説明

燃料電池用電極及び膜電極接合体

【課題】触媒粒子の溶出を抑制し、且つ燃料電池の高電流密度での運転時に添加した触媒の機能を十分に引き出せる燃料電池用電極及び膜電極接合体を提供する。
【解決手段】燃料電池用電極は、触媒粒子を導電性担体に担持して成る電極触媒と、該電極触媒を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体及びカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体とを含む電極材を含有する燃料電池用電極であって、該第1のイオン伝導体が該触媒粒子を被覆するように配置されており且つ該第2のイオン伝導体が該第1のイオン伝導体及び該導電性担体の露出部分を被覆するように配置されている。
膜電極接合体は、上記燃料電池用電極をアノード及びカソードのうち少なくとも一方に用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極及び膜電極接合体に関する。更に詳細には、本発明は、触媒粒子の溶出を抑制し、且つ燃料電池の高電流密度での運転時における性能低下を抑制し得る燃料電池用電極及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒、アニオン伝導ポリマー及びカチオン伝導ポリマーを含む固体ポリマー燃料電池用のカソード電極であって、アニオン伝導ポリマーとカチオン伝導ポリマーとの間の界面が、完全にカソード電極の中に配置されており、そして、該触媒が該アニオン伝導ポリマー中に埋め込まれているカソード電極が提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4334222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のカソード電極においては、アニオン伝導ポリマーで触媒全体を単に被覆しており、その被覆構造が十分に検討されていなかったため、添加した触媒を十分活かしきれておらず、燃料電池の高電流密度での運転時において、出力性能が不十分であるという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、その目的とするところは、触媒粒子の溶出を抑制し、且つ燃料電池の高電流密度での運転時に添加した触媒の機能を十分に引き出せる燃料電池用電極及び膜電極接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。そして、その結果、アニオン伝導性を有するイオン伝導体とカチオン伝導性を有するイオン伝導体とを所定の配置とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の燃料電池用電極は、触媒粒子を導電性担体に担持して成る電極触媒と、該電極触媒を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体及びカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体とを含む電極材を含有する燃料電池用電極であって、該第1のイオン伝導体が該触媒粒子を被覆するように配置されており且つ該第2のイオン伝導体が該第1のイオン伝導体及び該導電性担体の露出部分を被覆するように配置されている。
【0008】
本発明の膜電極接合体は、上記本発明の燃料電池用電極をアノード及びカソードのうち少なくとも一方に用いたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒粒子を導電性担体に担持して成る電極触媒と、該電極触媒を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体及びカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体とを含む電極材を含有する燃料電池用電極において、第1のイオン伝導体が触媒粒子を被覆するように配置し且つ第2のイオン伝導体が第1のイオン伝導体及び導電性担体の露出部分を被覆するように配置することなどとしたため、触媒粒子の溶出を抑制し、且つ燃料電池の高電流密度での運転時における性能低下を抑制し、高電流密度な燃料電池用電極及び膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極の一例の一部を示す説明図である。
【図2】アノードにおける反応機構を示す説明図である。
【図3】カソードにおける反応機構を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の一例を示す説明図である。
【図5】低加湿条件における各電流密度に対するセル電圧及び抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図6】高加湿条件における各電流密度に対するセル電圧及び抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図7】可逆水素電極を基準としたサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極の一例の一部を示す説明図である。同図に示すように、本実施形態の燃料電池用電極は、触媒粒子2を導電性担体4に担持して成る電極触媒と、該電極触媒を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体6及びカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体8とを含む電極材10を含有するものである。
また、第1のイオン伝導体6が触媒粒子2を被覆するように配置されており且つ第2のイオン伝導体8が第1のイオン伝導体6及び導電性担体4の露出部分を被覆するように配置されている。
【0012】
そして、このような構成とすることにより、触媒粒子の近傍がアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体によって形成された従来より薄い層により被覆され、他の部分がカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体で被覆される。これによって、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体により触媒粒子及び導電性担体の全てを被覆していた従来のものに比較して、燃料電池の高電流密度での運転時における抵抗増大という性能低下を抑制することができ、電流密度を高く維持できる。
【0013】
また、触媒粒子の近傍をアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体で被覆するため、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり、触媒粒子(例えば白金など)の溶解が抑制でき、耐久性を向上させることができる。
