説明

燃料電池用電解質膜−触媒層接合体の製造方法

【課題】電極は圧縮せずに、電極より外側の部分(電解質膜の周縁部)に圧力をかけるラミネート固定方法により、保護フィルム固定工程を含む製造方法で作製されたMEAにおいても、電圧低下など電池性能の劣化を抑制し、スタック性能を安定的に確保できる、電解質膜−触媒層接合体の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】高分子電解質膜である電解質膜1と、前記電解質膜の少なくとも一方の面に形成された第1触媒層2Aと、を備え、
電解質膜1の少なくとも前記一方の面に保護フィルム31を固定する固定工程を有する、燃料電池用膜−触媒層接合体の製造方法であって、
前記固定工程は、電解質膜1の厚み方向から見て、電解質膜1の第1触媒層2Aより外側の部分である周縁部の少なくとも一部と保護フィルム31とを固定し、第1触媒層2Aの少なくとも中央部と保護フィルム31とを固定しない、膜−触媒層接合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質形燃料電池に用いる電解質膜−触媒層接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電解質膜−電極接合体(MEA:Membrane−Electrode−Assembly)の構成の一部である、電解質膜−触媒層接合体(CCM:Catalyst−Coated−Membrane)の製造方法において、電解質膜に触媒層を形成する方法として、触媒層を別に作製し電解質膜に転写する方法(別体転写法)、及び、触媒と溶剤(水またはアルコール系有機溶剤など)とを混合した液状の触媒インクを電解質膜に直接塗布し触媒層を形成する方法(直接塗布法)がある。
【0003】
電解質膜と触媒層との密着性、及び、触媒層形成工程の簡素化の観点から、液状の触媒インクを直接電解質膜に塗布した後、乾燥させ触媒層を形成する直接塗布法の方が、個別に作製した触媒層を電解質膜に転写する別体転写法と比較し、量産性に優れている。
【0004】
しかしながら、液状の触媒インクを直接電解質膜に塗布する、直接塗布法の場合、液状の触媒インクの溶媒である水やアルコール系有機溶剤、または、空気中の水分を電解質膜が吸収することにより、電解質膜が膨潤し、変形する恐れがある。
【0005】
そこで、従来の技術としては、電解質膜の片側に触媒層を形成した後、触媒層を含む電解質膜全体に、保護フィルムをラミネート固定することで、電解質膜の変形を抑制する方法が開示されている。(例えば、特許文献1及び2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−289207号公報
【特許文献2】特表2006−507623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のように、触媒層を覆うように電解質膜全体を保護フィルムでラミネート固定する方法では、電池性能を低下させるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、保護フィルムをラミネート固定する固定工程を含む製造方法で作製されたCCMにおいて、電解質膜の変形を抑えつつ、発電性能の低下を抑制し、燃料電池スタックの性能を安定的に確保できる、電解質膜−触媒層接合体の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、保護フィルムをラミネート固定する際の熱圧着により、触媒層全体を厚み方向に圧縮してしまい、CCMの性能が低下し、燃料電池スタックが発電する際の電圧低下の原因となることを見出した。
【0010】
そこで、上記従来の課題を解決するために、本発明の電解質膜−触媒層接合体の製造方法は、高分子電解質膜である電解質膜と、前記電解質膜の少なくとも一方の面に形成された第1触媒層と、を備え、
電解質膜の少なくとも前記一方の面に保護フィルムを固定する固定工程を有する、燃料電池用電解質膜−触媒層接合体の製造方法であって、
前記固定工程は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の前記第1触媒層より外側の部分である周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとを固定し、前記第1触媒層の少なくとも中央部と前記保護フィルムとを固定しないものである。
【0011】
この構成により、電解質膜に形成された触媒層より外側の部分である電解質膜の周縁部の少なくとも一部と保護フィルムとを固定し、触媒層の少なくとも中央部と保護フィルムとを固定せずに、CCMをラミネート固定することができる。そのため、第1触媒層全体を保護フィルムで覆い、電解質膜の変形を抑えつつ、第1触媒層の少なくとも中央部を圧縮しないことで、電圧性能の低下など電池性能の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の燃料電池用電解質膜−触媒層接合体の製造方法によれば、保護フィルムをラミネート固定する固定工程を含む製造方法で作製されたCCMにおいて、電解質膜の変形を抑えつつ、発電性能の低下を抑制し、燃料電池スタックの性能を安定的に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る保護フィルム固定工程後における電解質膜−触媒層接合体の概略構成を示す模式図
【図2】本発明の実施の形態1に係る燃料電池の概略構成を示す模式図
【図3】燃料電池におけるセルの概略構成を模式的に示す断面図
【図4】本発明の実施の形態1に係る保護フィルム配置部位を模式的に示す断面図
【図5】本発明の実施の形態1に係る保護フィルム固定部位の概略構成を示す平面図
【図6】本発明の実施の形態1に係る保護フィルム固定工程における加圧手段の概略構成を示す模式図
【図7】本発明の実施の形態2に係る第1触媒層形成工程の概略構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高分子電解質膜である電解質膜と、前記電解質膜の一方の面に形成された第1触媒層と、を少なくとも備える膜−触媒層接合体の製造方法であって、
電解質膜の前記一方の面側に、前記第1触媒層を覆うように保護フィルムを固定する固定工程を有し、
前記固定工程は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の前記第1触媒層より外側の部分である周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとを固定し、前記第1触媒層の少なくとも中央部と前記保護フィルムとを固定しないものである。
【0015】
この構成により、電解質膜に形成された触媒層より外側の部分である電解質膜の周縁部の少なくとも一部と保護フィルムとを固定し、触媒層の少なくとも中央部と保護フィルムとを固定せずに、CCMをラミネート固定することができる。そのため、第1触媒層全体を保護フィルムで覆うことで、電解質膜の変形を抑えつつ、第1触媒層の少なくとも中央部を圧縮しないことで、電圧性能の低下など電池性能の劣化を抑制することができる。
【0016】
