説明

燃料電池用電極触媒、並びにその製造方法及び固体高分子型燃料電池

【課題】燃料電池に高い質量活性及び低加湿出力性能を付与できる燃料電池用電極触媒の製造方法の開発とその提供を目的とする。また、その製造方法によって得られた燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池の提供を目的とする。
【解決手段】燃料電池用電極触媒の製造方法が白金又は白金合金を担持した担体に酸化タンタルをさらに担持させる工程と、それを300℃〜380℃で焼成する工程を含むことで上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒、並びにその製造方法及び固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子電解質型燃料電池における電極触媒のカソード及びアノード触媒には、白金又は白金合金等の貴金属をカーボンブラックに担持した触媒が用いられてきた。一般的に、白金担持カーボンブラック触媒(以下、Pt/C触媒とする)は、塩化白金酸水溶液に亜硫酸水素ナトリウムを加えた後、過酸化水素水と反応させ、生じた白金コロイドをカーボンブラックに担持させて、洗浄後、必要に応じて熱処理することにより調製される。高分子電解質型燃料電池の電極は、白金担持カーボンブラックを高分子電解質溶液に分散させてインクを調製し、そのインクをカーボンペーパーなどのガス拡散基材に塗布し、乾燥することにより作製される。高分子電解質膜を前記電極2枚で挟み、ホットプレスをすることにより電解質膜−電極接合体(MEA)が組立てられる。
【0003】
ところで、白金は高価な貴金属であり、アノード触媒及びカソード触媒ともに、少ない担持量で十分な性能を発揮させることが望まれている。しかし、現在のところ、1台あたりの自動車用燃料電池に必要とされる白金使用量は依然多く、将来、燃料電池車を普及させるためには白金使用量の大幅な低減が求められている。そのため、より少量の白金で触媒活性を高める検討がなされ、その結果、白金と種々の金属とからなる合金触媒等が開発されている。具体的には、CO被毒の回避を目的とした白金とルテニウム又はモリブデン等とからなる合金触媒が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、白金−コバルト合金を触媒成分とする燃料電池用電極触媒の発明が開示されている。この発明は、触媒表面及び/又は触媒近傍に遷移金属−4窒化物構造(MN4構造)を配置して触媒の耐久性を向上させることができる。しかし、この電極触媒では白金や白金−コバルト合金の表面にOHが吸着して一時被毒することを原因とする触媒活性の劣化を解決できておらず、実用的な自動車用燃料電池にまでは至っていない。
【0005】
次に、カソード触媒において白金量が多くなる理由について述べる。カソード反応では反応中間体であるOHが白金表面に一時被毒し、これが反応を阻害する。被毒した白金は、還元されるまで反応することができず、このとき過電圧が発生するため電圧をロスしてしまう。これは、電流−電圧(IV)カーブにおいて低電流密度域で電圧が急速に落ち込む現象として観測される。それ故、所定の効率(燃費)を得るには最頻出電流密度において所定の電圧値を得る必要がある。この電圧値と白金量との間には実験的に70mV/decadeの関係が見出されている。すなわち、白金目付け量が1/10になると電圧値が70mV低下する関係となる。現在の触媒技術では前記所定の電圧値を得るためには白金量で補うしかないというのが現状である。これが白金量の多くなる理由である。
【0006】
カソード触媒の白金量を低減させるためには、白金の単位質量あたりの活性(質量活性)の向上が必要となる。1990年頃から白金をCo、Fe、Ni等遷移金属と合金化することによって、白金の質量活性を向上させる試みが行われている。これら白金合金触媒の性能向上メカニズムの研究により、白金合金触媒表面上で、OH吸着による一時被毒が緩和されることが明らかとなった。OHの吸着力は、OHと白金表面(フェルミレベル)の電子的相互作用によって決まる。一般に、白金表面の電子密度が高いほどOHとの相互作用が強くなり強固な吸着となる。白金合金触媒は、合金化により白金表面の電子密度が下がることで、OHの吸着力を弱め一時被毒を緩和できることが理論的及び実験的に証明されてきている。
【0007】
現在では白金−コバルト合金のような白金合金触媒が実用段階に入っている。しかしながら、依然として白金合金触媒でのOHの一時被毒を原因とする過電圧は大きく、白金の質量活性を飛躍的に高めるには、OH被毒をさらに緩和する必要がある。また、合金触媒では合金成分がイオンとして溶出し、これが触媒層中アイオノマ中のプロトン伝導阻害を誘発することも指摘されている。
【0008】