【0014】
更に、触媒粒子の近傍をアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体で被覆するため、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり、ニッケルなどの遷移金属を触媒粒子として用いることができる。これにより、触媒粒子の低白金化や非白金化も可能となる。これにより、触媒種の選択肢が拡がり、コストを削減し得る。
【0015】
また、触媒粒子の近傍をアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体で被覆するため、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり且つ他の部分が酸性環境下となり、水サイクルが触媒近傍で行われ、水バランスを変えることができる。
【0016】
更に、上述のような効果を一層向上させるという観点からは、第1のイオン伝導体が触媒粒子と接して配置されており、第2のイオン伝導体が第1のイオン伝導体及び導電性担体と接して配置されていることが望ましい。
【0017】
更にまた、上述のような効果をより一層向上させるという観点からは、第1のイオン伝導体の平均被覆厚みが0.5nm以上5nm以下であることが好ましい。
ここで、平均被覆厚み(tionomer)は、下記(1)式から算出される。
【0018】
【数1】

【0019】
(式(1)中、mionomerは電極触媒1g当たりの第1のイオン伝導体の質量、ρionomerは第1のイオン伝導体の密度、Scatalystは触媒粒子の被覆面積、Wcatalystは電極触媒中の触媒粒子の質量割合を示す。)
【0020】
また、上記式(1)中のmionomerは、下記(2)式から算出される。
【0021】
【数2】

【0022】
(式(2)中、θionomer/catalystは第1のイオン伝導体/導電性担体の質量比、Wcatalystは電極触媒中の触媒粒子の質量割合を示す。)
【0023】
図2は、アノードにおける反応機構を示す説明図である。
同図に示すように、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体6が触媒粒子2に接して配置されることにより、触媒粒子2の近傍が塩基性環境下となるため、触媒粒子2と第1のイオン伝導体6との界面においては、下記(3)式で表される水素酸化反応が進行する。更に、第1のイオン伝導体6を第2のイオン伝導体8で被覆するため、第1のイオン伝導体6と第2のイオン伝導体8との界面においては、下記(4)式で表される水解離反応が進行する。このようにして、触媒粒子2の近傍において水のサイクルが行われ、水バランスを変えることができる。
【0024】
2H+4OH→4HO+4e…(3)
【0025】
O→OH+H…(4)
【0026】
図3は、カソードにおける反応機構を示す説明図である。
同図に示すように、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体6が触媒粒子2に接して配置されることにより、触媒粒子2の近傍が塩基性環境下となるため、触媒粒子2と第1のイオン伝導体6との界面においては、下記(5)式で表される酸素還元反応が進行する。更に、第1のイオン伝導体6を第2のイオン伝導体8で被覆するため、第1のイオン伝導体6と第2のイオン伝導体8との界面においては、下記(6)式で表される水生成反応が進行する。このようにして、触媒粒子2の近傍において水のサイクルが行われ、水バランスを変えることができる。
【0027】
+2HO+4e→4OH…(5)
【0028】
OH+H→HO…(6)
【0029】
ここで、各構成について詳細に説明する。
第1のイオン伝導体としては、アニオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、アニオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーであることが望ましい。また、水及びガスの透過能を有するものであることが望ましい。
アニオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーとしては、例えばアニオン(水酸化物イオンOH)を移動させることのできる種々の樹脂を用いることができる。具体的には、スチレン−ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム共重合体、N,N−ジアルキルアルキレンアンモニウム、ポリビニルベンジルトリアルキルアンモニウム(PVBTMA)、ポリビニルアルキルトリアルキルアンモニウム、アルキレン−ビニルアルキレントリアルキルアンモニウム共重合体等が挙げられる。その中でも、化学的安定性に優れるという理由から、スチレン−ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム共重合体、PVBTMAを用いることが望ましい。
【0030】
第2のイオン伝導体としては、カチオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーであることが望ましい。また、水及びガスの透過能を有するものであることが望ましい。
カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーとしては、例えばカチオン(水素イオンH)を移動させることのできる種々の樹脂を用いることができる。例えば、スルホン酸樹脂、ホスホン酸樹脂、カルボン酸樹脂、イミド樹脂等を用いることが好適である。
【0031】
スルホン酸樹脂としては、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)(旭化成株式会社製) 、フレミオン(登録商標)(旭硝子株式会社製)等として知られる四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルスルホン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸、架橋ポリスチレンスルホン酸、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−g−ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリアリレーンエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリアリレーンエーテルスルホン、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸、スルホン化ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、スルホン化ポリベンジルシラン樹脂、スルホン化ポリイミド樹脂、ポリビニルスルホン酸、スルホン化フェノール樹脂、スルホン化ポリアミド樹脂等を挙げることができる。