また、保護フィルムの第1触媒層と重なる部分を開口する形状に加工する必要がなく、保護フィルムが第1触媒層を覆った状態で、前記保護フィルムと前記第1触媒層の少なくとも中央部との固定をしないことが可能である。即ち、前記保護フィルムに特殊な加工を施すこと無しに、第1触媒層の少なくとも中央部に、固定工程による圧縮を加えないことが可能である。そのため、触媒層の圧縮がもたらすガス拡散性低下などによる、電圧低下など電池性能の劣化を抑制することができ、燃料電池の性能を安定的に確保することがで
きる。
【0017】
また、本発明の前記固定工程は、前記電解質膜の前記周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとを圧縮して固定してもよい。
【0018】
この構成により、周縁部と保護フィルムとがより確実に固定され、前記第1触媒層を形成する際に、前記電解質膜に塗布する液状の触媒インクの溶媒である水やアルコール系有機溶剤、または、空気中の水分を前記電解質膜が吸収することによる膨潤や変形を抑制することができる。また、周縁部と保護フィルムとがより確実に固定され、CCMのハンドリング性が向上する。そのため、電解質膜−触媒層接合体の生産性を向上し、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0019】
また、前記固定工程は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の前記周縁部のうち、前記第1触媒層を挟んで対向する2箇所を少なくとも含む固定部位を固定してもよい。
【0020】
この構成により、前記電解質膜の平面方向における特定方向の膨潤や変形を抑制することが可能になる。そのため、電解質膜−触媒層接合体の製造工程及び製造装置では、この特定方向と垂直な方向に対して特に膨潤や変形の抑制の対策を行えばよく、電解質膜−触媒層接合体の膨潤や変形の抑制がより容易になる。よって、電解質膜−触媒層接合体の生産性を向上させつつ、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0021】
なお、前記第1触媒層の形状が矩形である場合は、前記対向する2箇所の固定部位は、対向する2辺の固定部位であることが好ましい。
【0022】
また、前記固定工程は、前記電解質膜の前記周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとをローラーを用いて圧縮して固定してもよい。
【0023】
この構成により、平板で圧縮する場合と比較し、面内の圧縮量が一定になることから、前記固定工程の品質を向上することが可能になる。また、平板で圧縮する場合と比較してCCMの生産性が向上する。よって、前記固定工程の品質と生産性を向上させつつ、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0024】
また、前記固定部位は、前記電解質膜の前記周縁部のうち、前記ローラーの回転方向沿って伸びるように形成される部分であってもよい。
【0025】
この構成により、前記固定工程を連続して行うことが可能になり、生産性をさらに向上することが可能になる。よって、量産において、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0026】
また、前記ローラーは、少なくとも前記第1触媒層の前記中央部と接する部分に、凹部が形成されていてもよい。
【0027】
この構成により、固定工程の生産性をさらに向上し、量産においても、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0028】
また、前記電解質膜は、帯状であってもよい。
【0029】
この構成により、電解質膜は、ロール・ツー・ロール生産などの連続生産が可能になり、生産性の向上が可能になる。よって、固定工程の生産性が向上し、量産において、燃料
電池の性能を安定的に確保することができる。
【0030】
また、前記保護フィルムは、帯状であってもよい。
【0031】
この構成により、保護フィルムは、ロール・ツー・ロール生産などの連続生産が可能になり、生産性の向上が可能になる。よって、固定工程の生産性が向上し、量産において、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0032】
また、前記固定工程の前に、前記電解質膜に触媒インクを塗布する塗布工程をさらに有していてもよい。
【0033】
この構成により、触媒インクを電解質膜に直接塗布し、触媒層を形成することによる電解質膜と触媒層との密着性向上、及び、触媒層形成工程の簡素化による生産性向上が可能になり、量産において、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0034】
また、前記塗布工程と前記固定工程との間に、前記触媒インクを乾燥して前記第1触媒層を形成する乾燥工程をさらに有していてもよい。
【0035】
この構成により、触媒インクの溶媒である水やアルコール系有機溶剤を蒸発させることで、固定工程において、前記電解質膜と前記保護フィルムとの接着品質を向上させることが可能になる。よって、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、先に説明した実施の形態と同一構成については同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0037】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、触媒層形成後の電解質膜に保護フィルムを固定する工程を有する形態を例示するものである。
【0038】
[電解質膜−触媒層接合体の構成]
本実施の形態1に係る保護フィルム固定工程後における電解質膜−触媒層接合体の構成について、図1を参照しながら説明する。
【0039】
図1は、保護フィルム固定工程後の電解質膜−触媒層接合体301における概略構成を模式的に示す図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は断面図である。
【0040】
図1に示すように、保護フィルム固定工程後の電解質膜−触媒層接合体(CCM)は、電解質膜1と、第1触媒層2Aと、保護フィルム31と、支持フィルム32と、を備えている。第1触媒層2A及び保護フィルム31は、電解質膜1の一方の面上に配置されており、支持フィルム32は、電解質膜1を挟んで他方の面上に配置されている。
【0041】
[本発明の電解質膜]
電解質膜1は、好ましくは、水素イオン伝導性を有する高分子膜である。電解質膜1は、本実施の形態においては、略矩形状又は帯状の形状である。電解質膜1の材料は、水素イオンを選択的に移動させるものであれば特に限定されない。電解質膜1は、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなるフッ素系高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)など)や各種炭化水素系電解質膜を使用できる。
【0042】