触媒化学の分野では、1980年頃からSMSI(Strong Metal Support Interaction)に関する研究が始まっている。SMSIとは金属と担体の電子的相互作用によって触媒の活性・選択性向上など特異な機能を引き出す概念である。例えば、自動車用三元触媒のPt/CeO2が有する酸素吸放出能も、SMSIの一つである。このSMSIを利用した研究が燃料電池用電極触媒の分野でも進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−44659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らも様々な金属酸化物をPt/C触媒に添加した燃料電池用電極触媒の開発を行ってきた。その結果、Pt/C触媒に酸化タンタルを担持させることによって白金単位質量あたりの活性が増大し、それによって燃料電池の出力性能を改善できることを見出した。そこで、その知見に基づいた発明を出願した(特願2009−5969号)。しかし、当該発明の出力性能はまだ十分とは言えず、実用レベルとしては一層の向上が必要であった。
【0011】
白金又は白金合金を担持した担体に酸化タンタルを担持させる条件を検討し、燃料電池の質量活性及び低加湿出力性能をさらに引き出すことのできる燃料電池用電極触媒の製造方法の開発とその提供を目的とする。また、その製造方法によって得られた燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、白金又は白金合金を担持したカーボンに酸化タンタルを助触媒として担持させた燃料電池用電極触媒において白金の単位質量活性及び燃料電池の低加湿下での出力性能を向上させることのできる製造方法を見出した。本明細書は、当該知見に基づく以下の発明を包含する。
(1)白金又は白金合金を担持した担体に酸化タンタルをさらに担持させる工程、及び白金又は白金合金及び酸化タンタルを担持した担体を300℃〜380℃で焼成する工程を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
(2)担体がカーボンである、(1)に記載の製造方法。
(3)前記(1)又は(2)に記載の製造方法によって得られた燃料電池用電極触媒。
(4)前記(3)に記載の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、同一組成の電極触媒を備えた燃料電池と比較して、燃料電池の性能、特に低加湿条件下における出力性能及び触媒成分である白金の単位質量あたりの活性がより向上した燃料電池用電極触媒を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各焼成温度における白金(Pt)の粒径
【図2】各焼成温度におけるCO吸収量
【図3】各焼成温度における質量活性
【図4】各焼成温度における低加湿(40%RH)雰囲気下での出力性能
【図5】各焼成温度におけるガス拡散過電圧
【図6】各焼成温度におけるH+伝導過電圧
【図7】各焼成温度における抵抗過電圧
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.燃料電池用電極触媒の製造方法
本発明の一の実施形態は、燃料電池用電極触媒の製造方法である。本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、タンタル担持工程、及び焼成工程を含む。以下、それぞれの工程について具体的に説明をする。
【0016】
(1)タンタル担持工程
「タンタル担持工程」は、本発明の製造方法において、白金又は白金合金を担持した担体に酸化タンタルをさらに担持させる工程である。
【0017】
「白金又は白金合金」は、本発明の製造方法によって得られる燃料電池用電極触媒の触媒成分である。白金は高価な貴金属であり、アノード触媒、カソード触媒ともに、少ない担持量で十分な性能を発揮させることが好ましい。そこで、白金の触媒活性を損なうことなくその使用量を削減するために、白金と種々の遷移金属からなる白金合金を触媒成分にとして用いることもできる。遷移金属としては、例えば、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、オスニウム(Os)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、又は金(Au)から選択される一以上が挙げられる。
【0018】
「担体」は、本発明の触媒成分である白金又は白金合金を担持し、かつそれ自体が導電性を具備するものであれば特に限定されない。例えば、燃料電池用電極触媒で慣用されている様々な材料を使用することができる。好ましくは、カーボンである。炭素粉末のように比表面積が大きい担体材料は、より広い触媒担持面積を確保することで担持する触媒粒子の微小化が可能となり、その結果、触媒活性を向上させることができるので、特に好ましい。本発明の製造方法で使用される担体は、電気抵抗率が0.05〜0.50Ωcmであることが好ましい。また、比表面積が30〜1500m2/gであることが好ましい。電気抵抗率はJIS K1469によって測定することができる。また、比表面積は、窒素BET吸着法によって測定することができる。好適な担体材料は、限定はしないが、例えば、カーボンブラック(例えば、Ketjen EC;ケチェンブラックインターナショナル製)、アセチレンブラック(例えば、ケチェンブラックインターナショナル製)、バルカンXC-72R(Cabot製)、デンカブラック(DENKA製)、ファーネスブラック、グラファイトのようなカーボン微粒子である。
