その理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。即ち、触媒に酸性官能基を付与することにより、触媒表面が親水化する。その結果、触媒の保水性が向上し、これに起因して、プロトン伝導性が向上する。
【0038】
なお、触媒の比表面積当りの酸性官能基量の上限値には特に制限はないが、この酸性官能基量は、例えば、2.5μmol/m以下とする。
【0039】
触媒の比表面積当りの酸性官能基量は、0.4乃至0.8μmol/mの範囲内とすると、特に高い活性を達成できる。
【0040】
触媒粒子の平均粒子径は、上述した通り、例えば、3.0乃至7.0nmの範囲内とする。この平均粒子径が過度に大きいと、触媒粒子の比表面積が小さくなり、この結果、触媒粒子上における触媒反応の効率が低下し、プロトン伝導性が低下し易くなる。一方、この平均粒子径が過度に小さいと、触媒の耐久性が低くなり易くなる。
【0041】
このため、触媒粒子の平均粒子径は、3.0乃至7.0nmの範囲内とし、更には4.0乃至6.0nmの範囲内とすることが好ましい。こうすると、特に高い活性を達成できる。
【0042】
10nm以下の細孔容積の全細孔容積に対する割合は、30%乃至50%の範囲内にあることが好ましい。カーボン担体の一次粒子径は、15nm乃至50nmの範囲内にあることが好ましい。こうすると、特に高い活性を達成できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0044】
まず、以下のようにして、燃料電池用担持触媒を製造した。下記表1に、各例に係る触媒の物性値を纏める。
【表1】

【0045】
<例1:触媒C1の製造>
カーボン担体として、電気化学工業製の「電化ブラック」(粒状品)を準備した。このカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.05cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S1」と呼ぶ。
【0046】
まず、担体S1を、純水中に分散させた。これを、純水の沸点において、24時間保持した。その後、分散液を濾過した。このようにして、担体S1を洗浄した。
【0047】
次に、洗浄後の担体S1を、乾燥重量で0.5g採取し、これを0.5Lの純水に分散させた。次いで、0.5gの白金を含んだジニトロジアミン白金硝酸溶液を滴下し、担体S1と白金とを十分になじませた。これに、0.01Nのアンモニアを添加して、pHを約9とした。その後、還元剤として、0.5gの水素化ホウ素ナトリウムを純水に溶解させたものを滴下した。
【0048】
以上のようにして得られた分散液を濾過し、濾過ケークを洗浄した。その後、洗浄後の濾過ケークを、80℃で24時間の送風乾燥処理に供した。このようにして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C1」と呼ぶ。
【0049】
<例2:触媒C2の製造>
カーボン担体として、キャボット製の「Vulcan XC72R」を準備した。このカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.12cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S2」と呼ぶ。
【0050】
担体S1の代わりに担体S2を用いたことを除いては、例1において説明したのと同様にして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C2」と呼ぶ。
【0051】
<例3:触媒C3の製造>
担体S2を、不活性雰囲気下、1800℃で2時間に亘って熱処理した。得られたカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.08cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S3」と呼ぶ。
【0052】
担体S1の代わりに担体S3を用いたことを除いては、例1において説明したのと同様にして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C3」と呼ぶ。
【0053】
<例4:触媒C4の製造>
触媒C2に対して、以下の処理を行った。即ち、まず、95℃に加熱した0.5N硝酸で1時間に亘って煮沸した。次に、処理後の分散液を濾過し、濾過ケークを洗浄した。その後、洗浄後の濾過ケークを、80℃で24時間の送風乾燥処理に供した。このようにして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C4」と呼ぶ。
【0054】
<例5:触媒C5の製造>
触媒C2に対して、以下の処理を行った。即ち、まず、95℃に加熱した2N硝酸で24時間に亘って煮沸した。次に、処理後の分散液を濾過し、濾過ケークを洗浄した。その後、洗浄後の濾過ケークを、80℃で24時間の送風乾燥処理に供した。このようにして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C5」と呼ぶ。
