説明

燃料電池用拡散層

【課題】氷点下から高温までの広範囲温度領域で運転可能な燃料電池用拡散層を得ること。
【解決手段】燃料電池用拡散層を、22≧KΔP>14[m・kPa]…(1)、および、0.28≦D/Dd<0.34[−]…(2)で表される条件を満たすように構成する。但し、Kは多孔体である拡散層の透過抵抗を表す透過係数、ΔPは拡散層の細孔中の液水にかかる力の毛管差圧、Dは、拡散層内における水蒸気の拡散度合いを示す拡散係数、Ddは、水蒸気の空気中における拡散係数を示す。これにより、高温で水蒸気の拡散を抑制して電解質膜の乾燥を防ぎつつ、低温で排水を促進させて残水を低減させ、高温運転性能と氷点下起動性の両立を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用拡散層に関し、特に、固体高分子形燃料電池に用いられる燃料電池用拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子形燃料電池(PEFC)が知られている。固体高分子形燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(80℃〜100℃程度)、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体(MEA)を主要な構成要素とし、それを燃料ガス流路および空気ガス流路を備えたセパレータで挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池を形成している。
【0004】
膜電極接合体は、電解質膜の両面を反応電極で挟持して構成された狭義の膜−電極接合体の両面を、拡散層で狭持することによって構成されている。拡散層は、燃料ガス又は酸化剤ガスや反応により生成した水等を拡散・透過させ、反応電極で発生した電子を透過できる構成を有する。
【0005】
固体高分子形燃料電池では、発電の過程で反応によって水が生成される。生成される水は主にカソード側に出てくるが、一部は電解質膜を透過してアノード側に出る。
【0006】
電解質膜には、フッ素系の高分子材料が最も一般的に使用されており、例えば電解質樹脂(イオン交換樹脂)であるパーフルオロスルホン酸ポリマーの薄膜(米国、デュポン社、ナフィオン膜)が用いられている。
【0007】
この電解質膜は、他の高分子電解質と比較してプロトン伝導性が高いが、電解質膜が乾燥すると急激にプロトン伝導性が低下することが知られている。また、水が多量に存在するとフラッディングによる性能低下を起こすことが知られている。
【0008】
このため固体高分子形燃料電池では、常に電解質膜を適当な含水状態に制御することが求められる。同様に反応電極も一定範囲の水分含有量を保持することが好ましい。この水分量は電池反応により生成する水を用いることが合理的である。
【0009】
通常、電解質膜等の水分量は、拡散層が制御している。拡散層は、例えばガス透過性を付与するためのフッ素樹脂からなる多孔質高分子と導電性及び水透過性を付与するためのカーボン粉末との混合物からなる膜を、機械的性質を向上するための基材上に形成することで製造される。
【0010】
特許文献1には、固体高分子形燃料電池のガス拡散層におけるガスの通気度と水の通水度をほぼ同じにして、フラッディングを抑制する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−98066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の拡散層は、一定条件下におけるガス透過性及び水透過性はある程度達成できるものの、燃料電池の運転条件によっては特性が充分ではない場合があった。
【0013】
たとえば、燃料電池を高温運転する場合には、図13に示すように、高温になると発電性能が急激に低下することがある。これは、高温になり電解質膜が乾燥することでプロトン伝導性が低下することによる。したがって、対策として、反応によって触媒層で発生する水蒸気の拡散を拡散層で抑制して膜の乾燥を防止する構造にする必要がある。
【0014】
また、低温状態から発電を開始すると、図14に示すように、ある時間の経過後に急激に発電性能が低下し、最終的に発電が停止する場合がある。これは、低温状態では残水が過冷却水(0℃以下の液体)として存在し、氷結が生じると一気に伝播して酸素拡散が阻害されることによる。したがって、対策として、排水を促進させて残水を低減する構造にする必要がある。