【0019】
「白金又は白金合金を担持した担体」とは、本工程において、予め白金又は白金合金を担持した担体である。つまり、本発明の製造方法で使用する担体は、タンタルを担持する前に、白金又は白金合金を直接接した状態で既に担持している。それ故、本発明の製造方法で得られる電極触媒は、使用時に担体から白金又は白金合金への電子の流れが、酸化タンタルによって抑制又は阻害されることがない又はその可能性が低いという利点を持つ。
【0020】
前記白金又は白金合金を担持した担体は、当業界で慣用される様々な方法を用いて製造することができる(以下、白金担持工程という)。本発明の製造方法において、白金又は白金合金を担持した担体の使用は必須であるが、白金担持工程は必須の構成要素ではなく、例えば、カーボンブラックが既に白金を担持した状態の市販の製品(例えば、白金触媒標準品TEC10シリーズ:田中貴金属グループ、カソード用触媒IFPC20, 40, 60シリーズ:石福金属興業、又はHiSPECTM Fuel Cell Catalysts: Johnson Matthey Fuel Cells社)を利用することもできる。したがって、白金担持工程は、必要に応じて追加すればよい。白金担持工程は、例えば、白金錯体と担体を水中で接触させて混合物とする工程(接触工程);その混合物に塩基を加えてアルカリ性とし、白金錯体を不溶性の水酸化物として担体表面に析出させる工程(析出工程);白金水酸化物が析出した担体を回収する工程(担体回収工程);回収した担体を真空下で乾燥する工程(乾燥工程);ならびに乾燥した担体を水素雰囲気下で熱還元して、白金が担体に担持した電極触媒粉末を得る工程(熱還元工程)を含むことができる。白金を担持した担体に遷移金属を合金化することにより、白金合金担持担体を得ることができる。
【0021】
白金又は白金合金の担持密度は、電極触媒の総重量に対する担持された白金又は白金合金の重量%で定義される。かかる担持密度は、白金の場合には、{白金重量/(白金重量+担体重量)}×100の計算式により算出される。また、白金合金の場合には、{(白金重量+遷移金属重量)/(白金重量+遷移金属重量+担体重量)}×100の計算式により算出される。本発明の燃料電池用電極触媒において、白金又は白金合金の担持密度は10〜60重量%であることが好ましい。
【0022】
白金合金の組成は、担持された白金合金の総重量に対する白金及び/又は遷移金属の重量%で定義される。かかる組成は、{白金重量/(白金重量+遷移金属重量)}×100の計算式により算出される。本発明の燃料電池用電極触媒において、白金合金の組成は白金が90〜100重量%に対して遷移金属が0〜10重量%であることが好ましい。
【0023】
「タンタル」は、本発明の燃料電池用電極触媒において助触媒としての機能を有し、白金又は白金合金の被毒を緩和し、SMSI効果を引き出すことができる。
【0024】
本発明の製造方法において使用されるタンタルは、金属塩状態であればよい。例えば、塩化タンタルを使用することができる。また、本発明の燃料電池用電極触媒に担持されたタンタルは、酸化状態となった酸化タンタルである。好ましくは、Ta2O5に近い酸化状態のタンタルである。
【0025】
触媒成分である白金又は白金合金に酸化タンタルを助触媒として担持させることにより、白金又は白金粒子の粒径の増大を抑制することができる。触媒粒子の粒径の微小状態の維持は、触媒の表面積の向上につながり、結果的に白金単位質量あたりの活性(質量活性)を向上させることができる。また、酸化タンタルは、触媒粒子の表面を覆うように存在することによって、COが触媒粒子の表面に吸着することを抑制すると考えられている。それ故、酸化タンタルの担持により、その担持量依存的にCO吸着を有意に抑制することも可能となる。
【0026】
タンタル担持工程は、前記白金又は白金合金を担持した担体にタンタルを担持できる当業界で公知の様々な方法で行い得る。例えば、白金又は白金合金を担持した担体(電極触媒粉末)とタンタルを水中で接触させて混合物溶液とする工程(タンタル接触工程);該混合物溶液に塩基を加えてタンタルを不溶性のタンタル酸化物とし、電極触媒粉末表面に析出させる工程(タンタル酸化物析出工程);タンタル水酸化物が析出した電極触媒粉末を回収する工程(電極触媒粉末回収工程);及び回収した電極触媒粉末を真空下で乾燥する工程(電極触媒粉末乾燥工程)を含むことができる。
【0027】
タンタルは、本発明の製造方法において、白金又は白金合金に対して0.005〜0.5のモル比で添加されることが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法では、酸化タンタルに加えて、他の金属酸化物をさらに担持させることもできる。例えば、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化シリコン又は酸化スズのような遷移金属酸化物が挙げられる。
【0029】
(2)焼成工程
