説明

燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法

【課題】加熱装置や加熱エネルギーを必要とすることなく、燃料電池用燃料を含む燃料組成物から燃料電池用燃料を容易に放出させる。
【解決手段】燃料組成物を水と接触させることにより、燃料を水中に放出させる。燃料組成物としては、燃料電池用燃料の分子化合物や、燃料をポリマーに吸収させたものが挙げられる。燃料組成物を充填した容器に水を通水するなどの極めて簡便な方法で、加熱装置や加熱エネルギーを必要とすることなく、燃料組成物から燃料電池用燃料を容易に放出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用燃料を含有する燃料組成物から比較的簡単に燃料電池用燃料を放出させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池は、パーフルオロスルホン酸膜等の固体電解質膜を電解質とし、この膜の両面に燃料極及び酸化剤極を接合して構成され、アノードに水素やメタノール、カソードに酸素を供給して電気化学反応により発電する装置である。各電極で生じる電気化学反応は、アノードでは、メタノールを用いた場合、
CHOH+HO→6H+CO+6e …[1]
であり、また、カソードでは、
3/2O+6H+6e→3HO …[2]
である。この反応を起こすために、両電極は触媒物質が担持された炭素微粒子と固体高分子電解質との混合体より構成されている。
【0003】
このような固体高分子電解質型燃料電池において、燃料としてメタノールを用いた場合、アノードに供給されたメタノールは、電極中の細孔を通過して触媒に達し、触媒によりメタノールが分解されて、上記反応式[1]の反応で電子と水素イオンを生成する。水素イオンはアノード中の電解質及び両電極間の固体電解質膜を通ってカソードに達し、カソードに供給された酸素及び外部回路より流れ込む電子と反応して、上記反応式[2]のように水を生じる。一方、メタノールより放出された電子はアノード中の触媒担体を通って外部回路へ導き出され、外部回路よりカソードに流れ込む。この結果、外部回路ではアノードからカソードへ向かって電子が流れ電力が取り出される。
【0004】
このメタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池は、携帯用小型燃料電池として適用できる可能性が高く、近年、携帯用コンピューターや携帯電話等の次世代二次電池として開発が活発化してきている。
【0005】
しかし、燃料電池の燃料として使用される水素やメタノールは、危険性が高く、取り扱い上の問題が多い。このような燃料を安全に貯蔵する方法として、燃料を分子化合物とする方法(WO2004000857、特願2003−421077)や、ポリマーに吸収させてゲル化させる方法(特開2004−127659号公報)が報告されている。従来、これらの燃料電池用燃料を安定な組成物としたものから、燃料電池用燃料を放出させる方法としては、燃料組成物を加熱して燃料を放出させることが一般的である。
【特許文献1】WO2004000857
【特許文献2】特願2003−421077
【特許文献3】特開2004−127659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、燃料電池用燃料を含む燃料組成物を加熱して燃料を放出させるためには、加熱のための装置が必要となり、また加熱のための大きなエネルギーが必要であるため、工業的に有利な方法とは言えず、燃料電池用燃料を含む燃料組成物から、より簡便に燃料を放出させる方法が求められていた。
【0007】
従って、本発明は、加熱装置や加熱エネルギーを必要とすることなく、燃料電池用燃料を含む燃料組成物から燃料電池用燃料を容易に放出させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、燃料電池用燃料を含む燃料組成物から燃料を放出させる方法であって、該燃料電池用燃料組成物を水と接触させることにより、該燃料を該水中に放出させることを特徴とする。
【0009】
請求項2の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項1において、該燃料電池が、固体高分子型燃料電池であることを特徴とする。
【0010】
請求項3の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項2において、該燃料電池が、ダイレクトメタノール型燃料電池であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該燃料電池が、携帯用小型燃料電池であることを特徴とする。
【0012】
請求項5の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該燃料電池用燃料が、水素、アルコール類、エーテル類、炭化水素類、及びアセタール類よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項6の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、該燃料電池用燃料組成物が、燃料電池用燃料と相手方化合物との分子化合物を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項7の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項6において、該分子化合物が、該燃料電池用燃料とホスト化合物とから形成される包接化合物であることを特徴とする。
【0015】
請求項8の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項7において、該ホスト化合物が多孔質物質に担持されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項7又は8において、該ホスト化合物が有機化合物、無機化合物及び有機・無機複合化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項10の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項7ないし9のいずれか1項において、該ホスト化合物が単分子系、多分子系及び高分子系ホスト化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項11の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、該燃料電池用燃料組成物が、下記高分子化合物(1)の架橋体(A)と燃料電池用燃料とを含むことを特徴とする。
高分子化合物(1):分子内にカルボキシル基及び/又はスルホン酸基を有する構成単位(以下「酸性基含有構成単位(a)」と称す。)を重合又は共重合してなる高分子化合物であって、該酸性基含有構成単位(a)の含有量が20〜100重量%である高分子化合物(2)の、該カルボキシル基及び/又は該スルホン酸基のプロトンの30〜100モル%がオニウムカチオンで置換されてなる高分子化合物
【0019】
請求項12の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項11において、該オニウムカチオンが第4級アンモニウムカチオンであることを特徴とする。
【0020】
請求項13の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項12において、該第4級アンモニウムカチオンが、脂肪族系アンモニウムカチオン、イミダゾリニウムカチオン及びイミダゾリウムカチオンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0021】
請求項14の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法は、請求項11ないし13のいずれか1項において、該高分子化合物(2)に含まれる前記酸性基含有構成単位(a)の含有量が40〜100重量%であり、かつ該高分子化合物(1)は、該高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンの50〜100モル%がオニウムカチオンで置換されてなるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、例えば、燃料組成物を充填した容器に水を通水するなどの極めて簡便な方法で、加熱装置や加熱エネルギーを必要とすることなく、燃料電池用燃料を含む燃料組成物から燃料電池用燃料を容易に放出させることができる。
【0023】
このため、取り扱いが困難な燃料電池用燃料を燃料電池用燃料を含む燃料組成物として安全かつ安定に貯蔵した上で、この燃料組成物から燃料電池用燃料を容易かつ安価に取り出すことができ、工業的に極めて有利である。
【0024】
なお、燃料電池用燃料のうち、メタノールの原液は毒劇物取締法の劇物に相当し、また危険物第4類に相当するなど取り扱いには十分に注意する必要がある上に、高濃度メタノールでは腐食等の問題があることなどの理由から、メタノールを燃料として使用する際は、通常、10〜30重量%程度の水溶液として使用する。本発明では、燃料組成物を水と接触させて、燃料組成物中の燃料を水中に放出させることにより、燃料を適当な濃度の水溶液として燃料電池に供給することが可能であり、この点においても本発明の放出方法は工業的に極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る燃料電池の形態としては、特に限定はされないが、好ましくは固体高分子電解質型燃料電池であり、その中にはダイレクトメタノール型燃料電池なども含まれる。
