説明

燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法及び該方法で製造された金微粒子を含む固体高分子型燃料電池用触媒

【課題】ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子を担持した担体を、簡便に低コストで製造する。
【解決手段】金イオンを、カーボン担体を含む液相反応系中で、還元剤の作用によって還元して、該カーボン担体上に金微粒子として還元、析出、担持させる燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法であって、該金イオンの還元速度を330〜550mV/hの範囲に設定し、且つpHを4.0〜6.0の範囲に設定して、該還元、析出、担持を行うことを特徴とする燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子が担持された燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法に関する。また、該方法で製造された金微粒子を含む固体高分子型燃料電池用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は高い発電性能を長期に亘って示すことが求められ、自動車用電源では5000時間、定置用電源では4万時間とも言われている。そのため、電極触媒には高い触媒活性および耐久性を有することが必要とされる。電極触媒としては、多孔質のカーボン粒子に貴金属、卑金属などの触媒金属を担持したものが用いられている。例えば、複数の貴金属を触媒金属としてカーボン粒子上に担持された電極触媒の製造方法としては、複数の貴金属化合物を含む水溶液にカーボン粒子を分散混合し、これに還元剤または沈殿剤などを添加することにより貴金属粒子をカーボン粒子上に形成した後、焼成する吸着法などが一般的に用いられている。
【0003】
しかしながら、このような方法では、不溶化剤により形成された複数の貴金属粒子が他の貴金属粒子上及び担体表面上に無作為に吸着してしまう。このため、焼成によって合金化して形成された複合貴金属粒子の組成は不均一なものとなり、さらには、熱的エネルギーが加わることでシンタリングして粒子径の大きなものが形成される問題があった。従って、複合貴金属粒子の活性表面積が減少し、触媒活性が低くなるという問題もあった。さらに、吸着法を用いた場合には、電解液が十分に浸透しないカーボン粒子の微細孔内にも複合貴金属粒子が形成・担持されてしまうが、このように電解液と充分に接触できない複合貴金属粒子は、電極触媒の活性成分として働かないため、担持した複合貴金属粒子の有効利用率が低下する問題もあった。
【0004】
他方、燃料電池や排ガス浄化用の触媒などとしては白金、パラジウムなどの貴金属が使用される。しかし、貴金属元素は、地球上に限られた量しか存在しないため、その使用量をできるだけ少なくすることが求められる。そこで、貴金属を用いた触媒としては、例えば、カーボンや無機化合物等からなる担体粒子の表面に、貴金属の微粒子を担持させたものなどが一般的に用いられる。また、触媒作用は、主に貴金属の表面において発揮されることから、上記構造の触媒において、良好な触媒作用を維持しつつ貴金属の使用量をできるだけ少なくするためには、担体粒子の表面に担持させる貴金属の微粒子を、できるだけ一次粒子径が小さく、かつ比表面積の大きいものとすることが有効である。
【0005】
これらの微細な金属微粒子を製造する方法としては、含浸法と呼ばれる高温処理法や、液相還元法、気相法などがあるが、近年、特に、製造設備の簡易化が容易な液相還元法、すなわち、液相の反応系中で、析出対象である金属のイオンを、還元剤の作用によって還元して金属微粒子を析出させる方法が広く普及しつつある。また、液相還元法で製造される金属微粒子は、その形状が球状ないし粒状で揃っていると共に、粒度分布がシャープで、しかも、一次粒子径が小さいため、特に、燃料電池用触媒として適しているという利点もある。
【0006】
例えば、下記特許文献1には、単分散で粒径が揃った遷移金属と貴金属から成る合金微粒子を合成する方法として、有機保護剤の存在下、水或いはアルコールに混和する有機溶剤中に、Fe又はCoから選択される少なくとも一種の遷移金属の塩又はその錯体と、Pt又はPdから選択される少なくとも一種の貴金属の塩又はその錯体とを溶解させ、不活性雰囲気中で、アルコールによる加熱還流を行うことによって、遷移金属と貴金属とからなる2元系合金を生成することが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−166040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の液相還元法による金属微粒子の製造方法は、有機溶媒中の高温反応での合成方法であるため、簡便性に欠けるとともに高コストであるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子を担持した燃料電池用触媒を、簡便に低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金微粒子を形成する金イオンの還元速度とpHを調整して金微粒子を還元、析出、担持させることによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、第1に、金イオンを、カーボン担体を含む液相反応系中で、還元剤の作用によって還元して、該カーボン担体上に金微粒子として還元、析出、担持させる燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法の発明であって、該金イオンの還元速度を330〜550mV/hの範囲に設定し、且つpHを4.0〜6.0の範囲に設定して、該還元、析出、担持を行う。
【0012】
第2に、本発明は、上記の方法で製造された金微粒子を含む固体高分子型燃料電池用触媒である。本発明で製造された金微粒子は各種触媒などの用途に広く用いられる。その中で、ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子である特徴を生かして燃料電池用触媒として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0013】