「焼成工程」は、本発明の製造方法において、白金又は白金合金及び酸化タンタルを担持した担体を焼成する工程である。本発明の製造方法における、もう一つの特徴は、本工程における焼成温度を比較的低温の300℃〜380℃で熱処理することである。300℃よりも低い温度では酸化タンタルの生成が起こらず、また、380℃を超える焼成温度は、本発明の燃料電池用電極触媒と比較して燃料電池の出力性能を十分に高めることができないため、好ましくない。
【0030】
焼成担持工程は、電極触媒を焼成処理(熱処理)するための公知の方法で行い得る。例えば、乾燥した電極触媒の粉末を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下において300℃〜380℃で焼成する。焼成時間は、30〜300分間であることが好ましい。
上記工程を経て、本発明の燃料電池用電極触媒を得ることができる。
【0031】
2.燃料電池用電極触媒
本発明の一の実施形態は、前記本発明の製造方法によって得られた燃料電池用電極触媒である。すなわち、白金又は白金合金を担体表面上に担持し、さらに酸化タンタルを担持させたものを300℃〜380℃で焼成処理することによって得られた燃料電池用電極触媒である。
【0032】
本触媒は、後述の固体高分子型燃料電池に備えることによって、前記温度範囲外の焼成温度で製造された同組成の燃料電池用電極触媒よりも高い質量活性及び低加湿出力性能をその燃料電池に付与することができる。
【0033】
したがって、本発明の燃料電池用電極触媒は、燃料電池に求められる質量活性及び低加湿出力性能という異なる性能の向上を両立するという、極めて有用な利点を有する。
【0034】
3.固体高分子型燃料電池
本発明の一の実施形態は、前記本発明の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池である。
【0035】
上記で説明したように、本発明の燃料電池用電極触媒は、同組成の他の焼成温度で製造された電極触媒よりも燃料電池の性能向上に寄与する性質を有する。それ故、本発明の燃料電池用電極触媒を備えた燃料電池は、質量活性及び低加湿性能を一層向上させることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
[Ta/Pt/C触媒の調製]
酸化タンタルを担持する燃料電池用電極触媒に関して、その製造時の焼成温度の違いが、製造後のその電極触媒を燃料電池に備えた際に特性差をもたらし得るか否か検証するため、焼成温度を300〜700℃の範囲で変化させて製造した。
【0037】
<比較例1>:Pt/C(700℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(ケチェンブラックインターナショナル製)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0038】
(焼成工程) 次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理した後、窒素ガス中で700℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
【0039】
本比較例で得られた触媒粉末は、タンタル未担持の対照触媒であって、かつ700℃で2時間処理されたPt(45wt%)/Cの構成を有する。
【0040】
<比較例2>:Pt/C(500℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0041】
(焼成工程) 次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理した後、窒素ガス中で500℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
【0042】
本比較例で得られた触媒粉末は、タンタル未担持の対照触媒であって、かつ500℃で2時間処理されたPt(45wt%)/Cの構成を有する。
【0043】
<比較例3>:Pt/C(400℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0044】
(焼成工程) 次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理した後、窒素ガス中で400℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
【0045】
本比較例で得られた触媒粉末は、タンタル未担持の対照触媒であって、かつ400℃で2時間処理されたPt(45wt%)/Cの構成を有する。
【0046】
<比較例4>:Pt/C(300℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0047】
(焼成工程) 次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理した後、窒素ガス中で300℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
【0048】
本比較例で得られた触媒粉末は、タンタル未担持の対照触媒であって、かつ300℃で2時間処理されたPt(45wt%)/Cの構成を有する。
【0049】