【0027】
本発明に係る燃料電池用燃料としては、燃料電池の燃料として用いることができるものであれば良く、例えば、水素、アルコール類、エーテル類、炭化水素類、アセタール類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。燃料物質としては、より具体的には、水素、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、プロパン、ブタン等の炭化水素類、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン等のアセタール類などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0028】
本発明に係る燃料電池用燃料組成物の形態としては、[1]このような燃料電池用燃料を分子化合物としたものや、[2]燃料電池用燃料をポリマーに吸収させたものなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
まず、本発明に係る燃料電池用燃料を含む燃料組成物として代表的な上記[1],[2]の燃料組成物について説明する。
[1]燃料電池用燃料と相手方化合物との分子化合物
本発明でいう分子化合物とは、単独で安定に存在することができる化合物の2種類以上の化合物が水素結合やファンデルワールス力などに代表される、共有結合以外の比較的弱い相互作用によって結合した化合物であり、水化物、溶媒化物、付加化合物、包接化合物などが含まれる。このような分子化合物は、分子化合物を形成する相手方化合物と燃料電池用燃料との接触反応により形成することができ、例えば、気体又は液体の燃料電池用燃料を固体状の化合物に変化させ、比較的軽量にかつ安定に燃料電池用燃料を貯蔵することができる。
【0030】
本発明に係る分子化合物としては、例えば、ホスト化合物と燃料電池用燃料との接触反応により燃料電池用燃料を包接した包接化合物が挙げられる。
【0031】
燃料電池用燃料を包接した包接化合物を形成するホスト化合物としては、有機化合物、無機化合物及び有機・無機複合化合物よりなるものが知られており、また、有機化合物においては、単分子系、多分子系、高分子系ホストなどが知られている。
【0032】
単分子系ホスト化合物としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、クリプタンド類、シクロファン類、アザシクロファン類、カリックスアレン類、シクロトリベラトリレン類、スフェランド類、環状オリゴペプチド類などが挙げられる。また多分子系ホスト化合物としては、尿素類、チオ尿素類、デオキシコール酸類、ペルヒドロトリフェニレン類、トリ−o−チモチド類、ビアンスリル類、スピロビフルオレン類、シクロフォスファゼン類、モノアルコール類、ジオール類、アセチレンアルコール類、ヒドロキシベンゾフェノン類、フェノール類、ビスフェノール類、トリスフェノール類、テトラキスフェノール類、ポリフェノール類、ナフトール類、ビスナフトール類、ジフェニルメタノール類、カルボン酸アミド類、チオアミド類、ビキサンテン類、カルボン酸類、イミダゾール類、ヒドロキノン類などが挙げられる。また、高分子系ホスト化合物としては、セルロース類、デンプン類、キチン類、キトサン類、ポリビニルアルコール類、1,1,2,2−テトラキスフェニルエタンをコアとするポリエチレングリコールアーム型ポリマー類、α,α,α’,α’−テトラキスフェニルキシレンをコアとするポリエチレングリコールアーム型ポリマー類などが挙げられる。
【0033】
また、その他に有機リン化合物、有機ケイ素化合物なども挙げられる。
【0034】
無機系ホスト化合物としては、酸化チタン、グラファイト、アルミナ、遷移金属ジカルゴゲナイト、フッ化ランタン、粘土鉱物(モンモリロナイトなど)、銀塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ゼオライト、シリカ、多孔質ガラスなどが挙げられる。
【0035】
更に、有機金属化合物にもホスト化合物としての性質を示すものがあり、例えば有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物、有機ガリウム化合物、有機テルル化合物、有機スズ化合物、有機ジルコニウム化合物、有機マグネシウム化合物などが挙げられる。また、有機カルボン酸の金属塩や有機金属錯体などを用いることも可能であるが、有機金属化合物であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0036】
これらのホスト化合物のうち、包接能力がゲスト化合物の分子の大きさに左右されにくい多分子系ホスト化合物が好適である。
【0037】
多分子系ホスト化合物としては、具体的には、尿素、1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオール、1,1−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−2−プロピン−1−オール、1,1,4,4−テトラフェニル−2−ブチン−1,4−ジオール、1,1,6,6−テトラキス(2,4−ジメチルフェニル)−2,4−ヘキサジイン−1,6−ジオール、9,10−ジフェニル−9,10−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール、9,10−ビス(4−メチルフェニル)−9,10−ジヒドロアントラセン−9,10−ジオール、1,1,2,2−テトラフェニルエタン−1,2−ジオール、4−メトキシフェノール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−スルホニルビスフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−エチリデンビスフェノール、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1,2,2−テトラキス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α,α’,α’−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)−p−キシレン、テトラキス(p−メトキシフェニル)エチレン、3,6,3’,6’−テトラメトキシ−9,9’−ビ−9H−キサンテン、3,6,3’,6’−テトラアセトキシ−9,9’−ビ−9H−キサンテン、3,6,3’,6’−テトラヒドロキシ−9,9’−ビ−9H−キサンテン、没食子酸、没食子酸メチル、カテキン、ビス−β−ナフトール、α,α,α’,α’−テトラフェニル−1,1’−ビフェニル−2,2’−ジメタノール、ジフェン酸ビスジシクロヘキシルアミド、フマル酸ビスジシクロヘキシルアミド、コール酸、デオキシコール酸、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、テトラキス(p−ヨードフェニル)エチレン、9,9’−ビアンスリル、1,1,2,2−テトラキス(4−カルボキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(3−カルボキシフェニル)エタン、アセチレンジカルボン酸、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、1,2,4,5−テトラフェニルイミダゾール、2−フェニルフェナントロ[9,10−d]イミダゾール、2−(o−シアノフェニル)フェナントロ[9,10−d]イミダゾール、2−(m−シアノフェニル)フェナントロ[9,10−d]イミダゾール、2−(p−シアノフェニル)フェナントロ[9,10−d]イミダゾール、ヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ビス(2,4−ジメチルフェニル)ヒドロキノン、などが挙げられる。
【0038】
ホスト化合物としては、上記したものの中でも1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エチレンのようなフェノール系ホスト化合物、ジフェン酸ビス(ジシクロヘキシルアミド)、フマル酸ビスジシクロヘキシルアミドのようなアミド系ホスト化合物、2−(m−シアノフェニル)フェナントロ[9,10−d]イミダゾールのようなイミダゾール系ホスト化合物が包接能力の面で有利であり、特に、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなフェノール系ホスト化合物が工業的に使用しやすい点で有利である。
【0039】
これらのホスト化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0040】
これらのホスト化合物は、燃料電池用燃料と固体状の包接化合物を形成するものであれば、どのような形状の化合物でもかまわない。
【0041】
また、上述のホスト化合物のうち、有機系ホスト化合物は、無機系多孔質物質に担持させた有機・無機複合素材として使用することもできる。この場合、有機系ホスト化合物を担持する多孔質物質としては、シリカ類、ゼオライト類、活性炭類の他に、粘土鉱物類、モンモリロナイト類などの層間化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような有機・無機複合素材は、前述の有機系ホスト化合物を、これを溶解することのできる溶媒に溶解させ、その溶液を多孔質物質中に含浸させ、溶媒を乾燥、減圧乾燥するなどの方法で製造することができる。多孔質物質に対する有機系ホスト化合物の担持量としては特に制限はないが、通常の場合、多孔質物質に対して10〜80重量%程度である。