支持フィルム32上に配置された電解質膜1は、現在市販されている燃料電池用電解質膜として、膜厚10〜50μm前後の非常に薄い電解質膜1を、支持フィルム32に接合し、ロール形状にしたものがある。また、支持フィルム32上に配置された電解質膜1は、水素イオン伝導性高分子電解質を含む液を支持フィルム32上に塗布した後、乾燥して水素イオン伝導性高分子膜を形成するいわゆるキャスト法を採用して作製しても良い。水素イオン伝導性高分子電解質を含む液は、水素イオン伝導性高分子電解質膜と同じ成分の高分子電解質を所定の溶剤に分散あるいは溶解させたものであり、塗膜中の溶剤を揮発させて除去することにより水素イオン伝導性高分子電解質膜を得ることができる。
【0043】
電池特性を向上させるためには、イオン伝導性向上の観点から、高分子電解質膜を薄くする必要があり、薄くなれば上述した膨潤や変形の課題はさらに顕著に現れてくると考えられる。
【0044】
[第1触媒層の形成]
触媒層は、好ましくは、水素または酸素の酸化還元反応に対する触媒を含む層である。触媒層は、導電性を有し、かつ水素および酸素の酸化還元反応に対する触媒能を有するものであれば特に限定されない。 触媒層は、本実施の形態においては、略矩形状である。触媒層は、例えば白金族金属触媒を担持したカーボン粉末とプロトン導電性を有する高分子材料とを主成分とした多孔質な部材から構成される。触媒層に用いるプロトン導電性高分子材料は、上記高分子電解質膜と同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0045】
本実施の形態においては、アノード極にはPt−Ru合金が表面に担持されたカーボン微粒子を使用し、カソード極にはPtが担持されたカーボン微粒子が使用されている。供給ガスに含まれる微量のCO(一酸化炭素)ガスによる触媒被毒が生じないように、アノード極側にはPt−Ru合金を用いていることが好ましい。したがって、本発明においては、電解質膜の一方の面にはアノード用の触媒層を、残る他方の面にはカソード用の触媒層をそれぞれ形成する。すなわち、第1触媒層2Aでアノード用の触媒層を形成した場合は、他方の面に形成する第2触媒層2Bにおいては、カソード用の触媒層を形成する。逆に、第2触媒層2Bでアノード用の触媒層を形成する場合は、第1触媒層2Aにおいては、カソード用の触媒層を形成すればよい。
【0046】
本実施の形態1に係る電極において、第1触媒層2Aをアノード極、第2触媒層2Bをカソード極として、触媒層を形成した。
【0047】
電解質膜1に第1触媒層2Aを印刷または塗布するためには、電極反応用触媒を用いて液状の触媒インクを作製する必要がある。液状の触媒インクは、電極反応用触媒と、水素イオン伝導性高分子電解質膜と同じ成分の水素イオン伝導性高分子電解質と、溶剤と、必要に応じて少量の添加剤と、を混合してペースト状に調整することにより得られる。ここで、水素イオン伝導性高分子電解質は、これを触媒微粒子間及び電解質膜1と触媒微粒子との間に介在させて、電極反応をより効果的に行うために添加する。ここで、溶剤は、通常の塗布あるいは印刷で使用される溶剤であればよく、比較的低沸点または低分子量を有する溶剤が望ましい。具体的には、水(望ましくはイオン交換水または純水)、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどの第一級〜第三級アルコール、これらのアルコール誘導体、エーテル系、エステル系及びフッ素系有機溶剤などを、それぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。すなわち、混合溶剤を用いてもよい。このとき、水素イオン伝導性高分子電解質の分散性の低下による凝集などがないように、溶剤を選定する必要がある。また、溶剤の沸点及び蒸気圧は、印刷または塗布作業上重要な項目であり、沸点が低くかつ蒸気圧が高い場合はこれらの作業中に溶剤がすぐに蒸発してしまい、
印刷または塗布を連続ですることができない。また、沸点が高くかつ蒸気圧が低い場合は、印刷または塗布後の乾燥工程に必要以上に時間がかかりすぎ、場合によっては長時間加熱しなければならないため、作業環境(温度及び湿度など)を考慮しながら溶剤を選定する必要がある。また、必要に応じて分散性または作業性を良くするために、界面活性剤などの添加剤を添加することも可能である。
【0048】
電解質膜1上への第1触媒層2Aの形成は、電解質膜1の支持フィルム32が配置されていない面へ直接印刷または塗布により行う。第1触媒層2Aを電解質膜1に直接形成するためには、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷、平版印刷などの印刷方法、またはドクターブレード塗工、ロールコーター塗工、キャストコータ、スプレー塗工、カーテンコータ、静電塗工などを用いればよい。第1触媒層2Aは、形成後の電極反応用触媒(Pt及びPt−Ru)の量を管理する必要があり、通常は0.1〜0.7mg/cm程度であればよい。上記印刷方法または塗布方法を用いれば、この塗布量の制御を容易に行うことができる。例えば、スクリーン印刷では、印刷版のメッシュ、乳剤の厚み、印刷用のスキージ及び印刷時の加圧力などを選定することにより塗布量を制御することができる。さらに、液状の触媒インクを調製する際に、触媒粒子径の選定、触媒の添加量の増減、溶剤によるインク粘度の調整などを適時行うことにより、高精度で付着量の制御及び管理が可能である。
【0049】
[保護フィルムの構成]
保護フィルム31は、図1に示すように、第1触媒層2Aと第1触媒層2Aの外側の部分である前記電解質膜の周縁部を覆うように配置されている。
【0050】
ここで使用する保護フィルム31としては、膜厚50〜500μmの熱可塑性樹脂からなるシート状フィルムが挙げられ、さらに具体的には、通常市販されているPET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PI(ポリイミド)、フッ素樹脂などが挙げられる。保護フィルム31の膜厚は、好ましくは100〜300μmである。保護フィルム31の膜厚が50μmより薄いと、水素イオン伝導性高分子電解質膜と同程度の厚みしかないため、保護フィルム31と電解質膜1とを固定するラミネート工法などにおいて電解質膜1の変形や膨潤を抑制する能力が不足する。一方、500μmより厚くなると、ロールによる巻き取りが困難になり、量産性が低下してしまう。なお、必要に応じて剥離強さを調整するために、保護フィルム31の表面を処理することも可能である。
【0051】
第1触媒層2Aが形成された電解質膜1への保護フィルム31の形成は、加熱された平板、または、加熱されたローラーなどで圧縮するラミネート工法などにより、一体化固定する方法によって行うことができる。
【0052】
[第2触媒層の構成]
ここで使用する第2触媒層2Bに含まれる触媒は、第1触媒層2A同様に、電極反応用触媒であり、貴金属触媒をカーボン微粒子の表面に担持させて得られる。第1触媒層2Aでアノード用の触媒層を形成した場合は、他方の面に形成する第2触媒層2Bにおいてカソード用の触媒層を形成する。逆に、第1触媒層2Aでカソード用の触媒層を形成した場合は、第2触媒層2Bにおいてアノード用の触媒層を形成すればよい。
【0053】
第2触媒層2B用の液状の触媒インク作製方法は、第1触媒層2Aの場合と同じである。
【0054】
第1触媒層2Aが形成された電解質膜1に、第2触媒層2Bを印刷または塗布するためには、電解質膜1に配置されている支持フィルム32を剥離する必要がある。剥離後の電
極形成方法は、第1触媒層2Aの場合と同じである。
【0055】