【0055】
<例6:触媒C6の製造(比較例)>
ケッチェンブラックインターナショナル製の「Ketjen EC」を、不活性雰囲気下、2500℃で2時間に亘って熱処理した。得られたカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.17cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S4」と呼ぶ。
【0056】
担体S1の代わりに担体S4を用いたことを除いては、例1において説明したのと同様にして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C6」と呼ぶ。
【0057】
<例7:触媒C7の製造(比較例)>
ケッチェンブラックインターナショナル製の「Ketjen EC」を、不活性雰囲気下、1800℃で2時間に亘って熱処理した。得られたカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.30cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S5」と呼ぶ。
【0058】
担体S1の代わりに担体S5を用いたことを除いては、例1において説明したのと同様にして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C7」と呼ぶ。
【0059】
<例8:触媒C8の製造(比較例)>
ケッチェンブラックインターナショナル製の「Ketjen EC」を、不活性雰囲気下、1500℃で2時間に亘って熱処理した。得られたカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.60cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S6」と呼ぶ。
【0060】
担体S1の代わりに担体S6を用いたことを除いては、例1において説明したのと同様にして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C8」と呼ぶ。
【0061】
<例9:触媒C9の製造(比較例)>
ケッチェンブラックインターナショナル製の「Ketjen EC」を、不活性雰囲気下、3000℃で2時間に亘って熱処理した。得られたカーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積は、0.02cm/gであった。以下、このカーボン担体を、「担体S7」と呼ぶ。
【0062】
担体S1の代わりに担体S7を用いたことを除いては、例1において説明したのと同様にして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C9」と呼ぶ。
【0063】
<例10:触媒C10の製造(比較例)>
触媒C2に対して、以下の処理を行った。即ち、まず、90℃に加熱した0.5N硝酸で1時間に亘って煮沸した。次に、処理後の分散液を濾過し、濾過ケークを洗浄した。その後、洗浄後の濾過ケークを、80℃で24時間の送風乾燥処理に供した。続いて、この粉末を、アルゴン雰囲気中、500℃で1時間に亘って処理した。このようにして、燃料電池用担持触媒を得た。以下、この触媒を「触媒C10」と呼ぶ。
【0064】
<触媒粒子の平均粒子径の測定>
触媒C1乃至C10の各々について、触媒粒子の平均粒子径を測定した。この測定は、リガク製のX線回折装置(RINT−2500)を用いて、以下のようにして行った。
【0065】
まず、触媒C1の粉末に対して、X線を照射し、回折パターンを測定した。この際、ターゲットはCuとし、出力は40kV及び40mAとした。次いで、Ptの(111)面に対応した2θ=39゜付近のピークパターンに、正規分布をフィッティングした。そして、この正規分布の半値幅を求めた。この半値幅から、公知の手法により、白金を含んだ触媒粒子の平均粒子径を求めた。以上の操作を、触媒C2乃至C10の各々についても行った。これらの結果を、上記表1に示す。
【0066】
<触媒の酸性官能基量の測定>
触媒C2、C4、C5及びC10の各々について、単位比表面積当たりの酸性官能基量を、以下のようにして測定した。
【0067】
まず、1.0gの触媒C2を、100mLの0.1N水酸化ナトリウム水溶液に懸濁させた。その後、この懸濁液を濾過した。そして、得られた濾液を、0.1N塩酸水溶液を用いて逆滴定した。このようにして、単位質量当りの酸性官能基量(mol/g)を求めた。次いで、BET法により、触媒C2の単位質量当りの比表面積を求めた。そして、単位質量当りの酸性官能基量を、単位質量当りの比表面積で除した。
【0068】
以上のようにして、触媒C2の単位比表面積当たりの酸性官能基量を求めた。以上の操作を、触媒C4、C5及びC10の各々についても行った。これらの結果を、上記表1に示す。
【0069】
<単セルの作製>
触媒C1乃至C10の各々を用いて、以下の方法により、固体高分子形燃料電池用の単セルを作製した。
【0070】