【0042】
前述の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのホスト化合物を用いて燃料電池用燃料の包接化合物を合成する方法としては、燃料電池用燃料とホスト化合物を直接接触、混合する方法が挙げられ、これにより、燃料電池用燃料を包接した包接化合物を容易に合成することができる。また、ホスト化合物を燃料電池用燃料に加熱等を行って溶解させた後、再結晶することによっても包接化合物を合成することができる。また、燃料電池用燃料が気体や液体の場合であれば、この燃料を加圧状態でホスト化合物と接触することにより包接化合物とすることもできる。
【0043】
包接化合物の合成に際して、燃料電池用燃料とホスト化合物とを接触させる温度は、特に制限はないが、常温〜100℃程度が好ましい。このときの圧力条件についても特に制限はない。また、燃料電池用燃料とホスト化合物とを接触させる時間についても特に制限はないが、作業効率等の面から0.01〜24時間程度とするのが好ましい。
【0044】
なお、ホスト化合物と接触させる燃料電池用燃料は、高純度の燃料が好ましいが、燃料電池用燃料の選択的包接能を有したホスト化合物を用いる場合には、燃料電池用燃料と他の成分との混合液体であっても良い。
【0045】
このようにして得られる包接化合物は、用いたホスト化合物の種類、燃料電池用燃料との接触条件等によっても異なるが、通常ホスト化合物1モルに対して燃料電池用燃料分子0.1〜10モルを包接した包接化合物である。
【0046】
このようにして得られた包接化合物は、常温・常圧環境において、長期に亘り燃料電池用燃料を安定に貯蔵することができる。しかも、この包接化合物は、軽量で取り扱い性にも優れ、かつ固体状とすることができるため、ガラス、金属、プラスチック等の容器に入れて容易に貯蔵することができ、液漏れの問題も解消される。また、通常気体状又は液体状の燃料電池用燃料が包接化により固体状になることで、劇物や危険物としての性質を回避できるようにもなる。更には、燃料電池用燃料が有する化学的反応性を低減できるようになり、例えば金属に対する腐食性なども緩和できるようになる。
【0047】
このような包接化合物から、後述の方法で燃料電池用燃料を放出させた後のホスト化合物は、その燃料電池用燃料に対する選択的包接能を有し、燃料電池用燃料の包接化に有効に再利用可能である。
【0048】
[2]燃料電池用燃料をポリマーに吸収させた燃料組成物
この燃料組成物は、下記の高分子化合物(1)の架橋体(A)に、液体状の燃料電池用燃料(以下「液体燃料」と称す。)を吸収(含浸)させたものである。
高分子化合物(1):分子内にカルボキシル基及び/又はスルホン酸基を有する構成単位(以下「酸性基含有構成単位(a)」と称す。)を重合又は共重合してなる高分子化合物であって、該酸性基含有構成単位(a)の含有量が20〜100重量%である高分子化合物(2)の、該カルボキシル基及び/又は該スルホン酸基のプロトンの30〜100モル%がオニウムカチオンで置換されてなる高分子化合物
【0049】
なお、後述の如く、本発明において、高分子化合物(1)は、高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンの所定量をオニウムカチオンで置換して製造されたものに何ら限定されず、高分子化合物(1)は、酸性基含有構成単位(a)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンを予めオニウムカチオンで置換した後、これを重合又は共重合して製造されたものであっても良い。同様に、高分子化合物(1)の架橋体(A)は、必ずしも、予め製造された高分子化合物(1)を架橋したものに限らず、高分子化合物(1)の架橋体が得られるものであれば、高分子化合物(2)又は高分子化合物(1)の製造段階で架橋を行ったものであっても良い。また、オニウムカチオンの導入及び架橋は、2以上の段階で行っても良い。
【0050】
上記高分子化合物(2)を構成する酸性基含有構成単位(a)としては、カルボキシル基を有するモノマー[例えば(メタ)アクリル酸、エタアクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、ケイ皮酸、及びそれらの無水物等];スルホン酸基を有するモノマー[例えば脂肪族ビニルスルホン酸〔ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、スチレンスルホン酸等〕、(メタ)アクリレート型スルホン酸〔スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート等〕及び(メタ)アクリルアミド型スルホン酸〔[アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等]等が挙げられる。酸性基含有構成単位(a)の好ましい炭素数は3〜30である。
【0051】
高分子化合物(2)中には、これらの酸性基含有構成単位(a)の1種が単独で含まれていても良く、2種以上が含まれていても良い。また、高分子化合物(2)中には、上記酸性基含有構成単位(a)以外の、酸性基含有構成単位(a)と共重合可能な構成単位(以下「他の構成単位(b)」と称す。)が含まれていても良い。
【0052】
他の構成単位(b)としては、例えば(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜30)エステル類[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸オクチルフェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等];(メタ)アクリル酸オキシアルキル(炭素数1〜4)類[(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸モノ(ポリエチレングリコール)エステル(PEG数平均分子量:100〜4,000)、(メタ)アクリル酸モノ(ポリプロピレングリコール)エステル(PPG数平均分子量:100〜4,000)、(メタ)アクリル酸モノメトキシポリエチレングリコール(PEG数平均分子量:100〜4,000)、(メタ)アクリル酸モノメトキシプロピレングリコール(PPG数平均分子量:100〜4,000)等]、(メタ)アクリルアミド類[(メタ)アクリルアミド、(ジ)メチル(メタ)アクリルアミド、(ジ)エチル(メタ)アクリルアミド、(ジ)プロピル(メタ)アクリルアミド等]、アリルエーテル類[メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル等]、炭素数4〜20のα−オレフィン類[イソブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、イソオクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン等]、炭素数8〜20の芳香族ビニル化合物類[スチレン、t−ブチルスチレン、オクチルスチレン等]、その他のビニル化合物[N−ビニルアセトアミド、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等]、アミノ基含有モノマー[ジアルキル(アルキルの炭素数:1〜5)アミノエチル(メタ)アクリレート、メタ(アクリロイル)オキシエチルトリアルキル(アルキル炭素数:1〜5)アンモニウムクロリド、ブロマイド又はサルフェート等]及び前記カルボキシル基、スルホン酸基を有するモノマーのアルカリ金属塩、1〜3級アミン塩又はアルカノールアミン塩等を挙げることができる。これらの他の構成単位(b)についても、高分子化合物(2)中に1種が単独で含まれていても良く、2種以上が含まれていても良い。
【0053】
高分子化合物(2)中の酸性基含有構成単位(a)の含有量は、通常20〜100重量%、好ましくは40〜100重量%、更に好ましくは60〜100重量%である。高分子化合物(2)中の酸性基含有構成単位(a)の含有量が20%未満であると、後述するオニウムカチオンでカルボキシル基やスルホン酸基のプロトンを置換しても、貯蔵対象となる液体燃料の吸収量が低下したり、また、少量では液体燃料をゲル化できない場合がある。
【0054】
高分子化合物(2)が他の構成単位(b)を含む場合、上記例示構成単位のうち、モノマーの重合性や生成したポリマーの安定性等の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、オキシアルキル(メタ)アクリレート類、アリルエーテル類、α−オレフィン類、芳香族ビニル化合物類が好ましい。
【0055】
液体燃料の効率的な吸収やゲル化のために、この液体燃料のSP値(ソリュビリティ−パラメーター)に合わせて、液体燃料と他の構成単位(b)とでSP値の差が5以下の液体燃料を選択した方が吸収量やゲル化力が上がりやすいため好ましく、吸収対象とする液体燃料のSP値と他の構成単位(b)のSP値との差が3以下のものを選択した方が更に好ましい。
【0056】