【0032】
ホスホン酸樹脂としては、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルホスホン酸共重合体、ポリスチレンホスホン酸、架橋ポリスチレンホスホン酸、ポリビニルベンジルホスホン酸、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−g−ポリスチレンホスホン酸、ホスホン酸化ポリアリレーンエーテルエーテルケトン、ホスホン酸化ポリアリレーンエーテルスルホン、ポリトリフルオロスチレンホスホン酸、ホスホン酸化ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、ホスホン酸化ポリベンジルシラン樹脂、ホスホン酸化ポリイミド樹脂、ポリビニルホスホン酸、ホスホン酸化フェノール樹脂、ホスホン酸化ポリアミド樹脂、ポリベンズイミダゾールりん酸複合樹脂等を挙げることができる。
【0033】
カルボン酸樹脂としては、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルカルボン酸共重合体、ポリビニル安息香酸、架橋ポリビニル安息香酸、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−g−ポリビニル安息香酸、カルボン酸化ポリアリレーンエーテルエーテルケトン、カルボン酸化ポリアリレーンエーテルスルホン、ポリトリフルオロスチレンカルボン酸、カルボン酸化ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、カルボン酸化ポリベンジルシラン樹脂、カルボン酸化ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
【0034】
イミド樹脂としては、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルスルホンイミド酸共重合体、ポリスチレントリフルオロメチルスルホンイミド等を挙げることができる。
【0035】
カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーは、後述する電解質膜に用いる樹脂と同種であることが望ましい。電解質膜と同種の樹脂を燃料電池用電極に配置することで、燃料電池用電極と電解質膜との接合性が良好となり、プロトン伝導性が向上する。よって、カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーは、使用する電解質膜の種類を考慮して、適宜選択すればよい。
【0036】
触媒粒子としては、例えば白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、鉄、タングステン、クロム、モリブデン、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムなどの単体、合金、酸化物、窒化物、炭化物、金属錯体、更にはこれらの複合体を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
導電性担体としては、カーボン、導電性酸化物、導電性窒化物、導電性炭化物、更にはこれらの複合体を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
次に、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体について図面を参照しながら詳細に説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の一例を示す説明図である。同図に示すように、本実施形態の燃料電池用電極は、上述した本発明の一実施形態に係る燃料電池用電極をアノード及びカソードに用いたものである。
また、燃料電池用電極は、触媒粒子を導電性担体に担持して成る電極触媒と、該電極触媒を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体及びカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体とを含む電極材を含有するものである。
なお、電極材においては、第1のイオン伝導体が触媒粒子を被覆するように配置されており且つ第2のイオン伝導体が第1のイオン伝導体及び導電性担体の露出部分を被覆するように配置されている。
【0039】
そして、このような構成とすることにより、触媒粒子の近傍がアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体によって形成された従来より薄い層により被覆され、他の部分がカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体で被覆される。これによって、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体により触媒粒子及び導電性担体の全てを被覆していた従来のものに比較して、燃料電池の高電流密度での運転時における抵抗増大という性能低下を抑制することができる。
【0040】
また、触媒粒子の近傍をアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体で被覆するため、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり、触媒粒子(例えば白金など)の溶解が抑制でき、耐久性を向上させることができる。更に、触媒粒子の近傍をアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体で被覆するため、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり、ニッケルなどの遷移金属を触媒粒子として用いることができる。これにより、触媒粒子の非白金化も可能となる。また、触媒粒子の近傍をアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体で被覆するため、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり且つ他の部分が酸性環境下となり、水サイクルが触媒近傍で行われ、水バランスを変えることができる。
アノード及びカソードにおける反応機構は上述したとおりであるが、正味の反応としては、下記(7)式で表される反応が進行する。
【0041】
2H+O→2HO…(7)
【0042】
ここで、電解質膜について詳細に説明する。
電解質膜は、カチオン伝導性を有するイオン伝導体であれば特に限定されるものではないが、カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーであることが望ましい。
カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーとしては、例えばカチオン(水素イオンH+)を移動させることのできる種々の樹脂を用いることができる。例えば、上述したスルホン酸樹脂、ホスホン酸樹脂、カルボン酸樹脂、イミド樹脂等を用いることができる。
【0043】
上述した膜電極接合体は、例えば以下のような方法によって作製することができる。
まず、導電性担体に金属の触媒粒子を分散担持させて電極触媒を作製する。このときは、沈殿法、ゲル化法、含浸法、イオン交換法など従来公知の方法を適用することができる。
次いで、金属の触媒粒子を担持した導電性担体とアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体と第1のイオン伝導体の溶媒とを混合する。このとき、第1のイオン伝導体は、電極触媒全体を被覆しない程度の割合で添加し、混合、濃縮する。なお、濃縮して乾燥させることにより、再度同種又は異種の溶媒に添加した場合であっても、溶解し難くなる。また、この工程は数回の予備試験(調製及び乾燥後における走査型電子顕微鏡による観察)をすることによって、所望の構造が形成されているか否かの確認を行う。また、第1のイオン伝導体は、その性質上、導電性担体(例えばカーボン)に比して金属の触媒粒子に吸着し易いため、添加量を少なくすることによって、第1のイオン伝導体が触媒粒子のみを被覆するようにすることが可能となる。
更に、カチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体と第2のイオン伝導体の溶媒(但し、第1のイオン伝導体に対する溶解性が高くないものを用いることが望ましい。)を添加し、混合する。
しかる後、得られた混合物を電解質膜に直接スプレー塗布又は転写材(例えばフィルムやガス拡散層など。)にスプレー塗布し、それを電解質膜に転写する。このようにして、膜電極接合体を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。
次いで、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体としてのアニオン交換型(伝導性)アイオノマー(トクヤマ社製、AS−3)を電極触媒に対する第1のイオン伝導体の割合(第1のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.2となるように添加し、混合して濃縮した。乾燥後、SEMにて確認したところ、触媒粒子が第1のイオン伝導体で被覆されており、更に導電性担体の一部が露出していることが確認できた。
更に、カチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体としてのカチオン交換型(伝導性)アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対する第2のイオン伝導体の割合(第2のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.8となるように添加して混合した。
得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例の燃料電池用電極(アノード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
一方、電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。次いで、カチオン伝導性を有するイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対するイオン伝導体の割合(イオン伝導体/カーボン)が質量比で1.0となるように添加して混合した。得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例で用いる燃料電池用電極(カソード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm(5.0cm×5.0cm))に燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各燃料電池用電極を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各燃料電池用電極を接合して、本例の膜電極接合体を得た。
なお、白金担持カーボン中の白金の割合は50質量%であり、アニオン交換型アイオノマー/カーボンの重量比は0.2である。また、「白金担持カーボン中の白金の割合」や「アニオン交換型アイオノマー/カーボンの重量比」は、例えば仕込み量やカタログ値から分かるものであり、白金の被覆面積は、COパルス法などの測定やカタログ値から分かるものである。
【0046】
(実施例2)
電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。
次いで、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体としてのアニオン交換型アイオノマー(トクヤマ社製、AS−3)を電極触媒に対する第1のイオン伝導体の割合(第1のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.2となるように添加し、混合して濃縮した。乾燥後、SEMにて確認したところ、触媒粒子が第1のイオン伝導体で被覆されており、更に導電性担体の一部が露出していることが確認できた。
更に、カチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対する第2のイオン伝導体の割合(第2のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.8となるように添加して混合した。
得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例の燃料電池用電極(カソード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
一方、電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。次いで、カチオン伝導性を有するイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対するイオン伝導体の割合(イオン伝導体/カーボン)が質量比で1.0となるように添加して混合した。得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例で用いる燃料電池用電極(アノード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm(5.0cm×5.0cm))に燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各燃料電池用電極を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各燃料電池用電極を接合して、本例の膜電極接合体を得た。