図1(c)に、第2触媒層2B形成後の電解質膜−触媒層接合体301における概略構成の断面図を模式的に示す。
【0056】
[セルの構成]
次に、本実施の形態1に係る燃料電池101のセル21について、図3を参照しながら説明する。
【0057】
図3は、図2に示す燃料電池101におけるセル21の概略構成を模式的に示す断面図である。なお、図3においては、マニホールドなど一部の構成を省略している。
【0058】
図3に示すように、セル21は、MEA5と、ガスケット7と、アノードセパレータ6Aと、カソードセパレータ6Bと、を備えている。
【0059】
MEA5は、水素イオンを選択的に輸送する電解質膜1と、アノード4Aと、カソード4Bと、を有している。電解質膜1は、略4角形(ここでは、矩形)の形状を有しており、電解質膜1の両面には、その周縁部より内方に位置するように第1触媒層2Aと第2触媒層がそれぞれ設けられている。なお、電解質膜1の周縁部には、燃料ガス供給マニホールド孔(図示せず)等の各マニホールド孔が厚み方向に貫通するように設けられている。
【0060】
アノード4Aは、電解質膜1の一方の主面上に設けられ、白金系金属触媒(電極触媒)を担持したカーボン粉末(導電性炭素粒子)からなる触媒担持カーボンと触媒担持カーボンに付着した高分子電解質を含むアノード触媒層2Aと、ガス通気性と導電性を兼ね備えたアノードガス拡散層3Aと、を有している。アノード触媒層2Aは、一方の主面が電解質膜1と接触するように配置されていて、アノード触媒層2Aの他方の主面には、アノードガス拡散層3Aが配置されている。
【0061】
ガス拡散層は、好ましくは、導電性を有する多孔質の部材である。ガス拡散層は、板状で、略矩形状である。ガス拡散層は、導電性を有し、かつ反応ガスが拡散できるものであれば特に限定されない。ガス拡散層は、ガス透過性を持たせるために、カーボン微粉末、造孔材、カーボンペーパー、又はカーボンクロスなどを用いて作製された多孔質構造を有する導電性基材を用いることができる。また、ガス拡散層に排水性を持たせるために、フッ素樹脂を代表とする撥水性高分子などをガス拡散層の中に分散させてもよい。さらに、ガス拡散層に電子伝導性を持たせるために、カーボン繊維、金属繊維、又はカーボン微粉末などの電子伝導性材料でガス拡散層を構成してもよい。また、ガス拡散層の触媒層と接する面には、撥水性高分子とカーボン粉末とで構成される撥水カーボン層を設けてもよい。ガス拡散層は、例えば、基材として炭素繊維を用いず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分として構成された多孔質部材を用いてもよい。
【0062】
ガス拡散層は、カソード側及びアノード側において同じガス拡散層を用いても、異なるガス拡散層を用いてもよい。
【0063】
同様に、カソード4Bは、電解質膜1の他方の主面上に設けられ、白金系金属触媒(電極触媒)を担持したカーボン粉末(導電性炭素粒子)からなる触媒担持カーボンと触媒担持カーボンに付着した高分子電解質を含むカソード触媒層2Bと、カソード触媒層2Bの上に設けられ、ガス通気性と導電性を兼ね備えたカソードガス拡散層3Bと、を有している。カソード触媒層2Bは、一方の主面が電解質膜1と接触するように配置されていて、カソード触媒層2Bの他方の主面には、カソードガス拡散層3Bが配置されている。
【0064】
また、MEA5のアノード4A及びカソード4Bの周囲には、電解質膜1を挟んで一対のフッ素ゴム製でドーナツ状のガスケット7が配置されている。これにより、燃料ガスや酸化剤ガスが電池外にリークされることが防止され、また、セル21内でこれらのガスが互いに混合されることが防止される。なお、ガスケット7の周縁部には、厚み方向の貫通孔からなる燃料ガス供給マニホールド孔(図示せず)等の各マニホールド孔が設けられている。
【0065】
ガスケットは、適度な機械的強度と柔軟性を有している合成樹脂であることが好ましい。
ガスケットは、環状で略矩形状である。ガスケットは、例えばフッ素ゴム、ポリイソブレン、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、熱可塑性エラストマー、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、テレフタルアミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、およびポリエチレンテレフタレート樹脂などが上げられる。これらを単体、または2種以上の複合体として用いてもよい。
【0066】
また、MEA5とガスケット7を挟むように、導電性のアノードセパレータ6Aとカソードセパレータ6Bが配置されている。これにより、MEA5が機械的に固定され、複数のセル21をその厚み方向に積層したときには、MEA5が電気的に接続される。セパレータは、好ましくは、カーボンを含む材質や金属を含む材質で構成される。セパレータが金属を含む材質で構成される場合、セパレータは、金属プレートからなるものであってもよい。セパレータは、チタンやステンレス鋼製の板の表面に金メッキを施したものを使用することができる。また、セパレータは、導電性を有する多孔質のプレートであっても良い。
【0067】
アノードセパレータ6Aのアノード4Aと接触する一方の主面(以下、内面という)には、燃料ガスが通流するための溝状の燃料ガス流路8が設けられている。同様に、カソードセパレータ6Bのカソード4Bと接触する一方の主面(以下、内面という)には、酸化剤ガスが通流するための溝状の酸化剤ガス流路9が設けられている。なお、アノードセパレータ6A及びカソードセパレータ6Bのそれぞれの周縁部には、燃料ガス供給マニホールド孔(図示せず)等の各マニホールド孔が厚み方向に貫通するように設けられている。また、燃料ガス流路8及び酸化剤ガス流路9の形状は任意であり、例えば、セル21の厚み方向から見て、サーペンタイン状に形成されていてもよく、ストレート形状に形成されていてもよい。
【0068】
これにより、アノード4A及びカソード4Bには、それぞれ、燃料ガス及び酸化剤ガスが供給され、これらのガスが反応して電気と熱が発生する。
【0069】
そして、このように形成されたセル21がその厚み方向に複数積層されることにより、セル積層体80が形成される。さらに、セル積層体80の両端に端版81及び端版82を配置することにより、燃料電池101が形成される。このとき、高分子電解質膜1等に設けられた燃料ガス供給マニホールド孔(図示せず)等の各マニホールド孔がつながって、燃料ガス供給マニホールド等の各マニホールドが形成される(図2参照)。
【0070】
なお、本実施の形態では、内部マニホールドを備える燃料電池101の構成について説明したが、これに限定されず、燃料電池101は外部マニホールドを備える構成であってもよい。
【0071】
<実施例1〜9>
実施例1〜9にて行なった、実施の形態1にて作製した燃料電池における、MEA作製プロセスの一部である、保護フィルム固定工程における、保護フィルム31の配置部位、固定部位、固定方法、及び、保護フィルムと電解質膜の材料供給形態を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
<比較例1〜6>