<実施例1>:Ta/Pt/C(700℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理して触媒粉末を得た。
【0050】
(タンタル担持工程) 上記触媒粉末と塩化タンタル0.39gを純水0.5Lに加え分散させた。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6としタンタル酸化物を形成させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0051】
(焼成工程) 次に窒素ガス中で700℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
【0052】
本実施例で得られた触媒粉末は、酸化タンタルを白金に対して0.2のモル比で担持した触媒であって、700℃で2時間処理されたTa(7.8wt%)/Pt(41.5wt%)/Cの構成を有する。
【0053】
<実施例2>:Ta/Pt/C(500℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理して触媒粉末を得た。
【0054】
(タンタル担持工程)上記触媒粉末と塩化タンタル0.39gを純水0.5Lに加え分散させた。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6としタンタル酸化物を形成させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0055】
(焼成工程) 次に窒素ガス中で500℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
本実施例で得られた触媒粉末は、酸化タンタルを白金に対して0.2のモル比で添加した触媒であって、500℃で2時間処理されたTa(7.8wt%)/Pt(41.5wt%)/Cの構成を有する。
【0056】
<実施例3>:Ta/Pt/C(400℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理して触媒粉末を得た。
【0057】
(タンタル担持工程)上記触媒粉末と塩化タンタル0.39gを純水0.5Lに加え分散させた。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6としタンタル酸化物を形成させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0058】
(焼成工程) 次に窒素ガス中で400℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
本実施例で得られた触媒粉末は、酸化タンタルを白金に対して0.2のモル比で添加した触媒であって、400℃で2時間処理されたTa(7.8wt%)/Pt(41.5wt%)/Cの構成を有する。
【0059】
<実施例4>:Ta/Pt/C(300℃)
(白金担持工程) 市販カーボンKetjen EC(前述)5gと白金塩4.2gを純水0.5Lに加え分散させた。これにO.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、水酸化物を形成させ、カーボン上に析出させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。次に水素ガス中で200℃、2hr保持して還元処理して触媒粉末を得た。
【0060】
(タンタル担持工程) 上記触媒粉末と塩化タンタル0.39gを純水0.5Lに加え分散させた。これに1Nアンモニアを滴下し、pHを6としタンタル酸化物を形成させた。この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。
【0061】
(焼成工程) 次に窒素ガス中で300℃、2hr保持して触媒粉末を得た。
本実施例で得られた触媒粉末は、酸化タンタルを白金に対して0.2のモル比で添加した触媒であって、300℃で2時間処理されたTa(7.8wt%)/Pt(41.5wt%)/Cの構成を有する。
【0062】
[白金粒径]
上記で調製した各触媒粉末について、X線回析(X-ray diffraction:XRD)法により白金粒径を求めた。
【0063】
結果を図1に示す。焼成温度の上昇に伴い白金の粒径が増大することから、白金粒径の成長を抑制するには約300℃の低温焼成が好ましいことがわかった。
【0064】
[CO吸着量]
上記で調製した各触媒粉末について、公知のC0パルス法によりCO吸着量の測定を行った。
【0065】
結果を図2に示す。いずれの温度で焼成された場合にも、CO吸着量は、酸化タンタルを担持した触媒(各実施例の触媒;E1、E2、E3、E4)の方が未添加(各比較例の触媒;C1、C2、C3、C4)のものよりも低かった。これは、本発明者らが以前に出願した特願2008-305561の結果と合致する。
【0066】
[質量活性]
上記で調製した各触媒粉末を電極触媒に用いた燃料電池について、MEA(電解質膜−電極接合体)評価により白金単位質量あたりの活性を測定した。質量活性は、ガス種(アノード側:H2 流量0.5L/分、カソード側:O2 流量2L/分;共に相対湿度は100%)、温度80℃、0.9Vのときの白金質量あたりの電流値と定義した。