【0047】
(比較例1)
電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。
次いで、カチオン伝導性を有するイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対するイオン伝導体の割合(イオン伝導体/カーボン)が質量比で1.0となるように添加して混合した。
得られた混合物を2つのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例で用いる燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成した。なお、それぞれの白金使用量は0.35mg/cmであった。
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm(5.0cm×5.0cm))に燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各燃料電池用電極を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各燃料電池用電極を接合して、本例の膜電極接合体を得た。
【0048】
(比較例2)
電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。
次いで、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体としてのアニオン交換型アイオノマー(トクヤマ社製、AS−3)を電極触媒に対する第1のイオン伝導体の割合(第1のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.5となるように添加し、混合して濃縮した。乾燥後、SEMにて確認したところ、触媒粒子が第1のイオン伝導体で被覆されており、更に導電性担体の一部が露出していることが確認できなかった。
更に、カチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対する第2のイオン伝導体の割合(第2のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.5となるように添加して混合した。
得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例の燃料電池用電極(アノード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
一方、電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。次いで、カチオン伝導性を有するイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対するイオン伝導体の割合(イオン伝導体/カーボン)が質量比で1.0となるように添加して混合した。得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例で用いる燃料電池用電極(カソード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm(5.0cm×5.0cm))に燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各燃料電池用電極を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各燃料電池用電極を接合して、本例の膜電極接合体を得た。
【0049】
(比較例3)
電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。
次いで、アニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体としてのアニオン交換型アイオノマー(トクヤマ社製、AS−3)を電極触媒に対する第1のイオン伝導体の割合(第1のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.8となるように添加し、混合して濃縮した。乾燥後、SEMにて確認したところ、触媒粒子が第1のイオン伝導体で被覆されており、更に導電性担体の一部が露出していることが確認できなかった。
更に、カチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対する第2のイオン伝導体の割合(第2のイオン伝導体/カーボン)が質量比で0.2となるように添加して混合した。
得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例の燃料電池用電極(カソード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
一方、電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。次いで、カチオン伝導性を有するイオン伝導体としてのカチオン交換型アイオノマー(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)D2020)を電極触媒に対するイオン伝導体の割合(イオン伝導体/カーボン)が質量比で1.0となるように添加して混合した。得られた混合物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例で用いる燃料電池用電極(アノード用)を形成した。白金使用量は0.35mg/cmであった。
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm(5.0cm×5.0cm)に燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各燃料電池用電極を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各燃料電池用電極を接合して、本例の膜電極接合体を得た。
【0050】
(比較例4)
電極触媒としてKetjenblackにPtを50質量%担持した白金担持カーボンと水及びNPA(1−プロパノール)とをサンドグラインダー(アイメックス社製)の容器に投入して粉砕した。
次いで、アニオン伝導性を有するイオン伝導体としてのアニオン交換型アイオノマー(トクヤマ社製、AS−3)を電極触媒に対するイオン伝導体の割合(イオン伝導体/カーボン)が質量比で1.0となるように添加して混合した。