実施例1〜6にて行なった、実施の形態1にて作製した燃料電池における、CCM作製プロセスの一部である、保護フィルム固定工程における、保護フィルム31の配置部位、固定部位、固定方法、及び、保護フィルムと電解質膜の材料供給形態を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
以下、表1及び表2の詳細について、図面を参照しながら説明する。
【0076】
[保護フィルム配置部位]
図4は、表1及び表2に係る保護フィルム配置部位の概略構成を模式的に示す断面図である。
【0077】
図4(a)は、第1触媒層2Aの外側の部分である電解質膜1の周縁部上及び第1触媒層2A上に、保護フィルム31が配置される構成を示す断面図である。保護フィルム31が、電解質膜1の周縁部及び第1触媒層2Aを覆うように配置されている。即ち、保護フィルム31と、電解質膜1の周縁部及び第1触媒層2Aとは、電解質膜1の厚み方向から見て重なるように配置されている。
【0078】
図4(b)は、第1触媒層2Aの外側の部分である電解質膜1の周縁部上に保護フィルム33が配置されており、第1触媒層2A上に保護フィルム33が配置されていない構成を示す断面図である。第1触媒層2Aと同形状の貫通孔が中央部分に形成された保護フィルム33が、電解質膜1の周縁部を覆うように配置されている。即ち、保護フィルム33と、電解質膜1の周縁部とは、電解質膜1の厚み方向から見て重なるように配置されている。
【0079】
[保護フィルム固定部位]
図5は、表1及び表2に係る保護フィルムの固定部位の概略構成を示す平面図である。以下では、保護フィルム31のうち、電解質膜の厚み方向から見て、電解質膜1の第1触媒層より外側の部分である周縁部に固定された箇所を固定部位31Aと呼ぶ。また、保護フィルム31のうち、電解質膜1の厚み方向から見て、電解質膜1の第1触媒層より外側の部分である周縁部に固定されていない箇所を非固定部位31Bと呼ぶ。ここで、第1触媒層と保護フィルムとは固定されていない。
【0080】
図5(a)は、保護フィルム31の周縁部が、電解質膜1の周縁部の4辺全てに固定される構成を示す平面図である。保護フィルム31の周縁部と電解質膜1の各辺とは、全面で固定されている。表1及び表2では、保護フィルムの固定部位がこの構成である場合を「有り(4辺全体)」と記載している。
【0081】
図5(b)は、保護フィルム31の周縁部が、電解質膜1の周縁部の4辺全てに固定される構成を示す平面図である。図5(b)の構成は、電解質膜1の周縁部の各辺が部分的に電解質膜1と固定されている点で、図5(a)の構成と異なる。表1及び表2では、保護フィルムの固定部位がこの構成である場合を「有り(4辺部分)」と記載している。
【0082】
図5(c)は、保護フィルム31の周縁部が、電解質膜1の周縁部の4辺のうちの第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺に固定される構成を示す平面図である。図5(c)の構成では、保護フィルム31の周縁部のうちの2辺と、電解質膜1の周縁部のうちの2辺とが、全面で固定されている。表1及び表2では、保護フィルムの固定部位がこの構成である場合を「有り(対向2辺)」と記載している。
【0083】
図5(d)は、保護フィルム31の周縁部が、電解質膜1の周縁部の4辺のうちの隣接する2辺に固定される構成を示す平面図である。図5(d)の構成では、保護フィルム31の周縁部のうちの2辺と、電解質膜1の周縁部のうちの2辺とが、全面で固定されている。表1及び表2では、保護フィルムの固定部位がこの構成である場合を「有り(隣接2辺)」と記載している。
【0084】
[保護フィルム固定方法における加圧手段]
図6は、表1及び表2に係る保護フィルム固定方法における加圧手段の概略構成を示す模式図である。
【0085】
図6(a)は、加圧手段として用いる加圧板61の構成を示す断面図である。図6(a)の構成では、加圧板61と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aを覆う部分と、が接しないように、加圧板61のうちの第1触媒層2Aに対向する部分が凹形状に加工されている。また、加圧板61と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aの周縁部の電解質膜1を覆う部分と、が全面で接するように、保護フィルム31に接する加圧板61の表面は、平面形状に加工されている。
【0086】
図6(b)は、加圧手段として用いる加圧板62の構成を示す断面図である。図6(a)の構成では、加圧板62と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aを覆う部分と、が接しないように、加圧板62のうちの第1触媒層2Aに対向する部分が凹形状に加工されている。また、加圧板62と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aの周縁部の電解質膜1を覆う部分と、が部分的に接するように、加圧板62のうちの第1触媒層2Aの周縁部の電解質膜1に対向する部分が凹凸形状に加工されている。
【0087】
図6(c)は、加圧手段として用いる加圧板63の構成を示す断面図である。図6(c)では、加圧板63と、保護フィルム31の周縁部の4辺のうちの第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺と、が接するように、加圧板63が配置されている。また、加圧板63と、保護フィルム31の周縁部の4辺のうちの第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺と、が全面で接するように、保護フィルム31に接する加圧板63の表面は、平面形状に加工されている。
【0088】
図6(d)は、加圧手段として用いる加圧板64の構成を示す断面図である。図6(d)では、加圧板64と、第1触媒層2A及び電解質膜1の周縁部を覆う保護フィルム31と、が全面で接するように配置されている。加圧板64と、保護フィルム31と、が全面で接するように、保護フィルム31に接する加圧板64の表面は、平面形状に加工されている。
【0089】
図6(e)は、加圧手段として用いる加圧板65の構成を示す断面図である。加圧板65は、加圧板65から構成されている。図6(e)では、加圧板65と、保護フィルム31の周縁部の4辺のうちの隣接する2辺と、が接するように、加圧板65が配置されている。また、加圧板65と、保護フィルム31の周縁部のうちの隣接する2辺とが全面で接するように、保護フィルム31に接する加圧板65の表面は、平面形状に加工されている。
【0090】
図6(f)は、加圧手段として用いるローラー66の構成を示す模式図である。図6(f)では、ローラー66と、保護フィルム31の周縁部の4辺のうちの第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺と、が接するように、ローラー66が配置されている。また、ローラー66と、保護フィルム31の周縁部の4辺のうちの第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺と、が全面で接するように、保護フィルム31に接するローラー66の表面は、曲面状に加工されている。
【0091】