金微粒子を形成する金イオンの還元速度とpHを調整して金微粒子を還元、析出、担持させることによって、ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子を担持した担体を、簡便に低コストで製造することが可能となった。ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子を担持した金微粒子担持担体は、燃料電池用触媒として用いると高い発電性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の、液相の反応系は、金イオン源となる金化合物である金塩又は金錯塩と、還元剤とを、各成分に共通の溶媒、特に水に溶解して調製される。そのため、金イオン源となる金化合物である金塩又は金錯塩としては、水等の溶媒に可溶性の種々の金化合物が、いずれも使用可能である。ただし、金化合物は、可能であれば、金微粒子の析出時に核成長の起点となって異常な核成長を生じさせたり、あるいは、触媒性能等を劣化させたりするおそれのある、塩素等のハロゲン元素や、硫黄、リン、ホウ素等の不純物元素を含まないものが好ましい。これにより、平均粒径がナノオーダーで、その形状がより一層、球状ないし粒状で揃っていると共に、粒度分布がシャープな金微粒子を担持した金微粒子担持担体を製造することができる。
【0015】
金イオン源として好適な金化合物である金塩又は金錯塩としては種々の化合物を用いることができる。例えば、テトラクロロ金(III)酸四水和物(HAuCl・4HO)等が挙げられる。
【0016】
還元剤としては、液相の反応系中で、金イオンを還元することで、金微粒子として析出させることができる種々の還元剤が、いずれも使用可能である。かかる還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、遷移金属元素のイオン(三価のチタンイオン、二価のコバルトイオン等)が挙げられる。ただし、析出させる金微粒子の一次粒子径をできるだけ小さくするためには、金イオンの還元速度を330〜550mV/hの範囲に設定し、且つpHを4.0〜6.0の範囲に設定して、該還元、析出、担持を行う必要があり、還元、析出、担持速度を調整するためには、還元力の弱い還元剤を選択して使用することが好ましい。
【0017】
そこで用いられる還元力の弱い還元剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールや、あるいはアスコルビン酸等を挙げることができる他、エチレングリコール、グルタチオン、有機酸類(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)、還元性糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラフィノース、スタキオース等)、および糖アルコール類(ソルビトール等)等を挙げることができる。
【0018】
還元剤の、液相の反応系中での濃度は特に限定されないが、一般に、還元剤の濃度が低いほど、金イオンの還元、析出、担持速度を遅くして、形成される個々の金微粒子担持担体中の金微粒子の一次粒子径を小さくできる傾向があることから、目的とする一次粒子径の範囲等に応じて、好適な濃度の範囲を設定することが好ましい。また、液相の反応系のpHは、できるだけ一次粒子径の小さい合金微粒子を製造することを考慮すると、4.0〜6.0の範囲である。反応系のpHを上記の範囲に調整するためのpH調整剤としては、これも先に説明したように、アルカリ金属やアルカリ土類金属、塩素等のハロゲン元素、硫黄、リン、ホウ素等の不純物元素を含まないアンモニアやカルボン酸アンモニウムが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して金微粒子担持担体の製造方法を説明する。
【0020】
[実施例1]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、これにクエン酸ナトリウム1gを加え十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0021】
[実施例2]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、これにアスコルビン酸1gを加え十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0022】
[実施例3]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、これにクエン酸ナトリウム1gを加え十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0023】
[実施例4]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、これにアスコルビン酸1gを加え十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0024】
[実施例5]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、これにアスコルビン酸1gを加え十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0025】
[実施例6]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、これにアスコルビン酸1gを加え十分に攪拌した。この溶液に水酸化ナトリウムを加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0026】
[実施例7]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、これにタンニン酸1gを加え十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0027】
[比較例1]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、塩酸を加えて溶液pHを調整し、十分に攪拌した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム0.01gを含む水溶液100gを1g/minの速度で滴下し、室温で還元した。
【0028】
[比較例2]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、塩酸を加えて溶液pHを調整し、十分に攪拌した。この溶液にヒドラジン0.01gを含む水溶液100gを1g/minの速度で滴下し、室温で還元した。
【0029】
