説明

燃料電池電極及びその製造方法

【課題】電極の比表面積が増加され、同時に燃料及びプロトンの両方の流路が確保された電極を提供すること。
【解決手段】CNT103が複数本集まった構造であるCNTバンドル104が基板101の主面に対して垂直方向に互いに間隙をおいて配置され、前記間隙を燃料流路とするとともに、前記CNTバンドル104がナノ粒子触媒105とプロトン伝導性物質106とを備え、前記基板101に高分子電解質膜107を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池電極に関するものであり、カーボンナノチューブを用いて電極の比面積を高めた燃料電池電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール形燃料電池(DMFC)など、電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギー源として期待されている。燃料電池で電気化学反応を担う電極に触媒として白金など貴金属系のナノ粒子が使用される。ナノ粒子はカーボンブラックなどの基体に固定され、化学反応の産物であるプロトンを移動させるための経路としてプロトン伝導性物質がさらに付加される。電極反応は触媒ナノ粒子とプロトン伝導性物質および燃料が接触する三相界面で起こる。三相界面の存在量を高めることにより、電極の比面積は増加する。またフェリチンは球状のタンパク質であり、内部には酸化鉄に代表される金属化合物を内包することができる。内部に金属化合物を内包せず、当該内部が空洞になっている場合には、「アポフェリチン」と呼ぶこともある。本明細書ではアポフェリチンと内部にコアを有するフェリチンを特に区別せず、両者を含めてフェリチンと称する。
【0003】
特許文献1、2、3には、カーボンナノチューブ(以下、CNTと称することがある)を利用し、電極の比面積を増加させる技術が開示されている。特許文献4には、ポリマーを用いたカーボンナノチューブの規則アレイの製造に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−203332号公報
【特許文献2】特開2006−286317号公報
【特許文献3】特開2008−66229号公報
【特許文献4】特表2007−521222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3にはCNTを用いて電極の比表面積を増加させる技術として、基板上へのCNT配置密度を制御し、燃料拡散のための間隙を確保することが開示されている。ところがCNTの配置密度が一様であり、そこへプロトン伝導性物質を付加すると、CNTとプロトン伝導性物質の複合体の間に出来る間隙のサイズや間隔が不均一になり、燃料拡散のための間隙を確保するのが困難である。また特許文献1には、基板上に半導体技術によりパターンを作製し、パターン上にCNTを配置することで、CNTの無い領域を作製し燃料拡散のための流路とすることが開示されている。ところがパターン上のCNT配置密度は一様であり、CNTとプロトン伝導性物質の複合体の間に出来る間隙のサイズや間隔が不均一になり、燃料拡散のための間隙を確保するのが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明に係る燃料電池電極は、CNTが複数本集まった構造であるCNTバンドルが基板の主面に対して略垂直方向に互いに間隙をおいて配置され、前記間隙を燃料流路とするとともに、前記CNTバンドルがナノ粒子触媒とプロトン伝導性物質とを備え、前記基板に高分子電解質膜を備える。
【0007】
前記ナノ粒子触媒の直径は10nm以下であることが好ましい。前記プロトン伝導性物質が前記CNTバンドル内部から前記CNTバンドル外表面まで付加され、前記CNTバンドルの外表面の前記プロトン伝導性物質の厚みが、前記ナノ粒子触媒の直径以下であることが好ましい。前記基板は導電性基板であることが好ましい。前記プロトン伝導性物質はパーフルオロスルホン酸系化合物であることが好ましい。前記ナノ粒子触媒が貴金属又は貴金属を含む合金であることが好ましい。
【0008】
前記燃料電池電極の製造方法は、CNTバンドルを基板の主面に対して略垂直方向に互いに間隙をおいて生成する工程と、前記CNTバンドルに前記ナノ粒子触媒を担持する工程と、前記ナノ粒子触媒を担持したCNTバンドルに前記プロトン伝導性物質を付加する工程と、を有する。前記ナノ粒子触媒を担持したCNTバンドルに前記プロトン伝導性物質を付加する工程として、前記基板に配置された前記ナノ粒子触媒を担持した前記CNTバンドルを、前記プロトン伝導性物質の溶液に浸漬する工程と、CNTバンドル間の間隙にある、余剰のプロトン伝導性物質の溶液を除去する工程と、を含むことが好ましい。前記CNTの生成に触媒粒子を使用することが好ましい。前記触媒粒子が、複数個の触媒粒子が集合した、触媒粒子オリゴマーを含むことが好ましい。
【0009】
前記基板に、前記触媒粒子オリゴマーを含有する溶液を接触させることにより、前記基板に前記触媒粒子オリゴマーを配置させる配置工程を有することが好ましい。前記CNTバンドルの生成に使用される触媒粒子は、鉄、ニッケル、モリブデン、コバルト、亜鉛、ルテニウムの1つ又は複数を含むことが好ましい。前記触媒粒子が、フェリチンであることが好ましい。前記ナノ粒子触媒は、湿式法または乾式法によりCNTに担持されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極の比表面積が増加され、同時に燃料及びプロトンの両方の流路が確保された電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】燃料電池電極の構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態1における基板状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でCNTの生成に用いる触媒粒子は、内部に鉄酸化物粒子をコアとして内包したフェリチンが望ましい。本発明の触媒粒子オリゴマーは前記フェリチンをオリゴマー化したものが望ましい。オリゴマー化したフェリチンはは前記フェリチンの水溶液を凍結し、それを融解することで作製する。ただし化学架橋剤を用いてオリゴマー化することもできる。オリゴマー化したフェリチンはゲルろ過クロマトグラフィーによる分離で、目的のサイズのオリゴマーを調製できる。オリゴマー化したフェリチンは水溶液中に均一に分散でき、基板にオリゴマー化したフェリチンを接触させることにより良好な配置ができる。ナノ粒子触媒は、湿式法及び乾式法の何れかによりCNTに担持されることができる。ナノ粒子触媒の直径は10nm以下であることが好ましい。CNTに付加するプロトン伝導性物質はパーフルオロスルホン酸系化合物であることが望ましい。パーフルオロスルホン酸系化合物として、例えばナフィオンPFSAポリマーディスパージョンを用いることができる。前記ナフィオンPFSAポリマーディスパージョンは液状であり、CNTバンドルをナフィオンPFSAポリマーディスパージョンに浸漬し、余剰のナフィオンPFSAポリマーディスパージョンを除いて乾燥させることによりCNTバンドルにナフィオンPFSAポリマーディスパージョンを付加できる。