【0015】
水蒸気の拡散を抑制する構造と、排水性を促進させる構造は、背反する関係にあり、拡散層の構造設計が非常に困難であるという問題を有する。
【0016】
この発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、氷点下から高温までの広範囲温度領域で運転可能とする燃料電池用拡散層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明の燃料電池用拡散層は、次の式(1)、および式(2)で表される条件を満たすように構成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0018】
22≧KΔP>14[m・kPa]…(1)
0.28≦D/Dd<0.34[−]…(2)
【0019】
ただし、
Kは多孔体である拡散層の透過抵抗を表す透過係数、
ΔPは拡散層の細孔中の液水にかかる力(毛管力)の毛管差圧、
Dは、拡散層内における水蒸気の拡散度合いを示す拡散係数、
Ddは、水蒸気の空気中における拡散係数。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料電池用拡散層によれば、高温性能と氷点下起動性の両立が可能であり、氷点下から高温までの広温度域で燃料電池を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】シミュレーションによる拡散層の設計方法を示すフローチャート。
【図2】実験計画表の一例を示す図。
【図3】拡散性指標の算出結果を示すグラフ。
【図4】排水性指標の算出結果を示すグラフ。
【図5】統計的手法の一例を示す図。
【図6】統計的手法の一例を示す図。
【図7】拡散層の構造指針を提示する方法を説明する図。
【図8】拡散層の性能を予測する方法を説明する図。
【図9】シミュレーションにより設計した拡散層の値をグラフで示す図
【図10】設計値に基づいて拡散層を試作して放電評価を実施した結果を示す図。
【図11】高温性能の評価結果をグラフで示す図。
【図12】氷点下起動性の評価結果をグラフで示す図。
【図13】高温運転における課題を説明する図。
【図14】低温起動における課題を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本実施の形態における燃料電池用拡散層について説明する。
【0023】
本実施の形態における燃料電池用拡散層が適用される燃料電池は、固体高分子形燃料電池(PEFC)であり、単位セルを複数重ね合わせたスタックを形成しているものを規定する。単位セルは、電解質膜の両側を反応電極で狭持した後にさらに拡散層で狭持したMEAの両側をセパレータで狭持した構造をもつ。電解質膜は、イオン(プロトン)透過性に優れ且つ電流を流さないフッ素系の高分子材料、例えば電解質樹脂(イオン交換樹脂)であるパーフルオロスルホン酸ポリマーの薄膜(米国、デュポン社、ナフィオン膜)が用いられる。反応電極は、例えばカーボン粉末上に白金を分散させた触媒を用いることができ、この触媒をそのままもしくは結着剤等と混合して電解質膜表面で製膜することで形成される。セパレータには、反応ガスを供給するための流路が形成されている。拡散層は、例えば一般的なカーボン粉末と撥水性高分子粉末との混合物を用いることができる。
【0024】
燃料電池は、氷点下から高温までの広温度域で運転できることが望ましく、氷点下起動性と、高温性能の両方が要求されている。燃料電池は、氷点下では拡散層内に残留する残水が凍結して発電が停止するおそれがある。したがって、燃料電池の氷点下起動性を向上させるには、拡散層の排水性の向上により残水を低減させる必要がある。したがって、燃料電池の氷点下起動性は、拡散層の排水性指標を代替指標として用いることで評価できる。
【0025】
拡散層の排水性に係わる特性としては、「1)拡散層である多孔体の通過抵抗を表す透過係数K」、「2)拡散層の細孔中の液水にかかる力の毛管差圧ΔP」、の2つがある。したがって、この2つの指標を掛け合わせた「K・ΔP」を排水性指標(氷点下起動性指標)とし、この指標を向上させることを目的として拡散層の設計がなされる。
【0026】
細孔中の液水にかかる力である毛管力Pcは、下記の式(3)によって定義される。