図6(g)は、加圧手段として用いるローラー67の構成を示す模式図である。図6(g)では、ローラー67と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aを覆う部分と、が接しないように、ローラー67は、第1触媒層2Aと対向する部分を含む領域が、ローラーの回転方向に沿って凹形状に加工されている。即ち、ローラー67は、回転軸方向から見て、第1触媒層2Aと対向する中央部分の半径が、第1触媒層2Aと対向しない両端部分の半径より小さくなるように構成されている。また、ローラー67と、保護フィルム31の周縁部の4辺のうちの第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺と、が全面で接するように、保護フィルム31に接するローラー67の表面は、曲面状に加工されている。
【0092】
図6(h)は、加圧手段として用いるローラー68の構成を示す模式図である。図6(h)では、ローラー68と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aを覆う部分と、が接しないように、ローラー68は、第1触媒層2Aと対向する部分を含む領域が、ローラーの軸方向に沿って凹形状に加工されている。即ち、ローラー67は、回転軸方向と略平行な方向に1つ以上の直線状の溝部が形成されている。また、電解質膜1と保護フィルム31とが全面で固定されるように、保護フィルム31に接するローラー68の表面は、曲面形状に加工されている。
【0093】
図6(i)は、加圧手段として用いるローラー69の構成を示す模式図である。図6(i)では、ローラー69と、保護フィルム31のうちの第1触媒層2Aを覆う部分と、が接しないように、ローラー69は、第1触媒層2Aと対向する領域が凹形状に加工されている。即ち、ローラー69は、その表面の中央部分に凹部を有している。また、電解質膜1の周縁部と保護フィルム31の周縁部とが全面で固定されるように、電解質膜1と接するローラー69の表面は、曲面形状に加工されている。
【0094】
図6(j)は、加圧手段として用いるローラー70の構成を示す模式図である。図6(j)では、ローラー70と、第1触媒層2A及び電解質膜1の周縁部を覆う保護フィルム31の全体と、が接するように配置されている。ローラー70と、保護フィルム31と、が全面で接するように、ローラー70の表面は曲面形状に加工されている。
【0095】
[保護フィルム及び第1触媒層が形成された電解質膜の供給形態]
保護フィルム固定工程における、保護フィルム31及び第1触媒層2Aが形成された電解質膜1の供給形態として、MEA1枚分の材料のみを供給する場合を、枚葉式と呼ぶ。表1及び表2では、この供給形態である場合を「枚葉」と表記している。
【0096】
また、保護フィルム固定工程における、保護フィルム31及び第1触媒層2Aが形成された電解質膜1の供給形態として、MEA複数枚分の帯状材料を連続して供給するのが、連続式である。表1及び表2では、この供給形態である場合を「帯状」と表記している。
【0097】
[保護フィルム固定工程における連続生産性の評価方法]
表3では、保護フィルム固定工程における連続生産性について、保護フィルム固定工程における保護フィルム31及び第1触媒層2Aが形成された電解質膜1の供給形態が、共に枚葉式の場合の単位時間当たりの生産数量を1として、各実施例、及び、各比較例の単位時間当たりの生産数量を相対比較した値を示す。
【0098】
[第2触媒層形成性レベル評価方法]
CCMの製造工程では、保護フィルム31を固定する固定工程の後、電解質膜1の他方の面(第1触媒層2A側と反対側の面)に第2触媒層2Bを形成する際に、保護フィルム31を固定した状態で、電解質膜1の他方の面に第2触媒インクを塗布する第2触媒層形成工程を備える。第2触媒層形成工程における第2触媒層2Bの形成性について、ロールコーター塗工のしやすさの観点から評価した指標を表3に示す。実施例1を基準の指標である「○」として、実施例1より明らかに第2触媒インクのロールコーター塗工が困難な場合を「×」として示す。
【0099】
[電解質膜変形レベル評価方法]
上述の第2触媒層形成工程で第2触媒層2Bを形成した後に、電解質膜1の変形有無を目視にて評価した。なお、CCMにガス拡散層を配置してMEAを作製し、このMEAをセパレータへ組み込む際に、ガスリークなどへの影響がない程度の変形は、「有り(△)」とし、影響がある場合の変形は、「有り(○)」と判定し、表3に示す。
【0100】
[電圧評価方法]
実施の形態1と同様の燃料電池を作製し、発電後24hの電圧にて電圧の評価とした。なお、実施例1で作製した燃料電池の電圧を基準とし、実施例1との差を求め評価し、表3に示す。
【0101】
以上のように、保護フィルム固定工程連続生産性、第2触媒層形成性レベル、電解質膜変形レベル、燃料電池スタック電圧を評価した結果を表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
実施例1の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、平板形状の加圧板64により、第1触媒層2Aと保護フィルム31とが固定される比較例1と比較し、電圧が上昇している。このことから、第1触媒層2Aと対向する部分が凹形状の加圧板61により、第1触媒層2Aと保護フィルム31とが固定されないことで、電圧低下を抑制する効果があると考えられる。
【0104】
保護フィルム固定工程において、第1触媒層2Aの圧縮を回避することで、電極のガス拡散性低下による電圧低下を抑制したものと考えられる。
【0105】
また、表3より、加圧板62の第1触媒層2Aを覆う保護フィルム31と対向する部分が凹形状であり、加圧板62と電解質膜1の周縁部を覆う保護フィルム31とが部分的に接するように、電解質膜1の周縁部と対向する加圧板62の部分が凹凸形状に加工されている実施例2において、実施例1と同様に電解質膜の変形が無い。
【0106】
保護フィルム固定工程において、第1触媒層2Aの外側の部分である電解質膜1の周縁部の少なくとも一部と保護フィルムとを固定することで、電解質膜1の変形を抑制したものと考えられる。
【0107】
また、保護フィルム31が電解質膜1の周縁部には配置されているが、第1触媒層2A
には配置されていない比較例2と比較し、実施例1は、第2触媒層形成性レベルが良い。このことから、第1触媒層2Aにも保護フィルムが配置されていることで、第2触媒層用インクの電解質膜への塗工性を良化する効果があると考えられる。
【0108】
第2触媒層形成工程において、第1触媒層2Aに保護フィルム31を配置することで、第2触媒層形成領域の厚み方向の強度が増し、ロールコーター塗工などによる塗工性が向上したものと考えられる。
【0109】
さらに、保護フィルム固定工程において、加圧板61と保護フィルム31とを接触させるが、圧縮させない比較例3と比較し、実施例1は、第2触媒層形成後の電解質膜1の変形が抑制されていることから、保護フィルム31を圧縮して電解質膜へ固定することで、保護フィルム31と電解質膜1の密着性を向上させる効果があると考えられる。
【0110】
保護フィルム固定工程において、電解質膜1と保護フィルム31を圧縮して固定することで、保護フィルム31と電解質膜1の密着性が向上し、より強固で確実に固定することで、電解質膜1の変形を抑制する効果があると考えられる。
【0111】