高分子化合物(2)の製造方法は、最終的に酸性基含有構成単位(a)を所定量含有する高分子化合物(2)が得られる方法であれば良く、特に制限はない。高分子化合物(2)は、酸性基含有構成単位(a)を所定量重合する方法の他に、例えば、前記カルボキシル基、スルホン酸基含有モノマーのエステル化物やアミド化物等の様な容易にカルボキシル基やスルホン酸基に変更できるモノマーを重合し、加水分解等の方法を用いて、所定量のカルボキシル基やスルホン酸基の構成単位を分子内に導入することにより製造することもできる。また、カルボキシメチルセルロースに代表されるカルボキシル基、スルホン酸基含有多糖類高分子及び該多糖類と他のモノマーとをグラフト共重合する方法などにより製造することもできる。
【0057】
高分子化合物(1)は、このような高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンの30〜100モル%をオニウムカチオンで置換したものである。
【0058】
ここで、オニウムカチオンとしては、第4級アンモニウムカチオン(I)、3級ホスホニウムカチオン(II)、第4級ホスホニウムカチオン(III)、及び3級オキソニウムカチオン(IV)からなるカチオンの群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0059】
第4級アンモニウムカチオン(I)としては、下記(I−1)〜(I−11)が挙げられる。
(I−1)炭素数4〜30又はそれ以上のアルキル及び/又はアルケニル基を有する脂肪族系第4級アンモニウム;テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、ブチルトリメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等;
(I−2)炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族第4級アンモニウム;トリメチルフェニルアンモニウム、ジメチルエチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム等;
(I−3)炭素数3〜30又はそれ以上の脂環式第4級アンモニウム;N,N−ジメチルピロジニウム、N−エチル−N−メチルピロリジニウム、N,Nジメチルモルホリニウム、N,Nジエチルモルホリニウム、N,Nジメチルピペリジニウム、N,N−ジエチルピペリジニウム等;
(I−4)炭素数3〜30又はそれ以上のイミダゾリニウム;1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム、4−シアノ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、2−シアノメチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム,4−アセチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、4−メチルカルボキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、4−ホルミル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−ヒドロキシエチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−ヒドロキシエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム等;
(I−5)炭素数3〜30又はそれ以上のイミダゾリウム;1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−エチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−エチルイミダゾリウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2−フェニルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2−ベンジルイミダゾリウム、4−シアノ−1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、3−シアノメチル−1,2−ジメチルイミダゾリウム、4−アセチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、4−メトキシ−1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、3−ホルミルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリウム、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジメチルイミダゾリウム、N,N’−ジメチルベンゾイミダゾゾリム、N,N’−ジエチルベンゾイミダゾゾリム、N−メチル−N’−エチルベンゾイミダゾリウム
等;
(I−6)炭素数4〜30又はそれ以上のテトラヒドロピリミジニウム;1,3−ジメチルテトラヒドロピリジニウム、1,2,3−トリメチルテトラヒドロピリジニウム、1,2,3,4−テトラメチルテトラヒドロピリジニウム、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウム、5−メチル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネニウム、3−シアノメチル−1,2−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、3−アセチルメチル−1,2−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、4−メチルカルボキシメチル−1,2,3−トリメチル−テトラヒドロピリミジニウム、3−メトキシメチル−1,2−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、4−ヒドロキシメチル−1,3−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム等;
(I−7)炭素数4〜30又はそれ以上のジヒドロピリミジニウム;1,3−ジメチル−2,4−もしくは−2,6−ジヒドロピリミジニウム[これらを1,3−ジメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウムと表記し、以下同様の表現を用いる。]、1,2,3−トリメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム、1,2,3,4−テトラメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム、1,2,3,5−テトラメチル−2,4,(6)−ジヒドロピミジニウム、8−メチル−1,8−ジアザシクロ[5,4,0]−7,9(10)−ウンデカンジエニウム、2−シアノメチル−1,3−ジメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム、3−アセチルメチル−1,2−ジメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム、4−メチルカルボキシメチル−1,2,3−トリメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム、4−ホルミル−1,2,3−トリメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム、3−ヒドロキシエチル−1,2−ジメチル−2,4,(6)−ジヒドロピリミジニウム等;
(I−8)炭素数3〜30又はそれ以上のイミダゾリニウム骨格を有するグアニジウム;2−ジメチルアミノ−1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、2−ジエチルアミノ−1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、2−ジメチルアミノ−1−メチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウム、2−ジメチルアミノ−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、2−ジエチルアミノ−1,3−ジエチルイミダゾリニウム、1,5,6,7−テトラヒドロ1,2−ジメチル−2H−ピリミド[1,2a]イミダゾリニウム、1,5−ジヒドロ−1,2−ジメチル−−2H−ピリミド[1,2a]イミダゾリニウム、2−ジメチルアミノ−3−メチルカルボキシメチル−1−メチルイミダゾリニウム、2−ジメチルアミノ−3−メトキシメチル−1−メチルイミダゾリニウム、2−ジメチルアミノ−3−ヒドロキシエチル−1−メチルイミダゾリニウム、2−ジメチルアミノ−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム等;
(I−9)炭素数3〜30又はそれ以上のイミダゾリウム骨格を有するグアニジウム;2−ジメチルアミノ−1,3,4−トリメチルイミダゾリウム、2−ジエチルアミノ−1,3,4−トリメチルイミダゾリウム、2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチル−4−エチルイミダゾリウム、2−ジエチルアミノ−1,3,4−トリエチルイミダゾリウム、2−ジメチルアミノ−1,3−ジメチルイミダゾリウム、1,5,6,7−テトラヒドロ−1,2−ジメチル−2H−イミド[1,2a]イミダゾリウム、1,5−ジヒドロ−1,2−ジメチル−2H−ピリミド−[1,2a]イミダゾリウム、2−ジメチルアミノ−3−シアノメチル−1−メチルイミダゾリウム、2−ジメチルアミノ−4−メチルカルボキシメチル−1,3−ジメチルイミダゾリウム、2−ジメチルアミノ−3−メトキシメチル−1−メチルイミダゾリウム、2−ジメチルアミノ−3−ホルミルメチル−1−メチルイミダゾリウム、2−ジメチルアミノ−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジメチルイミダゾリウム等;