【0027】
Pc=(2σcosθ)/r …(3)
【0028】
上記した式(3)で、Pcは毛管力、θは接触角、σは表面張力、rは細孔径を示す。上記の式(3)に示すように、毛管力Pcは、細孔が小さい方が大きな力を生じる。毛管差圧ΔPは、細孔径の違いによって生じる毛管圧の差をいう。
【0029】
毛管力の測定は一定圧をかけたときの流水収入量によって実験的に測定可能であるが、毛管差圧は実験的に得ることができない。したがって、本実施の形態では、毛管差圧ΔPをシミュレーションによって求めており、具体的には、液水の表面にかかる圧力を算出することで求めている。
【0030】
また、燃料電池は、高温下では電解質膜で反応により生じた水蒸気が拡散して電解質膜が乾燥するおそれがある。したがって、燃料電池の高温性能を向上させるには、拡散層の水蒸気拡散性を抑制して電解質膜を乾燥させないようにする必要がある。したがって、燃料電池の高温運転性は、拡散層の水蒸気拡散性指標を代替指標として用いることで評価できる。
【0031】
水蒸気の拡散は、次の式(4)によって支配される。
【0032】

(式(4)のφは水蒸気の濃度、xは拡散層の厚み方向の位置、Dは水蒸気の拡散度合いを表す拡散係数Dを示す。)
【0033】
そこで、水蒸気の拡散係数Dを目的変数として評価し、その値を低下させることを目的として拡散層の設計がなされる。
【0034】
図1は、シミュレーションによる拡散層の設計方法を示すフローチャートである。
【0035】
ここでは、拡散層の高温性能と氷点下起動性の両方を向上させるために、ミクロ構造を入力として、拡散性と排水性をシミュレーションにより評価して、拡散層構造因子の寄与を定量化し、性能を向上させるロバストな拡散層構造の値を出力する処理が行われる。各処理は、コンピュータにより専用プログラムを実行することで行われる。
【0036】
まず、STEP1(S11、S21)では、高温性能と氷点下起動性をそれぞれ評価する各評価指標と、これらの各評価指標に寄与する拡散層の構造因子の選定が行われる。評価指標は、拡散性指標D/Ddと、排水性指標KΔPの2つが選定される。構造因子は、これまでの知見や経験式から選定され、例えば、拡散層が基材層とMPL(マイクロポーラスレイヤ)を有する場合に、構造因子A1:MPL気孔率、構造因子A2:MPL厚み、構造因子A3:MPL細孔径、構造因子A4:基材気孔率の4つが選定される。
【0037】
評価指標に対する構造因子の寄与とは、ある構造因子の値(例えば気孔率等)を変更したときに、拡散性指標D/Ddや排水性指標KΔP等の評価指標に対する影響度合いを意味する。例えば、構造因子A1、A2をそれぞれ2倍に変更した場合に、拡散性指標D/Ddがそれぞれ4倍、2倍と変化するときは、構造因子A1の寄与が大きいといえる。したがって、構造因子A1の値を重点的に改良することで大きな効果を得ることができる。
【0038】
次に、STEP2(S12、22)では、実験計画表の作成が行われる。実験計画表は、評価時の解析負荷を低減し、評価指標に対する構造因子の寄与明確化のスピードアップをするために利用される。
【0039】
実験計画表によって、実験を行う順序、各構造因子の値等が設定される。本実施の形態では、例えば図2に示すように、実験順序と、MPL気孔率、MPL細孔径、MPL厚さ、基材気孔率の4つの構造因子A1〜A4が設定される。
【0040】
実験計画表は、例えばコンピュータによって自動的に作成され、あるいは、作業者等によって予め入力されたデータを読み込むことによって作成される。なお、実験計画表を作成する実験計画法については、公知の技術であるのでその詳細な説明は省略する。
【0041】
そして、STEP3(S13、S23)では、実験計画表に従い拡散層の構造モデルを作成し、流体解析手法を用いてシミュレーションを実施し、各評価指標を算出する処理が行われる。ここでは、拡散層の構造モデルとして、拡散性指標を算出する拡散構造モデルと、拡散層中の流水構造モデルと、流水分布モデルが作成される。
【0042】
図3は、拡散性指標の算出結果を示すグラフである。拡散性指標の算出では、拡散構造モデルが用いられる。拡散構造モデルは、例えば孔径が約100ミクロンの基材層と、孔径が約10ミクロン以下のMPLとを有する二層構造とされる。そして、実験計画表に従い、例えば図3に示すように、16通りのシミュレーションを行い、16個の拡散係数Dを算出する。
【0043】