実施例3の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、電解質膜1の周縁部の隣接する2辺の電解質膜1を平板形状の加圧板65により、保護フィルム31と固定する比較例4と比較し、実施例3は、第2触媒層形成後の電解質膜1の変形が抑制されていることから、電解質膜1の周縁部の第1触媒層を挟んで対向する2辺を保護フィルム31に固定することで、電解質膜1の変形を抑制する効果があると考えられる。
【0112】
保護フィルム固定工程において、電解質膜1の周縁部の第1触媒層を挟んで対向する2辺を保護フィルムに固定することで、縦方向(MD:Machine Direction)、または、横方向(TD:Transverse Direction)のいずれか一方の変形を抑制することで、第2触媒層形成以降の工程に影響がない程度に、電解質膜1の変形を抑制する効果があると考えられる。
【0113】
実施例4の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、加圧板61を用いた圧縮方法により、第1触媒層2Aと保護フィルム31とが固定される実施例1と同様に、電解質膜1の変形、及び、電圧への影響がないことから、ローラー66を用いた圧縮方法においても、加圧板61を用いた圧縮方法と同様に、電解質膜1と保護フィルム31を固定し、電解質膜1の変形、及び、電圧降下を抑制する効果があると考えられる。
【0114】
保護フィルム固定工程において、ローラー66においても、加圧板と同様に、電解質膜1と保護フィルム31とを固定する効果があるものと考えられる。
【0115】
実施例5の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、電解質膜1の周縁部の第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺を保護フィルム31に固定する実施例3と同様に、電解質膜1の変形、及び、電圧への影響がないことから、ローラー67を用いた回転方向に沿って伸びるように電解質膜1と保護フィルム31とを固定する圧縮方法においても、加圧板を用いた圧縮方法と同様に、電解質膜1と保護フィルム31を固定し、電解質膜1の変形、及び、電圧降下を抑制する効果があると考えられる。
【0116】
保護フィルム固定工程において、ローラー67においても、加圧板と同様の、電解質膜1と保護フィルム31の固定効果があるものと考えられる。また、ローラー67による回転方向の圧縮は、帯状の第1触媒層形成済電解質膜、及び、帯状の保護フィルムを用いた場合、連続生産性に優れている。
【0117】
実施例6の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、電解質膜1の周縁部の第1触媒層2Aを挟んで対向する2辺を保護フィルム31に固定する実施例3と同様に、電解質膜1の変形、及び、電圧への影響がないことから、ローラー68を用いた回転方向に沿って垂直に伸びるように電解質膜1と保護フィルム31とを固定する圧縮方法においても、加圧板63を用いた圧縮方法と同様に、電解質膜1と保護フィルム31を固定し、電解質膜1の変形、及び、電圧降下を抑制する効果があると考えられる。
【0118】
保護フィルム固定工程において、ローラー68においても、加圧板63と同様の、電解質膜1と保護フィルム31の固定効果があるものと考えられる。
【0119】
実施例7の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、曲面形状のローラー70により、第1触媒層2Aと保護フィルム31とが固定される比較例5と比較し、電圧が上昇していることから、第1触媒層2Aを覆う保護フィルム31と対向する部分が凹形状のローラー69により、第1触媒層2Aと保護フィルム31とが固定されないことで、電圧低下を抑制する効果があると考えられる。
【0120】
保護フィルム固定工程において、ローラー69においても、第1触媒層の圧縮を回避することで、加圧板61と同様に、触媒層のガス拡散性低下による電圧低下を抑制したものと考えられる。
【0121】
実施例8の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、第1触媒層2Aが形成済の電解質膜1、及び、保護フィルム31が枚葉式で供給される実施例3よりも、保護フィルム固定工程連続生産性が高いことから、第1触媒層2Aが形成済の電解質膜1を帯状で供給することにより、材料供給のロスが低減されることで、生産性を向上する効果があると考えられる。
【0122】
保護フィルム固定工程の材料供給において、帯状で材料を供給することで、枚葉式での材料供給によるロスを抑制したものと考えられる。
【0123】
実施例9の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、第1触媒層2Aが形成済の電解質膜1、及び、保護フィルム31が枚葉式で供給される実施例3よりも、保護フィルム固定工程連続生産性が高いことから、保護フィルム31を帯状で供給することにより、材料供給のロスが低減されることで、生産性を向上する効果があると考えられる。
【0124】
保護フィルム固定工程の材料供給において、帯状で材料を供給することで、枚葉式での材料供給によるロスを抑制したものと考えられる。
【0125】
実施例10の電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、表3より、第1触媒層2Aが形成済の電解質膜1、及び、保護フィルム31が枚葉式で供給される実施例3よりも、保護フィルム固定工程連続生産性が高いことから、第1触媒層2Aが形成済の電解質膜1、及び、保護フィルム31を帯状で供給することにより、材料供給のロスが低減されることで、生産性を向上する効果があると考えられる。
【0126】
保護フィルム固定工程の材料供給において、帯状で材料を供給することで、枚葉式での材料供給によるロスを抑制したものと考えられる。
【0127】
なお、本発明は、以上に例示した実施の形態は、本明細書の趣旨から容易に改変できる様々な形態に適用できる。
【0128】
なお本実地の形態では、第1触媒層2Aと保護フィルム31とは固定されていないとしたが、これに限定されず、第1触媒層2Aの少なくとも中央部と保護フィルム31とが固定されていなければよい。例えば、CCMを用いたセルの発電性能を損なわない程度であれば、第1触媒層2Aの周縁部の少なくとも一部と保護フィルム31とが固定されていてもかまわない。即ち、例えば、発電に実質的に寄与する第1触媒層2Aの中央部と保護フィルム31とが固定されておらず、第1触媒層2Aの周縁部と保護フィルム31とが固定されている構成であってもよい。
【0129】
また、本発明は、このような第1触媒層形成後に保護フィルムを固定する工程を備えた、様々な電解質膜−電極接合体の製造方法にも適用できる。
【0130】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る電解質膜−触媒層接合体301の製造方法は、電解質膜1への第1触媒層2Aの形成から、電解質膜1に保護フィルム31を固定する工程を経て、CCMを巻き取る形態を例示するものである。
【0131】
[第1触媒層形成工程の構成]
本実施の形態2に係る第1触媒層2Aの形成工程の構成について、図7を参照しながら説明する。