(I−10)炭素数4〜30又はそれ以上のテトラヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジウム;2−ジメチルアミノ−1,3,4−トリメチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジエチルアミノ−1,3,4−トリメチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−1,3−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−1,2−ジメチル−2H−イミド[1,2a]ピリミジニウム、1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−1,2−ジメチル−2H−ピリミド[1,2a]ピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−3−シアノメチル−1−メチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−4−アセチル−1,3−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム2−ジメチルアミノ−4−メチルカルボキシメチル−1,3−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−3−メトキシメチル−1−メチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−3−ヒドロキシエチル−1−メチルテトラヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム等;
(I−11)炭素数4〜30又はそれ以上のジヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジウム;2−ジメチルアミノ−1,3,4−トリメチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジエチルアミノ−1,3,4−トリメチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジエチルアミノ−1,3,4−トリエチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−1−エチル−3−メチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、1,6,7,8−テトラヒドロ−1,2−ジメチル−2H−イミド[1,2a]ピリミジニウム、1,6−ジヒドロ−1,2−ジメチル−2H−ピリミド[1,2a]ピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−4−シアノ−1,3−ジメチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−3−アセチルメチル−1−メチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−3−メチルカルボキシメチル−1−メチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−4−ホルミル−1,3−ジメチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム、2−ジメチルアミノ−3−ホルミルメチル−1−メチル−2,4(6)−ジヒドロピリミジニウム等;
【0060】
3級ホスホニウムカチオン(II)としては、下記(II−1)〜(II−3)が挙げられる。
(II−1)炭素数1〜30又はそれ以上のアルキル及び/又はアルケニル基を有する脂肪族系3級ホスホニウム;トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム、エチルジメチルスルホニウム、ジエチルメチルスルホニウム等;
(II−2)炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族系3級ホスホニウム;フェニルジメチルスルホニウム、フェニルエチルメチルスルホニウム、フェニルメチルベンジルスルホニウム等;
(II−3)炭素数3〜30又はそれ以上の脂環式3級ホスホニウム;メチルチオラニウム、フェニルチオラニウム、メチルチアニウム等;
【0061】
第4級ホスホニウムカチオン(III)としては、下記(III−1)〜(III−3)が挙げられる。
(III−1)炭素数1〜30又はそれ以上のアルキル及び/又はアルケニル基を有する脂肪族系第4級ホスホニウム;テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、メチルトリエチルホスホニウム、メチルトリプロピルホスホニウム、メチルトリブチルホスホニウム、ジメチルジエチルホスホニウム、ジメチルジブチルホスホニウム、トリメチルエチルホスホニウム、トリメチルプロピルホスホニウム、トリメチルブチルホスホニウム等;
(III−2)炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族系4級ホスホニウム;トリフェニルメチルホスホニウム、ジフェニルジメチルホスホニウム、トリフェニルベンジルホスホニウム等;
(III−3)炭素数3〜30又はそれ以上の脂環式4級ホスホニウム;1,1−ジメチルホスホラニウム、1−メチル−1−エチルホスホラニウム、1,1−ジエチルホスホラニウム、1,1−ジエチルホスホリナニウム、1,1−ペンタエチレンホスホリナニウム等;
【0062】
第4級オキソニウムカチオン(IV)としては、下記(IV−1)〜(IV−3)が挙げられる。
(IV−1)炭素数1〜30又はそれ以上のアルキル及び/又はアルケニル基を有する脂肪族系3級オキソニウム;トリメチルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、エチルジメチルオキソニウム、ジエチルメチルオキソニウム等;
(IV−2)炭素数6〜30又はそれ以上の芳香族系3級オキソニウム;フェニルジメチルオキソニウム、フェニルエチルメチルオキソニウム、フェニルメチルベンジルオキソニウム等;
(IV−3)炭素数3〜30又はそれ以上の脂環式3級オキソニウム;メチルオキソラニウム、フェニルオキソラニウム、メチルオキサニウム等;
【0063】
これらの中で、好ましいオニウムカチオンは第4級アンモニウムカチオン(I)であり、更に好ましいものは前記(I−1)、(I−4)及び(I−5)であり、特に好ましいものは(I−4)及び(I−5)である。
【0064】
これらオニウムカチオンは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0065】
本発明において、高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンを前記オニウムカチオンにより置換する方法としては、このプロトンの所定量をオニウムカチオンに置換できる方法で有ればいずれの方法でも良いが、例えば、上記オニウムカチオンの水酸化物塩(例えば、テトラエチルアンモニウムハイドロキサイド等)やモノメチル炭酸化物塩(例えば、1,2,3,4−トリメチルイミダゾリニウムモノメチル炭酸塩等)を、高分子化合物(2)に添加し、必要により脱水や脱炭酸、脱メタノ−ルを行うことに容易に置換可能できる。また、高分子化合物(2)を構成するモノマーの段階で同様に置換しても良い。
【0066】
オニウムカチオンによる置換を行って高分子化合物(1)を製造する方法としては、例えば、前記酸性基含有構成単位(a)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンをオニウムカチオンで置換した後重合又は共重合する方法や、高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンをオニウムウムカチオンで置換する方法等を挙げることができるが、所定量のオニウムカチオンが導入された高分子化合物(1)が得られる方法であれば、酸性基含有構成単位(a)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンのオニウムカチオンへの置換はいずれの段階で行っても良い。
【0067】
高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンをオニウムカチオンにより置換する割合(以下、「オニウムカチオン置換率」と称す。)は、通常30〜100モル%、好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%である。オニウムカチオン置換率が30モル%未満では、高分子化合物(1)のカルボキシル基、スルホン酸基及びオニウムカチオンの解離が低すぎて膨潤力やゲル化力が低い場合がある。
【0068】
本発明においては、上述の高分子化合物(2)の製造工程又は高分子化合物(1)の製造工程、或いはその後の工程の何れかの工程で架橋を行って、高分子化合物(1)の架橋体(A)とする。架橋の方法としては、公知の方法で良く、例えば、下記(1)〜(5)の方法を挙げることができる。