[比較例3]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、エチレングリコール1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0030】
[比較例4]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、アスコルビン酸1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0031】
[比較例5]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、アスコルビン酸1gを加えて十分に攪拌した。この溶液に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pHを調整し、90℃で還元した。
【0032】
[比較例6]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、タンニン酸1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加え溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0033】
[比較例7]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む亜硫酸金ナトリウム溶液を滴下し、タンニン酸1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に水酸化ナトリウムを加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0034】
[比較例8]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、アスコルビン酸1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0035】
[比較例9]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、アスコルビン酸1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に水酸化ナトリウムを加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0036】
[比較例10]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、クエン酸ナトリウム1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に塩酸を加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0037】
[比較例11]
カーボンを分散させた純水1.2Lに金0.5gを含む塩化金酸溶液を滴下し、クエン酸ナトリウム1gを加えて、十分に攪拌した。この溶液に水酸化ナトリウムを加えて溶液pHを調整し、90℃で還元した。
【0038】
[試験方法]
実施例1〜7、比較例1〜11で得られた金粒子について、リガク製小角広角回折装置(RINT2000)を用い、解析にはリガク製“NANO−Solver(ver.3.1)”を用い、平均粒径を求めた。
【0039】
下記表1に、実施例1〜7、比較例1〜11で得られた金粒子について、還元速度、調整時のpH、及び平均粒径を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
図1に、還元速度と平均粒径の関係を示す。又、図2に、調整時のpHと平均粒径の関係を示す。図1より、金イオンの還元速度を330〜550mV/hの範囲に設定し、図2より、pHを4.0〜6.0の範囲に設定した場合に、平均粒径がナノオーダーの金微粒子を担持した金微粒子担持担体が得られることが分かる。
【0042】
図3に、実施例1〜7の還元、析出、担持のイメージを示す。還元速度と調整時のpHを最適化することにより、金微粒子生成とカーボンへの吸着速度が適正となり、ナノオーダーの金微粒子が担持される。
【0043】
図4に、比較例1、2の還元、析出、担持のイメージを示す。金粒子生成速度が遅いと、核生成より金粒子成長が優先し、粒子が粗大化する。
【0044】
図5に、比較例3〜11の還元、析出、担持のイメージを示す。金粒子生成速度がカーボンへの吸着速度より速いと、金粒子は凝集し、粗大化する。
【0045】
本発明の如く、金微粒子生成とカーボンへの吸着速度を適正とし、金粒子がナノオーダーに微粒子化されると、反応表面積が大きくなり、触媒活性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の方法によって得られる、ナノオーダーの平均粒径を有する金微粒子を担持した担体は、燃料電池用触媒として用いると、高い発電性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】還元速度と平均粒径の関係を示す。
【図2】調整時のpHと平均粒径の関係を示す。
【図3】実施例1〜7の還元、析出、担持のイメージを示す。
【図4】比較例1、2の還元、析出、担持のイメージを示す。
【図5】比較例3〜11の還元、析出、担持のイメージを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金イオンを、カーボン担体を含む液相反応系中で、還元剤の作用によって還元して、該カーボン担体上に金微粒子として還元、析出、担持させる燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法であって、該金イオンの還元速度を330〜550mV/hの範囲に設定し、且つpHを4.0〜6.0の範囲に設定して、該還元、析出、担持を行うことを特徴とする燃料電池用金微粒子担持担体触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で製造された金微粒子を含む固体高分子型燃料電池用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−302015(P2009−302015A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158264(P2008−158264)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】