まず、触媒C1とアイオノマーとを、質量比で1:0.8となるように、有機溶媒に分散させた。得られた分散液をテフロン(登録商標)シート上に塗布して、アノード及びカソード触媒層を形成した。これら触媒層の各々において、電極の単位面積当たりの触媒粒子の量は、0.1mg/cmであった。
【0071】
次いで、これら電極を、高分子電解質膜を介してホットプレスにより貼り合わせ、その両側に拡散層をさらに設置して、単セルを作製した。以下、これを「単セルSC1」と呼ぶ。
【0072】
同様に、触媒C2乃至C10の各々を用いて、単セルを作製した。以下、これらを、それぞれ、「単セルSC2」乃至「単セルSC10」と呼ぶ。
【0073】
<耐久後電圧低下の測定>
単セルSC1乃至SC3及びSC6乃至SC9の各々について、以下のようにして、耐久試験による電圧低下を測定した。
【0074】
まず、単セルSC1のカソード電極に、60℃に加熱したバブラを通過させた加湿エアーを1L/minで供給し、且つ、アノード電極に、60℃に加熱したバブラを通過させた加湿水素を1L/minで供給する条件において、1.2A/cmでの電圧値を測定した。
【0075】
次に、電流値を、0A/cmと1.2A/cmとの間で、20000サイクルに亘って繰り返し変動させた。その後、1.2A/cmでの電圧値を測定し、変動前後での電圧値の差を求めた。
【0076】
以下のようにして、耐久試験による電圧低下を測定した。以上の操作を、単セルSC2、SC3、及びSC6乃至SC9の各々についても行った。これらの結果を、上記表1に示す。
【0077】
<プロトン伝導過電圧の測定>
単セルSC1乃至SC10の各々について、プロトン伝導過電圧を求めた。このプロトン伝導過電圧は、全過電圧から、活性化過電圧とIR過電圧とを差し引いた値として求めた。
【0078】
全過電圧は、以下のようにして求めた。即ち、まず、1.5A/cmにおける電圧値を求めた。そして、この電圧値と1.2Vとの差を求めた。このようにして、全過電圧を得た。
【0079】
活性化過電圧は、以下のようにして求めた。即ち、まず、0.1A/cmにおける電圧値を求めた。次に、この電圧値から、0.082mV(70mV/decadeで算出)を差し引いた。そして、得られた値と1.2Vとの差を求めた。このようにして、活性化過電圧を得た。
【0080】
IR過電圧は、以下のようにして求めた。即ち、IRドロップにより算出した抵抗を基に、1.5A/cmでの過電圧を算出した。このようにして、IR過電圧を得た。
【0081】
以上のようにして得られた全過電圧、活性化過電圧、及びIR過電圧を基に、上述した方法により、プロトン伝導過電圧を求めた。その結果を、上記表1及び下記図3に示す。
【0082】
図3は、カーボン担体における直径が10nm以下の細孔の容積と燃料電池におけるプロトン伝導過電圧との関係の一例を示すグラフである。図3には、例1乃至例3及び例6乃至例9に対応したデータを描いている。
【0083】
表1及び図3から分かるように、直径が10nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15cm/gの範囲内にあるカーボン担体を用いると共に、触媒の比表面積当りの酸性官能基量を0.4μmol/m以上とすることにより、プロトン伝導過電圧を低く抑えることができた。
【符号の説明】
【0084】
1…膜/電極接合体、2…アノード触媒層、3…カソード触媒層、4…プロトン伝導性固体電解質層、5a…担持触媒、5b…担持触媒、6…プロトン伝導性固体電解質、10…カーボン粒子、20…触媒粒子、30…プロトン伝導性固体電解質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が10nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15cm/gの範囲内にあるカーボン担体と、
前記カーボン担体に担持された触媒粒子と
を具備し、比表面積当りの酸性官能基量が0.4μmol/m以上である燃料電池用担持触媒。
【請求項2】
前記触媒粒子の平均粒子径は3.0乃至7.0nmの範囲内にある請求項1に記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項3】
前記触媒粒子は白金又は白金合金を含んでいる請求項1又は2に記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項4】
アノード触媒層とカソード触媒層とを具備し、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層の少なくとも一方は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用担持触媒とプロトン伝導性固体電解質とを含有している燃料電池。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−129059(P2012−129059A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279189(P2010−279189)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】