【0069】
(1) 共重合性架橋剤による架橋;
高分子化合物(2)の原料である酸性基含有構成単位(a)及び/又は酸性基含有構成単位(a)のオニウムカチオン置換体、並びに必要に応じて用いられる他の構成単位(b)の1種又は2種以上(以下、これらを「原料成分」と総称する。)と共重合可能な、又は分子内に2重結合を2個以上有する共重合性架橋剤[例えばジビニルベンゼン等の多価ビニル型架橋剤、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド型架橋剤、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等の多価アリルエーテル型架橋剤、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多価(メタ)アクリル酸エステル型架橋剤等]を、原料成分に共重合させて、高分子化合物(2)の合成前又は合成時に架橋する方法。
【0070】
(2) 反応性架橋剤による架橋;
原料成分の官能基等と反応しうる官能基を分子内に2つ以上有する反応性架橋剤[例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の多価イソシアネート型架橋剤、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等の多価エポキシ型架橋剤、グリセリン等の多価アルコール型架橋剤、ヘキサメチレンテトラミンやポリエチレンイミン等の多価アミン、イミン型架橋剤、エピクロルヒドリン等のハロエポキシ型架橋剤、硫酸アルミニウム等の多価金属塩型架橋剤等]を用いて、高分子化合物(2)の合成前又は合成時に架橋する方法。
【0071】
(3) 重合反応性架橋剤による架橋;
原料成分と共重合可能な、又は分子内に2重結合を有し、かつ原料成分の官能基等と反応しうる官能基を分子内に有する重合反応性架橋剤[例えばグリシジルメタクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート型架橋剤、アリルグリシジルエーテル等のアリルエポキシ型架橋剤等]を用いて、高分子化合物(2)の合成前又は合成時に架橋する方法。
【0072】
(4) 放射線照射による架橋;
高分子化合物(1)に紫外線、電子線、γ線等の放射線を照射して、高分子化合物(1)を架橋する方法、或いは原料成分に紫外線、電子線、γ線等を照射して高分子化合物(2)の合成時に重合と架橋を同時に行う方法等。
【0073】
(5) 加熱による架橋;
高分子化合物(2)又は高分子化合物(1)を100℃以上に加熱して、高分子化合物(2)又は高分子化合物(1)の分子間で熱架橋[加熱によるラジカルの発生による炭素間の架橋や官能基間での架橋]する方法等。
【0074】
これらの架橋方法の中で好ましい方法は、最終品の用途、形態によって異なるが、総合的な面から(1)共重合性架橋剤による架橋、(2)反応性架橋剤による架橋及び(4)放射線照射による架橋である。
【0075】
なお、前記共重合性架橋剤の中で好ましいものは、多価(メタ)アクリルアミド型架橋剤、アリルエーテル型架橋剤、多価(メタ)アクリル酸エステル型架橋剤であり、更に好ましいものは、アリルエーテル型架橋剤である。また、前記反応性架橋剤の中で好ましいものは、多価イソシアネート型架橋剤及び多価エポキシ型架橋剤であり、更に好ましいものは分子内に3個以上の官能基を有する多価イソシアネート型架橋剤又は多価エポキシ型架橋剤である。
【0076】
架橋度に関しては、使用目的によって適宜選択できるが、共重合性架橋剤を使用する場合は、その添加量は全原料成分重量に対して、0.001〜10重量%が好ましく、0.01〜5重量%が更に好ましい。
【0077】
反応性架橋剤を使用する場合、その添加量は、架橋体(A)をどのような形状とするかによって好ましい添加量が異なるが、全原料成分に対して0.001〜10重量%が好ましく、後述する液体燃料を含有した一体化した良好なゲルを作成するために、特に全原料成分に対して0.01〜50重量%が好ましい。
【0078】
本発明において、原料成分、即ち酸性基含有構成単位(a)及び/又は酸性基含有構成単位(a)のオニウムカチオン置換体、並びに必要により用いられる他の構成単位(b)の重合方法も公知の方法で良く、例えば、前記の各モノマー及び生成するポリマーが溶解する溶媒中での溶液重合法、溶媒を使用せずに重合する塊状重合法、乳化重合法等を例示することができる。この中で好ましいものは、溶液重合法である。
【0079】
溶液重合の場合に用いる溶媒は、使用するモノマーやポリマーの溶解性により適宜選択できるが、例えばメタノ−ル、エタノール等のアルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、ε−カプロラクタム等のラクトン類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のカルボン酸エステル類、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等の有機溶媒や、水等を挙げることができる。これらの溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0080】
溶液重合における重合濃度も特に限定はなく目的の用途によって種々異なるが、1〜80重量%が好ましく、5〜60重量%が更に好ましい。
【0081】
重合開始剤も通常のもので良く、アゾ系開始剤[アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、アゾビス{2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロロピオンアミド}等]、過酸化物系開始剤[過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、過酸化水素等]、レドックス開始剤[上記過酸化物系開始剤と還元剤(アスコルビン酸や過硫酸塩)の組み合わせ等]を例示することができる。
【0082】
他の重合方法としては、光増感開始剤[ベンゾフェノン等]を添加し紫外線等を照射する方法、γ線や電子線等の放射線を照射し重合する方法等を例示することができる。
【0083】
重合開始剤を使用する場合の開始剤の添加量は、特に限定はないが、使用する原料成分の総重量に対して、0.0001〜5重量%が好ましく、0.001〜2重量%が更に好ましい。
【0084】
重合温度も目的とする分子量や開始剤の分解温度、使用する溶媒の沸点等により種々異なるが、−20〜200℃が好ましく、0〜100℃が更に好ましい。
【0085】
このような架橋体(A)は液体燃料を吸収する能力があり、液体燃料を吸収して安定な燃料組成物を形成する。
【0086】
架橋体(A)の液体燃料吸収量は、対象とする燃料の種類や架橋体(A)の組成又はゲル強度等により種々変化するが、架橋体(A)は、例えばメタノールに対する吸収量が10〜1,000g−メタノール/g−架橋体(A)に設計するのが好ましく、50〜900g/gに設計するのが更に好ましい。この吸収量が10g/g以上であれば、保液量が十分であり貯蔵効率に優れる。1,000g/g以下であると液体燃料を保液した燃料組成物のゲル強度が弱すぎるという問題がない。
【0087】
本発明に係る架橋体(A)を粒子状とする場合、その粒子径は、体積平均粒径で0.1〜5,000μmが好ましく、更に好ましくは50〜2,000μmである。また、0.1μm未満が全体の10重量%以下、5,000μmを超える部分が全体の10重量%以下が好ましく、それぞれ5%以下がさらに好ましい。
【0088】
なお、粒子径の測定は、ロータップ試験篩振とう機及びJIS Z8801−2000標準篩いを用いて、ペリーズ・ケミカル・エンジニアーズ・ハンドブック第6版(マックグローヒル・ブック・カンパニー、1984,21頁)に記載の方法で行うことができる(以下、粒子径の測定は本方法による。)。
【0089】
架橋体(A)を粒子状の形態とする方法としては、最終的に粒子状になれば特に限定はないが、例えば、下記(i)〜(iv)等の方法が挙げられる。
(i);必要により溶媒を用いて、前記共重合性架橋剤を共重合して高分子化合物(1)の架橋体(A)を作成し、必要により乾燥等の方法で溶媒を留去し、公知の粉砕方法を用いて粉砕して粒子状とする方法。
(ii);必要により溶媒を用いて、重合して高分子化合物(1)を作成し、次いで前記反応性架橋剤又は照射等の手段により高分子化合物(1)を架橋した後、必要により乾燥等の方法で溶媒を留去し、公知の粉砕方法を用いて粉砕して粒子状とする方法。
(iii);酸性基含有構成単位(a)、必要に応じて他の構成単位(b)を前記共重合性架橋剤の存在下、必要により溶媒を用いて共重合して架橋し高分子化した後、前記オニウムカチオン化合物を添加し、酸基のプロトンを所定量オニウムカチオンに置換した後、必要により乾燥等の方法で溶媒を留去し、公知の粉砕方法を用いて粉砕して粒子状とする方法。
(iv);酸性基含有構成単位(a)、必要に応じて他の構成単位(b)を前記共重合性架橋剤の存在下必要により溶媒を用いて共重合して未架橋の高分子とした後、前記オニウムカチオン化合物及び反応性架橋剤や放射線照射を行うことにより、酸基のプロトンを置換するのと同時に高分子を架橋し、必要により乾燥等の方法で溶媒を留去し、公知の粉砕方法を用いて粉砕して粒子状とする方法。
【0090】
上記方法において、架橋体(A)の形状を粒子状にする過程で必要により行う乾燥は、公知の乾燥方法で良く、例えば通気乾燥(循風乾燥機等)、透気乾燥(バンド型乾燥機等)、減圧乾燥(減圧乾燥機等)、接触乾燥(ドラムドライヤー等)等を挙げることができる。