【0067】
結果を図3に示す。酸化タンタルの担持(E1、E2、E3、E4)により未担持の場合(C1、C2、C3、C4)と比較していずれも白金単位質量あたりの活性が向上することを確認した。これは、本発明者らが以前に出願した特願2008-305561の結果と合致する。さらに、300℃のように低い焼成温度の方が白金単位質量あたりの活性が向上することを確認した。
【0068】
[低加湿条件下での出力性能]
上記で調製した各触媒粉末を電極触媒に用いた燃料電池について、MEA評価により電圧性能を測定した。加湿条件は低加湿とした。この調整は、温度設定したバブラー内にガスを導入して水分吸収させることで行った。80℃に設定したバブラーを通過したときに対する相対湿度で約40%を低加湿条件とした。出力電圧は、1.0A/cm2における電圧を測定した値(出力点電圧)を測定した。
【0069】
図4に低加湿出力性能を示す。なお、0.8A/cm2まで電流を引くことができなかったことから焼成温度が700℃の実施例1(E1)は未計測である。図4から、焼成温度が500℃〜400℃までは酸化タンタルの効果(E1、E2、E3、E4)は認められないが、300℃に低減したとき114mVの性能向上効果を確認した。
【0070】
[過電圧]
上記で調製した各触媒粉末を電極触媒に用いた燃料電池について、抵抗過電圧、H+伝導過電圧及びガス拡散過電圧についてそれぞれ測定した。抵抗過電圧は、IR補正電圧(IR補正電圧は、膜抵抗から算出)と出力電圧の差(IR補正電圧−生電圧)と定義した。また、H+伝導過電圧は、アノード:H2/カソード:O2のときの濃度過電圧とした。ここで、濃度過電圧は、1.2Vから出力電圧、抵抗過電圧及び活性化過電圧を差し引いた値(1.2V−生電圧−抵抗過電圧−活性化過電圧)であり、活性化過電圧は、1.2VとIR補正電圧@0.1A/cm2から70mV/decadeで差をとった電圧との差(1.2V−70mV/decade IR補正電圧)をいう。さらに、ガス拡散過電圧は、アノード:H2/カソード:Airのときの濃度過電圧とアノード:H2/カソード:O2のときの濃度過電圧との差とした。H2の流量は0.5L/分、O2及びAirの流量は2L/分とした。
【0071】
それぞれの結果を、図5〜7に示す。なお、0.8A/cm2まで電流を引くことができなかったことから、ガス拡散過電圧及び抵抗過電圧における焼成温度が700℃の実施例1(E1)は未計測である。
【0072】
焼成温度が300℃の場合の実施例4(E4:Ta/Pt/C)の値は、同温度の比較例4(C4:Pt/C)の値と比較して、ガス拡散過電圧では37mV(図5)、H+伝導過電圧では49mV(図6)、抵抗過電圧では26mV(図7)低下した。これらの合計値は112mVであることから、前記低加湿性能の向上分である114mVは、これら過電圧の低下によるものであると説明できる。焼成温度300℃で製造した本発明の電極触媒の親水性が酸化タンタルにより増大したことが上記過電圧の低減に奏功したのではないかと考えられる。
【0073】
前記電極触媒の性能向上が焼成温度に依存する原因としては、焼成温度が高いと酸化タンタルの粒径が粗大化する又は酸化タンタルと担体であるカーボンが反応する等が考えられるが、いずれも定かではない。
【0074】
以上についてまとめると、白金を担持した担体に、さらに酸化タンタルを担持させた燃料電池用電極触媒は、白金粒子の成長を抑制し、かつCO吸着量を減少させることが可能となる。このとき、300℃以上400℃未満の比較的低温で焼成処理した前記電極触媒を備えた燃料電池は、他の焼成温度で製造された同一組成の電極触媒を備えた燃料電池と比較して、白金単位質量あたり、より高い活性及び低加湿条件下におけるより高い出力性能を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
C1:比較例1
C2:比較例2
C3:比較例3
C4:比較例4
E1:実施例1
E2:実施例2
E3:実施例3
E4:実施例4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)白金又は白金合金を担持した担体に酸化タンタルをさらに担持させる工程、及び
(2)白金又は白金合金及び酸化タンタルを担持した担体を300℃〜380℃で焼成する工程
を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
担体がカーボンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって得られた燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−14475(P2011−14475A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159476(P2009−159476)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】