得られた混合物を2つのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の片面にスプレー塗布して、本例で用いる燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成した。なお、それぞれの白金使用量は0.35mg/cmであった。
電解質膜(デュポン社製、ナフィオン(登録商標)NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人Dupont社製、テオネックス、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置し、電解質膜の露出部(作用面積:25cm(5.0cm×5.0cm)に燃料電池用電極(アノード用)及び燃料電池用電極(カソード用)を形成したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を配置し、0.8MPaの圧力を加えて、電解質膜と各燃料電池用電極を密着させて、150℃で、10分間加熱し、電解質膜と各燃料電池用電極を接合して、本例の膜電極接合体を得た。
【0051】
[I−V性能評価]
各例の膜電極接合体についてガス拡散層(SGL GROUP製、25BC)で挟持して評価セルに組み込んだ後、低加湿条件(流速一定(FR const.)、アノード相対湿度(RHa)20%、カソード相対湿度(RHc)20%、アノード圧力(Pa)100kPa−g(ゲージ圧)、カソード圧力(Pc)100kPa−g)及び高加湿条件(流速一定(FR const.)、アノード相対湿度(RHa)90%、カソード相対湿度(RHc)90%)、アノード圧力(Pa)100kPa−g、カソード圧力(Pc)100kPa−g)において、各電流密度(Current density)に対するセル電圧(Cell voltage)と抵抗(Resistivity)を測定した。
得られた結果を図5及び図6に示す。なお、セル電圧については実線により、抵抗については破線により示す。
図5及び図6より、低加湿条件下及び高加湿条件下において、実施例1及び実施例2は、比較例1と同等の発電性能が得られることが分かる。また、図5より、低加湿条件下において、実施例1においては、若干であるが発電性能が上がっていることが分かる。
【0052】
[燃料電池用電極のCV形状比較]
各例で得られた燃料電池用電極について、温度80℃、相対湿度100%の条件下、可逆水素電極(Potential vs.RHE)を基準として、電流密度(Current density)を測定した。
得られた結果を図7に示す。
図7により、実施例1と比較例1はプロトン吸脱着ピーク及び白金酸化還元ピークが異なることが分かる。Pt量が同じであるにもかかわらずピーク形状が異なるため、実施例1においてはナフィオン(登録商標)以外のものにより電極触媒が被覆されていることが分かり、所望の構造が形成されていることが分かる。つまり、アニオン伝導性(水酸化物イオン伝導性)を有する第1のイオン伝導性ポリマーが触媒粒子である白金を被覆するように直接配置されており、カチオン伝導性(水素イオン伝導性)を有する第2のイオン伝導性ポリマーが第1のイオン伝導性ポリマー及び導電性担体であるカーボンの露出部分を被覆するように直接配置されている。この被覆により、触媒粒子である白金の溶出(劣化)が抑制されると推測される。また、この被覆により、触媒粒子の近傍が塩基性環境下となり且つ他の部分が酸性環境下となり、水サイクルが触媒近傍で行われ、水バランスを変えることができると推測される。
また、アノード及びカソードの両方に適用した場合にも、上述した効果と同様の効果が得られると推測される。
【符号の説明】
【0053】
2 触媒粒子
4 導電性担体
6 第1のイオン伝導体
8 第2のイオン伝導体
10 電極材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子を導電性担体に担持して成る電極触媒と、該電極触媒を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体及びカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体とを含む電極材を含有する燃料電池用電極であって、
上記第1のイオン伝導体が上記触媒粒子を被覆するように配置されており且つ上記第2のイオン伝導体が上記第1のイオン伝導体及び上記導電性担体の露出部分を被覆するように配置されていることを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項2】
上記第1のイオン伝導体が上記触媒粒子と接して配置されており且つ上記第2のイオン伝導体が上記第1のイオン伝導体及び上記導電性担体と接して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
上記第1のイオン伝導体と上記第2のイオン伝導体とがイオン伝導性ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
上記第1のイオン伝導体が水酸化物イオン伝導性を有し、上記第2のイオン伝導体が水素イオン伝導性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
上記触媒粒子が、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、タングステン、クロム、モリブデン、タンタル、ニオブ、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む単体、合金、酸化物、窒化物、炭化物、金属錯体並びにこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のものを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
上記導電性担体が、カーボン、導電性酸化物、導電性窒化物、導電性炭化物及びこれらの複合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のものを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の燃料電池用電極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の燃料電池用電極をアノードに用いたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の燃料電池用電極をカソードに用いたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の燃料電池用電極をアノード及びカソードに用いたことを特徴とする膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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