【0091】
乾燥する場合の乾燥温度に関しては、ポリマー等の劣化や過度の架橋が起こらなければ特に限定はないが、好ましくは0〜200℃、更に好ましくは50〜150℃である。
【0092】
架橋体(A)の形状を粒子状とする場合の、粉砕方法も公知の方法で良く、例えば、衝撃粉砕(ピンミル、カッターミル、ボールミル型粉砕機やACMパルペライザー等の高速回転型粉砕機等)、空気粉砕(ジェット粉砕機等)、凍結粉砕等の方法を挙げることができる。
【0093】
架橋体(A)及び燃料からなる燃料組成物は、その目的によって種々の形態に加工することができ、その形状には特に限定はないが、好ましい形態としては粒子状、シート状、一体ゲル化の形態を挙げることができる。
【0094】
以下、好ましい形態の作成方法について説明するが、燃料組成物の形態によりその作成方法等や好ましい方法等が若干異なるので、それぞれについて説明する。
【0095】
粒子状の燃料組成物は、粒子状の架橋体(A)が液体燃料を吸収したものでもよいし、液体燃料を吸収した後粒子状としたものであっても良い。粒子状にする方法は上記の粒状の架橋体(A)を製造する方法と同様で良く、その体積平均粒子径等も同様の値が好ましい。
【0096】
燃料組成物をシート状とする場合、そのシート化法としては、例えば、下記(v)〜(vii)の方法を挙げることができる。
(v);粒子状の架橋体(A)を不織布や紙等の間に挟み込んでサンドイッチシートとし、その後液体燃料を吸収させる方法。
(vi);高分子化合物(1)の未架橋体を不織布、織布、紙、フィルムの1つ又は2つ以上からなる基材に含浸及び/又は塗工した後、前記架橋剤による架橋、前記放射線照射による架橋、加熱による架橋からなる群から選ばれる1つ又は2以上の架橋手段を用いて高分子化合物(1)を架橋させるとともに、必要により溶媒を留去しシート化した後、液体燃料を吸収させる方法。
(vii);30〜100モル%のプロトンを前記オニウムカチオンで置換した酸性基含有構成単位(a)20〜100重量%と、他の構成単位(b)0〜80重量%と、前記架橋剤からなる混合溶液を、不織布、織布、紙、フィルムの中の1つ又は2つ以上からなる基材に含浸及び/又は塗工した後、該基材を重合開始剤及び/又は放射線等の照射による架橋、加熱による架橋の群から選ばれる1つ又は2以上の架橋手段を用いて重合し、必要により溶媒を留去することによりシート化した後、液体燃料を吸収させる方法。
【0097】
これらの方法の中で、作成したシートの厚みの調整の容易さや作成したシートの吸収速度等の観点から、(vi)又は(vii)が好ましい。形状をシート状とした場合の燃料組成物シートの厚みは、1〜50,000μmが好ましく、5〜30,000が更に好ましく、10〜10,000μmが特に好ましい。シートの厚みが、1μm以上であると架橋体(A)の目付量が少なくなりすぎず、50,000μm以下ではシートの厚みが厚すぎることがない。シート長さや幅に関しては、使用する大きさにより適宜選択でき、特に限定はないが、好ましい長さは0.01〜10,000m、好ましい幅は0.1〜300cmである。
【0098】
燃料組成物シートにおける架橋体(A)の目付量に関しては、特に限定はないが、対象とする液体燃料の吸収・保液能力、また厚みが厚くなりすぎないこと等を加味すると、目付量は、10〜3,000g/mが好ましく、20〜1,000g/mが更に好ましい。
【0099】
本発明において、形態をシート状とするために必要により使用する、不織布、織布、紙、フィルム等の基材は公知のもので良く、例えば、目付量が10〜500g/m程度の合成繊維及び/又は天然繊維からなる不織布又は織布、紙(上質紙、薄葉紙、和紙など)、合成樹脂からなるフィルム及びこれらの2つ以上の基材及びこれらの複合体を例示することができる。
【0100】
これらの基材の中で、好ましいものは、不織布、或いは不織布とプラスチックフィルム又は金属フィルムとの複合体であり、特に好ましいものは、不織布、不織布とプラスチックフィルムとの複合体である。
【0101】
これらの基材の厚みに関しては特に限定はないが、通常1〜50,000μm、好ましくは10〜20,000μmである。厚みが、1μm未満であると、所定量の前記高分子化合物(1)の含浸や塗工が難しく、一方厚みが50,000μmを越えるとシートが厚すぎて燃料電池用燃料を含む燃料組成物としたときに全体のカサが大きくなって使用しにくくなる。
【0102】
基材への、高分子化合物(1)の塗工方法や含浸方法は、公知の方法で良く、例えば、通常のコーティングやパディング等の方法を適用すれば良い。コーティングやパディング処理を行った後、重合や希釈、粘度調整等のために使用した溶媒を、必要により乾燥等の方法で留去しても良い。
【0103】
シート状燃料組成物における燃料吸収量(燃料含有量)も、燃料の供給量を十分に確保することができる量であれば特に限定はないが、0.1〜500g−燃料/cm−シートが好ましく、1〜400g/cmのものが更に好ましい。吸収量が0.1g/cm上であると液体燃料の十分量を吸収することができ、500g/cm以下であると液体燃料を吸収したシートが厚くなりすぎない。
【0104】
本発明に係る燃料組成物は、架橋体(A)及び液体燃料からなる一体ゲル化型燃料組成物であっても良い。この一体ゲル化型燃料組成物における架橋体(A)/燃料の比率は、好ましくは0.1〜99/1〜99.9重量%であり、更に好ましくは0.5〜50/50〜99.5重量%、特に好ましくは1〜30/70〜99重量%であり、最も好ましくは1〜20/80〜99重量%である。架橋体(A)の比率が、0.1重量%以上であると生成した燃料含有ゲルのゲル強度が弱かったり、全体をゲル化できない場合がなく、一方、99重量%以下であると架橋体(A)の含有量が多すぎるために、必要とする燃料の添加量が少なすぎて、燃料の供給量を十分に確保することができないという不具合がない。
【0105】
一体ゲル化型燃料組成物の作成方法としては、例えば、(viii)前述した本発明の粒子状の架橋体(A)に所定量の燃料を添加する方法;(ix)架橋体(A)を含有するシートに燃料を添加する方法でも良いが、これらの燃料含有ゲルは、下記(x)や(xi)等に挙げた方法で作成されたものが好ましい。
(x);高分子化合物(1)を液体燃料に溶解し、高分子化合物(1)を前記架橋剤による架橋、放射線照射による架橋、加熱による架橋の何れかの架橋手段で架橋することにより一体化したゲルとする方法。
(xi);液体燃料中で、前記オニウムカチオンで30〜100モル%のプロトンを置換した酸性基含有構成単位(a)20〜100重量%、及び必要により他の構成単位(b)0〜80重量%とを、前記共重合性架橋剤の存在下重合することにより、一体化したゲルとする方法。
【0106】
架橋体(A)及び液体燃料からなる一体化ゲル型燃料組成物の形態は適宜選択することができ、形状としては、例えば、シート状、ブロック状、球状、円柱状などの形状を例示することができる。これらの中で好ましい形状はシート状、ブロック状又は円柱状である。
【0107】
シート状ゲルとする場合のゲルの厚みは、1〜50,000μmが好ましく、10〜20,000μmが更に好ましい。シート状ゲルの幅や長さに関しては、その使用目的や場所、用途等に合わせて適宜選択すればよい。
【0108】
所望の形状の一体ゲル化型燃料組成物を作成する方法も、特に限定はなく、例えば作成したい形状に合わせた容器中やセルの中でゲル化させる方法や、離型紙、フィルム、不織布等の上に、前記高分子化合物(1)や原料成分等と液体燃料の混合物を積層又はコーティング等の方法によりシート状としてゲルを作成する方法等を例示できる。
【0109】
また、この態様の燃料組成物には、必要に応じて他のゲル化剤(脂肪酸石鹸、ジベンザルソルビット、ヒドロキシプロピルセルロース、ベンジリデンソルビトール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリオキシアルキレン、ソルビトール、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルブチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AB樹脂、アクリル樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ユリア樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、ポリアロマー等)や吸着剤(デキストリン、デキストラン、シリカゲル、シリカ、アルミナ、モレキュラーシーブ、カオリン、珪藻土、カーボンブラック、活性炭等)、増粘剤、結着剤、燃料を化学変換して非流動化させる物質からなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合してもよい。これらは、それぞれの機能を発揮できるものであれば特に限定はなく、固体、液体のものを問わない。また、これらは、燃料組成物を作成する任意の段階で配合することができる。
【0110】
[3]燃料組成物からの燃料電池用燃料の放出方法
本発明においては、前述の[1]燃料電池用燃料の分子化合物を含む燃料組成物、或いは[2]ポリマーに燃料電池用燃料を吸収させた燃料組成物、等の燃料組成物から、燃料電池用燃料を放出させるに際し、この燃料組成物を水と接触させることにより燃料組成物中の燃料電池用燃料を水側に溶出させて燃料を取り出す。
【0111】
この場合、水は燃料電池用燃料の水溶液であっても良い。また、燃料組成物と水との接触に当たり、加熱は特に必要とされず、常温で良いが、50〜150℃程度に加熱しても良い。
【0112】