【0132】
図7は、電解質膜1への第1触媒層2Aの形成から、電解質膜1に保護フィルム31を固定し、巻き取るまでの工程の概略構成を模式的に示す図である。
【0133】
図7に示すように、本実施の形態2に係る製造装置200は、ロール・ツー・ロールで構成されている。液状の触媒インクを電解質膜1へ塗布する工程として、電解質膜ロール91、触媒インクタンク92、ダイ93、コーター94を備えている。塗布後の触媒インクを乾燥する工程として、乾燥炉95を備えている。保護フィルム用PET96を固定する工程として、保護フィルム固定用ローラー97、第1触媒層形成済電解質膜ロール98を備えている。
【0134】
製造装置200は、電解質膜ロール91に巻回された帯状の電解質膜1及び帯状の支持フィルム32(図示せず)を重ねたシートが引き出され、コーター94とダイ93の間を通るように構成されている。このとき、コーター94側に支持フィルムが配置され、ダイ93側に電解質膜1が配置される。コーター94とダイ93の間を通る際に、触媒インクタンク92内の触媒インクが電解質1上に塗布される。その後、触媒インクが塗布された電解質1及び支持フィルムは、乾燥炉95内を通りながら加熱されて乾燥し、電解質1上に第1触媒層2Aが形成される。電解質膜1の第1触媒層2A側の表面には、保護フィルム用PET96が配置され、保護フィルム固定用ローラー97を用いて圧縮され、電解質膜1と保護フィルム用PET96とが固定される。
【0135】
このように構成された本実施の形態2に係る膜−触媒層接合体301の製造方法は、ロール・ツー・ロールで生産することができ、連続生産性に優れた構成にすることができる。
【0136】
本発明の実施の形態の膜−触媒層接合体301の製造方法によれば、保護フィルム固定工程を含む製造方法で作製されたCCMにおいても、触媒層の圧縮による電圧低下など電池性能の劣化を抑制することができ、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0137】
なお、実施の形態1及び2では、加圧板又はローラーを用いて、電解質及び保護フィルムを圧縮して固定するとしたが、これに限定されない。電解質及び保護フィルムは、少な
くとも圧縮されていればよく、圧縮に加えて加熱を行ってもよい。この場合、加圧板又はローラーをヒータなどの加熱器で加熱する構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0138】
以上のように、本発明に係る膜−触媒層接合体の製造方法は、保護フィルム固定工程を有する膜−触媒層接合体の製造方法として有効であり、触媒層の圧縮による電圧低下などの影響を受け難く、発電効率の向上が要望される、高分子型固体電解質を用いた燃料電池、燃料電池デバイス、定置用燃料電池コジェネレーションシステム等の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0139】
1 高分子電解質膜(電解質膜)
2A アノード触媒層(第1触媒層)
2B カソード触媒層(第2触媒層)
3A アノードガス拡散層
3B カソードガス拡散層
4A アノード
4B カソード
5 MEA(電解質膜−触媒層接合体)
6A アノードセパレータ
6B カソードセパレータ
7 ガスケット
8 燃料ガス流路
9 酸化剤ガス流路
21 セル
31 保護フィルム
31A 固定部位
31B 非固定部位
32 支持フィルム
33 保護フィルム
61 加圧板
62 加圧板
63 加圧板
64 加圧板
65 加圧板
66 ローラー
67 ローラー
68 ローラー
69 ローラー
70 ローラー
80 セル積層体
91 電解質膜ロール
92 触媒インクタンク
93 ダイ
94 コーター
95 乾燥炉
96 保護フィルム用PET
97 保護フィルム固定用ローラー
98 第1触媒層形成済電解質膜ロール
101 燃料電池
200 製造装置
301 電解質膜−触媒層接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜である電解質膜と、前記電解質膜の一方の面に形成された第1触媒層と、を少なくとも備える膜−触媒層接合体の製造方法であって、
電解質膜の前記一方の面側に、前記第1触媒層を覆うように保護フィルムを固定する固定工程を有し、
前記固定工程は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の前記第1触媒層より外側の部分である周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとを固定し、前記第1触媒層の少なくとも中央部と前記保護フィルムとを固定しない、
膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記固定工程は、前記電解質膜の前記周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとを圧縮して固定する、
請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記固定工程は、前記電解質膜の厚み方向から見て、前記電解質膜の前記周縁部のうち、前記第1触媒層を挟んで対向する2箇所を少なくとも含む固定部位を固定する、
請求項1又は2に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
前記固定工程は、前記電解質膜の前記周縁部の少なくとも一部と前記保護フィルムとをローラーを用いて圧縮して固定する、
請求項2又は3に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項5】
前記固定部位は、前記電解質膜の前記周縁部のうち、前記ローラーの回転方向沿って伸びるように形成される部分である、
請求項4に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記ローラーは、少なくとも前記第1触媒層の前記中央部と接する部分に、凹部が形成されている、
請求項5に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項7】
前記電解質膜は、帯状である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項8】
前記保護フィルムは、帯状である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項9】
前記固定工程の前に、前記電解質膜に触媒インクを塗布する塗布工程をさらに有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項10】
前記塗布工程と前記固定工程との間に、前記触媒インクを乾燥して前記第1触媒層を形成する乾燥工程をさらに有する、請求項9に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−4390(P2013−4390A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135942(P2011−135942)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】