図4は、排水性指標の算出結果を示すグラフである。排水性指標の算出では、拡散層中の流線構造モデルと液水分布構造モデルが用いられ、実験計画表に従いシミュレーションが行われる。例えば16通りのシミュレーションを行い、図4に示すように、16個の排水性指標KΔPを算出する。
【0044】
そして、STEP4(S14、S24)では、シミュレーションの結果に基づいて、統計的手法により構造因子の寄与を明確化し、最適値を算出する処理が行われる。例えば、各構造因子の寄与を明確化するには、図5(a)や図6(a)に示す分散分析が用いられる。具体的には、シミュレーションにより算出した16個の結果から数学的に算出される。また、最適値は、図5(b)や図6(b)に示す応答曲面解析により算出される。応答曲面解析では、拡散係数Dや排水性指標KΔPを構造因子の値で関数近似して解析的に最適値を求める処理が行われる。
【0045】
STEP5(S5)では、STEP4(S14、S24)の統計的手法から、高温性能、氷点下起動性の両者を向上させる構造因子諸元を選定する処理が行われる。ここでは、例えば図7に示すように、各構造因子について、STEP4(S14、S24)の統計的手法の結果を同軸上に表示し、もの作り上の設計制約も加味し、高温性能と氷点下起動性の両方の性能が向上するロバスト構造諸元が出力される。具体的には、拡散係数Dと排水性指標KΔPの目的値が設定され、その目的値に近くなるように各構造因子の諸元を選び調整し最適化する処理が行われる。
【0046】
そして、STEP6(S6)では、STEP5(S5)で出力された拡散層のロバスト構造に基づいて性能を予測する処理が行われる。例えば図8(a)に示すように、拡散性指標D/Ddと排水性指標KΔPを軸にしてマッピングすることで、高温性能と氷点下起動性を評価することができ、また、標準との性能の相対的評価が可能になる。なお、図8(b)は、標準やロバスト等の目的値別に選択された各構造因子の諸元の一例を示す表である。
【0047】
次に、上述の設計手法により設計した拡散層諸元を基に拡散層を試作し、放電評価を実施した結果について説明する。
【0048】
図9は、上述の設計手法により設計した拡散層諸元をグラフで示す図、図10は、図9の拡散層諸元に基づいて拡散層を試作し、放電評価を実施した結果をグラフで示す図である。
【0049】
性能評価は、図10に示すように、高温運転性能については0.5[V]を発電可能な限界温度で評価し、氷点下起動性は、氷点下から起動した場合に生成される液水量の相対値(積算生成水量[%])で評価した。
【0050】
本実施の形態では、拡散性指標D/Ddと排水性指標KΔPが、下記の式(1)、および式(2)で表される条件を満たすことにより、高温性能と氷点下起動性の両立が可能な拡散層を得ることができた。
【0051】
22≧KΔP>14[m・kPa]…(1)
0.28≦D/Dd<0.34[−]…(2)
(ただし、式(1)中のKは多孔体である拡散層を液水が透過する透過抵抗を表す透過係数、ΔPは拡散層の細孔中の液水にかかる力の毛管差圧を示し、式(2)中のDは、拡散層内における水蒸気の拡散度合いを示す拡散係数、Ddは、水蒸気の空気中における拡散係数(固有値)を示す。)
【0052】
拡散層11、12は、図9に示すように、拡散性指標D/Ddと排水性指標KΔPが、上記した式(1)、式(2)で表される条件を満たすように設計されている。拡散層11の設計値は、排水性指標KΔPが14.5[m・kPa]、拡散性指標D/Ddが0.315[−]であり、拡散層12の設計値は、排水性指標KΔPが19.0[m・kPa]、拡散性指標D/Ddが0.335[−]である。
【0053】
拡散層11は、水蒸気拡散性の抑制と排水性の向上とのバランスがよく、ロバストな拡散層構造に設計されている。そして、拡散層11の設計値に基づき試作した拡散層21の放電評価は、図10に示すように、高温性能と氷点下起動性が高性能で両立したロバスト指向の値となっており、図9に示すシミュレーション結果との相関が取れている。
【0054】
拡散層12は、排水性の向上がより高めにされかつ水蒸気拡散性の抑制が低めにされており、低温指向の設計となっている。そして、拡散層12の設計値に基づき試作した拡散層22の放電評価は、図10に示すように、低温指向の値となっており、図9に示すシミュレーション結果との相関が取れている。
【0055】