燃料組成物と水とを接触させる方法としては特に制限はないが、例えば、水の導入口と排出口を有し、内部に通水可能な容器に燃料組成物を充填し、この容器内に水を通水する方法が挙げられる。また、水槽内に燃料組成物を投入して燃料を放出させる方法であっても良い。
【0113】
燃料組成物から水中に放出させた燃料は、適宜使用目的に応じた濃度の燃料水溶液、例えば1〜64重量%程度の燃料水溶液を調製して燃料電池に供給すれば良い。
【実施例】
【0114】
以下に製造例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、何ら以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
製造例1
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下「BHC」と略記する。)26.8g(0.1mol)をメタノール50mlに加熱溶解して再結晶を行うことにより、BHC:メタノール=1:1(モル比)でメタノール含有率11重量%の固体状のメタノール包接化合物を得た。
【0116】
製造例2
1,1,6,6−テトラフェニルヘキサ−2,4−ジイン−1,6−ジオール(以下「TPHDD」と略記する。)41.4g(0.1mol)をメタノール100mlに加熱溶解して再結晶を行うことにより、TPHDD:メタノール=1:2(モル比)でメタノール含有率13重量%の固体状のメタノール包接化合物を得た。
【0117】
製造例3
アクリル酸360g(5モル)とペンタエリスリトールトリアリルエーテル1.08g及び水1140gを2リットルの断熱重合槽に入れた。モノマー溶液の温度を0℃まで冷却して、溶液に窒素を通じて溶存酸素を低下させた後、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド0.36gと35重量%過酸化水素水3.1gとL−アスコルビン酸0.38gを添加し、重合を開始させた。重合後、生成した含水ゲルをミートチョッパーを用いて、ゲルを細分化した後、このゲルに、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムカチオンのメチル炭酸塩(分子量:203)の60%メタノ−ル溶液(三洋化成工業社製)1353g(4モル)を添加したところ、脱炭酸と脱メタノールが起こったのが観察された。前記イミダゾリニウムカチオンを添加したゲルを、バンド型乾燥機(透気乾燥機、井上金属社製)を用いて、100℃の熱風をゲルに透気して、溶媒として使用した水及び副成したメタノールを留去し、乾燥した。乾燥物をカッターミルを用いて粉砕し、平均粒径400μmの粒子状の架橋体を作成し、この20gにメタノールを100g吸収させて、ゲル状燃料組成物を得た。
【0118】
実施例1
まず、電解質膜・電極接合体(MEA)を以下のようにして作製した。電解質膜としてはパーフルオロスルホン酸系のイオン交換膜であるNafionを用いた。また、担持触媒にはPt粒子を用い、電子伝導性を持たせるためアセチレンブラックに担持させた。Pt担持量はアセチレンブラックに対し50重量%とした。このPt担持触媒と5重量%Nafion溶液を混合しスプレーブラシを用いて電解質膜に吹きつけ電極層を付着させた。電極層を付着させた膜は、乾燥機中にて90℃で1時間乾燥させた後、テフロン板で挟み、ホットプレス機により、130℃、20MPaで30分間プレスし、電解膜と電極を接合させた。
【0119】
作製した電解質膜・電極接合体(MEA)を用いて、図1に示す如く、メタノール水溶液を供給するダイレクトメタノール型燃料電池システムを組み立てた。図1において、1は電解質膜、2は電極(アノード)、3は電極(カソード)、4は燃料組成物槽、5は水槽である。
【0120】
燃料組成物槽4には製造例1で製造したメタノール包接化合物を入れ、この燃料組成物槽4に水槽5からの水を供給してメタノール包接化合物を水と接触させることにより、水中にメタノールを放出させ、20重量%のメタノール水溶液を調製して、電解質膜・電極接合体の燃料吸収体に送給した。なお、この水槽5には、アノード2で使用されメタノール濃度が低くなった回収水をCO除去手段で処理した後循環させても良い。また、カソード3で発生した水を回収して水槽5に供給しても良い。
【0121】
その結果、燃料電池にメタノール水溶液を安定に供給して長期に亘り安定運転で発電を行うことができた。
【0122】
燃料組成物として製造例2で製造したメタノール包接化合物、又は製造例3で製造したゲル状燃料組成物を用いた場合も同様であった。
【0123】
以上の結果から、燃料組成物を水と接触させることにより、燃料電池用燃料を水中に容易に放出させて、燃料電池に安定に燃料を供給することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池、特に携帯用小型燃料電池として有望視されているダイレクトメタノール型燃料電池用の燃料組成物からの燃料放出方法として有用であるが、何らこれに限定されず、様々な燃料電池用燃料を含有する燃料組成物からの燃料の放出に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】実施例1で作製した燃料電池システムを示す概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0126】
1 電解質膜
2 電極(アノード)
3 電極(カソード)
4 燃料組成物槽
5 水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用燃料を含む燃料組成物から燃料を放出させる方法であって、該燃料電池用燃料組成物を水と接触させることにより、該燃料を該水中に放出させることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項2】
請求項1において、該燃料電池が、固体高分子型燃料電池であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項3】
請求項2において、該燃料電池が、ダイレクトメタノール型燃料電池であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該燃料電池が、携帯用小型燃料電池であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該燃料電池用燃料が、水素、アルコール類、エーテル類、炭化水素類、及びアセタール類よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該燃料電池用燃料組成物が、燃料電池用燃料と相手方化合物との分子化合物を含むことを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項7】
請求項6において、該燃料電池用燃料の分子化合物が、該燃料電池用燃料とホスト化合物とから形成される包接化合物であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項8】
請求項7において、該ホスト化合物が多孔質物質に担持されていることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、該ホスト化合物が有機化合物、無機化合物及び有機・無機複合化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、該ホスト化合物が単分子系、多分子系及び高分子系ホスト化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項11】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該燃料電池用燃料組成物が、下記高分子化合物(1)の架橋体(A)と燃料電池用燃料とを含むことを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
高分子化合物(1):分子内にカルボキシル基及び/又はスルホン酸基を有する構成単位(以下「酸性基含有構成単位(a)」と称す。)を重合又は共重合してなる高分子化合物であって、該酸性基含有構成単位(a)の含有量が20〜100重量%である高分子化合物(2)の、該カルボキシル基及び/又は該スルホン酸基のプロトンの30〜100モル%がオニウムカチオンで置換されてなる高分子化合物
【請求項12】
請求項11において、該オニウムカチオンが第4級アンモニウムカチオンであることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項13】
請求項12において、該第4級アンモニウムカチオンが、脂肪族系アンモニウムカチオン、イミダゾリニウムカチオン及びイミダゾリウムカチオンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれか1項において、該高分子化合物(2)に含まれる前記酸性基含有構成単位(a)の含有量が40〜100重量%であり、かつ該高分子化合物(1)は、該高分子化合物(2)のカルボキシル基及び/又はスルホン酸基のプロトンの50〜100モル%がオニウムカチオンで置換されてなるものであることを特徴とする燃料電池用燃料組成物からの燃料放出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−40629(P2006−40629A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216011(P2004−216011)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】