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態である燃料電池電極の製造工程を、図2を用いてさらに詳細に説明する。まずCNT103の生成に用いる触媒粒子102として内部に鉄酸化物粒子をコアとして内包したフェリチンを用いる。
【0014】
前記フェリチンのオリゴマー化はフェリチンの水溶液を凍結し、それを融解することで作製する。オリゴマー化したフェリチンはゲルろ過クロマトグラフィーにより分離し、フェリチンの分子量の3倍以上に相当する画分を回収して使用する。カーボン導電性基板101にフェリチンオリゴマー分散液109を滴下し、室温にて10分間静置する。この間に、溶液中のフェリチンオリゴマー108の一部が基板101に吸着した(図2(a))。上記の後、基板を純水の流水中で5分間洗浄することにより、吸着していない余剰のフェリチンオリゴマー108を除去した。洗浄後の基板を乾燥し、フェリチンオリゴマーが配置された基板111を得た(図2(b))。上記のようにして得た基板111を酸素ガス雰囲気中、115℃で30分保持してUV−オゾン処理することでフェリチンのタンパク質部分を除去し、熱分解CVD法によりCNT103を生成させた(図2(c))。上記のCNT103に、電子ビーム蒸着法により白金ナノ粒子触媒105を担持させ、ナノ粒子触媒の直径を10nm以下とした(図2(d))。
【0015】
上記基板をプロトン伝導性物質ディスパージョン112であるナフィオンPFSAポリマーディスパージョンに浸漬し(図2(e))、余剰のプロトン伝導性物質ディスパージョン112をスピンコータにより除去した後、真空乾燥させることによりCNTバンドル104にプロトン伝導性物質106を付加した(図2(f))。上記基板に高分子電解質膜107をつけ、燃料電池電極を得た(図2(g))。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明にかかる燃料電池電極は、固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール形燃料電池(DMFC)などのアノード及びカソードとしてとして有用である。
【符号の説明】
【0017】
101 導電性基板
102 触媒粒子
103 カーボンナノチューブ
104 カーボンナノチューブバンドル
105 ナノ粒子触媒
106 プロトン伝導性物質
107 高分子電解質膜
108 フェリチンオリゴマー
109 フェリチンオリゴマー分散液
110 基板上に固定されたフェリチンオリゴマー
111 フェリチンオリゴマーが配置された基板
112 プロトン伝導性物質ディスパージョン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが複数本集まった構造であるカーボンナノチューブバンドルが基板の主面に対して略垂直方向に互いに間隙をおいて配置され、前記カーボンナノチューブバンドルがナノ粒子触媒とプロトン伝導性物質とを備えることを特徴とする燃料電池電極。
【請求項2】
前記基板に高分子電解質膜がある請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項3】
前記ナノ粒子触媒の直径が10nm以下である請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項4】
前記プロトン伝導性物質が前記カーボンナノチューブバンドル内部から前記カーボンナノチューブバンドルの外表面まで付加され、前記カーボンナノチューブバンドルにおける外表面の前記プロトン伝導性物質の厚みが、前記ナノ粒子触媒の直径以下である請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項5】
前記基板が導電性基板である請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項6】
前記プロトン伝導性物質がパーフルオロスルホン酸系化合物である請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項7】
前記ナノ粒子触媒が貴金属又は貴金属を含む合金である請求項1に記載の燃料電池電極。
【請求項8】
カーボンナノチューブバンドルを基板の主面に対して垂直方向に互いに間隙をおいて生成する工程と、前記カーボンナノチューブバンドルに前記ナノ粒子触媒を担持する工程と、前記ナノ粒子触媒を担持したカーボンナノチューブバンドルに前記プロトン伝導性物質を付加する工程と、を有する燃料電池電極の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子触媒を担持した前記カーボンナノチューブバンドルに前記プロトン伝導性物質を付加する工程として、前記カーボンナノチューブバンドルを、前記プロトン伝導性物質の溶液に浸漬する工程と、カーボンナノチューブバンドル間の間隙にある、余剰のプロトン伝導性物質の溶液を除去する工程と、を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブの生成に触媒粒子を使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒粒子が、複数個の触媒粒子が集合した、触媒粒子オリゴマーを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基板に、前記触媒粒子オリゴマーを含有する溶液を接触させることにより、前記基板に前記触媒粒子オリゴマーを配置させる配置工程を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブの生成に使用される触媒粒子が、鉄、ニッケル、モリブデン、コバルト、亜鉛、ルテニウムの1つ又は複数を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒粒子が、フェリチンである請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子触媒が、湿式法または乾式法によりカーボンナノチューブに担持された請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−272383(P2010−272383A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123752(P2009−123752)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】