したがって、排水性指標KΔPが、19≧KΔP≧14.5[m・kPa]の範囲内にあり、拡散性指標D/Ddが、0.315≦D/Dd≦0.335[−]の範囲内にある場合に、高温性能と氷点下起動性の両立が可能な、より好ましい拡散層を得ることができる。
【0056】
一方、拡散層13、14は、拡散性指標D/Ddと排水性指標KΔP、が式(1)、式(2)で表される条件から外れている。拡散層13は、水蒸気拡散性については、拡散性指標D/Ddが0.30[−]であり、式(2)で表される条件を満たしており、高温指向の設計となっているが、排水性については、排水性指標KΔPが8[m・kPa]であり、式(1)で表される条件を満たしていない。
【0057】
そして、拡散層13の設計値に基づき試作した拡散層23の放電評価は、図10に示すように、高温性能は高い値(高温指向の値)を示しているが(+6℃)、氷点下起動性は低く(−15%)、図9に示すシミュレーション結果との相関が取れている。
【0058】
また、拡散層14は、拡散性指標D/Ddが0.345[−]、排水性指標KΔPが14[m・kPa]であり、水蒸気拡散性と排水性のいずれも低く、式(1)、(2)の条件を満たしていない。そして、拡散層14の設計値に基づき試作した拡散層24の放電評価は、図10に示すように、高温性能及び氷点下起動性のいずれも低く、標準の値となっており、図9に示すシミュレーション結果との相関が取れている。
【0059】
図11は、高温性能の評価結果をグラフで示す図、図12は、氷点下起動性の評価結果をグラフで示す図である。
【0060】
図11の高温性能の評価結果に示すように、基準電圧0.50[V]以上を発電可能なセル温度[℃]で比較した場合、標準の拡散層24よりもロバスト指向の拡散層21の方が高温側(+4℃)に延びており、拡散層21の高温性能が改善されていることがわかる。
【0061】
また、図12の氷点下起動性の評価結果に示すように、経過時間[s]に対する積算生成水量[%]で比較した場合、標準の拡散層24よりもロバスト指向の拡散層21の方がより多くの積算生成水量(+5%)となっている。積算生成水量は、拡散層から排水された液水量をみているので、液水量が増加すれば、残水が少なくなっていることを意味する。したがって、標準の拡散層24よりもロバスト指向の拡散層21の方が氷点下起動性が改善されていることがわかる。
【0062】
本発明の燃料電池用拡散層によれば、排水性指標KΔPが22≧KΔP>14[m・kPa]で表される条件を満たし、かつ、拡散性指標D/Ddが0.28≦D/Dd<0.34[−]で表される条件を満たす拡散層構造とすることによって、高温性能と氷点下起動性の両立が可能であり、氷点下から高温までの広温度域で燃料電池を運転することができる。したがって、高温運転時に水蒸気の拡散を抑制して電解質膜の乾燥を防ぎつつ、低温で排水を促進させて残水を低減させ、氷点下起動性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0063】
11〜14 拡散層
K 透過係数
ΔP 毛管差圧
D 拡散係数
KΔP 排水性指標
D/Dd 拡散性指標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用拡散層であって、次の式(1)、および式(2)で表される条件を満たすように構成されていることを特徴とする燃料電池用拡散層。
22≧KΔP>14[m・kPa]…(1)
0.28≦D/Dd<0.34[−]…(2)
ただし、Kは多孔体である拡散層の透過抵抗を表す透過係数、
ΔPは拡散層の細孔中の液水にかかる力の毛管差圧、
Dは、拡散層内における水蒸気の拡散度合いを示す拡散係数、
Ddは、水蒸気の空気中における拡散係数。
【請求項2】
19≧KΔP≧14.5[m・kPa]、および
0.315≦D/Dd≦0.335[−]で表される条件を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用拡散層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−23294(P2011−23294A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169031(P2009−169031)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】